🇯🇵 ALI PROJECT (アリ・プロジェクト)
レビュー作品数: 13
スタジオ盤①
蟻プロジェクト時代
1988年 Indies ※蟻プロジェクト名義
ALI PROJECTは日本の音楽ユニットで、作編曲を手掛ける片倉三起也と作詞・ボーカルを務める宝野アリカの2人組。通称アリプロ。アニメ主題歌のタイアップ等で知られるアリプロですがキャリアは長く、1985年に蟻プロジェクト名義で活動を開始します。
本作はインディーズデビュー作にして、蟻プロジェクト時代唯一のオリジナルアルバムです。一度廃盤になっており、「フラワーチャイルド」を加えた『幻想庭園+1』という名で再発された後もレーベルの倒産で再度廃盤に。その後ALI PROJECT独自で立ち上げたZAZOU Recordsでオリジナルバージョンが復刻されており、ファンクラブ会員限定通販で入手できます。
オープニングを飾るのは「靑蛾月」。「せいがげつ」と読みます。鍵盤演奏はチープな音色ですが狂気を帯びていて、イントロから怪しげでスリリング。デペッシュ・モードのような影のあるシンセポップを展開しつつ、宝野の歌は終始ファルセット気味の囁くような声でフワフワとした浮遊感を与えます。「マリーゴールド・ガーデン」はリズム隊不在で、ピアノやフルートが優しく優雅な雰囲気を作ります。囁くような歌い方もクラシカルな感じ。続く「鏡面界 im Juni」もクラシカルというか映画のサントラのよう。但し優雅な歌を飾るのはオーケストラではなくピアノやシンセで、ちょっとチープでレトロな雰囲気。「アンジェ・ノワールの祭戯」が中々魅力的な1曲。ダークでスリリングなシンセポップ曲で、冷たく不穏なキーボードが一気に緊張を高めます。あどけなさの残る歌唱は妖しげな魅力を放ちます。「紅い睡蓮の午後」は冷たくもゆったりとした鍵盤をバックに、ウィスパーボイスで優しく歌います。夢心地の楽曲に心地良く浸っていると、終盤に不協和音のようなノイズのような演奏が一瞬入ってアクセントを加えます。そして本作のハイライト「桜の花は狂い咲き」。後にアレンジを施して再録され、いくつもバージョンがありますが、オリジナルはハードなギターが唸ってダンサブルな演奏を展開。そして何と言っても妖しげな和風のメロディ、これが魅力的で強く耳に残るんですよね。トリッキーなリズムを刻んだかと思えば、バンド演奏から突如ストリングスによるクラシカルな演奏へ切り替わって、そして再びバンド演奏へと戻っていく楽曲展開はプログレ的でもあります。「少女忌恋歌」では宝野があどけなくて可愛らしい歌唱を見せます。箏のようなシンセの音色が神秘的ですが、先の読めないトリッキーなリズムが意識を散らします。「パラソルのある風景」は実験的な演奏パートも含みますが、全体的にはバロックポップというか、少しレトロで跳ねるような曲調。可愛らしい歌もポップで心地良いです。「硝子天井のうちゅう」は透明感のある優しくアンニュイな歌声にゆったりと浸れます。透明感や浮遊感があり、鍵盤の音色も毒気なく澄んでいますが、終盤に少しだけ狂気を見せます。そして僅か2分の表題曲「幻想庭園」。ピアノが不協和音混じりに重厚な演奏を繰り広げます。シアトリカルにも聴こえる抑揚が強いメロディラインは、後のALI PROJECT特有の「黒アリ」楽曲の原型にも見えます(この楽曲にはそこまで仰々しさはないですが)。ラストの「Puppé Frou Frou」は実験的なインスト曲。無機質で不穏な音色はシンセポップっぽい気もするんですが、プログレのような不可解で実験的な側面も強く見られます。
巽孝之 著『プログレッシヴ・ロックの哲学』で本作が紹介され、25周年ベスト『愛と誠』でも巽孝之が賛辞のコメントを寄せています。確かにプログレ的な楽曲もありますが、ダークなシンセポップ曲や、音色はチープですがクラシカルな楽曲も詰まっています。また宝野アリカのファルセット気味の声で優しく語りかけるような歌は、今のALI PROJECTとはだいぶ雰囲気が違いますね。
改名&メジャーデビュー
1992年 1stアルバム
蟻プロジェクトは東芝EMIと契約し、シングル「恋せよ乙女〜Love story of ZIPANG〜」でメジャーデビューを果たします。またデビューに際してALI PROJECTへ改名しました。作編曲は片倉三起也、作詞とボーカルは宝野アリカという2名体制はずっと変わらず続きますが、一部外部ミュージシャンを起用したり、演奏機材も充実してきたのか、メジャー化してサウンドが洗練された印象です。
オープニング曲「メガロポリス・アリス -MEGALOPOLIS ALICE-」はおどろおどろしい雰囲気が漂います。囁くような歌唱は冒頭ラップ風で抑揚がなく、そこから耽美な歌へと変わっていきます。毒のあるファンタジー風の演奏ですが、歌詞はSFっぽいですね。優美なヴァイオリンソロで始まる「ビアンカ」はリズムトラックの無いクラシカルな雰囲気の楽曲です。跳ねるような演奏とふわっとしたそよ風のような歌唱で、純真無垢な雰囲気の楽曲を心地良く聴かせます。続く「薔薇色翠星歌劇団」は3拍子のゆったりとしたリズムに乗せて、静かにメランコリックな歌を囁きます。アコーディオンがレトロな雰囲気。ファルセットを活用した美しい歌に浸れます。「マダム・ノワール – Madame Noir」は雰囲気をガラリと変え、ダークでドラマチックな演奏を繰り広げるスリリングな楽曲に。程良く疾走感のある演奏は鍵盤が蠢くリズムを刻み、派手なシンセサイザーが華やかに彩ります。宝野の歌はアンニュイで色気を纏っていて魅力的。「空宙舞踏会」は打ち込みのリズムに加えて、メロウで落ち着いた演奏を展開。歌は囁き声ですが、時折ポップなメロディを聴かせます。アコーディオンが特徴的な「木洩れ陽のワルツ」は古い映画のような、レトロな雰囲気のワルツを奏でます。一転して「堕ちて候」は打ち込み全開のダンスナンバー。一部歌詞が「桜の花は狂い咲き」そのままで、件の楽曲を取り入れてダンスリミックスにしたような印象を抱きます。色気のある声で歌うメロディは和風ですが、テクノポップ的な演奏とのミスマッチが印象に残ります。ちなみに大竹しのぶが歌っているバージョンがCMに起用されたのだとか。続くデビューシングル「恋せよ乙女〜Love story of ZIPANG〜」も和風の香りがする歌詞とメロディにダンス色の強い打ち込み演奏が特徴的で、妖しげな雰囲気を醸し出します。そして「月光浴」は子守唄のように穏やかで、ドリーミーな楽曲です。ハープの音色が心地良い。最後の「楽園喪失 – Paradise Lost」は少し暗いトーンのピアノをバックに、宝野の美しい歌唱がどこか霊的な雰囲気を纏っています。ヴァイオリンが「もののけ姫」っぽい感じ。
独特のメロディ運び、クラシカルな楽曲やダンス色の強い打ち込み楽曲など、ALI PROJECTの特徴が既に表れています。
1994年 2ndアルバム
前作から1年と2ヶ月を空けて発表されたALI PROJECTの2ndアルバムです。本作と『月下の一群』、『星と月のソナタ』の3作品は東芝EMIからのリリースで、長らく入手が難しかったようですが、2009年にリマスタリングのうえ再発されています。
「サロメティック・ルナティック」はストリングスを活用した大仰な演奏に乗せて、宝野アリカが色気に満ちた甘美な歌を展開。演奏はシンフォニックな雰囲気ですが、歌い方によるものかメロディ故か和風っぽい雰囲気を感じさせます。続く「嵐ヶ丘」は2ndシングル。程良い疾走感にゴシックでダークな雰囲気を放ちます。後の黒アリに通じる音程の起伏の激しい楽曲ですが、歌唱には後年のようなドスの利いたダークさは無くて、ファルセットも時折用いた歌は優美で艶っぽいです。オルゴールで始まる「雪のひとひら」は映画のサントラのようなクラシカルなサウンドを展開。演奏に合わせて、宝野の歌も囁くように優しいです。「ダリの宝石店」はテクノポップ的なシンセや残響音が強調されたドラム、どこか歌謡曲アイドルっぽいアンニュイな歌声なんかが1980年代的な雰囲気です。でもダークさが満ちていて、効果音も織り交ぜた楽曲は一筋縄ではいかず、中々魅力的な楽曲です。「Virtual Fantasy」はビートが効いたダンスチューン。加工されたボーカルやノイズなど機械的というかデジタルな感じ。でも楽曲の核の部分はアリプロらしくゴシックでダークな雰囲気です。「小夜啼鳥」はナイチンゲールと読むそう。ファルセットを用いた歌は美しいですが、アンビエントやエレクトロニカあたりを取り入れた演奏は神秘的でありつつ無機質な不気味さが同居していて、不安な気持ちになります。ヴァイオリンソロから始まる「ヴェネツィアン・ラプソディー」はファルセットを多用した、メランコリックな歌が魅力的な楽曲です。大仰なストリングスにリズミカルなドラムが高揚感を掻き立て、でも歌は耽美で憂いに満ちていて、美しさと哀愁にため息が出てしまいます。そして「星降る夜の天文学-BEDSIDE ASTRONOMY-」は可愛らしい歌唱や躍動感のある演奏も含め、少し時代を感じさせますが明るくポップな感じです。グルーヴ感のあるベースやパッと弾けるようなコーラスが中々爽快。ヴァイオリンが主導する優雅なストリングス楽曲「月光の橋 (instrument)」を挟んで、オーケストラが仰々しく飾る「オフェリア遺文」。宮殿で聴いているかのような優雅さを持ち、ファルセット気味に歌う優美な歌唱も含めてクラシカルな印象です。
前作同様、クラシカルな楽曲にエレクトロニカが混ざります。「嵐ヶ丘」や「ヴェネツィアン・ラプソディー」が魅力的ですね。
1995年 3rdアルバム
『月下の一群』と『DALI』に収録された楽曲を再録しつついくつかの新曲を加えた、やや変則的なバラード集です。編集盤っぽいですが、オリジナルアルバム扱いのようです。新録曲は「冬物語」と「彼と彼女の聖夜」、また本作がアルバム初収録となるシングルとC/W曲が数曲あります。
アルバムは「雨のソナタ〜La Pluie〜」で幕開け。ドリーミーなイントロを経て、ピアノをバックに宝野アリカのアンニュイで落ち着いた歌声が優しい。まったりムードでメロディアスな歌を聴かせます。「ビアンカ」はヴァイオリンソロから始まるクラシカルな雰囲気の楽曲で、ふわっと跳ねるような優しい曲調と歌が特徴的です。純真無垢な感じ。「舞踏会の手帖」は3拍子のワルツに乗せて、ウィスパーボイスで憂いを帯びたアンニュイな歌を披露。楽曲はクラシカルな雰囲気ですが、片倉三起也の扱う楽器はデジタルというかエレクトロニカ的です。続く「雪のひとひら」は憂いを増して、メランコリックで色気を感じます。サビメロは優雅ですね。ドリーミーでメロウな「空宙舞踏会」を聴かせると、続いて「薔薇色翠星歌劇団」。3拍子の演奏に乗せて静かな歌をじっくり聴かせます。アコーディオンが特徴的ですね。最初は音数少なくシンプルですが、サビメロに向けて楽器が増えてドラマチックになります。美しいピアノイントロで幕を開ける「冬物語」は、アンニュイな宝野の歌声がたまらなく魅力的です。アコースティックなバンド編成+キーボードといった感じの楽器編成で、クラシックでもエレクトロニカでもなく彼らにしては割と珍しいですが、変に凝っていない分、純粋にメロディや歌声の美しさで聴かせる良曲です。「月光浴」はゆったりとしてドリーミーな楽曲。子守唄のような心地良さがあります。続く「彼と彼女の聖夜」は美しいコーラスワークで幕を開け、澄んだ声で歌うクリスマスソングです。透明感があって綺麗です。ラストの「共月亭で逢いましょう」はオルゴールのイントロを経て、ゆったりと深みのある歌声を聴かせます。クラシカルな演奏は神秘的で自然を感じさせます。
宝野の透き通る歌声が活きる、優美でまったりとした楽曲に癒やされます。一方でダークでスリリングな要素はほぼ無いため、アルバムを引き締める楽曲が無く冗長な印象を抱きます。
1998年 4thアルバム
前作で東芝EMIとの契約が終了し、その後は特定のレーベルとは契約せずに複数のレーベルからシングル/アルバムをリリースすることになります。この結果、作品により入手が容易なものと困難なものが混在しており、また2020年より始まったストリーミング配信においても一部の作品は未配信です。本作は日本コロムビアからのリリース。
漫画家集団CLAMPを起用したジャケットアートが特徴的で、アニメ『CLAMP学園探偵団』では「ピアニィ・ピンク」がタイアップ。ですが、アニメタイアップシングルは基本的にオリジナルアルバムに起用せずベスト盤に収録というスタンスのため、件の楽曲は本作未収録です。
なおタイトルの「Noblerot」とは「貴腐」(ブドウが菌により干しブドウのようになって芳香を帯びること。上質な白ワインの原料になる)を意味します。色気や毒気が加わった楽曲群は、アルバムタイトルに似つかわしく熟れた果実のような魅力を放ちます。
表題曲「Noblerot Ⅰ (instrument)」でアルバムは幕を開けます。片倉三起也の作る、ストリングスが落ち着いた音色を奏でる1分足らずのインストゥルメンタルです。続く「Halation」は不穏な空気が漂うテクノ曲で、後の「コッペリアの柩」にも通じるようなメロディラインです。ダンサブルな演奏に乗る宝野アリカの歌はエキゾチックな雰囲気で妖しげ。毒気のある楽曲です。続く「乙女の祈り」はグルーヴ感溢れるエレクトロニックな楽曲。不快なノイズ混じりのデジタル音と、ヒップホップ的な単調なリズムトラックにおいてスコンと爽快なドラム、グルーヴィなベースがノリを生み出します。椎名林檎にも通じるような気だるくて毒気に満ちた宝野の歌唱は色気を感じさせ、とても魅力的です。一転して、毒気を取り払った「Rose Moon」は耽美でメロディアスな楽曲です。演奏はストリングスが主導しますが、そのバックでベースが心地良く響きます。「堕落論」はイントロで優雅なストリングスを響かせますが、歌が始まると途端にバンド演奏主体に変化。鼻にかかった甘ったるい歌声に魅了されます。「ナルシス・ノワール」は憂いのあるピアノで始まります。歌はメロディアスで耽美。憂いに満ちた楽曲をしっとりと聴かせます。ストリングスが美しく響く30秒ちょいのインストゥルメンタル「Noblerot Ⅱ (instrument)」を挟むと、アコギが特徴的な「deep forest」へ。アコギに乗せて儚げな歌をしっとり聴かせます。音数は少ないですが、じっくりと聴き入ることのできる良曲です。バックで薄っすら鳴るエレキギターもメロウで良いですね。続いて「LOST CHILD」では曲調が大きく変えてエレクトロニックな楽曲へ。どこか不穏な演奏に、気だるく妖艶な歌や悦に浸るようなコーラスワークがトリップ感を生み出します。「金いろのひつじ」は打ち込みにアコギを乗せた、まったりとした楽曲です。アンニュイで儚げな歌声で、優しく憂いのあるメロディを歌います。アウトロで静かに聞こえる鼻歌も良い。「月光夜」は透明感のある演奏と耽美な歌が美しい。ですがエレクトロニカ的なノイズが不快音で蠢きます。「Rose Moon – Piano Version」はしっとりとしたピアノソロ曲。片倉の弾くピアノのメロディラインは優しくて、感傷的な気分にさせます。ラスト曲「LABYRINTH」はアニメ『聖ルミナス女学院』のタイアップ曲。他の楽曲とは全く異なるアレンジで、ALI PROJECTらしくない、キャッチーでわかりやすいアニソン的な仕上がりです。良くも悪くも時代を感じさせる曲調で、アルバムの流れでは浮いています。
初期3作に比べて妖艶さを大きく増しました。艶っぽい歌声は色気と毒気を帯びていてとても魅力的です。
「黒アリ」の目覚め
2001年 5thアルバム
ALI PROJECTは本作からダークで激しい楽曲(通称「黒アリ」)が増えていきますが、その路線のキッカケとなった名曲「コッペリアの柩」を収録しているのが特徴です。特にアニメタイアップ曲ではインパクトを狙った黒アリ路線が多いですが、これまでの初期の明るく爽やかな楽曲は「白アリ」と呼ばれています。
また、デビュー前からロリータファッションの愛好家であった宝野アリカ。その影響は彼女のファッションだけでなく、ゴスロリ的な楽曲にも表れています。ちなみに本作収録曲と同名のロリータファッションブランド「少女貴族」を立ち上げ、宝野自身がデザイン・プロデュースしています。
オープニング曲は「miserere (instrumental)」。1分強の短いインストゥルメンタルで、ストリングス四重奏が優美な音色を奏でます。「少女貴族」はスペイシーで実験的な音から、ダークでスリリングなダンスチューンを展開。重低音の効いた抜群のグルーヴをバックに、狂気を帯びた毒々しい歌唱を繰り広げます。呪術的な「目覚めよ 目覚めよ aristocrat」の歌詞が耳に残りますね。そして本作のハイライトとなる黒アリ曲「コッペリアの柩」。アニメ『ノワール』のタイアップ曲ですが、頭サビのシングルバージョンとは異なり、テンション低いAメロから徐々に盛り上がっていく展開です。淡々としたダンサブルなリズムトラックに、狂気を帯びたストリングスが絡んで不穏な気配を醸し出します。そして妖艶でメロディアスな歌がとても魅力的なんです。リアルタイムではなく後追いでしたが、私はこの楽曲でALI PROJECTに興味を持ったので思い出深い1曲です。「病める薔薇」は優美なストリングスと無機質なリズムトラックが対照的。ファルセット気味の美しい歌唱は、途中から甘美でメランコリックな歌い方へ変わります。「MALICE」は静かで暗いメロディに無機質なリズムトラックが合わさり、退廃的な空気を醸し出します。歪んだギターが中々味があります。途中からボーカルを加工して、狂気性が増して不気味な感じです。続く「à la cuisine」はストリングスやアコギがそよ風のように穏やかな演奏を繰り広げます。宝野の歌も優しくて可愛らしい。ちなみにこの楽曲のアコギと、次曲のエレキギターは人間椅子の和嶋慎治が弾いています。「桂花葬」は和嶋慎治のギターが活躍、独特のギタープレイに魅せられます。退廃的で暗鬱な演奏に乗せて、アンニュイで耽美な歌を聴かせます。「閉ざされた画室」は無機質なリズムトラックが不気味ですが、対照的に宝野の甘く囁くような歌は浮遊感があって心地良い。淡々としていますが6分半もあるのでやや冗長です。「un tableau blanc 〜絵画旅行〜」はクラシカルな楽器を用いて、映画サントラのようにゆったりと優美な楽曲を展開します。「闇の翼ですべてをつつむ夜のためのアリア」はピアノ演奏をバックに優雅な歌を披露。シンプルながらじっくり聴かせ、時折ストリングスが彩ります。「プラタナスの葉末に風は眠る (instrumental)」は片倉三起也作の、ピアノとストリングスが織り成すクラシカルなインストゥルメンタル。ゆったりしていますが、途中ピアノがスリリングに奏でます。そして「Sacrifice」でアルバムを引き締めます。不協和音を奏でるストリングスと、不穏でダンサブルなリズムトラックがスリリングな演奏を展開。そしてエキゾチックなメロディを歌う宝野の歌唱は妖しげな魅力を放ちます。ラストの「solemnis (instrumental)」は1分強の短いインスト曲で、ストリングスがどこか不穏な空気を醸し出してアルバムを終えます。
全体的にダーク・ゴシックで退廃的な印象に仕上がりました。後半若干だれますが、序盤「少女貴族」からの「コッペリアの柩」の流れは素晴らしいです。また、クラシカルな曲とエレクトロニックな曲とで両極端な振れ幅は過去からの特徴でしたが、それらの要素を1曲内に融合した楽曲も増えました。
ちなみに本作は徳間ジャパンからのリリース。次作『EROTIC&HERETIC』を除き、以降のオリジナルアルバムは同レーベルからリリースされることになります。
2002年 6thアルバム
ファンが入門盤として挙げることの多い名盤で、私もそういったレビュー等を参考に本作に触れてALI PROJECTにハマりました。アリプロは色々聴きましたが結局これを超える作品に出会えず、本作が最高傑作だと思っています。
CDはデジパック仕様となっていて、鱗模様のジャケットはエンボス加工されているので独特の手触りが堪能できます。なお本作は数少ないビクターエンタテインメントからのリリースとなりますが、そのせいか大半のアルバムがストリーミング配信されている中、本作は2021年5月現在で未配信となっています。一番聴いて欲しい作品なのに。笑
アルバムは表題曲「EROTIC&HERETIC」で幕を開けます。自身の「サロメティック・ルナティック」みたいなタイトルですね。抜群のグルーヴが心地良い重低音が蠢き、ダンサブルかつ怪しげでスリリングな演奏を繰り広げます。そして宝野アリカの歌や歌詞は気だるく官能的で、毒気と色気たっぷり。トリップ感や中毒性に満ちた名曲です。そして「赤と黒 (Album version)」は疾走感のある黒アリ曲で、アニメ『ノワール』のイメージソングに起用されました。大仰に騒ぎ狂うストリングスがイントロから焦燥感を煽り立て、頭サビの展開もまくし立てるようです。Aメロからはメランコリックな美しさも醸し出しつつ、サビに入ると詰め込み気味の歌詞が追い立ててきてスリリング。インパクトのある楽曲ですね。そしてここからの耽美な楽曲群がこれまた魅力なのです。まず「熱帯性植物園」はゆったりとした曲調で、古川望の弾くメロウなギターがとても良い。宝野の甘美でアンニュイな独特の歌唱に強く魅せられます。聴いていると蕩けてしまいそうな、心地良い気だるさに満たされます。続く「遊月恋歌」はリズミカルな打ち込みに乗せて、ポワポワとした鍵盤や優しく繊細なピアノやアコギ、ストリングスが絡み合い、温もりのあるメルヘンチックな楽曲を作り上げます。そしてファルセット気味の優しい歌は、まるで柔らかな日差しのようです。エレクトロニックな「schism」で一旦空気を変え、ザラついたノイズとストリングスが不穏な気配を醸します。でもメランコリックな歌には色気があり、不穏な楽曲なのに惹きつけられます。そして「Lolita in the garret」でまたメルヘンモード。ストリングスや鍵盤、アコギが憂いを帯びつつ穏やかに演奏します。宝野の歌は鼻にかかったような甘い声で、アンニュイかつキュートで魅力的なんです。耽美な楽曲です。そして「時の森のソワレ」、これ個人的にはアリプロトップクラスに好きなんですよね。ブズーキやウードといった民族楽器を用いた異国情緒のあるイントロを経て、メルヘンチックな3拍子の演奏が心地良い浮遊感を与えてくれます。そしてアンニュイな歌声によるメランコリックなメロディが感傷的で美しく、思わずため息が出てしまいます。耽美な楽曲群は一旦ここで終わり、続くスリリングな黒アリ曲「戦争と平和」でアルバムに緩急をつけます。詰め込み気味の早口な歌詞と、ゆったりとしてエキゾチックなAメロが対照的ですね。その早口なサビはリズミカルで語感が良く、キャッチーで惹きつけます。「夢魔の夜、あなたを迎える者がある」はスローテンポで無機質なリズムトラックが不気味ですが、囁くような宝野の歌は神秘的です。そして「“夢魔に堕ちよ”」の冷たい一言を皮切りに、ストリングスが緊迫感のある演奏で焦燥感を煽ります。エレクトロニカを取り入れたプログレ、といった印象。「Arabesque Romanesque (instrument)」は片倉三起也によるインストゥルメンタル。演奏はファンタジックかつ優雅で美しく、RPGなんかの王宮のBGMに合いそうな感じ。そして最後の「Nostalgia」はゆったりとして憂いに満ちた静かな1曲。ピアノと歌をしっとりと、じっくりと聴かせます。そしてメロディアスな歌に耽っているとストリングスが控えめに彩ります。美しい。
耽美でアンニュイ、そして官能的。黒アリ曲も含んでアルバムに緩急をつけて高い完成度を誇ります。入門盤としてもオススメです。