🇯🇵 AQUARIA MUSICS (アクアリア ミュージックス)
レビュー作品数: 3
同人作品:東方アレンジ
2008年 1stアルバム
AQUARIA MUSICSは水田ケンジ(当時すいでんげつ名義)の主催する個人サークルです。水田はプロのイラストレーター/漫画家として活動するほか、音楽アレンジも行い多彩な才能を見せます。イラストはAQUARIA名義、音楽はAQUARIA MUSICS名義のサークルで活動します。
本作は東方紅魔郷の楽曲を中心とした全編プログレインストゥルメンタル作品で、プログレ同人サークルFragile OnlineのYSをゲストに招いています。アルバムタイトルこそELPのパロディですが、時折見せる凶暴性や悲劇的な和音にキング・クリムゾンを、高いテンションを維持し続ける構成力の高さにイエスを想起させます。フルートやヴァイオリン、ハモンドオルガン、メロトロンの洪水など音色豊かに、リズムチェンジの嵐でスリリングに展開。プログレオタク必聴です。
オープニングを飾る「幻想の始まり」は「赤より紅い夢」、「妖々夢 ~ Snow or Cherry Petal」、「永夜抄 ~ Eastern Night.」の混合アレンジ。シンセサイザーがスケールの大きさを醸し出して雄大な雰囲気ですが、1分頃からリズムチェンジ。忙しないハモンドオルガンを皮切りに、ジャジーですがダイナミズムも持ち合わせたドラムが高揚感を煽ります。スリルに浸っていると唐突に訪れるメランコリックなメロディに切なくなります。1曲目からリズムチェンジの嵐で期待が高まりますね。
続く「チルノのお昼寝 ~夢の中ではさいきょう!」は「おてんば恋娘」のアレンジ。ヴァイオリンがメロディアスな旋律を切なく聴かせますが、当然それだけでは終わりません。キング・クリムゾンばりの暴力的なギターと、悲壮感をもたらすメロトロンの音色。チルノの元気なイメージには似合わない暗さがありますが、終盤に一瞬訪れる牧歌的な部分にはホッとします。
「In The Dead Of Time」はゲストのYSによるアレンジで、タイトルにもあるようにUKの「In The Dead Of Night」を軸としつつ「月時計 ~ ルナ・ダイアル」の要素を取り入れた楽曲です。というかほぼUKで、スコンと抜けるようなドラムはビル・ブラッフォードを再現。笑 でもルナ・ダイアルの畳み掛けるようなスリリングな部分を取り入れていて中々カッコ良い。
そしてここからは本作の目玉、全5パート約40分に及ぶ圧巻の「『組曲紅魔館』Concerto Grosso “KOUMAKAN”」が繰り広げられます。
まずは「i.陽が落ち、館は闇に包まれる~窓の無い廊下を歩く影たち」で幕開け。冒頭からピアノやフルートを用いて哀愁たっぷりに「亡き王女の為のセプテット」のメロディを奏で、シンセがドラマチックに盛り上げます。憂いのメロディに浸っていると2分手前辺りからヴァイオリンが「メイドと血の懐中時計」を奏で始めます。そしてどんどんヒートアップし、ハモンドオルガンとシンセが絡みながらスリリングな演奏バトルを繰り広げます。個人的にこれの原曲が大好きなこともあって、ここから繰り広げられる展開は鳥肌ものです。4分40秒あたりから「ヴワル魔法図書館」の要素が加わって主題を振り返りながら、一瞬だけ顔を出す不穏な「U.N.オーエンは彼女なのか?」のメロディに妹様の気配を感じさせ、再び「メイドと血の懐中時計」のメロディでスリリングに展開。
そのままアコギが始まったかと思うと「ii.時にのん気でせわしい門番の日常」に突入。「明治十七年の上海アリス」をアレンジした楽曲で、軽快なフルートと変拍子を刻むパーカッションの絡みでリズミカルな印象。ですが後半にはギターソロが緊張を大きく高め、張り合うようにフルートやピアノもアグレッシブな演奏を見せつけます。終盤にリズミカルで牧歌的な演奏が戻ってきて終了。
続いて「iii.日陰の少女、不安な恋」はしっとりとしたピアノで始まります。「ラクトガール ~ 少女密室」のメロディをエモーショナルなギターが盛り上げたり、ピアノやヴァイオリンが憂いを見せたりしながら、パチュリー・ノーリッジの心の揺れ動きを表現しているのでしょうか。中盤からはキング・クリムゾンばりの暴力的な演奏も加わってスリル満点です。そして終盤にはしっとりとしたピアノが「恋色マスタースパーク」のメロディで不安な恋のお相手となる霧雨魔理沙のテーマを奏で、マリパチュを感じさせてくれます。笑
そして流麗なピアノを皮切りに「月時計 ~ ルナ・ダイアル」をアレンジした「iv.奇術師のナイフは月に踊る~回想:新たな名を与えれた日」へ続きます。ヴァイオリンやハモンドオルガンがハイテンションな演奏バトルを繰り広げ、十六夜咲夜のナイフのように切れ味抜群。シンバルの炸裂するドラムワークも中々魅力的ですね。リズムチェンジを繰り返しながら高い緊張を途切れさせず、前半パートは息をつく間もないスリリングな演奏に魅せられます。後半はメロトロンが悲壮感のある音を奏で、メランコリックなメロディが終焉を予感させます。
組曲の最後を締めるのは11分にも及ぶ「v.紅の悪魔」。「亡き王女の為のセプテット」をアレンジした楽曲です。爆音ベースが重低音を轟かせ、メロトロンが感情を高ぶらせ、そしてエモーショナルなギターなど重厚かつ荘厳な演奏を聴かせます。ハモンドオルガンの味付けもテンションが上がりますね。3分手前からテンポアップし、荒れ狂うピアノやドラムがスリリングです。中盤はメインテーマを奏でるリードギターと悲壮感に満ちたメロトロンがとてもドラマチック。6分過ぎた頃から1分ほど淀みのないピアノを美しく聴かせ、そして終盤に向けて緊張を再び高めます。一瞬の隙も与えない素晴らしい組曲でした。
そして一転して、「紅楼 ~ Eastern Dream…」をアレンジした「お嬢様は眠り、館は静寂を取り戻す」は落ち着きを見せます。安らぎを与えつつも寂寥感の漂う楽曲でしんみりムード。
ボーナストラックとしてゲストのYSによる「Truth Of Sunrise」。「アルティメットトゥルース」をイエスの「Heart Of The Sunrise」風に演奏したもので、ギターのチューニングの低さやスコンと抜けるドラムは極端ですがイエスの同楽曲を再現していますね。「アルティメットトゥルース」のメロディを取り入れたことで、ややエキゾチック感のある印象に仕上がっています。
高く張り詰めたテンションでとにかくスリリング。名だたるプログレバンドにも全く引けを取らない、高いクオリティのプログレ作品です。東方Projectを知らなくてもプログレファンなら楽しめると思います。
ちなみにジャケットに描かれたレミリア・スカーレットは水田による作で、更に20ページに及ぶブックレットには楽曲の場面に相当する漫画が描かれ、世界観に没入することができます。楽曲だけでなくパッケージとしても素晴らしい完成度を誇ります。
2012年
「プレビュー版+α」ということもあってかプレスCDではなくCD-Rと簡素なパッケージですが、その分頒布価格は超良心的。その後正式版が出ることはなかったので、こちらをレビューします。ジャケットには魂魄妖夢が描かれていますが、楽曲は東方地霊殿と東方神霊廟からの選曲が中心。今回のタイトルはジェネシスのパロディですが、前作で徹した1970年代プログレの枠は超えてヘヴィメタルも取り入れています。本作もFragile OnlineのYSがゲスト参加しています。
オープニング曲「吹けよ風、呼べよ魂」はタイトルからわかるとおりピンク・フロイドの名曲「One Of These Days (吹けよ風、呼べよ嵐)」のパロディです。「永夜抄 ~ Eastern Night.」のメロディを加えていますが、ほぼピンク・フロイドです。笑 軸となるベースリフはそのままに、エレピやシンセ、オルガン等の多彩な鍵盤が神秘的な空間を作り出します。
続く「霊界のめざめ」は「死霊の夜桜」のアレンジ。冒頭メタリックなギターを刻んだかと思えば、アグレッシブでスリリングな演奏を繰り広げます。ヴァイオリンとオルガンが華やかに、リズム隊がダイナミックに火花を散らします。1分半過ぎた辺りからリズムチェンジし、ダークなメロトロンやゴリゴリベース等によって非常に緊迫した空気。カミソリのように切れ味抜群のスリリングな演奏は、4分過ぎからメランコリックな側面も見せます。
「緑眼のジェラシー」をアレンジした「暗鬱のジェラシー」は、原曲のダークなメロディを増幅して、恨みがましくて、どうしようもない悲壮感で満ち溢れています。VOCALOIDを使ってコーラスのように消えそうな歌メロを披露し、メロトロンが強い哀愁を醸します。ヘヴィでダークです。
続いてゲストのYSによる「僵屍混乱 -Jiang shi Fusion-」。「リジッドパラダイス」のアレンジです。爆音ベースやダイナミックなドラムと楽曲を支える骨太なリズム隊で幕を開け、そしてオルガンやギターが霊的な雰囲気を纏いつつもメランコリックなメロディを奏でます。
「ゴースト・クイーンの宮廷」は「さくらさくら ~ Japanize Dream…」のアレンジ。タイトルは「クリムゾン・キングの宮殿」のパロディでしょうか?そう意識してみると、フルートやメロトロンを活用した叙情的な楽曲展開やドラムロールに最初期キング・クリムゾンを薄っすら感じるような気も。ゆったりと幽玄な世界を見せてくれます。
ここからしばらく楽曲名が原曲準拠なので、アルバムタイトルの「+α」に相当する部分でしょうか?まずは「妖怪寺へようこそ」。激しいハモンドオルガンに暴れ回るベースがスリリング。躍動感を持ちつつ、スペイシーなシンセがメロディアスなフレーズで楽曲に影を落とします。
僅か1分半の「業火マントル」もハモンドオルガンが大活躍。力強いドラムとともに畳み掛けるような演奏で圧倒します。スリリングですがプログレ要素は少なめ。
「霊知の太陽信仰」は「霊知の太陽信仰 ~ Nuclear Fusion」のアレンジ。鈍重なギターやツーバスをドコドコ鳴らすドラムなど一気にヘヴィメタル化し、ドリーム・シアターを想起させます。ヴァイオリンにひんやりとしたキーボード、メロディアスなリードギターなど多彩な音色とヘヴィなサウンドで蹂躙。
一転して「上海紅茶館 ~ Chinese Tea」のアレンジ「上海紅茶館」ではしっとりとしたピアノを聴かせます。落ち着いていて憂いに溢れるピアノに涙を誘いますね。とても美しいです。
ラストは「東方と戦慄パート2」。ゲストのYSによるアレンジで、タイトルから元ネタはキング・クリムゾンの「Larks’ Tongues In Aspic, Pt.2 (太陽と戦慄パート2)」かと思わせておいて、楽曲はイエスの「Roundabout」が元ネタというトラップ。笑 そこに「クリスタライズシルバー」を掛け合わせています。
前作と違って圧倒的な組曲はありませんが、スリリングな演奏は健在。前作に魅せられた人は聴いてみると良いでしょう。
2014年 ミニアルバム
本作から名義をすいでんげつ→水田ケンジと改めています。プレスCDではなくCD-Rで簡素なパッケージの本作ですが、僅か3曲入りでありながらうち1曲は11分超えということもあり、トータル23分強とそこそこのボリュームがあります。ちなみに、タイトルから間違えそうですが「チルノのパーフェクトさんすう教室」(同人サークルIOSYSの電波ソング)ではありません。
6分に渡る「花園にたたずむ人は」は「彼岸帰航 ~ Riverside View」のアレンジ。冒頭からヴァイオリンを軸にトリッキーな7拍子を刻み、ヘヴィなベースやオルガンが楽曲を飾り立てます。フュージョンのようにスリリングな演奏は、エキゾチックというかアジアンテイストを醸し出しています。但し前作までと比べると楽曲にあまり大きな変化はなくて、やや冗長な感じ。
そして11分に及ぶ大作「白と黒には分けられない、四季の色」は「六十年目の東方裁判 ~ fate of sixty years」のアレンジ。憂いに満ちた落ち着いた演奏に乗せて、VOCALOIDを用いた歌を聴かせます。途中からドラムが力強く楽曲を支えつつもシリアスさを増し、フルートの音色に強い寂寥感を覚えます。ゆったりと憂いに満ちた楽曲は、6分辺りからギターソロをメロディアスに聴かせますが、そこからヴァイオリン、フルート、ドラムらが順々に不協和音を奏で、ざわめいています。7分半辺りから躍動感ある演奏と憂いのある歌とでチグハグな楽曲を繰り広げ、ややカオスです。
ラストに表題曲「チルノ式ぷろぐれ塾」。冒頭からつんざくようなギターと、VOCALOIDによる奇怪な歌でフォーカスの「Hocus Pocus」のパロディ。そこから強引なリズムチェンジでオルガンが「おてんば恋娘」のメロディを奏でます。でもよく聴くとELPの「Karn Evil 9」が演奏されているし、ピンク・フロイドの「Breathe (In The Air)」も始まってプログレ名曲メドレーではありませんか。笑 でもメロディは「おてんば恋娘」という。そしてキング・クリムゾンやイエスも引用しつつ「Hocus Pocus」で締め括る、愉快な楽曲でした。
プログレ往年の名曲を「おてんば恋娘」のフレーズとともにメドレーで聴ける「チルノ式ぷろぐれ塾」が中々に傑作です。
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