🇫🇷 Atoll (アトール)

レビュー作品数: 3
  

スタジオ盤

Musiciens-Magiciens (ミュージシャン・マジシャン)

1974年 1stアルバム

 フランスのプログレッシヴロックバンド、アトール。1972年にアンドレ・バルザー(Vo)を中心に、リュック・セラ(Gt/Key)、ミシェル・タイユ(Key)、ジャン・リュック・シロー(B)、アラン・ゴッツォ(Dr)の5人で結成しました。1970年代に4枚のアルバムをリリースし解散するも、1989年にクリスチャン・ベヤ(Gt)が中心となって再結成しています。日本では「フランスのイエス」というキャッチコピーで紹介されたアトール。似ている似ていないの論争はあるようですが、ゴリゴリのヘヴィなベース、手数の多いテクニカルなドラム、シャウトする場面でそうせずにコーラスワークを使う手法など、イエスの影響を色濃く受けていると思います。
 少しアクを強くしたようなロジャー・ディーン風のジャケットアートは魅力的です。

 オープニングは「L’Hymne Medieval」。キーボードやギターが少し切ない雰囲気を作る中、ベースはバキバキと唸り、ドラムも手数が多く、リズム隊の存在感が際立ちます。フランス語のボーカルはコーラスも相まって浮遊感があります。「Le Baladin Du Temps」は3パートから成る組曲。音の出し方や美しいコーラスワークはイエスに似ている気はします。変拍子も交えていますが、テクニックが先行してメロディが弱いのか、やや退屈な印象。続いて表題曲「Musiciens-Magiciens」は、アルバムタイトルを背負うだけあって聴きごたえのある1曲です。ダークで怪しげな雰囲気が漂い、フュージョンのような演奏が展開されます。スリリングなリズム隊やヘヴィなオルガンでビシッとキメつつ、サックスも加わって洒落た感じも出しています。
 レコードでいうB面は「Au-Dela Des Ecrans De Cristal」で開幕。序盤と終盤は疾走感があってスリリングな印象。中盤は場面転換して神秘的なパートになりますが、その間もドラムが緊張感を作り出しています。「Le Secret Du Mage」もピリピリ張り詰めた緊張感の中で疾走するので、中々にスリリング。ベースが特にカッコ良いです。一転して「Le Berger」はゆったりとしたテンポで進みます。フルートが優しげ…と思えば、妖しげなコーラスでダークな印象に様変わり。「Je Suis D’Ailleurs」は静かな序盤からじわじわと盛り上げます。特にベースが唸りを上げ出し、その後ドラムソロもある中盤はリズム隊の独壇場。一転してアコギの美しい音色と耽美なボーカルに癒されます。終盤はカオスな感じ。

 本作はフランス語による良質なシンフォニックサウンドを聴くことができます。シンフォニックに、ジャジーに奏でられる楽曲のテクニックは決して低くはなく、所々に光るものはあるのですが、メロディが弱いのか聴き終わった後にあまり印象に残らないというのが正直なところです。
 次作に傑作『組曲「夢魔」』をリリースしますので、本作に手を出すのは、次作を聴いた後で十分だと思います。

ミュージシャン・マジシャン
アトール
 

L'Araignée-Mal (組曲「夢魔」)

1975年 2ndアルバム

 ユーロロックとも呼ばれる各国プログレもそこまで数多くは聴いてませんが、その中でも頭ひとつ抜けた大傑作です。前作や次作のクオリティと比べても飛び抜けていて、奇跡的な作品だと思います。イエスの『海洋地形学の物語』と『リレイヤー』を足し、そこに『太陽と戦慄』期のキング・クリムゾンのエッセンスを加えたような感じでしょうか。フランス語の語感が妙に怪しげに感じさせるアンドレ・バルザーのボーカル。またリュック・セラ(Gt/Key)の代わりに加入したクリスチャン・ベヤ(Gt)と、ゲスト扱いのリシャール・オベール(Vn)の参加が大きく、特にヴァイオリンは楽曲を引っ掻き回し、狂気さを増すのに一役買っています。
 靄がかかったような幻想的なサウンドに影のあるメロディは、聴いていると音の海に身体を預けられるのですが、緩急あるスリリングな展開にはハッとさせられます。『組曲「夢魔」』という見事な邦題がイメージを掻き立てますが、原題は直訳すると『悪の蜘蛛』なのだとか…うーん、なんか違う。これは邦題を付けた人のセンスに脱帽ですね。

 オープニング「Le Photographe Exorciste」から強烈な1曲です。ミシェル・タイユのキーボードによって靄がかかったかのような幻想的な雰囲気を醸し出し、バルザーのフランス語ボーカルが妖しさを演出。ジャン・リュック・シローの淡々としつつも音量の大きいベースが楽曲を引き締めます。後半はベヤの弾くギターと、アラン・ゴッツォのドラムの掛け合いが緊迫感を増し、オベールの狂気的なバイオリンが楽曲を掻き乱していきます。神秘的で浮遊感もある美しいシンフォニーに酔いしれながらも、時折訪れる激しい演奏は非常にスリリングです。続くインストゥルメンタル「Cazotte No.1」は個人的には一番お気に入り。超絶技巧のフュージョン的な1曲で、テクニカルな楽器のぶつかり合いが非常に高い緊張感を生み出しています。ギターやキーボード、ヴァイオリンが主導権を奪い合う中で、爆音ベースや手数の多いドラムもしっかり魅せてくれます。息ぴったりのリズムチェンジも素晴らしい、スリリングな1曲です。続く「Le Voleur D’Extase」もスリリングな1曲。序盤の気だるくて官能的な雰囲気から一転、中盤で爆走する緩急ある展開です。インストパートもメロディがしっかりしていて、凄まじいテクニックを見せつけるだけでなく、キャッチーで飽きさせないメロディセンス。終盤の超速演奏には圧倒されます。
 そして本作の肝である、後半4曲を占める組曲「夢魔」。イエスの『海洋地形学の物語』にも通じる雰囲気です。「Imaginez Le Temps」はプリミティブな印象を与えるパーカッションと、細かく刻むバイオリンの音色によって不穏で不気味な雰囲気を醸し出します。ドラムが激しくなって緊張感を一気に高めた後、緊張をほぐすかのように終盤はキーボードを中心にゆったりとした音色を奏でます。バルザーのボーカルも心地よい。続いて表題曲「L’Araignée-Mal」。穏やかな雰囲気で、スペイシーなシンセの音色は蜘蛛が糸を張り巡らせるようなイメージでしょうか?そして後半に進むにつれ、バルザーの歌がどんどん感情的になっていきます。ボーカルとともに高まった緊張感を継続して「Les Robots Débiles」に続き、この楽曲で緊張感のピーク。ヘヴィで、そしてダークな雰囲気です。危機感を煽るようなサウンドで荒波のようです。そこから一転してラスト曲「Le Cimetière De Plastique」では急激に穏やかになります。泣きのギターがしっとりと聴かせてくれます。そしてこの楽曲も、最終盤に向けて大団円といった雰囲気で盛り上がっていきます。緊張感を高めてスリリングなまま終了。

 凄まじいテクニックと、それだけで終わらないメロディセンスと緩急ある場面展開。アルバム中ずっと緊張感を持続しているその構成力が素晴らしい、大名盤です。少し不気味な、SFチックなジャケットアートもお気に入りです。

組曲「夢魔」
アトール
 

Tertio (サード・アルバム)

1977年 3rdアルバム

 取っつきやすさが向上した3作目。混沌としていた前作に比べ、ポップに、明瞭になった印象があります。大作主義が落ち着いて楽曲が比較的コンパクトになったのに加え、キーボードがリードする楽曲も増えているのも取っつきやすいと感じられる要因でしょうか。イエスで言うところの『究極』に近い変化です(楽曲自体が似ているわけではないですが)。
 しかし本作における変化は、高い緊張感を放っていた前作に比べると、少し平凡なアルバムに落ち着いた印象を抱きます。決してだらけたアルバムというわけではないのですが、リシャール・オベールの引っ掻き回すヴァイオリンの有無が、緊張感に大きな差を生んでいる気がします。

 オープニング曲「Paris, C’est Fini」はミシェル・タイユのキーボードや、クリスチャン・ベヤの弾く明るい音色のギターから始まります。しかしアンドレ・バルザーの歌メロパートに入ると一転して強烈な緊迫感を放ちます。ジャン・リュック・シローのヘヴィなベースが唸りますね。緊迫感のあるサウンドのなかに時折明るい雰囲気を見せ、ポップさも持ち合わせた楽曲です。パリだの東京だのを連呼してキャッチーな感じもしますが、戦争をテーマにした歌詞らしいですね。「Les Dieux Même」は、同郷のバンドであるマグマからステラ・ヴァンデらがゲスト参加。幻想的なイントロから、歌が始まると哀愁漂う切ないメロディ。しかしリズムチェンジして3拍子のリズムを刻む躍動感のある楽曲に変化。アラン・ゴッツォのダイナミックなドラムが冴えます。続いてキャッチーでポップな「Gae Lowe (Le Duel)」。イントロからキーボードが高らかな始まりを告げ、とても明るい雰囲気です。また、バルザーのファルセットを使ったボーカルがポップで親しみやすいですね。
 アルバムは後半に入り、「Le Cerf Volant」で開幕。メランコリックな歌でしっとりと聴かせます。楽曲を華やかなキーボードが彩り、またリズム隊が徐々に盛り上げていきます。全体を漂う儚げな雰囲気が切ない。続いて2部に分かれた組曲「Tunnel (Part 1)」。キャッチーなキーボードで幕を開け、高速ドラムが煽り立てます。その後は陽気なセッションといった趣。ボーカルが纏め上げていますが、割とのびのびした雰囲気です。終盤に緊張感が生まれてきて、そのまま「Tunnel (Part 2)」へ。スペイシーなシンセはトンネルの暗闇の中を進んでいるのでしょうか。静かな空間の中で徐々に高まる緊張感、そしてサウンドも激しくなっていきます。終盤のギターが放つ凄まじい緊迫感。とてもスリリングです。そして終盤ブツッと音が途切れた後の絶望的なコーラス。トンネルを抜けた先は絶望だったのでしょうか。

 1970年代後半はプログレ界隈全体がポップ化の流れになっており、自然な変化ではあります。前作が奇跡的な1枚だったので、それと比較するとどうしても劣る感じは否めませんが、本作自身はポップで聴きやすい好盤です。

サード・アルバム
アトール
 
 
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