🇺🇸 Beck (ベック)
レビュー作品数: 2
スタジオ盤
1994年 3rdアルバム
米国カリフォルニア州ロサンゼルス出身の宅録系ミュージシャン、ベック。1970年7月8日生まれで、本名はベック・ハンセンと言います。ベックと言えばジェフ・ベックという有名な先人がいますが、ベックもまた1990年代オルタナシーンを代表するミュージシャンです。
1988年より音楽活動を開始し、1993年にインディーレーベルよりデビュー。そして同年、アルバム先行シングルとなる「Loser」が大ヒットし、メジャーデビュー作となる本作もロングセラーとなりました。サンプリングを活用しつつ、ベック自身マルチプレイヤーとしていくつもの楽器をこなします。ベックとカール・ステファンソン、トム・ロスロック、ロブ・シュナフが共同制作者としてクレジットされています。
オープニングを飾る「Loser」はベックの代表曲です。ヒップホップ的な単調なリズムトラックと、グルーヴィなベースに乗せて、フォーキーなシタールが鳴り響くのが特徴的ですね。そして歌は淡々として気だるいラップですが、「俺は負け犬、さっさと殺しちまえよ」と歌うサビ部分だけは妙にキャッチーです。自ら録音したラップを聴いた際、自身のスキルのなさに「俺は最低のラッパーだ」と思ったことが自虐的な歌詞の理由なのだとか。「Pay No Mind (Snoozer)」はベックのボーカル含めてやる気のない気だるい雰囲気。フォークやブルースを基調に、もっと力の抜けた感じです。「Fuckin With My Head (Mountain Dew Rock)」はブルージーで、そしてサイケのように歪んだ演奏を緩く演奏。ヘタなボーカルも肩の力が抜けますね。後半に別の楽曲のようなリズムチェンジを挟んで、終盤は泥臭い演奏です。「Whiskeyclone, Hotel City 1997」はカントリー調の楽曲です。鳥のさえずるSEや、アコギやパーカッションのまったりとした空気感は心地良いのですが、音色がうまく噛み合っていないのかヘタな演奏のせいか、どこか違和感を覚えます。「Soul Suckin’ Jerk」はグルーヴ感のあるヒップホップ曲です。単調で気だるげに進行しますが、中盤からは重低音を唸らせながら力強いラップを歌います。続く「Truckdrivin Neighbors Downstairs (Yellow Sweat)」は、シタールを響かせながら歌う淡々としたメロディがどこか呪術的な雰囲気を纏っています。「Sweet Sunshine」は単調なリズムトラックに乗せて、ヴォコーダーを通した荒々しい歌と重低音が唸りまくります。スローテンポなのにヘヴィで攻撃力があります。続く「Beercan」はグルーヴ抜群のダンサブルな演奏でノリが良いのですが、歌は相変わらず脱力感があります。終盤鳴るオルガンが良いアクセントになっています。スローテンポの「Steal My Body Home」はシタールが鳴り響き、エキゾチックで怪しげな雰囲気に満ちています。終盤に加わるパーカッション等の楽器がなんともジャンキーな感じ。「Nitemare Hippy Girl」はアコギ主体の牧歌的な雰囲気ですが、演奏は手作り感満載です。温もりがあり、淡々としているのにメロディアスな印象も受けます。続く「Mutherfuker」はノイズまみれの歪んでヘヴィな音が強烈。ヴォコーダーを通した歌はとても荒々しくて、脱力系な作風の中でヘヴィさが際立ちます。「Blackhole」はアコギやシタールなどの弦楽器が優しい音色を奏で、雄大な自然を想起させます。そして最後に隠しトラックとして「Analog Odyssey」。音をいじくり回して、ゲームのような効果音が好き勝手に飛び交う実験的なインストゥルメンタルです。
フォークやブルースといったルーツミュージックと、ヒップホップやノイズミュージックを融合。そして全体的に無気力で気だるい空気が漂う作品です。
1996年 5thアルバム
ベックの代表作にして1990年代の名盤として取り上げられることの多い本作。通算5作目でメジャー2作目のフルアルバムです。ダスト・ブラザーズらとの共同プロデュースで、これまでのフォーク・ブルース+ヒップホップに加え、サンプリングを駆使してテクノ的な感覚を取り入れています。
モップのようなジャケット写真はコモンドールという牧畜犬だそうです。
オープニング曲は「Devils Haircut」。ガチャガチャと様々な音が散りばめられた、ジャンクなサウンドはまるでおもちゃ箱のよう。聴いているとワクワクしてくる魅力的な楽曲です。やる気のないベックの歌は相変わらずですが、終盤は叫び散らしています。続く「Hotwax」は気だるいヒップホップ。単調なリズムトラックに、まったりとしたギターを鳴らしたり、強烈に歪んだノイズを放ったり。淡々とした歌やスローな曲調とは裏腹に、サウンドは変化に富んでいます。「Lord Only Knows」は冒頭から強烈なシャウト。かと思えば、スライドギターを鳴らしてまったりとした楽曲が始まります。1970年代っぽい楽曲の雰囲気ですが、ヒップホップ的なリズムトラックを組み合わせてモダンに仕上げています。「The New Pollution」はイントロだけ浮いていますが、そこから続く演奏は単調な反復や程よい浮遊感が妙に心地良く、中毒性があります。サックスが洒落ていますね。パーカッションがプリミティブな雰囲気を醸し出す「Derelict」を挟んで続くのは「Novacane」。グルーヴの効いたダンサブルな演奏にラップを乗せています。時折強烈なノイズを発してくるものの、全体的には脱力系のノリの良い演奏です。「Jack-Ass」は音像のぼやけた幻想的なギターが温もりを与えます。優しくて癒やされますね。終盤に聞けるハーモニカやギターはノスタルジックな印象。続く「Where It’s At」は落ち着いた鍵盤をバックに気だるいヒップホップを展開します。時折場違いなノイズだったり渋いサックスが出てきたりと、様々な音色が単調な楽曲に彩りを与えます。そして目が覚めるようにハードな「Minus」。ゴリゴリベースにザクザクギター、炸裂するドラムに速い曲調で煽り立てます。アルバム全体に漂う気だるい雰囲気を切り裂いて緩急つけるスリリングな楽曲で、とてもカッコ良い。そして「Sissyneck」で緊張は緩みますが、グルーヴィな演奏は魅力的です。心地良いスライドギターや気だるい空気はどことなくローリング・ストーンズにも通じます。リズム隊も良い感じ。「Readymade」はファンクをサンプリングした楽曲で、怪しげな雰囲気が漂います。「High 5 (Rock The Catskills)」は様々な楽曲をミックスしたDJ的な1曲で、展開が良く分からないのですが繰り返されるフレーズが妙に耳に残ります。そしてラスト曲「Ramshackle」ですが、アコギ主体の穏やかで淡々とした演奏が続くので少し冗長かも…。
「Devils Haircut」がとにかくカッコ良い。私自身ヒップホップが苦手なので彼の凄さが良くわかっていませんが、革新的な音楽性は多くのフォロワーを生んだようです。
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