🇬🇧 Buzzcocks (バズコックス)
レビュー作品数: 6
バズコックス紹介動画
動画にまとめていますので、ぜひご視聴ください!
スタジオ盤
初期3作品
1978年 1stアルバム
パンクにおけるDIY精神のパイオニア、イングランドのマンチェスター出身のパンクバンド、バズコックス。メジャーに頼らず自主的にインディーレーベルを立ち上げてインディーズという考え方を広めるなど、その姿勢はパンクやオルタナ/インディーにも多大な影響を与えました。
ピート・シェリーとハワード・ディヴォートを中心に1976年結成。ロンドンでセックス・ピストルズのライブに感銘を受けた彼らは、地元マンチェスターに呼び込んでライブをセッティングします。結果は42名しか集まらなかったそうですが、そこには後にマンチェスターの音楽シーンを大きく牽引するジョイ・ディヴィジョンやスミスの結成前メンバーの姿があったそうです。翌月にはセックス・ピストルズの2回目のマンチェスター公演を誘致し、バズコックスがオープニングアクトを務めてこれがデビューライブとなりました。
EP『スパイラル・スクラッチ』リリース後、ハワードは早期に脱退してマガジンを結成します。メンバーチェンジはありましたが、ピート・シェリー(Vo/Gt)、スティーヴ・ディグル(Gt)、スティーヴ・ガーベイ(B)、ジョン・マー(Dr)のラインナップで1981年の解散まで続くことになります。
疾走感のある「Fast Cars」で開幕。冒頭、アラート音のような高音ギターがスリリングですね。ピートの若干投げやり気味な歌唱にジョン・ライドンからの影響が窺えます。パンキッシュですがポップなんですよね。「No Reply」はひたすら「No reply」を繰り返す、語感の良い疾走曲。ジョンの叩くドラムも気持ち良くて、跳ねるような感覚があります。続く「You Tear Me Up」は単調な展開ですが疾走感があって爽快ですね。終盤少しテンポを落とした後に加速して終えます。「Get On Our Own」は明るくポップなパンクナンバー。ハミングも加えてご機嫌な楽曲で、ヘロヘロボーカルでもポップなメロディが光っています。ギターソロも魅力的。「Love Battery」はアグレッシブなギターが緊張を生み出し、ドラムも焦燥感を煽りますが、歌が意外と親しみやすくてキャッチーさも兼ね備えています。「Sixteen」は6/8拍子を刻みますが、ザクザクしたギターやパワフルなドラム等の演奏はひりついていて緊張感があります。ラストは電子音が飛び交ってサイケデリックな感じ。
レコードB面、アルバム後半は「I Don’t Mind」で幕開け。グリーン・デイを15年先取りしたような、爽やかでメロディアスなポップパンク曲です。ハミングや転調などを駆使したキャッチーな仕上がりです。「Fiction Romance」はジョンの力強いドラムや怪しげなフレーズを奏でるギター、ブイブイ唸るベースと、単調ながらも中毒性の高い演奏に惹きつけられます。歌も淡々としていて、演奏を引き立てるような印象。「Autonomy」は前曲の続きのような張り詰めた雰囲気のイントロで始まりますが、歌が始まると明るい空気に。キャッチーでメロディアスな歌が軸となりますが、バックで奏でるベースが中々良い感じ。そして「I Need」は弾けるような疾走感溢れる演奏に乗せて、ひたすら「I need」の合いの手が耳に残りますね。キャッチーで気持ち良い。最後は「Moving Away From The Pulsebeat」。歌もありますがおまけ的な感じで、ビートが爽快な演奏メインの楽曲を繰り広げます。野性味溢れるダイナミックなドラムソロが特にカッコ良いですが、ギターソロも印象的。5分半で楽曲を終えた後「Fast Cars」のリプライズ的な演出でアルバムに纏まりを持たせて締め括ります。
ジェネリック セックス・ピストルズ。笑 と言っては失礼かもですがピストルズ直系のキャッチーでノリの良いロックンロールを繰り広げます。ポップセンスが光るメロディの良さも魅力的です。
1978年 2ndアルバム
前作から僅か半年でリリースされた作品で、大規模なツアーの合間を縫ってレコーディングされたそうです。プロデューサーはマーティン・ラシェット。全英13位という、バズコックスではチャート最高位を記録した作品になりました。大半はピート・シェリーの作ですが、一部楽曲は他のメンバーも作曲に加わっています。
オープニング曲「Real World」は、ベース音が強調されてかつ野性味のあるドラムなど、リズム隊が強調されていてポストパンク感が増した印象です。少し陰りはあるものの、ポップさが光ります。続く「Ever Fallen In Love (With Someone You Shouldn’t’ve)」はスリリングかつキャッチーな疾走曲です。パンクよりはポストパンク的な焦燥感のある演奏をバックに、耳馴染みの良いポップな歌メロで魅せてくれます。口ずさみたくなるメロディの良さが素敵ですね。「Operator’s Manual」は煽り立てるようなスリリングな3拍子の演奏ですが、歌は間延び気味というギャップがあります。途中変速したりドコドコとダイナミックなドラムを叩いたりと緩急に富んでいますが、全体的にひねた感じ。そして「Nostalgia」はイントロもなく歌から始まる性急な感じの楽曲で、休まる間もなく勢いづいていきます。陰りがあってひりついています。「Just Lust」はザクザクとしたギターが切れ味鋭い、パンキッシュな疾走曲です。演奏はアグレッシブなんですが、ピートの歌は親しみやすいというかポップなんですよね。歌い方がジョン・レノンっぽく聞こえるような気もします。「Sixteen Again」はグングンと進んでいくかのような勢いのある演奏が気持ち良く、それでいて速度が安定しないような不完全さでフックをかけてきたり。ギターソロがメロディアスです。
アルバム後半のオープニング曲「Walking Distance」は、スティーヴ・ガーベイ(B)作のスリリングなインストゥルメンタルです。ベースラインが特徴的ですが、主旋律を奏でるツインギターの方がどちらかというと耳に残ります。続く「Love Is Lies」はスティーヴ・ディグル(Gt)の作で、彼がボーカルを担当しています。本作では唯一楽曲スタイルが異なり、アコギをかき鳴らしながら牧歌的な優しいメロディを展開しますが、歌声はポップさと無縁の渋さがあります。そして「Nothing Left」は野性味のあるドラムにザクザクしたギターや太いベースが絡んで、ダイナミックでスリリングな演奏を繰り広げます。歌は下手さ故か投げやり気味な印象。終盤は比較的長尺の間奏で楽しませてくれます。「E. S. P.」はエキゾチックなフレーズを奏で続けるギターが強く印象に残ります。怪しげですが、躍動感あるリズム隊が牽引するお陰で爽やかさも兼ね備えているという。終盤はしつこすぎるくらいに同じフレーズを反復して終えます。そしてラストは焦燥感溢れるインストゥルメンタル「Late For The Train」。3連符の連打がスリリングな、緊迫した演奏を繰り広げます。3分辺りでフェードアウト→再フェードインして、そこからは幻覚的でサイケデリックな感覚が加わります。
前作はセックス・ピストルズ直系のパンクでしたが、今作はややポストパンクに傾いてスリルを増しつつもメロディはポップさを増し、キャッチーさにより磨きがかかった印象です。
1979年 3rdアルバム
シングルベスト『シングルズ・ゴーイング・ステディ』を挟んでリリースされた、バズコックスの3rdアルバムです。1stは四角、2ndは円ときて、本作では三角を表したジャケットはデザイナーのマルコム・ギャレットによるもの。ジャケットはこれまでで最も洗練された印象ですが、楽曲も洗練されています。キャッチーな楽曲で惹きつけたかと思えば、人を寄せ付けない攻撃的な楽曲でスリルを味合わせてくれます。
『The Rose On The Chocolate Box』と題した前半パートは明瞭で爽快なパンク曲が並びます。「Paradise」は弾けるような躍動感ある楽曲で、パワフルかつ爽快な演奏にピート・シェリーのご機嫌な歌が乗ります。終盤のゴリゴリベースも気持ち良い。続く「Sitting Round At Home」は鈍重なリフに若干加工されたボーカルを乗せて、グラムロック的な雰囲気を醸し出します。かと思えば倍速のパンクパートを繰り広げ、これらを交互に繰り返すことで極端な緩急を生み出しています。「You Say You Don’t Love Me」は爽やかなポップパンク曲で、キャッチーな歌メロが魅力的です。ギターソロも程良い哀愁を醸すメロディアスな音色で、心地良いですね。そして「You Know You Can’t Help It」はイントロから弾け出すようなパワフルな演奏を繰り広げます。アグレッシブな演奏に加えて攻撃的な歌唱はセックス・ピストルズ風ですが、少し陰りのあるメロディです。ジョン・マーの激しいドラムが気持ち良い。「Mad Mad Judy」はスティーヴ・ディグルががなるように歌うパワフルな楽曲。蠢くような重低音も特徴的で耳に残ります。そして「Raison D’Être」は疾走感のあるパンク曲で、シンプルかつキレのある演奏を展開しますが、歌メロはやや哀愁漂う感じがします。終盤のリードギターはエフェクトをかけてサイケデリックな印象。
後半パートは『The Thorn Beneath The Rose』と題され、ポストパンク的な楽曲が揃っています。まず「I Don’t Know What To Do With My Life」は躍動感ある演奏に、キャッチーな歌メロで魅せます。高音キー主体のピートの歌はジョン・ライドンっぽい。爽快なパンク曲ですね。続く「Money」はミドルテンポで、重低音を効かせてヘヴィな印象。重たくて病んでいる感じもしますが、グルーヴもあって気持ち良さも併せ持ちます。哀愁たっぷりのギターソロも良い感じ。「Hollow Inside」はスティーヴ・ガーベイの爆音ベースが唸ります。暗く張り詰めたスリリングな演奏は、リズム隊を強調してポストパンク的。神経質に「Hollow inside」と反復する歌は病的で焦燥感を煽ります。そして表題曲「A Different Kind Of Tension」。異様な緊張が張り詰めてひりついています。爆音ベースにノイズのようなギター、焦燥感を煽るドラム、時々ヴォコーダーを通した機械的なボーカルなど、ゾワゾワするようなスリル満点の楽曲です。暗い雰囲気から一転、「I Believe」は明るいポップパンク曲で救いの手を差し伸べます。7分を超える楽曲で、口ずさみたくなるようなキャッチーなメロディは気持ち良いですが、くど過ぎるくらいに反復します。最後の「Radio Nine」は40秒ほどの小曲で、ラジオのようなノイズ等を交えています。
前半はキャッチーかつ明瞭なパンク曲が並び、後半は焦燥感を煽るような暗くスリリングなポストパンク曲とメリハリをつけます。素晴らしい名盤です。
なおバズコックスは4thアルバムのデモ制作中の1981年に解散しますが、1989年には再結成を果たします。
解散と再結成
1993年 4thアルバム
1981年に解散したバズコックスは1989年に再結成。再結成後は何度かメンバーチェンジを挟んで、1992年にピート・シェリー(Vo/Gt)、スティーヴ・ディグル(Vo/Gt)、トニー・バーバー(B)、フィル・バーカー(Dr)のラインナップで安定します。スティーヴがボーカル担当する曲が増え、ピートとスティーヴのツインボーカル体制に変わった感じです。ラルフ・P・ルパートによるプロデュースとなる本作はオリジナルアルバムとしては14年ぶりで、当時流行していたパワーポップシーンの影響を受けています。
オープニングを飾るのは「Do It」。重厚でノイジーなギターに時代の変化を感じますが、ポップセンスはそのまま。落ち着いている…というか比較的テンション低めの歌を、コーラスで飾っています。続く「Innocent」は、躍動感ある演奏にキャッチーな歌メロが魅力的なポップパンク曲です。爽やかなのですがどこか憂いを感じさせ、それがまた良い感じ。「TTT」はザクザクとした切れ味鋭いギターを皮切りに、焦燥感のあるひりついた演奏を繰り広げます。ピートの歌はハードな演奏に若干埋もれがちですが、スリリングな演奏を楽しめる良曲です。そして「Isolation」は時代に即した荒っぽいギターで始まるパンキッシュな1曲。スティーヴがボーカルを取り、しゃがれ気味の渋い声で歌いますが、メロディは口ずさみたくなるようなキャッチーさがあります。「Smile」は歪んだギターをかき鳴らし、武骨なベースをゴリゴリと響かせながらピートがあっけらかんと歌います。爽やかで明るいですね。「Last To Know」は解散前の初期バズコックスそのままのキャッチーな1曲です。スタスタとしたドラムが気持ちの良い疾走感を生み出し、明るい歌メロ。ギターソロは哀愁が漂っていてたまりませんね。続く「When Love Turns Around」は明るくて弾けるようなパンキッシュな演奏に乗せて、スティーヴが渋い声で歌う、少し憂いのある歌メロが沁みますね。「Never Gonna Give It Up」は勢いのある演奏にポップな歌メロを乗せていますが、どこか憂いがあります。歪んだ音を刻むリズムギターとは異なり、リードギターは哀愁あるメロディアスな音色を奏でます。「Energy」は冒頭のテクノっぽい演出に驚かされますが、そこからは疾走感溢れるパンキッシュなバンド演奏を繰り広げます。ひたすら「Energy」を連呼する歌は耳に残りますね。爽やかで少し切なさのあるポップパンク曲「Palm Of Your Hand」を挟んで、「Alive Tonight」はスタスタと軽快なドラムやブイブイ唸るベースが爽快。ノリノリですが、どことなく暗さや閉塞感が漂う感じもします。「Who’ll Help Me To Forget?」はピートのメロディアスでポップな歌メロが印象的なポップパンク曲です。程良い疾走感が気持ち良いです。「Unthinkable」はザラついたギターをかき鳴らしながら疾走。ノリの良い演奏に、スティーヴがしゃがれた声で歌っています。「Crystal Night」はポップで爽やかながらも少し哀愁のある歌メロが魅力的です。そしてよく動き回るベースも気持ち良い。ラスト曲「369」は、そこまで早口ではないのに矢継ぎ早に飛び出す歌で息をつく間もない印象。キャッチーな歌メロを分厚くて疾走感のある演奏で飾り立てます。
時代に即して音の歪みが強まりましたが、本質的なポップセンスは変わらず。しいて言えば少し曲数が多いのがネックかも。
バズコックスは1994年にはニルヴァーナ最後のツアーのオープニングアクトを務めますが、セックス・ピストルズとニルヴァーナという、英米でそれぞれ商業ロックを覆した両バンドのオープニングアクトを務めた稀有なバンドとなりました。
1996年 5thアルバム
前作に伴うライブツアーを数多く重ねたバズコックス。このツアーがピート・シェリーにインスピレーションを与えて本作の制作に至ったそうです。プロデューサーにはニール・キングを迎え、IRSレコードと契約。ですが本作リリース2ヶ月後に閉鎖となってしまいました。
オープニング曲「Totally From The Heart」は短いイントロから高揚感を煽る、スリリングで爽快な疾走曲です。メロディアスな歌はコーラスによって陽気な印象。続く「Without You」は歪んだギターを鳴らしながらも、ノイジーな印象になることなく明るくポップな感じです。時折リードギターがメロディアスなフレーズを奏でたり、ピートの歌うキャッチーなメロディもあって爽やかです。「Give It To Me」はメロウでブルージーなギターが特徴的。リラックスした雰囲気ですが、時折タイトに引き締めて緩急つけます。「Your Love」は重低音を鳴らしながらも、フィル・バーカーの叩くスタスタと軽快なドラムとテンポの速さもあってスカッと爽やか。続いて「Point Of No Return」は少し張り詰めた暗い空気が立ち込めます。トニー・バーバーのゴリゴリしたベースが低音を支え、リードギターと歌が哀愁あるメロディをたたえます。「Hold Me Close」はミドルテンポの楽曲です。耳心地の良いリズムパターンに導かれて始まる楽曲はシンプルなようでいて、ハモンドオルガンを鳴らすなど意欲的な試みがされています。またサビは轟音ギターで悲壮感たっぷりに盛り上げる、緩急ついたグランジ的な側面もあります。「Kiss ‘N’ Tell」はダーティなギターリフで始まり、太いベースもカッコ良い。怪しげでスリリングな楽曲は、若干トリッキーな展開で惹きつけてきます。そして「What Am I Supposed To Do」は諦めのような寂寥感あるイントロに1990年代オルタナ感があります。スティーヴ・ディグルの歌も切なくて中々沁みますね。「Some Kinda Wonderful」はビート感の強いドラムによって躍動感に溢れています。ノリノリな楽曲なので思わず踊り出したくなります。「What You Mean To Me」はシンプルかつ骨太な演奏で力強いロックを展開。でも、ピートのヘロヘロなボーカルスタイルが隙というか親しみやすさを与えてくれます。「Playing For Time」はスティーヴのボーカル曲です。重低音で一定のリズムを刻むリズムギターに浸っていると、暗いながらも躍動感ある展開に。そして「Pariah」はダイナミックなドラムが特徴的な楽曲です。6/8拍子ですが途中の譜割りが少し独特で、奇妙なリズムでひねくれ感満載です。ラスト曲「Back With You」はスティーヴがアコギを鳴らしながらしゃがれた渋い声で歌います。そして途中からバンド演奏が加わると力強く盛り上がっていき、切ない感情を増幅させます。
時代もあってか、なんとなく暗さや哀愁が漂います。キャッチーでポップさが売りのバズコックスのイメージとは少し違った印象を受けます。
編集盤
1979年
本作はバズコックスのシングルA面B面曲を集めたシングルベスト盤ですが、オリジナルアルバムよりも纏まりが良いと評判で、入門盤向きの作品です。本作は北米におけるデビュー盤で、本国英国ではその2年後バズコックス解散と同年にベスト盤としてリリースされました。ですが残念ながら米英いずれもセールス的には失敗したようです。CD再発に際しては、1979年の本作リリースから1981年の解散までにリリースされたシングル曲を追加し、16曲入→24曲入と大幅にボリュームを増しています。全盛期の軌跡を追うのに最適ですね。2019年リマスターではオリジナルの16曲入りに戻っています。
メンバーはピート・シェリー(Vo/Gt)、スティーヴ・ディグル(Gt)、スティーヴ・ガーベイ(B)、ジョン・マー(Dr)ですが、2曲だけ最初期のメンバー、ガース・スミス(B)がベースを弾いています。
アルバム前半はシングルA面曲が中心です。オープニングを飾るのは「Orgasm Addict」。ピートの吐き捨てるようなボーカルスタイル、それでいてキャッチーなメロディ。リズムはちょっと不安定な感じもしますが、疾走感たっぷりで楽しませてくれます。続く「What Do I Get?」はスタスタとジョンの気持ちの良いドラムに乗せ、疾走感のあるパンク曲を展開。歌は下手ですがポップなメロディは魅力的です。「I Don’t Mind」はキャッチーなポップパンク曲。1990年代メロコアブームでも通じそうな、明るく爽やかなメロディが印象的です。「Love You More」は弾けるような躍動感ある演奏に、コーラスワークも含めて明るい雰囲気。ベースラインも気持ち良いです。2分足らずのさくっと聴ける楽曲ですが、最後がぶつ切りという。そして「Ever Fallen In Love (With Someone You Shouldn’t’ve)」はスリリングかつキャッチーな名曲です。緊張が張り詰めていますが躍動感溢れる演奏に乗せて、口ずさみたくなるようなポップで明るい歌メロが魅力たっぷりです。「Promises」は勢いがあるパンク曲で、時折ドコドコとワイルドなドラムが楽曲に緩急つけます。続く「Everybody’s Happy Nowadays」はファルセットを用いた歌に浮遊感があり、またパンキッシュな演奏の中でリードギターはやや幻覚的な感覚を与えてくれます。「Harmony In My Head」はスティーヴ・ディグルのボーカル曲で、ピートとは違ってがなるような歌唱なので攻撃的です。演奏も緊張感があってポストパンク的です。間奏のゴリゴリした武骨な感じが好み。
ここから再発時に追加されたボーナストラック。「You Say You Don’t Love Me」は爽やかながら哀愁のあるポップパンク曲です。間奏ではメロディアスなギターソロを聴かせてくれます。続く「Are Everything」はそれまでの楽曲とはミックスが異なり、加えて演奏はサイケデリックな色合いが強くてトリップ感があります。ミニマルな構成も中毒性を生み出しています。「Strange Thing」はひりひりとしたポストパンク曲。スティーヴ・ガーベイが爆音ベースを轟かせながら、ノイジーなギターやドラムが緊迫感のある演奏を繰り広げます。「Running Free」ではシンセサイザーを用いて、シンプルなフレーズながらもカラフルな印象。ポップですが、なんとなく哀愁が漂っています。
シングルB面曲が中心のアルバム後半は「What Ever Happened To?」で幕を開けます。ガースの武骨な爆音ベースで始まるパワフルなパンク曲で、演奏はアグレッシブですが、ピートの甲高い歌声のおかげかキャッチーさも兼ね備えた良曲ですね。「Oh Shit!」はシンプルかつ速い疾走ロックンロールです。騒がしくてノリの良い楽曲で楽しませてくれます。続く名曲「Autonomy」はノイジーでザクザクしたギターを中心に、緊張感溢れるスリリングな演奏を繰り広げます。それでいてメロディアスな歌は取っつきやすくて耳に残ります。間奏のリードギターも哀愁のメロディが良い感じ。「Noise Annoys」は途中に一瞬の間を設けてフックをかけてきます。ノイジーな演奏はポストパンク色が強いですがひねくれポップな感もあり、実験的なのに意外と聴きやすいです。「Just Lust」は疾走感のあるパンク曲で、リズミカルで躍動感に溢れています。ジョン・レノンっぽい声で歌う歌はテンション低めで、ノリの良い演奏とはギャップがあります。「Lipstick」はアグレッシブでノリが良いものの、サビメロでは暗く張り詰めた雰囲気に変わって焦燥感を煽ります。6分半に及ぶ「Why Can’t I Touch It?」はファンクを取り入れたグルーヴ感の強い楽曲を展開。演奏は比較的スカスカですが、ダンサブルで気持ち良いです。「Something’s Gone Wrong Again」はキンキンとトイピアノのような音が終始バックで鳴っているのが特徴的で、ひたすら反復する単調な展開は中毒性があります。ピートの歌声はグラムロック期デヴィッド・ボウイそっくりで、個人的にポイント高いですね。
続いて再発時のボーナストラック。「Raison D’Être」はパワフルでキレのある演奏とは対照的に、歌には憂いがあり、その歌唱が中々魅力的です。また、アウトロのサイケデリックなギターも良いですね。「Why She’s The Girl From The Chainstore」は重低音を唸らせていますが、スタスタとしたドラムが爽快。そこにスティーヴ・ディグルが野太い声でシャウト気味に歌います。そして「Airwaves Dream」はスティーヴ・ガーベイの爆音ベースが強烈な存在感を放ちます。ギターは徐々にエフェクトを強めてサイケな印象で、またシンセサイザーも用いています。ラスト曲は「What Do You Know」。サックスにより装飾された楽曲はパンクの枠を大きく超えています。華やかですが、全体的にはメランコリックで哀愁が漂っています。
カップリング曲も含めて良曲が多く、キャッチーな楽曲が揃っています。再発盤については通しで聴くにはややボリュームが多いですが、パンク一辺倒ではなく途中からポストパンク化するので、バラエティに富んでいて飽きにくい印象。
ちなみに銀杏BOYZの前身バンドGOING STEADYは本作から名前を取ったそうです。
関連アーティスト
創設メンバーのハワード・ディヴォート(Vo)が脱退後に結成。
類似アーティストの開拓はこちらからどうぞ。