🇬🇧 Depeche Mode (デペッシュ・モード)

スタジオ盤②

バンドの受難と再出発

Ultra (ウルトラ)

1997年 9thアルバム

 前作『ソングス・オブ・フェイス・アンド・デヴォーション』の長期ツアーで疲弊したメンバー達。デイヴ・ガーンは薬物に溺れ、マーティン・ゴアはアルコール中毒に、アンディ・フレッチャーは心を病んで情緒不安定になり、そんなバンドに見切りをつけてアラン・ワイルダーが脱退。親しかったアランの脱退でデイヴの薬物中毒はますます酷くなり、離婚に加えて二度の自殺未遂、そしてリハビリのため長期療養に入ります。メンバーは心身ともにボロボロの状態でした。
 マーティン、アンディ、デイヴの3人となったデペッシュ・モード。アレンジ面で大きく貢献したアランがいなくなり、また新たに迎えたプロデューサーのティム・シムノンの影響もあって、ヒップホップに影響を受けたリズムを強調したアレンジが特徴的です。全英1位、全米5位を記録。

 オープニング曲は「Barrel Of A Gun」。リズムトラックを強調したノイジーな演奏に、気だるげなのに怒気の混じったデイヴの歌がエフェクトを通して乗ります。途中から加わるギターは低いチューニングでドゥームメタルっぽい。かなりヘヴィな1曲です。続く「The Love Thieves」はまったりとして落ち着いた雰囲気。エコーがかった歌は包み込むように優しいです。演奏も幻想的ですね。終盤の、憂いに満ちたエキゾチックなギターソロが渋いです。「Home」はマーティンの歌う楽曲。単調なリズムに耽美なボーカルが際立ちますね。中盤からはストリングスが加わり、楽曲を重厚かつドラマチックに彩ります。「It’s No Good」はヘヴィなサウンドでグルーヴがうねります。哀愁漂う歌メロや、間奏で聴けるダークなシンセなど、暗くて重たい空気の中、打ち込みのリズムビートが無機質かつ力強く鳴ります。「Uselink」はインストゥルメンタル。デジタルで無機質な演奏が淡々と繰り広げられ、途中から賑やかになったかと思えば、続く「Useless」はロック色の強い楽曲で、マーティンの弾く金属質かつブルージーなギターが強いインパクトを放ちます。そして、淡々としたドラムやデイヴの歌には強い倦怠感を覚えます。「Sister Of Night」はノイジーなイントロで幕を開けます。穏やかな曲調に乗るダークでメランコリックな歌メロを経て、そして歌が終わると再びノイズが押し寄せてきます。終盤はひんやりと不気味な雰囲気。続いてインストゥルメンタル「Jazz Thieves」。何かが蠢くような、神秘的で不気味な演奏を聴かせます。そして「Freestate」はブルージーで泥臭い演奏に強いエコーをかけてモダンなサウンドに仕立て上げています。原始的な雰囲気と洗練された都会的な空気が同居した不思議な楽曲です。「The Bottom Line」はメロウな楽曲。トロピカルなスライドギターやパーカッション、マーティンの甘い歌声がまったりとした空気を作り出します。アクセントとして入るヘヴィなオルガンが良い感じ。続いて「Insight」。暗い海を漂うかのような浮遊感あるダークな演奏に、這うような重低音が響き、そして時折引きずり込まれるような重たさが襲ってきます。ラスト曲はインストゥルメンタル「Junior Painkiller」で、暗さの中にエキゾチックな雰囲気を醸し出し、アルバムを静かに締め括ります。

 バンドサウンドが比較的前面に出てるものの、人間味よりも無機質さを増したような印象で、全体的に暗いです。個人的にはガツンとくる曲が少なかったです。

Ultra
Depeche Mode
 
Exciter (エキサイター)

2001年 10thアルバム

 デイヴ・ガーン(Vo)、マーティン・ゴア(Key/Gt/Vo)、アンディ・フレッチャー(Key)の3人となったデペッシュ・モード。今回はビョークらを手掛けたマーク・ベルをプロデューサーに迎えています。先進のテクノやハウスの要素を取り入れ、アコギをフィーチャーした楽曲があったり、これまでとは雰囲気が大きく変わりました。

 アルバムは「Dream On」で開幕。手拍子のような軽い打込みにアコギ、そしてエフェクトをかけず明瞭に聞こえるデイヴの歌など、これまでとは異なるアレンジ手法が展開されます。トーンは決して明るくはないですが、アコギの温もりある音色とデイヴの飾らない歌声が心地良いんです。「Shine」は優しい空気が流れ、デイヴの歌に浸れます。ですが時折強めのデジタルなノイズが入ってかき乱すというか、一筋縄ではいかないですね。続く「The Sweetest Condition」はメロウでまったりとしたサウンドとデジタルなリズムトラックがチグハグな感じ。起伏の少ないメロディですが、デイヴは感情たっぷりに歌っています。「When The Body Speaks」は柔らかいギターに渋みのある優しい歌声が、素朴ながらもしがらみから解き放たれたかのような安堵感を与えてくれます。ストリングスの装飾も優しくて心地良い。あまりデペッシュ・モードらしくはないですが、ダンスサウンドから離れても全然いけることを示してくれていますね。一転して「The Dead Of Night」は非常に強いノイズまみれのサウンドで、前曲とのあまりのギャップにビックリします。リズムトラックも一撃一撃が強烈だし、デイヴもかなり攻撃的な歌唱ですね。カッコ良い楽曲です。静かなインストゥルメンタル「Lovetheme」を挟んで、「Freelove」はスペイシーなイントロで幕開け。歌メロは哀愁たっぷりで魅力的だし、ギターサウンドは温もりを感じます。名曲ですね。淡々とした演奏にメロディアスな歌が乗る「Comatose」を挟んで、「I Feel Loved」はハイテンションで躍動感のあるダンスチューン。かなりノイジーですが、ノリノリのグルーヴィなサウンドで楽しませてくれます。「Breathe」はマーティンが耽美なボーカルを聴かせます。落ち着いた雰囲気ですが気だるく憂いを帯びていて、感傷的な気分を誘う楽曲です。続く「Easy Tiger」はインストゥルメンタル。暗鬱ながらも浮遊感のある演奏が展開されます。「I Am You」もダークで幻想的な世界が広がりますが、歌はチープな機材で録音したかのような演出がなされていて不思議な感覚。後半にノイズが押し寄せたりストリングスによる美しさが垣間見えたり、相反する要素が様々組み合わさっていますね。最後の「Goodnight Lovers」はハミングで幕開け。デイヴの歌が子守唄のように優しくて、ハミングが包み込んでくれるかのように心地良いです。

 彼ららしくない楽曲もありますが、1990年代作品のどうしようもない暗さや無機質な冷たさは払拭して個人的には聴きやすくなりました。

Exciter
Depeche Mode
 
Playing The Angel (プレイング・ジ・エンジェル)

2005年 11thアルバム

 前作『エキサイター』の後、マーティン・ゴアとデイヴ・ガーンはそれぞれソロアルバムをリリース。またアンディ・フレッチャーも、自身のレーベルを立ち上げてCLIEИT(クライアント)というシンセポップデュオをプロデュースするなど、メンバーそれぞれの活動にシフト。解散も囁かれたそうですが、2004年にはデペッシュ・モードとしての活動を再開。翌年に本作のリリースに至ります。
 プロデューサーにはベン・ヒリアーを起用。また、これまでほぼ全ての楽曲をマーティン一人で手掛けてきましたが、ソロ活動の経験を経てデイヴも初めて作詞参加しています(クリスチャン・エイグナー、アンドリュー・フィルポットと共作で3曲)。

 オープニング曲「A Pain That I’m Used To」は、強烈に歪んだノイジーな演奏で幕を開けた後、静寂の中に重低音が蠢くダウナーな雰囲気になります。そして中盤で再び歪んで暴力的な音がかき乱していく、静と動の対比の激しい楽曲です。「John The Revelator」はデイヴが力強く歌う楽曲で、攻撃的でメリハリのあるリズムビートが助長。それでいてピコピコとした軽いノリが対照的ですね。「Suffer Well」はダンサブルなビートと、ロック色のあるベースが心地良い。リズムは力強いですが、浮遊感のあるシンセサイザーのおかげで不思議とスペイシーな感覚を持ち合わせています。「The Sinner In Me」は金属的で無機質なサウンドが、淡々と精神を蝕んでいきそうな感覚。歌も暗くてどんどん沈んでいきます。途中でメランコリックなギターが美しさを見せてくれたかと思えば、終盤は凶暴化してスリリングな展開を繰り広げます。続く「Precious」は一転してデイヴの耽美な歌をじっくりと聴かせてくれる1曲です。包み込むような優しさ、その中に無機質な冷たさも内包した陰のある楽曲です。「Macro」はマーティンが歌う楽曲。悲壮感のあるメロディとひんやりとした質感で憂いを誘い、そしてラストは暴力的なノイズが襲ってきて不気味な感覚で終えます。「I Want It All」はアンビエントのような余韻を持たせて心地良い浮遊感を作りつつも、ノイズのようなリズムトラックに不気味さが漂います。終盤はノイズが強まり、淡々として無機質。人間味がなく不気味さを増したところで「Nothing’s Impossible」へ。ギターの音には温もりを覚えますが、全体的なトーンはダウナーだし、ダークな演奏は機械的で無機質。聴いていると怖い感じがします。ホラー映画のようなインストゥルメンタル「Introspectre」を挟んで、マーティンの歌う「Damaged People」。メランコリックな歌はダンディで、それでいてどこか呪術的にも聞こえます。暗く冷たい演奏ですが1980年代のインダストリアルなアプローチやチープなシンセが聞けて、ダークで沈みそうになりながらも懐かしさを覚えます。「Lilian」は力強いビートを効かせるダンサブルな1曲です。メロディは暗いし歌も気だるげですが、演奏は結構ノリが良いですね。そしてラスト曲は「The Darkest Star」。ダウナーで無気力な演奏に、デジタルなノイズとアンビエント風の落ち着いた演奏が同居する、無機質で冷たい楽曲です。

 前作で一旦和らいだダークさが本作で再び舞い戻ってきました。前半はサウンド的に取っつきやすさも残していますが、後半は暗くて不気味です。

Playing The Angel
Depeche Mode
 
Sounds Of The Universe (サウンズ・オブ・ザ・ユニヴァース)

2009年 12thアルバム

 前作に引き続きベン・ヒリアーをプロデューサーに起用し、またデイヴ・ガーンも共作にて作曲を行っています。アナログシンセサイザーが活用されているのが本作の特徴で、マーティン・ゴアが様々なヴィンテージ機材をオークションで入手して試したそうです。アンディ・フレッチャー曰く、数日おきにスタジオに巨大な箱が届いたのだとか。

 「In Chains」はイントロを奏でた後に断絶があり、そこから本編でデイヴの歌が始まります。スローテンポですが歌唱は力強く、そして徐々に音数を増やして盛り上がっていきます。様々なサウンドが折り重なって、スペイシーな広がりある空間に音が賑やかに散りばめられたイメージです。続く「Hole To Feed」は野性味のある、躍動感溢れるビートが爽快。ノリの良いビートと力強い歌唱は中々キャッチーで良いですね。「Wrong」は冒頭から「Wrong」の連呼でビックリしますが、グルーヴ感溢れる演奏にロック的なパワフルな歌で楽しませてくれる良曲です。リズムパターンはヒップホップだし演奏はシンセバリバリなんですが、不思議とロック魂を感じます。「Fragile Tension」はメロディアスな歌をノリノリな演奏に乗せて届けます。ピコピコした演奏に、アクセントとしての歪んだギターがカッコ良く、魅力的な楽曲です。「Little Soul」はダークで憂いを帯びた1曲です。気だるげな雰囲気で進みます。ラストのギターは唐突ですが悪くない。「In Sympathy」はチープなシンセが懐かしい感じ。ですがピコピコした楽しげな音色とは裏腹に、ひんやりとした空間にメランコリックな歌が響いて、どこか切なさが漂います。「Peace」は古びたシンセが幾重にも重なり分厚い音の壁を作っています。デイヴの歌も重ねて重厚感があり、気が引き締まるような印象を受けます。「Come Back」は強く歪んだ音色がノイジーで、そしてそんな音に埋もれないようパワフルな歌を聴かせます。轟音ではありますが、それ以上にスペイシーでキラキラと瞬くような美しさが強く印象に残る良曲です。スペイシーでどこか寂しげなインストゥルメンタル「Spacewalker」を挟んで続く「Perfect」。メランコリックですが、そして瞬くように広がる幻想的なサウンドが心地良い。ゆったりと浸ることのできる1曲です。「Miles Away/The Truth Is」は跳ねるようなベースが印象的。ひねたポップセンスが妙に気持ち良く、中毒性があります。「Jezebel」はマーティンの歌うメロウな楽曲です。ビブラートのかかった切なげな歌声が染みますね。そして最後は9分に渡る「Corrupt」。序盤は変拍子にリズムチェンジを組み込んだ複雑な構成に驚かされます。中盤は淡々と進行しますが、時折ヘヴィでノイジーなサウンドが襲ってきます。本編は5分で終了して延々無音が続いた後、ラスト45秒ほどが恒例の隠しトラックで「Interlude #5」と題しています。チープなシンセが不気味な音を奏でて終わります。

 アナログシンセの温もりに加え、時折入るギターのおかげでロックしてる感の強い良作に仕上がりました。2000年代デペッシュ・モードの作品では一番好みです。

Sounds Of The Universe
Depeche Mode
 

2010年以降の活動

Delta Machine (デルタ・マシーン)

2013年 13thアルバム

 1993年以降4年に1作ペースを維持し続けているデペッシュ・モード。デイヴ・ガーン(Vo)、マーティン・ゴア(Key/Gt/Vo)、アンディ・フレッチャー(Key)のラインナップも安定していますね。プロデューサーにベン・ヒリアーを招いての3作目、通算では13作目となります。また『ヴァイオレーター』と『ソングス・オブ・フェイス・アンド・デヴォーション』を手掛けたフラッドがミキシングを行いました。

 オープニング曲「Welcome To My World」はメリハリのあるスリリングな1曲です。強烈な重低音が響き、時折ストリングスが焦燥感を煽ります。「Angel」は唸り声のようなソウルフルなデイヴの歌唱が特徴的。気だるげな曲調は途中からノイズの増加とともにテンポアップ。地味に癖になりそうな中毒性があります。「Heaven」はダークで物悲しい空気が漂います。底のない暗さで、強い哀愁を帯びたデイヴの歌メロと旋律が切ないですね。パーカッションがリードする「Secret To The End」はサビに向かってどんどん緊張感を高めていきます。そしてダークでスリリングな世界観を展開します。「My Little Universe」は淡々として無機質なサウンドが繰り広げられます。歌も大きな盛り上がりもないのですが、終盤は緊張が大きく増してスリリングに終わります。続く「Slow」はブルージーな楽曲です。レトロな渋いギターが聴けますが、シンセと同居する不思議な感覚。デイヴの歌は色っぽいですね。「Broken」はピコピコとチープな音を奏でますが、それでいてメロディは深みがあり、歌も落ち着いてメロウな雰囲気を出しています。憂いに満ちたメロディが中々良い。アンビエント風の静かな演奏にデイヴがメロディアスに歌う「The Child Inside」を挟んで、「Soft Touch/Raw Nerve」は躍動感のある1曲。落ち着いた楽曲が並ぶ中で突出して弾けています。賑やかなサウンドは何気にロック的な楽器も鳴っていて親しみやすさがあります。「Should Be Higher」はリズミカルな演奏と気だるげな歌が組み合わさって心地良さを作り出します。終盤に向けヒステリックになったかと思えば、サウンドは急に無機質さを増し冷たい印象へと変わります。そして「Alone」は不穏に蠢く重低音やひんやりとしたサウンドが焦燥感を煽ります。徐々にピコピコと楽しげな音色が加わってきますが、憂いを帯びた空気感は変わりません。続く「Soothe My Soul」はリズミカルなビートが特徴的。アンビエント風の落ち着いた演奏にミスマッチな、ノリノリのビートが牽引、サビでは強いグルーヴを聴かせます。ラスト曲「Goodbye」はブルージーな楽曲で、古くて懐かしい音を奏でるギターや渋みのあるデイヴの歌に対し、デジタルなシンセが絡んで不思議な感覚を与えます。

 再びダークさを増した印象。時折入るギターが温もりを与えますが、無機質で冷たいパートにはどうにも苦手意識があります。

Delta Machine
Depeche Mode
 
Spirit (スピリット)

2017年 14thアルバム

 1993年からは4年に1作ペースをずっと維持し続けており、そうすると次回作は2021年でしょうか?なんて期待していたら、4年後に新作が出ることはなく、そして2022年5月にアンディ・フレッチャーの訃報が。残念ながら本作がアンディの参加した最後の作品となってしまいました。
 プロデューサーには新たにジェームズ・フォードを起用。歌詞には政治的なテーマを取り上げ、怒りをぶつけています。

 アルバムは「Going Backwards」で幕開け。力強いビートとヘヴィなピアノがインパクトを与えます。ロック色が強く、重厚な雰囲気ながらも有機的で人の温もりを感じられます。続く「Where’s The Revolution」は前曲と逆に、無機質で淡々としたサウンドに冷たさを感じます。デイヴ・ガーンの歌は感情に溢れているんですけどね。そしてサビでは暴力的な轟音をぶちかましてきます。「The Worst Crime」は音数少なく静かな空間に物悲しいメロディが響き渡り、寂寥感に満ちています。退廃的でどうしようもない悲しみが襲ってきます。「Scum」はノイジーで攻撃的。なげやりな破壊衝動や絶望感が伝わってきますが、それでいて妙にノリが良いというギャップで楽しませます。続いて、重低音が強烈に響く「You Move」。楽曲の雰囲気は重ためですが、強烈なグルーヴと軽いリズムトラックがノリの良さを生み出しています。そして「Cover Me」はアンニュイな歌と浮遊感のある幻想的なサウンドが心地良く揺さぶってきます。中盤からはパーカッシブなリズムが加わるものの、サウンドの浮遊感は更に増し、宇宙空間を漂うかのような感覚を味わえます。「Eternal」ではマーティン・ゴアがボーカルを担当。シンセで彩っていますが、あくまでボーカルが中心。マーティンの歌をフィーチャーしてアカペラに近い楽曲ですね。「Poison Heart」はまったりとした曲調ですが、強烈なドラムをズシンと響かせ、聴く人を鼓舞するかのようです。「So Much Love」ジョイ・ディヴィジョン的な雰囲気があって個人的には一番良いと思った1曲です。緊張感に満ち、速めのテンポで展開される楽曲は焦燥感を煽ります。「Poorman」は淡々とした展開で、デイヴが気だるげに歌います。心地良さもありますが、蝕むかのようなノイズが不気味。そして「No More (This Is the Last Time)」は轟く重低音がダークな雰囲気を作りつつ、煌めくような音色が幻覚的な感覚を生み出します。最後はマーティンの歌う「Fail」。気だるげな演奏に合わせて強くビブラートする歌声を聴いていると、ゆったり漂うような印象を受けます。後半はピコピコした電子音が存在感を増し、強烈なインパクト。

 所々に救いはあるもののキャッチーな楽曲は無く、重厚でダークな楽曲が並びます。個人的にはピンとくる楽曲が少なかったです。

 何度か危機的な局面に陥ったものの、デペッシュ・モードは現在に至るまで一度も解散することなく続いています。2020年にはロックの殿堂入りを果たしました。

Spirit
Depeche Mode
 

アンディの死

Memento Mori (メメント・モリ)

2023年 15thアルバム

 マーティン・ゴアとデイヴ・ガーンの2名体制となったデペッシュ・モードによる、6年ぶりとなる最新作『メメント・モリ』。タイトルの意味は「いつか必ず訪れる死を忘れるな」といった意味ですが、2022年5月に逝去したアンディ・フレッチャーのことを指しているのでしょうか。アンディの死後にレコーディングされた本作、相変わらずのダークさです。

 アルバムは「My Cosmos Is Mine」で幕開け。電子的なノイズにまみれた無機質で脅迫的なサウンドをバックに、デイヴの暗くアンニュイなボーカルが響き渡ります。不気味でダークな楽曲です。続く「Wagging Tongue」はミニマルなフレーズとチープなシンセの音色が、旧き良きテクノポップ的な雰囲気を醸します。そんな演奏は明るいのに、陰りのある切ないボーカルによって虚しさで覆われます。このギャップがたまらなく良い。「Ghosts Again」はシンセベースの重低音が際立ちます。最初はチープな打ち込みといった感じですが、途中からEDMっぽさも加わり、分厚くてカラフルなサウンドに覆われます。重厚さを保ちつつも明るさも両立しているような感じ。「Don’t Say You Love Me」はメランコリックな3拍子を刻みながら、徐々にサウンドは脅迫的な雰囲気に変わっていきます。美しさとダークさを兼ね備えています。「My Favourite Stranger」は少しトリッキーなリズムパターンでフックをかけます。リズミカルかつ暗鬱な雰囲気の中、つんざくようなサウンドで閃光がほとばしるかのような感覚があります。続く「Soul With Me」は霊的な雰囲気のイントロから、マーティンの憂いに満ちた歌が始まります。心地良い気だるさと、モヤモヤしたやるせなさが入り乱れる感じ。「Caroline’s Monkey」は淡々としたデイヴの歌をはじめ暗く怪しげですが、低音を刻む無機質な鍵盤が妙に楽しげな感じがあります。サビ部分も打ち込みがリズミカルで、中毒性があります。「Before We Drown」は重厚さの中にピコピコと軽薄さがあり、重たいアルバムの中で数少ない救いを見出せます。歌は渋くも耽美です。「People Are Good」では電子的な響きを強調しています。明瞭なリズムビートによってメリハリをつけ、陰りはあるもののリズミカルで中々良い楽曲です。「Always You」はダークで耽美な歌をフィーチャー。重厚な空気だし反復する歌は強迫的ですが、ピコピコした軽い電子音が良いアクセントになっています。そして後半のハイライト「Never Let Me Go」。ダークさの中に躍動感があるのはバンドっぽいサウンドのおかげでしょうか。鋭利なギターと様々なシンセの音色の絡みも良いですね。最後の「Speak To Me」は再び重厚さが増したばかりか、終盤は不協和音のような音の壁が迫ってきて、非常にスリリング。最後にアルバムを引き締めるのでした。

 全編を通してダークな楽曲が詰まっていますが、後半は徐々に救いが見えてくるような気がします。時折ピコピコしたサウンドで緩急つけます。

Memento Mori
Depeche Mode
 
 
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