🇺🇸 Devo (ディーヴォ)

スタジオ盤②

アラン・マイヤースの脱退と低迷期

Total Devo (トータル・ディーヴォ)

1988年 7thアルバム

 前作『シャウト』の商業的失敗を受けて、レーベルもワーナーからエニグマ・レコードに移籍。そのせいもあってか、本作と次作はストリーミング配信していないようです(2021年4月時点)。30分ちょいの短いアルバムが多いディーヴォの作品において、本作は41分ながらディーヴォ最長の収録時間を誇ります。
 アラン・マイヤースの脱退後、後任ドラマーとして元スパークスのデヴィッド・ケンドリック(Dr)が加入しています。

 オープニングを飾る「Baby Doll」。金属的な質感を持つ強烈なビートで、アラン・マイヤース不在の穴を埋めます。ノリの良い演奏に乗せてダンディな歌唱を披露。終盤「Baby doll」を連呼するコーラスが耳に残りますね。続く「Disco Dancer」ではメリハリのついたドラムに加え、ギターが目立ってシンセとタメを張っています。小気味良いギターに、低音でミニマルなフレーズを反復するシンセが心地良いです。「Some Things Never Change」は変な効果音がこだまするイントロを経て、リズミカルな楽曲が始まります。パーカッションが小気味良いですが、歌メロは少しメランコリックというかどことなく哀愁を感じさせます。「Plain Truth」はエスニックなイントロに1980年代という時代を感じさせます。女性コーラスを入れたメロディアスな歌は、華やかさの中に憂いがあります。冒頭から爽快なドラムを響かせる「Happy Guy」は、少しトリッキーなリズムでフックをかけてきます。彼らの得意としてきたひねくれポップ要素が出てきた感じ。でも歌はコミカルではなく、普通にポップスしてます。「Don’t Be Cruel」はエルヴィス・プレスリーのカバー曲。ジェラルド・キャセールによるダンディな歌声がわざとらしくて、また「ドゥワッ ドゥワ」というダンディなコーラスも吹き出しそうになるのですが、メロディはポップで中々魅力的です。歌が終わった直後のドラム連打も爽快ですね。本作では一番良いと思います。「The Shadow」はイントロから力強くて、そしてシンセが派手派手。わざとらしいですが、目の覚めるような華やかさとキャッチーさを備えています。結構好み。「I’d Cry If You Died」はマリンバのような音色の鍵盤が心地良い。軽やかな鍵盤を中心に爽やかに聴かせた後は、「Agitated」。重低音を強烈に唸らせ、華やかなシンセで彩ります。リズミカルで分厚い演奏ですが、マーク・マザーズボウの歌は高音キーで突き抜けていて聴きやすいです。「Man Turned Inside Out」はミドルテンポで力強いビートを刻みます。チープな音色のキーボード、旋律がどことなく東洋っぽいような気がします。そして「Sexi Luv」はノリの良いビートにノイズのようなギターが絡みます。シンセや歌におふざけ感というかコミカルな感じがあって、中々楽しめます。疾走感溢れる「Blow Up」はイントロの電子ドラムから高揚感を煽ります。オルガンにシンセベース、シンセブラスなど賑やかな音色でノリの良い演奏を繰り広げます。歌はなんか変な感じ。ラスト曲は「Some Things Never Change (Cassette Version)」で、オリジナルより1分ほど長いようです。リズミカルな演奏が際立ちますが、グルーヴ感のあるベースも結構気持ち良いです。

 一部楽曲でギターが戻ってきたのがちょっと嬉しい。やや円熟味を帯びつつも、コミカルな楽曲も含まれていて結構楽しめます。

Total Devo
Devo
 
Smooth Noodle Maps (ディーヴォのくいしん坊・万歳)

1990年 8thアルバム

 この時点のメンバーラインナップはマーク・マザーズボウ(Vo/Key)、ジェラルド・キャセール(Vo/B/Key)(ジェリー)、ボブ・マザーズボウ(Gt)(ボブ1号)、ボブ・キャセール(Gt/Key)(ボブ2号)、デヴィッド・ケンドリック(Dr)となります。デヴィッドが参加した最後のオリジナルアルバムで、セルフプロデュース作。これまでとアプローチを大きく変え、ドラムはダンス色が薄れてハードロック的になり、またギターもこれまでにないくらい目立っています。
 邦題は『ディーヴォのくいしん坊・万歳』ですが、原題の『Smooth Noodle Maps』とはラーメンマップ等の食べ物のことではなくて、カオス理論などに関連した数学や力学の用語らしいです。

 オープニング曲は「Stuck In A Loop」。これまで強烈なダンスビートが特徴だったディーヴォですが、ドラムのアプローチが大きく変わった印象です。バスドラムを連打しますがあまりダンサブルではありません。またシンセサイザーが派手でわざとらしく、ソリッドなギターも商業的。1980年代ハードポップっぽい楽曲です。「Post Post-Modern Man」はリードシングルで、アルバムの評判の悪さに反してヒットしました。弾けるような感覚を持つ爽やかな楽曲です。ギター、ベース、ドラムが楽曲の軸を作るロックバンド的な感じで、良くも悪くもディーヴォらしくない楽曲に仕上がりました。続く「When We Do It」はダンサブルでノリの良い楽曲です。シンセとギターが掛け合いを行いますが、割合ハードポップ色が強い気がします。「Spin The Wheel」はソリッドなギターがイントロから活躍し、疾走感に溢れるハードな演奏を繰り広げます。派手な演奏に乗る少しシリアスなメロディも時代を感じさせます。「Morning Dew」はボニー・ドブソンというフォークシンガーの楽曲カバー。少し影があり重厚な雰囲気です。そしてエッジの鋭いギターが時折突き刺さります。「A Change Is Gonna Cum」はキャッチーで明るいハードポップ曲。力強いドラムをはじめノリが良く、そしてグラムメタル的なギラついたサウンドを聴かせます。続く「The Big Picture」はシンセが重低音を唸らせるダンサブルな楽曲ですね。クールに決めつつ、かと思えばお遊び要素もあったりと楽しめる楽曲です。力強いダンスビートが効いた「Pink Jazz Trancers」はタイトルに「Jazz」とあるように、間奏ではジャジーなピアノを聴かせますが、全体的にはダンサブルな楽曲。ノリの良いビートにメタリックなベースが響きます。でもメロディは少し影があるというか、ひんやりと冷たい質感も合わせ持っています。「Jimmy」は変なメロディでひねた感覚。変な楽曲だからこそディーヴォらしさを感じられます。そして「Devo Has Feelings Too」。本アルバムのタイトルはこの楽曲が由来で、歌詞の一説に「a smooth noodle map」とあります。どっしりとした演奏ですが、気づいたら終わっており、タイトルを背負うほどには目立たないかも。ラストの「Dawghaus」はノリノリのアップテンポ曲で勢いに満ちています。いくつかのフレーズを反復する鍵盤が耳に残りますね。楽しげな雰囲気です。

 シンセポップではなくハードポップ/産業ロックに仕上がった印象です。派手なサウンドですが、1990年という時代を鑑みても少し時代遅れな感があります。
 なお本作も商業的には失敗し、所属するエニグマ・レコードが破産・解散したことも受けて1991年にディーヴォは活動を休止しました。

Smooth Noodle Maps
Deluxe Edition 2CD
Devo
Smooth Noodle Maps
Devo
 

再始動

Something For Everybody (サムシング・フォー・エヴリバディ)

2010年 9thアルバム

 1991年から1996年にかけてディーヴォは活動を休止。その後は散発的に活動を行っていますが、アルバム制作に取り掛かったのは2007年頃からとなります。その間にデヴィッド・ケンドリックの後任ドラマーとしてジョシュ・フリーズ(Dr)を迎えています。
 実に20年ぶりの新作となる本作は、『シャウト』以来となる古巣ワーナーよりリリースされました。楽曲単位で異なるプロデューサーを起用していますが、メンバーはドラマー以外は変わらない布陣です。気合が入った1作で、往年の名盤にも引けを取らない出来の良さです。
 なおジャケットで女性が摘んでいるのは青いエナジードームで、バンクーバーオリンピックを機にテーマカラーを青に一新したようです。

 アルバムは「Fresh」で幕開け。ノリノリのダンスビートで、ブランクを感じさせないキレのある演奏を繰り広げます。力強くてエネルギッシュな楽曲で、耳に残るキャッチーな歌も含めて魅力的です。続く「What We Do」はダンスビートが強烈なグルーヴに満ちています。デジタル色強めですがそこまで違和感なく、コミカルに掛け合いを行ったり語感の良い歌も耳に残りますね。「Please Baby Please」はダンサブルな演奏にコミカルでアホっぽい歌が乗ります。楽器は時代に即した最新のデジタル機器を用いているものの、初期のようなひねくれポップなノリはそのままで楽しませてくれます。「Don’t Shoot (I’m A Man)」は切れ味抜群のノリの良い楽曲で、弾けるような強烈なビートが高揚感を煽ります。そして賑やかでコミカルな歌やおふざけ感のあるシンセが楽しい雰囲気を作り出します。ヤミツキになりそうな中毒性がありますね。「Mind Games」はレトロゲームのような音色のピコピコしたイントロから楽しい。歌も非常にキャッチーで、口ずさみたくなります。演奏もキレがあって魅力的です。続いて「Human Rocket」。歌は抑揚があまりないですが、せかすようにテンポの速いビートが勢いよく楽曲を牽引します。「Sumthin’」も勢いや躍動感に満ち溢れています。ノリの良い演奏に、時折弾ける炸裂音が爽快。アルバムタイトルの『Something For Everybody』を連呼する歌もキャッチーです。ダンサブルな「Step Up」は強烈なビートに乗せて、ハードなギターやピコピコシンセが賑やかに盛り上げます。そして「Cameo」はひねた歌メロが特徴的。ソリッドなギターが楽曲を引き締めますが、ノリの良いドラムやおふざけ感のある歌が緊張を緩ませ、楽しませてくれます。「Later Is Now」はピコピコスペイシーな音色から、ダンスビートが絡んで盛り上げていきます。歌も明るい雰囲気。ノリの良いアルバムですが、「No Place Like Home」では一転してしっとりとしたピアノイントロを聴かせます。これが実に変な楽曲で、湿っぽく聴かせるのかと思えば場違いなダンスビートで盛り上げ、でも哀愁のピアノ&歌メロはそのまま継続というチグハグ感たっぷりなんです。こういうひねた楽曲こそディーヴォの真骨頂でしょう。ラスト曲「March On」はピコピコとスペイシーで希望に満ち、でもメロディアスでもあります。1980年当時の「明るい近未来像」的な感覚を、最新機器で表現したような感じ。良い楽曲です。

 初期の馬鹿っぽいノリを残していて、それでいて演奏はキレがあってダンサブル。ノリが良くて楽しいアルバムです。20年のブランクを感じさせない良質な名盤に仕上がりました。
 最初のドラマーであるアラン・マイヤースが2013年に、またボブ2号ことボブ・キャセールが2014年に相次いで病死。その後はボブ2号の後任としてジョシュ・ハーガー(Gt/Key)を迎え、ライブやドキュメンタリー映画制作など活動を続けています。

Something For Everybody
Devo
 
 
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