🇯🇵 GARNET CROW (ガーネット・クロウ)

スタジオ盤②

中期 (2005年~2009年)

THE TWILIGHT VALLEY

2006年 5thアルバム

 前作『I’m waiting 4 you』と初のベスト盤『Best ~Best Selection 2000 to 2005~』が総決算だったのか、本作から路線が変わります。そのため初期と中期の境目はここにあると思います(1stと2ndのみを初期と呼ぶ原理主義者もいますが笑)。

 最初期の繊細な歌い方はライブではか細く、徐々にライブを意識した力強い歌唱に変わっていきますが、本作から次作にかけては張り上げるような歌唱が際立ちます。これが個人的には少し苦手。
 通称『トワバレ』と呼ばれる本作は、全オリジナルアルバムで収録曲数最多、最長、更に全キャリア中最もヘヴィでダークな1枚です。個性の強い楽曲群が並びますが、自己主張の強い楽曲の並びは、豚骨ラーメンを食べた後にカレー、〆に焼肉…くらいの胃もたれしそうな構成。嫌いではないですが少し苦手な作品です。なお旧来のファンからは不評ですが、アニメ『メルヘヴン』のタイアップによるキャッチーなシングル曲の数々は、新規ファン層の獲得に貢献したようです。
 
 
 オープニング曲「Anywhere」。ダークでヘヴィなサウンドに、中村由利の力強い歌唱が突き刺すように響き渡ります。メロディの展開が独特です。また「愛したい?愛さない?愛せないの…」をはじめ、AZUKI七による歌詞の三段活用(?)が印象的ですね。
 続く「まぼろし ~Album arr.~」はミゲル・サ・ペソアによるアレンジ。霊的な雰囲気とアコギの生々しさのバランスが取れた原曲は、打ち込みドラムという唯一の難点を除けばとても高いクオリティでしたが、パーカッションに重点を置いた本作のアレンジは原曲の魅力を損なっている気がします。原曲のドラム差し替えだけのアレンジで良かったんや…。
 「今宵エデンの片隅で」は爽やかで瑞々しいので、この重たいアルバムの中では異彩を放ちますが、それが救いでもあります。AZUKIの軽やかなピアノ伴奏を引き立てる、岡本仁志のノイジーなギターと、ダンサブルな打ち込みサウンド。アップテンポのキャッチーな曲調は、途中から古井弘人のシンセも加わってカラフルな印象です。更にAZUKIにしては割と珍しく(?)、はっちゃけていて直球な愛を歌う歌詞で高揚感を煽ります。ライブではラストやアンコールを飾るという欠かせない定番曲で、観客との掛け合いも交えて会場を大いに盛り上げてくれる1曲です。
 「Rusty Rail」は前曲とは対照的に、セピア色やモノクロの似合う楽曲です。焦がれるような哀愁漂う歌唱が切ないですが、歌声にあまり艶がないのが少し残念だったりします。
 「夢・花火」はラテン調のロックナンバーに和風な歌詞が乗った楽曲で、音楽的に異なる組み合わせですが意外とマッチしていて、とてもカッコ良いのです。影のある和風ロックで痺れます。GARNET CROWのラテンロック系統の楽曲群では一番良い出来ではないでしょうか。なおAZUKIの案ではイントロかアウトロに般若心経を入れるという構想があったようで(怖がった中村により却下)、今より更にダークさが増しそうな般若心経バージョンも聴いてみたかったです。
 「かくれんぼ」はタイトルとは裏腹に、リアル鬼ごっこ的なホラー感のある不気味な歌詞です。前曲の般若心経のエピソードもそうですが、AZUKIのダークな側面が表れています。サウンドも中々にヘヴィで、アコギの裏で古井のオルガンが唸ります。
 続く「向日葵の色」はゴッホの『ひまわり』を題材にした歌です。強烈な悲壮感が漂うサウンドと、救いのないダークな歌詞・メロディ。どうしようもなく重たいのですが、自殺という最期を遂げたゴッホの苦悩を表しているのかもしれません。これを聴いてゴッホの『ひまわり』を見たくなった方は、新宿にある東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館へどうぞ。
 ここまで重たい楽曲が並びましたが、「晴れ時計」で一旦休憩。爽やかでキャッチーさに溢れる1曲です。イントロから岡本の晴れやかなエレキギターが冴え渡ります。ポップな曲調に合わせて中村の歌声も明るく、コーラスワークも相まって高揚感を煽ります。
 続く「マージナルマン」も一見明るい曲調ですが、サビには哀愁が漂います。ちなみに「マージナルマン」を辞書で引くと、複数の文化圏に所属しながらも、いずれのグループにも完全には溶け込めない人を指すようです。そんな哀愁が表れているのでしょうか。
 続いて雰囲気が一変する「籟・来・也」。これは「らいらいや」と読みます。スケール感のある歌詞に、演奏には民族楽器ケーナを採用するなど、異色の試みがされた楽曲です。雰囲気は中島みゆきにも通じるような。ただ個人的にはGARNET CROWのシングルの中では最も苦手なワースト1です。
 「Yellow Moon」は3連符のリズムで刻むダークなハードロック。中村の張り上げるような歌い方は正直キツいですが、ダークでヘヴィな演奏陣はカッコ良く、そしてメロディアスでもあります。ドラムが好みだったり。
 「もうちょっとサガシテみましょう」はアップテンポのサウンドと軽やかな歌詞にポップさがあります。でも中村のキンキンと力強い歌唱がポップな楽曲にまるで合っておらず、魅力を打ち消してしまっているのが残念。初期のように声量控えめな代わりに多重コーラスで補うような、そんなアレンジならもっと映えたのでは…などと考えてしまいます。
 個人的に少し苦手な楽曲が続きましたが、ここで登場する「春待つ花のように」がとても良い出来です。GARNET CROWお得意の王道バラードで、イントロのギターから惹き込まれます。シェークスピアの『ハムレット』を題材にした悲哀に満ちた歌詞。華やかでメロディアスな展開に、力強くも憂いを感じさせる歌唱。コーラスワークも美しいです。
 ラスト曲は「WEEKEND」。「Rusty Rail」といい「WEEKEND」といいX JAPANっぽいタイトルですね。笑 悲しいながらも華やかな前曲に比べると、地味というか孤独感を強調するような感じがします。夕暮れから夜へと変わる瞬間を表した「ネイビーブルーへ空が変わる WEEKEND」というフレーズが妙に印象的です。アルバムジャケットのオレンジもこの曲のイメージでしょうか。
 
 
 「GARNET CROWはダーク」という世間のイメージに従ってダークさを突き詰めたようなことを、メンバーがコメントしていた気がします。ただ、繊細でメランコリックな初期作品のダークさとは異なり、本作では力強さと強烈な哀愁、それに程良いキャッチーさをブレンドしたダークさです。そんな趣向の変化が、旧来のファンの反発と新規ファンの獲得を両立したのでしょう。
 個人的には少し苦手意識はあるものの、ライブに必須の定番曲も生まれるなど個々の楽曲には光るものがあります。

左:初回限定盤。プレミアムライブの模様をダイジェストで収録したDVDが付属します。CDが売れない時代に突入した当時の潮流に従い、GARNET CROWも本作より複数商法に手を出すことになります。しかし複数商法も虚しく、本作の売上は前作割れだったとか…。
右:通常盤。

THE TWILIGHT VALLEY
初回限定盤(DVD付)
GARNET CROW
THE TWILIGHT VALLEY
通常盤
GARNET CROW
 
LOCKS

2008年 6thアルバム

 中期GARNET CROWで最も好きなシングル2曲と、キャリア通してワーストクラスに苦手な2シングルが両立した、個人的には好き嫌いの混在する作品です。それでも数少ないアップテンポ寄りの作品ということで重宝していたのですが、その地位は8thアルバム『parallel universe』に譲ることになり、最近はあまり聴かなくなったのが正直なところ。
 奇しくも『メルヘヴン』のタイアップが終わって『名探偵コナン』のタイアップが復活した頃から、中村由利の歌唱スタイルに変化が見られます。一時期喉を痛めて上手く歌えないストレスを抱えていたようで(「涙のイエスタデー」のカップリング曲のコメントで述べていました)、そこからの復帰で歌唱スタイルがまた変わったのか、ここから第2の全盛期に向けて動き出します。…が、本作では歌唱スタイルが変わる前の楽曲も多く残っています。
 本作ですが、リスナーと自分たちの音楽が繋がれるように”Lock”をかけるという意味と、”6″枚目という語感の良さから『LOCKS』というタイトルになったようです。また、AZUKI七のピアノや古井弘人のシンセといった鍵盤陣よりも、岡本仁志のギターの比率が高い本作は、やや”ロック”色が強い印象です(ベースもドラムもいないですけどね)。
 
 
 オープニングを飾る「最後の離島」は、爽やかなアコギとピアノから始まります。この音色がとても気持ち良い。ドラムの音にも爽快感があります。本アルバムが「ピュア」や「エバーグリーン」をテーマとしたそうですが、そんなテーマを再現した楽曲でしょう。また力強い歌唱はそのままに、サビではコーラスを用いて当たりを柔らかくしています。アコギの印象が強いですが、間奏のエレキギターも中々捨てがたい。
 続いて、久々の『名探偵コナン』のタイアップを果たした「涙のイエスタデー (album ver.)」。この楽曲で昔のGARNET CROWが戻ってきたと、嬉しい気持ちになった当時を思い出します。イントロの徐々に盛り上がって高揚感を煽る感じは、古井の編曲の賜物ですね。アルバムバージョンでは頭サビという良アレンジが加えられ、キャッチーで魅力的なメロディの良さを更に引き立てます。ダンサブルでポップなアップテンポの名曲ですが、当初案では金魚をモチーフにしたバラード曲だったらしいです。ちなみにPVはビートルズも出演したエド・サリヴァン・ショーのパロディだそうで、タイトルのイエスタデーも含めビートルズのオマージュを思わせます。
 続く「世界はまわると言うけれど」、これは全キャリア通して10本の指に入る名曲だと思っています。幻想的なサウンドに乗る中村の気だるげな歌は、無力感のある歌詞と合わさって哀愁が漂います。ゆったりとしたサウンドや浮遊感のあるコーラスによって、音の海に浸るような心地良い印象。初めて聴いたのが仁和寺ライブだったためか個人的にライブのイメージが強く、聴くたびにサイリウムの光の海だったり、そこから連想して満天の星空を想起させます。またライブだとキーを下げていますが、原曲よりもキーを下げたライブアレンジの方が好みで、しっくりきます。
 「もう一度 笑って」はギターが前面に出た楽曲。メロディは良いのですが、鍵盤よりもギターに主軸をおいたアレンジにやや物足りなさを感じるのか、楽曲自体の印象は薄いです。子猫の出てくるPVは可愛らしいんですけどね。
 「この手を伸ばせば (album ver.)」は残念ながら個人的にはGARNET CROWのシングルではワースト2。ロッカバラードですが、単調なメロディに加えて中村の張り上げるような歌い方がどうにも苦手です。挙げ句に最後でボーカルがギターとバトルしていてますし…。しかしライブでは岡本が甘くまろやかな歌声でこれをカバーし、歌い方ひとつで意外な魅力に気付かせてくれました。
 「doubt」はヘヴィで荒々しい楽曲。中村の張り上げるような歌はAZUKIの歌詞と合わさって、ヒステリックに怒りをぶつけるかのような印象です。あまり好きではなく敬遠していたのですが、改めて聴くとベースがとてもカッコ良いんですね。
 「風とRAINBOW」はラテン系ロック路線の第3弾。パーカッションや軽快なギターでノリの良い1曲です。少し「ルパン三世のテーマ」にも似てますね。なお「この手を伸ばせば」と両A面シングルだったのですが、どちらもそんなに好みではなく、むしろ本作未収録の名カップリング曲「廻り道」の方が圧倒的に好みだったりします…。
 続く「ふたり」は古井がローリング・ストーンズを意識したという楽曲。この曲を聴いてしばらく後にローリング・ストーンズを開拓して、ストーンズを好きになっていくにつれてこの楽曲も好きになるという、不思議な相乗効果によって個人的に好みの1曲です。そしてこの楽曲、聴けば聴くほど見事にストーンズっぽい軽快なノリとサウンドを再現していることに感服するのです。ギターを前面に出したことが功を奏しています。歌においてはサビ前の「同化してく… いいよね」から続く掛け合いが印象的。
 「Mr.Holiday」はポップでリズミカルな楽曲。歌詞も歌い方も含めて可愛らしい感じがしていて、ポップなサウンドとマッチしてウキウキとした気分にさせてくれます。ライブでは振付が付いているという。
 「The first cry」はGARNET CROWらしいダークな1曲で、メンバーもお気に入りだとか。少しブルージーなギターとオルガンが渋い雰囲気を出し、更に後半ではフュージョンバンドDIMENSIONの勝田一樹によるメロウなサックスが響き渡ります。メランコリックな歌声で紡ぐ歌詞は、キューバの革命家チェ・ゲバラのことを歌っているのだそう。哀愁が漂いますが、渋くてカッコ良いです。
 ラスト曲は「Love is a Bird」。柔らかいサウンドとコーラスによって浮遊感に溢れています。さらに中村自身による多重コーラスによって、サビでは祝福してくれるかのような感覚に陥ります。これが鳥肌もので、本楽曲の一番の魅力でしょう。
 
 
 私は序盤と終盤が大好きで中盤はそうでもないという印象で、両極端な作品です。軽快な作風なので、さらっと聴くのに向いているかと思います。

 そして複数商法はついに3種類に…。
左:初回限定盤A。DVDが付属し、仁和寺で行われたライブのうち3曲が収められています。しかしこの後に仁和寺ライブのDVDが別で出ているので、マニア以外は不要かも。
中:PVを収めたDVDが付属する初回限定盤B。本作からジャケットアートにセンスが出てきた気がします。
右:通常盤。これまでのように4分割のレイアウトに4人の写真を並べただけ…。

LOCKS
初回限定盤A(DVD付)
GARNET CROW
LOCKS
初回限定盤B(DVD付)
GARNET CROW
LOCKS
通常盤
GARNET CROW
 
STAY ~夜明けのSoul~

2009年 7thアルバム

 久々に副題を冠した本作。リリースイベントで岡本仁志が「前作はシーザーサラダで今作は牛すじ煮込み」というような表現をしていましたが、じっくり作り込まれて重厚感のある作風の本作は、アルバムとしての完成度が非常に高い大傑作です。中村由利の歌唱スタイルも、張り上げるような歌唱だった前作・前々作とは違って、力強くも色気を纏ってとても魅力的なものになり、本作でGARNET CROWの第2のピークを迎えたという印象です。
 なおこの頃既にレーベル1の稼ぎ頭になっていて(売上は多くないですがレーベルが弱小ゆえ…)、レーベルを背負っているからかインストアイベント等の活動が積極的になっていきます。ライブ活動も積極的に行っていて、特に2009年~2010年にかけては、10周年という節目も重なりイベント盛り沢山でした。
 
 
 本作は「Hello Sadness」で開幕。AZUKI七によって名付けられたタイトルはサガンの『悲しみよ こんにちは』からだそうです。イントロから終始シンセを中心としたゴージャスでダンサブルなサウンドで、古井弘人の独壇場ですね。笑 歌はメロディアスでじっくり聴かせますが、サビでは畳み掛けるように圧倒して焦燥感を煽ります。中村の艶のある歌声はとても魅力的で、またコーラスワークにより浮遊感を出す手法により力強い歌唱を和らげます。パンチの効いたオープニング曲で掴みはばっちりです。
 続く「百年の孤独」は貫禄を感じさせる1曲。ヘヴィで重厚感に満ちたイントロが終わると、アコギとピアノが暗鬱な雰囲気を作り、哀愁たっぷりのサビへ。力強いドラムが下支えしているのもあってかサウンドは全体的にかなり重たい仕上がりですが、ファルセットを効果的に用いる中村のメランコリックな歌声が、GARNET CROWたらしめています。最後にテンポアップして、だれないように終わります。ちなみに焼酎にも「百年の孤独」という銘柄があるそうな。
 「花は咲いて ただ揺れて ~album ver.」も悲哀に満ちた重たい1曲。この楽曲はベースラインがとても魅力的なのです。悲壮感を煽るストリングスや、アクセントとして入るアコギの音色、間奏の色鮮やかなシンセや泣きのエレキギター等も良いのですが、サウンドにおいてはベースが大きな魅力を作っていると思います。ドラマチックな歌メロも、焦がれるような中村の歌唱も相まってやはり悲壮感が漂います。
 「Elysium」もドラマチックでメロディアスな1曲です。サウンドでは古井のシンセが活躍して音色はカラフルなのですが、全体を覆うのは憂鬱な空気。「会いたい気持ちだけを抱いて 君のいない街で暮らし続ける」のフレーズが秀逸で、そして切ない。岡本による間奏の泣きのギターや、終盤の転調も、強い哀愁を誘います。
 前半4曲ではじっくり聴ける重たい楽曲が続きましたが、5曲目「Doing all right」は軽快で爽やか。アルバムの並びだとここで一旦救われますね。軽やかなエレピとギターに加えて、クイーンの「We Will Rock You」ばりの「ズンズンチャッ」というリズムが特徴的。新たなライブの定番曲にもなりえたと思うんですが、ライブでのお披露目は本作のツアーだけでした。メロディが少し弱いからでしょうか?
 「ON THE WAY」は疾走感のある1曲。グルーヴ感のある強靭なベースとリズミカルなドラムを中心に、ピアノやシンセ等が彩るサウンドは小気味良いです。しかし疾走感はあるもののそこまで明るいわけではなく、メロディには憂いを帯びています。サビでトーンが上がらずに一旦落とすのが少し珍しいですね。
 そして表題曲「Stay」。ピアノとベースを軸にしたシンプルなサウンドをバックに、中村の歌声をフィーチャーした名曲です。2番では強靭なベースと力強いドラムがどっしりと支えます。そしてこの楽曲の最大の魅力はサビの歌メロで、独特なメロディを歌い切る中村の歌唱は鳥肌ものです。本作の副題にもなった「夜明けのSoul」はこの楽曲の歌詞ですが、この楽曲でアルバムに夜明けが訪れたのか、ほのぼのとした次曲へ繋ぎます。このアルバムの流れが素晴らしい。
 「日々のほとり」はアコーディオンが印象的な、牧歌的でほのぼのとした楽曲です。コーラスワークも包容力があって、柔らかい日光のような温かさを感じます。でもメロディはどこか哀愁に満ちているという。単曲なら見落としてしまいそうな少し地味な楽曲ではありますが、アルバムの流れの良さで楽曲の持つ魅力を倍増させています。
 続くのは「夢のひとつ」。GARNET CROWの得意とする失恋バラードです。AZUKIの歌詞が素晴らしく、「なくして気づいてまた淋しがる」だとかグサリと刺さるフレーズ満載で、歌詞カードを眺めているだけでも目頭が熱くなります。メロディアスな歌を歌い上げる中村の切ない歌唱、中村の感情の高ぶりと合わせるかのようにドラマチックに盛り上げてくるサウンド、これらが一体となって涙を誘います。切ない1曲です。
 そして一転して疾走曲「Fall in Life ~Hallelujah~」。ライブの定番で、GARNET CROWの疾走曲ではダントツの名曲です。イントロから爽快な岡本のギターや、マッチョなベース、スコンと抜けるスネアが気持ち良いドラム。更にキャッチーな歌メロに、無邪気で弾けた感じの歌詞がサウンドにマッチして、聴いていると走り出したくなります。清涼飲料水のような、爽快感の塊のような名曲です。
 「Rainy Soul」は湿っぽくてダークな楽曲。ラスト直前はじっくり聴かせる名曲が配置されることが多いですね。序盤のドラムやアクセントとして入るピアノは雨音を表現しているかのよう。そして憂いを帯びた歌声がじんわりと染み渡ります。憂鬱な楽曲ですが、鳥肌が立つようなサビメロをはじめ、とても美しいです。
 そして切ないラスト曲「恋のあいまに」。どこかピンク・フロイドの名曲「Comfortably Numb」にも通じる雰囲気。幻想的で浮遊感のあるキーボードが儚さを増長し、メランコリックな歌を引き立てます。メロディと歌声の美しさもさることながら、一番の聴きどころは岡本の泣きのギターが奏でる鳥肌もののアウトロ。GARNET CROWの全楽曲で最も美しいアウトロを持つ1曲だと思っています。大名盤の最後は名フレーズで締め括るのでした。
 
 
 初回限定盤Bにのみリミックス楽曲を収録したSPECIAL CDが付属。
 「Stay -yoake ver.-」は池田大介編曲で、彼の得意なストリングスが使われ、歌を引き立てます。でも原曲と異なり力強いドラムと強靭なベースが不在なのが、なんか地に足着かない感じでイマイチです(途中から加わるものの存在感は弱いです)。
 「花は咲いて ただ揺れて -silent poet ver.-」はピアノ弾き語り。美しくも重苦しいピアノが、哀愁たっぷりの歌を引き立てるアレンジが見事で、原曲とは異なる魅力を放ちます。SPECIAL CDではこれが聴きどころでしょう。
 続く「Rainy Soul -Closer Soul’s Disco Remix-」はダンスミックスで、重厚な原曲とは全く別物に仕上がっています。グルーヴ感抜群のサウンドで、憂いのある歌にもエフェクトをかけています。歌詞を意識すると抵抗感はあるものの、ダンス曲としては実は結構好みです。笑
 最後に「百年の孤独 -the clouds break ver.-」。アコースティック主体の軽めのサウンドなのに、不思議と原曲の持つ重厚な雰囲気は失われていません。
 
 
 アルバムトータルでのクオリティの高さは全キャリア通しても屈指で、個人的には最高傑作『SPARKLE ~筋書き通りのスカイブルー~』にも負けず劣らずの大傑作だと確信しています(件の作品に強烈な思い入れ補正さえなければ、本作こそが最高傑作と言えます)。とても自然なアルバムの流れによって、単曲なら埋もれてしまうような楽曲もそのポテンシャルを最大限に引き出しています。飛び抜けた1曲がない代わりに全曲の水準が非常に高いという印象を持ちます。重厚感があって、じっくり聴くのに適した作品です。

左:PVを5曲収めたDVDが付属する初回限定盤A。
中:SPECIAL CDが付属する初回限定盤B。個人的にはGARNET CROWの全作品で最も好みのジャケットです。撮影場所は和歌山県にあるマリーナシティだとか。
右:通常盤。相も変わらず4分割のレイアウトに4人の写真を並べただけ…ですが、タイトルロゴのセンスに少し進歩が見られる気がします。

STAY ~夜明けのSoul~
初回限定盤A(DVD付)
GARNET CROW
STAY ~夜明けのSoul~
初回限定盤B(SPECIAL CD付)
GARNET CROW
STAY ~夜明けのSoul~
通常盤
GARNET CROW
 

後期 (2010年~2013年)

parallel universe

2010年 8thアルバム

 GARNET CROWの中期と後期の境目はファンによって異なるかと思います。前作から続く10周年の各種イベントの最後に突如ポーンとリリースされた本作は、中期の延長なのか後期突入と考えるか難しいところですが…。2つ目のベスト盤リリースという節目の前後の作品であることと、ベスト盤以降シングルをほとんどリリースしなくなったという行動面の変化から、7thと8thの間に中期と後期の境があると考えました。シングルを出さなくなったのはライブ主体の活動に移行した弊害か、解散を意識した活動意欲の停滞か、果たして…。

 GARNET CROWはシングル「Over Drive」で初めて映画(『名探偵コナン 天空の難破船』)のタイアップを果たしますが、これが相当に難産だったようで、何度も作り直しさせられた旨をメンバーがコメントしています(その甲斐あってシングルでは自身最高位の4位を記録)。そんな「Over Drive」を引っさげた本作はボツ曲と思しき楽曲がいくつも収録されていて、オリジナルアルバムに見せかけたアウトテイク集か…と期待値を下げて聴くとびっくり。何故これが採用されなかったのだろうという名曲ばかりで、相当クオリティの高いアルバムに纏まっています。そんな本作は『パラユニ』という愛称で親しまれています。
 『SPARKLE ~筋書き通りのスカイブルー~』のように明るい爽やかな雰囲気で、晴れ渡る青空のよく似合う作品です。ジャケットアートとタイトルにも示されるような、明るく華やかな世界と荒廃した世界のパラレルワールドを行き来するかのように、爽やかな楽曲群の中に時折ダークさが垣間見えます。
 
 
 アルバムは「アオゾラ カナタ」で開幕。これが素晴らしい楽曲で、歴代ナンバーワンのオープニング曲だと思っています。アルバム曲としても1、2を争う出来の良さ。幻想的な鍵盤とストリングスに彩られたイントロと頭サビから、Aメロに移る際にリズム隊が加わって雰囲気が変わります。くどくならない程度に色とりどりの音色が、明るく爽やかに楽曲を盛り上げます。さすが古井弘人のアレンジの賜物ですね。また中村由利の優しく見守るような歌唱は、サビでは開放的だけどほんのりと哀愁が漂います。美しいメロディラインと歌声に、AZUKI七の親しみやすさを出した歌詞が合わさって、とても魅力的な楽曲に仕上がっています。お出掛けにぴったりの1曲です。
 「As the Dew ~album version~」はベスト盤収録曲のアルバムアレンジ。原曲はジャジーで強烈なグルーヴ感を持つ洒落た楽曲でとてもカッコ良かったのですが、本作でのジャズ色を少し薄めた無難なアレンジは原曲の魅力を落としてしまって少し残念(それでもカッコ良いですけどね)。ただ原曲はかなり個性が強いため、本作に馴染ませるには大人しめのアレンジが合っているのかもしれません。
 「Over Drive」は冒頭で述べたとおり、このアルバムのキーとなる楽曲。ゆったりと始まり徐々にテンポアップしていきます。晴天がよく似合う歌詞と、開放的でキャッチーなメロディが魅力的ですね。一部、山下達郎の「クリスマス・イブ」っぽいですが、本人も意識してたかライブでは歌詞を間違えているという。
 「tell me something」は「上空、舞う者達よ」というキーワードや楽曲の雰囲気とか、前曲のプロトタイプ臭がプンプンします。でも前曲より劣ってるということはなくて、こちらは岡本仁志の爽快なギターが前面に出ていたり、歌い方のせいか可愛らしさが感じられたりと、違った魅力を見せてくれます。多重コーラスなど浮遊感のあるアレンジは初期楽曲のような懐かしさを覚えます。
 続く「迷いの森」で少し影を感じさせます。エコーをかけたボーカルや多重コーラスによる幻想的な感覚は、ダークな雰囲気の中にも柔らかさがあって、とても心地良いです。1stの頃のような作りに近いような。岡本のギターが良い味を出しています。
 「空に花火 ~orchestra session~」はオーケストラと共演したライブが契機で実現した、藤原いくろうによるオーケストラアレンジバージョン。原曲は編集盤『All Lovers』に収録されていますが、この原曲をほとんど聴いておらず、個人的には本作収録版こそオリジナルな印象です。儚げなバラード曲をオーケストラが彩ります。中村の歌い方は力強くも艶があって、オーケストラに埋もれず、でも悪目立ちせずに馴染んでいます。アウトロのギターも素晴らしい。
 「渚とシークレットデイズ」は、アイドル全盛期の邦楽シーンに触発されて可愛らしい楽曲を目指して作ったのだとか。でも出来上がった楽曲はひと昔前の邦楽のようで、古臭さがあるというかズレているのがGARNET CROWらしいです。
 ここからはお得意のダークモードに突入。「The Crack-up」はGARNET CROWの10本の指に入る名曲だと思っています。イントロから歌の始まりに向けどんどん落ちていき、切ない気分にさせます。でも哀愁漂うこのメロディラインがとても魅力的。抽象的でスケールの大きい歌詞はよくわかっていないのですが、サビで切実に訴える強い説得力のある中村の歌唱に、不思議と切ない気持ちを共有させられます。また間奏での岡本の泣きのギターも胸に刺さる刺さる…。ちなみに中村は鼻風邪を引いていたようで、部分的に少し歌唱が苦しそうです。
 続く「strangers」も名曲。楽曲はダウナーな雰囲気で淡々と進行するのですが、AZUKIによる、神戸や横浜などの港町を想起させる歌詞が強い魅力を放つからでしょうか、好んで聴いていました。旅のお供によく聴いていたこともあって、この曲を聴くと旅先の情景が目に浮かぶという、思い出と密接した思い入れの強い1曲です。
 ラスト曲「今日と明日と」。サビへの展開が少し強引な楽曲。昔どこかで見かけたこの楽曲の替え歌「京都 奈良と 大阪 名古屋 繋ぐ電車は近鉄でしょう」(だったかな?)が妙に頭に残って、聴くたびにこの替え歌を思い出します。

 通常盤にのみボーナストラック「Over Drive ~theater version~」が付きます。原曲冒頭のゆったりとしたパートがアカペラに変わっているというアレンジで、こちらの方がしっくりきます。
 
 
 どことなく初期のような作風が戻ってきたような印象。晴天のよく似合う明るいアルバムで、外出のお供にぴったりの名盤です。「アオゾラ カナタ」、「The Crack-up」、「strangers」という歴代でも屈指の名曲が揃っています。GARNET CROWの解散後で一番多く聴いているのが本作で、とても大好きな作品です。

左:DVDが付属する初回限定盤。『GARNET CROW Symphonic Concert 2010 ~All Lovers~』のうち3曲の映像が収録されています。なおジャケットは通常盤と対になっていて、どこでもドアのような扉を境に、荒廃した世界と、花畑の広がるカラフルで華やかな世界になっています。
右:通常盤。ジャケットに描かれる扉の向こう側は初回限定盤の荒廃した世界でしょうか。なお通常盤にのみ、ボーナストラック「Over Drive ~theater version~」が付いてきます。

parallel universe
初回限定盤(DVD付)
GARNET CROW
parallel universe
通常盤
GARNET CROW
 
メモリーズ

2011年 9thアルバム

 アルバム名が英語じゃないことをはじめ、いくつかの要素が解散を示唆しているのではないかという噂も立っていました。結果的に次作でラストアルバムになったことやメンバーのコメント等から、この時点で既に解散は考えていたものの東日本大震災を受けて解散を先延ばしにした、という線が濃厚です。
 アルバムトータルで見ると、他の作品に比べてやや散漫な印象は否めません。しかし冒頭3曲の求心力・密度がとても高くて、短い時間で心を一気に充電したいときに聴くことが多いです。メンタルが落ちているとき、真っ先に手が伸びる作品です。
 
 
 オープニングを飾る「Smiley Nation」は、東日本大震災の後にリリースされたシングル曲。辛い気持ちを吹き飛ばそうという「笑顔」をキーワードに、突き抜けて明るく軽やかな曲調で、聴く人を励ましてくれます。キャッチーなサビは弾けるような感じで元気を与えてくれる。疲れたときにこの楽曲を聴くと、これがよく効くんです。次曲と合わせて、急速にエネルギーを注入してくれるかのようです。
 続く「live ~When You Are Near!~」は、GARNET CROWでは初めてかつ唯一の、カップリング曲からのオリジナルアルバム起用。イントロからダイナミックなドラムとうねるベース、そして岡本仁志のギターが爽快です。無邪気で可愛らしい歌詞に、初期の楽曲のような懐かしさを覚えます。密度の濃いサウンドですが、底抜けに明るくて元気をくれるチアフルな1曲で、キャッチーな歌も口ずさみたくなります。
 そして「JUDY」は底抜けに明るいアップテンポ曲の前2曲とは一転して、お得意の重厚な王道バラードをじっくりと聴かせます。音の海に浸るような感覚に陥りますが、アルバムの流れで聴くと、汗を流した後に温泉にゆったり浸るようなイメージ。冒頭3曲セットで聴くことで、気持ちをリセットして疲れを癒すことができる気がします。なお本楽曲は漫画家の夏目ひららとコラボしたPVが特徴的ですが、歌詞の解釈を人に委ねるスタンスのAZUKI七にしては珍しく、本作はカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』にインスピレーションを得た旨を後からコメントしています。PVでイメージが固定化されることを避けようとしたのか、自分の意図と違うことへのささやかな反抗か…。
 続いてデジタルロックへ挑戦した「Misty Mystery」。中村由利いわく、本作では「GARNET CROWらしさ」というイメージに縛られて避けてきた、自身へのタブーを破って色々なことへ挑戦したそうです。攻めたサウンドを実現する手腕はアレンジャー古井弘人の賜物ですが、この楽曲自体はちょっとイマイチな印象…。
 「一緒に暮らそう」は強烈なベースとハンドクラップを中心に、ノリの良いリズムを生み出します。プロポーズのようなプラスのイメージを抱くタイトルとは裏腹に、歌詞はヒステリックに懇願するような感じ。ノリの良いリズムがむなしく、メランコリックなメロディが切ないです。
 そして表題曲「メモリーズ」、これが地味だけどとても良い。そこまで派手さはない印象ですが(ストリングスやホーンは華やかに鳴ってますけどね。シンプルなメロディラインだからでしょうか?)、憂いのあるメロディとサウンドの爽やかさを両立した、初期楽曲のような雰囲気でスッと入ってきます。中村のメランコリックな歌声もとても心地良い。
 「静寂のconcerto」は穏やかでゆったりとした、メロディアスな楽曲です。妖精が祝福するかのようなコーラスに飾られた、サビの優雅な雰囲気がとても美しい。アウトロでは多重コーラスと、岡本のギターが美しく絡み合います。
 ギターが高らかに鳴って始まる「創世記I」。淡々とした歌メロの裏でヘヴィなベースが支えます。サビメロは「一緒に暮らそう」っぽい。「試験の日にち間違えた 去年の冬は長かった」というフレーズが切ないですね…。
 続く「ロンリーナイト」はデジタルサウンドが強烈なダンスチューン。古井のアグレッシブなシンセサイザーが光ります。GARNET CROWらしさという殻を破った楽曲ですが、ここに新たな名曲が生まれました。でも攻めたサウンドの弾け具合とは対照的に、歌詞は空元気な感じがあってややミスマッチ感が面白い。ライブだとテンポアップして、更に弾ける名演となります。
 「英雄」は中村と岡本のデュエットが聴ける名曲。ヤマトタケルをモチーフにした本楽曲は貫禄を感じさせる出来で、哀愁が漂います。やはりアルバムラスト手前はこういうじっくり聴かせる楽曲を配置してきますね。なおレディ・アンテベラムの「Just A Kiss」という曲にそっくりだという…。
 ラスト曲は「Blue Regret」。悲哀に満ちたバラードです。また会えると思って簡単な別れで済ませてしまって、そのまま会えない後悔を引きずっているという悲しい歌詞です。冒頭の六月というキーワード、2年後の6月の解散タイミングをこの時点で示唆していたのでしょうか。
 
 
 最初の3曲で一気に気持ちをリセットさせてくれるので、気持ちが沈んだ時によく聴きます。でもこの3曲が強烈で、他の楽曲の出来は結構ムラがあるので、アルバムトータルのクオリティはそこまで高くないかも。聴きたいシチュエーションが明白なので、手に取る回数は比較的多いです。

左:DVDが付属する初回限定盤。
右:通常盤。

メモリーズ
初回限定盤(DVD付)
GARNET CROW
メモリーズ
通常盤
GARNET CROW
 
Terminus

2013年 10thアルバム

 本作発表の10日後に行われたライブツアー東京会場で解散が宣言されました。じっくりと聴き込む前に参加したライブで解散を告げられたため、個人的には辛い思い出も蘇るのですが、作品の出来はキャリアトップクラス。解散のタイミングを逃した(?)前作とは違って、最初から本作でラストアルバムにするという強い覚悟を決めて作られたのでしょう。『Terminus (=終着駅)』と冠したタイトル、解散を示唆したジャケットアート、そして気合いの入った楽曲はどれもがピリピリと緊迫感に満ちていて強い哀愁を纏っています。最後に素晴らしい傑作を生み出してくれました。
 
 
 オープニング曲「Nostalgia」は本作唯一のシングル。古井弘人の放つ鮮烈なデジタルサウンドに、中村由利のとてもパワフルな歌唱で圧倒します。張り上げるような歌唱は中期の頃のよう。実はシングルとしてはあまり好みではなかったのですが、このアルバムの中では導入の1曲に相応しいパワーを持っていて、この配置で魅力を発揮できている気がします。
 続く「trade」は前半のハイライト。軽快でグルーヴ感のあるリズムに乗せて、華やかなサウンドを奏でますが、それすら空しくなるような強い哀愁が漂います。次曲と違ってあからさまに泣かせに来ている風ではありませんが、これがとても泣けるんです。哀愁のメロディラインと、そしてなんといってもAZUKI七の歌詞、言葉選びが秀逸ですね。中村のメランコリックな歌唱が、切なさを最大限に引き出して涙を誘います。
 「Maizy」はGARNET CROWお得意の王道バラード。流石こなれていて貫禄すら漂いますね。エレピを中心にした、しっとりとしたサウンド。そしてじっくりと聴かせる美しくも哀しいメロディは、サビで大いに盛り上げてきます。中村の焦がれるような切ない歌唱が胸に響きます。泣かせに来ている楽曲です。
 「白い空」も切ない1曲。優しく爽やかさな序盤から盛り上がっていき、キャッチーで明るい雰囲気だけどどこか哀愁を引きずったサビに繋ぎます。終盤の転調も切ないですね。
 「Life goes on!」はアップテンポの疾走曲。名曲「Fall in Life ~Hallelujah~」にも通じる爽快感があり、重たい楽曲が並ぶ本作ではほぼ唯一、脳天気な明るい楽曲です。口ずさみたくなるようなキャッチーな歌も良いですね。ライブでもっと沢山聴きたかったです。
 「P.S.GIRL」はラテン調の楽曲。ノリの良いパートとメロディをじっくり聴かせるパートで緩急つけます。サウンドは華やかでノリが良いのですが、サビでも弾けずに影を落とすメロディが独特です。こういう随所に見える哀愁が、解散の覚悟の表れなのでしょうか。
 重厚でダークな楽曲「海をゆく獅子」。冷徹なピアノをバックに、情景を語るような歌はとても重苦しい雰囲気を放ちます。時折入る、横路竜昇の吹くメロウなサックスが渋いですね。歌詞については、AZUKIがヘミングウェイの『老人と海』に触発されて書いたといいます。なお、こんなマイナーなナンバーにわざわざPVが用意されていますが、これはたぶん中村の趣味でしょうね。
 「鏡にみた夢」は『源氏物語』をモチーフにした楽曲です。一見爽やかですが、メロディアスなサビは中村のメランコリックな歌唱によって哀愁に満ち、心に突き刺さります。メロディラインだけでなく、フルートによって古風な雰囲気を出すサウンドも美しい。そしてイントロや間奏で聴ける岡本の泣きのギター、これが良いのです。
 「The Someone’s Tale」は前後を名曲で挟まれているので、佳曲ながらもやや地味な印象。優しく幻想的な雰囲気で展開しますが、全体的に愁いを帯びた雰囲気で切ないです。
 そしてGARNET CROW最後のアルバムを飾る最後の楽曲「closer」(このあと未発表曲と称してもう1曲発表されますが…)。葬式バンドの元祖(?)ジョイ・ディヴィジョンの最終作『Closer』と同じタイトルなのは何かの縁かな、なんて勝手に思ったり。さてこの楽曲、歴代ラスト曲としては最高の出来で、個人的には10本の指に入る名曲。ゆったりとして優しいサウンドと、諦めのような別れを描いた歌詞は、聴くたびに解散の思い出と結び付いてとても切ない気分になります。派手さは無いのに、真剣に向き合うと涙なくして聴けない名曲だと思うのは、解散の思い出で補正されているからでしょうか。中村の優しく諭すような声で歌われる別れの歌詞も格別ですが、アウトロも見事なのです。泣きのギターのあとラストの鍵盤の音色が、余韻とともに強い喪失感を残します。アルバム全体の緊張から解き放たれて疲れがどっと出てくることも合わさって、聴き終えた後に強烈な喪失感が襲います。これがとても辛くて、でもだからこそ不朽の名曲なのだと思うんです。
 
 
 有終の美を飾ろうという強い意気込みと覚悟を持って作られたのか、アルバムは聴く人に強い緊張を強いるため、最後まで真剣に向き合うとどっと疲れます。しかしその完成度はとても高いです。最初に勧めるべき作品ではありませんが、GARNET CROWに興味のある方は聴いておいて損はないでしょう。名盤です。

 本作の発表と解散宣言後にファイナルライブを敢行したGARNET CROW。ファイナル最終日2013年6月9日をもってGARNET CROWは13年の歴史に幕を閉じ、解散しました。この間に音楽性は大きく変わりましたがクオリティは落とさず、不動のメンバーによってマスターピースをいくつも残してくれました。個人的には、色々な思い出に寄り添い続けてくれた特別思い入れの強いグループで、そんなGARNET CROWには感謝の気持ちでいっぱいです。

左:DVDが付属する初回限定盤。幕が上がってメンバーの写真が写っていますが、ジャケット裏面はひらひらと散る羽根にスポットライトが当たってメンバーはいません。解散をジャケットで表現していたのだと、後になって気付きました。
右:通常盤。メンバー写真が詰まったミニブックレットが付属します。

Terminus
初回限定盤(DVD付)
GARNET CROW
Terminus
通常盤
GARNET CROW