🇯🇵 GARNET CROW (ガーネット・クロウ)

編集盤①

Best Selection 2000 to 2005

2005年

 デビュー5周年の節目にリリースされたGARNET CROW初のベスト盤。この当時で18枚のシングルが出ていたので、頑張れば1枚に収まりそうではありましたが、そこにアルバム曲やカップリング曲などを加えて2枚組とし、更にブックレットが付属するという豪華っぷり。割安感のあるお買い得なベスト盤でした。
 このあといくつかベスト盤をリリースしたため、今から聴くのであれば相対的に価値は落ちるものの、選曲だったり細々な配慮をみるにメンバーの意思も十分に反映されていたように思います。初期シングルを中心に、思わぬ名曲に出会える作品です。カップリング曲だとか色々知る機会になったので、思い入れだけで言えば他のベストよりも強いですね。
 
 
 Disc1のオープニングは「君の家に着くまでずっと走ってゆく (indies ver.)」。透明感溢れるシングルバージョンではなく、初々しくも温もりに溢れるインディーズバージョンが選ばれています。私はここで初めてインディーズバージョンに出会ってその良さを知り、『first kaleidscope 〜君の家に着くまでずっと走ってゆく〜』を買うキッカケになりました。
 続いて軽快な1曲「Mysterious Eyes」。アニメ『名探偵コナン』で有名な、GARNET CROWのデビューシングルですね。GARNET CROWと『名探偵コナン』との関わりは深く、このベスト盤収録曲だけでも5曲がタイアップを果たしています。
 この後に続くのがカップリング曲「in little time」。流麗なピアノに乗せた、儚くメランコリックな中村由利の歌声がとても切ないです。GARNET CROWには、埋もれるには勿体ないカップリングの名曲も多く、そんな彼らの魅力の一部をこのベスト盤で知ることができます。
 ライブの定番である、軽快なノリの名曲「二人のロケット」を挟んで、そのカップリング曲「未完成な音色」が続きます。これがカップリングでも5本の指に入るくらいの名曲なのです。とにかくダークで、ゴシックロックのような暗鬱なサウンドが展開されます。AZUKI七の紡ぐ歌詞は、ギリシャ神話のオルフェウスをテーマにしていて(日本神話のイザナギとイザナミも連想できますね)、救われない悲壮感が漂います。中村の儚い歌声が、この重たく暗い楽曲に美しさを与えています。
 ここからはシングル曲が続きます。1番と2番の歌詞の対比が美しい「千以上の言葉を並べても…」。ネオアコサウンドも板についてきました。また前曲もそうですが、1980年代英国ロックのような湿っぽさ、暗鬱だけど美しいサウンドが出ている気がします。続く「夏の幻 (secret arrange ver.)」は、ライブでも定番となる「secret arrange ver.」を採用。むしろオリジナルのシングルの方が聴ける機会が少なくてsecretな感じになっています。「flying」ではゲーム『テイルズ・オブ・エターニア』でのタイアップを果たし、ヒットを飛ばしました。
 続いてアルバム曲から「水のない晴れた海へ」。ダークだけど浮遊感に満ちた心地良いサウンドに、アンデルセンの『人魚姫』をテーマにした抽象的な歌詞。そして滑舌が悪いけれど、ある種の楽器のようにも聞こえる中村の歌声が作る多重コーラス。これらが上手く組み合わさることによって、トリップ感のある幻想的な雰囲気を作っています。
 そしてここから「Last love song」、「call my name」、「Timeless Sleep (new recording)」、「夢みたあとで」と傑作シングル群が並びます。キャリアを振り返ってもここが彼らの頂点だと思います。個々に独立したシングルではあるものの、一連のストーリーのように並んだ歌詞がとても秀逸。「これが最後の love song の始まりに… なるよう祈る」と一途な恋を歌い(Last love song)、恋が成就したのか、互いの名前を呼び合う甘くて幸せな日々が始まります(call my name)。しかし「君がいなくなって」どん底を味わい(Timeless Sleep)、そんな恋の始まりから終わりまでの一連の日々を思い返しながら、かつての日々を夢見てしまう(夢みたあとで)。…1曲1曲にも単独のストーリーがあるものの、続けて聴いても解釈の余地があるように思います。なお「Timeless Sleep (new recording)」だけは再録。原曲は消え入りそうな儚い歌声が魅力的ですが、本人達は気に入っていなかったのか、ボーカルが低く暗い歌声に…。ドラムも結構主張が激しくなっています。個人的にはこの再録verは好みではありません。
 そしてDisc1のラストを飾るのは「Holy ground」。ファンからの人気が高い名曲です。序盤から「死んでしまえば生きなくていい」とネガティブに言い放ちますが、最後まで聞くと、絶望の淵にある人へ救いを差し伸べるような歌詞なんですよね。静粛で神々しさを感じられるようなサウンドに浮遊感のある多重コーラスが、救ってくれるかのようです。
 
 
 Disc2は「スパイラル (すぽると!ver.)」で開幕。これも原曲の儚い歌声が、少し低い歌声になっていて残念な感じは否めず。その後もシングル串刺しで「クリスタル・ゲージ」、「泣けない夜も 泣かない朝も」、「君という光」と続きますが、同じくシングル串刺しの『Crystallize ~君という光~』を聴き慣れていると本作の曲順に少し違和感を覚えます。なお中村の歌い方に明確に変化が出たほか、ネオアコ路線を脱して古井弘人によるアレンジの幅も広がりました。
 続いてアルバム曲「永遠を駆け抜ける一瞬の僕ら」。まったりとして南国っぽさも漂う優雅なサウンドは、ミゲル・サ・ペソアによるアレンジ。GARNET CROWの一部の楽曲は彼が編曲しておりますが、彼の作るサウンドは透明感のある澄んだ音が多く、聴き心地が良いです。
 そして再びシングル群へ。「僕らだけの未来」岡本仁志の荒々しいギターがカッコ良いですね。アップテンポのロックナンバーで、これまでに無かったタイプです。その後は彼らお得意のバラードが続きます。葬送曲「君を飾る花を咲かそう」は重厚なサウンドで聴かせる名曲ですね。また「忘れ咲き」は、ノスタルジックな歌詞と美しいピアノ伴奏で魅せてくれます。教科書に載せても良さそうな1曲です。
 ここからは「Sky ~new arranged track~」、「夕月夜」、「君 連れ去る時の訪れを」とアルバム曲が続きます。Disc1の楽曲群ような儚く脆い雰囲気は無くなりましたが、代わりに安定感のある歌唱と重厚な演奏で別の魅力を得たように思います。これまでピアノやアコギ主体だったアレンジも、古井のシンセが割と前面に出てくるようになり、華やかに楽曲を彩ります。特に「君 連れ去る時の訪れを」の多幸感は素晴らしい。
 そしてオリジナルアルバムに収録されなかった唯一のシングル曲「君の思い描いた夢 集メル HEAVEN」。このギャグみたいなタイトルはアニメ『メルヘヴン』とのタイアップを意識したもの。憂いを帯びつつもキャッチーなアップテンポ曲で、頭サビで高らかにこのタイトルが歌われますが、これが良い意味で耳に残るんですよね。元々ロック色が強いですが(ギターもベースもカッコ良い!)、後年のライブではより疾走感に溢れるアレンジで会場を盛り上げてくれました。
 ここからは本作初出の音源。「空色の猫」は、同レーベルの岩田さゆりに提供した楽曲のセルフカバー。ポップで甘いメロディとメルヘンチックな歌詞ですが、楽曲は疾走感に溢れるロック色の強いサウンド。ベースが生み出すグルーヴ感も強く、演奏が良い感じに高揚感を煽ります。続く「「さよなら」とたった一言で…」はバラード曲。力強くも寂寥感の強いサビメロは切ない気分にさせますね。所々に入るハーモニカの音色が哀愁を誘い、また間奏のギターはとてもブルージーで渋いです。
 最後にライブ録音の「夢みたあとで (live scope 2004 ver.)」。年々ゴージャスなアレンジになりますが、この頃はまだ抑えめ…とは言え原曲よりも力強い演奏と歌唱で迫力があります。ライブアレンジではAZUKIのピアノと古井のオルガンの対比が魅力ですね。それと生ドラムがスリリングです。
 
 
 オリジナルアルバムの出来がよいのでベスト盤を聴く機会は少なく、今から後追いで聴くなら後発のベストがある。そのため新たに聴く人にはそこまで本作を推す理由はありません。…ですが当時、充実した選曲でインディーズやカップリング曲といった楽曲に出会うキッカケになったので、個人的には思い出深い作品です。

Best Selection 2000 to 2005
GARNET CROW
 
THE BEST History of GARNET CROW at the crest...
 初回盤の評価
 通常盤の評価
2010年

 デビュー10周年ベスト盤。初回盤は3枚組にミニフォトブックレット付、通常盤は2枚組。ベスト盤で複数商法はやめて欲しいです…。
 本作は今から聴くにはとても中途半端な作品です。いくつかのシングル曲はバージョン違いとなっていますが、そのチョイスが『Best Selection 2000 to 2005』とほぼ同じで、焼き直し感がとても強いです (一応、エンジニアのテッド・ジェンセンによってリマスタリングはされているそうですが)。せめて後半の楽曲もバージョン違いであれば、考えてチョイスした感が出るものですが…。全シングルを網羅しているかと言えばそうではなく、本作リリース後~解散までに4枚のシングルをリリースするので、全シングルを網羅した『THE ONE ~ALL SINGLES BEST~』に劣る。アルバム曲やカップリング曲も収められていない通常盤に限っては、残念ながらほぼ何らかのベストの劣化です。
 ただ本作には評価すべきポイントが3つあって、1つ目は「As the Dew」というとてもカッコ良い楽曲が初回盤/通常盤ともに収録されていること。バージョン違いが『parallel universe』に収録されるものの、本作収録のオリジナルの方が数段上のカッコ良さです。まあオリジナルバージョンは『GARNET CROW REQUEST BEST』でも聴けますけどね。2つ目は、初回盤の3枚目がカップリング曲/アルバム曲の名曲集となっていること。おまけのように付属する初回盤3枚目が個人的には本作最大の収穫で、このDisc3だけは今でも時折聴いています。ただその初回盤は高騰気味。ここでしか聴けない楽曲では無いので、プレミア価格を支払ってまで聴く必要はないと思います。3つ目は『GARNET CROW Happy 10th Anniversary livescope2010 〜THE BEST TOUR〜』と題したライブツアー開催の口実となったこと。振り返ってみると、選曲もパフォーマンスも、この頃が彼らのライブのピークだったと思っています。このベスト盤無くして名ライブは生まれなかったことでしょう。そんな本作をレビューします。
 
 
 Disc1は『Best Selection 2000 to 2005』とも重複する初期シングル群が並びます。収録曲は以下のとおり。
 「Mysterious Eyes」、「君の家に着くまでずっと走ってゆく (indies ver.)」、「二人のロケット」、「千以上の言葉を並べても…」、「夏の幻 (secret arrange ver.)」、「flying」、「Last love song」、「call my name」、「Timeless Sleep (new recording)」、「夢みたあとで」、「スパイラル」、「クリスタル・ゲージ」、「泣けない夜も 泣かない朝も」、「君という光」、「僕らだけの未来」、「君を飾る花を咲かそう」の16曲。
 「スパイラル」がオリジナルバージョンになっている以外は、バージョン違いの選択が『Best Selection 2000 to 2005』と同じチョイスで、この作品からシングルだけ抽出しただけのような感じがします。ただオープニング曲は「Mysterious Eyes」にしている点に違いが見られますね。各楽曲の解説はここでは割愛します。
 
 
 続いてDisc2。王道バラード「忘れ咲き」、アップテンポ曲「君の思い描いた夢 集メル HEAVEN」は『Best Selection 2000 to 2005』と被りますが、これ以降が本作でアップデートされた内容ですね。
 まずは「晴れ時計」岡本仁志の軽快なギターが印象的なイントロで幕開け。ほのぼのとした雰囲気のポップな歌メロや浮遊感溢れるコーラスもあって、とにかく爽やかな印象が強いですが、サビのバックではヘヴィなギターやオルガンで結構ロックしてます。
 「籟・来・也」は彼らの中では異色のナンバー。AZUKI七の歌詞にはスケール感があって、かつ独特の言い回しが印象的。これが中島みゆきのような雰囲気で歌う中村由利の歌声と合わさり、歌謡曲のような印象を受けます。でもこの楽曲苦手なんですよね…。
 そして和風ロック曲「夢・花火」。「僕らだけの未来」に続くラテン調のロックナンバーで、和のテイストを取り入れたとてもカッコ良い1曲です。中村が却下したものの、アウトロには般若心経が入る予定だったそう。少し聴いてみたかったですね。
 「今宵エデンの片隅で」はダンサブルな楽曲で、ライブの定番曲。軽快なピアノにノリの良いダンスビートで、爽快感に溢れています。メロディもキャッチーで、聴いていると元気を貰えますね。
 「まぼろし」はドラマ『新・科捜研の女』のタイアップ曲。薄ら暗くも神秘的な雰囲気で、タイトルどおりの幻想的な感じが出ています。またアコギの爪弾く音も心地良いです…が、格ゲーの効果音ようだと揶揄されたチープな打ち込みは少しだけマイナス点。
 続く「風とRAINBOW」はラテン調のロック曲。パーカッションが活躍する情熱的なサウンドと相反して、歌詞は無機質な世界観が描かれています。サビが若干ルパン三世のテーマっぽいですね。
 「この手を伸ばせば」は一連の『メルヘヴン』タイアップの最終曲。ロック色を強めたバラードで、サウンドの強さに負けない中村の力強い歌唱が強烈です。ただ、強すぎて彼ららしくないとは常々思っていて、ライブで岡本が甘い歌声でこれを歌ったときに、ようやくこの楽曲良さに気付いたくらいです。
 「涙のイエスタデー」は通算100曲目の記念すべきシングルで、久しぶりの『名探偵コナン』タイアップ。『LOCKS』では頭サビというナイスなアレンジが加えられましたが、本作に収められたシングルバージョンはイントロからAメロBメロと続いて徐々にエンジンがかかっていく感じで、エド・サリヴァン・ショーのパロディPVのように少しレトロな感じはあります。ちなみにアレンジ関連のエピソードと言えば、この楽曲は当初金魚をモチーフにしたバラードだったそうです。古井弘人のアレンジ力もあってアップテンポの名曲に仕上がったんですね。
 続く「世界はまわると言うけれど」は中期GARNET CROWで最も好きなシングル曲です。ある種の諦めのような倦怠感のある歌詞を紡ぐ、中村のアンニュイな歌声。そしてゆらゆらと音の海を漂うような幻想的なサウンドも相まってとても心地良いです。ライブではサイリウムの光の海で、より幻想的なイメージが強まります。
 「夢のひとつ」は哀愁漂う王道バラードですね。別れ話を描いたAZUKIの歌詞はとても切なくて、そしてメロディアスな歌メロが歌詞を引き立てて涙を誘います。間奏での岡本の泣きのギターも魅力的です。
 「百年の孤独」は貫禄のある重厚な雰囲気の楽曲です。引きずるようなヘヴィなサウンドですが、終盤のテンポアップは高揚感を煽ります。シングルとしては弱いと思いましたが、7thアルバム『STAY ~夜明けのSoul~』の1ピースとして輝きを見せました。
 「Doing all right」はライブの掛け合いを意識したコーラスワークが爽快なアップテンポ曲。…ですが残念ながらライブでは1回しか披露されておらず、挙げ句カップリング曲の「Nora」の方が人気が出るという散々な仕打ちを受けています。そんなに悪くないんですけどね。
 「花は咲いて ただ揺れて」は悲壮感に溢れる重たいバラード。とてもドラマチックです。発売当初はこの過剰なくらいのダークさに嫌悪感があったのですが、これも7th『STAY ~夜明けのSoul~』のおかげで好きになりました。脱線しますが『STAY ~夜明けのSoul~』は個人的に苦手だったシングル群を救済し、更にその魅力を最大限に発揮させた最高の名盤だと思っています。
 最後に、本作が初出の新曲「As the Dew」。これがとてもカッコ良い名曲です。ジャジーで大人びた雰囲気を持ちながらも、ファンキーでグルーヴ感抜群の攻めたサウンドはノれる。古井のアレンジには驚かされることが多いですが、これはとてもクールで素晴らしいアレンジですね。個性が強烈過ぎるために8th『parallel universe』収録時は大人しめのアレンジにされてしまいましたが、これは断然オリジナルを推します。めちゃめちゃカッコ良いので、この路線でもう何曲か作ってもらいたかったですね。
 
 
 ここからは初回盤にのみ付属するDisc3。曲順は謎でしたが、想起させる季節が夏→秋→冬→春→夏と、季節を巡らすようなイメージでしょうか(季節感がなかったり、一致しない楽曲もありますが)。
 「Nora」は野良猫の視点で描く、柔らかくてノスタルジックな歌詞が魅力。素朴なメロディをアコギやストリングスで引き立てます。ラストの転調が切なさを増し、ぐっときます。
 続く「pray」で、もっと音数を減らしてシンプルになります。8分の6拍子の揺られるようなリズムに乗せて、中村の儚い歌声とコーラスワークが合わさり、とても心地良い1曲です。
 「夕立の庭」は私の中ではカップリング曲ナンバー1。全体的に透明感に溢れており、特に朝露のようなピアノの音色が麗しいですね。メランコリックな歌メロやコーラスワークもとても魅力的です。なおベースラインやアウトロのコーラスはポリスの名曲「Every Breath You Take」にそっくり。古井の趣味かな?(たぶん世代ドンピシャでしょう)などと、聴きながら嬉しくなります。個人的にはこの2曲を勝手に結びつけて、それぞれの楽曲を聴きながらもう片方を思い浮かべて、より好きになっていきました。
 続く「Jewel Fish」は私的なカップリング曲ナンバー2。前曲とワンツー続くのが嬉しいです。笑 GARNET CROW最高峰「Last love song」のカップリングで、これも件の楽曲同様にネオアコ路線の完成系ですね。明るく爽やかな曲調の中に感じさせる切なさ、そして中村の儚い歌声を補う、ファルセットを用いて浮遊感に溢れるコーラス。グルーヴ感のあるベースが、ふわふわした楽曲に輪郭を与えています。まるで水面に反射する日差しのように、透明感を持ちつつもキラキラとした印象です。ですが歌詞は結構残酷で、(解釈次第ですが)交通事故で死別した大切な人に向けて三途の川でまた会おうねと、切なく投げかけるように読み取れます。悲しすぎる…。
 「Marionette Fantasia」は少し毒のあるファンタジックな楽曲で、大人のグリム童話がモチーフだとか。「pray」と似てワルツを刻むリズム感が心地良いですね。アコギがリードするサウンドには温もりがあります。
 「A crown」はインディーズ時代の楽曲で、粗削りですが温もりに溢れていますね。スコンと抜けるスネアが軽快なリズムを刻み、後半のテンポアップなどは高揚感を煽ります。そしてAZUKIの歌詞が秀逸で、新婚さんか同棲を始めたばかりのカップルか、日常の中にある些細な出来事を切り取った歌詞に幸せが滲み出ています。
 続く「Float World」はタイトルどおり浮遊感に溢れる楽曲です。軽快なアコギと、そしてファルセットを用いた中村の歌声が前面に出て、この浮遊感に大きく貢献します。ですがバックのサウンドに着目すると、エレキギターは意外とファンキーでブルージーな音色を出すし、ベースは唸りを上げてかなり無骨。ボーカルが中村でなかったら、泥臭い「Blues World」に仕上がっていたかもしれませんね。
 「恋のあいまに」は哀愁漂う楽曲。ポワンポワンとシンセが幻想的な音色を作るなか、憂いのあるメロディが切ないですね。そしてこの楽曲の魅力は岡村のギターソロで、間奏もそうですが特にアウトロの泣きのギター。これはGARNET CROW史上最高のアウトロだと思っています。だからオリジナル同様に本作でもラスト曲に持ってきて欲しかったですが、Disc3中盤という曲順に不満が残ります。
 続く「Love is a Bird」もアルバムラスト曲からの選出。とにかくコーラスが分厚く、そしてこの多重コーラスの作り出す多幸感、祝福されているかのような感覚。大サビなんて鳥肌ものです。
 多幸感のある前曲の余韻も間もなく、「向日葵の色」で一気に絶望へ突き落とします。ゴッホをモチーフにした歌詞は悲壮感が漂い、そのメロディもダークさを極めています。アコギが緩衝材になっているものの、オルガンやエレキはヘヴィなサウンドを演出。音も歌詞世界も重たい楽曲です。
 「Crier Girl & Crier Boy 〜ice cold sky〜」は、真冬の夜空のようなひんやりとした空気感が漂います。これはファルセットを多用した歌声とコーラスワークの賜物でしょう。大サビはとても高いキーで圧巻です。
 「巡り来る春に」は湿っぽくて、哀愁に満ちた儚い楽曲。暗鬱なサウンドは英国風ですが、古風な言い回しの歌詞は和風テイストですね。
 「Go For It」は力強い印象です。中村が喉を痛めて思うように歌えずスランプだった時期に、自分を励ますために作った楽曲だとか。歌メロだけでなくサウンドも重厚ですが、ミスマッチ感のある軽い打ち込みが重さを軽減しています。
 「失われた物語」は語るような歌詞が特徴的。ただ、張り上げるような歌声でのっぺりした感じは否めず、個人的にはあまり好みではありません。
 最後に名曲「Rainy Soul」。重厚なピアノと暗鬱なアコギが暗い雰囲気を作ります。雨音のようなスネアやピアノが美しく、そしてメランコリックなサビメロがとても魅力的。後半に向かうにつれて音色が少しずつ華やかになり、また哀愁の歌もドラマチックになっていきます。
 
 
 発売当時は意義があったものの、『THE ONE ~ALL SINGLES BEST~』が出ている今、通常盤をあえて聴く理由は少ないです。初回盤は内容的にオススメしたいものの、最近は価格が高騰気味で入手も容易じゃない。本作の初回盤だけでしか聴けない楽曲というのは特にないので、価格も含めると相対的な価値は落ちます。

左:初回限定盤。こちらは比較的オススメできるものの、最近は価格が高騰気味…。
右:通常盤。今からこれを選ぶくらいなら『THE ONE ~ALL SINGLES BEST~』を選ぶ方が良いと思います。

THE BEST History of GARNET CROW at the crest…
初回限定盤
GARNET CROW
THE BEST History of GARNET CROW at the crest…
通常盤
GARNET CROW
 
All Lovers

2010年

 「大切な人に贈りたい曲、聴いてもらいたい曲」をテーマにしたコンセプトアルバムです。コンセプトアルバムっていうんだから、あるテーマに沿った新曲群で固めた作品、もっと言えばアルバムトータルで1つの物語を紡ぐような作品を期待したのですが、新曲は1曲だけの編集盤だったのでかなりガッカリした記憶があります。同年にベスト盤が出ていたこともあって、当時「また企画盤か」という失望の方が大きかったです。そんな当時のネガティブな感情があって個人的な評価は最低に近く、買ったもののほとんど聴いていませんでした。
 2010年の彼らの活動は非常に精力的で、ライブツアーをこなしつつアルバム3枚(10周年ベスト/本作/8thアルバム)をリリースするという活動量の多さでした。でも性急に作品を乱発せずに、もう少し時間をかけて練って欲しかったという思いも当時からありました。今にして思えば、この10周年でやりきって解散する腹づもりだったのかも…などと思ったり。
 本作における評価点は大きく2つあります。1つは、シングル曲を収録しない攻めた構成で、カップリング曲/アルバム曲からセレクトされていること。シングル収集派なので今まで気付かなかったのですが、2年後に発売されるカップリングベストでは本作収録曲はほぼ省かれているので、シングルを集めない人にはカップリング曲を一気に集められるありがたい作品なんですね。レビューにあたり見直したポイントでした。もう1つは、本作を契機にオーケストラと共演したコンサート『GARNET CROW Symphonic Concert 2010 ~All Lovers~』が開催されたこと。これは本作の功績だと思っています。
 
 
 アルバムは「Mr. Holiday」で開幕。イントロは岡本仁志の泣きのギターで始まりますが、全体的にはノリの良いサウンドで、元気を貰える楽曲ですね。中村由利の歌も飛び抜けてポップです。
 続く「Love Lone Star」は柔らかく幻想的なサウンドでまったりとした雰囲気です。アンニュイなAメロBメロが続いた後の、メロディアスでメランコリックなサビメロがとても魅力的な楽曲。メロディは昔どこか別の場所で聞いたような…初めて聴いたときに懐かしさを感じたことを覚えています。
 「やさしい雨 ~相思相愛ver.~」はカップリング曲のアレンジ違いを収録。チープな打ち込みから生ドラムに変わり、またゴリゴリとした質感のベースも含めてリズム隊が強調されたバンド感のある仕上がりです。とは言えリズム隊の主張の強さにやや違和感があり、個人的には原曲の方が好みですね。
 「今日の君と明日を待つ」は冬に暖を取るかのようなイメージの1曲。温もりのあるアコギに幻想的な鍵盤、そして包み込むようなコーラスと、ファルセットを効果的に用いた歌声による浮遊感が心地良い。フワフワしたイメージが強いものの、意外とベースが良い味を出していて、古井弘人の編曲の細かいこだわりを感じます。
 「CANDY POP」はボサノバ風味の牧歌的な1曲。AZUKI七の歌詞は最初期のような、毒気のないほのぼのとした日常を描いています。メロディと歌詞が相まって甘くてポップな楽曲に仕上がっています。
 「over blow」は一転して強い憂いを帯びた楽曲。メロディアスな歌は切ない気分にさせます。哀愁の歌メロや後半の分厚いコーラスが魅力ではありますが、これも意外とベースラインが良い感じだったりします。
 「幸福なペット」は本作中最もポップで、かつGARNET CROW史上トップクラスに可愛らしい1曲。歌詞は、飼い主を慕う犬の視点で描かれています。中村の歌声に儚さが残っていた時期の楽曲で、ファルセットを多用した歌とコーラスがとても甘い。彼らの意外な側面を知れる1曲でしょう。
 「Cried a little」は湿っぽく陰鬱な1曲。繊細な鍵盤の音色や、霊的な雰囲気のコーラスワークが作る、ほの暗くひんやりとした質感。これは初期にしか出せなかった色合いだと思います。歌声は儚くて、特に泣き焦がれるかのようなサビメロがとても切なくて…そんなところが魅力的です。
 「U」は前曲のひんやりとした質感を引き継いだオープニングを迎えるものの、途中からロック色を増して力強い印象へと変わります。中村の歌は儚い歌唱からヒステリックにと振れ幅が大きいですね。編集盤なので曲順には期待していないですが、この楽曲に関しては、儚い前曲と力強い次曲をうまく繋げる役割を果たしています。
 そして、お得意の王道バラード「春待つ花のように」。岡本のギターが高らかになって開幕するこの楽曲は、重厚な演奏により荘厳な雰囲気があって、じっくりと聴かせてくれます。そして哀愁漂うメロディアスな歌をうたう中村の力強い歌唱には強い説得力があります。華やかなサビはとても魅力的です。
 続くは「WEEKEND」で、前曲と合わせて『THE TWILIGHT VALLEY』の曲順が踏襲されていますね。憂いのあるバラードで、AメロBメロは比較的シンプルなサウンドでブルージーな印象。サビは力強いドラム等により重厚感を増しつつも、分厚いコーラスで浮遊感を持たせてバランスを取っています。
 そんな前曲とは真逆の楽曲「wonder land」。オリジナルアルバムなら許せない曲順ですね。笑 アコギ主体の繊細かつ軽快なサウンドに乗せて、中村はファルセットを用いたハイトーンボイスを用いて浮遊感や多幸感に満ち溢れています。地に足つかない不安定さを、グルーヴ感のある低音サウンドでかろうじて締めている感じ。爽快で大好きです。
 「もう一度 笑って」はバンドサウンドを志向していた頃の1曲。リズム隊が強調されても埋もれない、力強い歌声になっていますね。メロディアスな歌はキャッチーで聴きやすいです。
 そして「The first cry」。本作収録曲の中でも屈指の名曲ながら、コンセプト的にはやや「?」の浮かぶ選曲。AZUKIいわく、歌詞は革命家チェ・ゲバラをテーマにしているそうな…『All Lovers』のコンセプトには合ってないような気もします。さてこの楽曲、イントロのブルージーなギターとオルガンが泥臭い雰囲気を作り、沈み込むような哀愁のメロディが魅力です。そしてなんといっても間奏のサックス、これが特に素晴らしいですね。
 「恋することしか出来ないみたいに ~恋の蕾ver.~」はアルバム曲のアレンジ違い。歓声のSE等を加えたライブ感の強い原曲に比べると、アコースティック志向の少しこじんまりとしてまったりした雰囲気。とはいえリズム隊は結構迫力がありますけどね。原曲がライブ会場のイメージだとすれば、本アレンジは身内だけのスタジオセッションになったような感じ。これもこれで魅力ですが、個人的には原曲の方が好みかな。
 そして最後に唯一の新曲「空に花火」。『parallel universe』に、藤原いくろう指揮によるオーケストラアレンジが収録されることになりますが、珍しくアレンジを施した後者の方が好みなので原曲はほとんど聴いていません。原曲にもストリングスが一部使われているため、オーケストラによる彩り方の違いくらいでしょうか。オーケストラをうまく組み込んで、よりドラマチックに仕上げたアレンジ版の評価を押し上げるための原曲…というのが個人的評価です。
 
 
 乱発される編集盤に当時強い嫌悪感を覚え、それが本作に対して未だに悪印象を持ち続ける要因だったりします。ただ楽曲一つ一つのクオリティは高いですし、シングルを買わない人には思わぬ名曲に巡り会える作品だと思います。というわけで、感情面のマイナスと実用面のプラスを相殺してこんな評点にしました。

All Lovers
GARNET CROW
 
GOODBYE LONELY ~Bside collection~

2012年

 GARNET CROW初のカップリングベスト。これと『All Lovers』で、全部ではないものの主要なカップリング曲はひととおり揃えられます。
 これも初回盤と通常盤の2種類が出ています。ベスト盤で複数商法はコレクター的に辛いところ…。初回盤は漫画家の夏目ひららによるメンバーイラストが描かれ、これがファンの間で賛否両論でした。個人的にはメンバー写真4分割といういつもの面白味のない通常盤ジャケットよりも、イラストを採用した初回盤ジャケットの方が好みですけどね。イラストのタッチが合う合わないはあるかもしれませんが。
 本作のリリースに先立って、特設サイトでファン投票が行われ、「廻り道」が人気投票1位を獲得しました。個人的にもカップリング曲最高峰の名曲だと思っています。「夕立の庭」、「Jewel Fish」、「夜深けの流星達」、そして「廻り道」と、私の中でのカップリング曲ベスト4が全て収められているのが嬉しいところです。
 
 
 Disc1のオープニングを飾るのは「Go For It」。中村由利が、喉を痛めてスランプに陥ったときに自分を励ますために作った楽曲だとか。重厚なサウンドに、地に足のついた力強い歌唱が印象的な楽曲です。
 「Secret Path」はロック然として躍動感のある、岡本仁志によるイントロのギターがカッコ良いですね。メロディはどこかノスタルジックで哀愁が漂い、また歌い方もゆったり。軽快で勢いのあるイントロで感じた印象とは結構ギャップがあるかも。でもこのメロディラインは魅力的です。
 古井弘人のオルガンが響く「For South」はクールな楽曲です。程よい疾走感とグルーヴ感に満ちたサウンドが俗っぽい印象に仕立てています。中村の歌は憂いを帯びて儚い感じ。
 後期の楽曲「八月の夜」はとにかくメロディが魅力。素朴なアレンジゆえに小粒に仕上がった印象で、これまであまり注目していなかったのですが、歌メロにだけ浸っていると『Terminus』の雰囲気に通じる強い寂寥感を覚えました。アレンジ次第では大化けしたんじゃないかなと。レビューにあたり聴き直して意外な発見をしました。
 「Circle Days」は笛のような音色の鍵盤がどこか異国風です。影のあるメロディと相まって、Aメロとか神秘的な雰囲気があります。
 そして浮遊感に満ち溢れる「Float World」。タイトルどおりの雰囲気で、ファルセットを多用したコーラスワークが、空に浮かんでいるかのような心地良い感覚を生み出しています。鍵盤やアコギも浮遊感の演出に貢献していますね。でも意外とエレキギターはファンキーで、ベースもグルーヴ感抜群。高音パートを全て取り除くと意外に泥臭かったりします。
 「His Voyage」はAZUKI七の歌詞がとても魅力的な1曲。旅立つ日を夢見て船の建設に勤しむ主人公を描いた物語調の歌ですが、主人公は志半ばで亡くなってしまい、完成した船は亡骸を航海に出るという…素直なハッピーエンドでは終わらせないのがAZUKIらしいですね。この魅力的な歌が全部持っていってしまいますが、サウンドも様々な音色が溢れて賑やかです。
 そして「lose feeling」はどんどん沈んでいくダウナーで切ない楽曲。サビ以外のトーンが低いので、サビの高音がヒステリックに聞こえますね。悲しみに満ちた歌を素朴なアレンジで聴かせます。
 続いて、大仰で哀愁のあるイントロで驚かせる「短い夏」。どんなヘヴィで劇的な楽曲が始まるのかと思いきや、重たいのはイントロだけだったりします。哀愁に満ちたAメロBメロはイーグルスの超名曲「Hotel California」そっくりですが、残念ながら元ネタには大きく届いていない印象。なお件の楽曲とは違って、AメロBメロを経てサビに向かってどんどん明るく晴れやかになっていきます。
 「Crier Girl & Crier Boy ~ice cold sky~」は澄んでいて浮遊感のある1曲。ファルセットを多用したコーラスワークを中心に作られる、ひんやりとして透明感のある空気。歌詞でも歌われる冬の夜空の雰囲気と見事にリンクしていますね。
 「Flower」は厭世感のある歌詞が特徴でしょうか。やるせない感じをダークな曲調で表現しています。
 前曲とは一転して「nonsense」はアップテンポでノリの良いダンサブルな1曲。底抜けに明るいサウンドですが、全力でバカ騒ぎする感じではなく、どこか冷めつつそれなりに楽しんでいるという心地良い脱力感が漂います。それはAZUKIの歌詞か中村の歌唱か、あるいは両方か。でもそんなところにGARNET CROWらしさが残る良曲です。
 「愛に似てる」はメロディアスで哀愁の漂うバラードで、メロディが魅力的です。妻が好んでいる楽曲で、ありふれた表現ではなく「愛に似てる」と遠回しな表現がAZUKIらしいのだとか。
 「whiteout」はポストパンク的な1曲で、緊迫感に満ちてとてもスリリングです。ヘヴィなギターにマッチョなベースがカッコ良く、陰鬱な歌メロは晴れることがないです。イメージ的には「whiteout」より「blackout」ですが。
 続いて「hi-speed スペシャル oneday」では一気に明るいトーンに。タイトルは意味不明ですが、ダンサブルでポジティブなサウンドにはピッタリ。
 そして最後に素晴らしい名曲「夕立の庭」。個人的にはGARNET CROWでも10本の指に入る楽曲で、カップリング曲ナンバーワンです。朝露のようなキラキラしたピアノに、触れたら壊れそうな中村の繊細な歌声、そして切ないメロディ。とても美しくて、心が洗われるようです。ポリスの名曲「Every Breath You Take」を彷彿とさせるアレンジは古井の遊び心でしょうか。
 
 
 Disc2は洋楽のような「in little time」で開幕。とにかくピアノの旋律が美しくて、湿っぽく陰鬱な雰囲気。エコーのかかったアンニュイな歌声の残響や多重コーラスによって、包み込むような心地良さがあります。
 「Love Lone Star」はカップリング曲でありながらPVが作られた好待遇の楽曲です。ゆったりしつつメロディアスな楽曲を展開。初めて聴いたときに既知感を覚えたのですが、どこかで似たようなメロディを聴いたのか、個人的に気になります。
 続く「Argentina」はスリリングな疾走曲。オルガンやシンセが炸裂し、グルーヴィなベースも爽快。古井の独壇場といった感じですが、中村の力強くて少し色気を感じる歌も負けていません。勢いがあるのでライブ映えした楽曲でもありました。
 そしてアルバム曲のアレンジ「Holy ground ~just like a “dejavu” arr.~」。確かにカップリング曲として収録されましたが…選考に漏れたいくつかのカップリング曲を差し置いてピックアップされるという、人気の高さが窺えます。厳かで神々しさを感じられる原曲に比べると、優しく幻想的で親しみやすいアレンジに仕上がっています。ただし原曲の方が歌詞との結びつきが強い印象で、メッセージをより強く伝えてくれる(気がする)点では原曲に軍配が上がりますね。
 「夏の終わりの長い雨」はアコギが小気味良い印象ですが、メロディは憂いに満ちています。特に哀愁たっぷりのサビメロが魅力的です。
 軽快なイントロから明るいトーンの「彼方まで光を」。中村の伸びやかな歌声が印象的ですが、古井のオルガンもこの楽曲のポイントだと思います。少し切なさを感じさせますが、晴れやかで気持ち良い1曲です。
 そしてこの時点でのファン投票1位を獲得した名曲「廻り道」。両A面シングル「風とRAINBOW / この手を伸ばせば」のカップリング曲として収録されましたが、個人的にこれらA面どちらとも苦手なのもあり、この楽曲が一際輝いて見えるのです。哀愁たっぷりの切ないメロディも魅力ですが、特に素晴らしいのは2番の歌詞。歌詞とメロディのはまり具合がとても素晴らしいのです。
 頭サビが印象的な「夜深けの流星達」。透き通って幻想的なサウンドは、満天に広がる星空を眺めるかのようです。小さな音で鳴るピアノが星の瞬きのようで本当に美しい。優しさの中に憂いを帯びた歌メロも魅力的です。A面は名曲「君を飾る花を咲かそう」ですが、それすら食ってしまいそうな高いクオリティです(ちなみに本作未収録の「やさしい雨」も同シングルに収められていて、3曲揃いも揃って名曲という)。
 「blue bird」はゆったりとした曲調に、中村の儚げで繊細な歌声が美しい。サビでの岡本のコーラスも印象的ですね。優しく幻想的な1曲です。
 そしてネオアコ期の名曲「Jewel Fish」。A面は最強のネオアコ曲「Last love song」で、B面もこの素晴らしい楽曲なので、シングルというパッケージで見たときに非常に素晴らしい作品なんです。この楽曲はGARNET CROW史上でも群を抜いて瑞々しい印象ですが、爽やかでキラキラしたサウンドとは対照的に歌詞はとても悲劇的です。(当時)60億の人口がいようとも、交通事故で失った(?)「君」への恋にいつまでも執着してしまう…そんな切なさに満ち溢れた歌詞は聴くたびに泣けます。
 明るい曲調の楽曲が続きましたが、続くのはダークな一面を見せる初期の名曲「未完成な音色」。悲壮感に満ちた救いのない歌詞はギリシャ神話のオルフェウスがテーマです(イザナギ・イザナミにも取れますね)。陰鬱だけどとても繊細です。
 「一番素敵だった日」は官能的な歌詞が特徴的ですね。サウンド面だと序盤の岡本のギターや、グルーヴ感のあるベースが印象に残ります。
 そしてスリリングな名曲「トランス・トラップ」。陰鬱で緊迫感の溢れる楽曲で、エコーの強いダークサイケなサウンドが幻覚的な空間を演出し、対照的に軽快なダンスビートが疾走感とグルーヴを生み出します。影のあるメロディで、あどけなさと色気の混じった声で歌うのは官能的な歌詞。サウンドと歌が合わさり、ドラッグのような強烈なトリップ感があります。
 そこから一転、「Nora」はほのぼのとしています。野良猫の視点で描く世界観はノスタルジックで、優しくも哀愁のメロディが染み入ります。最後の転調もとても効果的で、切なさを強く引き立てます。
 続く「live」は唯一オリジナルアルバムに収録されたカップリング曲(『メモリーズ』収録)。アップテンポでノリノリ、底抜けに明るいサウンドは元気をくれます。そして中村のメランコリックな歌声が、少しだけ切なさを加えて名曲に仕立て上げています。
 ラストは「たとえば12月の夜に」。浮かれ気分を想像しがちな12月のイメージからはかけ離れた、ダウナーで焦燥感を煽るダークなメロディ。これを最後に持ってくるか…。ですが切ないメロディがよく突き刺さること。

 そして通常盤のみ「JUDY ~English ver.~」が付属。ドラマチックなバラードですが、英語にした理由とは…。中村は多くの楽曲で、滑舌の悪い英語コーラスで心地良い浮遊感を生み出してきましたが、この楽曲での比較的はっきりした発音に若干違和感があったりします。なおオリジナルの歌詞は、ノーベル賞作家カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』に着想を得たのだそうです。
 
 
 GARNET CROWはカップリング曲こそ真骨頂という意見も多く、オリジナルアルバムやシングルベストでは聴くことのできない隠れた名曲も結構多いです。そんなカップリング曲を、手っ取り早く纏めて聴くことができる良質なベスト盤です。全部ではありませんが、主要なカップリング曲は大体押さえられています。
 最初に手に取るべき作品ではありませんが、GARNET CROWをある程度かじった人には薦めたい作品です。

左:初回限定盤。10曲分のPVを収録したDVDが付属します。
右:通常盤。「JUDY ~English ver.~」を聴くことができます。

GOODBYE LONELY ~Bside collection~
初回限定盤(DVD付)
GARNET CROW
GOODBYE LONELY ~Bside collection~
通常盤
GARNET CROW