🇬🇧 Genesis (ジェネシス)

ライブ盤

Genesis Live (ライヴ)

1973年

 『フォックストロット』のツアーに伴うライブを収録した、ジェネシス初のライブ盤です。メンバーのラインナップはピーター・ガブリエル(Vo/Fl)、トニー・バンクス(Key)、マイク・ラザフォード(B/Gt)、スティーヴ・ハケット(Gt)、フィル・コリンズ(Dr)。黄金期のメンバーですね。被り物をしたガブリエルのジャケット写真を見て分かるように、当時は奇抜なコスプレで楽曲の世界観を表現する演劇的なバンドだったみたいです。
 なおBoxセット『Genesis Live 1973-2007』に収録されたリマスターバージョンでは1975年の『眩惑のブロードウェイ』のライブ音源を追加収録。どうもリマスター盤は単品販売されていないようですが、このリマスター盤をレビューしたいと思います。
 
 
 オリジナルは僅か5曲ですが、8分半~10分半の長尺曲が並びます。「Watcher Of The Skies」で開幕。いきなり荘厳なメロトロンのイントロで始まり、そこで歓声が上がります。リズム感が若干怪しい気もしますが、スリリングなリズム隊がじわりじわりと差し迫って、キャッチーな歌メロが始まる展開にはワクワクします。本編はテンポが若干遅めですが、分厚いサウンドや、終盤の展開はかなりスリリングです。「Get ‘Em Out By Friday」は奇怪ジェネシスの真骨頂というか、なんか変な楽曲ですね。ラザフォードのベースがゴリゴリとよく響くこと。ライブならではの空間の広がりと生々しい音によって、原曲よりヘヴィさを感じられ、よりスリルを増した印象です。続いて、怪しげだけどリズミカルで楽しい「The Return Of The Giant Hogweed」。イントロはスリリングですが、ミックスのせいか歌が始まるとちょっとスカスカな印象も。つまらないかと言えばそうでもなく、終盤のスリリングな展開は楽しかったりします。そしてここからが本ライブの魅力で、まずは「The Musical Box」。ゆったりとした序盤を終えるとハードでダイナミックな演奏に変貌。この演奏パートの気迫が凄まじく、手に汗握ります。そんな演奏に聴き入っていると、いつの間にかラストの「Now, now, now, now, now!」の激しい連呼が始まり、10分があっと言う間に終わってしまいます。そしてアンソニー・フィリップスの置き土産「The Knife」。原曲と異なりハケットとコリンズが演奏しますが、荒々しいハケットのギターや焦燥感を煽るコリンズのドラムがとてもスリリング。またラザフォードのベースもブイブイ唸っていてメタリックな感覚を強めています。

 ここからはBoxセット収録盤で追加になった楽曲です。まずは「Back In N.Y.C.」、演奏は若干迫力不足ですが、ガブリエルの歌はガラ声でドスが利いていますね。ちょっと物足りない感はありますが、続く「Fly On A Windshield」はダークな演奏が見事表現されています。バンクスのキーボードとハケットのギターが作り出す、ダークサイケな世界観。暗いのに心地良い演奏に揺られ、どんどんスリルを増したところで「Broadway Melody Of 1974」にバトンタッチ。ヘヴィな演奏にガブリエルの歌が響きます。「Anyway」も暗鬱でヘヴィですね。キーボードの奏でる哀愁の音色、ガブリエルのシリアスな歌…そして、後半の非常にヘヴィな演奏も絶望感を打ち出します。そしてラストは「The Chamber Of 32 Doors」。バンクスのメロトロンと、ハケットのギターが美しくも悲しい音色を奏でます。退廃的な雰囲気ですね。このライブ音源の選曲のせいもありますが『眩惑のブロードウェイ』は暗い曲ばかりという印象をより強めます。でもそこに美しさがあるから惹かれるんですけどね。
 
 
 この頃はそこまで上手くないですが、「The Musical Box」と「The Knife」の緊迫感は凄まじくてスリリングです。

Genesis Live
Genesis
 
Seconds Out (セカンズ・アウト/眩惑のスーパー・ライヴ)

1977年

 スティーヴ・ハケット在籍時最後のライブで、本作リリース時には脱退していました。テクニック的にも選曲的にも、プログレバンド・ジェネシスのピークと言える傑作ライブ盤でしょう。メンバーはフィル・コリンズ(Vo/Dr)、トニー・バンクス(Key)、スティーヴ・ハケット(Gt)、マイク・ラザフォード(B/Gt)。そしてコリンズがボーカル兼任となったのでサポートドラマーを起用し、演奏パートではコリンズとツインドラムを披露します。長らくジェネシスのライブを支えることになるチェスター・トンプソン(Dr)が参加、また「The Cinema Show」のみ元イエス/元キング・クリムゾンのビル・ブラッフォード(Dr)が叩いています。
 タイトルの『Seconds Out』とは「2作目のライブ盤」とボクシング用語「seconds out (リングから出てください)」を掛けたものだそうです。ピーター・ガブリエルに次ぐ脱退者ハケットのことを指しているのかと思いきや「アンソニー・フィリップスがいるから違う(ハケットは2人目じゃない)」というようなことをラザフォードが語っています。
 
 
 Disc1は「Squonk」で開幕。メロディアスな歌メロは原曲より伸びやかな印象で、またラザフォードのグルーヴィなベースとチェスター・トンプソンのリズミカルなドラムが心地良さを提供してくれます。原曲より僅かに速いのもあって、重厚な原曲に比べて楽しげな印象を抱きます。「The Carpet Crawlers」は噛みしめるようにゆっくりとしたテンポで、メロディアスな歌を展開。この楽曲についてはガブリエルよりコリンズの優しいボーカルの方が聞きやすくてしっくりきます。バンクスの幻想的なキーボードも心地良いですね。続いてコミカルな雰囲気の「Robbery, Assault And Battery」。でもプログレ的にはこれが結構聴きどころで、中盤テンポアップしてスリリングな演奏バトルの様相。コリンズの代わりを務めるチェスター・トンプソンのドラムも上手いし、バンクスが色とりどりの華やかな鍵盤を奏で、ラザフォードのベースもよく唸る。とても楽しい楽曲です。「Afterglow」はメロディアスな名曲ですね。サビの盛り上がる部分で分厚い演奏が感傷的な気分にさせてくれます。なお『静寂の嵐』の組曲の最後を飾る楽曲ですが、ジェネシスではこの楽曲だけ演奏するので、組曲で聴きたければハケットソロのライブをオススメします。続いて名曲「Firth Of Fifth」。残念ながら流麗なピアノが魅力のイントロは無く頭サビになっていますが、中盤の演奏パートの魅力は健在。ここまで存在感が薄かったハケットが、本楽曲では忌憚のないギターソロを披露します。優美なギターを引き立てるバックの演奏もまた魅力的で、至福のひと時を提供してくれます。「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」は手拍子に導かれて始まるコミカルな1曲。途中コリンズがタンバリンでパフォーマンスをしているらしく、時折観客から歓声が上がります。また、リズミカルに観客を煽ったりしてやり取りを楽しんだり。こうした観客とのやり取りは他のライブ盤でも見られるので、定番なのでしょう。「The Lamb Lies Down On Broadway」はキャッチーな楽曲ですが、ガブリエルからコリンズボーカルに変わったことでよりポップさを増した印象です。ラザフォードのベースも冴えていますね。そのまま途切れず続く「The Musical Box」。Closing Sectionと銘打っており、終盤パートだけピックアップしています。ここはガブリエルの迫真の演技を聴きたかったところですが、コリンズの歌はキャッチーで、でも演奏のスリルは原曲よりも増している感じがします。

 Disc2は超大作「Supper’s Ready」で幕を開けます。難解なこの楽曲を再現できる演奏技術の高さに驚きだし、原曲よりもこちらのライブ演奏の方がノリが良く、スリルはそのままに聴きやすくなりました。またガブリエルは憑依するかのように色々な役になりきりましたが、コリンズは剽軽なキャラクターでコミカルに演じ分けています。怪奇さが大きく減退する代わりに格段にキャッチーになり、良い意味でこの楽曲の敷居を下げていますね。スタジオ盤でダメだった人はこのライブバージョンで再チェレンジしても良いかもしれません。そして本ライブのハイライト「The Cinema Show」。ドリーミーで牧歌的な音色をバックに穏やかに歌う前半歌メロパートも良いですが、聴きどころは何と言っても後半、怒涛の演奏パートでしょう。「ずっと俺のターン」とでも言わんばかりの、バンクスのキーボード劇場。若干不安定ながらも疾走感のある鍵盤タッチ、そして多彩な音色。そんなバンクスの牙城を切り崩しにかかるのは、コリンズとビル・ブラッフォードの手数の多いツインドラム。激しい演奏バトルを繰り広げ、あまりに凄まじい緊張感。完走し切った瞬間には思わずガッツポーズです。そして続く「Dance On A Volcano」。緩急が強烈で、テクニカルかつスリリングな楽曲ですね。原曲より若干速めなのもあり、よりスリリングな印象です。終盤にコリンズとチェスター・トンプソンのツインドラムを披露し、そのまま流れ込むようにラスト曲「Los Endos」へ。原曲以上にスリリングで、この楽曲のベストテイクでしょう。ハケットのギターやバンクスのキーボードが作る主旋律や華やかな装飾、ラザフォードのブイブイ唸るベースも良いですが、やはり恐ろしいほどの緊張感を放つツインドラムの魅力には敵いませんね。ライブでサポートドラマーがいるから成り立つ名演だと思います。
 
 
 数あるプログレのライブ盤でもトップクラスの名演でしょう。2枚組1時間半強の程よい長さなので聴きやすく、またDisc2についてはどれもがスタジオ盤を大きく上回る出来。ジェネシスファンなら必聴です。

Seconds Out
Genesis
 
Three Sides Live (スリー・サイズ・ライヴ)

1982年

 ジェネシスが3人体制になってからのライブ盤です。フィル・コリンズ(Vo/Dr)、トニー・バンクス(Key)、マイク・ラザフォード(Gt/B)の3人に加え、サポートにはチェスター・トンプソン(Dr)と、コリンズのソロで貢献しているダリル・ステューマー(Gt/B)。大半は1981年のアバカブツアーのライブ音源ですが何曲かは別の時期の音源を寄せ集めたもので、ラストの「It. / Watcher Of The Skies」だけは3人体制になる前のスティーヴ・ハケット(Gt)在籍時の音源で、ビル・ブラッフォード(Dr)がサポート参加しています。これだけは『セカンズ・アウト』に入れた方が良かったのでは…。
 
 
 Disc1はキャッチーなヒット曲「Turn It On Again」で開幕。ポップ期ジェネシスを代表する名曲ですね。ポップなメロディラインによく合うコリンズの歌は、ちょいちょいアレンジを加えて遊んでいます。難解さは欠片も感じませんが、一応13拍子という変則的なリズムを刻み、元プログレバンドの面影を感じさせます。「Dodo / Lurker」は重厚なイントロにシリアスな雰囲気が漂います。でもシンセサイザーバリバリだし、少しシリアスな歌ですがコリンズのキャラクターもあってか若干コミカルだしでポップさは失っていません。後半は派手に盛り上げます。続いて「Abacab」。比較的音数が少なくてシンプルですが、淡々としたダンスビートが気持ち良い。シンプルなフレーズが現れては消えていきますが、各楽器が目立ちますね。良質なポップ曲です。そしてドライブ感のある「Behind The Lines」へ。色鮮やかでキャッチーなシンセサイザー、のびのびとしたギター、そしてコリンズとチェスター・トンプソンのツインドラムが爽快な名曲です。後半に僅かに入る歌も良いのですが、演奏パートが断然魅力の楽曲ですね。そのまま続く「Duchess」はバンクスの鍵盤が重なり合ってドリーミーな感覚を生み出します。そしてメロディアスな歌に癒されるんですよね。少し哀愁の漂う「Me & Sarah Jane」を挟んで、名曲「Follow You Follow Me」。穏やかだけどリズミカルな演奏が、ポップで優しいメロディと合わさって、心地良い空間を提供してくれます。

 ここからDisc2、後半に突入。ポップで聴きやすい「Misunderstanding」を終えると、プログレ時代の名曲群が並びます。「In The Cage – Medley」はメドレーで、並んでいる楽曲は「The Cinema Show」と「The Colony Of Slippermen」。この並びから想像できるように、バンクスの怒濤の鍵盤ラッシュが吹き荒れます。笑 「In The Cage」が後半に向かうにつれてテンポアップしてどんどんスリルを増し、華やかなキーボードは更に派手な「The Cinema Show」を奏で出します。ここからドラムも手数を増やして非常にスリリングになるんですよね。そして「The Colony Of Slippermen」の少し怪しげでリズミカルな演奏で締め括り、そのまま「Afterglow」へ繋ぎます。前曲のスリリングなメドレーで高ぶった心を心地良い演奏で落ち着かせ、そして多幸感のあるサウンドで充実感を満たしてくれます。素晴らしいメドレーでした。そしてここから録音時期が変わります。「One For The Vine」。キーボードを中心に哀愁のメロディを奏でますが、コリンズの歌声のおかげか、切なさの中に温もりを感じさせます。但しファルセットは少し苦しそうです…。「Fountain Of Salmacis」はバンクスの多重キーボードが幻想的な楽曲の世界観を構築。ハケット不在を若干物足りなく感じつつも、ダリル・ステューマーは初期ジェネシスを上手く真似て荒々しいギターを弾いていますね。ややレアな選曲も嬉しいです。ラストはハケットが弾きビル・ブラッフォードが叩く「It. / Watcher Of The Skies」。ビル・ブラッフォードのスコンと抜けるドラムはジェネシスには合っていないものの、高い技術に裏付けされた、とてもスリリングでカッコ良いドラムを披露。原曲より速いのも良いですね。そこにバンクスの荘厳なメロトロンがフェードインして「Watcher Of The Skies」の演奏パートへ。ラザフォードのベースも魅力的です。そしてラストに浮遊するかのようなハケットのギター。ハケット、大きくは目立たないけど随所で良い仕事をするんですよね。
 
 
 Disc1は当時の最新作『アバカブ』中心にポップ期の楽曲が並びます。Disc2はプログレ時代の、これまでのライブ盤に入っていない楽曲を中心にセレクト。ポップ期楽曲は花開く直前、けれどプログレ選曲は若干少なめという中途半端な作品ではありますが、クオリティは高くてなかなか楽しめます。

 昔聴いたときになんか音がイマイチという印象を抱いたのですが、レビューにあたり聴き直してみると特にそんなことはありませんでした。1994年リマスターと2009年リマスターで変わったのか、それとも感性の問題か?なお2009年リマスターは単品販売していないようなので、下記リンクは1994年リマスター盤となります。

Three Sides Live
Genesis
 
The Way We Walk (ザ・シングル・ヒッツ・コレクション:ライヴ前編/もうひとつのジェネシス:ライヴ後編)

1992年/1993年

 1992年に『The Way We Walk Vol.1 The Shorts (ザ・シングル・ヒッツ・コレクション:ライヴ前編)』と題したコンパクトなヒット曲を集めたライブ盤、翌年に『The Way We Walk Vol.2 The Longs (もうひとつのジェネシス:ライヴ後編)』という前者を補完する長尺曲中心のライブ盤が続けざまにリリースされます。2009年のBoxセット『Genesis Live 1973-2007』においてこれらの2作が一緒になり、かつ曲順も変更されました。私はBoxセットで本作を聴いたのでこちらをレビューしますが、どうも単品販売していないのか、調べてもバラバラのものしか出てこないんですよね…。
 本作はポップバンド・ジェネシスとしてのライブ盤です。「Old Medley」というプログレ時代の名曲ハイライトのメドレーはありますが、ほぼポップ期のヒット曲が中心です。ジャケット写真、右手と右足が一緒に出ていますが、これは「I Can’t Dance」のPVでも見られるパフォーマンス。写真右からフィル・コリンズ(Vo/Dr)、トニー・バンクス(Key)、マイク・ラザフォード(Gt/B)の3人と、長らくサポートを務めてきたチェスター・トンプソン(Dr)とダリル・ステューマー(Gt/B)の2人が順に並んでいます。
 
 
 名曲「Land Of Confusion」で開幕。グルーヴィでダンサブルなリズムが爽快ですね。原曲より少しキレが悪いですが、キャッチーなメロディアスな歌は変わらず魅力的です。続いて「No Son Of Mine」はシリアスな雰囲気が漂います。こちらはドラムのメリハリが効いていますね。メロディアスですが、父から「お前は俺の息子じゃない」と言われトラウマを抱える子の心情を歌った歌詞で、コリンズの歌は悲痛な感じです。「Driving The Last Spike」は10分に渡る楽曲。序盤はメロウなAORでゆったりとしていますが、中盤からバンド演奏が力強くなっていきます。終盤はギターが開放的な感じ…でもちょっと長いかな。そして本ライブの目玉の一つ「Old Medley」。プログレ時代の名曲を20分のメドレーに纏めたもので、まずは「Dance On A Volcano」で開幕。クワイアによって重厚な雰囲気が出ていますね。原曲だと途中加速するところを、そうはせずに「The Lamb Lies Down On Broadway」へ繋ぎます。キャッチーな歌メロにラザフォードのベースがゴリゴリと響き渡ります。そして『セカンズ・アウト』でも見せたように「The Musical Box」の終盤パートへと繋ぎます。テンポが遅いので円熟味がありますが、迫真の歌唱は魅力的です。「え、もう終わり?」と錯覚させますが、そのまま続く「Firth Of Fifth」。バンクスの華やかなキーボード劇場が始まります。そしてスティーヴ・ハケットのスタイルをコピーするダリル・ステューマーのギター、上手いです。バックのドラムもとてもスリリングで、ジェネシスのファンでいて良かったと思える瞬間です。笑 そのままメドレー最後の「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」。ポップな歌を披露した後はコリンズがタンバリン片手にダンスしたり観客を煽っているのか、歓声が沸き立つんですよね。合間に即興で「That’s All」や「Illegal Alien」、「Follow You, Follow Me」などを歌いながら、最後にまた「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」のメロディに戻ってきてメドレー終了。とても聴きごたえがあります。「Throwing It All Away」はメロディアスな1曲。序盤と終盤ではコリンズと会場が掛け合いを行い、楽しげな雰囲気が伝わってきます。「Fading Lights」は10分超の楽曲で、序盤は眠くなりそうな心地良い音色で穏やかな印象。ですが中盤から目の覚めるようなパンチの効いたキャッチーなサウンドへ移行。ゆったりとしたテンポでテクニックひけらかしではありませんが、派手なシンセと力強いドラムが印象的。終盤に再びドリーミーな穏やかさを取り戻して終了。続いて「Jesus He Know Me」は疾走感のある楽曲。焦燥感を煽るようなスピード感のある演奏で、歌はメロディアスですが、速い演奏に合わせてまくしたてるような早口で、中々スリリングです。「Home By The Sea/Second Home By The Sea」は2曲セットのポップな組曲。これが好きなんですよね。歌メロには少し影を感じさせつつも、コリンズの歌声によってポップな印象へと変わります。また幻想的な音色をバックで奏でつつも、リズミカルでノリの良い演奏が前面に出てきてキャッチーな仕上がり。そして霊的な雰囲気を醸し出したあとの強烈なリズムビートで、後半パートへ突入。リズム隊の刻む心地良いビートに、バンクスのメロディアスなシンセが合わさって、幻覚的な世界へトリップできます。

 後半パートへ突入し、メロウな「Hold On My Heart」で開幕。ゆったりとした感覚でじっくり聴かせると、次はスリリングな「Domino」。前半パートはワールドミュージック的な要素を取り入れたポップ曲でメロディが魅力ですが、聴きどころは後半パートでしょう。テンポアップして緊張感が高まり、コリンズの歌も緊迫しています。そして力強いリズムビートはスリリングだけど、とても爽快なのです。「The Drum Thing (Drum Duet)」はコリンズとチェスター・トンプソンによる、ドラムソロならぬドラムデュエット。長年ライブを共にしてきた2人のドラムは息ぴったりで、途中テンポアップしても余裕で合わせていますね。続いて、コミカルでキャッチーな「I Can’t Dance」。音数少なくシンプルですがノリが良く、ソリッドなギターや炸裂するドラムがメリハリをつけています。終わりの盛り上がり方から、実際の曲順はラスト曲とかだったんでしょうか?次に「Tonight, Tonight, Tonight」、キーを下げておりメロディアスな印象です。少し枯れ気味の声で哀愁を誘います。そのまま名曲「Invisible Touch」へ。これもキーを下げていますが、キー下げによりメロディアスに感じられるので、ちょっとだけ大人びた印象に仕上がります。終盤はダンサブルなビート全開ですけどね。「Turn It On Again」はキャッチーな名曲。コリンズの歌は若干苦しそうですが…。途中ご機嫌な口調でメンバー紹介を始め、そのたびに会場が沸き立ちます。ライブならではのやりとりが楽しいですね。「Mama」が始まると会場の大歓声。怪しげだけど不思議とキャッチーなひねくれポップ曲で、「ハハーッハ!…アーオゥ」と不気味な笑い声が強く印象に残りますね。終盤は緊張感も高まり、かなりスリリングです。そしてヒット曲「That’s All」。思わず口ずさみたくなるメロディラインがとにかく魅力的で、シンプルな演奏は歌メロを堪能してねということでしょう。ほのぼのとしていて、何となく元気になれる1曲です。終盤はご機嫌なギターがリズミカルに演奏します。最後にメロディアスな「In Too Deep」。まったりとして円熟味のある歌がじんわりと染み入ります。
 
 
 一部楽曲は老いを感じつつもポップ期の名曲揃いで、コリンズ主導ジェネシスのファンには嬉しいライブ盤ですね。それにしても、長いキャリアなのにポップ化してからも名曲の多いこと。プログレ時代よりもバカ売れしたのも納得です。

The Way We Walk Vol.1 The Shorts
Genesis
The Way We Walk Vol.2 The Longs
Genesis
 
Live Over Europe 2007 (ライヴ・オーヴァー・ヨーロッパ 2007)

2007年

 1998年に惜しくも解散したジェネシス。スティーヴ・ハケットピーター・ガブリエルを誘って再結成を画策。他メンバーも乗り気になり気運が高まったものの、直前でガブリエルが拒否したらしく、ガブリエル抜きだと居づらいのかハケットも復帰を断念。結局フィル・コリンズ(Vo/Dr)、トニー・バンクス(Key)、マイク・ラザフォード(Gt/B)の3人体制ジェネシスでの再結成となりました。そこに30年来の盟友であるチェスター・トンプソン(Dr)とダリル・ステューマー(Gt/B)の安心の顔ぶれがサポートします(ガブリエルやハケットより経歴長いし笑)。ちなみに再結成に関してレイ・ウィルソンには声が掛からず、不満を表明していました…。そんな本作は2007年に行われた再結成ジェネシスによるオールタイムベスト選曲のライブ盤です。欧州ツアーの様々な公演からベストテイクを寄せ集めていますが、繋ぎ方には全く違和感ありません。
 キレのある楽曲もありますが、コリンズの声が出ないからとキーを下げている楽曲もあり、一部に老いも感じさせます。『セカンズ・アウト』の方が演奏力的には上でしょう。…でも私はジェネシスのライブ盤だと本作が一番好みなんです。たとえ懐メロ大会であろうとも。笑 このツアーの模様を納めたDVD『ホエン・イン・ローマ…ジェネシス 2007』が見事で、このライブ映像に魅せられたことも本作の過大評価に繋がっているかもしれません。
 
 
 インストゥルメンタル「Duke’s Intro」で華やかにライブの幕開け。私はトレーラー映像だかでこれにノされて、『デューク』を聴いてジェネシスにドハマりしたんですよね。ド派手なバンクスのシンセサイザー、コリンズとチェスター・トンプソンのツインドラム、ラザフォードのご機嫌なギター、ラザフォードと交代でギターやベースを弾くダリル・ステューマー。5人のアンサンブルは「Behind The Lines」の前半パートと「Duke’s End」を奏でますが、これがとてもカッコ良いのです。原曲より少し遅いですが、初めて聴くには十分すぎる魅力を備えていました。そのまま続く「Turn It On Again」はキャッチーなメロディの名曲。コリンズの優しい歌唱には良い意味での円熟味が感じられ、全盛期のキレのある歌とも違う魅力を放っています。そして円熟味を活かした「No Son Of Mine」。シリアスな雰囲気を纏ったメロディアスな楽曲で、渋みのある歌が切ない歌詞(「お前は俺の子じゃない!」というトラウマ)を引き立てます。演奏ではチェスター・トンプソンのキレのあるドラムが印象的。そして「Land Of Confusion」ではリズミカルなダンスビートに思わず乗せられます。演奏はノリノリですね。メロディアスでキャッチーな歌は、少し円熟味を帯びていても魅力たっぷり。一緒に口ずさみたくなります。そして本作のハイライトとなるメドレー「In The Cage/The Cinema Show/Duke’s Travels」。曲目を見て連想できるとおり、定番のバンクス劇場ですね。笑 「In The Cage」で静かに、神秘的に幕開け。そして徐々に盛り上がってくると訪れる、バンクスの華やかな鍵盤ソロの見せ場。コリンズの歌とオルガンが併走した後に「The Cinema Show」へ。鍵盤が作り出すカラフルな世界は本当に魅力的。鍵盤タッチの覚束ない感じがよりスリルを増します。笑 コリンズとチェスター・トンプソンのツインドラムや、終盤のメロディアスなベースも良いですね。そして半ば強引に「Duke’s Travels」へ繋ぎますが、これも煌びやかな鍵盤によって、パレードのような素敵な世界を旅行できます。終盤ラザフォードのご機嫌なギターも昇天するかのような至福の時間。あまりに素晴らしいメドレーを終え、「Afterglow」で締めるのもまた定番ですね。華やかでスリリングなメドレーでかいた汗を流す温泉のような、温もりのあるメロディアスな楽曲が魅力。コリンズの円熟味を増した歌が、より深く癒してくれるような気がします。メロウなAOR「Hold On My Heart」でしっとりとした歌を聴かせた後は、ポップ期の名曲「Home By The Sea/Second Home By The Sea」。リズミカルでメリハリのあるビートに幻想的なキーボードという組合せが不思議な浮遊感を生み出します。そしてキーを下げているものの、口ずさみたくなるキャッチーなメロディは相変わらず良いですね。そして力強いドラムビートを皮切りに後半パートへ突入すると、幻想的な感覚は残しながらもダンサブルになります。続く「Follow You Follow Me」もポップな楽曲ですね。リズミカルな演奏をバックにメロディアスで優しい歌メロ。聴いていると心地よく揺られます。そしてプログレ時代の「Firth Of Fifth」。中盤の華やかな鍵盤パートから始まるハイライト構成ですね。ここでの見せ場はダリル・ステューマーのギターソロでしょう。ハケットの演奏スタイルにかなり似せているし、長年そういうライブ演奏をしてきたのでうまく馴染んでいます。そのまま続く定番曲「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」。キャッチーなメロディラインを円熟味のある声で歌い、後半はタンバリン片手に会場を煽ってみせるコリンズ。会場のノリノリの歓声は本当に楽しそう。

 ライブは後半へ突入。「Mama」の怪しげなイントロで始まり、「ハハーッハァ!…アーオゥ」という不気味な笑い声が強烈なインパクト。でもこれが意外に癖になるポップソングなんですよね。チェスター・トンプソンの力強いドラムも魅力です。そしてプログレ期の名バラード「Ripples…」。メランコリックな歌メロとアコースティックなサウンドが秋っぽい雰囲気。渋さを得た歌声でしんみりとしたメロディを歌いますが、切なくも美しくて涙を誘います。中盤の間奏もエモーショナルなギターにピアノがよく合う。感傷的な演奏に思わずため息が出ます。再びポップ期に戻して「Throwing It All Away」。コリンズと観客が交互に歌い合う序盤のノリの良さはライブならではですね。爽やかで少し切ないメロディを歌いこなすと、再び観客とのやり取り。そして後半の見せ場の一つ「Domino」。ワールドミュージックに影響を受けた神秘的な雰囲気の前半を終えると、強烈なビートに華やかなキーボードなどエレポップ全開。ノリノリでキレのある演奏で楽しませてくれます。続いてドラムデュエット「Conversations With 2 Stools」。これ、音だけ聞くと若干「?」なのですが、映像を見るとコリンズとチェスター・トンプソンが向き合ってスツールを同じように叩き合い、盛り上がってくると二人ともドラムセットへ移動してドラムを叩き合うんです。音だけだと後半のスリリングなドラムバトルが凄いのですが、映像を見ると息ぴったりの前半にも驚かされます。そしてドラムバトルが加速し白熱してきたところで疾走インストゥルメンタル「Los Endos」へ。素晴らしい繋ぎ方ですよね。ツインドラムが素晴らしいですが、ラザフォードのベースも中々魅力的です。そしてバンクスが多重キーボードで盛り上げます。そしてワールドミュージックを取り入れた「Tonight, Tonight, Tonight」でポップなメロディを聴かせた後、そのまま途切れず続くラスト曲「Invisible Touch」。ポップ期の名曲ですね。キーを下げて円熟味を増していますが、キャッチーなメロディは耳に残ります。最後に花火を打ち上げて終了。
 そしてアンコール1曲目は「I Can’t Dance」。手拍子に導かれ、シンプルながらリズミカルな演奏が楽しい。歌メロもキャッチーなので口ずさみたくなりますね。最後は「The Carpet Crawlers」。静かな歌は憂いに満ちていて、ピアノとギターが憂いと浮遊感を作り出します。しんみりとしつつも優しい名曲でライブを締め括るのでした。
 
 
 プログレ期とポップ期から満遍なく名曲をセレクトしたオールタイムベストライブです。音質もクリアで文句なし。唯一、老いを許せるかどうかで評価が大きく分かれるでしょう。個人的には円熟味があって良い老い方をしてると思うので高評価です。DVD『ホエン・イン・ローマ…ジェネシス 2007』も合わせてオススメしたいですね。

Live Over Europe 2007
Genesis