🇯🇵 Golden City Factory (ゴールデン・シティ・ファクトリー)

レビュー作品数: 3
  

同人作品:東方アレンジ

猫物語 -ネコモノガタリ-

2009年

Golden City Factory『猫物語 -ネコモノガタリ-』 Golden City Factoryは、Kiyomaの主宰する同人サークルです。同人誌や同人音楽などを幅広く手掛けるサークルで、2005年頃〜2012年頃まで活動していました。
 そしてこの物語シリーズは、同サークルのBugbeardがプロデュースを手掛ける、東方オンリーの生演奏ジャズアレンジ作品群となります。参加メンバーは峯ひろみ(Pf/Arr)、篠昌弘(B)、公手徹太郎(Dr)、佐藤慎吾(Gt/Arr)ですが、ギターの出番は僅かで実質ピアノトリオ構成です。本作は『東方地霊殿』オンリーの、しっとりとしたピアノジャズアレンジに仕上がっています。東方オンリーイベント、東方紅楼夢5で頒布されました。

 オープニングを飾るのは「地霊達の起床」。暗いトーンながら、濁りのないピアノが憂いを誘います。1分過ぎた辺りからドラムが加わり、ベースと合わさって跳ねるような心地良さを与えてくれます。終盤は中々スリリングですね。
 続く「暗闇の風穴」はスローテンポのピアノが、暗く悲哀に満ちた音色を奏でます。切なげなピアノが終始リードしますが、ウッドベースの音も魅力的。
 「渡る者の途絶えた橋」は跳ねるようなピアノとベースに、小気味良いドラムがリズミカルな演奏を繰り広げます。時折ミニマルなフレーズを繰り返して耳に残ります。
 「緑眼のジェラシー」は序盤から悲壮感たっぷりのピアノで絶望感を与えますが、徐々にしっとりと大人びたジャジーな演奏に変わっていき、傷を癒やすかのよう。終盤はウッドベースが主軸となります。
 続いて「旧地獄街道を行く」は落ち着いたオシャレなジャズを展開します。ジャジーで気持ちの良いリズム隊に、軽やかなピアノが乗ります。後半ではアコースティックギターが加わり、爪弾く音色が魅力的。
 「ハートフェルトファンシー」は躍動感たっぷりで、思わず踊り出したくなるような演奏を繰り広げます。旋律はメロディアスですが、程良くスリリングな演奏はとても楽しそうで、聴いていてワクワクしてきます。
 そしてメロディアスな「少女さとり ~ 3rd eye」。ピアノは原曲を踏襲した暗鬱なフレーズを奏でつつも、原曲の持つダークゴシックな雰囲気は控えめで、落ち着いたオシャレなアレンジに纏め上げています。
 「死体旅行 ~ be of good cheer」は、主旋律を奏でるピアノが、明るめのトーンながらもどこか切ない雰囲気を醸します。ハイハットを活用したドラムがオシャレ。所々にドラムソロを挟む演出も良いですね。
 そして「業火マントル」は低音を効かせて、本作では最も緊張感に溢れています。冒頭からとてもスリリングに始まりますが、途中から躍動感のある演奏によって、楽しい雰囲気も混ぜ込んでいきます。
 「ラストリモート」は原曲の持つ哀愁のメロディをピアノの美しい音色で奏でていて、切なさにキュッとなります。ベースやドラムもピアノの主旋律を引き立てていていますね。そして終盤の緊張感を高めた後の、メロディの美しさに思わず涙。原曲の良さも相まって、本作では一番魅力的なアレンジだと思います。
 「地霊達の帰宅」は怪しげな重低音が耳に残ります。序盤は比較的単調ですが、中盤から少しずつ激しさを増していきます。
 そして最後に「プレイヤーズスコア」。この楽曲アレンジってかなり珍しいですね。深みのあるピアノが、神秘的な雰囲気を醸し出します。

 個人的には『東方地霊殿』をほとんどやり込んでいないので、原曲への愛着の低さがそのまま評点になっていますが、カフェで流れていても違和感のないオシャレなジャズを繰り広げます。

 
風物語 -カゼモノガタリ-

2010年

Golden City Factory『風物語 -カゼモノガタリ-』 Golden City Factoryによる、物語シリーズの第2弾は『東方風神録』オンリーのピアノジャズアレンジ作品です。前回と同じメンバーラインナップで制作されました。同人サークル慢性自殺のshiniaが描く、柔らかいタッチのジャケット絵も素敵です。楽曲の方は原曲のメロディを重視していて、秋めいて郷愁を誘う東方風神録の世界観にピッタリの落ち着いた雰囲気のジャズアレンジに仕上がっています。東方紅楼夢6で頒布されました。

 アルバムは「封印されし神々」で幕開け。篠昌弘の弾くウッドベースソロから、ピアノとドラムが入るという、冒頭から鳥肌ものです。流麗なピアノは美しくてどこかノスタルジック、そして落ち着いているのに変化に富んだドラム。どれも魅力的で、1曲目に相応しい良曲です。
 「人恋し神様 ~ Romantic Fall」は冒頭のピアノから、何かが始まるような期待を抱かせます。そして峯ひろみの弾くピアノは、原曲譲りの郷愁を誘うメロディを美しく奏でるんです。中盤は躍動感を増し、公手徹太郎が激しいドラムで魅せてくれます。
 続く「稲田姫様に叱られるから」は、ピアノが切なげでノスタルジックな音色を奏でます。卒業式とかにも合いそうなしっとりとしたメロディに浸っていると、ドラムが楽曲を盛り上げてくれます。美しくて涙を誘います。
 「厄神様の通り道 ~ Dark Road」はパーカッションを駆使した、プリミティブな雰囲気のドラムが特徴的。原曲のような怪しさはありませんが、透明感のあるピアノやリズミカルな演奏が魅力のアレンジに仕上がっています。
 「神々が恋した幻想郷」は原曲のノスタルジックなメロディを活かしつつ、しっとりと落ち着いたメロウなジャズアレンジに仕上げています。
 続いて「芥川龍之介の河童 ~ Candid Friend」。原曲は3拍子なのに対し、本楽曲は5拍子を軸に展開するので、少しトリッキーな感じがします。そうした違和感でフックをかけつつ、ジャジーな音色の気持ち良さでまた魅せられるんです。
 そして本作のハイライトとも言える楽曲「フォールオブフォール ~ 秋めく滝」。勢いのあるベースやドラムが高揚感を煽りつつ、透明感のあるピアノがメランコリックな音色を流麗に奏でるんです。原曲の雰囲気を大切にしつつ洗練されたジャズを展開、秋色に染まったゲームの場面が目に浮かぶよう。美しくてスリリングな名アレンジで、大好きな楽曲です。
 「少女が見た日本の原風景」はしっとりとしたピアノが、陰りのあるメロディを奏でます。切なくて、でもゆったりとしたテンポに心地良さも感じます。
 そして「信仰は儚き人間の為に」は、原曲譲りの陰りのあるメロディに加えて速めのテンポで焦燥感を煽りつつも、透明感のあるピアノやドラムの優しいタッチに癒やしの要素もあります。そしてジャジーなベースも中々良い。リズミカルで、高揚感を掻き立ててくれます。
 「神さびた古戦場 ~ Suwa Foughten Field」はピアノに少しだけサスペンスドラマ感があったり。笑 良くも悪くもラスボス感は薄く、カフェで流れていそうな落ち着いたアレンジです。
 ラスト曲は「麓の神社」。佐藤慎吾によるギターソロ曲で、アコースティックで温もりのある音色ながら、旋律はしっとりとして憂いたっぷり。良質なアレンジで、個人的には寂れた山小屋で耽っているようなイメージが浮かびます。

 東方風神録オンリーのアレンジ作品では本作が決定盤だと思っています。物語シリーズの次作『紅物語 -アカモノガタリ-』とも甲乙つけがたい傑作です。

 
紅物語 -アカモノガタリ-

2011年

Golden City Factory『紅物語 -アカモノガタリ-』 物語シリーズ第3弾は『東方紅魔郷』オンリーのピアノジャズアレンジです。これまで同様に、Bugbeardがプロデュースを手掛け、峯ひろみ(Pf/Arr)、篠昌弘(B)、公手徹太郎(Dr)、佐藤慎吾(Gt/Arr)が参加しています。
 個人的に『東方紅魔郷』の楽曲が大好きなことに加えて、本作は原曲のメロディの良さを最大限引き立てていて、東方紅魔郷オンリーのアレンジ作品では最高峰だと思っています。

 オープニング曲は「ほおずきみたいに紅い魂」。憂いのあるメロディアスなピアノを主軸に、ゆったりとして落ち着いた楽曲を展開します。音量は静かなものの、手数多くカチャカチャ鳴らすドラムがジャジーで良いですね。
 「妖魔夜行」は透明感のあるピアノが、キャッチーな旋律を奏でるので惹かれます。全体的にはまったり落ち着いたムード。
 続いて「おてんば恋娘」。比較的テンポは速いものの、チルノのキャラクターのようなおバカ感は無くて、オシャレで理知的な雰囲気です。笑 軽やかなピアノが原曲譲りのキャッチーなメロディをピアノが奏で、ドラムが楽曲に疾走感を持たせます。終盤にはドラムソロも聴かせてくれます。
 「上海紅茶館 ~ Chinese Tea」はスローテンポなアレンジで、美しくメロディアスなピアノ旋律にしっとりと浸れます。透明感のあるピアノがとても素敵な1曲ですが、ウッドベースの温もりある音も魅力的なんです。
 続く「明治十七年の上海アリス」はシリアスな雰囲気の3拍子で始まりますが、そこから疾走感のある演奏へと変貌。ドラムが高揚感を掻き立て、流麗なピアノも速いテンポで煽ります。ミドルテンポの落ち着いたパートと疾走パートを交互に繰り返して、緩急に富んだスリリングなアレンジに仕上がりました。
 「ラクトガール ~ 少女密室」は、冒頭で緊迫感のあるピアノを聴かせ、楽曲が進行するとメランコリックな主旋律を奏でるピアノと、金物を多用したドラムがリードします。高音を担うピアノに対し、ベースによる重低音による対比もアクセントになっていますね。メロディの良さだけに頼らず、演奏にもメリハリがあってとても良いです。
 そして本作のハイライト「メイドと血の懐中時計」。原曲は東方で一番好きな楽曲なんですが、このアレンジも負けず劣らず魅力たっぷり。特にピアノによるトリルがとても美しく、いつまででも聴いていられる中毒性があります。原曲から攻撃性を抜いて、ゆったりと落ち着いたテンポで奏でられる演奏は、お嬢様と瀟洒なメイドの優雅なティータイムを描いているかのよう。
 続く「月時計 ~ ルナ・ダイアル」は、優雅な前曲との対比でアルバムの流れにメリハリをつけるハードな1曲。冒頭は本作中最もヘヴィで、その後ベースとピアノが重低音で引き締めます。高音と低音を使い分けるピアノが印象的で、またミニマルなフレーズの反復も耳に残るんですよね。
 「ツェペシュの幼き末裔」は思わず踊り出したくなるようなリズミカルな1曲です。軽やかなピアノに、跳ねるようなリズム隊が心地良いです。
 そして名アレンジ「亡き王女の為のセプテット」。原曲の持つ素晴らしいメロディを引き立てるためか、ピアノは比較的シンプルな印象ですが、それを手数の多いドラムによって装飾しています。中々に良質なアレンジで好感持てます。
 続いて「U.N.オーエンは彼女なのか?」。落ち着いたジャズアレンジによって原曲の持っていた狂気性は薄らいでいますが、複雑なフレーズとキャッチーな主旋律を使い分けながら、魅力あるアレンジに仕上がっています。
 最後に「紅楼 ~ Eastern Dream…」。冒頭1分はスローテンポに奏でるピアノが雄大な雰囲気を醸し出しますが、そこからリズミカルなノリで心地良いジャズを奏で始めて、リラックスした空気に変わります。

 東方ジャズとして高いクオリティの名盤なのでオススメします。そして個人的には、数ある東方アレンジ作品の中でも再生回数1,2位を争う、とても思い入れのあるお気に入りの1枚です。

 このシリーズは本作で終わりとなりますが、この高いクオリティで『東方妖々夢』や『東方永夜抄』も聴いてみたかったです。

 
 
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