🇯🇵 羊文学 (ひつじぶんがく)

スタジオ盤②

メジャー移籍

POWERS

2020年 2ndアルバム

 塩塚モエカ(Vo/Gt)、河西ゆりか(B)、フクダヒロア(Dr)の3名体制は変わらずに、2020年8月にソニー・ミュージックレーベルズのF.C.L.S.へと移籍。デジタル配信シングルを矢継ぎ早に4曲リリースした後、同年末にメジャーでは初のフルアルバムとなる本作をリリースします。なお、ミックスのせいで以前より感じていたきのこ帝国っぽさがより増した印象。

 オープニング曲は「mother」。ノイジーで不穏なギター、力強い低音を刻むベースとドラムが焦燥感を煽り立てます。メジャーに移ったのにインディーズ時代よりも音が悪くて歪んだ演奏、そして演奏とは対照的に塩塚の歌とコーラスは透明感を増しています。「Girls」は躍動感のあるパンキッシュな演奏から、弾けるように始まります。演奏は荒っぽく暴れているのに歌メロはポップで、さらにボーカルを引き立てるかのように重ね録りしているようです。続く「変身」はキレのあるギターに加えて、リズミカルなベースラインとドラムが気持ち良い。キャッチーでノリの良い楽曲です。「ハロー、ムーン (album mix)」は僅か2分足らずの楽曲です。ぼんやりとした音像とエコーがかかったボーカルが、シューゲイザー的なドリーミーな世界を作り出します。ポップセンスが光りますが、ボーカル音量がちょっと大きすぎてミックスのバランスが悪い印象。「ロックスター」は6/8拍子を取り入れたリズミカルな演奏に乗せ、牧歌的な歌を披露します。心地の良い1曲です。そして7分に渡る「おまじない」はスローテンポの楽曲です。哀愁を醸しつつも素朴で淡々とした演奏、でも中盤には美しい轟音ギターで塗り潰します。終盤は幻想的なコーラスと反復によって多幸感に溢れます。「花びら」は6/8拍子の楽曲。シンバルを多用したドラムや暴力的なベースと、幻想的なコーラス&伸びやかな歌が対照的です。激しさと美しさを同居させて印象に残ります。「砂漠のきみへ」は多幸感のあるコーラスが特徴的なドリームポップ曲。スケール感があって澄み切った本楽曲は、砂漠というよりは巨大な滝とかマイナスイオンに溢れるイメージです。ラストのギターの美しさに昇天。そして表題曲「powers」。序盤は力強い演奏に気だるげなボーカルを乗せてじっくり聴かせますが、1分辺りからテンポアップ。駆け出したかと思えばまたテンポを落としたりと、トリッキーな構成が印象的です。「1999」は羊文学の代表曲となるクリスマスシングル。イントロでは感じませんが、楽曲が進むと透明感のあるギターや美しいコーラスワークにクリスマス感が出てきます。ポップで口ずさみたくなるメロディや、よく動くベースも魅力的です。「あいまいでいいよ」は晴れやかですが、憂いのあるメロディラインが切ない。そして伸びやかなサビメロの歌唱や終盤の大サビの美しいこと。演奏には凝った趣向はありませんが、純粋にメロディと歌唱の美しさに魅せられ、思わず涙が込み上げる1曲です。最後は「ghost」。スローテンポのずっしり重たい演奏が影を落としますが、2分手前辺りで3拍子の優しい雰囲気へと変わります。そして後半再び重厚さを増すと、これがまたドラマチックな仕上がり。どこまでも伸びる歌唱も美しいです。
 最後に15分の空白を挟んで、「人間だった」のアコースティックバージョンが隠しトラックとして始まります。原曲や歌詞に見られる怒りはこのバージョンでは感じられず、リラックスした優しい演奏に、コーラスワークも含めて美しい歌に浸ることができます。

 音が悪いものの力強くスリリングな演奏と、際立ったボーカル、透明感のあるコーラスワークが特徴的です。ミックスについては良し悪しあるものの、全体的にはキャッチーで聴きやすい作品です。

POWERS (CD+DVD)
羊文学
 
you love

2021年 5th EP

 本作は、アニメ映画『岬のマヨイガ』のタイアップ楽曲「マヨイガ」を軸に据えたEPです。「家」「帰る場所」をテーマに制作され、アートワークにはメンバー3人の幼少期の写真が用いられています。

 リードトラック「マヨイガ」で幕開け。フクダヒロアのドラムが高揚感を掻き立て、河西ゆりかのベースが心地良いグルーヴを響かせます。そしてサビ以外は歌よりも印象的な、美しいコーラスワークも捨てがたいですね。「あの街に風吹けば」はイントロなく歌で始まるキャッチーな楽曲で、塩塚モエカによるポップな歌に加えて、バックのオルタナ的な演奏がノリ良くて躍動感に溢れています。浮遊感溢れる分厚いコーラスと伸びやかなボーカル、グルーヴたっぷりの演奏を繰り広げる中盤パートも魅力的です。続いて「なつのせいです」はっぴいえんどの「夏なんです」をリスペクトしたのだそう。アコギを取り入れた温もりのあるサウンドが心地良いですね。でも途中に轟音ギターも欠かさず入れてきて、羊文学らしさも忘れていません。「白河夜船」は自主制作盤からの再録。波の音や自転車等の環境音をバックに、優しいアコギを鳴らして弾き語りをします。なおこの環境音は、メンバーそれぞれが家の周りで録ったものだそう。「夜を越えて」は少し暗くて緊張の張り詰める演奏をバックに、メランコリックで透明感のある歌が響きます。切なくも清涼感があります。そして最後に「マヨイガ with 蓮沼執太フィル」。打ち込みを用いた電子的な楽器に加えてサックスやフルートを用いた演奏が独特で、ロックバンド羊文学の演奏とはまるで別物です。でもこの演奏と塩塚の歌は意外と合っているんですね。

 アコギや電子音楽など新しいアプローチも行われています。「マヨイガ」と「あの街に風吹けば」が個人的には好みです。

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羊文学
 
our hope

2022年 3rdアルバム

 メンバーはまだ24〜25歳ながら、結成10周年を迎える羊文学。作詞作曲を手掛ける塩塚モエカが、2年間の新宿暮らしの経験や感じたことを楽曲に書き起こしたそうです。よりスケールアップした印象で、様々なアプローチによる変化も見られます。

 オープニングを飾る「hopi」とは「平和の民」を意味するそうです。エフェクトをかけて幽玄な雰囲気の演奏と、幻想的な多重コーラスによって多幸感に溢れるドリームポップに仕上がっています。ゆったりとしていて神秘的で、深い霧に包まれるかのような感覚です。続く「光るとき」はアニメ『平家物語』のOP曲に起用されました。音像のボヤけた塩塚モエカのギターと、躍動感のあるフクダヒロアのダイナミックなドラムが高揚感を掻き立てます。そしてサビに向けて徐々に霧が晴れるように、明るく希望に満ちた光景が広がり、河西ゆりかの骨太なベースがガッチリとサポート。サビでの伸びやかな歌唱も魅力的だし、アウトロのギターも美しいですね。「パーティーはすぐそこ」はイントロなく始まる楽曲で、塩塚の歌をシンプルな演奏で引き立てます。サビメロはキャッチーな歌メロと弾けるような演奏で清涼感たっぷり。「電波の街」はポストパンク的な、重低音を掻き鳴らしながら焦燥感を煽り立てる演奏がスリリングです。メランコリックで陰のあるメロディも、ひりついた雰囲気を増長させます。続く「金色」も、若干不協和音のようなザラついた演奏で、割と隙間のある演奏なのに不穏な空気が立ち込めます。歌メロもかなり独特で、変なメロディを気だるげに癖のある歌唱で歌い上げますが、洋楽っぽい。一転して「ラッキー」はキャッチーでポップな歌メロで始まります。リズミカルな演奏もポップなメロディを引き立てて、高揚感を掻き立てます。「くだらない」は透明感のある塩塚の歌をフィーチャーして、演奏は静かに始まります。そしてフクダのドラムが加わって少しずつ楽曲にメリハリが生まれます。「キャロル」はオルタナ的な雰囲気たっぷりで、爽やかだけど哀愁が漂います。リズミカルな演奏の中でよく動くベースがカッコ良い。浮遊感のあるコーラスワークも気持ち良いですね。「ワンダー」は6/8拍子の楽曲で、ゆったりと優雅な歌メロと手数多めでタイトなドラムが対照的です。揺られるような演奏と重ねたコーラスに心地良さを感じます。そして意欲的な1曲「OOPARTS」。シンセサイザーを導入して近未来的な電子音が鳴りますが、塩塚の歌はむしろプリミティブで神秘的な雰囲気が漂います。中盤には力強いドラムが加わって、バンド然とした羊文学らしさが出てきます。ラストには唐突な転調でフックをかけてきます。そして名曲「マヨイガ」。アニメ映画『岬のマヨイガ』のタイアップ曲です。イントロからノリの良いリズム隊と美しいコーラスワークが高揚感を掻き立てます。AメロBメロのあっさりとした歌メロと淡々としたミニマルな演奏、そしてサビは開放感を伴ったメロディアスな歌と動的な演奏という緩急ある構成も良いです。中でも一番魅力的なのは耳に残るコーラスですね。そして最後は「予感」。アコギをゆったりと鳴らして、カントリー風のリラックスした楽曲を展開、囁くような歌も優しいです。そして2分過ぎて終わった…かと思えば、ゆったりとした空気感はそのままに、歪んだギターを大音量で鳴らして主張の激しいカントリーロックに変貌。最後はアコギに戻して、静かに締め括ります。

 オルタナに留まらず、ポストパンクやルーツロックにもアプローチするなどバラエティ豊富で、彼らの成長を感じさせます。若干取っ散らかった印象なのと、素朴で等身大な初期の彼らからだいぶこなれて洗練されたことへの寂しさを感じてしまいます。

our hope
初回限定盤 (CD+BD)
羊文学
our hope
通常盤 (1CD)
羊文学
 
12 hugs (like butterflies)

2023年 4thアルバム

 アニメ『呪術廻戦』のタイアップで、ロックファンだけでなく一般的にも知名度が上がったであろう羊文学。そんな彼女らの1年7ヶ月ぶりとなる新作です。

 オープニングを飾る「Hug.m4a」は短い塩塚モエカによるアコースティックな弾き語り曲で、デモテープのような感じの感触です。続く「more than words」はアニメ『呪術廻戦』のED曲。シンセが飛び交うところに真新しさを感じます。フクダヒロアの叩く4つ打ちのビートがダンサブルで気持ち良く、また河西ゆりかの力強いベースが躍動感を加えます。リズム隊がしっかりと下支えしているから、ファルセットやコーラスを駆使した浮遊感のある歌が映えますね。「Addiction」はエフェクトで歪ませたギターが印象的なフレーズを反復する、グランジーで骨太なロック曲。これがめちゃカッコ良いんですよね。ノイジーな演奏と、塩塚のクリアーな歌声の対照的な要素が魅力的です。「GO!!!」はファンク色が強く、グルーヴィでノリが良いです。これまでの彼らには無かったタイプの楽曲ですね。そして「永遠のブルー」はNTTドコモのCMソング。躍動感のあるロック曲です。爽やかながらもどこか素っ気ない感じで進行しますが、美しいコーラスワークに彩られたサビメロで多幸感が溢れ出します。澄んでいてとても綺麗です。「countdown」はノリの良い演奏ながらも、どこか冷めた感じの歌唱がクールな1曲です。野太い合いの手にビックリ。「Flower」は静かでまったりとした楽曲です。ですが途中からギターを歪ませ、羊文学らしいオルタナ的な感覚が感じられます。続く「honestly」はイントロなしに始まる楽曲で、アンニュイにゆったりと聴かせる歌と、細かく刻んで煽り立てるようなドラムが対照的です。楽曲展開が独特な印象。「深呼吸」は、前半は比較的大人しいサウンドで、塩塚の歌をフィーチャーした感じに進行。後半ではオルタナ的なギターをボリュームアップして楽曲を盛り上げます。続いて「人魚」。素朴な仕上がりですが、サビメロではノイジーな演奏で盛り上げる王道な展開にグッときます。全編を通してアンニュイな歌唱が魅力的で、またラストの昇天するようなギターも美しい。3分足らずの「つづく」は短いイントロで始まります。楽曲は淡々としていて起伏も少ない単調な感じながらも、フクダの刻むビートが高揚感を掻き立てます。ラスト曲は「FOOL」。短いイントロを経て歌が始まります。けたたましい轟音の演奏に、コーラスワークを駆使した透明感のある歌声という、シューゲイザー的なサビメロがとても美しい。羊文学らしい楽曲でアルバムを締め括るのでした。

 「more than words」でのシンセの導入を始め新しい試みも見られますが、芯の部分は変わらず羊文学らしいオルタナ的な楽曲で魅せてくれます。

12 hugs (like butterflies)
初回限定盤 (BD+CD)
羊文学
12 hugs (like butterflies)
通常盤
羊文学
 
 
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