🇬🇧 Iron Maiden (アイアン・メイデン)

スタジオ盤②

エイドリアン・スミスの脱退

No Prayer For The Dying (ノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイイング)

1990年 8thアルバム

 作曲や演奏面でアイアン・メイデンに大きく貢献してきたギタリスト、エイドリアン・スミスが脱退してしまいます。後任にはヤニック・ガーズ(Gt)を迎えました。メンバーラインナップはスティーヴ・ハリス(B)、ブルース・ディッキンソン(Vo)、デイヴ・マーレイ(Gt)、ニコ・マクブレイン(Dr)に、新任ヤニック(Gt)。またサポートとしてマイケル・ケニー(Key)が参加。エイドリアン不在の穴が大きく、更にブルースの喉の調子も良くないのか、本作はイマイチな楽曲ばかりでほとんど聴くことがありません。

 疾走曲「Tailgunner」で幕開け。イントロに緊張感があって、本作の中では良い楽曲です。ベースをはじめリズム隊の刻むフレーズも中々良いですね。しかし名曲が多かったこれまでのオープニング曲に比べると、本楽曲はメロディが弱く、あまり印象に残りません。続く「Holy Smoke」は明るく爽やかな楽曲です。ですがブルースは喉を痛めたか、これまでのような驚異的なハイトーンボイスは無く、しゃがれ声でやや単調に歌います。まともに歌えていたら、キャッチーさに磨きが掛かって好印象に仕上がっただろうに残念。表題曲「No Prayer For Dying」はしゃがれたブルースの声がグラハム・ボネットみたいに聞こえます。哀愁を帯びたミドルテンポの楽曲は途中でテンポアップ。バッキバキのスティーヴのベースをはじめアイアン・メイデン節を見せてくれます。後半はスリリングで中々楽しいですね。続く「Public Enema Number One」はなかなか良くて、ハモるツインギターにパワフルな歌唱を展開。後半パートを彩るギターソロが爽快です。「Fates Warning」は迫力あるパワフルな演奏に哀愁が漂います。演奏はストレートですがメロディは比較的キャッチーで、ツインリードギターのメロディアスなフレーズは惹かれます。「The Assassin」は怪しげで緊張に満ちています。盛り下がる(?)サビメロはオリエンタルな香りが漂います。憂いのあるアルペジオで始まる「Run Silent Run Deep」は「Powerslave」のような中東風の雰囲気が特徴的(件の名曲には到底及びませんが…)。メロディアスな楽曲です。続く「Hooks In You」はストレートなロックンロールナンバー。明るく爽やかなこの疾走曲は脱退したエイドリアンの作曲で、彼の置き土産でした。続く「Bring Your Daughter… To The Slaughter」は全英1位獲得シングル。映画『エルム街の悪夢』のサントラ提供曲だったものを収録したのだとか。しゃがれた歌声がちょっと気になりますが、メロディはキャッチーで口ずさみたくなります。そしてラスト曲「Mother Russia」。前作『第七の予言』に通じるひんやりとした空気感は中々ですが、メロディがあまりにパワー不足で、今ひとつな印象が強いです。

 所々にハッとする場面はありますが、全体的に地味な印象は否めません。突出した楽曲があればまた評価は変わったでしょうが、名曲に恵まれず、イマイチな印象が強いです。

No Prayer For The Dying (2015 Remastered)
Iron Maiden
 
Fear Of The Dark (フィア・オブ・ザ・ダーク)

1992年 9thアルバム

 正直言ってしまうと楽曲の出来不出来の差が大きいのですが、オープニング曲とラスト曲が非常に強烈なのが救いです。特にラスト曲「Fear Of The Dark」はアイアン・メイデン史上最高クラスの楽曲だと思います。本作を最後に引退するマーティン・バーチ最後のプロデュース作になっただけでなく、音楽的な衝突によってフロントマンのブルース・ディッキンソンが脱退するという大きな転換点を迎えます。
 ちなみに、1st『鋼鉄の処女』から前作『ノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイイング』までのジャケットアートをデレク・リッグスが手掛けてきたきましたが、本作ではミック・ウォールが起用されています。バンドのキャラクターとなるゾンビのエディ自体は健在ですけどね。

 オープニング曲「Be Quick Or Be Dead」はブルースとヤニック・ガーズの共作。前作ではヤニックが加入したものの名曲がなく不安でしたが、本作では彼も大きく貢献しています。イントロからニコ・マクブレインのドラムが強烈で、ダークで鋭利なギターリフも非常にカッコいい。ブルースもしゃがれ気味ですがパワフルな歌唱でぶっ飛ばしてきます。力強い疾走曲で圧倒されます。続く「From Here To Eternity」は歌メロがキャッチーな疾走曲で、途中の合唱パートに一緒に加わりたくなりますね。ライブ感のある爽快な楽曲です。デイヴ・マーレイによる速弾きギターソロも良い。そして「Afraid To Shoot Strangers」は7分近い楽曲。静かで哀愁漂う歌をしっとりと聴かせます。メロウで聴きごたえがありますが、ファンの期待どおり(?)このまま静かな楽曲では終わりません。笑 中盤から雰囲気が変わり、後半はスリリングな疾走曲に変貌するアイアン・メイデンお得意のパターン。メロディアスなツインギターが良い感じ。ひとしきり疾走した後は序盤の哀愁フレーズが戻ってきます。「Fear Is the Key」はダークで怪しげな楽曲。力強く展開しますが歌メロが弱い印象。後半やや強引に疾走する展開へと持っていきます。「Childhood’s End」はニコのドラムとスティーヴ・ハリスのベースの合わせ技で刻まれるリズムがカッコ良い。リズムチェンジもスリリングだし、ギターソロやツインギターのハモりも美しいです。演奏重視な1曲です。「Wasting Love」は哀愁漂うバラード。演奏は切なさを誘うのですが、歌メロが弱くて若干埋もれ気味です。続いて、パワフルなドラムが炸裂する「The Fugitive」。Aメロは地味ですがサビメロだけはキャッチーです。「Chains Of Misery」はブルースがだみ声で歌うポップなメロディが耳に残る佳曲です。コーラスがあるので一緒に歌いたくなりますね。ツインリードギターも美しいです。「The Apparition」は単調で正直退屈です。後半加速しますが、やはりイマイチ…。続く「Judas Be My Guide」は疾走感があって、ほどよい哀愁が漂います。そして歌メロがとてもキャッチーで、中盤の退屈さを吹き飛ばしてくれます。メロディアスなサビは一緒に歌いたくなるほど。ギターソロもカッコ良いんです。ですが「Weekend Warrior」でまた落差が…。歌い方も含めて、グルーヴ感の弱いAC/DCといった印象。終盤のメロディアスなギターは評価できますが、楽曲自体はイマイチ。そして最後に控える7分超の表題曲「Fear Of The Dark」。個人的にはアイアン・メイデンの中で1、2を争う超名曲です(「The Trooper」も捨てがたい…!)。強烈なギターリフが奏でるイントロからカッコ良い。そして静かになりダークな雰囲気の中で、ブルースの低い声で囁くような歌が響きます。そして始まる疾走パートはリズムチェンジを多用して非常にスリリング。演奏は緊張に満ちていますが、ギターが奏でるフレーズはどれもがメロディアスでキャッチー。バキバキ唸るベースも魅力的。そしてパワフルに歌うブルースの歌メロは、ダークでありながらもキャッチーで、ライブではファンが大合唱します。静と動のハッキリした名曲で、この最強の1曲があるから本作が名盤になるんです。

 60分近い収録時間は過去最長ですが、正直中盤はかなりダレるので飛ばしてしまうことも多いです。ですが、いくつかの強烈な名曲のおかげで名盤と呼べる作品に仕上がりました。

左:通常盤。
右:エディのフィギュアが付くCollectors Edition。

Fear Of The Dark
(2015 Remastered)
Iron Maiden
Fear Of The Dark
Deluxe Edition (2015 Remastered)
Iron Maiden
 

ブレイズ・ベイリー時代

The X Factor (X ファクター)

1995年 10thアルバム

 フロントマン、ブルース・ディッキンソン(Vo)が脱退。ウルフスベインというハードロックバンドからブレイズ・ベイリー(Vo)が新たに迎え入れられました。極端に広い音域を持つブルースに比べると、ブレイズの音域は狭めで、声質も個人的には苦手です。また、これまでプロデューサーを務めたマーティン・バーチは前作を最後に業界を引退。エンジニアを務めた経験のあるナイジェル・グリーンとスティーヴ・ハリス(B)が共同でプロデュースしました。本作のタイトルは「未知の要因」という意味だけでなく、10thアルバム(ローマ数字のX)ともかけています。

 オープニングからいきなり11分超えの大作「Sign Of The Cross」が展開されます。3分近く静かなパートが続きますが、そこから突如勇壮な演奏に変貌。メロディアスですがブレイズの歌はどうにも苦手で、『ライヴ・アット・ロック・イン・リオ』でブルースが歌うバージョンの方がしっくりきます…。後半はほぼ演奏パートで、ダークな雰囲気が漂います。変拍子を交えた複雑かつスリリングな演奏はカッコ良く、速弾きギターソロも痺れますね。「Lord Of The Flies」はイントロからギターリフが印象的。またスティーヴのメタリックなベースも際立ちますね。演奏自体は比較的シンプルな疾走曲です。哀愁漂うメロディラインも魅力的ですが、ブルースに歌って欲しかった…。「Man On The Edge」はカッコ良い疾走曲。勢い溢れるアグレッシブな演奏のおかげでブレイズのボーカルもそこまで気にならず、キャッチーなメロディの魅力をうまく伝えてくれています。ニコ・マクブレインの勢いのあるドラムが全体を牽引、またギターソロもカッコ良い。「Fortunes Of War」は暗く哀愁漂う楽曲。序盤は叙情的ですが、途中からニコの力強いドラムがズシンと響き、重厚な楽曲へと変わっていきます。後半はギャロップ奏法を披露するバッキバキのベースを中心とした疾走曲へ。「Look For The Truth」はブレイズが力強く唸るように歌います。「オーーオオ オーオオオ」が耳に残り、本作では割とお気に入りかも。「The Aftermath」は鈍重なナンバー。ニコのドラムがいつになくパワフルな印象です。後半はテンポアップ。「Judgement Of Heaven」は力強い疾走曲。後半デイヴ・マーレイとヤニック・ガーズがメロディアスなツインギターを聴かせますが、ミックスのせいか音量が小さいのが残念。スティーヴのベースソロで始まる「Blood On The World’s Hands」はダークかつトリッキーなリズムを刻みます。「The Edge Of Darkness」は力強いリズム隊が武骨でメタリックなリズムを刻み、途中からメロディアスなギターが加わり加速。ドラマチックな楽曲ですがブレイズボーカルが合っていない…。ブルースボーカルなら名曲になり得たかもしれません。続く「2 A.M.」は渋く哀愁漂う楽曲。メランコリックなイントロから、力強い歌と演奏で盛り上げていきます。歌は一本調子ですが耳には残りますね。最後は8分に渡る大作「The Unbeliever」。リズムチェンジを駆使した楽曲ですが、ボーカルがかなり苦しそうで、歌は聴くに耐えません…。演奏はスリリングなんですがなんとも残念です。

 ブレイズのボーカルがどうしても苦手で、70分強のボリュームで途中ダレる、更にジャケットアートもイマイチという…。前任ブルースが偉大すぎて不在の穴が大きいですが、ブレイズボーカルでも「Man On The Edge」は純粋にカッコ良いと思います。

The X Factor (2015 Remastered)
Iron Maiden
 
Virtual XI (ヴァーチャル・イレヴン)

1998年 11thアルバム

 ブレイズ・ベイリー時代最後の作品で、前作に引き続きスティーヴ・ハリスとナイジェル・グリーンの共同プロデュース。前作が無駄に長かったこともあり、本作は全8曲トータル53分とややコンパクトに収まりました。ジャケットアートも改善。しかしヘヴィメタル逆風という時代の流れもあったか全英16位と、『キラーズ』以来となる全英トップ10入りを逃してしまいました。

 アルバムは疾走曲「Futureal」で駆け抜けます。前作のような冗長なオープニングを反省したのか、3分足らずの軽快な楽曲を配置したことで一気に引き込みます。音域の狭いブレイズのボーカルを最もうまく活かせる、シンプルで勢い任せの演奏がカッコ良い。メタリックなベースがバキバキ唸っていますね。続く「The Angel And The Gambler」は10分近い大作。比較的ポップなメロディで、またスティーヴの弾くオルガンが明るい雰囲気を演出します。中盤の舞うようなギターソロも良いですね。ですがしつこいくらい反復する歌は冗長な印象で、せっかくの好印象を打ち消しているのが残念。5~6分くらいにすっきり纏めたら良かったのに…。「Lightning Strikes Twice」は序盤メロウですが、後半テンポアップしてスリリングな演奏を展開。パワフルなブレイズの歌唱も違和感なく聴ける、彼に合わせたキャッチーなメロディも中々良い。続く9分の大作「The Clansman」。神秘的な静寂から徐々に盛り上がっていきます。そしてサビでの「Freedom」の連呼、これが中々痺れますね。悠々と駆け抜けた後、後半強引なリズムチェンジで再び静寂が訪れ、そしてクライマックスに向け盛り上げていく様はドラマチック。ライブでブルース・ディッキンソンの歌うバージョンはもっと魅力的ですが、ブレイズの歌うこちらのバージョンも中々の良曲だと思います。「When Two Worlds Collide」は哀愁漂う楽曲で、しっとり始まり力強く盛り上がっていきます。メロディアスなギターが切なさを誘い、特に間奏での泣きのギターソロは刺さります。「The Educated Fool」はリズミカルな演奏が特徴的。サビでは大合唱しています。「Don’t Look To The Eyes Of A Stranger」は8分の大作。序盤はシンセストリングスがクラシカルな雰囲気を醸し出し、メロディもキャッチーです。中盤は緊張感を高めてきますが、反復する歌メロが少しクドい…。終盤は小気味良いテンポの演奏パートで、これが中々楽しませてくれます。ラスト曲は「Como Estais Amigos」。漢らしい渋い哀愁が漂います。中盤からはメタリックなベースを中心に演奏パートも盛り上がりを見せます。デイヴ・マーレイとヤニック・ガーズのハモりがメロディアスで、これまた哀愁たっぷりで魅力的。

 前作よりもブレイズのボーカルを活かした楽曲が増え、コレジャナイ感は減りました。前半にキャッチーな佳曲が並んでおり、ブレイズ時代ではこちらの方が取っつきやすいですね。

Virtual XI (2015 Remastered)
Iron Maiden