🇬🇧 Iron Maiden (アイアン・メイデン)

スタジオ盤③

ブルースとエイドリアンの復帰~6人体制と大作路線

Brave New World (ブレイヴ・ニュー・ワールド)

2000年 12thアルバム

 ヘヴィメタル逆風という時代の流れもあり、勢いを失ったアイアン・メイデン。ソロ活動で行き詰まっていたブルース・ディッキンソン(Vo)、そして一緒に仕事をしていたエイドリアン・スミス(Gt)の両名を呼び戻すことにし、それに伴いブレイズ・ベイリー(Vo)は脱退することになりました。これにより、スティーヴ・ハリス(B)、ブルース・ディッキンソン(Vo)、デイヴ・マーレイ(Gt)、ヤニック・ガーズ(Gt)、エイドリアン・スミス(Gt)、ニコ・マクブレイン(Dr)の6名・トリプルギター編成が完成します。また『ノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイイング』以来となる、デレク・リッグスがジャケットアートを手掛けています(ライブ盤や編集盤では担当していたみたいです)。力の入り方が違いますね。
 スティーヴとケヴィン・シャーリーの共同プロデュース。『X ファクター』のコンセプト(陰があり複雑なプログレ風味)をブルースのボーカルで再挑戦したような印象です。全英7位を記録し、前作で全英トップ10位入りを逃した汚名を返上しました。

 オープニング曲は「The Wicker Man」。乾いたギターリフからトリプルギターによる切れ味抜群のリフを展開、バキバキのベースや弾けるようなドラムなどスリリングな演奏を展開します。疾走感に溢れますが、サビは僅かにテンポを落としてキャッチーな歌メロを聴かせます。終盤の「オオーオオ」の合唱もアツい。脱退したブレイズには申し訳ないですが、やはりブルースとエイドリアンの復帰は大きいです。ライブ感の強いサウンドプロダクションも良い感じ。「Ghost Of The Navigator」はリズムチェンジを多用した複雑かつスリリングな楽曲です。全体的に緊張が張り詰め、陰のあるメロディ、そして分厚いサウンドで疾走して焦燥感を煽ります。そして時折歌われるメランコリックな歌が刺さるんです。続いてタイトル曲「Brave New World」。静かに始まり、タイトルを背負うには弱いなぁという印象なのですが、かと思えば途中からテンポアップして途端にスリリングに。そしてサビで再びリズムチェンジし、タイトルを連呼するブルースの歌によって空気が引き締まります。その後のギターソロも素晴らしい。「Blood Brothers」は3拍子の心地良いワルツを刻みます。ストリングスによって壮大な印象に仕上がっていますね。終盤の泣きのギターソロ、その後の哀愁たっぷりの歌メロは感動的です。「The Mercenary」はストレートなロックンロール。アグレッシブで硬質なサウンドですが爽快です。そして9分超の大作「Dream Of Mirrors」。力強いイントロから哀愁たっぷりの渋い歌メロを展開します。ゆったりと聴けますが、後半はテンポアップしてスリリングな演奏を繰り広げます。ニコのバスドラムが強烈ですが、ツーバスじゃなくてワンバスだとか…どうなってるの。「The Fallen Angel」は3連符が特徴的な楽曲。スティーヴのゴリゴリとしたメタリックなベースが際立ちます。メロディアスなギターも中々魅力的です。続く「The Nomad」は9分クラスの大作。イントロからリフの殺傷能力が高いですね。そして歌が始まるとギターも含めて中東風のメロディを奏でます。伸びやかな歌唱も含めて壮大な印象を与えます。でもちょっと終盤は蛇足な感じ。「Out Of The Silent Planet」はメロディアスな歌メロが終わると疾走。ギャロップ奏法で軽快さも見せますが、全体的には緊迫ムード。そしてブルースの歌う哀愁のメロディが良く、これが中々刺さります。そして最後に控えるのは8分半の「The Thin Line Between Love And Hate」。ヘヴィな演奏で陰鬱な空気が漂います。やや長い印象ですが、随所に光るものがあります。前半はメロディアスな歌でブルースのハイトーンが冴え、また終盤テンポを落としてじっくりと聴かせるブルージーなギターソロも魅力的。

 ブルースとエイドリアンだけでなく、イラストレーターのデレク・リッグスまで帰ってきた、新生アイアン・メイデン。長尺曲が多いので入門には向きませんが、良曲の多い力作です。

Brave New World (2015 Remastered)
Iron Maiden
 
Dance Of Death (死の舞踏)

2003年 13thアルバム

 前作で固めた6名体制の布陣は継続。このメンバーで20年以上固定化されるので安心して聴けますね。前作に引き続き、スティーヴ・ハリス(B)とケヴィン・シャーリーの共同プロデュース体制で、プログレメタル路線を深化させています。『フィア・オブ・ザ・ダーク』以降の大作群の中ではトップクラスの名曲「Dance Of Death」を収録しており、この楽曲は必聴です。デヴィッド・パチェットによるジャケットアートはあまりにチープで酷すぎますが、中身は優れた作品です。

 ニコ・マクブレインのカウントから始まる軽快な疾走曲「Wildest Dreams」。明快なハードロック曲で、エイドリアン・スミスとスティーヴの作。歌メロは明るくてキャッチーです。勢いに溢れており、掴みはばっちりですね。続く「Rainmaker」は少し陰のある疾走曲。イントロも良し、デイヴ・マーレイのギターソロやその後のハモりなど、メロディアスなフレーズも魅力的です。「No More Lies」は7分半の楽曲。静かに始まりますが、サビの「No more lies!」の連呼に合わせて、ドラム、ベース、ヘヴィなリズムギターが一体となり「ズドドドド」とパワフルで強烈な一撃を食らわせてきます。そこから軽快に疾走。メロディも耳に残りますね。「Montségur」は『パワースレイヴ』の頃を彷彿とさせる、3連符のゴリゴリヘヴィなリズムがとてもカッコ良くて痺れます。スティーヴのベースは唸りっぱなしで、ブルース・ディッキンソンのパワフルなハイトーンも強烈。サビメロを補助するギターもキャッチーなメロディを奏でるので魅力的です。そして表題曲「Dance Of Death」。8分半に渡る大作で「Fear Of The Dark」以降の大作では屈指の名曲です(というか件の名曲にどことなく雰囲気が似ています)。アコギとエレキの絡み合う3拍子のリズムで静かに始まり、じわりじわり盛り上がっていきます。このメロディが心地良い。そしてブルースが高らかにハイトーンを披露すると、静から動パートへ。ダークな雰囲気ながらも口ずさみたくなるキャッチーで美しいメロディ、そしてシンセストリングスが荘厳な雰囲気に仕立て上げます。ドラマチックでとてもカッコ良いんです。ヤニック・ガーズとスティーヴの共作ですが、ヤニックの最高作じゃないでしょうか。続いて「Gates Of Tomorrow」はキンキンと切れ味鋭いギターから始まるイントロがカッコ良い。後半のハモるギターもメロディアスで良い感じ。明るめな雰囲気ですが歌メロは若干弱いです。「New Frontier」はメロディアスな疾走曲。共作ですがニコが初めて作曲に関与しています。「Paschendale」は8分半の大作。ヘヴィな演奏に加えてストリングスを用いてドラマチックに仕上がっていますが、楽曲展開が結構トリッキーで前半やや取っつきにくい印象です。後半パートは壮大で圧倒されます。「Face In The Sand」はシリアスな楽曲。序盤は「Dance Of Death」のようなフレーズを刻み、その後は強烈なバスドラムの連打に乗せて哀愁たっぷりなワルツを展開します。シンセも加わって盛り上げていきますが、終盤は悲壮感が漂います。「Age Of Innocence」はこれまでになくダークでヘヴィな演奏で、ピリピリと緊迫した空気が漂います。バキバキのベースに乗せて歌を展開しますが、サビメロはとてもメロディアスです。彼ららしくないオルタナ風のメロディが切なく染み入ります。ラストは「Journeyman」。アイアン・メイデン初のアコースティック曲。彼ららしくないですが、これもまた佳曲なんです。アコギの優しさとオーケストラの壮大さが入り混じったサウンドに、ブルースのメロディアスな歌唱が乗ります。サビはエモーショナルでドラマチック。胸に響きます。

 前作の延長にありながらも新しい試みも取り入れた、意欲的な作品です。圧倒的な名曲「Dance Of Death」だけ単曲で聴くことも多いのですが、アルバムトータルでも良曲が揃っています。

Dance Of Death (2015 Remastered)
Iron Maiden
 
A Matter Of Life And Death (ア・マター・オブ・ライフ・アンド・デス〜戦記)

2006年 14thアルバム

 『X ファクター』以来となる70分超え(トータル72分)の作品で、7分超えの楽曲が10曲中6曲を占めます。コンセプトアルバムではないものの戦争や宗教をテーマにした本作は、ダークな雰囲気かつ長尺でやや複雑な楽曲が多いです。ちなみに、ライブ感のあるサウンドを重視して、あえてミックスしていないのだとか。バンドメンバーは変わらず、スティーヴ・ハリス(B)とケヴィン・シャーリーの共同プロデュース体制も継続。
 世界10ヶ国で1位を獲得したほか、米国ビルボードチャートで初のトップ10入り(9位)を果たしました。

 オープニング曲「Different World」は、大作尽くしの本作の中では短くてストレートな楽曲です。イントロのヘヴィなギターリフに、メタリックなベースや重たいドラムなど、重厚かつ疾走感に溢れています。歌メロも比較的キャッチーで取っつきやすいですね。終盤では、エイドリアン・スミスによる舞うようなギターソロに魅せられます。「These Colours Don’t Run」はリズムチェンジを駆使していますが、若干冗長な印象。歌メロが「Brave New World」を想起させます。そして9分近い「Brighter Than A Thousand Suns」。マンハッタン計画がテーマだそうで、シリアスな空気が支配します。序盤はトリプルギターの厚みを活かした鈍重なリフで蹂躙。中盤ら突如として疾走かと思えばスローパートと疾走パートが交互に表れます。そして終盤は再び序盤の鈍重なサウンドに回帰していきます。また全編を通してブルース・ディッキンソンの表現力豊かなボーカルが活かされ、とてもドラマチックな仕上がり。長尺ながらも長さを感じさせません。続いて5分の疾走曲「The Pilgrim」でアルバムにメリハリをつけます。比較的ストレートですが、途中ヤニック・ガーズによる中東風の怪しげなギターが印象的。8分近い大作「The Longest Day」はスティーヴのベースソロで始まります。序盤静かに始まりますが、盛り上がるまでは少し冗長かも。ですがその後のブルースの伸びやかでメロディアスなサビメロに魅せられるんですよね。後半はパワフルかつ複雑な演奏を展開しますが、3拍子のメロディアスなパートは聴きごたえがあります。「Out Of The Shadows」はブルージーで渋い哀愁漂います。後半唐突にリズムチェンジし、憂いのある演奏を聴かせてくれます。そしてここから大作尽くし。まずは7分超の「The Reincarnation Of Benjamin Breeg」。陰鬱な序盤を終えると力強く鈍重な演奏を繰り広げます。ヘヴィな演奏は疾走していない時のメタリカに通じる気がします。続いて9分半の力作「For The Greater Good Of God」。疾走パートにメロディアスなサビメロなど、壮大でドラマチックな仕上がりです。シンセも用いて盛り上げていますが、ぐっとくるフレーズがないのかそこまで響かないんですよね…。7分半の「Lord Of Light」は静かで怪しげな雰囲気で淡々としています。そこから突如、緊張の糸が張り詰めた疾走曲へと切り替わります。終盤のニコ・マクブレインのマシンガンのようなドラム、からの疾走ギターソロもカッコ良いですね。そして最後に控える9分超の大作「The Legacy」。序盤はアコースティックな雰囲気で、叙情的で繊細な演奏は切なさを誘います。中盤からは力強く勇壮な演奏を展開。後半は3連符のリズミカルな演奏が気持ち良いですね。

 聴き込みを要する作品ですが、飛び抜けた1曲に欠けるため、個人的には聴く頻度は少ないです。特に終盤の大作群が若干辛い…。

左:通常盤。
右:エディのフィギュアが付くCollectors Edition。

A Matter Of Life And Death
(2015 Remastered)
Iron Maiden
A Matter Of Life And Death
Deluxe Edition (2015 Remastered)
Iron Maiden
 
The Final Frontier (ファイナル・フロンティア)

2010年 15thアルバム

 6人体制メンバーと、共同プロデューサーのケヴィン・シャーリーという『ブレイヴ・ニュー・ワールド』から続く安定のラインナップで制作された作品で、過去最長のトータル約77分。前半は疾走曲やバラード含む比較的コンパクトな楽曲が並び、後半には緊張感のある長尺曲が固まっています。そしてゾンビのエディがついに宇宙へ。笑 表題曲はこのジャケットのようにスペイシーな雰囲気に満ちています。
 本国英国を含む全世界28ヶ国で1位を獲得、全米ビルボードチャートではバンド最高位となる4位、日本でもオリコン5位という過去最高位を記録し、順位だけで言えば過去のどの作品よりも好成績を残しています。個人的には本作がほぼリアルタイム(この頃に黄金期の作品を聴き始めた)なので思い入れがあります。

 9分近いオープニング曲「Satellite 15… The Final Frontier」は実質2曲の組曲。前半パートはニコ・マクブレインのドラムが印象的。緊迫した空気を生み出すドラムと、うねるようなベース、緊張感や浮遊感を演出するギターが組み合わさり、宇宙空間を漂うかのようなスリリングな感じがします。そして緊張を高めた後、4分半過ぎから突如キャッチーな曲調へ。ブルース・ディッキンソンの歌う「The final frontier」の連呼が耳に残りますね。ギターソロも中々良いです。続く「El Dorado」はスリリングな疾走曲です。ギャロップ奏法により、メタリックな質感ながらも軽快に駆けるスティーヴ・ハリスのベースが強烈。演奏はヘヴィだしブルースの歌も攻撃的ですが、メロディはキャッチーなので取っつきやすいですね。トリプルギターの面々が次々とギターソロを披露する間奏も魅力的。「Mother Of Mercy」は哀愁漂う1曲。渋い哀愁を纏っていますが、途中から強烈なリズム隊が加わるとドラマチックに盛り上げます。メロディアスな歌が良い感じ。イントロで引き込む「Coming Home」は哀愁漂うバラード。メロディが良いだけでなく、感情たっぷりに歌うブルースの歌唱が素晴らしく、涙を誘います。後半、泣きのギターソロも染み入ります。そして疾走曲「The Alchemist」で中だるみを回避。メロディアスにハモるギター、小気味良く煽り立てるリズム隊、そして勢いがあるもののメランコリックな歌メロ。ストレートで聴きやすく爽快です。そしてここから長尺の楽曲群が並びます。まずは9分の大作「Isle Of Avalon」。序盤はテンションを抑えめに、しかし緊迫した印象も受けます。風の吹き荒れるSEも良いですね。2分半過ぎから弾け、勢い溢れる演奏に。切れ味のあるリフはカッコ良く、ですが歌は哀愁混じりでじっくり聴かせます。中盤のテクニカルな演奏パートを経て、疾走感と憂いのある歌メロパートで締めます。中々の良曲です。続いて8分近い「Starblind」。程よい疾走感を持った重厚な演奏を展開。やや単調な印象を持ちますが、歌メロの転調が不意打ちのように刺さります。メロディアスで良い。後半はリズムチェンジを駆使した複雑な演奏を披露し、序盤のメロディに帰結するお決まりのパターンですね。「The Talisman」は9分の大作。繊細なアコギと語り口調のブルースの歌で、憂いに満ちた序盤はとても美しい印象。そして2分過ぎから緊迫した疾走曲へと変貌します。スティーヴがギャロップ奏法でタッタカタッタカと煽る煽る。笑 演奏はとてもスリリングですが、ハイトーンを活かしたメランコリックなサビメロが胸に突き刺さります。スケール感もあり、後半のハイライトと言える名曲です。8分半の「The Man Who Would Be King」は叙情的なイントロで、デイヴ・マーレイの得意とする展開ですね。そして1分半過ぎから雰囲気を変え、ダイナミズムのある疾走曲へ。中盤強引なリズムチェンジを加え、プログレ的な複雑な展開になりますが、ジャケットのようにスペイシーな雰囲気を持っています。そしてラストは11分の大作「When The Wild Wind Blows」。風が吹きすさび、哀愁漂う渋い演奏で開幕。ギターの奏でるメロディアスなフレーズとブルースの語り口調の歌が耳に残ります。そして同じメロディを今度はヘヴィな演奏と力強い歌唱で反復、これが鳥肌ものなのです。中盤はメロディを変え、複雑な演奏パートへ。終盤に向けて徐々に勇壮な雰囲気へと変わり、高揚感を煽ってきます。全編ミドルテンポですが、疾走曲にも引けを取らないスリルに満ちています。そしてラストに叙情的な序盤のメロディが戻ってきて、しんみりと終わります。

 佳曲揃いで、個人的には6名体制アイアン・メイデンでのスタジオ盤最高傑作。そして本作のツアー模様を納めたライブ盤『エン・ヴィーヴォ!~ファイナル・フロンティア・ライヴ』はバンドの最高傑作だと思っています。

The Final Frontier (2015 Remastered)
Iron Maiden
 
The Book Of Souls (魂の書〜ザ・ブック・オブ・ソウルズ〜)

2015年 16thアルバム

 スティーヴ・ハリス(B)、ブルース・ディッキンソン(Vo)、デイヴ・マーレイ(Gt)、エイドリアン・スミス(Gt)、ヤニック・ガーズ(Gt)、ニコ・マクブレイン(Dr)の6名体制に、スティーヴとケヴィン・シャーリーの共同プロデュース体制という、『ブレイヴ・ニュー・ワールド』から続く安定の布陣です。同じ顔ぶれでこなれてきたのかどんどん長尺化が進みますが、本作はスタジオ盤では初の2枚組アルバムとなりました。レコーディングも『ブレイヴ・ニュー・ワールド』と同じスタジオで行われたそうです。なお本作リリース前に、ブルースが舌癌の治療に入ったためリリースが少し延期されていました。
 先行シングル「Speed Of Light」が出色の出来で、これを聴いてアルバム発売がとても待ち遠しかったのを覚えています。そしてアイアン・メイデン史上最長の18分の楽曲「Empire Of The Clouds」も収録、これも圧巻です。英国を含む全世界24ヶ国で1位を獲得、全米4位、日本でもオリコン6位と、前作に並ぶ好成績を残しました。
 
 
 Disc1は8分半に渡る大曲「If Eternity Should Fail」で幕開け。西部劇のようなイントロからブルースのアカペラを経て、そして本編は哀愁混じりの力強い演奏が展開されます。後半はテンポアップして勢いよく駆け抜けます。続いて本作のハイライト「Speed Of Light」。個人的には『フィア・オブ・ザ・ダーク』以降で一番の名曲であるだけでなく、1980年代黄金期の名曲群にも引けを取らないクオリティだと思っています。PVが3DCGアニメになっており、エディが冒険するゲームOPアニメ風の仕上がりで、このPVと合わせて楽曲にドハマリしました。躍動感溢れるストレートなハードロックナンバーで、エイドリアンお得意の楽曲です。分厚くヘヴィなサウンドに乗る歌メロ、そしてリードギターの奏でるメロディがキャッチーで、何度もリピートしてしまいます。とてもカッコ良くて、やっぱりアイアン・メイデンは最強だと思います。笑 「The Great Unknown」はミドルテンポのヘヴィな楽曲。後半のギターソロは中々良いのですが、楽曲自体は前曲との落差もあり聞き流してしまうことが多いです。「The Red And The Black」は13分半に及ぶ大作です。勇壮な演奏と耳に残るメロディ、そしてライブ映えしそうな「オオーオオオ」のコーラス。ですが反復が多くて若干くどいかも。中盤ではメロディを変えてきますが、スティーヴの弾くシンセにより洗練された印象を受けます。ギターソロを経て、終盤は3連符のリズミカルでメロディアスな演奏に心地良く揺られます。そして飽きかける寸前のところを強引なリズムチェンジで引き留め、そして序盤のコーラスが戻ってきて終わります。「When The River Runs Deep」はイントロからキャッチーでパワフル。歌も出だしからハイトーンで力が入っていますね。そして軽快な疾走曲を展開。サビでテンポダウンするものの、サビメロがじっくり聴かせるほどのフックがないのが残念。サビ以外は爽快で中々良いんですけどね。そして表題曲「The Book Of Souls」は10分半の大作です。レッド・ツェッペリンの「Kashmir」のような、中東風のメロディとヘヴィでスケール感のある演奏を展開。後半はリズムチェンジし、アイアン・メイデンらしい3連符のパワフルな演奏で猛進していきます。最終盤のメロディアスなギターのハモりも心地良い。

 続いてDisc2。「Death Or Glory」はヘヴィなアップテンポ曲。音の塊がぶつかってくるかのようなヘヴィなイントロを終えると、ニコのリズミカルなドラムが心地良い疾走感を生み出します。歌メロもキャッチーな良曲です。続く「Shadows Of The Valley」は、近未来感のあるイントロが自身の「Wasted Years」そっくり。サビではシンセを鳴らしてますし。ただ、8分の6拍子の演奏や悲壮感のあるメロディなど違いは打ち出しています…件の名曲と比べるとかなり弱いですが。「Tears Of A Clown」は重厚でシリアスな雰囲気が漂いますが、2014年に自殺した米俳優ロビン・ウィリアムズに捧げた楽曲だそうです。ブルースの力強くも哀愁たっぷりな歌唱が響きます。「The Man Of Sorrows」は、とても渋くブルージーなイントロと強烈な哀愁を纏った歌メロが印象的。彼ららしくない楽曲ですが、出来としては中々の佳曲ですね。中盤からはリズムチェンジして少し勢いづきますが、全体的に重厚かつシリアスで、切ない気分にさせます。そして18分の大作「Empire Of The Clouds」。これまで「Rime Of The Ancient Mariner」(13:45)が最長楽曲でしたが、それを4分以上も上回ります。哀愁たっぷりのピアノを弾くのはブルースで、ため息が出るほど美しく切ない。そしてメランコリックな歌は、バックの演奏と合わせて徐々に徐々に盛り上がっていきます。ドラマチックでこみ上げるものがあります。7分頃から場面転換して、動と静の緩急ついた演奏パートへ。中だるみしそうな頃合いを見てギターソロ、そしてテンポアップと追加燃料を投下。オーケストラが加わったりと壮大ですが、それでもこの中盤の演奏パートはもう少し短くても良かったと思います。12分半頃に再びブルースの歌が戻ってくると、焦燥感を煽るかのような鬼気迫る歌唱が。そしてそこから展開される演奏は危機を煽るかのようにスリリングなのです。緊張がMAXまで高まったところで、15分過ぎから序盤の穏やかでメランコリックな歌メロが戻ってきます…これはずるい。聴き終えたあとの余韻も素晴らしい、感動的な名曲です。
 
 
 ボリューム満点のためアルバムトータルで聴くことは少ないですが、「Speed Of Light」と「Empire Of The Clouds」はリピート回数も多くお気に入りです。本作リリース後も精力的にライブ活動を行い、来日も果たしています。

The Book Of Souls (2CD)
Iron Maiden
 
Senjutsu (戦術)

2021年 17thアルバム

 5年ぶりとなるアイアン・メイデン新作は『Senjutsu』で、エディも戦国武将のような出で立ちです。長期に渡る世界ツアー「Legacy Of The Beast」の合間の2019年には完成していたようで、音源が流出しないよう金庫に入れて保管していたのだとか。世界ツアー後にリリースするつもりだったのでしょうか。そのLegacy Of The BeastツアーはCOVID-19の影響で延期となっており、2020年の来日もキャンセルに。時勢柄必要な判断で仕方のないことですが、私は2011年(東日本大震災)と2020年の今回ツアーいずれも来日キャンセルを受けてしまい、どうにもアイアン・メイデンの生ライブは観れないようです。笑 2016年の来日時に別のライブを優先してしまったのが悔やまれますが、厄災下でも健康であることに感謝し、次の機会に期待したいと思います。
 前作に引き続きの2枚組アルバムで、全82分の大ボリューム。6名体制のトリプルギター編成は変わらず、また長年アイアン・メイデンのプロデューサーを務めるケヴィン・シャーリーを今回も起用した安定の布陣です。作詞作曲はスティーヴ・ハリスだけでなく他のメンバーも貢献していますが、デイヴ・マーレイだけは作詞作曲にクレジットされていません。

 Disc1は8分を超える表題曲「Senjutsu」で幕開け。エイドリアン・スミスとスティーヴの共作です。イントロから力強く響かせるニコ・マクブレインのドラムで強い緊張感を生み出し、分厚いギターとバッキバキのベースは緊迫していますが安心感がありますね。ブルース・ディッキンソンの安定した歌唱はシリアスで哀愁に満ち、メロディアスな旋律を奏でるギターが感傷的にさせます。押し潰されそうな緊張と、解きほぐす哀愁のメロディを繰り返して心を揺さぶります。「Stratego」も緊張を保っていますが、前曲よりも躍動感があってキャッチーな感じ。ヤニック・ガースとスティーヴの共作です。タッタカタッタカとお得意のフレーズを刻むベース、そしてブルースのメロディアスな歌が聴きどころです。悠々としたギターソロも魅力的ですね。先行シングル「The Writing On The Wall」は憂いのあるアコギを奏でた後、分厚いトリプルギターが独特のエスニックなフレーズを刻みます。牧歌的なメロディを軸に据えて、シリアスな演奏と歌で緊張感を持たせたような印象で、どこか懐かしさを覚えます。そして「Lost In A Lost World」は9分半の大作。冒頭はアコギとシンセによって、暗く落ち着いてひんやりとした空気が漂います。そして2分過ぎからメタリックなサウンドへ変貌。力強いドラムにバキバキのベースなどを軸に、フレーズを反復しながら楽曲を展開。4分過ぎからリズムチェンジして、メイデンらしいフレーズを散りばめながら長尺の演奏を聴かせます。終盤にブルースの歌が戻ってきて、哀愁たっぷりの歌でしっとりと楽曲を締め括ります。「Days Of Future Past」は緊張が漂う重厚なイントロを経て、跳ねるような疾走感ある楽曲を展開。エイドリアンとブルースの共作となる本楽曲のメロディにはメイデンらしさが溢れていて、ブルースは緊張を放ちつつも伸びやかなボーカルを披露します。7分の「The Time Machine」は冒頭で暗鬱で湿っぽいギターと歌をしっとり聴かせると、1分過ぎたあたりからバンド演奏が加わって楽曲を引き締めます。全体的には暗鬱な空気が漂うものの、ブルースのボーカルは力強いですね。中盤の耳に残るギターリフや、終盤の唐突なリズムチェンジなどで楽曲に緩急をつけます。

 ここからDisc2ですが、怒濤の大作ラッシュです。まずは手始めに7分超の「Darkest Hour」。冒頭の波音とカモメの鳴き声からリラックスした雰囲気かと思いきや、ギターやシンセが重く物悲しい空気を作り出します。ブルースの歌も哀愁に満ちてドラマチックで、サビ終わりにドラムやベースが力強く刻みます。重厚ながらカッコ良い。10分に渡る「Death Of The Celts」もイントロから哀愁たっぷりで暗鬱な印象。8分の6拍子でゆらゆらと揺さぶりながら2分半手前から力強い演奏へと様変わり。そして5分少し手前に訪れる唐突なリズムチェンジにより、ヘヴィかつリズミカルな演奏で楽しませてくれます。3人のギタリストが代わる代わる繰り広げるギターソロも聴きどころ。続いて本作最長となる「The Parchment」は12分半の大作。イントロでは静かにエキゾチックな香りを醸し出しますが、突然音量を上げてくるのでビックリ。その後の起伏は少ないですが、メロディアスなギターに浸れます。少し冗長ですが、終盤加速してスリリングに終わります。そしてラストに控えるのは11分超の「Hell On Earth」。湿っぽくて渋い哀愁ムードに2分ほど浸った後は、勇壮なバンド演奏がリード。スティーヴのメタリックなベースがゴリゴリ牽引します。ブルースの歌は哀愁が漂っているしダークな雰囲気ですが、アルバム終盤のどんよりムードを払拭するくらいに歌唱と演奏は力強くて頼もしいです。

 キャッチーな楽曲は少なく、全体的に重厚かつ緊張が張り詰め、そして哀愁に満ちています。そして10曲中7曲が7分超の大作揃いで、まあ長いこと。笑 大作路線が続いていますが、コンパクトな作品はもう作らないのでしょうか。

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