🇬🇧 King Crimson (キング・クリムゾン)

ライブ盤

Earthbound (アースバウンド)

1972年

 第2期(アイランズ期)メンバーの、不仲で空中分解寸前のバンド演奏をとらえた作品で、ロバート・フリップ(Gt)、メル・コリンズ(Sax/Key)、ボズ・バレル(Vo/B)、イアン・ウォーレス(Dr)のラインナップ。公式で出してはいけないレベルのあまりに酷い音質ですが、完璧主義者のフリップが本作をプロデュースしたというのだから驚きです。

 1曲目の「21st Century Schizoid Man」は本作のハイライト。というより本作を聴く唯一の理由ですね。音質があまりに悪く、ノイジーでヘヴィな演奏によって、元々の楽曲の持つ暴力性が更に強まっている印象。バレルのヤケクソな怒鳴り声も含めて各楽器が暴走して好き勝手に演奏しています。ウォーレスのドラムは鈍器のようにドスンドスンと響き、フリップのギターはブチ切れて緊張感を極限まで高め、サックスはヘヴィな音色で好き勝手に吹いている。まるで殴り合いのような印象で、スマートな演奏よりもこういう混沌とした演奏が似合っています。音が悪すぎますが、ベストテイクと呼んでよいくらいにスリルがあります。続く「Peoria」はリズミカルな演奏に乗せて、コリンズのサックスが自由に吹き鳴らしています。ノリノリな演奏の中盤には、バレルの血管ブチ切れボーカルをフィーチャー。結構楽しい感じですが、音質の悪さが残念でなりません。「Sailor’s Tale」は冒頭から殴り合いのようなヘヴィでスリリングな演奏バトルを展開。途中からはギターとメロトロンが緊張感溢れつつも美しい演奏を披露…なのに音が悪い!笑えるくらいノイズまみれです。終盤はダーティな音が全体を呑み込みます。
 ライブ後半、会場の熱狂に迎え入れられて始まるのは表題曲「Earthbound」。インプロヴィゼーションです。渋いサックスとグルーヴィなリズム隊、そしてバレル一人、がなり声で煽り立てます。後半はフリップが緊張を高めるギターを聴かせる裏でリズム隊はドタバタ。そして最後に、15分半に渡るインプロヴィゼーション「Groon」。ヘヴィなサックスが吹き荒れ、5分辺りからキャッチーなメロディを聴かせます。じっくり聴くには音が悪くて序盤と終盤は不快感がありますが、この音質の悪さのおかげで中盤のウォーレスのドラムソロパートは凄まじい臨場感があります。とにかくスリリング。

 ブート並みに劣悪な音質なので聴く人を選びますし、マニア向けの作品であることは間違いありません。しかしただ1曲、あまりに壊れた「21st Century Schizoid Man」が時々無性に聴きたくなる魔力を持っているので、本作を駄盤として簡単に切り捨てられない、そんな作品です。件の名曲が好きで好きでしょうがない人は、怖いもの見たさで聴いてみると面白いかもしれません。あまりの音の悪さに目を瞑れば他の楽曲も中々良いんですが、目を瞑れないレベルに音質が酷いです…。

Earthbound
King Crimson
 
USA

1975年

 キング・クリムゾン解散後に発表されたライブ盤で、1974年の北米ツアーのライブを収録した作品です。ロバート・フリップ(Gt/Key)、ジョン・ウェットン(Vo/B)、ビル・ブラッフォード(Dr)、デヴィッド・クロス(Vn/Key)のラインナップで制作されました。エディ・ジョブソンが一部楽曲でヴァイオリンとピアノをダビングしているそうです。

 ライブは「Larks’ Tongues In Aspic, Part Two」で始まります。スタジオ盤より更に金属質に、そして暴力的になっていて非常にスリリング。でもヤケクソ感のあるライブ盤『アースバウンド』とは違って、整然と理知的な演奏は保ちつつもサウンドの暴力性が強まっている感じでとてもカッコ良いです。緊迫感を最大まで高めたあとの壮絶なラスト、そしてウェットンの歌が美しい「Lament」へ繋ぎます。静かに哀愁溢れる穏やかな楽曲ですが、歌と歌の合間にヘヴィで激しい楽曲に変貌。後半はシャウト気味の歌とスリリングな演奏を繰り広げます。続いて「Exiles」。ゴリゴリと硬質で暴力的なベースとは対照的に、ヴァイオリンが美しくも儚い音色を奏でます。ギターやメロトロンもヴァイオリンのメロディをなぞる場面があって、その瞬間もそれぞれとても美しく、聴き惚れてしまいます。また、ウェットンの哀愁たっぷりの渋い歌声も魅力的ですね。「Asbury Park」はご当地での即興演奏。ライブでの即興がそのままスタジオ盤に収録されるくらいに即興演奏に慣れたキング・クリムゾン。こちらも息のあった演奏を聴かせます。ギター以上に音量がでかい爆音ベースに惹かれますが、手数の多いドラムもなかなか面白い。続いて「Easy Money」は、ヘヴィでキャッチーな序盤が魅力的。歌はひねたポップセンスをみせます。ラストはフェードアウトしてしまうのが残念。「21st Century Schizoid Man」は非常にヘヴィでメタリックな演奏に仕上がっています。ブラッフォードも手数の多いドラマーなので、オリジナルの手数の多さにも負けないスリリングなプレイを見せます。とても魅力的ですが知性が透けて見えるので、バカみたいに殴り合うような演奏を見せる『アースバウンド』版の方がこの楽曲の本質を捉えているかも。
 そして残る2曲はCD化に伴い追加されたボーナストラックだそうですが、前曲からの流れで楽しめて、しかも本作のハイライトと呼ぶべきクオリティの嬉しいボーナストラックです。「Fracture」では静かな空気の中でフリップのギターが殺伐とした空気を作り出します。爆音でもメタリックな音でもないのに、まるで睨みだけで人を殺すかのような、静かなギター音が放つ強烈な殺気。所々に爆音ベースとドラムが表出しますが、しばらく不穏な静寂が続きます。7分半あたりから静寂を引き裂く強烈なギター音。その後の展開もスリリングで劇的です。そしてラストに「Starless」。スタジオ版と比べて歌メロパートはよりドラマチックな演出に、インストパートはよりスリリングな演奏になっているという、最高の演奏が聴けます。序盤はヴァイオリンとメロトロンが歌メロを引き立てていて、感情に訴えかけてきます。インストパートは、スタジオ版にはあったメル・コリンズのサックスは居ませんが、緊張を高めて一気に放出する際のスリルは増している感じがします。なお、ラストの歓声はループしていますが、レコード時代は針を上げない限り歓声がなりやまない仕掛けになっていたそうです。

 選曲の良さに加えて音質も良く、スタジオ盤を上回る非常にスリリングなライブ盤です。『レッド』とも迷いますが、こちらもキング・クリムゾンの最高傑作候補です。

USA
40th Anniversary Edition (Cd+Dvd-Audio)
King Crimson
 
 

関連アーティスト

 イアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズが脱退後に結成。

 
 ビル・ブラッフォード(Dr)がキング・クリムゾン加入前に所属していたバンド。『リザード』ではジョン・アンダーソンもゲスト参加。
 
 ジョン・ウェットン(Vo/B)とビル・ブラッフォード(Dr)が結成したバンド。
 
 ジョン・ウェットン(Vo/B)が結成したバンド。
 
 『ピーター・ガブリエル II』はロバート・フリップがプロデュース。また、いくつかの作品でサポートミュージシャンとしてロバート・フリップ(Gt)やトニー・レヴィン(B)が参加。
 
 グレッグ・レイク(Vo/B)が脱退後に結成したバンド。
 
 『天地創造』と『ポーン・ハーツ』でロバート・フリップがゲスト参加。
 
 『スケアリー・モンスターズ』や名曲「”Heroes”」でロバート・フリップがゲスト参加。
 
 ボズ・バレル(Vo/B)が脱退後に結成したバンド。
 
 
 類似アーティストの開拓はこちらからどうぞ。