🇺🇸 MC5 (エム・シー・ファイブ)
レビュー作品数: 3
ライブ盤
1969年
米国ミシガン州デトロイト出身のガレージロックバンド、MC5。ストゥージズとともにパンクのルーツの一つと見なされているバンドです。リーダーのウェイン・クレイマー(Gt)とフレッド・“ソニック”・スミス(Gt)を中心に1963年に結成しました。そこにロブ・タイナー(Vo)、マイケル・デイヴィス(B)、デニス・トンプソン(Dr)を加えた固定のラインナップが確立したのは1965年頃のようです。
ライブ盤にしてデビュー作という異色のスタートを切った彼ら。ちなみに、政治色が強すぎるということで悪名高いバンドだったようです。
怒鳴るように焚きつけるMCの後、「Ramblin’ Rose」でライブは幕開け。ウェインの歌う、ファルセットを多用した歌は違和感がありますが、爆音でロックンロールを奏でる演奏は迫力満点です。特に、轟音で重低音を唸らせるベースが凄まじい。そして代表曲「Kick Out The Jams」。同時代にようやく確立したばかりのハードロックすらも霞むような、大音量で迫力ある演奏がとてもスリリングです。そして爆音の演奏にも張り合える、怒鳴るような歌もカッコ良いですね。続く「Come Together」は叩きつけるようなドラムに、荒々しくてザクザクしたギターがカッコ良い。ロブはシャウトしっぱなしですが、メロディのおかげか比較的キャッチーな印象です。「Rocket Reducer No. 62 (Rama Lama Fa Fa Fa)」は荒っぽくてダーティな演奏が魅力のロックンロール。コーラスもあってノリが良いですね。「Borderline」はテンポが早く、迫りくるようなイントロから高揚感を掻き立てます。そして中盤にリズムチェンジをかまして緩急をつけます。続いて「Motor City Is Burning」では雰囲気を変え、スローテンポでブルージーな楽曲へ。渋くも荒っぽい演奏と、シャウトばかりの歌はハードロックといった趣です。「I Want You Right Now」は鈍重かつメタリックな演奏が特徴的で、まだ結成されてもいないブラック・サバスを先取りしたかのような印象です。中盤では音数を減らして静かに展開し、唐突にヘヴィな演奏とシャウトに振り切ることで大きく緩急をつけます。ラスト曲は「Starship」。重低音を爆音で唸らせながら、高いテンションで進行するスリリングな楽曲です。ロブのシャウトも非常にパワフルです。中盤以降はサイケ的な混沌とした演奏に時折轟音ノイズをぶちかまし、原始ハードロックのようなスリルを与えてくれます。
荒々しいロックンロールが詰まっています。曲間がぶつ切りの箇所もあるものの、エネルギッシュで強烈なライブがうまくパッケージされていて魅力的な作品です。
スタジオ盤
1970年 1stアルバム
本作はMC5の初となるスタジオアルバムですが、ライブ盤『キック・アウト・ザ・ジャムズ』が実質的な1st扱いで、本作は2ndアルバム扱いされることも多いです。後にブルース・スプリングスティーンとの仕事で知られることとなる、ジョン・ランダウが本作のプロデュースを手掛けています。
オープニングを飾る「Tutti Frutti」は、リトル・リチャードのカバー曲で、テンポが速くてノリノリ。コーラスも含めてご機嫌なロックンロールを展開します。この楽曲のハードさは随分控えめな印象ですが、続く楽曲で徐々にハードさを増していきます。続く「Tonight」はリズミカルなロックンロール。デニス・トンプソンのドラムはシンバルを多用していて、渋みのあるギターも含めて程良くハードな印象に仕上がっています。オルガンの味付けが良い感じ。「Teenage Lust」は重低音を効かせたギターが気持ち良いですね。勢いがあって爽快です。「Let Me Try」は一転、まったりと落ち着いたメロウな楽曲を展開します。ハミングや電子ピアノをアクセントとして加え、ドリーミーな感覚を与えます。そして「Looking At You」はハード路線に戻って目を覚まさせます。荒っぽいガレージロック的な仕上がりで、ウェイン・クレイマーによる気持ちの良いギターソロも聴けます。
アルバム後半は「High School」で幕を開けます。マイケル・デイヴィスの力強いベースが下支えし、途中でリードベース的に際立つ場面も。ロブ・タイナーの歌もキャッチーで聴きやすいです。続いて「Call Me Animal」は荒っぽいギターやドラムを披露しますが、アクセントとして加わるハンドクラップのおかげで、リズミカルで爽快な印象です。「The American Ruse」は疾走感があり、パンキッシュなロックンロールを繰り広げます。スリリングな演奏は高揚感を掻き立てますが、歌は結構キャッチーなんですよね。そして「Shakin’ Street」では唯一フレッド・“ソニック”・スミスがボーカルを取る1曲で、アコギも入っているのでフォーキーさも感じさせます。歌も演奏も他の楽曲とは少しだけテイストが異なり、アルバムに緩急をつけるアクセント的な位置づけになっている感じがします。「The Human Being Lawnmower」は冒頭つんざくようなノイジーなギターで幕を開け、ドラムが焦燥感を煽り立てます。攻撃的でスリリングな演奏がカッコ良い。そしてラスト曲「Back In The U.S.A.」はチャック・ベリーのカバー。跳ねるようなピアノを鳴らしながら、ノリの良いロックンロールを奏でています。
ライブほどの激しさはないものの、勢いある演奏にキャッチーな歌で聴きやすい良作です。
1971年 2ndアルバム
MC5は1972年に解散してしまうため、解散前最後のオリジナルアルバムとなりました。解散後はライブ盤やコンピレーションアルバムをいくつもリリースしているものの、オリジナルアルバムとしては今のところ本作がラストとなります。ジェフリー・ハスラムとMC5の共同プロデュース作。
7分を超える壮大な「Sister Anne」で開幕。分厚いギターで重低音を効かせ、重厚なハードロックといった感じがします。ロブ・タイナーの歌もややシャウト気味で力強いですね。但し奏でている楽曲はロックンロールに徹しています。終盤はコーラスがひたすら同じフレーズを反復したのち、ラスト1分はブラスバンドによるアウトロ。続く「Baby Won’t Ya」は原始的なハードロックといった趣です。デニス・トンプソンのパワフルなドラムや、キンキンとしたギターに負けないくらい、歌唱やコーラスも力強いです。「Miss X」は、ゆっくりとしたテンポで奏でられる渋い1曲。サビメロでのソウルフルな歌唱が圧倒的でカッコ良いです。そして「Gotta Keep Movin’」はハードに奏でられるものの、疾走感のあるシンプルなロックンロールなので爽快です。
レコード時代のB面、アルバム後半のオープニングは「Future/Now」という6分超の組曲。マイケル・デイヴィスのベースソロで幕を開け、前半はブルージーなハードロックを展開します。激しいドラムの上でツインギターや図太いベースが繰り広げる間奏がカッコ良いです。後半パートは、残響感のあるギターが幻覚的なサウンドを奏でています。続く「Poison」はつんざくようなギターが切れ味抜群。ギターソロがスリリングな演奏を繰り広げます。「Over And Over」はシャウトしっぱなしのパワフルな歌唱を、キャッチーなコーラスワークで引き立てます。ノイジーなギターもヘヴィですね。そしてラストは「Skunk (Sonicly Speaking)」。高速で叩くドラムにパーカッションだけの野性味のある演奏が1分ほど続き、そこからギターやベースが加わってスリリングな楽曲へと変わります。パワフルな歌唱も含めてハードロックしていますね。終盤はブラスセクションを爆音で吹き鳴らしています。
シンプルで爽快なロックンロールから趣向を変え、重厚感を増してハードロックに大きく舵を切りました。ギターソロがフィーチャーされる楽曲も多いです。
本作の後MC5は解散し、その後何度か再結成することとなります。1991年にはロブ・タイナーが、1994年にはフレッド・“ソニック”・スミスが、2012年にはマイケル・デイヴィスがそれぞれ亡くなってしまいます。その後は新たにメンバーを迎えながら、不定期に活動しているようです。
関連アーティスト
フレッド・“ソニック”・スミス(Gt)の妻。
類似アーティストの開拓はこちらからどうぞ。