🇺🇸 Metallica (メタリカ)
レビュー作品数: 14
スタジオ盤①
スラッシュメタル時代
1983年 1stアルバム
メタリカはトータル1億1000万枚以上を売り上げるヘヴィメタル界でも屈指のバンドで、1981年に米国カリフォルニア州ロサンゼルスで結成しました。スラッシュメタル四天王(Big 4)の一角としても知られます。
ラーズ・ウルリッヒ(Dr)がジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)を誘い、メタリカを結成。メタリカとは「金属」を意味する語。なおデイヴ・ムステイン(Gt)もオリジナルメンバーにいましたが、他のメンバーと関係を悪化させたため解雇されることに。デイヴは恨みを持ちながらスラッシュメタルバンド、メガデスを結成することになります。なお、メタリカはクリフ・バートン(B)とカーク・ハメット(Gt)を加えて、ポール・カーシオとジョン・ザズラのプロデュースとなる本作でデビューを果たしました。
攻撃力の高い疾走曲「Hit The Lights」で始まります。凄まじいスピード感の中でザクザク切り込んでくる切れ味の鋭いギターが素晴らしい。この速さの割には4分強という長さは比較的長く感じられます。その印象は、次曲の7分強の「The Four Horseman」でより強まります。後に構成力の高さを活かした大作主義に傾倒するのですが、その片鱗が既に見えています。この長さを飽きさせない楽曲構成は流石です。続いて非常に速い疾走曲「Motorbreath」はとてもカッコいい。気持ち良いくらいかっ飛ばします。ギターリフのカッコいい「Jump In The Fire」、ノイジーなインストゥルメンタル曲「(Anesthesia) Pulling Teeth」が続きます。これ、ギターだと思っていたのですが、クリフによるベースソロなんですね。間髪入れず目が覚めるような強烈なイントロをぶちかます「Whiplash」にハッとさせられます。また鋭い切れ味で疾走します。続く「Phantom Lord」も疾走感溢れる楽曲です。中盤のリズムチェンジにアイアン・メイデンを感じましたが、NWOBHMの影響はかなり受けているでしょう。「No Remorse」を挟んで「Seek & Destroy」は激しい楽曲の中にあって比較的キャッチーな印象を受けます。そしてラスト曲「Metal Militia」。これまたラストに強烈な疾走曲を持ってきたなと思います。ぶっ飛んでいてカッコいい。
鮮烈なデビューアルバムで、強烈なインパクトを放つ好盤です。しかしそれも序の口で、次作以降更に磨きをかけて名盤を次々とリリースすることになります。
1984年 2ndアルバム
タイトルの『Ride The Lightning』はスティーヴン・キングの小説『ザ・スタンド』の中の死刑囚のセリフに由来しているのだそうです。そんなタイトルに似つかわしい、電気椅子のジャケットもカッコいいですね。プロデューサーは前作に引き続きポール・カーシオとジョン・ザズラ。
オープニングを飾る「Fight Fire With Fire」。アコギの美しいアルペジオに始まりますが、突如狂暴でメタリックな疾走曲に変貌します。1曲目から非常にパワフルで、重厚なギターリフとツーバスのドラムが特に強烈です。続いて表題曲「Ride The Lightning」。これもイントロからラーズ・ウルリッヒのパワフルなドラムが強烈に響きます。強烈なギターリフに負けずベースもヘヴィに唸ります。6分半を飽きさせない構成力も流石。「For Whom The Bell Tolls」は鐘の音で始まり、重厚なギターが絡んで鳥肌もののイントロです。インストゥルメンタルかと思いきや2分に渡るイントロで、歌メロもあります。続く「Fade To Black」は7分に渡る大曲です。哀愁を纏った美しい楽曲で、アコギの美しい音色をバックにジェイムズ・ヘットフィールドのしっとりとした歌が響きます。所々エレキのヘヴィなサウンドも出てきますが、変に疾走することなく、この哀愁漂う雰囲気を保ちながら楽曲を引き立てる演出。美しい名曲です。そして「Trapped Under Ice」では再び疾走。途中で一瞬リズムを変える変化球も、メタリカお得意のパターンですね。「Escape」を挟んで、強烈なイントロをぶちかます「Creeping Death」。これも6分半あるんですね。サウンドはとてもヘヴィで暗い雰囲気を持ちながらも、ドライブ感というか爽快な疾走感があって、長さを感じさせません。ラスト曲「The Call Of Ktulu」は9分の大作。クトゥルフ神話を題材にした楽曲で、ヘヴィで緊張感のある演奏を聴かせるインストゥルメンタルです。不穏な雰囲気というか、緊迫感が凄い。
大曲の中に緩急をつけるようになったのは、カーク・ハメット(Gt)とクリフ・バートン(B)が積極的に楽曲づくりに関与するようになったことも大きいようです。前作から更に進化した本作は、次作に並んで最高傑作の候補に挙げられることも多い名盤です。
1986年 3rdアルバム
スラッシュメタルの大名盤。個人的には全てのヘヴィメタルのアルバムのトップに君臨する最強名盤だと思います。残念ながら本作のツアー中にクリフ・バートン(B)が事故死してしまうという悲劇に見舞われ、クリフの遺作になりました。
プロデューサーはフレミング・ラスムッセンを迎えて制作されています。全8曲のうち8分強の長尺曲が3曲、他いずれも5分超で大作主義に走っています。非常に重たいサウンドなのに全55分と長いため、慣れるまで時間がかかりましたが、構成がわかると素晴らしいアルバムだと感じます。
オープニング曲「Battery」はメタリカ屈指の、それどころかヘヴィメタル界でもトップクラスの超名曲です。アコースティックギターによるアルペジオが暗くも美しく、そこからエレキギターとベース、ドラムにバトンを渡して強烈なサウンドに変貌。イントロだけでも非常にカッコいいのですが、歌メロに入る直前に加速。ゾクゾクします。攻撃的なサウンドにジェイムズ・ヘットフィールドの歌が乗りますが、意外とキャッチーさがある。だからこそ魅力的なのでしょう。楽曲も変化に満ち溢れていて目まぐるしく、そして凄まじい緊張感です。続く表題曲「Master Of Puppets」も、「Battery」に劣らない超名曲です。8分半に渡る大作ですが、飽きさせません。ギターリフがあまりにカッコよくて、いつまででも聴いていられます。歌詞では、麻薬中毒者の心が麻薬に支配されていく様を歌っています。「master master」の連呼だけじゃなくて「faster」や「laughter」とか、韻を踏んでいて語感も気持ち良いです。ヘヴィだけどキャッチー。
前2曲がメタル界屈指の非常に優れた名曲であるが故に落差も感じますが、続く「The Thing That Should Never Be」も名曲。引きずるような鈍重さで重たく怪しい雰囲気を作り出すギターリフがカッコいいのです。「Welcome Home (Sanitarium)」は、しっとりとした雰囲気を醸し出し、歌で聴かせるタイプの楽曲ですが、所々にその凶暴さが表面化します。ギターリフが強烈。後半は疾走曲に変貌しますが、全体的に物悲しい雰囲気が漂います。「Disposable Heroes」は8分強の楽曲です。イントロの攻撃力の高さが凄い。強烈な音の塊が迫ってきたかと思えば、せかすような高速ギターリフとバタバタと叩くドラム。ベースもカッコいいです。このスピードで8分の長さだと相当の密度ですが、リズムチェンジを駆使して目まぐるしく場面転換して、聴く者にあちこちフックを掛けていくので飽きません。この変速の疾走感が気持ち良い。「Leper Messiah」は鈍重なサウンドですがザクザク切り込んできます。このギターリフが耳に残るんですよね。終盤の高速ドラムに乗せたジェイムズの「Lie! Lie! Lie! …」の連呼も強烈です。そして「Orion」は8分半に渡るインストゥルメンタルです。鈍重なギターリフが強い中毒性を持っていて、聴いていてとても心地よい。そしてこの楽曲はクリフのベースがフィーチャーされていて、終始響き渡るどころか、ベースソロもあります。オープニング2曲が強烈に牽引する本作ですが、本作が頭でっかちにならないのはこの「Orion」という名曲の存在も大きいでしょう。そしてラスト曲「Damage, Inc.」では鋭い切れ味で気持ち良いくらい疾走します。前曲がミドルテンポでじっくり聴かせた後の、ラスト曲のこの疾走感。アルバム全体で緩急つけて終始飽きさせない工夫がされています。
怒りのエネルギーに満ち溢れており攻撃力が高く、目の覚めるようなヘヴィなサウンドです。大曲も多いのですが、一切の捨て曲がなく、非常に高いクオリティです。ヘヴィメタルを聴こうとする人は、まず手に取るべき作品です。
なお2017年リマスターの3枚組エディションにはボーナスディスクが2枚付属。1枚はラフミックス等のコアなファン向けですが、個人的にはもう1枚のライブ盤が気になり、3枚組エディションを購入。残念ながらブート並みの音質の悪さなのですが、それも2、3曲聴いてるとそこまで気にならなくなってきます。1986年のツアーを収録したもので、クリフが演奏しています。クリフのベースがスタジオ盤より際立っているかな?演奏については音質の悪さもあって荒々しいのですが、非常に迫力ある演奏を堪能できます。
1988年 4thアルバム
不幸にも事故死したベーシスト、クリフ・バートンの後任としてジェイソン・ニューステッドが加入しました。しかしベースの音が聞こえないという新人いじめのようなミックスがなされており、物議を醸しました。2018年リマスターではベース音が聞こえるようになるのかどうかが注目ポイントでしたが、残念ながらベース音は変わらず…。リミックスじゃなくリマスターだから、そもそも期待してはいけなかったのですが、それにしても残念。
ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)、ラーズ・ウルリッヒ(Dr)と、前作も担当したフレミング・ラスムッセンの共同プロデュース。フレミング・ラスムッセンの最近のインタビューによると、ベース録音は素晴らしいものだったが、バンド側がベースの音量をかろうじて聞こえるレベルまで下げるよう何度も求めてきたと語っています。ミキシング担当のスティーヴ・トンプソンも、ラーズがベースの音量を下げドラムを強調するよう主張したと語っています。…犯人はラーズなのでした。
「Blackened」で開幕。美しいギターが鳴り響くイントロはテープを逆再生したのだとか。そして美しいイントロをかき消すヘヴィなギターリフ。核戦争後の世界を描くこの楽曲は疾走感が凄く、テンションが上がります。中盤で見られるリズムチェンジは本作以前にもあった手法ですが、本作ではより複雑化してプログレ的な楽曲が多い気がします。続いて表題曲「…And Justice For All」は10分近い大作。美しいアルペジオに始まり、ヘヴィなリフが塗り潰していきます。1分過ぎたあたりからテンポアップし複雑化しますが、複雑なリズムをラーズのスリリングなドラムが支えます。10分の長さを感じさせない複雑でスリリングな構成は、プログレメタルと言えるでしょう。複雑なリズムを刻む「Eye Of The Beholder」に続き、メタリカを一般層にも有名にした1曲「One」。美しくも哀愁のあるギターに乗るジェイムズの歌はメロディアスで、叫ぶだけだったこれまでとは違って歌心を見せます。中盤のマシンガンのようなギターリフ、またカーク・ハメットのギターソロとその後ろで炸裂する力強いドラムと、終盤に向かうにつれて激しい感情が表れます。なお「One」とは孤独を意味します。映画『ジョニーは戦場へ行った』に着想を得たこの楽曲では、戦争から辛うじて生き延びた兵士の苦痛を歌います。チューブにつながれ、地雷で視界も言葉も聴力も手足も魂までも失い、地獄のような現世に生かされる苦痛と恐怖を訴えます。「The Shortest Straw」はギターリフがカッコいい1曲です。疾走感を生み出すドラムも良い。続いて「Harvester Of Sorrow」はイントロがいきなりパワフル。引きずるように重たい楽曲です。8分近い「The Frayed Ends Of Sanity」は展開が複雑で、本作中最も難解な印象です。中盤のギターソロパートがとてもカッコいい。続く「To Live Is To Die」は10分近いインストゥルメンタル。アコースティックギターの美しい音色に癒されますが、それも束の間、ヘヴィなサウンドが蹂躙していきます。鈍重なサウンドが続きますが、中盤のメロディの美しいこと。暗くも美しいサウンドに魅了されます。終盤に向けて鈍重になりリズムが複雑化していきますが、ラストに毒気の抜けた美しいアコギ。美しさに浸っていると、雰囲気をぶち壊す爆裂疾走曲「Dyers Eve」。ラーズのツーバスとカークのギターソロが化け物じみているこの楽曲は、凄まじいスピード感を体感できます。カッコいい。
社会的なテーマを取り上げたことで知的になったとメディアから評価されたようです。大作主義を極め、複雑な構成の楽曲はなかなかに聴きごたえがあります。個人的には前半パートが特にお気に入りです。
脱スラッシュメタル、グルーヴの探求
1991年 5thアルバム
通称『The Black Album (ブラック・アルバム)』。スラッシュメタルの筆頭格だったメタリカが、当時隆盛を極めていたグランジに影響を受け、ヘヴィネスとグルーヴを追求した音楽へと大きく舵を切りました。これが功を奏して、全米だけで1600万枚以上、全世界では3000万枚以上のセールスを記録した最大ヒット作となりました。またその後のヘヴィメタルの方向性を決定づけた1枚として、メタル界に大きな影響を与えています。
ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)、ラーズ・ウルリッヒ(Dr)、ボブ・ロックの共同プロデュース。この名義で7th『リロード』まで続きます。
オープニング曲は「Enter Sandman」。イントロから一気に惹き込まれていく素晴らしい名曲です。あまりにカッコいい。決して速くはないですが、ヘヴィさを更に極めて非常にスリリング。ヘヴィなリフもドラムもスリリングなのですが、それ以上にメロディアスなジェイムズの歌をフィーチャーしているようにも思います。「Sandman」という眠気を誘う妖精をテーマにした、メタリカには珍しいファンタジー曲です。続く「Sad But True」の引きずるようなサウンドはあまりに重たい。ラーズのドラムが非常にパワフルで、叩きつけてきます。メロディは少しエキゾチックな雰囲気。「Holier Than Thou」は疾走曲で、本作では数少ないスラッシュメタル曲。この遅く重いアルバムの中でメリハリを作り出します。続く「The Unforgiven」は哀愁たっぷりの名曲です。ヘヴィさの中に垣間見える美しいアコギが切ない雰囲気を作り、ジェイムズの哀愁漂う歌はしんみりとします。続編があって、『リロード』には”II”、『デス・マグネティック』には”III”があります。続いて「Wherever I May Roam」はカーク・ハメットの弾く、エスニックな雰囲気の怪しいギターが魅力的です。ジェイソン・ニューステッドの、メタリックでヘヴィなベースも主張していて、前作ではほとんど聞こえなかったのが本作では音の核になっていて良かった。「Don’t Tread On Me」は楽曲自体はパッとしないものの、グルーヴ感溢れるサウンドが魅力的。肝はベースとドラムのリズム隊でしょう。「Through The Never」はリズムチェンジの慌ただしい楽曲ですが、時たま加速し、その疾走感がとても気持ち良いです。空耳ですが「寿司、鳥、風呂、寝ろ!」って聞こえます。笑 そんなわけでキャッチーな印象が強いです。続く「Nothing Else Matters」はアコギが哀しげなメロディを奏でる、メタリカ初のラブバラード。ドラムはヘヴィですが鈍重なリフは身を潜め、美しいサウンドと哀愁たっぷりの歌唱を堪能できます。とてもドラマチックです。強烈なグルーヴ感のある「Of Wolf And Man」と「The God That Failed」は、いずれもバキバキ唸るベースが聴きどころ。続く「My Friend Of Misery」はジェイソンが作曲に参加した1曲。イントロや間奏では彼のベースソロが披露されます。終盤のギターソロもカッコいい。メロディは全体的に少し変な印象を受けますが、サビについてはキャッチーな感じ。ラストは「The Struggle Within」。行進曲のようなドラムに始まり、そして疾走。重たいものの爽快な疾走感を覚えながら終わります。
『メタル・マスター』をはじめとした前4作のような速さは息を潜めましたが、ヘヴィネスとグルーヴ感を増したサウンドと、表現力の増したジェイムズのメロディアスな歌に魅了されます。方向性は大きく変わりましたが、これも素晴らしい名盤です。
1996年 6thアルバム
米国だけで500万枚以上を売り上げた作品です。現時点でもオリジナルアルバムでは最長の79分というボリュームで、CDの収録時間の制約もありレーベルから圧力をかけられ、「The Outlaw Torn」を1分ほど削って収録したのだそうです。前作に引き続き、ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)、ラーズ・ウルリッヒ(Dr)、ボブ・ロックの共同プロデュース。
グルーヴを追求した音楽性で、スラッシュメタル期のような速い楽曲がほとんどないのが評価の分かれどころですね。
オープニング曲は「Ain’t My Bitch」。イントロのスローテンポから徐々にスピードを上げていく、ヘヴィでグルーヴ感に溢れる楽曲です。ジェイムズの歌は聞きやすく、ヘヴィな割にキャッチーな印象を受けます。「2 X 4」はぐにゃぐにゃ揺れるような、ブルージーで気だるいグルーヴが特徴的。独特のリズム感が印象に残ります。鈍重な「The House That Jack Built」ではトーキングモジュレーターを導入。後半でワウワウ唸っています。続く「Until It Sleeps」は哀愁漂う楽曲です。ヘヴィなサウンドに、憂いのある渋い歌が切ないです。「King Nothing」はジェイソン・ニューステッドのベースや、間奏でのカーク・ハメットのギターソロが印象的。メロディはどことなく「Enter Sandman」にも似ている気がします。続いて本作のハイライトとも言える「Hero Of The Day」。メロディの美しい名バラードです。オーケストラと共演した『S&M』では更に化けることになりますが、この原曲も徐々に盛り上げていく展開が中々アツいです。8分超の「Bleeding Me」は哀愁のメロディが渋い。メロディアスな楽曲ですが若干冗長な印象もあります。続く「Cure」はリズムが気持ち良いグルーヴィな楽曲です。3連符が特徴的な気だるい「Poor Twisted Me」を挟んで、数少ない疾走曲「Wasting My Hate」。導入はゆっくりですが、突如疾走して軽快なノリとヘヴィなリフで駆け抜けます。切れ味抜群で、冗長になりかけていたアルバムの流れにメスを入れてくれます。「Mama Said」はアコースティックなバラード。メロディアスな歌が魅力的で、表現力の向上したジェイムズの渋い歌で魅せてくれます。サウンドはメタリカらしくなく、大人しいですが良曲です。「Thorn Within」はノリの良いヘヴィなサウンドが高揚感を煽りますが、歌はメロディアスでじっくり聴かせる感じ。続く「Ronnie」はヘンテコなリフで開幕。気だるくブルージーな楽曲ですね。そしてラストは10分近い大曲「The Outlaw Torn」。ジェイソンのベースが際立つ楽曲で、気だるくてグルーヴ感に溢れています。ヘヴィながらもゆったりしていて心地良いですが、さすがに長く、冗長な感はあります。
速い楽曲が圧倒的に少なく、その割に収録時間が長いため、通しで聴くと冗長な印象は否めません。しかし単曲でみると良い楽曲はいくつもあります。曲数を絞るなり速い楽曲を増やすなりしてメリハリつければ、また違った印象だったのかなと思います。
1997年 7thアルバム
本作は前作の路線を踏襲していますが、実際のところほとんどが前作のアウトテイクで、2枚組とする案もあったのだとか。正直前作の長さでも冗長に感じていたため、2枚組だったら駄盤と評したかもしれません…。そんな本作も、前作に引き続き76分という大ボリュームに仕上がりました。ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)、ラーズ・ウルリッヒ(Dr)、ボブ・ロックの共同プロデュース名義で、こちらも前回同様。これも全米で300万枚以上を売り上げています。なおオリジナルアルバムとしては、ジェイソン・ニューステッド(B)が参加した最後の作品となりました。
キラーチューン「Fuel」で開幕。ジェイムズの歌唱から始まり、初っ端からパワフルで速い演奏に圧倒されます。ダーティなリフに、時折入るツーバスが強烈な力強いドラム、早口でまくし立てるボーカルが作る強烈なインパクト。素晴らしい楽曲です。「The Memory Remains」は引きずるように重たいサウンドが強烈ですが、メロディラインがキャッチーで聴きやすいですね。なおマリアンヌ・フェイスフルをゲストボーカルに招いています。続いて「Devil’s Dance」では、踏みつけるかのようなパワフルなリズム隊に乗せて、ヘヴィなリフが切り込んできます。迫力のサウンドに圧倒されます。「The Unforgiven II」は『メタリカ』収録曲の続編。哀愁たっぷりのバラードで、重苦しいサウンドに乗るメロディアスな歌は胸に染み入ります。ドラマチックに盛り上げていく名曲です。続く「Better Than You」は比較的テンポの速い楽曲です。音はヘヴィですがノリノリで軽快。ここでアルバムの流れに緩急つけた後は、ヘヴィでグルーヴ感の強い「Slither」が続きます。「Carpe Diem Baby」で更にテンポを落としますが、若干冗長な印象。「Bad Seed」は抜群のグルーヴで、ヘヴィなのにダンサブル。スローテンポで始まりますが、徐々にテンポアップしていくこともあり、ノリ良く感じます。続いて7分近い「Where The Wild Things Are」…正直ちょっと長いです。粘っこくて気だるいボーカルが印象的で、後半の間奏ではカークのサイケでブルージーなギターソロを味わえます。ブルージーなリフから始まる「Prince Charming」は疾走曲。サウンドは重たいけれど速く、そしてキャッチーなメロディも相まって爽快なロックンロールに仕上がりました。「Low Man’s Lyric」はバラード曲。ヴァイオリンと、ハーディ・ガーディと呼ばれる弦楽器が用いられていて牧歌的な雰囲気です。メタリカには珍しくヘヴィさの少ない穏やかなサウンドで、強い哀愁の漂う渋い歌を聴かせます。一転して「Attitude」ではストレートなロックンロールを聴かせます。縦ノリの爽快なサウンドで楽しませた後は、8分に渡るラスト曲「Fixxxer」。鈍重ですがグルーヴが効いていて、うねるリフは強烈です。
前半に魅力的な楽曲が並ぶものの、後半はやや失速気味です。前作を継承した路線ですが、個人的には前作より好みですね。本作のあとカバーアルバム『ガレージ・インク』を挟んで、『セイント・アンガー』で速いメタリカが復活します。
2003年 8thアルバム
2001年にジェイソン・ニューステッド(B)が脱退。ジェイソン脱退のショックもあって、ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)が重度のアルコール依存に。そしてジェイムズがリハビリ施設に入所した際に、カーク・ハメット(Gt)が渡した聖クリストファーの御守りがヒントになり、『St. Anger (怒りの聖人)』のタイトルが付いたのだとか。ちなみにジェイソンの後釜として、2003年にロバート・トゥルージロ(B)がツアーのサポートメンバーから正式メンバーに昇格し、迎え入れられました。本作にはロバートの名がクレジットされていますが、実際にはプロデューサーであるボブ・ロックが本作でのベースを弾いています。
『メタリカ』以降は路線が変わり、グルーヴを追求したミドルトンポ主体の楽曲が中心となってしまいましたが、本作では速くて攻撃的なメタリカが復活。スラッシュメタルとは違うものの、個人的には好みの作品です。スネアの音に賛否あるそうですが、ラーズ・ウルリッヒ(Dr)がある日、スネアのスナッピーをうっかりオフにしたままリハーサルを過ごしてしまい、録音後にその音を気に入ってそのまま採用したのだとか。生々しい音が好感持てます。
開幕「Frantic」が非常に強烈なインパクトで、抜群の破壊力を持っています。高速でアグレッシブなギター、そしてパワフルで生々しいドラム音がとてもカッコ良い。ジェイムズのブチ切れたような「Frantic tick tick tick tick tick tock」の連呼は耳に残るし、時折見せる中東風のメロディも魅力的。表題曲「St. Anger」も煽り立てるようなダーティなリフに、スコンスコンと一斗缶を叩くかのようなラーズのドラムが超高速ツーバスと合わせて存分に暴れ回っています。そして前曲に引き続きオリエンタルなメロディが、独特の魅力を醸し出しています。スリリングな疾走パートと歌メロをゆっくり聴かせるパートで、スピードも緩急つけていて、兎にも角にもカッコ良い。続く「Some Kind Of Monster」は8分超の大曲。『ロード』や『リロード』で見せたグルーヴ感のあるミドルチューンで、歌もヘヴィなリフも同じフレーズをひたすら反復します。これだけだと冗長になりがちですが、ラーズのドラムが時折ひとりだけ倍速で叩いたりして場をかき乱します。これがスリリングで面白い。銃声のようなサウンドが炸裂する「Dirty Window」はリズムチェンジが頻繁で、目まぐるしく展開します。語感の良い歌も印象的です。「Invisible Kid」はヘヴィなリフに、比較的キャッチーな歌が乗ります。ですが8分半あるので少し冗長かも。続く「My World」はグルーヴ感があり、変則的ながらもリズミカルで爽快です。終盤は、ヒステリックなほどのシャウト気味なボーカルと、焦燥感を煽る激しいサウンドが強烈です。ラウドロック調の「Shoot Me Again」は適度な隙間と、ヘヴィでグルーヴィなサウンドの緩急がついてスリリングです。「Sweet Amber」はアグレッシブな1曲。野性味溢れる疾走サウンドに、オリエンタルなメロディが特徴的です。非常にヘヴィなリフと怪しげな歌を聴かせる「The Unnamed Feeling」を挟んで、アグレッシブな「Purify」が続きます。そして最後に9分近い大曲「All Within My Hands」。攻撃的なサウンドはリズムチェンジの嵐で、目まぐるしい展開に圧倒されます。
野性味溢れるエネルギッシュな作品で、とにかく冒頭2曲の持つパワーが強烈。最後まで聴くことは少ないものの、「Frantic」と「St. Anger」の2曲が聴きたくてよく手が伸びる作品です。