🇯🇵 小松未歩 (こまつ みほ)

レビュー作品数: 1
  

編集盤

小松未歩ベスト 〜once more〜

2006年

 兵庫県神戸市出身のシンガーソングライター、小松未歩。3月30日生まれ。1997年にシングル「謎」でデビューし、いくつかの楽曲がアニメ『名探偵コナン』でタイアップを果たしています。シングル売上ベスト3が全てコナンタイアップ曲なので、コナンの人というイメージを持っている方もいるのではないでしょうか。私も例に漏れずコナンで小松未歩を知りました。
 本作は全シングル26曲と新録1曲から成る2枚組のベスト盤で、1997年から2006年までの9年間に渡る彼女の歴史を年代順に追うことができます。作詞作曲は全て小松自身によるものですが、編曲者によって楽曲の仕上がりは結構変わっています。中でも初期と後期楽曲の大半を編曲した古井弘人(GARNET CROW)との相性が抜群に良く、私が選ぶ小松未歩の名曲のほぼ全てが古井編曲だったりします。
 なお、デビューから一貫して「ダブルトラック」(重ね録りの一種)という手法が用いられています。音域が狭く線の細い彼女の歌声を補強する目的があったのか、エコーがかったような独特の歌声は魅力の一つとなっていますね。
 
 
 まずはDisc1。初期は力強いイメージを打ち出そうとしていたのか、キャッチーさを前面に出した演奏はソリッドでメリハリのある印象です。しかし後期のリラックスした歌唱と聞き比べると、小松の歌唱は少し背伸びをしているというか、肩に力が入っているような感じもします。「宇宙船」や「地球」といった純真無垢で、良い意味で子ども心の残る歌詞も特徴的ですね。
 リリース順に並ぶ本作は、デビュー作かつ最大のヒット曲である「謎」で幕を開けます。アニメ『名探偵コナン』のタイアップが付きましたが、たぶんアニメのイメージに一番合った楽曲ではないでしょうか。ダンサブルなビートに小気味良いアコギ、そしてソリッドなギターがハードポップ気味な演奏を展開。キャッチーさを出す演出だったんでしょうが、小松の歌声に対してやや演奏が強めな印象。
 「輝ける星」はアニメ『忍ペンまん丸』のED曲。前曲とは打って変わりほのぼのとした雰囲気で、派手さはないのですが温もりに溢れています。プチプチノイズがうっすら聞こえるノスタルジックな味付けがされていますね。小松のイメージに合うのはこういうタイプの楽曲だと思います。
 続く「願い事ひとつだけ」はコナンED曲で、コナンファンに人気の高い楽曲ではないでしょうか。メランコリックなメロディが特に魅力的で、小松の歌唱はメロディと相まって切なさを誘います。楽曲アレンジも歌メロの良さを引き立てていて、鍵盤主体の演奏だけでなく、ドラムの盛り上げ方とかも良い仕事をしています。
 頭サビで始まる「anybody’s game」はダンサブルなのですが、少し緊張感が漂います。ただ、耳に残るキャッチーなメロディラインだけを聴くとそこまでシリアスさはなく、ハードな演奏によって若干シリアスさを加えている感じ。
 「チャンス」はめざましテレビのテーマ曲に採用された楽曲で、小さい頃に番組を観ていたのでよく覚えています。「ワープして 覗きたい 20世紀の結末を」など歌詞には時代を感じる部分もありますが、優れたメロディラインは今聞いても変わらず魅力的で、そらで歌えるくらい聞き込んだ歌は思わず口ずさんでしまいます。キャッチーなメロディと小松の歌声のおかげで爽やかな印象が強いのですが、バックの演奏はグランジ風のノイジーなギターや唸るベースなど意外とハードだったりします。キャッチーさに加えて思い入れも非常に強くて、個人的には初期楽曲では一番好きです。
 そして「氷の上に立つように」はまたもコナンED曲ですが、個人的には小松未歩のコナンタイアップ曲では一番好みですね。イントロから氷のような透明感のある演奏で引き込んできます。キャッチーな頭サビは若干緊張感が漂い、タイトルにもあるようなスリリングな場面を表しているかのよう。Aメロ以降は意外にグルーヴ感のあるベースに驚かされたり。サビではスリルと透明感が同居しており魅力を放っています。
 「さよならのかけら」も頭サビで、小松の常套パターンでしょうか。笑 ヘヴィな演奏と陰のあるメロディでややダークな雰囲気。歌詞も別れを歌った暗めの内容になっています。そしてこの楽曲から売上も右肩下がりになり、メディアで耳にする機会も減っていきます。
 「最短距離で」は明るくポップな楽曲です。跳ねるような歌声で「最短距離で この気持ちを届けたい」のフレーズが耳に残る可愛らしい楽曲ですが、個人的には打ち込みのダンスサウンドより生ドラムのバンドサウンドが欲しかったかな。間奏はノリの良いピアノやホーンなど賑やかで楽しいです。
 「風がそよぐ場所」はメロディが低く、AメロBメロの低音はかなり苦しそうです。メロディラインや歌詞は魅力的なのですが、キーはもう少し高めにしても良かったのではないでしょうか。打ち込みサウンドですが、サビでは躍動感あるドラムが加わる演出により弾けるような爽快感。なお「謎」からこの「風がそよぐ場所」までは全て古井の編曲ですが、これ以降は編曲者が変わってややシリアスな雰囲気へと変わっていくため、ここに初期と中期の境があると言えそうです。
 「あなたがいるから」は劇場版アニメ『名探偵コナン 瞳の中の暗殺者』のテーマ曲。池田大介編曲で、ピアノ主体のシンプルな演奏で始まりますが、途中から少し楽器が増えて盛り上がっていきます。恋愛三部作の1作目で、しっとりとしたメロディアスなバラードを聴かせてくれます。
 ここからしばらくは大賀好修が編曲を務めます。恋愛三部作の2作目「君の瞳には映らない」はシリアスな雰囲気が漂うダンスチューンです。ダンス色の強い挑戦的なアレンジなのですが、メロディが弱くてあまり印象に残りません…。
 そして恋愛三部作の最終作「Love gone」。失恋を歌った楽曲で、少し毒気のある歌詞と陰のあるメロディが冷たい雰囲気を纏っています。歌唱も暗くて、初期の純真無垢でキャッチーな楽曲とは大きく変わってしまった印象。
 続く「とどまることのない愛」もイントロから寒々しい感じがしますね。メロディアスでちょっと切ない楽曲です。とはいえ前曲と比べると小松の歌は比較的明るめなのが救いですね。
 癒やされる楽曲は多々あれど、スリルとはほぼ無縁の彼女。「さいごの砦」はその数少ないスリリングな楽曲で、そして中期のシリアス路線の楽曲群では頭ひとつ抜けた傑作です。頭サビで勢いに満ちており、そして耳に残るキャッチーなメロディを持ちつつも、焦燥感を煽るシリアスな雰囲気でカッコ良い。ダンサブルなビートも中々魅力的です。
 
 
 ここからDisc2。「愛してる…」は後期楽曲に近いほのぼのとした温かい雰囲気で、小松未歩の魅力を引き立てる佳曲です。優しさに溢れた歌唱にはとても癒やされます。サビメロで低くなるという展開がちょっと独特ですが、分厚いコーラスによって包まれるかのような多幸感のあるサビは魅力的です。
 「dance」は前曲とは変わって、エキゾチックで怪しげな雰囲気が漂うダンスチューン。演奏はインド音楽っぽい感じもしつつ、コーラスを重ねて不思議な浮遊感も漂います。「君の瞳には映らない」からここまで大賀好修のアレンジ。
 「mysterious love」は徳永暁人編曲。「dance」路線を継いだか、ちょっとだけスパニッシュな香りのするダンス色の強いアレンジです。沈みそうなシリアスなメロディを、ダンスビートで無理に盛り上げている感じ。
 小林哲編曲の「ふたりの願い」。8分の6拍子のリズムが心地良いですが、メロディは地味めな印象です。
 そしてここからは肩肘張らない素朴でリラックスした楽曲が並びます。中期と後期の境を設けるならこの辺でしょうか。小松のイメージにピッタリ合ったほのぼのと楽曲が並び、初期のヒットしていた頃にも匹敵する名曲の数々が揃っています。「私さがし」は再び徳永暁人編曲。小松の優しい歌唱をフィーチャーした穏やかなアレンジで、全体的に素朴な雰囲気だからこそ、徳永がコーラスに加わるサビメロのちょっとした厚みに鳥肌が立つんですよね。
 「翼はなくても」は実に4年半ぶりとなる古井編曲。歌詞やエッセイなどから垣間見える彼女のキャラクターから、この楽曲のようなゆったりとして柔らかい楽曲がよく似合います。優しく語りかけるような歌唱がとても魅力的で、聴いていると涙が出てきます。派手さはありませんが、歌を引き立てる演奏は温かい。この楽曲大好きなんですよね。
 続く「涙キラリ飛ばせ」はポップなアップテンポ曲で、小松未歩5本の指に入る名曲です。少し切なさの混じった歌詞をキャッチーなメロディに乗せて、爽やかに歌い上げます。ベースがブイブイと心地良く刻み、時折鳴るオルガンの味付けが絶妙。古井編曲ということもあり、これを自身のGARNET CROWに持ち帰ったのか「ON THE WAY」という曲で似たようなアレンジを聴けます。
 「砂のしろ」は少しラテン風味の漂うメロディアスな楽曲。メランコリックな歌に絡むスパニッシュギターやパーカッションが独特ですね。
 「I ~誰か…」は憂いを帯びてしっとりとした楽曲で、恋愛三部作の楽曲にも似た雰囲気。ピアノとアコギの哀愁漂う演奏に、低く暗い歌でダウナーな印象です。サビでは焦がれるような歌唱で胸が締め付けられます。珍しくギターソロが用意されていて、これが中々良い。
 「I just wanna hold you tight」はアニメ『メルヘヴン』のED曲で小林哲編曲。ドリーミーで幻想的な演奏に加え、柔らかくて温かい歌に魅せられます。サビではコーラスやエコーのかかった歌声によって浮遊感に溢れています。
 「あなた色」は私が小松未歩に戻ってくるキッカケになった楽曲でした。たまたま有線でかかっているのを聞いて一目惚れし、調べたらやっぱり小松未歩、そして古井弘人編曲。運命を感じた瞬間でした。笑 ホーンで盛り上げる賑やかなイントロに、歌メロパートではリズミカルな演奏で高揚感を煽ってきます。オルガンの味付けも古井らしくて実に素晴らしいですね。そしてキャッチーなメロディに乗っかる歌詞が何よりも魅力的で、パートナーの些細な仕草や自分にしか見せない一面などを列挙しては「全部ひっくるめて大好き」。とても甘々な歌詞で小松の可愛らしい歌唱を聴いていると、実のパートナーの惚気話をしているのかなと勝手に推測しては嬉しい気分になります。幸せをお裾分けされているかのような幸福感が得られます。個人的にはこれが小松の最高傑作です(「チャンス」も捨てがたいですが…!)。
 そしてラストシングル「恋になれ…」。編曲は大賀好修で、打ち込みリズムにアコギの音が優しい。そして恋心をいつか伝えたいというもどかしい歌詞が、切ないメロディに乗ります。歌唱が柔らかくて、切なくも癒されますね。
 ラスト曲は本作のための書き下ろし「happy ending」。古井弘人編曲の、まったりとして素朴な楽曲です。派手さはないのですが、サビでの盛り上がりはぐっとくるものがあります。パートナーと過ごす穏やかで平凡な生活に心満たされ、ずっと共に過ごせたら良いなと願う歌詞で、小松未歩の未来を指し示しているかのようです。
 
 
 記憶にある限り、私が一番最初に好きになったアーティストは小松未歩でした。その後GARNET CROWに本格的にハマって小松未歩は疎遠になってしまったのですが、後期の名曲「あなた色」に出会ったことをキッカケにまた聴き始め、中古含めアルバムも5~6枚集めたりしていました。ですが本作を購入し、結局これだけを手元に残して全て売ってしまったという…。それだけ本作の出来も良かった訳で、入門盤としても愛聴盤としても、小松未歩は本作が決定盤だと思っています。いくつかのアーティストに提供した楽曲のセルフカバーが聴ける等、オリジナルアルバムにも勿論良さはあるんですけどね。

 所属レーベルGIZA studioの他のアーティストと同様、正式には小松未歩引退のアナウンスはなく、自然フェードアウトを辿ることに…。ですがこのベスト盤が最後の作品で、その最後の楽曲が「happy ending」なのがせめてもの救いです。真偽は定かではないですが結婚しているという噂も耳にしますし、きっと幸せに暮らしているだろうと思いを巡らせつつ、このベスト盤を聴いて懐かしんでいます。

小松未歩ベスト 〜once more〜
小松未歩
 
 

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