🇮🇪 My Bloody Valentine (マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)
レビュー作品数: 3
スタジオ盤
1988年 1stアルバム
マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、通称マイブラ(海外だとMBV)。アイルランド出身のオルタナティヴロックバンドでシューゲイザーの代表格として知られます。1984年に結成。1987年頃に今の編成となり、ケヴィン・シールズ(Vo/Gt)、コルム・オコーサク(Dr)、ビリンダ・ブッチャー(Vo/Gt)、デビー・グッギ(B)による男女2:2の編成です。セルフプロデュースとなる本作はノイズロックといった趣で、次作とは音楽性が異なります。ほぼ全ての作曲をケヴィンが手掛け、一部の作詞でビリンダ、一部の作詞作曲でコルムが参加しています。
アルバムは「Soft As Snow (But Warm Inside)」で開幕。グワングワンと揺さぶる何とも言えない気持ち悪さがクセになりそうです。ちょっと音質が悪いのですが、それが独特の感覚を強めているかもしれません。次作『ラヴレス』を知ってから聴くと、ケヴィンのボーカルは輪郭がかなりくっきりしている印象。続く「Lose My Breath」はビリンダが歌っています。アコギを鳴らして気だるく歌っているのですが、あまりに陰鬱で、不気味で強烈な不安を煽ってくる印象です。「Cupid Come」はややノイジーなひねくれポップ曲。メロディの運び方がなんか変な感じです。ラストはノイズの海に呑み込まれます。「(When You Wake) You’re Still In A Dream」はノイジーなロックンロール。ゴリゴリとした縦ノリの演奏は疾走感があってカッコ良いのですが、ケヴィンの歌とビリンダのアンニュイなコーラスは脱力系ですね。「No More Sorry」は陰鬱なメロディをノイズまみれにした感じで、ボーカルはかなり病んでいる印象。冷たく暗い空気が流れています。「All I Need」でノイズは増し、轟音で不快なサウンドが全体を覆っています。歌は埋もれ気味ですが、この気だるげな歌唱は、不快なノイズの中に不思議と心地良さを生み出しています。「Feed Me With Your Kiss」はノイジーなロックンロール。ニルヴァーナすら霞みそうな、ディストーションを効かせた轟音が衝撃的です。でもニルヴァーナと違って歌は脱力系ポップで、それも轟音サウンドに埋もれ気味ですね。「Sueisfine」はドラムがかなり攻撃的な疾走曲。ノイジーなうえにサイケデリックでもあり、隙間無く埋め尽くす轟音は浮遊感もあります。続いて「Several Girls Galore」、グワングワンと揺さぶる歪みまくったギターが強烈です。歌はコーラスワークも含めて優しくてメロディアスですが、ノイジーな演奏は排他的な印象。「You Never Should」はディストーションの効いたノイジーなロックンロール。スリリングな演奏に乗る歌メロは甘くてキャッチーです。続く「Nothing Much To Lose」はマシンガンのようなドラム連打から、比較的キャッチーで晴れやかな演奏が始まります。そして時折表れるドラム連打が楽曲に緩急を付け、スリリングな印象に仕立て上げます。ラストの「I Can See It (But I Can’t Feel It)」は若干インド音楽っぽさも漂っている気がします。サイケデリックで怪しげな印象です。
メロディアスでゆったり聴ける次作と比べると、疾走曲も多くて演奏もかなり尖っています。ニルヴァーナの『ブリーチ』にも似た雰囲気で、轟音まみれの攻撃的な演奏は若干取っつきづらいです。
1991年 2ndアルバム
本作の制作には2年を費やし、制作費は25万ポンド(当時の日本円で約4500万円)もかかり、その結果レーベルを倒産に追いやったと言われています。その結果出来上がった轟音でノイジーなギターに甘いメロディが特徴的な本作は、シューゲイザーの金字塔と言われています。ケヴィン・シールズがセルフプロデュースしました(「Touched」のみコルム・オコーサクのプロデュース)。
オープニング曲の「Only Shallow」でイントロからノイジーなギターによる音の洪水に圧倒されます。でもビリンダ・ブッチャーによる歌は囁くように優しくて、ポップなメロディというギャップ。メロディのおかげかジャケットの視覚効果か、轟音のギターも不思議とカラフルな印象を受けるんですよね。浮遊感があって心地良い名曲です。「Loomer」も、歪みまくっているけど優しいギターが空間を隙間無く埋め尽くします。ビリンダのアンニュイなウィスパーボイスが癒してくれます。レディオヘッドにも影響を与えている気がします。「Touched」は短いインストゥルメンタル。ノイジーな音が絡み合って幻覚的な感覚を生み出します。結構メロディアスですね。そのまま続く「To Here Knows When」ではノイズは更に強まります。消え入りそうな甘いウィスパーボイスをグワングワンと響く轟音ギターが掻き消し、でもその轟音の隙間からメロディアスな音色も聴こえるという。雑然としていて、真っ正面から向き合って理解しようとすると不快ですが、流し聴き程度で音に身体を委ねると非常に心地良い浮遊感に満ちています。そして「When You Sleep」は「Only Shallow」と並ぶ名曲ですね。ギターが奏でるノイジーな重低音、そこに乗るメロディアスでカラフルなフレーズがとても愛おしく、比較的キャッチーな印象を抱きます。相変わらず音は隙間無く敷き詰められており、ケヴィンのボーカルは轟音の中に埋もれています。一定のリズムを刻むコルムのドラムも心地良さの要因でしょうか。続く「I Only Said」もメロディアスで聴きやすいです。ケヴィンの歌が聞き取れないくらい、ぎっしりとノイジーな音で埋め尽くされていて、でも幻想的で心地良い浮遊感があります。「Come In Alone」は気だるげな雰囲気が漂います。ゴリゴリとした重低音やトリップ感のある高音ノイズが頭を掻き乱し、緩く穏やかな歌メロが癒やす不思議な感覚。結構サイケデリックです。続く「Sometimes」はディストーションを効かせた轟音ギターの裏でアコギがドラムの代わりにリズムを刻みます。そして遠くから徐々に優しいメロディが浮き彫りになってきます。「Blown A Wish」はトリップ感の強い1曲。ビリンダの気だるげな歌をかき消す幻覚的なサウンドが頭を揺さぶります。続く「What You Want」は少し疾走感があり、前曲までのアンニュイで幻想的な世界から一瞬引き戻されます。明るくノリの良いイントロを終えると消え入りそうな歌が始まりますが、少し柔らかくしたジーザス&メリー・チェインみたい。終盤に再び幻想的な世界へ連れていかれます。そしてラスト曲「Soon」はまさかのダンスチューン。ざらついたノイジーなギターが際立ちますが、リズミカルな演奏はやけにノリが良いですね。ダンサブルな1曲でこのアルバムを終えます。
轟音ギターとウィスパーボイスが作り出す、浮遊感のある幻想的な世界。ノイジーなのに美しい音の海に浸ることができます。個人的には良さがわかるまで時間がかかった作品ですが、疲れたときに何も考えず音に身を委ねたときに良さに気づきました。そこからはスルメのようにじわじわとハマっていました。
2013年 3rdアルバム
前作から22年のブランクを経てリリースされた、バンド名を冠した自信作。
1996年~1997年にかけてレコーディングが行われていますが、メンバーの相次ぐ脱退で1997年にバンドは解散することになります。そして2007年にケヴィン・シールズ(Vo/Gt)、コルム・オコーサク(Dr)、ビリンダ・ブッチャー(Vo/Gt)、デビー・グッギ(B)のメンバーで再結成。前年からケヴィンがアルバム制作に取り組んでいましたが、再結成からまた5年の歳月を経て2012年にレコーディングが完了、2013年にリリースされるに至ります。
アルバムは「She Found Now」で開幕。隙間無く埋め尽くす轟音に囁くようなウィスパーボイスで、『ラヴレス』で築いたバンドイメージ・音楽性を踏襲しています。ノイジーなのに穏やかで、心地良い浮遊感に満ち溢れています。「Only Tomorrow」は歪みまくったギターとビリンダのアンニュイな歌が幻覚的な雰囲気を作り出しますが、そこにコルムのリズミカルなドラムがアクセントを加えています。後半に向かうにつれノイジーなギターがメロディアスなフレーズを奏でます。「Who Sees You」はケヴィンが消え入りそうな声で囁きます。ノイジーな演奏は気だるげで、轟音で心地良い音色を奏でます。でも『ラヴレス』と比べるとザラザラした質感です。「Is This And Yes」では、パイプオルガンがポストロック的な無機質で冷たい感覚を作ります。ビリンダの歌も、歌というより楽器のような感じ。ラストは唐突に終わります。続く「If I Am」はエコーがかかった幻覚的な演奏に包み込まれます。更に変則的なリズムを刻むことでフックをかけてきます。「New You」は幻覚的なダンスチューン。ビリンダのアンニュイな歌をはじめ気だるいんですが、淡々と反復するリズミカルな演奏に乗せられてしまいます。中々の良曲です。「In Another Day」はマッドチェスターのようにグルーヴィでノリノリなダンス曲です。テンポも速くてダンサブルですが、演奏のテンションを上げてもビリンダの歌は平常通りで、ウィスパーボイスで優しく囁きます。続く「Nothing Is」はインストゥルメンタルで、淡々と反復するだけですが緊張感に満ち溢れたスリリングなダンスチューンです。ラスト曲「Wonder 2」はケヴィンの歌をかき消すほどの様々な音が混沌と溢れかえっています。テンポも速めで、焦燥感を煽る緊迫した空気がとてもスリリングです。
雰囲気は『ラヴレス』を踏襲しており、隙間無く埋め尽くす音によって心地良い浮遊感に包まれます。メロディが若干弱く、中盤まで劣化『ラヴレス』感は否めませんが、終盤のテンション高めのダンスチューンで差別化を図っています。
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