🇯🇵 nano.RIPE (ナノライプ)
レビュー作品数: 7
スタジオ盤
インディーズ時代
2008年 3rdミニアルバム
nano.RIPEは日本のギターロックバンドで、千葉の県立高校で同級生だったきみコとササキジュン(作編曲名義は本名の佐々木淳)により1998年に結成しました。シングル2枚とミニアルバム2枚(1st『青色パウチ』、2nd『88』)を自主制作盤としてリリース。『88』のリリースから半年後にインディーズレーベルより本作『空飛ぶクツ』をリリースします。この時のラインナップはきみコ(Vo/Gt)、ササキジュン(Gt)、溝渕翔(B)、shinn.(Dr)。「よすが」はきみコとササキジュンの共作、それ以外はきみコの作となります。
オープニング曲は「色彩」。粗削りですが、メジャーデビュー後と変わらない躍動感のある演奏スタイルがここに見られます。きみコの歌はこの楽曲ではのっぺりしていて、ファルセットも自然な感じではなくヘタウマな印象は否めませんが、メロディラインはキャッチーで光ります。そしてジャリジャリした演奏の中で溝渕のベースが結構心地良いんですよね。続く「よすが」ではトーンを落とし、静かにじっくりと聴かせます。ですがサビでは荒々しいドラムをはじめ、とても力強く盛り上げます。静と動の極端な対比が特徴的ですね。「パレード」は疾走感溢れるアップテンポ曲。激しいイントロを経て、歌が始まると演奏は爽やかに駆け抜けます(ドラムがやや目立ち過ぎか?)。メロディもキャッチーですが、少しだけ含んだ哀愁が良い感じ。「プラネタリウム」はイントロで聴かせるササキジュンのギターが印象的。静と動の緩急ある楽曲で、爆発させるのを今か今かと待っている演奏陣と、まったりとした歌のギャップを感じます。サビでは勢いに溢れる演奏とキャッチーな歌で魅せてくれます。「アドバルーン」はきみコの歌をフィーチャーしている印象。ポップなメロディが印象的で、サビに向けて盛り上げるまでの展開が好みです。そしてラスト曲「ハイリープ」。8分の6拍子のまったりと揺さぶる心地良い演奏に乗せて、ふわふわした歌が癒してくれます。コーラスを活用したサビメロや間奏の盛り上げ方など、所々ぐっとくる場面があります。
本作ではまだまだ粗削りですが、比較的キャッチーな楽曲が揃っています。彼らの原点でもある本作収録曲は、「パレード」以外はリメイクされ洗練されて、メジャーフルアルバム/ベストアルバムでも聴くことができます。個人的にはメジャーでのリメイク後の方が好みで、本作を手に取るのはメジャーアルバムを聴いてからでも良いと思います。
2009年 4thミニアルバム
前作リリース後、2ヶ月で63本のツアーを敢行するという精力的な活動を行ったnano.RIPE。本作も前作に引き続きのメンバーラインナップで、インディーズレーベルからのリリースとなります。後にメジャーデビュー後にnano.RIPEの知名度を上げる契機となったアニメ『花咲くいろは』、これに起用されることになる名曲「夢路」を収録(実際にはメジャーシングル『パトリシア』のカップリング曲としてリアレンジされ、より洗練されたバージョンが起用されています)。
疾走感溢れる名曲「ノクチルカ」で幕開け。イントロからダーティなリフやダイナミックなドラムで高揚感を煽ります。きみコの歌もメランコリックな雰囲気から、吹っ切れたようなサビへと繋ぎ、ポップで爽やかな印象。勢いに溢れキャッチーというnano.RIPEの魅力が詰まった名曲です。「ラルミー」は8分の6拍子のゆったりとしたリズムで心地良く揺さぶりますが、サビでの演奏はノイジーで、静と動で緩急つけます。歌が若干苦しそうでヘタウマ感がありますが…。そして名曲「夢路」。小気味良く刻むアコギにギターが絡み、そしてダイナミックなドラムが躍動感を生みます。あっさりとしたサビメロはあっという間に終わってしまいますが、楽曲全体で歌メロがキャッチーで実に心地良く、口ずさみたくなります。浮遊感を生むギターも良いですね。「15秒」はトーンを落とし、静かなギターでゆっくりと、しんみりと聴かせます。ですがサビでは勢い溢れる演奏で爆発。爽快な疾走曲へと変貌してキャッチーな演奏を繰り広げます。「上弦」は幻想的でキラキラとしたギターが特徴的で、そしてダンスビートを利かせた演奏はこれまでになかったタイプの楽曲ですね。ノリノリの演奏が心地良く、またボーカルにも少しエフェクトをかけてポップさに振っています。最後は「空ひとつない雲」。雲ひとつない空じゃなく、その真逆というタイトルが独特ですね。少し陰のある楽曲で、サビでの切ない歌唱が感傷的な気分にさせます。
「ノクチルカ」と「夢路」が出色の出来。どちらの楽曲もメジャーでリメイクしているため他で聴く機会はありますが、それ以外の楽曲も佳曲揃いで、前作に比べ洗練されて聴きやすくなった印象です。
本作の半年後にリリースするシングル「世界点」をもってインディーズ時代を終えますが、このタイミングで溝渕翔(B)が脱退。きみコ(Vo/Gt)、ササキジュン(Gt)、shinn.(Dr)の3名体制でメジャーデビューすることになります。
メジャーデビュー
2011年 1stアルバム
nano.RIPEはLantisと契約し、シングル『パトリシア』でメジャーデビュー。Lantisはアニメに強いレーベルで、アニメタイアップを通じてnano.RIPEは知名度を上げることになります。特にアニメ『花咲くいろは』で多くのタイアップ曲を生み、例に漏れず私もこのアニメからnano.RIPEを知りました。メンバーはきみコ(Vo/Gt)、ササキジュン(Gt)、shinn.(Dr)の3名に加えてアベノブユキ(B)が2010年に新加入。これまでセルフプロデュースでしたが、本作は伊藤善之によるプロデュース。
きみコのふわふわした声質が特徴的ですが、パンキッシュなルックスとのギャップに驚いたのを覚えています。楽曲についてはインディーズ時代から洗練され、キャッチーで聴きやすくなりました。次作と並ぶ名盤だと思います。
アルバムは「セラトナ」で幕開け。轟音をかき鳴らすイントロから、歌が始まるとアコギだけの静寂になり、そして疾走感の溢れる演奏で盛り上がっていきます。動と静がはっきりした楽曲構成ですね。「ハナノイロ」は『花咲くいろは』のタイアップ曲で、私はこれをキッカケにnano.RIPEを知りました。5本の指に入る名曲でしょう。囁くような声でのアカペラ「涙の雨が頬をたたくたびに美しく」で始まり、そこから躍動感のある演奏で一気に高揚感を煽ります。きみコの歌うキャッチーなメロディラインがとにかく秀逸で、口ずさみたくなります。またshinn.の表現力豊かなドラムワークも素晴らしく、イントロから始まる高揚感を終始持続させます。間奏のギターソロも良いですね。「雨を待つ」はリズミカルな演奏が特徴的で、ファルセットを交えた歌も相まってポップな仕上がりです。歌が始まると音数を減らして歌にスポットを当て、サビでは激しい演奏で盛り上げるというnano.RIPEお決まりのパターンで魅せます。「15秒」はインディーズ時代の楽曲のリテイクですが、ボーカルが前面に出たミックスになり、ポップ化して聴きやすくなりました。序盤は静かに聴かせますが、サビで一気に爆発して疾走曲へと変貌。2番の勢い溢れる演奏はスリリングで魅力的です。よく動き回るベースも特徴的ですね。「ハイリープ」もインディーズ楽曲のリテイク。ゆったりとしたリズムで心地良い。きみコの歌もふわふわとしています。そして「面影ワープ」も『花咲くいろは』タイアップ曲。イントロから音の塊のようなパワフルで爽やかな演奏で一気に駆け抜けます。ゴリゴリとしたベース、ダイナミズム溢れるドラムが力強く牽引し、ササキジュンのギターときみコの歌が爽やかでキャッチーなメロディを奏でます。耳に残る、とても魅力的な名曲です。続く「ハッチ」でトーンダウンし、ゆったりと聴かせます。ギターが神秘的な雰囲気を演出していますね。2番では力強い楽曲へと変わり、ドラマチックに盛り上げます。鍵盤の音色もアクセントとして良い感じ。そして表題曲「星の夜の脈の音の」。個人的にはポエトリーリーディングという楽曲スタイルを初めて知ったのがこの楽曲で、結構衝撃でした。リズミカルなドラム、グルーヴに溢れるゴリゴリベース、浮遊感のあるギターが生み出す軽快な演奏だけでも十分聴けるのですが、そこにきみコが朗読して完成します。「フラッシュキーパー」は初っ端から歌で始まり、「脈拍はいくつだ?」の号令を合図にエネルギッシュな演奏が炸裂。パンキッシュな演奏を展開します。終盤の歌詞を隙間なく詰めた歌も印象的ですね。爽快でキャッチーな疾走曲です。「ノクチルカ」はインディーズ曲のリメイク。イントロのダーティでダイナミズム溢れる演奏から、パンクっぽい疾走曲を繰り広げます。歌メロもキャッチーで中々良い。続いてメジャーデビューシングル「パトリシア」。疾走曲続きのアルバム後半の流れの中でひと息つける瞬間で、ここでじっくりと聴かせます。囁くような優しい声で静かに歌い、サビでは焦がれるように切なさに満ちた歌を力強い演奏で盛り上げます。アコギで始まる「細胞キオク」もじっくり聴かせるタイプの楽曲。ゆったりとした演奏にアンニュイな歌で癒してくれます。「世界点」はインディーズ曲のリテイク。ゆったりと始まりますが、そこはアルバムの流れを汲んだか、途中から軽快な疾走曲へと変わります。ノイジーでパンキッシュな演奏をバックに歌うメロディは爽やかですが切なさが混じっており、エンディング向きな雰囲気ですね。そして最後は「てのひらのマリー」。比較的音数少ないですが、1番を歌い終えると分厚い演奏に。ポップな歌メロも良いですが、間奏でふと見せる哀愁も中々魅力的です。
キャッチーで爽快、そしてパンキッシュな楽曲が詰まった作品です。オリジナルアルバムはこれか次作をオススメします。
2012年 2ndアルバム
前作のあとライブツアーを行いますが、ツアー後にshinn.(Dr)が脱退してnano.RIPEは再び3人体制に。メンバーはきみコ(Vo/Gt)、ササキジュン(Gt)、アベノブユキ(B)。サポート扱いで玉田豊夢(Dr)、佐野康夫(Dr)、中村逸人(Dr)が参加しています。前作に続き伊藤善之のプロデュースで、前作の路線の延長上にある作品です。
「うつくしい世界」で幕を開けますが、イントロから躍動感に満ちた爽快なアップテンポ曲です。激しくてノリの良いドラムがぐいぐいと牽引してくれます。キャッチーなメロディも良く、オープニングに相応しい良曲です。「ぼくなりのおとぎ話」は「水玉模様にストライプ ギンガムチェックに虹の色」と出だしからファンシーなイメージを膨らませる歌詞で、楽曲世界へ一気に引き込みます。躍動感あるドラムとブイブイ唸るベースが高揚感を煽り、パンキッシュに爽快に駆け抜けます。キラキラと幻想的なギターで始まる「絵空事」。これも爽快な疾走曲で、リズム隊は激しくて勢いに溢れていますが、キャッチーな歌メロと透明感のあるギターで軽やかさを加えています。オープニング3曲は勢いよくスタートダッシュを切りますが、「アドバルーン」で少しテンポを落としてアルバムにメリハリを付けます。インディーズ曲のリテイクで、序盤は音数少ないもののテクニカルなドラムなどは聴きどころ。サビメロでは少しノイジーな分厚い演奏で盛り上げていきます。「アンサーソング」はミドルテンポのロックナンバー。爽やかさの中に切なさを含んでいて、エンディングっぽい雰囲気です。続く「ナンバーゼロ」はアルバムのリード曲。憂いのある歌で幕を開けますが、演奏はせっつくように速いテンポで、サビに辿り着く頃には他の楽曲同様パンキッシュになっています。アベノブユキの間奏でのベースがカッコ良い。「よすが」はインディーズ曲のリテイク。静と動がはっきりした構成ですが、他の楽曲のように途中から疾走することもなく、終始ゆったりとしたテンポで聴かせます。「ゆきのせい」は透明感あるギターが幻想的なサウンドを作り、パンキッシュなロックサウンド一辺倒の演奏の中で少し違いを見せます。きみコの歌も優しくふわふわとした感じですね。続いて、アベノブユキのベースソロで始まる「ページの中で」。憂いのある楽曲で、哀愁に満ちた歌を噛みしめるように聴かせます。そして屈指の名曲「リアルワールド」。アニメ『人類は衰退しました』のOPで、アニメ本編はあまり観てないものの、妖精が楽曲に合わせて踊るOPアニメだけは強烈に印象に残っています。楽曲自体とてもキャッチーで中毒性が高く、「パッパッパラッパッパッパラ…」と口ずさんでしまいますね。ファンシーな歌詞は全体的に語感が良く、コーラスの味付けも心地良い。リズミカルでパンキッシュな演奏も爽快で、何度もリピートしてしまいます。「サクゴエ」もギターをかき鳴らす爽快な疾走曲。やや間延びした歌と倍速の演奏陣のギャップもあって、サビメロは非常に速い感じがします。「かえりみち」はアコギと囁くような歌声だけのシンプルな小曲。音数多い楽曲の中で、メロディの良さだけで聴かせる心温まる佳曲です。続いて「グッバイ」はリズミカルな演奏とハンドクラップ、カウントと陽気で心地良いアップテンポ曲です。ノリノリのドラムに跳ねるような歌メロなど爽やかに高揚感を煽りますが、サビメロの「グッバイ グッバイ」に寂寥感が混じります。エンディング向きの名曲ですね。ラスト曲「架空線」は当初本作のリード曲となる予定だったとか。8分の6拍子のゆったりとしたリズムでメロディアスな楽曲を聴かせます。ドラマチックに盛り上げますが、個人的には前曲で爽やかに終わっても良かったかも。
中盤やや中だるみしますが、序盤と終盤のアップテンポ曲ラッシュは圧巻。特にキャッチーな名曲「リアルワールド」は必聴です。
通常盤の評価
2014年 3rdアルバム
青山友樹(Dr)を迎えて4人体制になったnano.RIPEの3作目。プロデューサーはデビューから一貫して伊藤善之。本作は全3種類のリリースですが、初回限定盤A(3枚組)/初回限定盤B(2枚組)/通常盤(1枚)の順で、付属するボーナスディスクが豪華になっています。これらを並べると同じ構図で昼から夜へと変わっていくというジャケットアートが素敵で、ジャケットは全アルバム中一番好みです。
この頃までメジャーシングルは全て集めていましたが、楽曲のマンネリ化というかパターンの少なさがやや目立ち始めてきたのと、初回限定盤AでのDisc2、3の付属によりシングルでしか聴けない楽曲が無くなったこともあり、シングルはこの辺りで追いかけるのをやめてしまったんですよね。ただ、カップリング曲集についてはかなりありがたく、個人的には本編よりもボーナスディスクの方がメインです。
イントロから爽快なギターをかき鳴らすアップテンポ曲「ウェンディ」で幕開け。きみコの歌うキャッチーなメロディは爽やかで、nano.RIPEの定番スタイルが表れています。「タキオン」はメロディに少し憂いがありますが、演奏はアップテンポで爽快。特に青山の叩くドラムが躍動感を生み出しています。浮遊感を生み出すコーラスワークもキャッチーで耳触りが良いです。ササキジュンのギターソロも中々良い感じ。シングルカットしても良い出来の良さです。続く「なないろびより」はアニメ『のんのんびより』のタイアップ曲。ファルセットを多用した、ふわふわした柔らかい歌い方ですが、アベノブユキのベースなどリズム隊は結構グルーヴィでノリが良いです。ここまでアップテンポ曲が続きましたが、「夢の果て」はアコギ主体のゆったりとした楽曲。徐々に楽器が増えてドラマチックに盛り上げます。「もしもの話」はアニメ『バクマン。』のタイアップ曲。ギターは比較的ゆったりとしていますが、高速ドラムが疾走感に溢れており高揚感を煽ります。歌メロもキャッチーで口ずさみたくなりますね。ここまでnano.RIPEのアニメタイアップ曲にハズレなしです。「プラネタリウム」はインディーズ曲のリテイク。まったりと始まりますが、イントロ途中からテンポアップ。ギターはキラキラと幻想的ですが、リズム隊は躍動感があります。「ハロー」は本作のリード曲。きみコのアカペラでゆったりと始まりますが、そこからダイナミックな演奏を展開。Aメロからはまたトーンを控えめに、そしてサビメロは噛みしめるように力強く聴かせます。悪くはないのですが、リード曲としては若干弱い気もしています。「痕形」はパンキッシュで躍動感のある演奏で幕開け。ですが歌には強い憂いが満ちています。「ツマビクヒトリ」はアニメ『はたらく魔王さま!』のタイアップ曲。これもパンキッシュなイントロですね。歌が始まると演奏はだいぶ大人しくなって、歌メロをしっかり聴かせます。サビでは力強く疾走。スカッとします。「マリンスノー」はアベノブユキのベースが際立つファンキーな楽曲です。強いグルーヴに満ちていて演奏のカッコ良さに魅せられますね。「月花」はジャジーなドラムと小気味良いアコギでゆったりと聴かせる癒し曲。メロウで優しく、疾走曲の多いアルバムの流れに緩急つけます。「三等星」は演奏は爽やかですが、歌が切なげな楽曲。心模様を六等星や一等星、三等星と表現した歌詞が印象的です。「影踏み」は『劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME』の主題歌で、これがまた突出した名曲なのです。アカペラの頭サビで切なげな歌をしっとりと聴かせ、演奏が始まると疾走感のあるロック曲へ変貌。ノスタルジーに満ちた歌詞を、キャッチーなメロディと躍動感のある演奏に乗せて届けてくれる、素晴らしい楽曲です。後にmiwaの「アイオクリ」という曲で盛大にパクられ、とても悔しい思いをしたのも思い出に残っています(でも実は昔から似たメロディがあるようで、この楽曲自体も似てる楽曲はいくつかあるらしい)。そして最後は「ユートピア」。晴れやかな楽曲ですが、「影踏み」という名曲との落差もあり印象が薄いです。アルバムとしては「影踏み」で終わった方がスッキリしたかも。
初回限定盤AとBに付属するDisc2は、『epilogue disc – one「アマヤドリ」(B-side collection)』と題したカップリング曲集。実はアルバム本編よりもこちらの方が本命で、これが素晴らしいんです。「きせつの町」はパンキッシュな演奏と、やや間延び気味なノスタルジックな歌に若干ギャップがありますね。どこかで聞いたことがあるようなメロディですが、これが耳に残ります。「水性キャスト」は1stシングルのカップリングで、やや粗削りな仕上がりです。でもロック色の強い演奏に、きみコの特徴的な声で歌うメロディはキャッチー。nano.RIPEの本質的な部分は初期から変わっていませんね。「月影とブランコ」はアニメ『花咲くいろは』の挿入歌として抜擢された楽曲で、個人的にはnano.RIPEのカップリング曲ベスト3に入ります。イントロからメロウなギターとキラキラとしたギターが絡み合い、感傷的な気分を作り出します。1番サビまでのトーンは低いですが、サビでは弾けるようにメランコリックな歌メロを歌います。それをリズム隊が盛り上げ、歌メロの切なさを増幅させる…聴いていると熱くこみ上げてくるものがあります。2番ではメロディを変えてフックをかけてくるのも良いですね。「祈りうた」は穏やかな楽曲。まったり聞き流していると後半の盛り上がりが不意打ちのように響きます。「モラトリアム」は緊張感に満ちたポストパンク的な攻撃的な疾走曲。焦燥感を煽るスリルがありますが、同時に歌メロにはキャッチーさも兼ね備えています。「アドバルーン」はインディーズ曲ですが2nd『プラスとマイナスのしくみ』にも収録されています。躍動感溢れるドラムが良い味を出しています。「花残り月」はアコギ主体の穏やかな楽曲。柔らかい歌はサビでは力強く、そしてフッと使うファルセットが印象に残ります。「バーチャルボーイ」は2分足らずの疾走曲で、パンキッシュな演奏で爽快に駆け抜けます。途中ボーカルにエフェクトをかけたりと、短い中にも遊び心を感じます。「スターチャート」はシングル『サンカクep』収録曲で、同シングルからアルバム本編に収録された「ツマビクヒトリ」や「月花」よりも優れています。というかカップリング曲では指折りの出来で、頭サビの力強い「夜が明ける前にもっともっと聴かせて」から魅せられますね。躍動感のある爽快な楽曲です。パンキッシュな「めまい」を勢い良く聞かせた後は、少し風合いを変えて「パルスター」。Mr.Childrenの「終わりなき旅」っぽいイントロを過ぎると、きみコの歌をフィーチャーしたシンプルで感傷的な楽曲へ変わります。J-POPっぽいメロディでこれまでとは異なる印象ですが、これまで作曲を手掛けたきみコとササキジュンだけでなく、アベノブユキが作曲に加わったという要素が大きそうです。「マイガール」はアコースティックでノスタルジックな感じ。まったりとしていますが、中盤からドラムが加わり力強くなります。「呼吸」は軽快にかき鳴らすギターで始まり盛り上がるイントロから高揚感を煽ります。爽やかで切なさのあるこの楽曲、ロックバンドっぽい。笑 アニメタイアップ曲のようなずば抜けたキャッチーさではなく、キャッチーさが程々というべきか…。続く佳曲「リップシンク」。頭サビでアコギをかき鳴らすリズミカルな楽曲で、キャッチーで口ずさみたくなる歌メロも印象に残ります。そして「レインカーテン」で一気に疾走。陽気で晴れやかな歌メロが、疾走感溢れる演奏と合わさってとても爽快です。中盤一気に静かになり、リズムチェンジし8分の6拍子に乗せてカウントを始めると、その後再び疾走感溢れる楽曲が戻って終わります。「空の少年」はイントロから躍動感があり、歌が始まるとリズミカルな演奏が心地良い。思わずリズムを取りたくなる楽曲です。歌もポップで爽やかな印象。「帰り道」は『プラスとマイナスのしくみ』収録の「かえりみち」のフルバージョン。アコースティックで穏やかな曲調、そして優しい歌は心が温まります。そして「夢路」はインディーズ曲のリテイクで、nano.RIPEのカップリング曲最高傑作。小気味良くかき鳴らすアコギにダイナミックなドラムが絡むイントロから高揚感を煽ります。サビはあっさりしていますが、全体的にメロディラインが素晴らしい。2番ではベースがブイブイ唸り、ギターも幻想的なサウンドを奏で、メロディも少し変えてフックをかけてきます。間奏のギターソロもとても魅力的。素晴らしい完成度です。
初回限定盤Aにのみ付属するDisc3は、『epilogue disc – two「ミズタマリ」 (Acoustic collection)』と題したアコースティックアレンジ集。シングルの店舗購入特典として付いてきた楽曲等を纏めたもので、この頃まではシングルを集めていたので当時複雑な心境でした。ですが今では入手困難な楽曲ばかりなので、纏めて聴けるのはありがたいですね。BGMとして中々良いのではないでしょうか。まずは「ハナノイロ」。アコースティックなだけでなくキーも少し下げています。原曲の躍動感は無いもののまったりと落ち着いていて、元々のメロディの良さもあり中々良い感じ。「絵空事」は原曲が結構優しいイメージなのでアコースティックは合っていそうな気もするのですが、キラキラ幻想的な音を奏でるギターが無くなっているのが意外と物足りない印象です。「リップシンク」は元々がアコギをかき鳴らす楽曲なので、原曲のイメージは損なわずに、よりソフトに仕上げた感じですね。キャッチーで牧歌的な歌に良く合った良アレンジです。「面影ワープ」はテンポの速い歌とアコースティックサウンドに若干ギャップがあるものの、小気味良いアコギとパーカッションは気持ち良いです。そして「リアルワールド」は原曲よりも速度は気持ち抑えている(?)ようですが、アコースティックで聴く曲としてはちょっと速いかも。歌詞の語感の良さと小気味良い演奏で耳触りは割と良いです。「もしもの話」はアコースティックのよく似合う歌メロ。原曲にあったダイナミズムを欠いても違和感は少なく、このアレンジも中々良いと思います。「バーチャルボーイ」は疾走系カップリング曲のアレンジ。忙しない原曲に比べるとまったり落ち着いています。「夢路」は原曲に近い雰囲気ですが、それ故にエレキギターの不在がかなり物足りない印象です。「月影とブランコ」は原曲より速めのテンポで弾くアコギが程よくスリリングで爽快。原曲は涙を誘うドラマチックさがありますが、キーを下げた歌とアコギの小気味良いサウンドによって、切なさをカラッと吹き飛ばそうとするような印象を抱きます。続く小曲「ティーポットのかけら(カモミール)」はきみコのエレピ弾き語りで、本作が初出。しっとりと聴かせます。「世界点」はリズミカルで、原曲の力強さの代わりに軽快でサクッとしたサウンドでメロディアスな歌を聴かせます。ライブのアコースティックコーナーとかで聴きたい良アレンジ。「パトリシア」は原曲のイメージに近く、囁くようなきみコの歌声とアコギの柔らかい音が良く合っています。ラストは「影踏み」。頭サビをカットし、そして1番は呟くように静かに歌います。疾走感溢れる演奏はゆったりとした演奏に変わり…と、意外とイメージが大きく変わりました。アコースティックが似合いそうなのに原曲とのギャップが大きかった楽曲です。
アルバム本編は『星の夜の脈の音の』や『プラスとマイナスのしくみ』にあと一歩及んでいませんが、初回限定盤に限っていえばベスト盤+新作みたいな充実度。カップリング曲にも良曲が比較的多く、初回限定盤はオススメできます。
2015年 4thアルバム
メンバーは前作から引き続ききみコ(Vo/Gt)、ササキジュン(Gt)、アベノブユキ(B)、青山友樹(Dr)の4人体制で、プロデューサーも引き続き伊藤善之。
前作から出始めていたマンネリ化という課題をバンドメンバーも感じていたのか一部の楽曲に外部アレンジャーを起用していますが、これが裏目に出ている印象。更にシングルに当たりの多いnano.RIPEですが本作にはシングル曲が1つしかないのもマイナス点。ですがそのシングル「透明な世界」が個人的にnano.RIPE最高の1曲なので、バッサリとは切り捨てられなかったりしますが…。
オープニング曲は「こたえあわせ」。メンバーによる男声コーラスや、シンセを導入した近未来感のある演奏など新たな試みを感じさせます。ロック色もやや減退し、これまでに無い楽曲なのですが、残念ながら個人的にはこの変化に抵抗感が強く、本作の評価が低い要因のひとつでもあります。続く「透明な世界」は本作唯一のシングル曲で、アニメ『グラスリップ』のタイアップ曲です。アニメ自体は大コケしましたが、アニメ映像の美しさと、そしてこの超名曲目当てで最後まで観ていました。笑 勢い溢れる頭サビから一気に引き込まれ、キャッチーな歌メロと躍動感のある演奏に魅せられます。正直これまでのアップテンポ曲と似たような展開でコテコテのマンネリソングなのですが、逆に言えばnano.RIPEの良いところが濃縮されていて、これこそ待ち望んだ1曲でした。大好きです。「スノードーム」はインディーズ時代のシングルのカップリング曲をリテイクしたものです。リズム隊が生み出す躍動感のある演奏が爽快です。「ルーペ」はまったりとした楽曲。サビメロが自身の「プラネタリウム」に似ていますが、件の楽曲に比べるとイマイチ煮え切らず消化不良な感は否めません。本作最長の6分なのですが、前述の悪いイメージが付いているせいでやや冗長に感じてしまいます。「4分間」はジャスト4分の楽曲。小気味良い演奏に乗せて、リズミカルだけど少し哀愁のある歌を展開します。「神様」も約6分の長めの楽曲で、ちょっと和風なメロディがノスタルジックな雰囲気漂うミドルテンポの楽曲です。nano.RIPE色は減りましたが、エモーショナルなギターソロなど聴かせる部分も多いです。「アポロ」は加工されたボーカルやエフェクト、スペイシーなキーボードなど、SF感のある仕上がりです。ですがこれもオープニング曲同様彼ららしさとのイメージのギャップが大きく、個人的には若干抵抗があります。ちょっと一足飛びというか…。「パラレルワールド」はダンスビートの効いた軽快なアップテンポ曲。ハモンドオルガンによる味付けが特徴的で、ロックには良く合うけどnano.RIPEには無かった新鮮な要素です。前曲と違い、これくらいの変化なら受け入れられました。ハンドクラップも爽快です。続く「絶対値」は透明感のあるギターとファンキーなベースが特徴的なアップテンポ曲で、前作までの路線を継承した彼ららしい良曲です。弾けるようなサビメロも爽やかで魅力的。「嘘と月」は爽快な疾走曲。ギターが自由に遊んでいます。ですが勢いに満ちた演奏と対照的に歌メロは少し感傷的ですね。「ラルミー」はインディーズ楽曲のリメイク。ノイジーなイントロを過ごすと8分の6拍子のゆったりと穏やかな楽曲へと変貌。感情たっぷりのきみコの歌が刺さります。続いて「ホタル」はスピッツのカバー曲。きみコと青山がスピッツのファンで採用したのだとか。カバーということもあり、メランコリックなメロディが異彩を放ちますが、演奏はnano.RIPEですね。続く「空飛ぶクツ」はインディーズ楽曲「色彩」へのアンサーソング。爽やかでカラッとした演奏ですが、メロディには切なさが少し混じります。最後の「有色透明」はキラキラ・ピコピコしたエフェクトで幕開け。エフェクトがバックで鳴る以外はアコースティックな雰囲気で落ち着いた楽曲です。
脱マンネリを目指した楽曲が個人的にあまり刺さらず、聴くことが少なかったためnano.RIPEはこれ以降追いかけていません。でもアニメタイアップ等で彼らの名前を目にするたび嬉しくなります。
2016年末にアベノブユキと青山友樹が脱退、青山は2018年に若くして急性心不全で帰らぬ人になってしまいます。nano.RIPEはきみコとササキジュンの2名体制となりましたが、その後もコンスタントに作品を発表し続けています。
編集盤
2015年
nano.RIPE初のベスト盤です(一応『涙の落ちる速度』の初回限定盤でカップリング曲ベストは付属していましたが)。当初買うつもりは無かったのですが、シングルに優れた楽曲が多いnano.RIPEを手っ取り早く聴けるので、発売数年後に購入しました。結果として「これがあれば良い!」という結論になったのは良いのやら悪いのやら…。
「色彩」はインディーズ時代の楽曲ですが、レコーディングし直しているので粗さはなく洗練されています。軽快なアップテンポ曲で高揚感を煽ります。続く「絵空事」はオープニング向きの楽曲で、透明感のある出だしから加速して爽快な疾走曲へと変貌。ですがギターは変わらず透明感を演出しており、パンキッシュな演奏と瑞々しさを両立しています。キャッチーな歌メロも魅力的ですね。「もしもの話」は煽り立てるような高速ドラムが秀逸で、緩く聴かせる歌とはだいぶテンションが異なります。そしてドラムに引っ張られて、サビでは歌も演奏も弾けるような躍動感があります。「なないろびより」はふわふわしたコーラスワークや跳ねるような演奏がポップで可愛らしい。キャッチーな歌に加えてリズミカルな演奏が心地良く、聴いていると自然とリズムを取ってしまいます。「月花」はリラックスした雰囲気で、メロディアスな歌をゆったりと聴かせます。続く「細胞キオク」もアコギで穏やかに聴かせます。きみコの囁くような歌が心地良く、そして少し憂いのあるメロディがじんわり響きます。アベノブユキのベースラインも魅力的。「ゆきのせい」は幻想的なギターが優しい。柔らかい雰囲気で浮遊感に溢れています。「フラッシュキーパー」は「脈拍はいくつだ?」の号令からパンキッシュな演奏が炸裂する爽快な1曲。勢いに溢れた演奏に乗せて、歌もまくしたてるかのよう。サビは爆発的なエネルギーに満ちています。
そしてここからの5曲が個人的にnano.RIPEベスト5で、分散せず連続して並ぶのでバランス悪く感じてしまいます(というかいつもここだけ集中的に聴いています笑)。「ハナノイロ」はきみコ作、「影踏み」はきみコとササキジュンの共作ですが、それ以外の3つはササキジュン作で、彼のポップセンスがnano.RIPEに大きく貢献していることがよくわかります。まずは「透明な世界」。躍動感のある頭サビから一気に引き込むこの楽曲は個人的にnano.RIPE最高傑作。口ずさみたくなるキャッチーな歌メロと、勢いのある爽快な演奏は高揚感を煽ります。素晴らしい楽曲です。「リアルワールド」はアニメ『人類は衰退しました』のタイアップ曲。語感の良いファンシーな歌詞と躍動感溢れるリズミカルな演奏は中毒性が高く、これに件のオープニングアニメーションが合わさって強烈に印象に残ります。これも抜群にキャッチーですね。そしてここから3曲はアニメ『花咲くいろは』タイアップ曲。「面影ワープ」はイントロからエネルギッシュな演奏が炸裂して引き込みます。煽り立てるような演奏がスリリングな疾走曲で、キャッチーだけどどこかノスタルジックな歌も強く印象に残りますね。「ハナノイロ」は私がnano.RIPEと出会うキッカケとなった1曲でした。「涙の雨が頬をたたくたびに美しく」と印象的なアカペラを終えると、そこから弾けるようなダイナミックな演奏でワクワクさせてくれます。きみコの歌うキャッチーなメロディがとにかく魅力的で大好きです。「影踏み」はアカペラの頭サビで穏やかな楽曲かと思わせますが、そこから疾走曲へと変わる展開がスリリング。演奏は躍動感に満ちていますが、ノスタルジックな歌が感傷的な気分にさせます。切なくて感動的な楽曲で、エンディング向きの名曲です。ここまでの5曲がやはり突出している印象です。
そしてベスト盤は残り2曲が続きます。「パトリシア」はデビューシングル。囁くような歌はサビでは焦がれるように感情たっぷりに歌い、静と動の対比がくっきりしています。きみコの歌で高ぶった感情のまま聴くギターソロも胸に響きます。ラストは新曲「地球に針」。ダイナミズムに溢れる疾走曲で、サビは美しいコーラスワークもあり開放感に満ちています。カラッとして爽やかな気分でアルバムを終えられます。
こうして並ぶとキャッチーなアップテンポ曲が多いですね。曲順には不満がありますが手にとって聴く回数も多く、nano.RIPEを知るのにオススメできる作品です。
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