🇺🇸 Norah Jones (ノラ・ジョーンズ)

レビュー作品数: 3
  

スタジオ盤

Come Away With Me (ノラ・ジョーンズ)

2002年 1stアルバム

 米国のジャズシンガー、ノラ・ジョーンズ。フルネームはギータリ・ノラ・ジョーンズ・シャンカール、1979年3月30日生まれ。ビートルズジョージ・ハリスンの師でもありインドの至宝とも呼ばれるシタール奏者ラヴィ・シャンカールを父に持ち、母はダンサーのスー・ジョーンズ。なお、異母妹のアヌーシュカ・シャンカールもシタール奏者です。3歳の時に両親が離婚し、ノラは母親のもとで育ったのだとか。
 さて本作は彼女のデビュー作となります。数多くのヒット作を生み出したアリフ・マーディンがプロデューサーに就き、2003年にはグラミー賞8部門を受賞する快挙となりました。ビルボードのジャズアルバムのチャートでは143週連続1位を記録。全世界で大ヒットした本作は、2016年までに累計売上2700万枚以上を記録しています。ジャケット写真が可愛いですね。

 本作は「Don’t Know Why」で開幕。シングルカットされた、彼女の代表曲です。ゆったりとした曲調に優しいアコギやピアノの音色が心地良い。そこにノラの落ち着いた甘い歌声が癒やしを与えてくれます。メロディアスで耳に残る良曲ですね。「Seven Years」はケヴィン・ブライトの弾くアコギが中心のこじんまりとした雰囲気に、子守唄のような穏やかな歌メロが心地良いです。続く「Cold Cold Heart」はカントリーミュージシャンのハンク・ウィリアムズのカバー曲で、ジャジーな楽曲。ピアノとベースが中心のメロウなサウンドに乗るノラのアンニュイな歌声は、妖艶さも感じられます。「Feelin’ The Same Way」では少しテンポを上げて、ドラムが少しばかりの爽快さを加えます。アンニュイな歌声も明るめなトーンですね。そして表題曲「Come Away With Me」。収録曲の大半が外部ミュージシャンによる作曲ですが、この楽曲はノラ自身の作です。再びジャジーな雰囲気で、静かなサウンドに囁くような歌でまったりと聴かせます。間奏のギターも味がありますね。「Shoot The Moon」は淡々としつつも温もりを感じる演奏が良い。歌もそこまで起伏がないものの、メロディがよくて不思議と惹かれます。続いて8分の6拍子のゆったりとした「Turn Me On」では、声質がアンニュイながらもソウルフルな歌唱を披露します。牧歌的でほのぼのとした「Lonestar」で癒された後は、ジャズ曲の「I’ve Got To See You Again」。憂いに満ちた気だるげな歌唱が魅力的で、ヴァイオリンがアクセントとなっています。「Painter Song」は古い映画のサントラのようなイメージ。ゆったりとした曲調で、アコーディオンがレトロな雰囲気を作り出しています。続く「One Flight Down」は後半のハイライトとも言える楽曲。イントロのピアノの奏でるメロディから既に名曲の予感が漂っています。ノラの歌は優しくてメロディアスで、しみじみと浸ることができます。「Nightingale」はゆったりとしているものの、徐々にテンポアップしていきます。サウンドは激しさはなく控えめですが、それでもどんどん加速して静かにスリルを提供してくれます。「The Long Day Is Over」はエフェクトで幻想的に広がりを見せるギターがサイケのようで、でもピアノやドラム、そしてゆったりとした曲調はジャズのような感じ。ラスト曲は「The Nearness Of You」。ジャズ曲のカバーです。ノラ自身によるピアノ弾き語りのシンプルな楽曲で、メロウな歌をしみじみと聴かせます。

 全14曲45分に渡る癒しアルバムで、リラックスして聴ける作品です。派手さはありませんが、まったりとしていて、全編とても心地良いですのでBGMに最適です。

Come Away With Me
Norah Jones
 
Feels Like Home (フィールズ・ライク・ホーム)

2004年 2ndアルバム

 前作同様にアリフ・マーディンのプロデュース。米国では発売5日で売上100万枚を記録し、累計1000万枚以上の売上を記録した大ヒットアルバムです。グラミー賞3部門を受賞しました。ただし多くの楽曲がバックバンドのメンバーによる作曲で、ノラ・ジョーンズは「自分の実力でないのにこんなに注目されてよいのか」と思い悩むことになり、本作の後しばらく活動を休止することになります。

 アルバムは「Sunrise」で開幕。ジャズとカントリーの中間のような楽曲で、ハミングを駆使したメロディは耳触りが良いですね。中々心地良い楽曲です。「What Am I To You?」はロック曲です…とはいえかなり大人しくて円熟味がありますけどね。1970年代頃の旧き良きロックを思わせる渋いギターにハモンドオルガン、そしてアンニュイな歌声で魅せます。「Those Sweet Words」はアコギやピアノでまったりとした雰囲気。カホーン(かな?)が、こじんまりとしたスタジオの温かい空気を伝えてくれるような感じがします。「Carnival Town」は静かに浸れるジャズ曲。アコギとピアノが静かな音を奏で、ノラの歌をフィーチャーした穏やかな雰囲気です。「In The Morning」も静かに始まりますが気持ち速めのテンポで、徐々に盛り上がる演奏に高揚感を覚えます。気だるげな歌も魅力的ですね。まったりとした「Be Here To Love Me」に癒された後に続く「Creepin’ In」は、カントリーミュージシャンのドリー・パートンと共演。アップテンポでご機嫌なカントリー曲で、小気味良いアコギやキャッチーなメロディが魅力。ゆったり聴かせる楽曲が多い本作に刺激を与えてくれます。ブルージーなギターが印象的な「Toes」を挟んで続く「Humble Me」は、ほぼアコギとノラの歌声だけのシンプルな楽曲。囁くように、子守唄のような穏やかな歌を聴かせます。「Above Ground」はゆったりと漂うような、サウンドに心地良い余韻があります。その中で存在感を発揮するドラムがやけに印象的。そして「The Long Way Home」はシンプルな楽曲。ノラの歌とリズムを刻むベースが前面に出て、ほぼそれだけで完結している印象(アコギとかうっすら鳴ってますけどね)。でもシンプル故に歌メロの良さが印象に残ります。ジャズ曲「The Prettiest Thing」を聴かせた後は、ラスト曲「Don’t Miss You At All」。メロウな雰囲気を作るピアノに乗せて、気だるげな歌で魅せます。大人びていて、渋い印象の楽曲です。

 ジャズ要素は残しつつ、カントリー色の増した本作。聴き心地の良さは本作においても変わりませんが、個人的な好みでは前作に軍配が上がります。

Feels Like Home
Norah Jones
 
...Little Broken Hearts (リトル・ブロークン・ハーツ)

2012年 5thアルバム

 ノラ・ジョーンズのカッコ良くてセクシーなジャケット写真がとても魅力的。1965年の『マッドハニー』という映画のポスターにインスパイアされたのだとか。そんなジャケットアートに惹かれて途中の3rdと4thをすっ飛ばして聴いていますが、ジャズ色は消え去り、ローファイ志向の楽曲も多くオルタナティヴロック化しています。1stのようなジャズ路線を求めるファンからは評価が高くないみたいですが、ロック寄りの目線で見ると魅力的に映る作品だと思います。
 デンジャー・マウスことブライアン・ジョセフ・バートンによるプロデュースで、全曲がノラとブライアンの共作となります。

 オープニング曲は「Good Morning」。シンセとギターが少しずれたリズムを刻んでいて、なんとなく違和感を覚えます。しかしアンビエントなサウンドとノラの少しハスキーでアンニュイな歌声が、そんな違和感を呑み込んで心地良い世界へ誘います。続く「Say Goodbye」は加工されたボーカルと強調されたリズム隊によって、気持ち悪さと心地良さが同居します。ひねていますがポップなメロディが牽引し、妙に中毒性のある1曲に仕上がっています。そして表題曲「Little Broken Hearts」。はっきり主張するリズム隊と、対照的に幻覚的なギターと鍵盤が気だるい雰囲気を作ります。メランコリックな歌はとても色っぽくて、彼女の新たな魅力を見出せる気がします。「She’s 22」はローファイな音処理で、チープな音ですがアンニュイな歌が際立っています。心地良い倦怠感があります。「Take It Back」は哀愁漂う1曲。強い哀愁を湛えるピアノの音色、エフェクターをかけて鍵盤のように音が丸いギター、悲壮感のあるストリングスなど、徐々に迫る切ない音の洪水に呑み込まれます。とてもスリリングです。続く「After The Fall」はメロディアスで憂いのある歌が魅力的。ポストロックのような無機質で幻想的なサウンドに、メランコリックな歌声が合わさって心地良い浮遊感を生み出しています。8分の6拍子のリズムを刻む「4 Broken Hearts」は、気だるいギターが心地良いですね。ゆったりと聴き浸れます。音数少ない「Travelin’ On」で囁くような歌を聴かせた後は、オールドロック調の「Out On The Road」。サウンドはかなり古臭い印象ですが、哀愁漂うメロディは結構キャッチーで、意外に聴きやすいです。そして続く「Happy Pills」は先行シングル。アルバム全体の持つ倦怠感を持ちつつも、流石シングルだけあって比較的明るいトーンでキャッチーです。アンニュイで艶のある歌声も魅力。「Miriam」は何重にも重ねた音が幻覚的で荘厳な印象。さらに囁くような歌も強いエコーでぼやけており、幻影を見ているかのよう。最後の「All A Dream」はブルージーなギターが印象的な、メロウで大人びた色気のある楽曲です。レトロな雰囲気で渋いですね。

 ジャズボーカリストとしてのノラ・ジョーンズを期待するとガッカリする作品かもしれません。しかしオルタナ路線としては中々魅力的で、全体に漂う気だるさと不思議な浮遊感が心地良い作品です。

…Little Broken Hearts
Norah Jones
 
 
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