🇬🇧 Oasis (オアシス)
レビュー作品数: 8
オアシス紹介動画
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スタジオ盤
1994年 1stアルバム
ギャラガー兄弟で有名な、英国の国民的ロックバンド、オアシス。前身となる「ザ・レイン (The Rain)」というバンドにギャラガー兄弟が加わりオアシスと名乗りました。ギャラガー兄弟の兄でリーダーのノエル・ギャラガー(Gt/Vo)、弟でフロントマンのリアム・ギャラガー(Vo)、ポール・ “ボーンヘッド” ・アーサーズ(Gt/Key)、ポール・ “ギグジー” ・マッギーガン(B)、トニー・マッキャロル(Dr)の5人のメンバーでデビューを果たしました。
労働者階級出身の彼らは、同じような境遇のヒーローであるビートルズを敬愛し、ジャージというラフな出で立ちで、背伸びをしない等身大をルックスで表現しました。またギャラガー兄弟の素行の悪さは有名で、サッカーファンの彼らはマンチェスターが誇る悪名高きフーリガンでもあります。激しい兄弟喧嘩で何度も解散危機に陥ったほど。笑
本作は全曲がノエルの作詞作曲。伝統あるブリティッシュロックを様々に吸収し、ノエルの神がかった作曲センスによってとても良いメロディに溢れています。特にマッドチェスターやセックス・ピストルズを好んで聴いたといい、これらバンドの影響は所々に感じます。次作と並んで最高傑作に挙げられることも多く、個人的にも僅差でこちらに軍配が上がります。
プロデューサーに名を連ねるのはマーク・コイル、デイヴ・バッチェラー、オーウェン・モリス。
1曲目から「今夜、俺はロックンロールスターだ」と大口を叩く「Rock ‘N’ Roll Star」は彼らの代表曲となりました。軽快で疾走感に溢れたノリの良い名曲ですが、リアムの歌い方はアップテンポでもどこか気だるさを纏っていて、この歌唱がオアシスの特徴であり武器でもあります。同郷の先輩バンド、ストーン・ローゼズの影響も大きいように思います。終盤はサイケデリックで幻惑的に渦巻く感じにフェードアウトしていきます。続く「Shakermaker」はゆったりとしたテンポで気だるさ全開。気だるい歌い方ですがメロディアスなので退屈ではなく、むしろ音に身を委ねると心地の良い1曲です。ギターサウンドは、そのざらついた質感とは裏腹に透明感があるように思います。「Live Forever」は生きることを肯定した楽曲で、自殺願望の強かったニルヴァーナのカート・コバーンに対しての回答だとか。これもメロディがとても良く、キャッチーで人気の高い楽曲です。ファルセットを駆使したリアムの歌も聴きやすいですね。「Up In The Sky」は爽快なアップテンポ曲で、イントロのキャッチーなギターリフが高揚感を煽ります。サビの裏で加わるアコギが良いアクセント。「Columbia」はノイジーなギターで包み込むような幻覚的なサウンドを奏でます。サイケやシューゲイザーあたりを昇華したような楽曲です。続いて1stシングル「Supersonic」。個人的に本作で最も好みな楽曲です。イントロのシンプルなドラムと引っ掻くようなギターに引き込まれます。ノエルのメロディセンスが際立っていて、リアムの気だるい歌でその魅力を増幅させます。なおギターはジョージ・ハリスンの「My Sweet Lord」から拝借したようです。笑 歌詞には「yellow submarine」と歌われ、ビートルズ愛に溢れています。続いてアップテンポ曲「Bring It On Down」。ダイナミズムを生み出すトニーのドラムがカッコ良い。「Cigarettes & Alcohol」はヘヴィなリフが魅力的ですが、T・レックスの丸パクリですね。キャッチーなギターの後ろで唸るギグジーのベースもカッコ良い。リアムの気だるさを帯びた激しい歌唱も好みです。アップテンポの「Digsy’s Dinner」は小気味良いギターやノリの良いドラムが爽快。続いてポール・マッカートニーも絶賛した「Slide Away」は少し哀愁を纏ったエンディング向きの楽曲です。サビでの焦がれるような切ない歌唱が胸に響きます。そしてシンプルなラスト曲「Married With Children」は唯一のアコースティック曲。これもメロディが良いんですよね。しんみりと聴けます。
英国だけで200万枚以上、全世界で1000万枚以上を売り上げました。次作に比べるとアレンジはもう一歩といった感じもありますが、それを気にさせないあまりのメロディの良さでとても魅力的な作品です。個人的にはオアシスの最高傑作。
なお2014年のリマスター盤デラックスエディションは3枚組で、本編に加えてシングルB面、レアトラックをそれぞれ収録しています。このうちシングルB面集に、ベスト盤以外のアルバムには未収録の名シングル「Whatever」が入っています。ストリングスを駆使したポップな楽曲で、ビートルズっぽい雰囲気の名曲ですので一聴の価値有りです。
1995年 2ndアルバム
2016年にアデル『21』に記録を抜かれるまで、英国内では史上4番目に売れた作品でした(2018年現在5位)。全世界では2300万枚以上を売り上げる大ヒットとなった作品です。ドラマーがトニー・マッキャロルからアラン・ホワイト(イエスにも同名ドラマーが居ますが別人です)に交代し、制作されました。前作同様に全楽曲をノエル・ギャラガーが作曲しています。オーウェン・モリスとノエルの共同プロデュース。アルバムジャケットは敬愛するビートルズの『アビイ・ロード』に倣ったものと言われています。
ブリットポップの最盛期で、中産階級のアートスクール出身のブラーと、労働者階級出身のオアシスという対比でメディアが対決を煽りました。そして先行シングル対決では僅差でブラーに敗北するも、アルバムでは完膚なきまでの大差をつけてオアシスの勝利。なおメディアを通じて煽りあっていた彼らですが、ノエルの「ブラーのデーモンとアレックスはエイズにでもかかって死ねばいい」という発言が大炎上。普段悪ノリに乗っかるリアムですらドン引きしたこの発言はマスコミだけでなくエイズ団体からも猛反発を受け、後に「デーモンとアレックスには長生きして欲しい」と猛省。しばらくブラーとの確執は続きますが後に和解し、デーモン・アルバーン率いるゴリラズの2017年の新作にノエルが共演するまでの仲になりました。
さて本作ですが、超名曲「Wonderwall」と「Don’t Look Back In Anger」を収録しており、この2曲をめぐってもエピソードが。どちらか好きな方を歌えという兄ノエルと、両方歌うと主張する弟リアムで兄弟喧嘩が勃発し、ノエルが2週間ほど脱退するという事態へ。結局「Wonderwall」はリアムが歌い、「Don’t Look Back In Anger」はノエルが歌うことになりました。この「Wonderwall」は、ノエルが後に妻となるメグ・マシューズに捧げたラブソングだといわれています。また、タイトルはジョージ・ハリスンのサントラから拝借したとも。リアムが単調なメロディを気だるく歌いますが、淡々としているのに非常に魅力的。耳に残る名バラードです。そしてもう一つの超名曲「Don’t Look Back In Anger」。イントロはジョン・レノンの「Imagine」と同じコード進行で、ビートルズ愛が伝わってきます。英国の国歌とも言われるほど人気の高い楽曲で、メロディも彼らが敬愛するビートルズを思わせるような普遍性があります。ノエルのボーカルはリアムとはまた違う、でもとても魅力的な声で、この切なくも美しいメロディの良さを最大限に引き立てます。ちなみにサビの「So Sally can wait」は、ストーン・ローゼズの「Sally Cinnamon」から取ったとも噂されますが、ノエルはインタビューで「歌詞に意味はない」と一蹴しました。なお、2017年に故郷マンチェスターで起きた悲惨なテロ事件では、その追悼式の参列者たちが即興で本楽曲を歌い出すという場面もありました。「怒りで振り返るな」というそのタイトルのように、後ろを向かず前を向いてマンチェスターの皆で乗り越えていこうという強い意志で歌い始めたのだそうです。後にリアムもノエルも哀悼の意を表明しています。
この2曲を取り上げたものの、その他の楽曲も名曲尽くしです。まずは「Hello」で開幕。ギターがヘヴィなサウンドを奏でますが、ノリの良いドラムのおかげで重たすぎない。そしてリアムの気だるく歌う、少し哀愁のあるメロディ。続く「Roll With It」はブラーとの先行シングル対決で黒星を喫した楽曲で、ノエルはす。ノリが良くて爽やかなロックンロールです。そして前述の超名曲「Wonderwall」と「Don’t Look Back In Anger」が続き、「Hey Now!」へ。ゆったりとしたテンポで、リアムの気だるい歌が心地良い。
1分足らずの無題のインタールードを挟んで始まる「Some Might Say」。イントロのギターリフが魅力的な1曲です。キャッチーなメロディで聴きやすいです。終盤の反復は若干くどいですが…。続く「Cast No Shadow」はアコギが主体のゆったりとした楽曲です。湿っぽくてメロディアス。しんみりと浸ることができます。「She’s Electric」はイントロからワクワクさせてくれるポップさ全開の楽曲です。リズミカルなサウンドに乗せ、コーラスによって彩られたキャッチーなメロディ。ビートルズ直系のポップさを感じます。続いて表題曲「Morning Glory」は、オアシスにしては割とハードな疾走曲です。ハードながら爽快なギターを中心にノリの良いロックンロールを奏で、歌メロはキャッチーながらもリアムの歌唱は焦燥感があり、楽曲に程よい緊張感を生み出しています。そしてまたも無題のインタールードを挟んで、ラスト曲「Champagne Supernova」。7分半に渡るしっとりとした楽曲で、メロディアスな歌はじわじわと盛り上げていきます。終えてからもしばらく余韻に浸れます。
最初から最後までこの1枚に名曲が濃縮されていて、正直ベスト盤以上にベスト盤というか、非常に魅力的な作品に仕上がっています。1stアルバムとも甲乙つけがたい大名盤です。
1997年 3rdアルバム
一部では何故か酷評されている本作。その理由は前2作と比べると、重厚長大な作風に変化したことが大きいでしょう。トータル約72分、そもそも1曲1曲が長く、またギターサウンドを重ねてかなり分厚い印象です。軽快なサウンドで突出した傑作2作を相手に比較するには分が悪いものの、本作自体は純粋に出来の良い作品で、名曲も沢山あります。本作も1000万枚近く売り上げました。
プロデューサーにはオーウェン・モリス、そして全楽曲をノエル・ギャラガーが作曲するという前作と同じ布陣。なおジャケットに描かれた車のナンバーは、ビートルズの『アビイ・ロード』の車のナンバーと同じだそうで、またレコーディングもアビイ・ロード・スタジオで録音されました。
オープニング曲「D’You Know What I Mean?」がいきなり8分近い大曲で、楽曲全体を重たい空気が支配します。単にスローテンポなだけでなく、ノイジーな演奏は引きずるような重たさがあります。そこに乗るリアム・ギャラガーの歌は相変わらず気だるいものの、優れたメロディが魅力的。続く「My Big Mouth」はノイジーな音の塊がぶつかってきます。アップテンポのロックンロールですが、包み込むような分厚くノイジーな音の壁があるからか、軽快さは少ないです。「Magic Pie」は本作中唯一、ノエルがボーカルを取る楽曲です。リアムの気だるいボーカルはオアシスの武器の一つですが、アルバムにアクセントのように入るノエルの歌はリアム以上に上手い。ダークな雰囲気の重たい演奏に、哀愁ある歌メロが切なくて好みの1曲です。続くバラード曲「Stand By Me」、これがまた名曲なのです。とても美しいメロディラインはベタですが日本人好みのものだと思います。感情剥き出しの、切なくも温もりを感じさせるリアムの歌がとても良い。続く「I Hope, I Think, I Know」は軽快なロックンロール。印象は薄いものの、重たい楽曲が並ぶ本作における数少ない清涼剤でしょう。続く「The Girl In The Dirty Shirt」はまたも暗くて切ない楽曲。重たい演奏に乗る歌はメロディアスで、哀愁が漂います。続いてエスニックな香りが漂う「Fade In-Out」。俳優のジョニー・デップ(同名別人じゃなく『パイレーツ・オブ・カリビアン』の、あのジョニー・デップです!)がスライドギターで参加しています。ギターソロは、個人的には照りつける砂漠のような印象を抱きます。「Don’t Go Away」はメロディがとても良い。親しい誰かを失うことを歌った楽曲で、リアムの歌は焦がれるような切なさを纏っていて、心に響きます。前後を名曲に挟まれた「Be Here Now」は、ヘヴィながらもノリの良さがあります。しかしタイトルを背負った割にはパワー不足感は否めず、あれ?と思っているうちに、そのまま本作のハイライト「All Around The World」へと続きます。9分超に渡るこの大作は、オーケストレーションもあって壮大な仕上がりです。しかしメロディの良さがあるため、その長さを感じさせません。なおラストのコーラスにビートルズの「Hey Jude」を彷彿とさせますが、ビートルズ大好きギャラガー兄弟ですから意図的に狙ったことでしょう。合唱したくなるような名曲です。「It’s Gettin’ Better (Man!!)」も7分に渡ります。前曲が長さを感じさせなかったのに対して、この楽曲は少しくどい…。アップテンポでノリは良いのですが、もう少し短く纏めても良かった気がします。そして最後に、ストリングス主体のインストゥルメンタル「All Around The World (Reprise)」で壮大に本作を締めます。
過剰に長いと感じる楽曲もあるものの、メロディの優れた楽曲は多く、これも大いに聴く価値のある作品だと思っています。「Stand By Me」という名曲もさることながら、「All Around The World」があまりに良いのです。
2000年 4thアルバム
所属レーベルが倒産したため、自身で立ち上げたレーベル、ビッグ・ブラザーからのリリースとなりました。制作途中にポール・ “ボーンヘッド” ・アーサーズと、ポール・ “ギグジー” ・マッギーガンが相次いで脱退。そのため本作時点のメンバーはノエル・ギャラガー(Gt/Vo)、リアム・ギャラガー(Vo)、アラン・ホワイト(Dr)の3名。また、これまでプロデューサーを務めたオーウェン・モリスも離れ、マーク・ステントとノエルの共同プロデュース。
タイトルはアイザック・ニュートンの言葉「If I have seen further it is by standing on the shoulders of giants. (私がより遠くまで見渡せたとすれば、それは巨人の肩の上に乗っているからである。)」からの引用だそうです。
「Fuckin’ In The Bushes」で軽快に開幕。インストゥルメンタルで、所々入るナレーションはワイト島音楽祭のドキュメンタリーから取られたのだそう。包み込むようなコーラスワークが印象的です。「Go Let It Out」はいつになくベースが際立っていますが、これはノエルが弾いています。またメロトロンが採用され、全体的にシャープなサウンドをメロトロンのフワフワとした音色で和らげます。リアムは相変わらず気だるい歌を披露。「Who Feels Love?」はゆったりとしたテンポで、サイケデリックで幻覚的なサウンドを奏でます。ゆらゆらと音の海に漂うようです。「Put Yer Money Where Yer Mouth Is」で聞けるリアムの歌はジョン・レノンのように聞こえ、彼らが敬愛するビートルズにより近づいた気がします。本作全編を通してこの傾向が見られます。そして、これまで全作曲をノエルが担当していましたが「Little James」はリアムが作曲。オアシスで初めてノエル以外の楽曲が採用されました。アコギと瑞々しいキーボードの音色が柔らかく、リアムの優しい歌が響きます。「Gas Panic!」はサイケで幻覚的なサウンドによってトリップ感があります。但しポップさも残しています。「Where Did It All Go Wrong?」はノエルがボーカルを取る楽曲で、哀愁漂うメロディアスな楽曲です。「Sunday Morning Call」もノエルのボーカル曲。輪郭のぼやけた幻想的で優しいサウンドをバックに、しっとりとしたメロディアスな歌を聴かせます。温もりが溢れた良曲です。「I Can See A Liar」はソリッドなギターが爽快なロックンロール。メロディアスな楽曲が並ぶ中でメリハリを生み出します。ラストの「Roll It Over」はゆったりとしたテンポでメロディアスな歌を聴かせます。コーラスワークを活かした壮大な終盤は、ギタープレイも含めてピンク・フロイドのようにも聞こえます。オアシス、最後の楽曲は外しませんね。
突出した楽曲がないため地味な印象は否めませんが、サイケに傾倒した幻想的なサウンドは心地良いです。
2002年 5thアルバム
ゲム・アーチャー(Gt/Key)と、元ライドのアンディ・ベル(B)が加わり、5名体制で制作された本作はバンドサウンドをフィーチャーした作風に仕上がりました。また、元スミスのジョニー・マーもいくつかの楽曲にゲスト参加しています。
オアシスのセルフプロデュース作。これまでノエル・ギャラガーがほぼ全ての作曲を担ってきましたが、新加入のゲムとアンディや、リアム・ギャラガーが作曲に加わり、楽曲に幅が広がりました。
オープニング曲「The Hindu Times」はミドルテンポで決して速くはないものの、爽やかな印象のロック曲。ひたすら反復されるリフが印象的です。リアムのしゃがれ声はますますジョン・レノンに似てきました。ノエルがボーカルを取る気だるげな「Force Of Nature」を挟んで、ゲム作曲の「Hung In A Bad Place」。ハードなロックンロールで初期のような爽快感もありますが、気だるげなリアムの歌声には初期にはなかった円熟味があります。そして素晴らしい名バラード「Stop Crying Your Heart Out」。暗い旋律を奏でるピアノをバックに歌う序盤は重苦しいものの、サビに入るとまるで陽が射して心が救われるかのような印象を抱きます。切なくも美しいメロディの素晴らしさは勿論、ストリングスのベタな演出が良いです。続く「Songbird」はリアム作曲で、後に結婚するニコール・アップルトンに捧げた楽曲です。僅か2つのコードだけで作られ、楽器もシンプル。牧歌的で温もりに溢れた佳曲で、ほっとします。「Little By Little」はノエルがボーカルを取る1曲で、個人的には本作のハイライト。鬱々とした序盤から、優しさを交えてサビへと展開。そしてサビでは切なく訴えかけるような熱唱…この一連の流れで涙腺を緩ませます。一緒に熱唱したくなるようなキャッチーさもありながら、思わず聴き入ってしまう説得力も持ち合わせた名曲です。アンディ作曲の短いインストゥルメンタル「A Quick Peep」はオルガンが唸ります。「(Probably) All In The Mind」はジョニー・マーが参加。神秘的で少し不穏なイントロから一転、歌が始まると一気にキャッチーで爽やかな楽曲へと様変わりします。清涼感があってとても心地良い。「She Is Love」はノエルがボーカルを取るアコースティックな楽曲。シンプルですが、小気味良いギターの音色が良いです。6分に渡る「Born On A Different Cloud」は3部から成ります。ダークで物憂げな雰囲気が全体を支配します。ビートルズの楽曲を参考にしたそうですが、ジョン・レノンに似た声質のリアムの歌や、反復されるメロディなど、これだけを聴いたらビートルズと聞き間違うくらいに似ています。続く「Better Man」もまさにジョン・レノンそのものといった感じで、少しレトロな音質は狙ってやっているんじゃないかと。オアシスらしさは後退しつつ、彼らの敬愛するビートルズへの接近という意味では大成功でしょう。長い空白を挟んで、最後に隠しトラック「The Cage」。どこかオリエンタルな雰囲気を感じさせるインストゥルメンタルです。
「Stop Crying Your Heart Out」と「Little By Little」の2つの名バラードをはじめ取っつきやすい楽曲が多く、とても聴きやすい作品です。また「現代のビートルズ」とも評されるオアシスですが、本作ではビートルズを想起させる(意図的に似せている?)楽曲も多いです。
2005年 6thアルバム
2004年にアラン・ホワイト(Dr)が脱退し、リンゴ・スターの息子ザック・スターキー(Dr)が次作までサポートとして参加。ビートルズフリークのギャラガー兄弟としては、ビートルズ血縁者の参加はさぞや嬉しかったことでしょう…たぶん。
本作はデイヴ・サーディーとノエル・ギャラガーの共同プロデュース。作曲面ではノエル以外のメンバーも積極的に参加しています。特に本作ではアンディ・ベルの貢献も大きいと思います。巷で流行りのロックンロールリバイバルの影響もあったか、1960年代を意識した隙間のある音作りがなされています。ギターストロークが中心で、分厚いギターサウンドという彼ららしさはなくなりましたが、「オアシスらしさ」という呪縛から解放されたのか伸び伸びしています。
「Turn Up The Sun」で開幕。1曲目からアンディ作の楽曲を持ってきていて、ノエル1強体制からの変化を感じたり。イントロから強烈な哀愁とダークな雰囲気が漂います。歌が始まると荒々しさが顔を見せます。「Mucky Fingers」はノエルのボーカル曲。スカスカのサウンドに一本調子の歌、ゲム・アーチャーの吹くブルースハープがオールドロックを想起させます。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを意識したものだとか。続いて「Lyla」は後期オアシスの人気曲です。心地良いアコギから音数の増えていくノリの良いサウンドや、リアム・ギャラガーの気だるげな歌は初期の楽曲を思わせます。歌メロもキャッチーで、一緒に「ヘーイ ライラー」と歌いたくなりますね。「Love Like A Bomb」はアコギ主体の楽曲。歌唱はまるでジョン・レノンのようです。続いてノエルのボーカル曲「The Importance Of Being Idle」。古臭さを前面に出した歌謡曲のような強烈な哀愁漂うメロディは、かつて彼らが作ってきた名曲とは違うものの、何気にインパクトが強いです。「The Meaning Of Soul」はアコギ主体ですが、バタバタと煽り立てるような勢いがあります。次曲「Guess God Thinks I’m Abel」もそうですが、歌い方も含めてジョン・レノンのソロを意識していることが窺えます。ノエルのボーカル曲「Part Of The Queue」はアコギが主体ですが緊迫感や焦燥感に満ち溢れていて、ヒリヒリとした感触です。アンディ作曲の「Keep The Dream Alive」は一本調子の歌ですが、サビになると一気に開けたかのように爽やかな楽曲になります。メロディアスで心地良い1曲です。「A Bell Will Ring」はゲム作曲で、ヘヴィなエレキが良いアクセントになっています。最後に「Let There Be Love」、これがまた良いのです。アコギに乗せて歌をフィーチャーした楽曲で、リアムとノエルが交互にボーカルを取ります。ビートルズを強く想起させます。途中から加わるメロトロンの音色がレトロ感を出しつつ、楽曲を盛り上げます。これ、単曲で聴いたら絶対2005年じゃなくて1970年頃の楽曲だと勘違いします(褒め言葉)。
オアシスらしいサウンドを期待すると肩透かしを食らいます。ただ、彼ららしさという先入観を抜きにするとこれはこれでアリです。また、リアムは明らかにジョン・レノンを意識していて、ビートルズフリークにも受け入れられる作品ではないかと思います。
2008年 7thアルバム
オアシスのラストアルバムです。既に英国で国民的ロックバンドの地位を得ていましたが、本作においてデビュー作から7作連続で全英1位という驚異的な記録を打ち立てました。前作と同じ制作陣で臨んだ本作は、オアシスの全キャリアで最も荒々しく、そしてサイケデリック色の強い作品に仕上がっています。
オープニング曲「Bag It Up」はガレージロック風。ざらついた感触の荒いエレキギターや、力強いドラムがヘヴィなサウンドを作ります。全体的に荒々しいサウンドに乗るのは暗いメロディ。どこか危なっかしく、そんなところが魅力的です。轟音でかき乱すような終盤はサイケっぽいですね。「The Turning」はザック・スターキーのテンポの良いドラムが楽曲の軸となり、不穏なオルガンや暗く攻撃的な歌がスリリングです。全体的にダーティな印象を抱きます。「Waiting For The Rapture」も粗雑なサウンドをぶつけてきます。終盤はややカオスな展開。ここまで重たい楽曲が続きましたが、「The Shock Of The Lightning」はキャッチーでノリの良いロックンロールです。分厚くノイジーなギターはありつつも、軽快なドラムが生み出す爽快感。初期の楽曲に原点回帰したような、取っつきやすい1曲です。「I’m Outta Time」はリアム・ギャラガーが敬愛するジョン・レノンに捧げた楽曲。暗くて、でもメロディアスなこの歌は、ジョン・レノンを想起させる歌い方です。やや単調な「(Get Off Your) High Horse Lady」を挟んで、サイケデリックな名曲「Falling Down」。ほんのりと漂うエスニックな香りが怪しげな雰囲気を作ります。ダイナミックなドラムがスリリングですが、メロトロンをはじめとした音響効果で幻想的な空間を彷徨うかのような、摩訶不思議な浮遊感があります。哀愁漂う歌唱は終盤に向けて熱が入っていきます。とても魅力的な楽曲です。続いてインド音楽風の「To Be Where There’s Life」。シタールが響く怪しげな楽曲に、エコーなどを使った幻覚的なサウンド。そこにメリハリを生むのはザックの力強いドラムやアンディ・ベルのベースといったリズム隊です。「Ain’t Got Nothin’」はヘヴィなギターリフとドラムが非常にパワフルで印象的なフレーズを叩きつけます。短いながら強烈なインパクトがあります。「The Nature Of Reality」は荒々しいギターと強烈なバスドラムをバックに、エコーの効いたリアムの歌はどこか浮遊感があります。ラストの「Soldier On」は怪しげな歌を歌うボーカルにエコーを効かせて、不思議なトリップ感を生み出します。サイケ全開で、音の海に浸ることができます。
メロディよりもサウンドで魅せる作品です。ビートルズの『リボルバー』あたりを現代版にアレンジしたかのような強烈なサイケサウンドや、荒々しいサウンドはとてもスリリング。初期オアシスからは別物のように変わってしまいましたが、初期とは違った魅力を発揮しています。
本作のレコーディングを最後にザックがザ・フーの活動に専念するため離脱。クリス・シャーロックが後任ドラマーに就くも、2009年8月のパリ公演を前に大喧嘩したことをきっかけにノエルが脱退してしまいます。残ったメンバーはオアシスの解散を選びました。
リアム、アンディ、ゲム・アーチャーと、解散直前に加入したクリスはその後、後継バンドとなるビーディ・アイを結成。2014年にビーディ・アイは解散するも、2017年にリアムはソロデビューを果たします。一方、脱退したノエルは自身のバンド、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズを結成してソロ活動を続けています。ノエルとリアムはお互いにいがみ合いながら、別々の道を歩み続けています。リアムからはオアシスに戻りたいオーラが出ていますが、2022年限在も再結成の兆しは見えません。