🇬🇧 Paul McCartney (ポール・マッカートニー)

レビュー作品数: 6
  

スタジオ盤

Ram (ラム)

1971年 2ndアルバム ※Paul And Linda McCartney (ポール&リンダ・マッカートニー) 名義

 サー・ジェイムズ・ポール・マッカートニー。英国リヴァプール出身の1942年6月18日生まれ。ナイトの爵位(Sir)は1997年に授与されました。
 ビートルズのベーシストとして、そしてジョン・レノンとともに数々の名曲を生み出すソングライターとして活躍しました。その作曲センスはソロでも発揮し、まさに20世紀最高の稀代のメロディメイカーです。そしてベースだけでなくギターやドラム、キーボード等もこなすマルチプレイヤーでもあります。私はビートルズではポールが一番好きです。
 1969年にリンダ・イーストマンと結婚。リンダは1998年に癌で亡くなるまで公私ともにポールを支え続けました。そんな妻リンダとの共同名義で発表したのが本作『ラム』です。デヴィッド・スピノザ(Gt)、ヒュー・マクラッケン(Gt)、デニー・シーウェル(Dr)らがサポートに参加していますが、ポール自身もベースだけでなく多くの楽器を演奏しています。またポール自身によるセルフプロデュース。

 オープニング曲は「Too Many People」。アコースティックサウンドで奏でられるノリの良い楽曲で、途中からエレキギターがリードします。でも激しいわけではなく、とても耳心地の良いサウンド。そしてキャッチーな歌メロは流石ポールです。「3 Legs」はスロースタートを切りますが、徐々にエンジンがかかってくるタイプのロックンロール。でもエンジンがかかりきる頃には終わってしまいます。ちなみにこのオープニング2曲は、歌詞の中で暗にジョン・レノンを批判していると言われています。そのせいでジョンから反撃されてしまうわけですが。続く「Ram On」はウクレレと手拍子を中心としたこじんまりとしたサウンドが特徴の楽曲。メロディはとても聴きやすいですね。また、途中加わるキーボードとコーラスがサイケデリックな浮遊感を生み出します。折り重なる多重コーラスが美しい小曲「Dear Boy」を挟んで、全米1位を獲得したシングル「Uncle Albert/Admiral Halsey」。憂いのあるメロディに雷鳴のSEが響きます。メドレーとなっていて後半は曲調ががらりと変わり、テンポアップして明るい雰囲気になります。緩いロックンロール「Smile Away」で前半は終了。
 アルバム後半に入り、牧歌的な雰囲気の「Heart Of The Country」。そして続く「Monkberry Moon Delight」はオリエンタルで怪しげなサウンドをバックにポールが吠える。終始シャウト気味の荒いボーカルが聞けます。ノリの良いキャッチーなロックンロール「Eat At Home」を挟んで、「Long Haired Lady」はリンダがリードボーカルを取る1曲。のどかで牧歌的な楽曲で、終盤のメロディの反復は「Hey Jude」を彷彿とさせます。短いリプライズ「Ram On (Reprise)」を挟んで、ラスト曲「The Back Seat Of My Car」。強烈な哀愁を纏った暗いスタートですが、優美さも伴って盛り上げていきます。途中リズムチェンジを交えて、キャッチーながらもプログレ的な変態さを見せます。

 なお1993年のリマスター時にボーナストラックが追加されていて、名曲「Another Day」が入っているんです。ポールがジョン・レノンを煽ったことで、ジョンから「お前がやった唯一の功績はイエスタデイさ でも去った後のお前はただのアナザー・デイじゃないか」と煽り返されたことで有名な「Another Day」。牧歌的なこの楽曲は、口ずさみたくなるようなキャッチーさと優しさに溢れたメロディが素晴らしい。ボーナストラックながらも本作では突出していて、ジョンが煽るほど悪くはない楽曲だと思います。続いてもう一つのボートラ「Oh Woman, Oh Why」。終始シャウト気味で、まったりとした楽曲にはミスマッチな激しさがあります。ちなみに2012年リマスター時には2枚組エディションにこれらの楽曲プラスαが入っています。

 発売当初は酷評されたようですが、今では高い評価を得ている本作。派手さに欠き地味な印象もありますが、メロディの良いこと。とても耳心地の良い作品です。

Ram (2012 Remastered)
(Deluxe Edition 2CD)
Paul And Linda McCartney
Ram (2012 Remastered)
Paul And Linda McCartney
 
Band On The Run (バンド・オン・ザ・ラン)

1973年 5thアルバム ※Paul McCartney & Wings (ポール・マッカートニー&ウイングス) 名義

 ポール・マッカートニーは、ポール自身と妻のリンダ・マッカートニー(Key)、元ムーディー・ブルースのデニー・レイン(Gt)を中心にウイングスを結成します。本作をはじめいくつかの作品ではポール・マッカートニー&ウイングスだったりウイングス名義で発表しています。
 本作はアフリカのナイジェリアでレコーディングすることを決定。するとヘンリー・マカロック(Gt)とデニー・シーウェル(Dr)が脱退…一説によるとアフリカに行きたくなかったのだとか。ポールとリンダ、デニー・レインの3人が残りました。ドラマー不在だったため、マルチプレイヤーのポールがベースだけでなくドラム、ギター、ピアノも演奏(いくつかの楽曲はサポートがパーカッションを叩いていますが)。そしてポール自身によるセルフプロデュース。出来上がった本作は非常にクオリティが高く、仲違いしていたジョン・レノンもその出来を絶賛したといいます。ジャケットアートもカッコ良いですね。

 オープニングは表題曲「Band On The Run」。これが3つの異なる楽曲をくっつけて出来上がったのだそうで、穏やかな序盤から中盤になるときに雰囲気が変わり、そしてホーンを挟んで明るいアップテンポ曲へと変わります。変化に富んでいますが、それでもポップなメロディが自然に聴かせてくれます。ポールの歌声はキャッチーだし、躍動感のあるベースやドラムが印象的ですが、どちらもポールが演奏しているのだとか。続く「Jet」は本作のハイライト。ホーンによるイントロから引き込まれます。キャッチーですが激しさも内包していて、ハードロック寄りなサウンドです。口ずさみたくなるキャッチーなメロディは秀逸で、コーラスの使い方も巧いなぁと思います。「Bluebird」は一転して穏やかな曲調ですが、メロディアスな歌は相変わらず魅力的。ギロやカウベルなどプリミティブな雰囲気の中で、ハウイー・ケイシーによる中盤のサックスが渋い。「Mrs. Vandebilt」は「ホッ ヘイホー」という合いの手が印象的ですね。また、アコギとともにグルーヴ感に溢れるリズム隊がなかなか強烈で、気持ちの良いノリを生み出してくれます。「Let Me Roll It」は引きずるようにヘヴィで、粘っこい楽曲です。重低音を響かせるベースと切れ味の鋭いギターが、ゆったりとした曲調にスリルを提供してくれます。ギターがカッコ良い。
 アルバム後半は「Mamunia」で開幕。軽快なアコギに乗せてキャッチーで優しい歌メロが耳に残ります。なお、連呼される「マムーニア (Mamunia)」とはアラビア語で「安全な避難場所」を意味する言葉なのだとか。メロディだけでなく語感の良さも耳に残る佳曲ですね。「No Words」は3分足らずながらも哀愁漂う演奏がとても染みます。また、ポールとデニーのボーカルはビートルズ時代を想起させます。続く「Picasso’s Last Words (Drink To Me)」はアコギでまったりとした雰囲気です。牧歌的でゆったりとしたメロディに浸っていると囁くような声で「Jet」が始まり、その後も突如現れる「ホッ ヘイホー」など、アルバムを回想しているかのようです。こういう楽曲でアルバムに統一感を出す手法は『サージェント・ペパーズ~』を想起させますね。ラストの「Nineteen Hundred And Eighty-Five」は少しシリアスな雰囲気のピアノに、浮遊感のあるシンセやオルガンの演出が良い。緊迫感を伴いながらカッコ良くラストを決め…たと思いきや、最後の最後に「Band On The Run」のフレーズを短く流すというお遊び。ポールらしいですね。

 ビートルズ各メンバーのソロキャリアはそこまで多く聴いた訳ではありませんが、聴いた中では別格の出来の良さです。ポールのソロ最高傑作と謳われるのも納得の出来だし、ビートルズ時代にも肉迫する高いクオリティです。

Band On The Run (2010 Remastered)
(Deluxe Edition 2CD+DVD)
Paul McCartney & Wings
Band On The Run (2010 Remastered)
Paul McCartney & Wings
 
Venus And Mars (ヴィーナス・アンド・マース)

1975年 6thアルバム ※Wings (ウイングス) 名義

 前作の大成功を受けて、3人体制のウイングスは新たにジミー・マカロック(Gt)とジェフ・ブリトン(Dr)をメンバーに加えて新作の制作を開始。しかしジェフが早々に脱退したため、後任としてジョー・イングリッシュ(Dr)が加入。そして本作もこれまで同様ポール・マッカートニーのセルフプロデュース。

 アルバムのオープニングとなる表題曲「Venus And Mars」は次曲とセットの楽曲です。牧歌的な雰囲気の短い楽曲で、ほのぼのしていますが、そのまま流れ込む「Rock Show」でアグレッシブなロックに変貌。ポールの歌声はシャウト気味でとても楽しそうな、ノリの良い爽快なロックンロールです。縦横無尽に動き回るベースに力強いドラム、浮遊感のあるギターや軽やかなピアノが聴きやすく仕上げます。終盤はシンセがサイレンのように鳴ったり、賑やかな楽曲です。続く「Love In Song」はアコギが湿っぽい音を奏でるバラード曲です。哀愁というより憂鬱な雰囲気のメロディが染みます。「You Gave Me The Answer」は優しくポップな歌メロをストリングスや管楽器が彩ります。でもどこか田舎のようなのどかさがあり、聴いていると癒される1曲です。「Magneto And Titanium Man」はノリの良いリズムに乗せて、キャッチーなメロディラインが耳に心地良い。一転して「Letting Go」はダウナーなサウンドに怪しげなメロディ。時折ホーンがムードを演出するかのようです。
 アルバム後半は「Venus And Mars (Reprise)」で始まります。アルバム前半と同じような流れですが、ダウナーで神秘的な雰囲気です。そのまま流れ込むように続く「Spirits Of Ancient Egypt」はデニー・レインがボーカルを取ります。序盤は神秘的な雰囲気が漂いますが、徐々にグルーヴ感を増してノリの良いロックになります。続く「Medicine Jar」はジミーのボーカル曲。ノリの良いドラムやギターソロが印象的ですが、歌は結構単調な感じです。「Call Me Back Again」はホーンが賑やかな、スローテンポのロックナンバー。華やかなサウンドに意識がいきますが、シャウト気味のポールの歌声は単調なメロディでも魅力的なんですよね。続く「Listen To What The Man Said」はとてもキャッチーな楽曲で後半のハイライト。ポップなメロディを持つこの楽曲を、大人びた雰囲気に仕立て上げるサックスが良い味を出しています。終盤のコーラスワークも魅力的です。そのまま途切れず続く「Treat Her Gently – Lonely Old People」は、穏やかで美しいメロディが優しいです。ポールは良い曲を書きますね。そして短いインストゥルメンタル「Crossroads Theme」で、本作を締め括ります。

 「Venus And Mars」からの「Rock Show」の流れは圧巻。またキャッチーで躍動感のある楽曲も多く、聴きやすい作品です。

Venus And Mars (2014 Remastered)
(Deluxe Edition 2CD)
Wings
Venus And Mars (2014 Remastered)
Wings
 
Tug Of War (タッグ・オブ・ウォー)

1981年 11thアルバム

 1980年に予定していた日本公演が、ポール・マッカートニーの大麻不法所持による逮捕・国外退去で中止となりました。この出来事がきっかけでバンド活動としてのウイングスは活動停止となり、デニー・レインも翌年脱退してウイングスは解散になります。そんなトラブルと並行して久々にソロ名義で『マッカートニー II』をリリース。なお1980年にはビートルズ時代の盟友にしてライバルジョン・レノンが暗殺されるというショッキングな事件があり、ポールは音楽活動を一時停止。少し時間を置いてリリースされた本作は、ビートルズの大半を手掛けたジョージ・マーティンによるプロデュース。彼の助言もあって、著名なセッションミュージシャンのスティーヴ・ガッド(Dr)、スタンリー・クラーク(B)らの豪華サポートミュージシャンを起用。またスティーヴィー・ワンダーやカール・パーキンスとのデュエットを果たします。

 表題曲「Tug Of War」で開幕。人生を綱引きに喩えたこの楽曲は、ポールにとっての「イマジン」とも呼ばれているそうです。ポールの穏やかな歌は諭すかのような説得力があります。序盤はアコギの優しいサウンドに乗せて、後半はエレキギターやストリングス等が加わって盛り上がっていきます。1曲目から感動的な楽曲を聴かせますが、そのまま途切れず「Take It Away」に続きます。ポップなメロディで明るく、ホーンが更に明るさに拍車をかけます。盟友リンゴ・スターと、スティーヴ・ガッドの2人が叩くドラムは、タイトなリズムを刻んでとても印象的です。「Somebody Who Cares」はアコースティック主体の穏やかなサウンドに、優しいメロディが奏でられます。続く「What’s That You’re Doing?」はスティーヴィー・ワンダーとのデュエット曲。ファンキーなグルーヴはとてもノリが良く、そこにR&B的なスティーヴィーのボーカルがマッチします。「Here Today」は亡きジョン・レノンに捧げた追悼曲。アコギ主体でうっすらストリングスで飾られています。そこまで派手さはありませんが、流石メロディメーカーのポール。優しい歌声でしっとりと聴かせます。
 レコード時代のB面オープニングは「Ballroom Dancing」。ノリノリのロックンロールサウンドで楽しませてくれます。ポップなメロディ、歌は前半抑え気味ですが後半は弾けていて、歌が弾けるのと合わせて演奏も豪華になります。「The Pound Is Sinking」は経済問題を取り上げた楽曲。ポンドは落ちていて円は上がっている、という日本のバブル直前という時代背景で描かれます。影のある哀愁のメロディが切ないです。「Wanderlust」もメロディラインが良い。華やかなホーンがメロディを引き立てています。続く「Get It」はカール・パーキンスとのデュエット曲。鼻歌交じりのポールと、泥臭さのあるカールの歌声とで掛け合いのように進みます。加工したボーカルが幻想的な「Be What You See (Link)」を挟んで、「Dress Me Up As A Robber」で目の覚めるようなイントロを聴かせます。とてもカッコ良い。ファルセットを使った歌はR&B風で、ファンキーなサウンドでグルーヴ感も抜群。そしてラスト曲「Ebony And Ivory」はポールとスティーヴィー・ワンダーのデュエット曲。両者にとっての最大のヒット曲となりました。反復されるキャッチーなメロディは耳に残ります。

 良い楽曲が詰まっていて、ポールのメロディメーカーとしての才能は衰えていません。入門にも向いていると思います。

Tug Of War (2015 Remastered)
(Deluxe Edition 2CD)
Paul McCartney
Tug Of War (2015 Remastered)
Paul McCartney
 
 

ライブ盤

Wings Over America (ウイングス・オーヴァー・アメリカ)

1976年 ※Wings (ウイングス) 名義

 1975年から始まったワールドツアー。そのうち1976年の米国公演からベストテイクを選りすぐりしたライブ盤です。当時はレコード3枚組で、CD化されても2枚組、トータル1時間55分で全28曲という大ボリュームです。本ライブのラインナップはポール・マッカートニー(Vo/B/Key)、リンダ・マッカートニー(Key)、デニー・レイン(Gt/Vo)、ジミー・マカロック(Gt/B)、ジョー・イングリッシュ(Dr)で、サポートにホーンセクションを帯同しています。ポール自身のセルフプロデュース。
 
 
 ディスク1枚目は「Venus And Mars / Rock Show / Jet」で開幕。ライブのオープニングにして本作のハイライトです。3曲のメドレーとなっていて、最初2曲のメドレーはアルバム『ヴィーナス・アンド・マーズ』でお馴染みですが、そこにキャッチーなホーンが加わって名曲「Jet」が始まるという、とても豪華なオープニングです。ノリノリで、ライブでも聴きごたえのあるバンドサウンド。ポールのボーカルも好調で、正直これで満足だったり。笑 続く「Let Me Roll It」で一気にテンポを落とします。ヘヴィなベースが響き渡りますね。「Spirits Of Ancient Egypt」はデニーがボーカルを取ります。デニーはこの楽曲以外でもいくつかボーカルを務めます。また、ポールがベーシストとしても魅力的であることを証明するかのような、ベースの際立つ1曲です。ジミーがボーカルを取る「Medicine Jar」を挟んで、ピアノや泣きのギターが切ない音色を奏でる「Maybe I’m Amazed」。ポールの感情たっぷりの歌声は、激しいロックだけでなく哀愁漂う楽曲にもよく似合います。ホーンが華やかな「Call Me Back Again」に続いて、古巣ビートルズ「Lady Madonna」が演奏されます。軽快なピアノに乗せてポップなメロディが出てきます。ビートルズは1965年でライブを封印してしまったため、ポールのライブでライブ初出となるビートルズ曲も多いのではないでしょうか。続く「The Long And Winding Road」もビートルズ曲。メロウな演奏をホーンセクションが彩ります。渋くて、じっくりと浸らせてくれる楽曲です。「Live And Let Die」ガンズ・アンド・ローゼズもカバーした楽曲で、『007 死ぬのは奴らだ』のテーマ曲。これ、とてもカッコ良いんです。ゆったりとした序盤から、スリリングなホーンを皮切りに疾走曲に変貌します。これも本作の聴きどころの一つですね。一旦ひと息と言わんばかりに「Picasso’s Last Words (Drink To Me)」はアコギに変わって、ゆったりとしています。原曲のように、走馬灯のようにアルバム曲を振り返る演出はなくて、代わりにデニーの歌う「Richard Cory」へと繋ぎます。「Bluebird」もアコギでゆったりと聴かせ、ここから再びビートルズ時代の楽曲が続きます。カントリー風味の「I’ve Just Seen A Face」を軽快に聴かせ、続く「Blackbird」はごくシンプルなアコースティックサウンドで淡々と歌います。そして名曲「Yesterday」。シンプルな楽曲なのにメロディはとても美しいこの楽曲で、ディスク1枚目をしっとりと締め括ります。

 ディスク2枚目は「You Gave Me The Answer」で開幕。ほのぼのとしてポップな楽曲で、ポールのメロディメーカーとしての才能を見せつけます。続く「Magneto And Titanium Man」でノリの良いサウンドで会場を盛り上げた後、メロウな「Go Now」やしっとりとしたバラード曲「My Love」をじっくりと聴かせます。なかなか渋いんですよね。続いて「Listen To What The Man Said」はアップテンポのポップな楽曲。響き渡るサックスが爽快で、跳ねるようなベースも高揚感を煽ります。どっしりとしつつもホーンに飾られた「Let ‘Em In」を挟んで、リズム隊が強烈な「Time To Hide」。ベースとドラムの主張が強い印象です。「Silly Love Songs」は明るくポップな楽曲。アップテンポで、華やかなホーンや分厚いコーラスに彩られています。終盤に向けて盛り上がりをみせていきますが、ポップなメロディには少しだけ切なさを感じさせます。「Beware My Love」は少し毛色の違う、緊迫感の溢れる1曲です。歪んだサイケデリックなギターと無機質なキーボードが不穏な緊張感を作り、ポールの鬼気迫るボーカルが影のあるメロディを歌い、スリルを生み出します。とてもカッコ良い。「Letting Go」は序盤は地味なロック曲ですが、途中から加わるホーンがキャッチーなメロディを奏でます。終盤に向けてどんどん華やかになっていきます。そして名曲「Band On The Run」。キーボードの音色が少し拍子抜けな感じもあり、また場面転換のダイナミズムは原曲には及びませんが、デニーの渋いギターやポールのベース・歌はとても良い感じです。そして「Hi, Hi, Hi」は昔ながらのオーソドックスなロックンロール。ですがライブ向きのノリの良さは爽快で、楽しい気分にさせてくれます。大歓声の中、ヘヴィなギターを響かせて始まる「Soily」。最後にピッタリのノリの良いロックンロールで、凄まじいグルーヴ感。そしてハイハットを多用するドラムも爽快です。
 
 
 当時のベストと呼べる内容ですが、華やかなディスク1枚目に比べるとディスク2枚目は少し地味な感じもあったり。いずれにせよ大ボリュームなので、通しで聴くには少しお腹いっぱいですが、ディスクを分けて個別に聴いたり、BGMとして流したりするには最適な内容です。

Wings Over America (2013 Remastered)
Wings
 
Back In The U.S. (バック・イン・ザ・U.S. -ライブ2002)

2002年

 ビートルズ時代、ウイングス時代、ソロキャリアを総括する、ポール・マッカートニーのベストヒッツライブ的なライブ盤です。全35曲、1時間55分の大ボリュームです。デヴィッド・カーンのプロデュース。アルバムタイトルはビートルズ時代の名曲「Back In The U.S.S.R.」に掛けているんですかね。
 妻のリンダ・マッカートニーは1998年に亡くなっており、2001年にはビートルズ時代の盟友ジョージ・ハリスンも去ってしまいました。ポール自身もこの時すでに60歳ですが、彼は老いによる衰えを知らず、2019年現在も精力的に活動しています。流石にリリース当時と比べるのは酷ですが、それでも60歳とは思えないほど張りのある歌声で魅せてくれます。
 
 
 ディスク1枚目、ライブのオープニングは「Hello, Goodbye」。シンプルでわかりやすい歌詞にキャッチーなメロディ。ポールの歌はとても親しみやすいですね。続いてウイングス時代の名曲「Jet」。カッコ良いイントロから弾けるようなロックを展開。口ずさみたくなるキャッチーな歌や、ノリの良い爽やかなサウンドはとても魅力的です。「All My Loving」はビートルズ初期のシンプルなロックンロール。コテコテの古臭い楽曲なのに古臭さをさほど感じないのは普遍的なメロディだからでしょうか(単にモダンな演奏陣だから?笑)。「Getting Better」はリズムギターやドラム等が作るグルーヴが心地良い1曲。浮遊感のあるコーラスも魅力です。ファンキーなサウンドの「Coming Up」を挟んで、気怠い感じの「Let Me Roll It」。切れ味のあるギターやベースが楽曲を引き締めてくれます。「Lonely Road」ではヘヴィなサウンドに乗せて影のある歌メロを聴かせます。強烈な哀愁があります。ドラムをはじめ軽快なサウンドにシリアスな歌メロの「Driving Rain」、力強く歌われるバラード曲「Your Loving Flame」と続いた後、アコギ主体のシンプルなサウンドに変わります。「Blackbird」「Every Night」といった派手さはないけどメロディを聴かせる楽曲に続いて、とてもキャッチーな「We Can Work It Out」で明るい気分にさせてくれます。その後もアコギパートは続き「Mother Nature’s Son」、「Vanilla Sky」などを静かに聴かせます。そしてキーボード弾き語りの「Carry That Weight」。クレジットされていませんが「You Never Give Me Money」からセットで奏でられるので、名盤『アビイ・ロード』のメドレーを思い起こさせますね。続いて牧歌的な「The Fool On The Hill」で和ませつつ、「Here Today」でまたアコギによる静かな演奏に戻ります。そしてウクレレで奏でられる「Something」。前年に亡くなったジョージ・ハリスン作の名曲で、彼を悼んでの選曲でしょうか。でもアレンジが効いてて一瞬わかりませんでした。

 ディスク2枚目に入り、アコースティックパートを抜けて「Eleanor Rigby」。華やかなサウンドと、頭サビのキャッチーなメロディで一気に魅せてくれます。「Here, There And Everywhere」はキャッチーなメロディをハミングで飾った優美な楽曲です。癒されますね。そして「Band On The Run」は、バンドサウンドに厚みがあってとてもスリリングです。ポールもシャウト気味で、穏やかな楽曲続きで溜めていたエネルギーを一気に解放しているかのようです。続いて「Back In The U.S.S.R.」。この曲大好きなんですよね。ノリの良いロックサウンドが爽快です。米国公演で「ソ連に帰ってきた」っていうのも面白いですが、この時点でソ連はもう存在していないという…。アップテンポから一転して、「Maybe I’m Amazed」は哀愁漂うバラード。ポールの感情の籠もった歌唱が、切なさに拍車をかけます。レゲエ風のリズミカルな楽曲「C Moon」を挟んで、「My Love」でメロウなバラードをしっとりと聴かせます。「Can’t Buy Me Love」は陽気なロックンロール。ノリの良いサウンドで楽しませてくれます。爽やかな「Freedom」を挟んで、ここからは怒涛の名曲尽くし。「Live And Let Die」は穏やかな序盤からスリリングな楽曲へとダイナミックに変貌。オーケストラとエレキギター、そしてパワフルなドラムが独特の緊迫感を生み出します。「Let It Be」ではとても美しい歌メロをしっとり聴かせます。後半に向けて盛り上げる演出が実に素晴らしい名曲ですね。続く「Hey Jude」は個人的にはポールの、そしてビートルズの最高傑作だと思っています。冒頭から会場が合唱していて涙を誘います。メロディアスな歌が進むにつれてサウンドも盛り上がっていく…そしてラストの「ナーナーナー ナナナッナー」の大合唱も鳥肌が立ちます。素晴らしい楽曲を生み出したポールに拍手。「The Long And Winding Road」もメロディアスな楽曲。こちらはメロディの良さもさることながら、メロウで優美な演奏が楽曲の質を高めている気がします。じっくり聴かせる楽曲が続きましたが、ノリの良いポップな「Lady Madonna」で緩急つけると、「I Saw Her Standing There」で旧き良きロックンロールに回帰。ビートルズ最初期の楽曲ですね。そしてポールの最高傑作とされる「Yesterday」。シンプルなのに、胸に染み入るとても素晴らしいメロディ。そして浸っているとあっという間に終わってしまい、ラスト曲「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise) / The End」へ。2枚の名盤のラスト曲(厳密にはラスト手前曲)をメドレーにしてライブを締めるという素晴らしい終わり方です。ノリも良くて、爽快な気分でライブを終えます。
 
 
 ボリューム満点なので通しで聴くのは大変ですが、口ずさみたくなるキャッチーな楽曲ばかりで流石です。こうしてみると、レノン=マッカートニー名義でも、メロディに振っているのはポール作が多いんですよね。偉大なるメロディメーカー、ポール・マッカートニーの功績を振り返ることができる名ライブ盤です。

Back In The U.S.
Paul McCartney
 
 

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 ビートルズではボーカリスト兼ベース担当として活躍。

 
 ビートルズのバンドメイトたち。
 
 ウイングスのメンバー、デニー・レインの古巣。
 
 
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