🇬🇧 Primal Scream (プライマル・スクリーム)

レビュー作品数: 5
  

スタジオ盤

Sonic Flower Groove (ソニック・フラワー・グルーヴ)

1987年 1stアルバム

 スコットランド出身のロックバンド、プライマル・スクリーム。長いキャリアの中でカメレオンのように音楽性を変化させ続けています。1982年にボビー・ギレスピー(Vo)とジム・ビーティ(Gt)の2人で結成。ボビーはジーザス&メリー・チェインのドラマーを一時期兼任。ギレスピーがかつてプライマル・スクリーム結成前に一緒にバンドを組んでいた縁で、クリエイション・レコーズのアラン・マッギーの後ろ盾を得ています。またメンバーにはアンドリュー・イネス(Gt)、ロバート・ヤング(B)を迎え入れています。メイヨ・トンプソンのプロデュース。ストーン・ローゼズにも影響を与えたというそのサウンドはキラキラしていて爽やかな印象です。

 オープニングを飾る「Gentle Tuesday」は爽やかでポップセンスに溢れる楽曲です。心地良くも少し哀愁のあるギターがメランコリックに魅せ、またギレスピーのメロディアスな歌メロも魅力的です。続く「Treasure Trip」は少し憂いがあるものの、リズミカルでポップな楽曲はビートルズや旧き良きポップロックを想起させます。「アーアー アーアー」のコーラスも気持ち良い。「May The Sun Shine Bright For You」は囁くような歌声で、サイケな浮遊感に満ちた楽曲を繰り広げます。ギターが奏でるメロディは哀愁たっぷり。「Sonic Sister Love」は明るく爽やかなトーンですが、どこか切ない魅力的なサウンド。そしてギレスピーの歌は優しくてポップセンスがあります。僅か2分半の短さが物足りない名曲ですね。続いて「Silent Spring」はテンポも速く軽やか。清涼感のある楽曲で、ギレスピーの歌い方は後のオアシスの登場を予見させます。アウトロでは控えめではあるもののテープの逆再生のような音を出して、サイケ感も出してきます。「Imperial」は躍動感のある演奏に甘く優しい歌声で、軽やかで爽快なポップ曲を聴かせてくれます。ギターはサイケっぽい。「Love You」はビーティとイネスが心地良くギターを絡ませ、ゆったりとした曲調で悠々とメロディアスに歌います。時折力強いドラムが楽曲を引き締めます。「Leaves」はキラキラとした透明感のある演奏に甘い歌声で癒やしてくれます。ポップなメロディラインも魅力の、爽やかな良曲です。ギターソロも良いですね。続く「Aftermath」はどこか懐かしさのあるギターが、爽やかさの中に郷愁を誘います。そして最後に「We Go Down Slowly Rising」。ギターがメロディアスな音色を奏で、これが歌メロ以上に魅力を放っています。透明感があってどこかノスタルジックで、サウンドに魅せられます。

 ポップセンスに溢れ、サイケ要素も含んだ良質なギターポップ作品です。12弦ギターによる爽やかで懐かしさを感じられるサウンド、そして甘く優しいボーカルに癒やされます。僅か34分でサクッと聴けるのも良いですね。

Sonic Flower Groove
Primal Scream
 
Primal Scream (プライマル・スクリーム)

1989年 2ndアルバム

 バンドの共同創設者であるジム・ビーティ(Gt)が脱退し、ロバート・ヤングがベースからギターへ転向しました。その影響か12弦ギターを聴かせる爽やかなギターポップだった前作と変わり、ポップセンスはそのままにガレージロック色を増しました。メンバーラインナップはボビー・ギレスピー(Vo)、アンドリュー・イネス(Gt)、ロバート・ヤング(Gt)に加え、トビー・トマノフ(Dr)、ヘンリー・オルセン(B)の2人を新たに迎えています。シスター・アンのプロデュース。

 オープニングを飾る「Ivy Ivy Ivy」は、イントロからワイルドな感じのロックンロール。ガレージロック的な荒々しくライブ感のある演奏ですが、ギレスピーの歌は相変わらず甘い歌声で、心地良く聴けます。「You’re Just Dead Skin To Me」はイントロから金属質なノイズを奏でるギターと、対照的にしっとりとしたピアノ。そのままピアノだけが残ってメロディアスな歌を乗せます。間奏で時折、不協和音が不穏な空気を作り出しますが、全体的には牧歌的で優しいです。ハーモニカも渋い。そのまま続く「She Power」は荒々しくノイジーなロックンロールを展開。荒っぽいものの、リズミカルでキャッチーな演奏は爽快です。そしてギレスピーの気だるげで甘い歌声に、後に誕生するブリットポップ・ムーブメントを予感させます。「You’re Just Too Dark To Care」は囁くように子守唄のような歌声。ゆったりとした曲調で、演奏のメインとなるギターはとても落ち着いていてメロウです。続く「I’m Losing More Than I’ll Ever Have」も序盤は落ち着いていますが、少しずつテンションを上げていき、明るい雰囲気に。後半はホーンによる盛り上げでスケール感がありますね。ギレスピーの歌も力強いです。なお次作で「Loaded」という名でリミックスされます。「Gimme Gimme Teenage Head」は一転して、ハードで荒々しい演奏で暴れ回る攻撃的なロックンロールを展開。切れ味のあるギターリフやパワフルなドラムがカッコ良いですね。「Lone Star Girl」もハードですが、内容は旧き良きロックンロール。グルーヴ感があってノリノリです。「Kill The King」はテープの逆再生を用いた、トリップ感のあるサイケな楽曲です。歌はメロディアスでしっとりとしています。「Sweet Pretty Thing」は古びたロックンロール。気だるく甘い歌声が気持ち良いですね。暴れた後は、ピアノがしっとりとしているラスト曲「Jesus Can’t Save Me」。メロディアスなバラードで、2分足らずの短さですが心地良く癒やしてくれます。

 ガレージロック風ですがバラードも多く、彼らのポップセンスが光ります。気だるいボーカルも心地良くて、オアシスが好きな人にはハマるかも。10曲入りですが1曲1曲が短く、トータル僅か32分で気軽に聴けます。

Primal Scream
Primal Scream
 
Screamadelica (スクリーマデリカ)

1991年 3rdアルバム

 マッドチェスター等に代表される、当時流行のレイヴカルチャー/クラブミュージックを取り入れて、ロックンロールとアシッドハウスの融合を図った傑作と名高い作品です。プライマル・スクリーム初のヒットとなり、全英8位を獲得しました。メンバーは、前作からのラインナップに加え、これまでサポートとして参加してきたマーティン・ダフィ(Key)が正式加入して6名体制に。プロデューサーとして、人気DJアンドリュー・ウェザオールとエンジニアのヒューゴ・ニコルソンを軸に据えつつ、楽曲ごとに異なるプロデューサーを起用しています。
 雑なようでいて強いインパクトを残すジャケット・アートはデザイナーのポール・キャネル作。

 「Movin’ On Up」はイントロから軽快なアコギに、ピアノやパーカッションがノリの良い演奏を繰り広げます。ボビー・ギレスピーの気だるい歌唱を支える、ゴスペル風のコーラスなどブラックミュージックへの接近が見られます。ジミー・ミラーがプロデュースし、彼の手掛けたローリング・ストーンズにも似た雰囲気の1曲です。「Slip Inside This House」は13thフロア・エレベーターズというガレージロックバンドのカバー曲で、テクノバンドのヒプノトーンがプロデュースしました。ダンサブルかつトリップ感の強いドラッギーな楽曲で、グルーヴィなリズムの上でシタールのような弦楽器が響きます。本楽曲ではギタリストのロバート・ヤングが歌っており、陶酔感のある歌唱を披露。「Don’t Fight It, Feel It」は7分近い楽曲で、トリップ感の強烈なダンスチューン。ゲストのデニス・ジョンソンがソウルフルな歌声を披露しつつ、リズムトラックの単調な反復が強い中毒性を生み出し、スペイシーな別世界へと連れて行ってくれます。「Higher Than The Sun」はテクノミュージシャンのジ・オーブがプロデュース。ギレスピーの甘く気だるい歌声に強めのエコーをかけて、更に幻覚的な演奏によって脳を揺さぶりながら、ゆったりと漂うかのよう。心地良さと気持ち悪さが同居します。続いて「Inner Flight」はドリーミーで心地の良いインストゥルメンタル。キラキラ感があり、心地良さの中に蝕まれているかのようなヤバさも感じます。「Come Together」は元はシングルでしたが、アルバム収録にあたり10分を超える楽曲へとアレンジされています。ダブによる残響効果の強いパーカッションに、演説のような歌。そしてオルガンの音色が心地良いんですよね。楽曲はどんどんリズミカルに盛り上がっていきます。7分に渡る「Loaded」は自身の「I’m Losing More Than I’ll Ever Have」が原曲で、アンドリュー・ウェザオールによってリミックス・改題。これがバンド初のヒットシングルとなり、本作成功の布石となりました。華やかなホーン、トロピカル風味のリズムトラックにベースが心地良く響きます。歌はほぼなく、代わりにMCのようなトークが時折入ります。浮遊感というかトリップ感が気持ち良い。「Damaged」は一転してダンス色を一切取り払い、カントリーっぽくて渋い楽曲です。優しいアコギと哀愁のピアノを軸に、ギレスピーの歌をじっくり聴かせます。派手さはありませんが胸に染みる良曲です。「I’m Comin’ Down」はインド音楽っぽいパーカッションがサイケ風で、更に渋いサックスやテクノ的な鍵盤を混ぜたごった煮サウンドで、強い残響効果によりトリップ感を生み出しています。「Higher Than The Sun (A Dub Symphony In Two Parts)」では元パブリック・イメージ・リミテッドのジャー・ウォブルがベースで参加。前半はダブを用いた残響効果や執拗な反復で強い中毒性を生み出します。後半はメロディを変えて、ダブを用いた単調かつ中毒性のあるドラムの上で、ベースが心地良く響きます。最後に「Shine Like Stars」。無機質な効果音が飛び交うイントロを経て、ギレスピーの優しく囁くような歌が癒やしてくれます。ドリーミーというかサイケというか、浮遊感に満ちています。

 約62分の大ボリューム。ドラッグの影響が強いサウンドはトリップ感に満ちています。そしてメンバーもヘロイン中毒に陥っていたのだとか。

Screamadelica
(4CD+Book)
Primal Scream
Screamadelica
20th Anniversary Edition (2CD)
Primal Scream
Screamadelica
20th Anniversary Edition (1CD)
Primal Scream
 
Give Out But Don't Give Up (ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ)

1994年 4thアルバム

 英国を離れ米国テネシー州メンフィスでレコーディングされた本作は、ローリング・ストーンズのような、米国南部音楽に強い影響を受けた泥臭い音楽が特徴的です。『スクリーマデリカ』を通過した、ダンサブルな演奏を繰り広げます。トム・ダウドをプロデューサーにむかえ、一部楽曲のリミックスをジョージ・クリントンが手掛けました。
 リズム隊の2人、ヘンリー・オルセン(B)とトビー・トマノフ(Dr)が脱退しています。本作ではボビー・ギレスピー(Vo)、アンドリュー・イネス(Gt)、ロバート・ヤング(Gt)、マーティン・ダフィ(Key)のメンバーに加えて、多数のミュージシャンを招いています。

 オープニングを飾る「Jailbird」は泥臭さが加わりました。印象的なギターリフにグルーヴ感抜群のベース、リズミカルなドラムや、楽曲を彩るホーンセクションにオルガン。古臭いけどノリの良い演奏に乗る、ギレスピーの歌と黒っぽいコーラス。ブラックミュージックを消化したノリの良い名曲です。続く「Rocks」はローリング・ストーンズ風の名曲です。力強いドラムが気持ちの良いノリを生み出し、華やかなホーンにアクセントとしてのピアノ。そしてコーラスが支える歌メロもキャッチーですね。全英7位を記録したヒットシングルになりました。「(I’m Gonna) Cry Myself Blind」は落ち着いていて少し哀愁が漂うバラードで、アコギを軸としたカントリー風の演奏です。オルガンが心地良い。続く「Funky Jam」はファンクに強い影響を受けた、抜群にノリの良い楽曲を展開。ゲストのデニス・ジョンソンとジョージ・クリントンがボーカルを務め、黒っぽいコーラスが加わって楽しそうな空気を助長。魅力的な1曲です。「Big Jet Plane」はアコギを中心とした優しいサウンドに哀愁漂う歌を聴かせます。渋くて心地の良い1曲です。「Free」はイントロから色気たっぷりのサックスやジャズっぽい洒落たピアノをはじめ、ムーディで大人びた雰囲気です。デニス・ジョンソンのソウルフルな女声がメロウな演奏によく似合います。ドラムのカウントから始まる「Call On Me」はとてもルースな楽曲で、これもストーンズを強く想起させます。華やかなホーンセクションもそれっぽくて、ボーカルだけ挿げ替えたような印象。笑 グルーヴ感のある演奏が気持ち良いです。「Struttin’」は8分半に渡る長尺のインストゥルメンタル。初っ端から軽快なギターが好印象ですが、そこからドラッギーな効果音を交えてトリップ感満載。実験的な音を鳴らしつつも、リズム隊は同じフレーズを反復し続け、しっかり支えながら中毒性を助長します。前作の影響を受けつつ、南部音楽の要素を持ち込んだ良曲です。続く「Sad And Blue」はゆったりと落ち着いていて、アコギやギターが古臭くも渋い魅力を放ちます。ギレスピーの甘い歌声がソウルフルなコーラスに支えられて心地良いですね。そして表題曲「Give Out But Don’t Give Up」。かなりのスローテンポですが、ファンク的なノリの良さがあります。蒸し暑い夏のような気だるい演奏と歌は、しっかり向き合うよりもBGMくらいで丁度良い心地良さ。「I’ll Be There For You」は哀愁が漂うバラード。ピアノが切なさを誘い、オルガンやホーンが楽曲を引き立てます。メロディアスな歌は感傷的な気分にさせ、後半のひたすら反復するメロディも印象づけます。渋くも魅力的な楽曲です。ラスト曲は「Everybody Needs Somebody」で、落ち着いた演奏に乗るギレスピーの甘い歌声が優しいですね。ゆったりとしていてどこか哀愁があります。

 1970年前後のローリング・ストーンズを彷彿とさせ、ミック・ジャガーが歌っても違和感なさそうな作品です。でもボビー・ギレスピーの歌声のおかげで「下品じゃないストーンズ」みたいな仕上がりです。笑 これまでの作品とは大きく異なりますが、とても魅力的な1作に仕上がりました。

Give Out But Don’t Give Up
Primal Scream
 
Vanishing Point (バニシング・ポイント)

1997年 5thアルバム

 『スクリーマデリカ』後に脱退したリズム隊の後釜として、元ストーン・ローゼズのマニ(B)(本名のゲイリー・マウンフィールド名義)と、ポール・マルレイニー(Dr)が加入。マルレイニーは本作限りとなりますが、マニはストーン・ローゼズ再結成が本格化するまでプライマル・スクリームで活躍することになります。
 本作は1971年のカーアクション映画『バニシング・ポイント』にインスパイアされて制作したもので、リードシングルとなった「Kowalski」のタイトルは映画の主人公の名前だそうです。音楽的にはダブやアンビエントを取り入れたエレクトロニックな作風です。

 7分に渡るオープニング曲「Burning Wheel」。ジャングルのようなパーカッションにインド音楽のようなサイケ感を出し、更にダブを活用して浮遊感のある仕上がりです。ドラムがくっきりとリズムを刻み出すと、ボビー・ギレスピーの気だるげな歌が始まりますが、バックでは強いサイケサウンドが鳴り響きます。左右に揺さぶる演奏は酔いそう。ベースが心地良いですが、マニではなくゲストのマルコ・ネルソンが弾いています。「Get Duffy」はインストゥルメンタル。序盤は淡々とした電子音楽といった印象ですが、途中から心地良い気だるさを感じます。続く「Kowalski」はマニのベースが蠢いてグルーヴィなサウンドを構築。ダンサブルなリズムの上で不気味に囁くような歌とデジタルな効果音を多用し、インダストリアルかつ重苦しい印象に仕上がっています。「Star」は無機質なリズムトラックが若干の不気味さを持っているものの、鍵盤ハーモニカや甘く優しい歌メロがノスタルジックな感覚を誘います。そこにエフェクトをかけたり逆再生したりして、トリップ感や浮遊感に溢れています。続くインストゥルメンタル「If They Move, Kill ‘Em」はドラッギーなダンスチューン。淡々としたリズムの反復が心地良くて、聴いていると飛べます。笑 中毒性の高い良曲です。そのまま「Out Of The Void」へ突入。民族音楽+アンビエント+スペイシーでふざけた効果音といった、ごった煮のサイケサウンドが強烈に頭を揺さぶり、ギレスピーの歌は気だるく優しく語りかけます。「Stuka」はイントロから強いダブサウンドを聴かせ、そこからミニマルな反復で中毒性を生み出します。これもドラッグの影響が強そうですね。強いエフェクトでリスナーを連れ去った後は、バンドサウンドに引き戻して「Medication」。エレクトロニックな楽曲が多い本作中では珍しく、スタンダードなロックを聴かせます。元セックス・ピストルズのグレン・マトロックがベースで参加しています。続いて「Motörhead」モーターヘッドの楽曲カバー。パンキッシュ/メタリックな原曲とは違ってとてもダンサブルなアレンジで、マニの弾くベースが抜群のグルーヴです。「Trainspotting」は8分に渡る長尺のインストゥルメンタルで、ジャングルのような怪しげなパーカッションからトリップ感に満ちています。大きな盛り上がりもなく淡々と反復するのですが、浮遊感のある別世界へと誘います。最後の「Long Life」はチープなシンセが微睡むようなハーモニーを展開し、スローテンポの楽曲の幕開け。ドリーミーというべきか、酔いそうな気持ち悪さも含んだサウンドに浸っていると、音数減らしてチープなシンセが響き渡って終了。

 ドラッギーな楽曲はヘッドホンで聴くとグワングワン揺さぶられます。強烈な1曲には欠けますが、中毒性の高い楽曲も多いです。

Vanishing Point
Primal Scream
 

 

関連アーティスト

 ボビー・ギレスピーがドラマーとして一時期兼任。

 
 1996年に加入するマニの古巣。ストーン・ローゼズ再結成まで在籍。
 
 コンピレーション『C86』に参加し「Velocity Girl」を収録。
 
 
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