🇩🇪 Scorpions (スコーピオンズ)

スタジオ盤②

ヘヴィメタル時代

Blackout (蠍魔宮~ブラックアウト)

1982年 8thアルバム

 ウルリッヒ・ロート時代はウルリッヒただ一人が突出していますが、ウルリッヒ脱退後のルドルフ・シェンカーが主導するスコーピオンズは、チーム戦というかバンド一丸となって作り上げている感じがします。そんな本作はスコーピオンズの最高傑作です。
 1981年にクラウス・マイネが喉を痛めたため一時的に活動休止に追い込まれたスコーピオンズ。そして声帯の手術に成功した直後にレコーディング参加したクラウスの喉の調子は絶好調で、美声でメロディアスな楽曲を歌ってくれます。プロデューサーは『復讐の蠍団~イン・トランス』からずっと続く、安心のディーター・ダークス。

 オープニングを飾る表題曲「Blackout」から圧倒されます。凄まじくカッコいい1曲です。ザクザクと切り刻むルドルフ・シェンカーの鋭利なギターとマティアス・ヤプスのギュンギュン唸るギター、ドライブ感のあるフランシス・ブッフホルツのベースとハーマン・ラレベルのドラム。そしてハイトーンボイスが絶好調なクラウスの美しいボーカル。鋭利ですが勢いに満ちた爽快なサウンドで、またアメリカナイズされたキャッチーさがあるので聴きやすいです。続く「Can’t Live Without You」ではヘヴィなギターリフをバックに「1, 2…1, 2, 3, 4!」と聴く人を煽ります。鋭利だけどもノリの良いサウンドに乗るのは、一緒に歌いたくなるようなキャッチーなメロディです。これも爽快な1曲です。「No One Like You」はスコーピオンズお得意の哀愁漂う楽曲。ハードなサウンドがずしっときて、でも切ない歌メロが浸らせてくれます。マティアスのメロディアスなギターソロも聴きごたえがあります。そして「You Give Me All I Need」ではバラードを聴かせます。哀愁のギターをはじめ、クラウスの憂いのある歌唱など、メロディアスな名曲です……が、「雪見オ○ニー」という有名な空耳のせいで笑ってしまいます。…そんな哀愁漂う2曲から雰囲気をガラッと変えて、続くのは最強疾走曲「Now!」。音の塊がぶつかってきて、鋭利なサウンドで切りつけながら大爆走します。2分半という短い楽曲ですが、強烈なインパクトを残していく、とてもカッコいい1曲です。
 そしてアルバム後半は疾走曲「Dynamite」で始まります。ヘヴィメタルを知らなかった頃、最初に好きになったヘヴィメタル曲がこれだったので、個人的にはとても思い入れがあります。ルドルフのダーティな雰囲気のギターや、ハーマンのタイトなドラムがとてもスリリングでカッコ良い。そしてスピード感がとても気持ち良いです。そしてタイトルを連呼するキャッチーな歌メロも耳に残ります。続く「Arizona」はお得意の湿っぽさを封印し、カラッとしたアメリカンな雰囲気のハードロック曲。キャッチーで爽快です。「China White」はシリアスさのある重厚なナンバー。レッド・ツェッペリンの名曲「Kashmir」にも似た雰囲気です。そしてラスト曲「When The Smoke Is Going Down」。最後にはスコーピオンズお得意のバラードを持ってきますね。メロウで湿っぽいサウンドに、クラウスが切ない声で歌う哀愁のメロディは、日本人の琴線にも触れることでしょう。名曲揃いの全9曲。

 ヘヴィなのにキャッチーな楽曲が揃っていて、しかもトータル36分とサクッと聴き終わります。疾走曲に偏らずバラードを交えるなど緩急ある構成で、聴き手を飽きさせません。また、アメリカナイズされたキャッチーさが功を奏し、スコーピオンズ初の全米トップ10入りを果たしました。
 切れ味鋭いギターリフですが、クラウス・マイネの美声はヘヴィメタルのハードルを下げてくれるので、ヘヴィメタル入門盤としても最適です。個人的には本作がスコーピオンズ最高傑作です。

Blackout (CD+DVD) (2015 Remastered)
Scorpions
 
Love At First Sting (禁断の刺青~ラヴ・アット・ファースト・スティング)

1984年 9thアルバム

 スコーピオンズ最高傑作の前作『蠍魔宮~ブラックアウト』と比較しても遜色ない、非常に素晴らしい出来の傑作です。前作の路線を引き継ぎ、アメリカナイズされてヘヴィでキャッチーなヘヴィメタルを展開します。そして前作よりもメロディアスになった感じですね。

 イントロからギターがカッコいい「Bad Boys Running Wild」で始まります。攻撃的な楽曲で、ルドルフ・シェンカーとマティアス・ヤプスによるヘヴィなギターリフと、ハーマン・ラレベルのパワフルなドラムが際立ちます。でも歌メロは聴きやすく、ノリの良い1曲です。続く「Rock You Like A Hurricane」は本作のハイライトで、ヘヴィメタル時代スコーピオンズの代表曲です。リズムギターで始まり、ベースとドラムが加わり、リードギターが加わり…と、徐々に楽器が増えていく王道のイントロに非常にワクワクします。そしてクラウス・マイネの歌うメロディも、アメリカナイズされたキャッチーさで聴きやすく、口ずさみたくなります。シンプルだけどロックの楽しさを伝えてくれるかのような生き生きとした演奏の虜になります。続いてメロディアスな「I’m Leaving You」は、ハーマンのドラムとフランシス・ブッフホルツのベースが跳ねるようなリズムを刻み、これがなかなか気持ち良いんですよね。そして4曲目「Coming Home」も名曲。ギターの美しいアルペジオとクラウスの感傷的な歌唱は、しんみりと切ない気分になります。しかし突如として狂暴なロックンロールナンバーに豹変します。切れ味抜群の鋭利なサウンドで疾走する、これが非常にスリリングでカッコいいんです。ヘヴィな演奏ですが、歌は変わらず優しさや哀愁を保っています。続く「The Same Thrill」は疾走曲。イントロで凄まじい緊張感を放ちますが、徐々に楽しげでご機嫌なロックンロールになっていきます。ギュンギュン唸るギターがご機嫌です。
 アルバム後半に入り「Big City Nights」。哀愁を感じさせる歌メロがキャッチーでメロディアスな1曲です。でも1980年代という時代を感じる1曲でもあったり。珍しくルドルフがリードギターを奏でますが、天にも上るかのような間奏のギターソロも良い感じ。「As Soon As The Good Times Roll」は地を這うようなフランシスのベースが際立ちます。ほどよく哀愁をブレンドしているメロディも良いですが、本作では地味な少し印象です。続いて「Crossfire」は行進曲のようなリズムを刻むドラムと「understand…」と反復するコーラスが耳に残ります。そして最後に「Still Loving You」、ラスト曲はやはりバラードで締めます。これが素晴らしい出来。哀愁たっぷりの物悲しいメロディ、静かなサウンドをバックにクラウスの歌声とベース・ドラムが響き、サビでは抑圧されたサウンドを開放。聴いていると、サウンドとともに感情にも込み上げてくるものがあります。とても感動的な1曲です。

 更に2015年リマスター盤にはDisc2にライブ盤が追加で付属。米国ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われたライブで、『ワールド・ワイド・ライヴ』を少し絞ったような選曲です。クラウスはキーを下げていますが、基本的には原曲をそこまで崩しておらず聴きやすいです。「Coming Home」「Blackout」、「Rock You Like A Hurricane」等の名曲におけるヘヴィな演奏に圧倒されます。ライブらしい演出としては、観客と一緒に歌う「Big City Nights」でしょうか。鈍重なギターリフとドラムの上でトーキングモジュレーターを唸らす「The Zoo」も面白いです。そしてラストの「Dynamite」は疾走感が半端じゃない。歌は結構ラフですが、スタジオ録音を遥かに上回るスピードが楽しいです。
 録音状態も良く、内容についてもボーナスディスクに留めておくには勿体ない、好ライブ盤です。

 ライブ盤が付属する2015年リマスターをオススメしたいですが、ライブ盤が付かなくとも『禁断の刺青~ラヴ・アット・ファースト・スティング』そのもののクオリティは非常に高く、とても楽しめる作品です。是非聴いてみると良いでしょう。

Love At First Sting (2CD+DVD) (2015 Remastered)
Scorpions
 
Savage Amusement (サヴェイジ・アミューズメント)

1988年 10thアルバム

 『禁断の刺青~ラヴ・アット・ファースト・スティング』と『クレイジー・ワールド』という大傑作に挟まれてイマイチ地味な印象の本作。サソリ女のジャケットは色っぽくて好みなんですけどね。メロディアスな楽曲が多いのですが、ミドルテンポの楽曲が中心で、疾走曲があまり見られないのも要因かもしれません。なお、前作のあと本作までの間にツアーを行い、『ワールド・ワイド・ライヴ』をリリースしています。
 プロデューサーは『復讐の蠍団~イン・トランス』以来ずっとディーター・ダークスが務めてきましたが、スコーピオンズとの仕事は本作が最後となりました。次作からプロデューサーが流動的になります。

 本作はキャッチーな「Don’t Stop At The Top」で始まります。ハーマン・ラレベルのドラムの音が時代を感じさせます。マティアス・ヤプスのギターが奏でる主旋律がメロディアスで、クラウス・マイネの歌もメロディアスで、そして耳に残るキャッチーさです。続く「Rhythm Of Love」は本作のハイライト。哀愁とポップさをほどよく混ぜて、メロディアスなバラードに仕上がっています。メロディアスな歌を引き立てる哀愁のギターも良いですね。ここでもドラムの音処理がやはり時代を感じます。「Passion Rules The Game」はルドルフ・シェンカーのリズムギターとフランシス・ブッフホルツのベースによる低音が効いています。前作に通じる雰囲気ですがメロディが若干弱いです。「Media Overkill」ではボン・ジョヴィばりにトーキングモジュレーターでワウワウ(ゲロゲロの方が擬音として適切かな?笑)と唸ります。そしてビート感のあるリズムも爽快。サウンドで楽しませる楽曲ですが、歌も意外とメロディアスな1曲となっています。「Walking On The Edgar」は哀愁の歌をしっとりと聴かせ、サビで一気に盛り上げます。メロディアスな1曲です。続いて「We Let It Rock… You Let It Roll」でようやく疾走曲が登場します。ルドルフの切れ味抜群のギターや跳ねるようなリズム隊が爽快ですね。ですが底抜けに明るい楽曲ではなく、少し影を感じる緊迫感のある楽曲です。コーラスが賑やか、というか騒がしい。笑 「Every Minute Every Day」は力強くどっしりとしたサウンドで、メロディアスでポップな歌を聴かせます。一転して「Love On The Run」では爆走。ハードポップな楽曲群の中、コテコテのヘヴィメタル曲です。キレッキレで気持ちの良いスピード感ですが、こういうナンバーは前半に持ってきた方が盛り上がるのに…と思ったりもします。ラスト曲「Believe In Love」はスコーピオンズお得意のバラード。哀愁漂うメロディが切ないです。

 メロディアスな1作ではありますが、少し時代を感じる側面もあります。手に取るのは、前後の作品を聴いた後でも良いでしょう。

Savage Amusement (CD+DVD) (2015 Remastered)
Scorpions
 
Crazy World (クレイジー・ワールド)

1990年 11thアルバム

 キャッチーさやメロディの美しさも際立つのですが、物悲しい雰囲気が全体を支配している作品です。真剣に向き合って聴くと、胸に込み上げてくるものがあります。本作では、これまで長らくプロデューサーを務めたディーター・ダークスの手を離れ、キース・オルセンを新たにプロデューサーに迎えています。
 『サヴェイジ・アミューズメント』発表の後、1988年にソビエト連邦レニングラード(現ロシア連邦サンクトペテルブルク)でコンサートを行い、翌年にはモスクワ・ミュージック・ピース・フェスティバルに参加。1990年にはベルリンの壁の前でコンサートを行うなど、冷戦終結という歴史的出来事を、その最前線の地で立ち会ってきたスコーピオンズ。そんな活動が本作制作の原動力になったのではないかと、楽曲を聴いていると感じます。

 キャッチーなオープニング曲「Tease Me Please Me」で始まります。ヘヴィなイントロから縦ノリのロックを展開します。クラウス・マイネの歌うメロディはキャッチーでメロディアスです。一見すると明るいのですがどこか晴れないというか、哀愁が漂います。本作は全体的にその傾向が強い気がしますが、ハードロック全盛期が終わり、華やかで虚栄に満ちた1980年代の終わりという虚しさを、作品から感じ取れます。「Don’t Believe Her」はルドルフ・シェンカーとマティアス・ヤプスによる重厚なギターから、ハーマン・ラレベルのドラムが加わり、フランシス・ブッフホルツのベースも加わっていくイントロが高揚感を煽ります。とは言え全体的に暗く緊迫した空気が漂います。切れ味の鋭いサウンドに哀愁のメロディで、切ない気分にさせます。続く「To Be With You In Heaven」は物悲しい雰囲気の楽曲。重厚でシリアスなサウンドに、メロディアスな歌がコーラスによって引き立てられています。心に突き刺さるものがあります。そしてスコーピオンズトップクラスの名曲「Wind Of Change」が続きます。聴いていると涙腺が緩んでくる、あまりに美しくも哀愁に満ちた楽曲です。寂しい雰囲気の楽曲に、しんみりと響き渡るクラウスの口笛。「モスクワ川に沿って ゴーリキー・パークへ向かう 変革の風を聴きながら…」と、ソビエト連邦の崩壊という歴史的転換の瞬間を捉えた1曲です。そんな静かながら哀愁漂う「Wind Of Change」から一転して「Restless Nights」ではヘヴィな楽曲になりますが、ここでのメロディもとても悲しげ。メランコリックで悲壮感のある歌は、前曲とセットで熱く込み上げてくるものがあります。「Lust Or Love」もメロディアスで、サビでは心に訴えかけます。そんな悲しい気分に押し潰されそうになる中、ようやくアップテンポ曲の「Kicks After Six」で悲しい気分を和らげてくれます。メロディアスでポップなこの楽曲が救いですね。鈍重な「Money And Fame」はメタリックなベースがゴリゴリ唸ります。トーキング・モジュレーターもワウワウ言っていますが、楽曲としては魅力に乏しい印象です。続く「Hit Between The Eyes」はアップテンポ曲。緊迫感があってスリリングですが、歌が始まると爽快なロックンロールに。キャッチーで聴きやすく耳に残ります。表題曲「Crazy World」は骨太なリフが強烈。サビのコーラスワークなどキャッチーな仕上がりです。しかし名曲揃いの本作の中ではタイトルを背負うには少し弱い印象です。そして最後に「Send Me An Angel」。ラストに名バラードを持ってくるのはスコーピオンズのお約束ですが、これも例に漏れず名曲です。コーラスワークも活用して、哀愁が漂う美しい楽曲です。

 とにかく美しくも悲しい楽曲の宝庫で、キャッチーさもあるので最初の1枚にも向いている気がします。『蠍魔宮~ブラックアウト』に次ぐ名盤だと思います。最近はこればかり聴いています。

Crazy World: Deluxe Edition (CD+DVD) (2013 Remastered)
Scorpions
 
Face The Heat (フェイス・ザ・ヒート)

1993年 12thアルバム

 長らくベースを担当してきたフランシス・ブッフホルツが印税を巡るトラブルで脱退してしまいます。『ラヴドライヴ』以来、長らく固定メンバーで続いていましたが、ここで変化が表れました。ルドルフ・シェンカー(Gt)、クラウス・マイネ(Vo)、マティアス・ヤプス(Gt)、ハーマン・ラレベル(Dr)、そして後任ベーシストにラルフ・リッカーマン(B)を迎えた編成です。また、プロデューサーにはボン・ジョヴィらを手掛けたブルース・フェアバーンを迎え、スコーピオンズと共同プロデュース。

 オープニング曲「Alien Nation」からズシッとヘヴィなサウンドで、ラルフの強烈なベースがハーマンのドラムと合わさって強烈な重低音を響かせます。ああ、ヘヴィメタルバンドだったなと実感させられるヘヴィさです。クラウスの歌はダークで、ヘヴィなサウンドと相まって緊迫感に満ちています。「No Pain No Gain」も引きずるように重たいですが、メロディアスでキャッチーな歌はスコーピオンズ。そして重たい前2曲から解き放たれるかのような「Someone To Touch」はアップテンポ曲。メロディアスで軽快な作風で聴きやすいです。マティアスのギターソロも爽快ですね。続く「Under The Same Sun」はメロディアスなバラード曲。オリエンタルなサウンドから、ゆったりとしてしかし哀愁の漂う歌がじんわり染み込んできます。「Unholy Alliance」はアメリカンでブルージーなヘヴィメタル曲。サウンドは気だるくダーティな雰囲気ですが、クラウスの美声がメロディアスな印象を持たせます。「Woman」はキーボードを活用して神秘的な雰囲気を持たせた哀愁バラード。クラウスのハイトーンとか凄いんですが、あんまり響かないかな…。続いて「Hate To Be Nice」はアップテンポのポップな1曲。コーラスとかノリがアメリカンですね。「Taxman Woman」はラルフのメタリックなベースを中心にグルーヴ感のあるリズムが気持ち良い。メロディよりビートに重きを置いた楽曲です。「Ship Of Fools」はアップテンポの軽快な楽曲。キャッチーなメロディが牽引します。間奏は幽霊のような幻想的な雰囲気もありますが、全体的にはシンプルで爽快なロックンロールです。そして「Nightmare Avenue」はメタリックな疾走曲。『蠍魔宮~ブラックアウト』の頃のような雰囲気で爽快です。ラルフのベースがバッキバキでカッコ良い。「Lonely Nights」は暗く湿っぽいバラード曲です。哀愁たっぷりで「Still Loving You」等の往年の名曲にも通じるメロディですが、アレンジが今一歩な感じもしたり。「Destiny」はアコースティック主体のメロディアスな1曲です。優しく柔らかい印象です。ラスト曲「Daddy’s Girl」もアコースティック曲。暗鬱な雰囲気で、しっとりとしています。

 後半は結構アメリカンな感じで明るく爽快な楽曲が並びますが、オープニング曲「Alien Nation」がかなり重く暗いせいで、アルバム全体を重たく印象づけます。曲順で損している感じがする1枚です。
 また、アルバムを通して重低音がかなり効いています。

Face the Heat
Scorpions
 

脱ヘヴィメタル

Pure Instinct (ピュア・インスティンクト~蠍の本能)

1996年 13thアルバム

 長らくドラマーの座に就いていたハーマン・ラレベルが脱退。後任にはクルト・クレスが加入しますが、本作限りとなります。プロデューサーには『クレイジー・ワールド』を手掛けたキース・オルセンを再び起用(前半7曲)。またエルヴィン・ムスパーもプロデュースに参加。ヘヴィメタル色は少し薄れ、メロディを重視したメロウなバラード曲が多いです。
 動物園の逆で、人間が檻に捕らえられて動物に見られているというジャケットですが、これスコーピオンズ1のダサジャケだと思います(悪い意味で…)。ジャケットで敬遠して全くと言っていいほど聴かなかった作品ですが、意外と良い曲に溢れていて、どう考えてもジャケットで損をしていると思います。なおリマスターでジャケット差し替えになったのか、多少マシになりました。

 オープニング曲「Wild Child」は開幕バグパイプが鳴り、一瞬だけ牧歌的な雰囲気を出しますが、クルトの力強いドラムを中心に重厚なヘヴィメタルを展開します。ルドルフ・シェンカーのリズムギターが重低音を刻み、マティアス・ヤプスのギターがメロディアスな音色を奏でます。哀愁たっぷりのクラウス・マイネの歌も相変わらずで良いですね。続く「But The Best For You」はイントロはヘヴィですが、歌が始まるとアコースティックな雰囲気を出してきます。ラルフ・リッカーマンのベースが響きますね。哀愁のメロディラインも中々良い。「Does Anyone Know」はバラード曲。優しいサウンドに、クラウスの囁くような憂いを帯びた歌声が切ないです。「Stone In My Shoe」は爽やかでメロディアスなハードロック。ヘヴィメタルほどエッジは効いていませんが、キャッチーで晴れやかなサウンドは聴きやすいです。それでいてほんのりと漂う哀愁がたまりません。「Soul Behind The Face」はアコギとヘヴィな重低音によるサウンドの対比が強烈ですが、メロディアスな歌も魅力的です。ミドルテンポで展開するハードロック「Oh Girl (I Wanna Be With You)」を挟んで、「When You Came Into My Life」はアコースティックなサウンドが心地良いバラード。サビではクラウスの感情こもった歌声を、ヘヴィなサウンドで引き立てます。哀愁たっぷりの名曲です。「Where The River Flows」は軽快なリズムが心地良いロック曲。マティアスのエレキを除けばネオアコにも通じる雰囲気で、ヘヴィなサウンドとは無縁ですが爽やかでメロディアスです。「Time Will Call Your Name」もアコギが主導しますが、力強いリズム隊やダークなキーボードがシリアスな雰囲気を作ります。そして「You And I」は優しいバラード。盛り上げ方が王道で、メロディアスな歌が染み入ります。ラスト曲「Are You The One?」はストリングスが効いたバラード。終始、メロディアスなバラード尽くしの作品でした。

 メロウなバラードに溢れている作品です。キレのある楽曲を期待すると肩すかしを食らいますが、メロディアスな楽曲群には癒されます。悪趣味なジャケットがもう少しマシだったら、もっと聴いていたのに…。

左:リマスター盤。ジャケット差し替えでマシになりました。
右:旧盤。オリジナルのジャケットアートが苦手です…。

Pure Instinct (Remastered)
Scorpions
Pure Instinct
Scorpions
 
Eye II Eye (アイ・トゥ・アイ)

1999年 14thアルバム

 脱退したクルト・クレスの後任としてジェイムス・コタック(Dr)が1996年に加入。2016年まで長らくドラマーの座を務めることになり、在籍期間はハーマン・ラレベルよりも長期なのだとか。また本作のレコーディング中にラルフ・リッカーマン(B)が脱退。
 ピーター・ウルフをプロデューサーに迎えた本作は、ヘヴィメタルを完全脱却してダンサブルな楽曲や優しい楽曲が並びます。そのせいもあってか、スコーピオンズの作品群の中でも駄作として悪評高い作品です。ヘヴィメタルじゃないと見るか、バラエティ豊富になったと見るかで賛否が分かれるようです。個人的には否定派…。

 「Mysterious」で開幕。グルーヴ感は抜群ですが軽いリズムは、彼ららしからぬダンサブルなナンバー。クラウス・マイネのメロディアスな歌は紛れもなくスコーピオンズですが、サウンドが全くの別物で軽い拒否感を覚えます。「To Be No. 1」はピコピコサウンドを全面に出した楽曲です。軽すぎてやはり彼ららしくないんですが、往年のヘヴィメタルバンドを求めなければ意外と面白い1曲だと思います。シンプルでポップなメロディが良い感じ。「Obsession」はアコースティックギターが柔らかい、優しいバラード。ヘヴィなサウンドなどはなく、どことなくクイーンのような雰囲気です。「10 Light Years Away」は少しエスニックな雰囲気も醸すアコースティックな1曲。メロディアスな楽曲で、クラウスの囁くような歌声が響きます。「Mind Like A Tree」は本作では数少ないノイジーでヘヴィな楽曲。重低音が響き渡り、後半はゴシックメタルっぽさも感じます。スコーピオンズらしいヘヴィなこの楽曲が、軽い楽曲ばかりの本作で逆に浮くという…。そして表題曲「Eye To Eye」。まったりしているのですが、タイトルを背負うにはあまりに印象が薄いです。メロウなバラード「What U Give U Get Back」を挟んで、「Skywriter」はメロディアスな楽曲。気だるげですが、サビのメロディは中々良い。でも軽いパーカッションに違和感があるんです…。「Yellow Butterfly」はデジタルでダンサブルな楽曲。シリアスな雰囲気が漂いますが、リズムは軽いです。ヒップホップを取り入れたラップロック「Freshly Squeezed」を挟み、「Priscilla」でヘヴィなサウンドを展開。初っ端シリアスな雰囲気を出しつつもキャッチーでポップな歌メロ、うねるベースを中心にした跳ねたリズムなど、これは結構好みです。「Du Bist So Schmutzig」はドイツ語楽曲(英語も交えてます)。メンバーはドイツ人ですがドイツ語楽曲は何気に初めてですかね?強烈なグルーヴ感があるサウンドは良いですが、ラップ全開な歌に正直戸惑います。ヘヴィなサウンドの「Aleyah」は、「アーレーヤ」の連呼が耳に残ります。最後に「A Moment In A Million Years」。ピアノをバックに哀愁のバラードを歌うクラウス。サビのメロディは鳥肌もので、涙腺を刺激します。埋もれているのが勿体ない名曲です。

 ヘヴィメタルバンド・スコーピオンズを求めなければ、ポップでダンサブルな楽曲に溢れています。「To Be No. 1」なんかは振り切ってて意外と好み。しかし路線が変わりすぎて、特に一部楽曲の軽すぎるドラムやラップ曲に抵抗感が強いのも正直なところです。

Eye II Eye
Scorpions