🇯🇵 SeanNorth (シャーンノース)

レビュー作品数: 4
  

スタジオ盤

Story Neverend

2006年 1stアルバム

 日本のポップバンド、シャーンノース。メンバーはLumi(Vo)、ムーチョ(Gt)、佐々木久夫(Gt/Fl/Vn)の3人。千葉北高校の同級生で、文化祭バンドとして1998年に結成しました。一度解散するも2004年に再結成して2006年にメジャーデビュー。
 バンド名はアイルランドの歌唱技法「sean nós (シャン・ノス)」と、千葉”北”高校の「north」をかけたものだそうです。ケルト音楽の影響を受けつつ、J-POPとうまくミックスして昇華した音楽性が特徴的です。全体的に牧歌的で、温もりを感じさせてくれる1枚です。ほぼ全ての作詞作曲を佐々木が担当していますが、「夢見るジョニー」だけはスコットランド民謡をベースに、佐々木が独自解釈で詩を乗せたのだそう。

 美しいアカペラで始まる「あてのない世界」でアルバムは開幕。晴れやかで温もりのあるサウンド、Lumiの少し鼻にかかった柔らかい歌声に心が温まります。後半にはヴァイオリンも加わり優美な盛り上がりを見せます。続く「キャロラン」は佐々木のヴァイオリンがリードするサウンドに、なんとなく地中海の美しい街並みの風景が浮かびます。メロディには素朴さもあり、あまり背伸びをしない楽曲はリラックスした気分で聞けます。そして少し切なさも含んだサビの開放感がとても爽やかです。そして本作のハイライトとなる名バラード「final your song」。包み込むような柔らかいサウンドによって、派手に盛り上げるサビが際立ちます。合わせてコーラスも効果的に用いて「『You are the One』 世界中に響きわたれ」のフレーズが響き渡ります。美しいメロディだけでなく、間奏のムーチョのギターもとてもエモーショナルで、切なさを助長します。等身大の背伸びをしない範囲で壮大な楽曲を展開する、素晴らしいバラードです。「cloudy crowd」は美しいアコギが全編に渡って鳴り響きます。独特のメロディに乗る歌詞は、情景を淡々と語っているかのようで、物語を聞いているような感じです。「夢見るジョニー」はファルセットを用いた美しいアカペラに始まり、牧歌的な楽曲が展開されます。歌メロパートは牧歌的な癒し音楽ですが、間奏はリズミカルなサウンドに乗せてトリッキーな変拍子をしれっと聴かせるなど、スリリングな一面も合わせ持っています。「線香花火 (アルバム・バージョン)」は、静寂の暗闇の中で線香花火を楽しむかのようなアコギ主体の静かなサウンドです。そのためLumiの歌メロが際立ちますが、メランコリックな切ない歌が心に響きます。表現力のあるボーカルですね。一転して「Lifetime is Ragtime」は愉快な雰囲気の1曲。少しジャジーな一面も見せますが、全体的にリズミカルでポップな、明るい気持ちになれる楽曲です。聴いていると散歩に出たくなるような感じ。前後をじっくり聴かせる楽曲に挟まれているので、緩衝材のような軽さが売りですね。「ライトフライヤーフライ」は静かに始まり、ボレロのように後半に向かうにつれ徐々に盛り上げていく、スケール感のある1曲。メロディには哀愁も感じさせますが、終盤は強い説得力で説き伏せるような感じで、中々に感動的です。そして「言葉ひとつ」は後半のハイライト。沖縄民謡のような、親しみを覚えるイントロで始まります。哀愁を纏った切ないメロディも捨てがたいですが、この楽曲は歌詞が良いのです。1番の「言葉ひとつくれるだけで こころ浮かれ 君に揺られ」と2番の「言葉ひとつ足りないだけで こころ離れ 風にながれ」の対比がぐっときます。なお歌を聴かせる楽曲ではあるものの、何気に楽曲の場面転換が激しく、いくつかの異なる楽曲を1つに組み合わせたようなダイナミックな楽曲展開も魅力です。「終わらない唄のクロニクル」はメロディの運び方が独特ですね。明確にサビやAメロBメロの区別がなく、この辺はJ-POPより洋楽っぽいですね。素朴なサウンドに乗せた、Lumiの緩急つけた美しい歌声に魅せられます。「千年樹」は力強くドラマチックなサビメロがとにかく強烈で、素朴な楽曲が並ぶ中ではかなり主張の強い印象です。うっすらと感じさせる和風テイストが良いアクセントになっています。一転して「七つめの海」は静かで淡々としていて、物語を語るかのよう。でも終盤は別の楽曲かのようにダイナミックに盛り上げます。コーラスワークの中で感情的に弾くギターが良いですね。そして最後は「カーテンコール」。素朴だけども開放的なサウンドに乗せ、少し切なさを含んだ爽やかなメロディが気持ち良い。終盤はくどくならない程度に多彩な音色で盛り上げて、アルバムを爽やかに締め括ります。

 等身大で素朴ながら、ケルト音楽要素で独自色を打ち出した優しいサウンドで、強く印象に残る作品です。どこか懐かしさも感じさせ、時折無性に聴きたくなります。目立ったセールスはありませんでしたが、埋もれるには勿体ない隠れ名盤だと思います。

Story Neverend
SeanNorth
 
HOME

2007年 1stミニアルバム

Seannorth『HOME』 前作『Story Neverend』をリリース後、2007年に所属レーベル(ミューチャー・コミュニケーションズ)が倒産するという憂き目に遭います。同年末にミニアルバムとなる本作を公式HPの通販限定でリリースします。その後長らく本作は入手困難な状態が続いていましたが、2020年9月にリマスタリング再発され、SeanNorth公式HP通販より入手できるようになりました。長らく再販を待ち望んでいてようやく購入できたので、これを機にレビューします。
 発売当時のメンバーはLumi(Vo)、ムーチョ(Gt/B)、佐々木久夫(A.Gt/Vn/Key/Fl)。再発にあたり追加されたボーナストラックでは竹村忠臣が加わっており、バウロンと呼ばれるアイルランドの太鼓を叩いています。

 オープニング曲「スタンレーの魔女」はLumiのアカペラで始まります。深い森の奥にいるような、神秘的でひんやりとした響き。そしてフルートが幽玄の音色を奏で、幻想的なサウンドが広がって包み込んでくれます。途中リズム隊やヴァイオリンが加わると、森を出て牧歌的な村の賑わいを想起させます。終始異世界を体感しているかのよう。続く「HIGHWAY LOVERS」は彼らにしては珍しい疾走曲。彼ららしい牧歌的でケルトな雰囲気を残しつつ、ムーチョのギターやベースがロック的な要素を加えて程よい疾走感を生み出しています。キャッチーで優しい歌メロが、勢いのある演奏に乗ってとても爽快。アニメのタイアップをつけても良さそうな、良質なポップソングです。頭サビで始まる「パラレルワールド」も温かくて明るいポップソングです。ケルト要素は少ないものの、Lumiの優しい歌唱で紡ぐ開放的なメロディは、彼ららしい温もりに満ちていて魅力的です。ギターもご機嫌な感じ。「天国のマーチ」は無印良品で流れていそうなケルティックサウンド。佐々木の奏でる様々な楽器はいずれも田舎の賑わいというか、牧歌的で優しく温かい印象を受けます。そして名曲「ノーチラス」。アコギをかき鳴らす爽やかなイントロに始まり、アップテンポ気味の明るい演奏と歌メロ。ですがメロディは明るいのに強いノスタルジーも内包していて、陽気な曲調なのに何故か涙が出そうになります。歌メロが特に魅力的な1曲ですね。ラスト曲は「Home, Sweet Home」。アコギをバックに静かな歌をじっくりと聴かせます。こじんまりとした構成ながらも身体の芯から温まるかのような楽曲で、ひんやりとした冬の山小屋で暖炉にあたって温まるようなイメージが浮かびます。コーラスも温かい。
 そしてリマスター再発にあたって追加されたボーナストラック「Home, Sweet Home (Studio Live Ver.)」。4人体制になってからの演奏で、音の響き方とかスタジオ録音と変わらない澄んだ空気や温もりを感じさせます。バチを叩く音(?)が、焚き火のパキッという音のようで、より暖炉の前にいるような感覚。温かく癒やしてくれます。

 幻想的な楽曲と牧歌的なポップが程よいバランスで配置された名盤です。再販してくれてありがとうございました。

 
LIFE O.S.T.

2016年 2ndアルバム

 10年ぶりのオリジナル・フルアルバムで、ミニアルバムを加味しても9年ぶり。前作『HOME』リリース後も地道なライブ活動を続けながら、2016年に本作のリリースにこぎ着けました。待ってましたといった感じです。その間に竹村忠臣(Dr)がメンバーに加わり、Lumi、ムーチョ、佐々木久夫と合わせて4人で活動しています。
 10年で音楽性は少し変わり、1stアルバムのケルト音楽とJ-POPとの絶妙なバランスを保った趣と比べると、ケルト音楽に大きくシフトした仕上がりです。また序盤の「エンディングノート」が強烈で、そのため壮大な印象が強いです(極端に壮大なのはこれと「ファンファーレ」くらいですが)。「フリーウィリー」の作詞(SeanNorth)を除いて、全ての作詞作曲を佐々木が担当しています。

 オープニング曲は「Theme of LIFE」。Lumiの美しいアカペラを中心とした短い楽曲です。そのまま続く「エンディングノート」は佐々木の流麗なピアノとストリングスを中心に静かに始まって、じわりじわりと盛り上げます。サビはコーラスワークで飾られてとても壮大です。牧歌的な雰囲気は一部残しつつも、等身大だった前作に比べるとかなりスケールアップした感じです。続く「ティル・ナ・ノイール」はバグパイプの音色が牧歌的な雰囲気を醸し出します。ゆったりとした曲調に加えて、Lumiの伸びやかな歌声もこの楽曲の癒しの要素ですね。「fairy tale」はポップなメロディラインが「となりのトトロ」っぽい雰囲気。中盤の疾走パートあたりから、竹村のドラムが心地良いリズムを刻みます。「Over the rainbow」はファルセットを用いた美しい歌声と、3拍子のゆったりと揺られるような感覚が、心地良い浮遊感を生み出します。終盤のコーラスは賛美歌のようです。「真珠の涙」はラテンの香りが漂うボサノバ曲です。とはいえ儚い歌声やストリングスの味付けによって、ラテン色が前面に出るわけではなく、神秘的な雰囲気を纏っています。続いて「ジパング」はパーカッションとボーカルが中心。サビの焦がれるような「ジパング~」の歌唱が印象的です。後半に出てくるムーチョのエモーショナルなギターが泣かせますね。「Dancing Matilda」はインスト曲。序盤はヴァイオリン主導で牧歌的な雰囲気を作り、途中加わるダイナミックなドラムとヘヴィなギターがスリリングな雰囲気を作ります。凄まじい緊張感を放ちながら優美でもある。とても迫力のある、本作中最もスリリングな楽曲です。そこから一転「生命の泉~Aqua de Vida~」はまったりとした雰囲気です。少しエキゾチックな雰囲気も醸し出す神秘的な楽曲です。「One」はLumiの美しい歌声をフィーチャーした1曲。メロディアスな歌に生をテーマにしたような壮大な歌詞が乗ります。「フリーウィリー」は男声ボーカルの1曲。クレジットを見ても誰が歌ってるか書いていない…。リズミカルで陽気な雰囲気は他の楽曲に馴染むものの、ボーカルの違いだけで毛色がかなり違う印象です。「歓喜の歌」は小気味良いリズムが愉快な1曲。特にリズミカルな楽曲の軸となる、パーカッションを担う竹村の加入が大きいですね。続く「ファンファーレ」はファンタジックで壮大なサウンドに、口ずさみたくなるようなキャッチーなメロディがとても良いですね。RPG等で聴いたことのあるような、ある意味わざとらしくて王道のメロディは、ケルト音楽風の楽曲が並ぶ本作だからこそ活きてくる1曲でしょう。耳心地の良い良曲です。そして最後は「My prayer for you」。ゆったりとしていて、美しい歌声に癒されます。そして後半は神々しさすら感じられるコーラスワークに彩られて終わります。

 ケルト色を強めて洗練された1作。前作が持っていた素朴さや邦楽っぽさはかなり薄れ、ファンタジックな雰囲気も漂います。個人的には前作くらいのバランスが好みでしたが、ケルト・アイリッシュ音楽を好む人にはたまらない作品だと思います。

LIFE O.S.T.
SeanNorth
 
ゼロヘルツの音楽

2021年 3rdアルバム

 デビュー15周年を迎えたSeanNorth。Lumi、佐々木久夫、ムーチョ、竹村忠臣の安定の4人でメンバー変わらず活動を続けています。本作はオリジナルアルバムとしては『LIFE O.S.T.』以来6年ぶりとなりますが、その間にライブイベントを重ねつつ、シングル『Amazia』、ケルト風にアレンジしたJ-POPやアニソンのカバー『Celtic Covers』シリーズ3作品をリリースしています。特にケルトカバーの経験が本作に活きているようです。

 インストゥルメンタルの「A=0Hz」で幕を開けます。淡々と一定のリズムを刻むピアノをバックにLumiの透明感のあるコーラスが響き、そして徐々にアイリッシュ風の賑やかな演奏が加わります。そして表題曲「ゼロヘルツの音楽」。前曲から続く牧歌的な演奏と、優しくゆりかごを揺さぶるような心地良い歌声に癒やされます。中盤からはダイナミックなパーカッションや賑やかな民族楽器によって、伸びやかに賑わう田舎の光景が目に浮かびます。続く「新しい靴を履いて出かけよう」はケルティックなイントロで幕を開けますが、無印良品で流れていそう。笑 竹村のドラムをはじめアップテンポな演奏は躍動感がありますが、Lumiの歌声は相変わらず包み込むような優しさに溢れています。「月が綺麗な夜に」は前曲と違ってゆったりとしたテンポで、素朴で牧歌的な演奏と歌に癒やされます。彼らのオリジナル楽曲ですが、民謡カバーのような雰囲気。「ネバーエンディングストーリーじゃないなんて」は素朴で軽快な曲調で、初期SeanNorthを想起させます。ですがアコギの透明感のある音色に浸っていると、サビメロでは分厚いコーラスに彩られたメロディアスな歌が一気に広がり、とても賑やか。「フタツテノヒラ」はノスタルジックな楽曲で、ピアノ伴奏をバックにLumiの歌をフィーチャー。途中からヴァイオリンやピッコロで盛り上げます。沖縄民謡のようなメロディはどこか懐かしく、でもケルト風の演奏によって日本ではない異国の田舎が目に浮かびます。続く「Sailing into the Abyss」はスリリングなインストゥルメンタルです。ケルティックで牧歌的な音色を奏でる一方で、シリアスな緊張も張り詰めます。そして2分手前辺りからテンポアップして激しい演奏バトルが開幕、パワフルなドラムが炸裂しエレキギターが唸ります。これまでのSeanNorthには無かった激しい一面が見られます。一転して「ウンディーネ」は穏やかで透明感の溢れる1曲です。Lumiの歌は優しくてとても美しい。演奏は神秘的ですが、打楽器のポコンという響きに温もりを感じます。「革命家のテーマ」はLumiのアカペラで始まります。演奏が加わっても序盤は歌が主体といった感じで、民謡のような優しい歌メロに浸れます。中盤からはケルト風の演奏が前面に出て、歌も転調してコーラスも加わり盛り上げます。「日々の羅針盤」はダイナミズム溢れるアップテンポなイントロで、アルバム終盤に緩急をつけます。歌が始まると一気に音を間引きますがサビメロは分厚く激しいうえ、3連符を駆使した早口な歌は畳み掛けるような勢いで、強いインパクトを放ちます。「Amazia」は10周年記念シングル。これだけJ-POP感が強くてアルバムの中では異彩を放ちますが、キャッチーなので単曲ではこれが一番取っつきやすいです。演奏はパンキッシュで勢いがあり、バンドサウンドがメインでケルト要素は薄め。そしてキャッチーな歌メロは口ずさみたくなります。ラスト曲「百等星の星へ」は郷愁を誘うイントロから、穏やかな子守唄のような歌が始まります。民謡のようなメロディは懐かしいですね。サビはドラマチックに盛り上げます。

 全般的に穏やかですが時折激しさが溢れ、彼らの新しい側面を知れる1枚です。お買い求めはSeanNorth公式HP通販よりどうぞ。私が購入したときはメンバーのサイン入りでした。嬉しいですね。

 
 
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