🇬🇧 Siouxsie And The Banshees (スージー・アンド・ザ・バンシーズ)

レビュー作品数: 4
  

スタジオ盤

The Scream (悲鳴/香港庭園)

1978年 1stアルバム

 スージー・アンド・ザ・バンシーズはイングランドのポストパンクバンドで、ゴシックロックの代表的バンドとして知られます。通称スジバン。セックス・ピストルズの熱狂的なファンだったスージー・スー(Vo)とスティーヴン・セヴェリン(B)が1976年に結成したバンドで、ジョイ・ディヴィジョンやキュアーをはじめ数多くのアーティストに影響を与えています。またスージーの独特のメイクやファッションはゴス界に多大な影響を与え、女性のロック進出にも貢献しました。彼女のアイメイクは強烈なインパクトがあります。
 本作と次作ではジョン・マッケイ(Gt)、ケニー・モリス(Dr)がメンバーに参加。ただスジバンにおけるギタリストはかなり流動的なようです。そしてポストパンクの名盤の数々を生み出すことになるスティーヴ・リリーホワイトによるプロデュース。

 怪しげな重低音を響かせるベースソロで始まるインストゥルメンタル「Pure」で開幕。ギターと、楽器のようなボーカル、パーカッションと徐々に加わっていきますが、プリミティブで呪術的な雰囲気があります。そのまま続く「Jigsaw Feeling」はイントロから凄まじい緊張感を放つ、とてもスリリングな1曲。歌が始まっても、人を寄せ付けないようなヒリヒリとした感覚があります。ビート感も強く、カッコ良いです。「Overground」は序盤がとにかくスッカスカ。ドラムレスでかつ音数の少ない怪しげな序盤。同じようなフレーズをひたすら反復し、途中からドラムも加わり徐々に盛り上がっていきます。続いて「Carcass」はビート感の強いドラムが強烈な、アップテンポの1曲。大衆受けはしなそうですが、本作では比較的キャッチーな印象です。ビートルズのカバー曲「Helter Skelter」は、少ない音数で強烈にメタリックな印象を生んでいます。特にジョンのキンキンとしたギターが強烈。鈍重ですが、途中からスージーの歌とドラムが加わると一気にドライブがかかります。
 レコード時代のB面、アルバム後半は「Mirage」で幕開け。テンポの速い楽曲で、切迫した感じが焦燥感を煽り立てます。聴いていると、攻撃力の高い演奏で踏みつぶされるかのような印象。「Metal Postcard (Mittageisen)」はブルージーなギターに民族音楽的なドラムを組み合わせて、更にスージーの癖の強い呪術的な歌唱。怪しい雰囲気に満ち溢れる楽曲です。続く「Nicotine Stain」はキャッチーでノリの良い楽曲。パンキッシュですが強い緊迫感が漂います。カッコ良いです。そして「Suburban Relapse」ではキンキンとしたメタリックなギターが、イントロから緊張を強烈に高めます。後半に向けて少しずつテンポアップしていく展開も、鳥肌が立つほどスリリングです。ラスト曲「Switch」ではトーンを少し落として大人しくなりますが、不穏な空気は晴れません。そしてリズミカルなドラムやグルーヴィなベースが加わると、ビート感に溢れる楽曲へと変貌。7分近い楽曲ですが、いくつか場面転換が仕込まれています。
 ここからはCDで追加されたボーナストラックです。代表曲「Hong Kong Garden」は、シロフォンの音色に中華風の雰囲気が出ている1曲。アルバム全体がどれも緊張感に満ちて取っつきにくさを出しているのに対して、この楽曲は毒気を薄めてキャッチーなので聴きやすいです。そして「The Staircase (Mystery)」は一転して、緊迫した空気の中でヘヴィなワルツを刻みます。ラストのピアノ残響音も不穏です。

 怪しげなボーカルやタムを多用するドラム等によりプリミティブな印象を抱きます。そしてアルバム全体を支配する異様な緊張感が、スリリングで魅力的です。

The Scream
Siouxsie And The Banshees
 
Join Hands (ジョイン・ハンズ)

1979年 2ndアルバム

 プロデューサーとして新たにニルス・スティーヴンソンとマイク・スタヴロウを迎えて制作された2作目。第一次大戦をテーマに選んだそうで、前作よりも緊迫感を増し、全体的にダークでヘヴィな仕上がりです。メンバーは前作に引き続きスージー・スー(Vo)、スティーヴン・セヴェリン(B)、ジョン・マッケイ(Gt)、ケニー・モリス(Dr)。…ですが、ツアーについての主張のすれ違いにより、ジョンとケニーは本作の発売日にバンドを去ることになります。

 オープニング曲「Poppy Day」は鐘の音で開幕。そこから展開されるメタリックで緊迫感のあるサウンドと、大砲のようなドラムがスリリング。僅か2分ですがインパクトがあります。続く「Regal Zone」で更に緊迫感を増します。なお冒頭のサックスはジョンによるもの。全体を覆うシリアスな雰囲気と不協和音、そしてスージーの歌も不穏な空気を増長します。加速と減速を交えてメリハリを付けています。「Placebo Effect」もヘヴィです。タムを多用するパワフルなドラムと怪しげなメロディで、不気味な緊張感が漂います。続いて「Icon」。序盤静かで音数も少なくシンプルですが、とても不気味な雰囲気。中盤からはテンポアップし、ダイナミックなドラムがリードする楽曲へと変わり、民族音楽のような印象です。反復するメロディは中毒性を生むのか、終盤になると心地良さすら感じられます。「Premature Burial」は呪術的な楽曲。淡々としたサウンドに乗せて、コーラスも駆使したスージーの歌が怪しげな雰囲気を生みます。後半に進むにつれてダークな雰囲気は増長し、若干の恐怖感すら抱きます。
 アルバム後半は緊迫感のある「Playground Twist」で開幕。ざらついたギター音に、力強いリズム隊と不気味な鐘の音。そして何よりスージーがヒステリックに歌うダークなメロディが、救いのない暗さを持っています。そしてオルゴールの鳴る「Mother / Oh Mein Papa」へ。音は綺麗なのに、ここに至るまでの流れもあってか、ひたすら不気味で仕方ありません。最後は14分に渡る大曲「The Lord’s Prayer」。カミソリのように鋭いギターと、ドスドスと叩きつけるかのようなドラムが強烈な疾走気味の楽曲。全体的に即興的な印象を抱きます。スージーの歌は少し怒気を含んでいる感じで、中盤は憑依したかのようにヒステリックに叫び散らしたりもします。単調なんですが、トリップ感を生み出しています。そして終盤で緊張感を高めて終了。
 ここからボーナストラック。「Love In A Void」は音はヘヴィながら、パンキッシュでキャッチーです。スージーの歌は少し色気がありますね。アルバムではやや浮いているものの、ヘヴィすぎる本作では救いのよう。ラストの「Infantry」はインストゥルメンタルで、メタリックなギターとベースが淡々と同じフレーズを反復し、残響音のように響かせます。実験的な1曲です。

 凄まじい緊張感を放ち、ヘヴィで、そして恐怖感すら抱かせるダークな作品です。取っつきにくさがあるものの、とてもスリリングです。

Join Hands
Siouxsie And The Banshees
 
Kaleidoscope (カレイドスコープ)

1980年 3rdアルバム

 ギタリストとドラマーが脱退したため、新たにバッジー(Dr)がバンドに加入します。後にスージー・スーと結婚することになる人物です。またマガジンを脱退したジョン・マッギオーク(Gt)も加入し、一部楽曲に元セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズ(Gt)も参加しています。ポリスを手掛けたナイジェル・グレイと、スージー・アンド・ザ・バンシーズによる共同プロデュース。

 オープニング曲は「Happy House」。イントロでの浮遊感に溢れるジョンのギターと、バッジーのクリアなドラム音から、新加入メンバーによる音楽性の変化を感じます。特にギター音がサイケデリックな空気を作り出していて、同じフレーズの反復がより中毒性を強めている気がします。「Tenant」は無機質なドラムの上で、実験的なサウンドが鳴り響きます。少しダークだけど浮遊感があります。続く「Trophy」はエスニックで怪しげな雰囲気が漂います。奇妙なリズム感のせいで、更に怪しさに磨きが掛かります。「Hybrid」も、スージーの呪術的な歌唱によって怪しい雰囲気があります。ギターとベースは緊張感を高め、更にサックスが不協和音を生むので不気味。途中テンポを緩やかに減速させ、じっくりと聴かせます。「Clockface」はバッジーのドラムに緊迫感があります。そしてスージーの「ワオワオ」の反復は不安を煽るんです。続いて「Lunar Camel」ではドラムマシンとシンセを導入。でもこれら楽器で華やかになることはなく、ひたすらダウナーで気だるげです。
 アルバムは後半に突入。「Christine」はダウナーながらも比較的キャッチーな1曲です。軽快なドラムとアコギが心地良く、反面ベースやシンセは影のある雰囲気を作ります。「Desert Kisses」はエスニックなギターやシタールと呪術的なスージーの歌で怪しげですが、一方グルーヴィなベースにより心地良い浮遊感もあります。カメラ音が印象的な「Red Light」は、淡々としたダウナーですが、ダンスナンバーっぽくもあります。続いて「Paradise Place」は中東っぽい雰囲気の漂う1曲。スティーヴン・セヴェリンのベースがよくうねること。そして、ラストの「Skin」は凄まじい緊迫感。バタバタと忙しないドラムが煽り立て、ピアニカの音色が不穏な感じです。

 新メンバーの加入も影響してか、音楽の幅が格段に広がりました。シンセも活用してニューウェイヴ化している感じ。ただ、アルバムとしての纏まりには欠ける印象です。

Kaleidoscope
Siouxsie And The Banshees
 
Juju (呪々)

1981年 4thアルバム

 ジャケットアートが不気味な本作は、スージー・アンド・ザ・バンシーズの最高傑作と名高い名盤です。『呪々』の邦題がぴったりですね。緊迫感や呪術的な雰囲気は持ちつつも、歌はメロディアスになって聴きやすさが向上しています。制作陣は前作同様のラインナップで、スージー・スー(Vo)、スティーヴン・セヴェリン(B)、バッジー(Dr)、ジョン・マッギオーク(Gt)に、プロデューサーとしてナイジェル・グレイ。

 アルバムは「Spellbound」で開幕。ベース音がダウナーな雰囲気を作りますが、ドラムとアコギが加わると軽快な雰囲気が加わります。スージーの歌はピリピリとした緊張した空気を作り出すので、これら要素が合わさると、軽快さよりも緊迫感のあるスリリングな印象が強いです。「Into The Light」はプリミティブなリズム隊や同じリズムを反復するシンセが中毒性を生みます。歌は暗くてメランコリックな印象。続く「Arabian Knights」は、うねるベースとタムを多用したドラムにグルーヴ感があります。そしてギターの音色とエコーをかけたアンニュイな歌声は、神秘的な雰囲気です。「ハッ!ハッ!」の掛け声は笑ってしまいますが、怪しげでメロディアスな楽曲には魅了されます。「Halloween」は非常に緊迫したスリリングな1曲。張り詰めた空気に警告音のようなギター、焦燥感を煽る絶妙な速さのテンポ。エスニックな雰囲気も織り交ぜた演奏は鳥肌が立つほどゾクゾクしますが、それでいて歌は意外とメロディアスで聴きやすいです。「Monitor」はざらついてノイジーなギターと高音ベースが、緊張を高めつつも心地良さを生んでいます。
 アルバム後半の幕開けは「Night Shift」。鬱々としてダークなサウンドと、アンニュイというか呪術的な雰囲気の歌が不気味な印象です。そして楽曲が進むにつれてサウンドはノイジーさを増し、同じフレーズをゆっくり繰り返しながら、徐々に緊迫した空気になっていきます。そして「Sin In My Heart」では更に増した緊張感が全体を支配し、殺気が漂っています。更に、元々速めのテンポもどんどんと加速していき、スリルは最高潮に。とてもカッコ良いです。続いて「Head Cut」はダーティで切れ味のあるイントロに入るスージーの超絶シャウトが圧倒的。そこからは警告音のような強い緊張を保ちながらも、程良い疾走感で楽曲が進みます。何かが憑依したかのようなスージーのシャウトが時折入り、強烈なスリルを生み出しています。最後は7分に渡る「Voodoo Dolly」。静かに始まりますが、途中から儀式のような歌とパーカッションによって不気味な楽曲へと変わっていきます。更に後半はどんどんテンポアップして、サイケデリックな幻惑空間に不気味なパーカッションが両立します。凄まじい緊張感です。

 ゴシックロックの傑作。彼らの元々持つ緊迫感のあるスリリングな楽曲に、メロディアスな歌が加わりました。スージー・アンド・ザ・バンシーズの入門盤としても本作が良いでしょう。

Juju
Siouxsie And The Banshees
 
 

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 ジョン・マッギオーク(Gt)の古巣。

 
 ジョン・マッギオーク(Gt)の古巣その2。
 
 6th『ハイエナ』に参加した他、ライブサポートを務めたギタリスト、ロバート・スミス率いるバンド。
 
 
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