🇬🇧 Slowdive (スロウダイヴ)
レビュー作品数: 2
スタジオ盤
1991年 1stアルバム
イングランド出身のオルタナティヴロックバンド、スロウダイヴ。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやライドらとともにシューゲイザー御三家とも呼ばれます。活動当時はこれら2バンドの影に隠れていたものの、2008年頃からのドリームポップ再ブームの中で再評価が進みました。
大半の楽曲制作を手掛けるニール・ハルステッド(Vo/Gt/Key)と紅一点レイチェル・ゴスウェル(Vo/Gt)のツインボーカル体制が特徴的で、この2人を中心に、ニック・チャップリン(B)らを加えて1989年に結成しました。ドラマーの交代もありつつクリスチャン・セイヴィル(Gt)、サイモン・スコット(Dr)が加入して5人体制となり、1st EP『Slowdive』でデビュー。本作制作にあたり、クリス・ハッフォードがプロデューサーに就きました。なお2005年の再発時に、既発の3枚のEPと未発表の「ピールセッション」を1枚に纏めたボーナスディスクが追加されています。
オープニングを飾る「Spanish Air」は6分に渡る楽曲。ゆったりとたゆたうような、それでいて暗く物憂げなシンセサイザーが、分厚い音色で包み込みます。残響処理されたドラムも含めて暗く幻想的な空気感で、ニールの歌も霞んで消え入りそうですが、ベースはくっきりとした輪郭です。全体的にとてもメランコリック。「Celia’s Dream」は浮遊感に溢れており、幻想的なサウンドで包み込むかのようです。ゆったりとしたニールの歌を飾るレイチェルのコーラスは神聖で厳かな雰囲気。シューゲイザーと無縁な感じがしますが、アウトロに轟音ギターを若干感じられます。続く「Catch The Breeze」は美しくも物憂げで繊細な歌唱を、分厚いシンセやノイズで塗り潰すかのよう。海や深い森のような世界が広がり、特にアウトロは深い霧に包まれた中からカラフルな世界を見るような幻想的な感覚です。「Ballad Of Sister Sue」は陰鬱なワルツを刻んで、レイチェルがぼそぼそと呟くように歌います。演奏は強い哀愁に満ちていますが、サビメロは海の中にいるかのようにぼやけた音が全体に広がり、神秘的な浮遊感を味合わせてくれます。続くインストゥルメンタル「Erik’s Song」。ブクブクと水中にいるようなSEと、深く広がった音色が、海の中を漂うかのように幻想的です。静かな水族館で聴きたいですね。「Waves」はメロディアスな音色に落ち着いた歌声を聴かせます。イルミネーションを見ているかのように、鍵盤が色鮮やかで美しい音で魅了します。アウトロに轟音や不協和音が若干混じるものの、美しい印象が打ち勝ちます。そして「Brighter」は躍動感に満ちたドラムや、ベースが割と目立った楽曲です。レイチェルとニールのデュエットが始まると分厚い霧のような演奏が包み込み、ゆったりと漂います。「The Sadman」はパーカッションが少しプリミティブな要素を加えますが、深い霧に包まれたかのような演奏や歌は踏襲。時折迫りくるノイズは、強い光が差し込むかのように眩いです。ラストは「Primal」で、同じようにゆったりとしたテンポではあるものの、これまでとは違って緊張が張り詰めています。歌を聴いているとバックの演奏が不安を煽るかのようで、そしてノイズが徐々に強まっていき緊張を高めます。
分厚くメロディアスな演奏に消えそうな歌声で、ゆったりと聴かせる楽曲を特徴とします。大きな盛り上がりはありませんが、ひんやりとした演奏は霧に包まれたかのように、あるいは海の中を漂うように神秘的です。
1993年 2ndアルバム
巨匠ブライアン・イーノが参加した作品で、スロウダイヴの代表作として知られています。元々ブラーのツアー帯同中に楽曲を書き溜めていたものの、キャッチーさを求めたレーベル側に一度却下されます。ですがバンド側に制作権限は委ねられたため、スロウダイヴはブライアン・イーノへプロデュースを依頼。トータルプロデュースは断られたものの、コラボレーションを快諾したブライアン・イーノが「Sing」と「Here She Comes」の2曲でキーボードを弾いています。
なお「Souvlaki」という単語を検索するとギリシャ料理スブラキ(小さく切った羊肉等を串焼きにしたもの)が出てきますが、タイトルの由来はそれではなくてジャーキー・ボーイズという芸人のコントが元ネタのようです。
オープニングを飾るのは、スロウダイヴの代表曲「Alison」。前作のような神秘性は若干薄れましたが、世俗的になったというか、取っつきやすさは増しました。ニール・ハルステッドの落ち着いた歌声とメロディアスな歌は聴き取りやすくなり、それを支えるレイチェル・ゴスウェルのコーラスに神秘性を残します。「Machine Gun」はリズム隊2人が淡々としつつも安定感のある演奏で支えますが、レイチェルのファルセット気味の歌は美しさよりも畏れを感じます。ゆったりとした歌の隙間、間奏ではややノイズが入ります。続く「40 Days」は暗くて歪んだギターや、彼らにしては比較的目立つリズム隊が特徴的で、スロウダイヴもロックバンドだったのだと感じさせます(どうにもアンビエントなイメージが強くて…)。演奏に荒さが少しだけありますが逆に人間味を感じられて、神秘的な美しさよりも魅力を感じます。また、ニールの歌はキーが低くて、暗く憂いを帯びています。「Sing」と次曲はブライアン・イーノの参加曲。雨粒のような神秘的な鍵盤やレイチェルのゆったり漂う歌に浸れますが、そのバックではニック・チャップリンのベースラインが跳ねるようで心地良いんです。「Here She Comes」はメロウでリラックスした雰囲気の小曲。落ち着いた演奏はブライアン・イーノ様々でしょうか。続く「Souvlaki Space Station」はギターがスペイシーな音色を刻み、その後グルーヴィなベースを始めとしたヘヴィな演奏がサイケデリックな感覚を与えます。うねうねとして酔いそうな演奏にレイチェルの澄んで美しい歌声が拡散して、気持ち悪さと心地良さの同居した浮遊感溢れる世界を作り出します。これが特に魅力的だと感じる1曲ですね。アウトロは金属的なノイズも放ちます。「When The Sun Hits」はニールの歌が淡々と進行しますが、音の洪水とでも言うべき轟音が襲いかかり、美しい世界を見せてくれます。歌よりも煌めくような演奏に魅せられます。落ち着いた歌声でゆったりと漂う「Altogether」を経て、「Melon Yellow」はフェードインで始まりますが、残響効果により、暗闇の中にひんやりとした音を響かせるかのよう。寒々しい感覚を抱きます。そしてラスト曲「Dagger」。アコギを弾きながら憂いを帯びた囁き声で歌います。淡々としていますが音の響きは美しく神秘的で、でも無機質な感じもしてしまうのです。
前作に比べると神秘性が若干薄れ、良い意味で人間味を帯びてきたような印象です。ただ美しいだけでなく、シューゲイザー的な轟音による荒い面も出して緩急がつきました。
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