🇬🇧 Steve Hackett (スティーヴ・ハケット)
レビュー作品数: 17
目次
- ページ1
- ジェネシス&メンバーソロ紹介動画
- スタジオ盤①
- ページ2
- スタジオ盤②
- ページ3
- ライブ盤
- 関連アーティスト
ジェネシス&メンバーソロ紹介動画
動画にまとめていますので、ぜひご視聴ください!
スタジオ盤①
1975年 1stアルバム
スティーヴ・ハケット、本名ステファン・リチャード・ハケット。英国ロンドン出身の1950年2月12日生まれ。ジェネシスのギタリストとして活躍し、ソロ転向後もコンスタントに作品をリリースしていて非常に多作です。エディ・ヴァン・ヘイレンが広めたことで知られるライトハンド奏法も、先にスティーヴ・ハケットが演奏していました。「俺の超絶ギタープレイを聴け!」というタイプのギタリストではなく、楽曲の世界観作りに徹する職人気質で、ギターだけでなくメロトロンやハーモニウム等の鍵盤楽器も弾いています。その作品からはプログレ時代ジェネシスを追い続けている感じがします。
スティーヴ・ハケットとジョン・アコックの共同プロデュースとなる本作は、ジェネシス在籍時にリリースしたソロ第一弾。タロットカードをテーマにしたコンセプトアルバムです。本家バンドメンバーのマイク・ラザフォードやフィル・コリンズ、また弟でフルート奏者のジョン・ハケット等々、数多くのミュージシャンが参加しています。
オープニング曲「Ace Of Wands」から鮮烈です。インストゥルメンタル曲ですが、ジェネシスのような幻想的で優しい雰囲気で、ファンタジーな世界観を作り出します。しかし演奏は緩急ついていてとてもスリリング。ハケットの代表曲です。続く「Hands Of The Priestess (Part 1)」はフルートが美しくも哀愁漂う音色を奏でます。極上の癒し曲です。「A Tower Struck Down」では一転して、緊迫感のあるダークな雰囲気。後半のスペイシーなサウンドの中での咳払いは一体なんでしょうかね。ノイズが入った後に静寂が訪れます。そして「Hands Of The Priestess (Part 2)」ではエフェクトをかけて滑らかなギターが美しい音色を奏でます。「The Hermit」ではようやくボーカルが加わります。アコギが奏でる陰鬱で美しい世界に、ハケットの低くも優しい声が囁くように歌います。
アルバムは後半に入り「Star Of Sirius」ではフィル・コリンズがボーカルを取ります。アコギとメロトロンが作る優しく柔らかな世界に、フィル・コリンズの優しいボーカルが乗って心地よい。中盤では疾走曲に変わりスリリングな展開を見せます。特にテクニカルなドラムが素晴らしい。続いて小曲「The Lovers」を挟み、ラスト曲は12分近い「Shadows Of The Hierophant」。ゲストボーカルのサリー・オールドフィールドによる優しい美声は、聴いていると天へと導かれるような感じがします。但し楽曲は美しさだけではなくて、メロトロンやエフェクトの効いたギター等が作るダークでドラマチックな側面も見せます。後半はひたすら同じフレーズの反復で、徐々に壮大になっていきます。単調と言えばそうなんですが、それでもこの反復に浸れるんですよね。
朝の日差しのように柔らかくて暖かい幻想的な世界。ジェネシスよりもジェネシスの世界観を大切にした作品で、非常に高いクオリティの傑作です。ソロ最高傑作だと思います。
1978年 2ndアルバム
バンド活動本家のジェネシスがピーター・ガブリエルの脱退劇でごたつく中、マイペースにソロ作品を出したことがトニー・バンクスの怒りに触れたらしく、スティーヴ・ハケットはジェネシスを追い出されたとか逃げるように脱退したと言われています。
そしてジェネシスを脱退し発表したソロ第二弾が本作。ジェネシス在籍時最後の作品『静寂の嵐』で自身の楽曲に大幅なアレンジが加えられて「…In That Quiet Earth」として発表されたことに納得がいかず、『Please Don’t Touch! (触らないでくれ!)』というタイトルとともに彼が本来表現したかった楽曲を収録しています。でも後のソロライブで『静寂の嵐』の楽曲を演奏していることから、心の整理がついたのでしょうか。
ゲストドラマーとして参加したチェスター・トンプソンは、フィル・コリンズに劣らない実力を持ち、本家ジェネシスのツアーサポートを長らく担当することになる人物です。
オープニング曲は「Narnia」。アコギの美しい音色で温もり溢れた世界観が広がります。湿っぽい空気を吹き飛ばすのはスティーヴ・ウォルシュ(カンサス)のボーカル。どうもハケットの楽曲とは合わない気がするんです。「Carry On Up The Vicarage」はおもちゃのようなSEとボイスチェンジャーで歪められた歌、演劇的なパートなどコミカルな雰囲気。「Racing In A」は混沌とした楽曲です。色々な楽曲を切り貼りしたかのような、先の読めない展開。ラストのアコギソロは美しく、聴きごたえがあります。続く「Kim」は、後にハケットの妻となるキム・プーアに捧げられた楽曲。スティーヴ・ハケットのアコギと、弟ジョン・ハケットのフルートによる穏やかで幻想的なインストゥルメンタルです。「How Can I?」はリッチー・ヘヴンスのボーカル。渋い歌声ですが、ブリティッシュ・トラッド風の牧歌的なサウンドには少し灰汁が強いです。
アルバム後半に入り「Hoping Love Will Last」はランディ・クロフォードがボーカルを取ります。ボーカリストによる影響でR&B的な雰囲気。前曲のアウトロ的な「Land Of A Thousand Autumns」を挟んで、表題曲「Please Don’t Touch」。これがスリリングなインストゥルメンタルです。シンセサイザーが鳴り響き、疾走します。ギターはどこ?と不安に思った矢先に、中盤でグワングワン唸ります。緊迫感があって盛り上がってきたところで、ぶった切る「The Voice Of Necam」。ノイズのあとコミカルな雰囲気を作り、そこからは不気味でダークな音色。後半からはアコギが美しく鳴り響きます。そのまま続く「Icarus Ascending」はリッチー・ヘヴンスの歌。これは唯一、楽曲と歌声がマッチしている気がします。エンディングにぴったりの、明るさと哀愁漂う重厚な楽曲に、渋い歌声が癒しを与えてくれます。
楽曲だけなら出来は良いし、ボーカリストも決してレベルが低いわけではありません。ただ、スティーヴ・ハケットの英国の格式高い香りが漂う繊細な世界観に対し、アメリカンなボーカルという真逆な性質がどうにも合っておらず、あまり好きになれません。ボーカリストが違ったらもっと好きになれただろうに…なんて思います。
1979年 3rdアルバム
前作に引き続きスティーヴ・ハケットとジョン・アコックの共同プロデュース体制ですが、音楽性についてはプログレのエッセンスは残しつつもポップ寄りに変化しました。しかし本家ジェネシスが辿ったような急速なポップ化ではなく、メインストリームからは少し距離を置いてハケットらしさを残した緩やかな変化です。
ジャケットは幽霊のようなぼやけたタッチの自画像ですが、これがよほど気に入ったのか、後の作品でも似たようなジャケットをいくつも採用しています。エフェクトでぼやけさせた彼のギターの音色を表現したかのようです。
オープニング曲「Every Day」が素晴らしい名曲。イントロから楽しい雰囲気が伝わってきます。キーボードによる明るくポップな雰囲気に、ズズンと響くベースが気持ち良い。柔らかな歌はボーカルに起用したピーター・ヒックスによるもの。主張が激しくなくて、楽曲とのバランスが良い。間奏ではキーボードを支えるようにエフェクトの効いたギターが美しいメロディを奏でます。テクニカルなドラムも凄い。終盤に向かうにつれて緊迫感だけでなく哀愁も増してきて、感動的な演奏を展開します。いつまでだって浸っていたい。続く「The Virgin And The Gypsy」はメロディアスな1曲です。優しい歌も良いですが、バックで響く幻想的で分厚いサウンドに聴き惚れてしまいます。「The Red Flower Of Tachai Blooms Everywhere」はハケットが古筝を弾き、東洋風の幻想的な世界を築きます。そのまま続く「Clocks – The Angel Of Mons」が名曲。タイトルどおり時計のような音を叩くパーカッションをバックに、シンセサイザーがダークな雰囲気を作り出します。これがかなりスリリングで、暗くもメロディアスな鍵盤の音色に聴き浸っていると、突如弾丸の雨をぶち込むかのようなドラムソロに圧倒されます。ラストの悲劇的な不協和音はハケットの好んだキング・クリムゾンの影響でしょう。「The Ballad Of The Decomposing Man」でコミカルなミュージカルのような楽曲を展開します。
レコードでいうアルバムB面は「Lost Time In Córdoba」で幕開け。美しいフルートとアコギが聴けます。音数が少なくても全く飽きさせない、ハケットのギターは癒しです。続いて「Tigermoth」ではシンセサイザーがダークで壮絶な雰囲気を作り、ドラムが攻撃的です。緊迫感がありますが、後半からはミュージカル風の歌が入って少しコミカルな感じで息抜き。そして最後に控える表題曲「Spectral Mornings」が名曲です。エフェクトを効かせたハケットのギターをフィーチャーした楽曲です。ハケットの刺のないまろやかなギター音が個人的に大好きなのですが、ジェネシス時代の「Firth Of Fifth」にも匹敵する名演がこの楽曲で聴けます。ギターが中心ですが独善的になることなく、他の楽器と上手く調和しながら柔らかいギターを聴かせます。
名曲が多く、幻想的な世界にほどよいポップさが混じっていて聴きやすいです。スティーヴ・ハケットの入門盤に向いています。
1980年 4thアルバム
前作の延長にあるアルバムです。ジャケットアートも前作の路線と同様ですが、不気味さが増していますね。笑 サポートメンバーも前作と同じ顔ぶれで、弟のジョン・ハケット(Fl)、ピーター・ヒックス(Vo)、ニック・マグナス(Key)、ディーク・キャドベリー(B)、ジョン・シェアラー(Dr)が参加しています。プロデューサーもスティーヴ・ハケットとジョン・アコックという変わらない安定感。
オープニング曲は「The Steppes」。幽玄なフルートソロから、エコーの効いたドラムを皮切りに楽器が一気に加わって、ダークで荘厳な雰囲気に変貌します。始め近寄りがたさを感じる荘厳な音は徐々にメロディアスになり、気づけば聴き浸ってしまう名インストゥルメンタルです。続く「Time To Get Out」は明るくポップな楽曲です。柔らかいボーカルのバックでブイブイと唸るベースが魅力的。一転して「Slogans」はダークな雰囲気。これもインストゥルメンタルですが、本作のハイライトだと思います。反復されるダークなフレーズに心地良さを感じていると、速弾きギターに圧倒されます。自分のプレイをひけらかすタイプではないスティーヴ・ハケットですが、彼もまたテクニックを持つギタリストなのだと改めて感じさせられます。終盤のキーボードによる浮遊感も素晴らしい。そのまま続く「Leaving」はゆったりとした雰囲気で、でもぼんやりと幻想的な世界を作り出します。そして「Two Vamps As Guests」はアコギ一本でしっとりとした心地よい音色を奏でます。幻想的な世界観が魅力のアーティストではありますが、この人のギターは何も飾らなくても本当に優しくて美しい。
そしてレコードでいうB面、アルバム後半は「Jacuzzi」で幕開け。これも名曲です。スピード感のあるインスト曲で、前半はのどかで明るい牧歌的な音ですが、中盤では緊迫感があってスリリングな演奏を展開します。終盤は再びのどかさを取り戻して大団円といった雰囲気。続く「Hammer In The Sand」は哀愁あるピアノが美しい1曲。途中からシンセサイザーに彩られて、感情に訴えかけてきます。「The Toast」はボーカル曲。温もりのある優しいサウンドに、コーラスを重ねて包み込むような歌声です。「The Show」もボーカル曲。キャッチーなシンセサイザーの裏で、非常にグルーヴィなベースが強烈です。ラスト曲「Sentimental Institution」はレトロな雰囲気を漂わせた1曲です。曲調もそうですし、音もあえてレトロな加工をしています。
ときにダークさも垣間見えるものの、基本的には幻想的で温もりのあるサウンドです。魅力的なインストゥルメンタルが多く、前作を気に入った方にはこちらもオススメできます。
1981年 5thアルバム
プロデューサーに名を連ねるのは、これまで同様スティーヴ・ハケット(Gt/B/Vo)とジョン・アコックの安定したコンビに加え、サポートミュージシャンのニック・マグナス(Key)がプロデューサーとしても参画。弟のジョン・ハケット(Fl)やビンボ・アコック(Sax)がゲスト参加しているものの、これまでと比べて少しこじんまりした制作陣。ドラムはドラムマシンを用いています。
この年、『ヴォヤージ・オブ・ジ・アカライト(侍祭の旅)』でアートワークを担当したキム・プーアと結婚しており、本作は彼女に捧げられたのだとか。そんな幸せ絶頂期に制作された本作はキャッチーな仕上がりとなっています。また、いつもの幽霊ジャケではなく、南国でトロピカルジュースを飲むハケットの写真というのが微笑ましいです。
オープニング曲「Hope I Don’t Wake」はキャッチーなコーラスから幕開けです。オルガンが鳴り響くものの荘厳な雰囲気にはならずほのぼのとした感じ。ハケットの優しい歌に癒されます。「Picture Postcard」はキーボードを中心とした華やかなサウンドです。渋いサックスも良い味を出していますね。但しハケットの不安定なボーカルが少し浮いてて、ピーター・ヒックスのボーカルで聴きたかった…。「Can’t Let Go」はイントロからオーケストラが静かに不穏な気配を感じさせます。華やかなシンセサイザーが加わり歌が始まると、程よい哀愁を醸しつつも明るい楽曲に様変わり。全編を通して力強いベースが響き渡ります。「The Air-Conditioned Nightmare」はインストゥルメンタル。重厚なシンセサイザーがダークな雰囲気を煽動し、楽曲をリードします。ジョン・ハケットのバキバキのベースペダルをはじめ、各楽器のソロパートなど聴きどころも多く、非常にスリリングです。「Funny Feeling」は明るいギターをシンセが彩ります。そしてポップな歌メロは爽やかな印象。終盤の、突如リズムも雰囲気も変えるダークな間奏が痺れますね。「A Candle Of Swans」はアコギだけで奏でられるインストゥルメンタル。ハケット節が出ているというか、彼のアコギの音色はジェネシス時代から変わらず魅力的です。とても癒されます。続いて「Overnight Sleeper」は場面転換が目まぐるしいスリリングな楽曲です。疾走感のあるサウンドに乗せて、歌も焦燥感に満ち溢れていますが、かと思えば牧歌的な顔も見せてくれるという。これまでのハケットソロを継承した1曲でしょう。ゆったりとした「Turn Back Time」で最後を締めます。
靄のかかったようなこれまでのハケットの作品とは異なり、全体的にキャッチーな仕上がり。彼なりのポップ化を果たした作品です。ハケットのボーカルは少し不安定ですが、声質的にはポップな楽曲には合っているかも。でも一番の聴きどころはインストゥルメンタル「The Air-Conditioned Nightmare」だと思っています。
1982年 6thアルバム
再びスティーヴ・ハケットとジョン・アコックの共同プロデュース体制に戻して制作された本作。また幻想的なジャケットが戻ってきましたが、これは彼の妻キム・プーアが描いたものです。
サポートミュージシャンにはニック・マグナス(Key)、後にマリリオンに加入するイアン・モズレイ(Dr)や、弦楽隊にクリス・ローレンス(Cb)、ナイジェル・ウォーレン=グリーン(Vc)など。ゲートリバーブ処理を施したドラムが特徴的です。
オープニング曲「Camino Royale」は後のライブでも取り上げられることの多い楽曲です。イントロからピアノやヘヴィなギター、オルガンなど賑やかですね。初期ジェネシスを彷彿とさせる、プログレ全盛期の頃の音色とスリリングな演奏が魅力的です。ハケットの歌はどこか怪しげな空気を醸し出しています。続く「Cell 151」は英国でシングルがスマッシュヒット。ゲートリバーブを活かしたドラムがモダンな雰囲気です。6分半近くあり本作最長の楽曲で、キャッチーでメロディアスな歌がメインではありますが、長尺の間奏を用意するなど演奏もしっかり聴かせます。「Always Somewhere Else」はスリリングなインストゥルメンタル。序盤はピアノとギターが張り詰めた空気の中で哀愁を漂わせます。中盤突如として加速し、激しい演奏を展開します。ボーカルがない代わりにギターがよく歌う。そのまま勢いで駆け抜けます。続く「Walking Through Walls」はリズミカルでノリの良いドラムが特徴的。あまりハケットらしくないハードポップな楽曲です。「Give It Away」は明るくポップな雰囲気全開のイントロから楽しい雰囲気です。ソリッドなギターやコーラスワークなどを活かした、爽やかなハードポップです。ゆったりとしたテンポで聴かせる「Weightless」はパーカッションにアフリカンビートを若干取り入れています。当時の潮流だったみたいですね。続いてインストゥルメンタル「Group Therapy」。華やかで陽気なフュージョンで、明るいトーンとは裏腹にスリリングな演奏バトルに痺れます。終盤に向けてどんどん加速する展開も素晴らしい。続いて、郷愁という言葉の似合う「India Rubber Man」で哀愁漂う歌をしっとりと聴かせた後は、インスト曲「Hackett To Pieces」がラストを飾ります。キーボードの華やかなサウンドを中心に、途中から力強いドラムがメリハリをつけます。
前作の路線を踏襲したキャッチーなつくりで、ハードポップ路線にシフトしています。個人的には、彼の独自性が薄れるハードポップ路線は少し合わないかな…。そんな中でオープニング曲や、演奏をしっかり聴かせるインストゥルメンタルは、相変わらずスリリングで魅力的です。
なお、本作を最後にスティーヴ・ハケットはカリスマ・レコードを離れます。それ故か、本作までは入手が容易ですが、以降の作品はものによっては入手難度も少し高くなります。