🇬🇧 Steve Hackett (スティーヴ・ハケット)

スタジオ盤②

Bay Of Kings (ベイ・オブ・キングス)

1983年 7thアルバム

 スポーツカーメーカーのランボルギーニが立ち上げた、ランボルギーニ・レコードに移籍した1作目。スティーヴ・ハケットとジョン・アコックの共同プロデュースで、ニック・マグナス(Key)や実弟ジョン・ハケット(Fl/Key)が参加しています。全編クラシックギターのインストゥルメンタルという作品です。かねてより構想を温めていたのだとか。これまでも単曲単位ではいくつかの作品に収録されてきましたが、本作はそれが全編に渡っていて、纏めて聴きたかった私には本作はまさに好物です。ハケットの魅力は派手なテクニックに頼らない、純粋に音の響きを大切にするつくりだと思っていて、本作でも温もり溢れる音色に癒されます。
 オリジナルはハケットの妻キム・プーアが描いた、裸婦が横たわる絵でしたが、リマスター時に今のジャケットに差し替えになったのだとか。

 表題曲「Bay Of Kings」で開幕。静かな空間にハケットのギターの音色だけが響き渡ります。ゆったりとしていて優雅で、聴き入ってしまいますね。続く「The Journey」はひんやりとして幻想的なキーボードがバックに加わり、アコギの美しい音色を引き立てます。幽玄という言葉がぴったりです。「Kim」は『プリーズ・ドント・タッチ』収録のものをリメイク。キーボードとギターがバックに回り、ジョン・ハケットの優しくそよぐ風のようなフルートが楽曲を魅力的に奏でます。「Marigold」は少しテンポが上がって明るく、でも派手さはなくて牧歌的なほのぼのとした雰囲気。その音色から少しシリアスさも感じる「St. Elmo’s Fire」、優美な「Petropolis」などクラシックギターの音色を堪能したあとはフルートが主導する「Second Chance」。幻想的で儚さが感じられる美しい1曲です。シンプルな小品「Cast Adrift」を挟んで、ジェネシス時代の傑作『フォックストロット』からのリメイクとなる「Horizons」。2分足らずで本作最短の楽曲ですが、ジェネシスを聴き慣れた人には嬉しい1曲ですね。癒されます。静かな空間でギターが折り重なる「Black Light」や、幽玄な「The Barren Land」を挟んで、最後はキーボードで薄ら味付けされた「Calmaria」で優しく締めます。

 単曲ではどれをとっても派手さには欠きますが、どれもが癒やしの宝庫で、アルバムトータルで魅力的。なんとなく聴きたくなることの多い作品です。休日のゆっくりとした朝にBGMとして掛けていると、優雅な気分に浸れることでしょう。

Bay Of Kings
Steve Hackett
 
Till We Have Faces (ティル・ウイ・ハヴ・フェイセス)

1984年 8thアルバム

 スティーヴ・ハケットのソロ8作目。私は7作目までは順に揃えましたが以降はまちまちで、本作においては偶々レンタル店に置いてあったから聴いてみたという理由でした。
 ハケットのセルフプロデュースとなる本作はワールドミュージックに影響を受けており、日本の琴を導入したりと意欲的な作品になりました。なお妻キム・プーアがブラジル人らしく、多くの楽曲はブラジルでレコーディングされ、ブラジル音楽も取り入れています。

 7分に渡る「What’s My Name」で開幕。なおレコードでは曲順・曲数が異なるようです。パーカッションが終始民族音楽のようなリズムを刻み、ハケットの歌はお経のよう。メロディのある歌を披露する頃にはシンセがスペイシーな音色を奏でます。多国籍な楽曲ですが、エキゾチックな雰囲気が漂います。続く「The Rio Connection」は電話のコール音から始まるフュージョン的な楽曲。落ち着いていますが、ジャズの心地良いリズムに乗せて、リズミカルなシンセが楽しませてくれます。短いですがもう少し長く聴いていたかったです。「Matilda Smith – Williams Home for the Aged」は8分の大曲。序盤はソリッドなギターと華やかなシンセによる、キャッチーなハードポップという印象。中盤はパーカッションソロが展開され、そこに色気のあるギターの音色が乗ります。そして後半エイジアのような華やかなシンセが加わります。全編通してサンバのようなラテン系のリズムが陽気な雰囲気を作り出しています。「Let Me Count The Ways」はハケットにしては珍しくブルージーな雰囲気です。でもあまり泥臭さはなくて、まったりとメロウなサウンドに癒されます。「A Doll That’s Made In Japan」はタイトルにあるように日本人形をテーマにした楽曲で、琴を用いています。でもリズムはアフリカンビートだしシンセ全開で、そこまで和風ではないですね。比較的キャッチーで好みではあります。バイクの音から始まる「Duel」はドラムが1980年代という時代を感じさせますね。レコード時代はA面のオープニング曲だったそうです。「Myopia」はノリノリの疾走曲。近年のライブだと、これのイントロだけ用いてそのまま「Los Endos」に繋げたりしていますね。結構スリリングで、ライブで聴き慣れていることもあり印象に残ります。「Taking The Easy Way Out」は落ち着いた印象の楽曲。シンセの音色が神秘的です。続く「The Gulf」は音数少ない中で響くパーカッションが雄大な光景をイメージさせます。中盤のシンセやギターは動物の鳴き声のようにも聞こえ、ワイルドな印象。終盤は緊迫感を増し、テンポも上げてスリリングに展開します。「Stadiums Of The Damned」はキャッチーな楽曲ですが、ワールドミュージックに影響を受けたサウンドは同時代の多くのアーティストに似通っていて没個性的な印象は否めません。最後の「When You Wish Upon A Star」は「星に願いを」の邦題で知られる楽曲のカバー。1分に満たない小曲で、ファンタジックな雰囲気でアルバムを締め括ります。

 全体的にはパッとする楽曲があまり無く、正直なところ印象が薄いです。他の作品を聴いてからでも十分だと思います。

Till We Have Faces
Steve Hackett
 
Genesis Revisited (ジェネシス・リヴィジテッド(新約創世記))

1996年 12thアルバム
 

 今のところ実現していませんが、ピーター・ガブリエル時代の5人ジェネシスの再結成を誰よりも望んでいるのがスティーヴ・ハケットなのではないかと思います。そんなジェネシス大好きなハケットによる古巣ジェネシスのセルフカバー集が本作です。サポートミュージシャンが豪華で、ソロ作でお馴染みニック・マグナス(Key)に実弟ジョン・ハケット(Fl)、本家ジェネシスを長らくサポートし続けるチェスター・トンプソン(Dr)だけでなく、キング・クリムゾン人脈のジョン・ウェットン(Vo/B)、トニー・レヴィン(B)、イアン・マクドナルド(Sax/Fl)、ビル・ブラッフォード(Dr)、そしてロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団…他にも数多くのミュージシャンが参加しています。

 名曲「Watcher Of The Skies」で開幕。メロトロンが担っていた重厚なイントロは、オーケストラが重厚かつ優美に奏でています。ジョン・ウェットンのボーカルも楽曲によく合っていますね。この楽曲はリズム隊もボーカルもキング・クリムゾンですが笑(彼らだけでなく参加ミュージシャンは多いです)、原曲のイメージを崩さない良アレンジです。「Dance On A Volcano」は前曲とは逆で、イントロや中盤など所々でオリジナリティを出してきています。聞き慣れた本編が始まるとほっとするものの、ハケットの加工されたボーカルは若干気持ち悪さがあって少し残念。「Valley Of The Kings」は本作初出の新曲。ぼやけたシンセから突如始まるダークでヘヴィな演奏に驚かされます。珍しく荒々しいギターを弾くハケットのプレイも聴きどころです。「Déjà Vu」は『月影の騎士』の頃に作られていた未発表曲。マイク&ザ・メカニックスのポール・キャラックがボーカルを取ります。楽曲はダークな雰囲気ですが、時折美しい側面を見せます。名曲「Firth Of Fifth」は鉄琴や鈴などのドリーミーな雰囲気のイントロで開幕。ジョン・ウェットンの歌が始まると、演奏もがらりと変わって一気に引き締まります。彼の歌は魅力的ですね。しかし原曲だと一番の聴きどころである、静謐なフルートから始まるインストパートはごっそり別物に変わっていて、これには正直ガッカリです。ハケットのギターソロは残っていますが…。「For Absent Friends」はゾンビーズのコリン・ブランストーンが歌います。アコースティックで牧歌的な原曲を、まったりとしつつ優雅なオーケストラに変えています。大きくアレンジを変えていますが、これは中々良い感じ。ドリーミーな雰囲気の「Your Own Special Way」に続くのは「The Fountain Of Salmacis」。イントロにクラシックギターが加わっていますね。幻想的な雰囲気は残しつつ跳ねるようなリズムが印象的。即興的なアレンジも加えつつ、壮大な演出で盛り上げます。「Waiting Room Only」は『眩惑のブロードウェイ』の「Waiting Room」をベースにした新曲。前半はメロディもなく断片的な音を切り貼りして実験的、後半はアフリカンビートを取り入れてリズミカルですが、脈絡のない場面転換の多用で難解な印象です。そして「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」。ハケットの苦しそうな囁きで始まりますが、歌が始まると陽気な雰囲気に。指パッチンでご機嫌な楽曲は聴いていて楽しい気分になりますね。後半はジャジーなピアノで楽しませます。中々良質なアレンジだと思います。最後はスリリングな疾走曲「Los Endos」。多少のアレンジはあるものの、緊迫感と爽快感を合わせ持つスリリングな演奏は保たれていて魅力的です。

 原曲は名曲揃いなのですが、楽曲によってはアレンジで原曲の良さを消してしまっているものがあって少し残念です。これはライブの方が楽しめますね。

Genesis Revisited
Steve Hackett
 
Metamorpheus (メタモルフェウス)

2005年 17thアルバム ※Steve Hackett & The Underworld Orchestra名義

 ギリシャ神話のオルフェウスの物語をテーマにした作品です。新婚生活早々に毒蛇に噛まれて亡くなった妻エウリュディケを冥界から連れ戻そうと奮闘するオルフェウス。美しい竪琴を聴かせて冥王ハデスに懇願、地上に出るまで振り返らないことを条件に地上へ連れ出そうとするも、あと一歩のところで振り返ってしまいエウリュディケは冥界に…という有名な物語ですね。全編においてクラシックな作風のインストゥルメンタルで、スティーヴ・ハケットはクラシックギターを用いています。サポートメンバーには実弟ジョン・ハケット(Fl/Gt)、コリン・クレイグ(Tp)、ディック・ドライバー(B)、リチャード・ケネディ(Hr)、リチャード・スチュワート(Vc)、ルーシー・ウィルキンズ(Vn)、サラ・ウィルソン(Vc)。スティーヴ・ハケットのセルフプロデュース。

 「The Pool Of Memory And The Pool Of Forgetfulness」で開幕。静かな空間にハケットのクラシックギターが静かに響き渡り、呼応するかのようにオーケストラが反応。大きく盛り上がることもなく次曲へ。1分半の「To Earth Like Rain」は少しテンポを上げ、優しく心地良いギターをメインで聴かせます。「Song To Nature」ではゆったりとしたオーケストラに主導権を渡し、ギターとともに優美でメロディアスな音色を奏でて癒してくれます。メロディがどことなく童謡「ふるさと」に似ていてノスタルジックな印象を受けます。「One Real Flower」では繊細なギターをゆったり聴かせて優雅な気分。ハケットのギターソロは聴いていてとても心地良いんですよね。「The Dancing Ground」は華やかなオーケストラが中心。優雅ですが終盤は少しシリアスな雰囲気です。そして12分超の大作「That Vast Life」。心地良いギターをオーケストラがバックで彩ります。中盤少しシリアスな瞬間もありますが、終始穏やかな曲調の中で表情を豊かに変えます。ギターを中心にメロディアスに進行し、時折オーケストラが華やかに広がります。終盤はギターとオーケストラパートが交互に出てきます。「Eurydice Taken」は速弾きで少し緊張感のあるギターソロを披露。タイトルから、エウリュディケが冥界に行ってしまう場面でしょう。「Charon’s Call」は悲しげで暗い雰囲気が漂います。そして後半は、悲壮感漂うオーケストラが切ないメロディを聴かせます。「Cerberus At Peace」はファンファーレのような華やかな幕開けも束の間、静かながらシリアスな雰囲気に。「Under the World – Orpheus Looks Back」は前曲のシリアスな雰囲気を引きずって始まりますが、行進するかのようにリズミカルな演奏とともに、徐々に明るさを取り戻していきます。地上へと向かう高揚感を表しているのでしょう。本作でも指折りの盛り上がる場面です。しかし緊張感を高めた後のラストは闇に飲まれるかのよう。「The Broken Lyre」は一転して、静かなクラシックギターが音数少なく響き渡ります。終盤はオーケストラが美しいハーモニーを聴かせます。「Severance」は緊迫感に満ちた楽曲で、ストリングスが焦燥感を煽り立てます。とてもスリリングな楽曲です。「Elegy」は出だしの木管の軽やかな音色が哀歌っぽくはないのですが、その後ストリングスらが悲壮感たっぷりの重い演奏を聴かせます。「Return To The Realm Of Eternal Renewal」で繊細なギターを聴かせた後は、ラスト曲「Lyra」。タイトルは、オルフェウスの死後に天に上げられた「琴座」。優美なオーケストラとギターが美しいハーモニーを聴かせます。

 心地良いクラシックギターを聴かせる楽曲と、オーケストラを聴かせる楽曲が交互に出てきて、BGMとしてリラックスできる演奏を聴かせます。クラシックにもよく馴染んでいますが、クラシックにほとんど馴染みのない私としては良いのか悪いのかはよくわかりません…。ハケットのギターメインで聴きたい私は、近い路線では『ベイ・オブ・キングス』の方が好みです。

Metamorpheus
Steve Hackett
 
Out Of The Tunnel's Mouth (闇を抜けて)

2009年 20thアルバム

 スティーヴ・ハケットの記念すべきソロ20作目。本作を伴うツアーで来日してくれることもあり、私はライブの予習で本作を購入しました。古巣ジェネシスでの前任ギタリストアンソニー・フィリップス(Gt)やイエスクリス・スクワイア(B)がゲスト参加。クリス・スクワイアとは一作限りのユニットであるスクアケットを結成しますが、ここでの交流がキッカケだったんでしょうか。他にもプロデューサー兼任のロジャー・キング(Key)、実弟ジョン・ハケット(Fl)のほか、ニック・ベッグス(B)、ロブ・タウンセンド(Sax)、クリスティーン・タウンセンド(Vn/Vla)、アマンダ・レーマン(Vo)等々。
 恒例の幽霊ジャケでなくハケットの写真になっていますが、長らく幽霊ジャケを描き続けた妻キム・プーアとは2007年に離婚してるみたいで、その辺の兼ね合いもあるんでしょうか。レーベルも移籍しています。

 オープニング曲は「Fire On The Moon」。オルゴールのようなサウンドをバックに内省的な歌で鬱々と進行するも、コーラスのみのサビ(?)は壮大で、静と動の対比がスリリングです。壮大な音の壁が迫り来るタイミングでゴリゴリベースを弾き鳴らすのはクリス・スクワイア。全体的に重くダークですが、メロディアスで聴きごたえがあります。「Nomads」はジャランジャランとギターを鳴らした後、ラテンフレーバーをまぶしつつも幽玄なアコースティックサウンドでゆったり聴かせます。後半は一気にテンポアップして、フラメンコのようなスパニッシュな楽曲へ。そして電化してスリリングな疾走曲へと豹変します。魅力的な1曲です。「Emerald And Ash」は9分近い大曲。エキゾチックな雰囲気漂う神秘的な楽曲ですが、陰のある歌はどんどん沈んでいくかのようです。そしてサビのメロディの儚く美しいこと。そんな魅力的な歌に浸っていると、後半パートは力強くダークな演奏に豹変して蹂躙します。まるで別の楽曲のようですが、どちらのパートもハケットらしさに満ちていますね。「Tubehead」は緊迫感に満ちたスリリングな疾走曲。ブイブイ唸るリズムに乗せて、珍しくエッジの鋭いギターで暴れています。陰鬱なアルバムの流れを変え、メリハリをつける爽快な1曲です。続く「Sleepers」は9分近い楽曲。序盤はハケットの静かなギターソロを軸に据え、途中からストリングスが加わりギターを支えます。サウンドは優しくて、だけどどこか切ない雰囲気。中盤からはハケットの消え入りそうな歌がノスタルジックなメロディを紡ぎ、子守歌のように心地良い。後半からは強烈なドラムの一撃を皮切りに、ヘヴィな楽曲へと変化。エレキギターがハードながらもメロディアスなフレーズを奏で、印象に残ります。「Ghost In The Glass」は鳥のさえずりをバックにアコギが心地良い音色を奏でますが、それも束の間、悲壮感に溢れるエレキギターが唸ります。とても悲しい雰囲気です。「Still Waters」は珍しくブルージーな楽曲。泥臭くなりきれていない感じですが、ギターはハードロックばりにエッジの効いた演奏で魅せます。最後の「Last Train To Istanbul」はタイトルからも連想できるように中東風のオリエンタルな雰囲気が溢れています。よくある「なんちゃってイスラム風」の楽曲の中でも結構上位にくる良曲だと思います。

 とにかく暗いうえに重たく、だけども美しい。個人的な思い入れ補正はあるものの、メロディアスな佳曲揃いで聴きごたえのある良作です。

Out Of The Tunnel’s Mouth
Steve Hackett
 
Genesis Revisited II (ジェネシス・リヴィジテッドII)

2012年 22ndアルバム

 古巣ジェネシスのセルフカバー集第二弾。『ジェネシス・リヴィジテッド(新約創世記)』では良くも悪くも独自アレンジが効いていましたが、本作は原曲にかなり忠実な演奏を展開。プログレ期ジェネシスのベスト盤を聴いているかのような選曲も含め、個人的にはこちらの方が圧倒的に好みです。
 数多くのミュージシャンが参加しており、ジェネシスフォロワーやフィル・コリンズの息子サイモン・コリンズも参加。なお楽曲毎にボーカリストが異なりますが、誰も彼もピーター・ガブリエルやフィル・コリンズに似た声質で、原曲のイメージを崩さず上手く馴染んでいます。よく見つけてきたものです。笑
 ボリューミーな2枚組ですが、翌2013年には曲数を絞って1枚に纏めた『Genesis Revisited II: Selection』も発売。なお曲数を絞りながらも、本家3代目ボーカリストのレイ・ウィルソンが歌う「Carpet Crawlers」が新たに追加されております。本項では2枚組のほうをレビューします。

 Disc1はピーター・ガブリエル時代の楽曲が中心。「The Chamber Of 32 Doors」で開幕しますが、これをオープニングに持ってくる辺り、ハケットがマニアックなジェネシスファンって感じがします。笑 壮絶な悲壮感に溢れるイントロから暗闇に引き込みます。哀愁たっぷりのメロディアスな楽曲でたまりませんね。エージェンツ・オブ・マーシーのナッド・シルヴァンがボーカルを担当、似ています。「Horizons」はハケットによるアコギソロ。優しい音色に癒される小曲ですね。そして23分半の超大作「Supper’s Ready」。ボーカルが代わる代わるで、オーペスのミカエル・オーカーフェルト、サイモン・コリンズ、コンラッド・キーリー。またミカエル・オーカーフェルトに戻した後にハケット自身が歌い、再びサイモン・コリンズ、最終パートはイット・バイツのフランシス・ダナリー。ボーカルにエキセントリックな色合いは薄いものの、雰囲気は出ていて普通に楽しめます。そして原曲に忠実な演奏が展開され、特に終盤は原曲を上回るくらいの緊張感でとてもスリリングです。「The Lamia」はニック・カーショウが歌い、ギターにはマリリオンのスティーヴ・ロザリー。ロジャー・キングの弾く美しくも悲しいピアノに乗せて、メランコリックなメロディが切なさを誘います。終盤の泣きのギターも刺さりますね。この儚く美しい雰囲気が大好きです。続いて「Dancing With The Moonlit Knight」は、ピーター・ガブリエルに超そっくりなフランシス・ダナリーのボーカルが良い!緩急付いたスリリングな演奏も見事に再現されていて、聴いているとゾクゾクします。そして「Fly On A Windshield」「Broadway Melody Of 1974」の素晴らしき眩惑メドレー。美しく幻覚的な空気を纏いながら深い深い闇へと引きずり込む、鳥肌ものの名メドレーですね。特にこの2曲はハケットのライブでよく演奏されますが、そこで魅力に気づきました。なお、本作で大半のドラムを担うゲイリー・オトゥールがここではボーカルも兼任。「The Musical Box」はイントロに少しだけオリジナルのパートが追加されているものの、その後は原曲に忠実。ナッド・シルヴァンの歌もピーター・ガブリエルとフィル・コリンズの中間のような感じで、よく馴染んでいます。中盤のダイナミックでアグレッシブな演奏は特にスリリングで白熱しますね。「Can-Utility And The Coastliners」はプログレ界隈のリミックス等でお馴染みスティーヴン・ウィルソンがボーカルを取ります。ギターを中心にクラシカルな雰囲気で展開、中盤でガラリと雰囲気を変えて、オーケストラが緊迫感を増します。終盤はオルガンとギターが複雑に絡み合います。そしてハケット自身のソロ作より「Please Don’t Touch」。『静寂の嵐』組曲の元ネタで、「勝手に弄らないでくれ!」という思いで作ったそうです。これをぶちこむのは当てつけかと思いきや、その組曲もDisc2にきっちり収録しています。笑 緊迫してスリリングな疾走曲ですが、トゲのないギターの音色とシンセが浮遊感も生み出しています。中盤から後半に面影が見られますね。

 Disc2は『トリック・オブ・ザ・テイル』と『静寂の嵐』の楽曲が中心。「Blood On The Rooftops」はハケットがギターをかき鳴らしながらオリジナルのフレーズも加えていますが、落ち着いた雰囲気の楽曲のイメージを崩してはいません。後半の寂寥感のある盛り上がりも良いですね。ゲイリー・オトゥールがボーカルを担当しています。続く「The Return Of The Giant Hogweed」でエキセントリックなボーカルをうまく再現しているのはニール・モース。彼のおかげで(もちろん演奏陣もですが)、変態的な原曲のイメージが保たれています。ワウワウ唸るギターが少し違うかなという感じはありますが、とてもスリリングな終盤の演奏に魅せられれば些細なことですね。「Entangled」は繊細な楽曲。アコギ中心のゆったりとしつつ哀愁漂う雰囲気が魅力的で、終盤は影のあるファンタジーという風合い。キング・クリムゾンのジャッコ・ジャクジクがボーカル、アマンダ・レーマンがコーラスを担当。「Eleventh Earl Of Mar」はロジャー・キングによるトニー・バンクスのカラフルな鍵盤パート再現が素晴らしく、またナッド・シルヴァンの歌はフィル・コリンズそっくり。「Ripples」は繊細で憂いに満ちた、メロディアスな名バラード。女性ボーカルのアマンダ・レーマンが渋くアンニュイな声で歌います。寂寥感に溢れるサビメロは美しくて涙を誘いますね。中盤の間奏も魅力的です。そして本作の目玉の一つが「Unquiet Slumbers For Sleepers…」、「…In That Quiet Earth」、「Afterglow」の3曲から成る『静寂の嵐』収録の組曲。本家ジェネシスは「Afterglow」しか演奏しないから、あるべき姿(?)で演奏してくれるハケットに感謝です。風邪が吹き荒ぶような寒々しいシンセ、そこからスリリングな疾走曲へと変貌。リズム隊が煽り立てますが、歌うように優雅に奏でるハケットのギターがメロディアスで魅了されます。「Afterglow」ではキング・クリムゾンのジョン・ウェットンが渋い歌声で、キャッチーだけどメロウなメロディを歌います。声質はそこまで似てないけど、よく合っている。心地良い余韻を残してくれます。
 ここからはハケットのソロ作品の楽曲が並びます。「A Tower Struck Down」はストリングスが緊迫した空気を演出。本作の中でもかなりハードな1曲です。続いてライブでも定番の「Camino Royale」をジャズロックバンドのジャイブが演奏し、ハケットが歌います。ハードだけどキャッチーな側面を持っています。歌が始まるとジャジーで渋い雰囲気になり、味のあるサックスが良い感じ。そして最後は11分近い大曲「Shadow Of The Hierophant」。幻想的な原曲に円熟味が加わりました。メロディアスなギターが魅力的。アマンダ・レーマンはファルセット気味に歌いますが、原曲より落ち着いた感じで、円熟味のある演奏に合っています。

 スティーヴ・ハケットのカバーアルバムですが、実質、プログレ期ジェネシスのベスト盤です。一般的なベスト盤のようにレコーディング時期の異なる継ぎ接ぎではなく、本作のためにレコーディングされてますので統一感もあります。本作に伴うツアーのライブ盤も含めてオススメできる作品です。

左:本項レビューはこちらの2枚組『Genesis Revisited II』。
右:曲数を絞り込んだ1枚ものの『Genesis Revisited II: Selection』。

Genesis Revisited II
Steve Hackett
Genesis Revisited II: Selection
Steve Hackett
 
Wolflight (ウルフライト~月下の群狼)

2015年 23rdアルバム

 スティーヴ・ハケット65歳のときの作品ですが、これが現行最新作ということでもなく、このあとも作品をコンスタントにリリースするという、そのエネルギーには驚かされます。狼と戯れるハケットのファンタジーなジャケットアートと、『ロード・オブ・ザ・リング』のようなファンタジックな表題曲のPVに魅せられて衝動買いしました。でも正直ほとんど聴いていない作品で、レビューにあたり久々に聴きました。
 サポートミュージシャンとして、プロデューサー兼任のロジャー・キング(Key)、イエスクリス・スクワイア(B)(「Love Song To A Vampire」のみ)、ニック・ベッグス(B)、ゲイリー・オトゥール(Dr)、ヒューゴ・デゲンハルト(Dr)、アマンダ・レーマン(Vo)、再婚したハケットの妻ジョー・ハケット(Vo)等が参加しています。

 狼の咆哮から始まる「Out Of The Body」。ゲイリー・オトゥールのドラムは力強く爽快です。壮大なストリングスをバックにハケットがメロディアスなギターを奏でますが、時折ダークな雰囲気が強まります。そして激しさを増す、スリリングなインストゥルメンタルです。そのまま続く表題曲「Wolflight」は8分の楽曲です。ディジュリドゥという木管やタールという打楽器などを用いていて、民族音楽的な音色も聞けます。序盤は牧歌的な雰囲気ですが、もちろん8分の楽曲でずっと同じ雰囲気ということはなく、力強いバンド演奏によって急激にダークな側面が表出したり、憂いを帯びたアコギの繊細な音色に癒されたりと変化に富んでいます。結構聴きごたえがありますね。「Love Song To A Vampire」は9分の楽曲。序盤は神秘的だけど暗い雰囲気で、アコギが美しいですね。陰鬱な歌に聴き入っていると鳥肌ものの壮大なコーラスに包まれます。中盤の、どうしようもなく暗く悲しいメロディを奏でるエレキギターも魅力的ですね。終盤ではメタリックなクリス・スクワイアのベースが際立っています。続く「The Wheel’s Turning」はイントロが不気味。本当は怖いグリム童話のように、コミカルな感じを装っているのにダークなオーラが隠しきれません。歌も暗く始まりますが、サビは意外に開放的で明るいトーンです。中盤はメタリックかつカオスで、ヘヴィでリズミカルな演奏をバックに様々な楽器が鳴ったり、ハケットがソロを披露したり。ニック・ベッグスの轟音ベースもスリリングです。「Corycian Fire」はまたも民族楽器を用いて異国の香りがしますが、憂いのある歌を挟んでダークでメタリックな演奏へと変わります。最終盤はクワイアでスリリングな演出。打って変わって「Earthshine」はハケットのアコギソロ。繊細で憂いに満ちたハケットの演奏は本当に美しい。細かく刻んでスリルを演出したかと思えば、牧歌的な音色を奏でたり、ハケットは過剰にダークな演出をしなくとも十分に聴かせてくれます。そして「Loving Sea」はアコギを軽やかにかき鳴らし、優しく柔らかい歌で癒やします。アルバム前半がずっと重苦しかったので、この楽曲には救われます。もう少し早いタイミングで出てきて欲しかったですが。笑 「Black Thunder」では出だしにバンジョーを鳴らしてカントリー風かと思いきや、すぐさまヘヴィで力強いリズムを刻むハードロック風に。ハケットの歌だけは鬱々として彼らしさがあるものの、演奏はハケットらしからぬキレのあるハードロックです。「Dust And Dreams」はヒューゴ・デゲンハルトのリズミカルなドラムが心地良いものの、ストリングスはじめ全体的に怪しげな空気を作り出し、なんとなく不気味です。終盤ではギターが強い哀愁を帯びています。途切れず続く「Heart Song」も暗さを引きずっていますが、ギターの音色は時折明るさを感じられます。
 ここからボーナストラック。「Pneuma」はハケットのアコギソロで、盛り上がりは少ないですが、ミステリアスな音色に引き込まれます。最後の「Midnight Sun」はメランコリックな雰囲気で魅せますが、全く見知らぬボーカルが出てきて、ハケットの他のソロ曲とはまるで別物の雰囲気です。イーサ・インギ・ガンロッソンという人らしいです。

 明るい曲は少なく、聴いていると暗い気分になります。全体的にダークな楽曲群が並びますが、中盤の「Earthshine」と「Loving Sea」には救われますね。

Wolflight (Deluxe Edition) (CD+Blu-ray)
Steve Hackett