🇬🇧 Steve Hackett (スティーヴ・ハケット)

ライブ盤

The Tokyo Tapes (TOKYOテープス〜ジェネシス・リヴィジテッド・ライヴ1996)

1998年

 今は無き東京厚生年金会館で行われた1996年のライブ音源に、スタジオ新録3曲のおまけが付いた来日ライブ盤。ライブパートでスティーヴ・ハケットをサポートするのはジョン・ウェットン(B/Vo)、イアン・マクドナルド(Fl/Sax/Key)、ジュリアン・コルベック(Key/Vo)、チェスター・トンプソン(Dr)。ツアーに冠したジェネシスのカバーだけでなく、ハケットのソロ楽曲や、参加メンバーの古巣であるキング・クリムゾンエイジア等のカバーも披露しています。後の『ジェネシス・リヴィジテッドII』のライブに比べるとかなり独自アレンジが入っていて、そこが評価の分かれどころでしょうか。
 
 
 Disc1、ライブのオープニングは「Watcher Of The Skies」。厳かなメロトロンの後、高揚感を煽るスリリングなリズム隊…でも若干テンポは遅いですね。そしてジョン・ウェットンの渋い歌声が響き渡ります。続く「Riding The Colossus」はキャッチーで明るいトーンのインストゥルメンタル。ハケットのご機嫌なギターも爽快です。「Firth Of Fifth」はイントロなしにいきなり始まる本家ジェネシスのライブと同じパターン。『ジェネシス・リヴィジテッドII』では流麗なピアノイントロも聴けるんですが…でもジョン・ウェットンの渋い歌声はこの楽曲にもよく合っています。イアン・マクドナルドのフルートソロでは拍手が湧きますが、その後はオリジナルの演奏が。緊迫しているんですが、素晴らしき原曲の面影も残らない大胆なアレンジには、正直強い抵抗感があります。ギターソロは残しているので、トニー・バンクス色を消したかったのかなぁ。「Battlelines」はジョン・ウェットンのソロ作より。メロウなバラードで、ジョン・ウェットンの渋くメロディアスな歌を引き立てるような、落ち着いた演奏を聴かせます。これが結構良いんです。楽曲終了後にメンバー紹介を挟んで、「Camino Royale」のスリリングなイントロが始まります。歌が始まるとスリルは後退し、少し怪しげだけどキャッチーなメロディを展開。イアン・マクドナルドの魅力的なサックスソロをはじめ、各楽器のソロプレイを披露、ライブならではの演奏で楽しませます。演奏後の「こんばんは、君達最高だよ」の日本語挨拶が嬉しいですね。笑 そして始まる「The Court Of The Crimson King」。言わずと知れたキング・クリムゾンの名曲ですね。実は本作で一番の聴きどころはこれじゃないかと思うんです。ハケットのギターはあまり目立ちませんが、美しいメロトロンに鳥肌もののフルートソロ、ジョン・ウェットンの渋い歌声…。一見ハケットのライブを他メンバーが私物化してるようで、でもハケット自身がキング・クリムゾンの影響も強く受けているから彼の熱望かもしれませんね。そして小曲「Horizons」ではハケットの繊細なアコギソロを聴かせます。ひと息つきつつ、美しい音色に癒されますね。「Walking Away From Rainbows」も美しいギターを聴かせますが、ひんやりとした質感のシンセがバックでギター演奏を引き立てています。続く「Heat Of The Moment」はエイジアのカバーですが、アコースティックアレンジに。雰囲気が違うのでサビにくるまで分かりませんが、サビを聴くと納得。落ち着いてまったりとした歌で癒してくれます。

 Disc2に突入。3曲セットの『静寂の嵐』組曲の真ん中「In That Quiet Earth」を披露します(本家ジェネシスは組曲のラスト「Afterglow」をよく演奏してますね)。リズム隊とハケットのギターが生み出す爽快さは原曲を踏襲していますが、フルートやサックスなどの木管が目立ちます(これは良い感じ)。原曲と音色の違うキーボードが少し悪目立ちしてる感はありますが…。「Vampyre With A Healthy Appetite」はハケットソロ作品の楽曲。歌もあるものの演奏がメインで、途中即興的なベースソロがあったり、演奏で楽しませます。ハケットのギターは珍しくかなりブルージーです。そして「I Talk To The Wind」、これが良い!ジョン・ウェットンの歌う初期キング・クリムゾンが聴けるんです、しかもフルートはイアン・マクドナルド。チェスター・トンプソンのドラムも良く合っています。ギターはハケット色が出ているのでハケットのソロライブだと気付かされますが、キング・クリムゾンの初期楽曲を楽しめるライブだったりします。そして「Shadow Of The Hierophant」の後半パートだけ。鍵盤だけは原曲とだいぶ異なる音に違和感を覚えますが、ゆっくりとしたテンポで奏でる幻想的でダークな音色はゆったりと心地良く浸れます。そしてそのままチェスター・トンプソンのドラムソロへ突入。ジェネシス本家ライブでも長年フィル・コリンズの代わりを完璧に務める、凄腕のスリリングなドラムを楽しめます。緊張感を高めたところで「Los Endos」に繋ぐという、実に素晴らしい展開です。ジョン・ウェットンのゴリゴリベースもスリリングですね。ラストに相応しい名曲ですが、ライブはもう少し続きます。「Black Light」はハケットのアコギソロ。結構色々な楽曲のフレーズを走馬燈のように奏でてくれるので、ニヤリとしますね。そして「The Steppes」、幽玄なフルートソロから始まるダークな音色。幻想的かつ重く暗い雰囲気…ですが、楽曲が進むと晴れやかなメロディが聴けるので救われます。終わると大歓声。ラストは「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」ですが、原曲のポップでコミカルな雰囲気はちょっと控えめで、ゴリゴリベースが演奏を引き締めます。歌もやや渋め。
 ここからはスタジオ録音の新曲で、ライブ本編とはメンバーは変わり、ハケットとアロン・フリードマン(Key)による演奏です。「Firewall」は跳ねたリズムが特徴的のグルーヴィなインストゥルメンタルです。ダークな雰囲気で、後半はかなりメタリックな印象。続く「The Dealer」は更にグルーヴを強めます。輪郭のくっきりしたファンキーなリズム隊はハケットらしくない気がしますが、結構心地良いです。ラストに名曲「Los Endos」。『ジェネシス・リヴィジテッド(新約創世記)』の欧州盤に入っていた楽曲の再録です。なお欧州盤リマスターでは代わりにボブ・ディランのカバー「All Along The Watchtower」が入っているようです。私の持っているのは「Los Endos」で、スリリングな演奏で楽しませてくれます。特にパーカッションが強調されたアレンジになっていますが、ダイナミズムに溢れていて良い感じ。中盤は民族音楽みたいな雰囲気も内包しています。
 
 
 アレンジが効き過ぎたジェネシス曲やハケットソロ曲は結構イメージが変わってしまい、楽曲によってはかなり残念だったりします。ですが、実は本作の聴きどころってサポートメンバーの持ち込んだ楽曲で、特に「The Court Of The Crimson King」と「I Talk To The Wind」は必聴でしょう。あとは日本語挨拶が嬉しいですね。

The Tokyo Tapes (2CD+DVD)
Steve Hackett
 
Live Rails (レールズ~ライヴ・アンソロジー2011)

2011年

 『闇を抜けて』に伴う2009年~2010年のツアー模様を収録したライブ盤です。2枚組2時間弱のボリュームで、Disc1は『闇を抜けて』とスティーヴ・ハケット往年の名曲が中心、Disc2はジェネシス時代の名曲を中心にセレクトされています。音源はパリ、ロンドン、ニューヨークのものですが、2010年8月には来日も果たしています。このとき川崎までライブを見に行ったので、個人的には思い入れがあります。
 ライブツアー当時のハケットは59~60歳ですが、衰えをあまり感じさせません。若いサポートメンバーに支えられ、触発されて良い演奏ができているのかも。元の楽曲のイメージを崩すことなくライブで再現してくれています。ハケットはギターと、楽曲によりボーカルも担当。サポメンは紅一点アマンダ・レーマン(Gt/Cho)、ニック・ベッグス(B/Cho)、ロジャー・キング(Key)、ロブ・タウンセンド(Fl/Sax/Cho)、ゲイリー・オトゥール(Dr/Vo)。
 
 
 まずはDisc1。「Intro」と題されたインストは「Last Train To Istanbul」のイントロを引用、中東っぽい怪しくも惹かれるメロディと野性味のあるパーカッションで世界観へ引き込みます。そして名曲「Everyday」で晴れやかに幕開け。ハケットのソロ楽曲の中でも飛び抜けてキャッチーなイントロが耳に残りますね。そして短い歌メロを終えると、後半からは哀愁を纏いつつ緊張感を増し、それでいて心地良い浮遊感もある。原曲より僅かに速度は控えめですが、スリリングかつ多幸感のあるサウンドで、至福のひとときを与えてくれます。ここから『闇を抜けて』の楽曲が並び、まずは「Fire On The Moon」。オルゴールのような音色が心地良いのに、歌はダウナーで悲しい気分になります。そしてサビ(?)では分厚い音の壁とコーラスが迫り、中々ヘヴィです。ハケットの泣きのギターが良い。「Emerald And Ash」も暗くて切ない。鬱々としてメランコリックなメロディは感傷的な気分を誘い、哀愁を帯びた美しいサビメロが涙を誘います。円熟味のある歌で魅せたあと、5分半過ぎから急にヘヴィでダークな演奏に変貌。ギターを中心に緊迫した空気を演出します。続く「Ghost In The Glass」はインストゥルメンタル。メロウなサックスソロを聴かせた後、ダークでファンタジックな演奏が迫ります。歌うようにメロディアスなハケットのギターが、哀愁と程よい緊張感を作ります。そして往年の名曲「Ace Of Wands」。テンポが遅いので原曲ほどの疾走感は無いものの、それぞれの楽器が奏でる美しいハーモニーはやはり魅力。前半は幻想的な雰囲気で心地良く、後半はフュージョン的な即興も交えてスリリングな演奏で楽しませます。キャッチーでメロディアスな終盤とか聴いていると幸せな気持ちになります。「Pollution C」は即興演奏。静かだけど不穏な雰囲気で、中盤だけワウワウとノイズのような音を奏でます。そしてエスニックな音色から始まる「The Steppes」。ダークでヘヴィな名曲ですね。ドラムが力強く響き、ギターとシンセが幻想的なユニゾンを展開。メロディアスで耳に残ります。続く「Slogans」はダークで、緊迫感に満ち溢れていてスリリングです。目の回るようなギターとキーボードの速弾きが強烈ですね。「Serpentine」では、分厚いコーラスで優しいメロディを歌います。サウンドも牧歌的で穏やかです。終盤の優雅なサックスも魅力的ですね。「Tubehead」はゴリゴリと這うようなベースやメタリックなギターがスリリングな演奏を展開。緊張を張り巡らせつつ、躍動感があって爽快です。

 Disc2は名曲「Spectral Mornings」で開幕。パイプオルガンやシンセをバックに、浮遊感のあるハケットのギターが優しい音色で癒してくれます。天を舞うかのようなギターが至福の時間を与えてくれます。そしてここからジェネシス楽曲のターン。「Firth Of Fifth」は、本家ジェネシスのライブでは省かれてしまうイントロのピアノパートも、ロジャー・キングの見事な演奏でしっかり再現。ゲイリー・オトゥールのイケボに惹かれます。笑 そして一番の聴きどころである中盤の間奏が、再現度も高くてとても美しい。ギターソロはハケットのキャリアでも屈指の名演ですが、このライブでも見事な演奏を聴かせます。ライブに参戦してこれが生で聴けたのが本当に良かった。「Blood On The Rooftops」はハケットのライブでないと聴けないであろう佳曲ですね。繊細なアコギを中心とした寂寥感に満ちたサウンドと、ゲイリー・オトゥールの感情のこもったメロディアスな歌で、切ない気分にさせます。そして「Fly On A Windshield」「Broadway Melody Of 1974」のダークな眩惑メドレー。ダークですが美しさも兼ね備えていて、毎度このメドレーには鳥肌が立ちます。「Fly On A Windshield」で頂点まで緊張を高めた直後の「Broadway Melody Of 1974」での激しい歌唱。コーラスなのか会場の合唱か、ライブならではの演出も楽しませてくれます。またソロ曲に戻り、「Sleepers」は淡々としつつ寂寥感があって切ない。中盤からゴリゴリとヘヴィになり、加速。複雑に展開してスリリングです。終盤は分厚いコーラスの歌が焦燥感を煽ります。「Still Waters」では珍しくブルージーで渋い歌を聴かせた後は、定番の名曲「Los Endos」。オリジナルのイントロを付け加えた後に始まるスリリングな疾走曲。独自アレンジはイントロだけで、それ以降はかなり忠実。分厚いシンセの洪水なんて鳥肌ものです。やはりライブの締めに相応しい1曲で、大歓声が物語りますね。
 最後にアンコールで、ソロ曲より「Clocks」。時計のチクタク音のようなリズムに乗せて緊迫しつつもメロディアスなサウンドを聴かせます。そしてゲイリー・オトゥールの雨霰のような強烈なドラムソロ。ラストに壮絶な不協和音で締めます。
 
 
 ソロ曲も良いですが、やはり聴きどころはジェネシス往年の名曲たちでしょうか。本作も楽しめますが、ジェネシス名曲カバー中心の『ジェネシス・リヴィジテッドII』のライブツアーはもっと楽しめます。

Live Rails
Steve Hackett
 
Genesis Revisited: Live At Hammersmith (ジェネシス・リヴィジテッド・ライヴ・アット・ハマースミス)

2013年

 古巣ジェネシスのセルフカバーアルバム『ジェネシス・リヴィジテッドII』を引っさげて行ったツアーの模様を収録したライブ盤で、CD3枚組+DVD2枚組という大ボリュームです。このとき来日も果たしてくれたので是非ともライブに行きたかったのですが、GARNET CROWの解散ライブと日程が被って泣く泣く断念した思い出があります。
 スティーヴ・ハケットを支えるメンバーはナッド・シルヴァン(Vo)、ロジャー・キング(Key)、リー・ポメロイ(B)、ゲイリー・オトゥール(Dr/Vo)、ロブ・タウンセンド(Sax/W.W./Key)。更にゲストとして、アマンダ・レーマン、ニック・カーショウ、キング・クリムゾンのジャッコ・ジャクジクとジョン・ウェットン、マリリオンのスティーヴ・ロザリー。
 
 
 まずはDisc1、「Watcher Of The Skies」で開幕。重厚でシンフォニックなイントロから魅せますね。ゆったりしたテンポで展開するため全体的にはスリルは控えめで、リラックスして聴けます。ピーター・ガブリエルフィル・コリンズの中間くらいの声質のナッド・シルヴァンがこの楽曲を含め多くのボーカルを担当します。「The Chamber Of 32 Doors」はイントロから悲壮感たっぷりで、ハケットの泣きのギターも感傷的な気分にさせます。歌は時折ポップだからこそ、沈みゆくような陰鬱さが際立ちます。続いて「Dancing With The Moonlit Knight」。シアトリカルなボーカルパートを終えると、原曲の再現度が高くて見事な演奏パートを披露。とてもスリリングで、そして疾走感に溢れていて爽快です。そしてハケットのライブではお馴染みの「Fly On A Windshield」「Broadway Melody Of 1974」の『眩惑のブロードウェイ』メドレー。メロディアスですがダークでヘヴィな演奏は鳥肌もので、そして緊張を最大限高めた後の、ゲイリー・オトゥールの鬼気迫るボーカル。この2曲の並びはいつもゾクゾクします。歌が終わった後の神秘的な余韻も良いですね。「The Lamia」ではゲストのニック・カーショウが歌うメロディアスな歌を、ロジャー・キングの繊細なピアノが引き立てます。フルートの音色も美しいですね。全体的に悲哀に満ちていて、ひんやりと寒々しい印象です。終盤ではゲストのスティーヴ・ロザリーがハケットとともに泣きのギターを披露します。たまらなく良い。そして大作「The Musical Box」。ナッド・シルヴァンの落ち着いた歌が終わった後の、4分過ぎから始まるハードでダイナミックな演奏。これがとてもスリリングでカッコ良いのです。「Shadow Of The Hierophant」はジェネシスカバーではなくハケットのソロ作品からの選曲。アマンダ・レーマンがギターとボーカルでゲスト参加しています。ダークでメランコリックな演奏と、ファルセットを駆使してフワフワしたボーカルが対照的ですね。中盤メロディアスなギターを披露すると、後半はひたすらダークなフレーズを反覆しながらどんどん激しくなり、ラストは凄まじい緊迫感です。「Blood On The Rooftops」では一気に音数が減り、繊細なアコギソロで始まります。ゲイリー・オトゥールがイケボから徐々に感情たっぷりの怒号のような歌唱に変え、メランコリックな歌メロを引き立てます。

 続いてDisc2。前曲から引き続き『静寂の嵐』の曲順を再現、同作品の聴きどころである組曲がそのまま始まります。まずは「Unquiet Slumbers For Sleepers…」でひんやりと風が吹き抜けていくかのような寒々しい演奏を聴かせると、「…In That Quiet Earth」では手数の多いドラムとゴリゴリしたベースが煽ります。スリリングなリズム隊の上で優雅に歌うかのような、ハケットのメロディアスなギターが素晴らしいですね。またオーボエの音色も魅力です。強風が吹き荒れるかのような後半パートの激しさを乗り越えると「Afterglow」という平穏が訪れます。メロウな演奏に乗せて、ジョン・ウェットンが渋い声で歌います…良い声してますよね。ジョン・ウェットンの歌が終わると、アウトロが残ってるのに観客の歓声。単曲でも3曲セットでも魅力的な組曲でした。そしてナッド・シルヴァンにマイクを戻して「I Know What I Like」。ひねたポップセンスが光る1曲ですね。サックスソロなど即興的なアレンジも少し加えていて、ライブならではの楽しさが伝わってきます。続いて「Dance On A Volcano」はトリッキーな楽曲展開がスリリングな1曲。途中の加速からの込み入った展開は鳥肌ものですね。そして『トリック・オブ・ザ・テイル』の並びで続く「Entangled」。ジャッコ・ジャクジクとアマンダ・レーマンが歌います。繊細な演奏とメランコリックな歌メロが感傷的な気分にさせますね。秋から冬にかけての寒空を連想します。「Eleventh Earl Of Mar」ではロジャー・キングによる鍵盤の洪水。ハケットのライブなので音量は控えめですが、トニー・バンクスよりも安定感があるような気がします。笑 歌が少し高音が出ていないのが気になるところですが、ライブも終盤なので致し方なしでしょうか。そんな終盤にぶち込む超大作「Supper’s Ready」。よく体力残ってるなぁ。ピーター・ガブリエルのエキセントリックな歌には流石に届きませんが笑、奇怪で変態的な楽曲の再現度は高く、演奏も含めて見事な楽曲を披露します。収録時間27分半ありますが、ラスト3分は大歓声の中で挨拶やメンバー紹介してるので、演奏はほぼ原曲どおりです。

 最後にアンコールとしてDisc3。「Firth Of Fifth」は、本家ライブではバッサリカットされてしまう流麗なピアノパートもきちんと再現。ロジャー・キングの鍵盤はお見事ですね。そして聴きどころの中盤の演奏パートではオーボエがムーディで、流麗なピアノパートは会場の手拍子。華やかなシンセのバックでスリリングな演奏を展開するリズム隊、そして最大の聴きどころであるハケットの素晴らしきギターソロ…聴いていると恍惚感に包まれます。この楽曲については本家ジェネシスのライブよりも数段楽しめます。「Los Endos」は独自のイントロを付け加えて始まります。そして疾走感に溢れるスリリングな演奏に圧倒されます。合間に「Slogans」を挟んだり遊びながら、ラストは荘厳な雰囲気で締め括ります。やっぱりハケットのライブのラストと言えばこの楽曲で決まりですね。2時間半ほどの大変充実した時間を過ごすことができます。
 
 
 ジェネシスメンバーはスティーヴ・ハケットだけですが、原曲と比べてもほとんど違和感のない楽曲の数々で楽しませてくれる、プログレ期ジェネシスのベストライブ盤です。ナッド・シルヴァンはじめ、ボーカリストが本家に似てたり馴染んでたりというのが大きいですね。
 本家ジェネシスがその時点のオールタイムベスト選曲で、ライブにおけるポップ期楽曲の割合を増やしていく中、ハケットだけは昔のジェネシスにこだわり続けてくれるのがありがたい。本家もハケットも魅力的なライブを披露するので、気分に合わせてそれぞれのライブ盤を楽しむのが良いでしょう。

Genesis Revisited: Live At Hammersmith (3CD+2DVD)
Steve Hackett
 
Genesis Revisited: Live At The Royal Albert Hall (ライヴ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール)

2014年

 ジェネシスのセルフカバー曲に絞ったライブ。『ジェネシス・リヴィジテッド・ライヴ・アット・ハマースミス』とは異なり、今回はソロ楽曲は入っていませんね。ゲストと選曲が若干違うだけでほぼ同じなので、好みで選んで問題ありません。
 スティーヴ・ハケットをサポートするメンバーはナッド・シルヴァン(Vo)、ロジャー・キング(Key)、リー・ポメロイ(B)、ゲイリー・オトゥール(Dr/Vo)、ロブ・タウンセンド(Sax/W.W./Key)。スペシャルゲストとして、ロイネ・ストルト、紅一点アマンダ・レーマン、キング・クリムゾンエイジアで活躍したジョン・ウェットン、そしてジェネシスの3代目ボーカリストのレイ・ウィルソンが参加しているのもポイントでしょうか。本家での扱いはどうだったか分かりませんが、ハケットのライブではレイ・ウィルソンもジェネシスファミリーとして受け入れているようですね。
 
 
 ライブのオープニングは「Dance On A Volcano」フィル・コリンズピーター・ガブリエルのどちらにも似た雰囲気を持つナッド・シルヴァンのボーカルは安心感がありますね。また、ゆっくり聴かせたり加速したりとメリハリのある演奏も原曲に忠実で、そして重低音が利いていてカッコ良い。「Dancing With The Moonlit Knight」は叙情的な序盤の美しいこと。幻想的な演奏とピーター・ガブリエルさながらのボーカルに浸っていると、スリリングな疾走パートへ突入。原曲に忠実な、彩り豊かな演奏で楽しませてくれます。そしてゲイリー・オトゥールにマイクを渡して、深い深い暗闇へと突入する「Fly On A Windshield」。とてもダークな雰囲気ですが、ハケットのギターだけは天を舞うような魅惑的な演奏を聴かせます。そのまま続けて「Broadway Melody Of 1974」、ゲイリー・オトゥールのアツい歌唱が聴きどころですね。ハケットのライブでの定番メドレーで楽しませます。やっぱりこのスリリングな2曲は欠かせません。「The Carpet Crawlers」はレイ・ウィルソンが歌います。メロディアスな歌を若干渋みのあるカッコ良い声で歌い、中々魅力的ですが、彼にはハードロック系楽曲の方が合いそうだなとも思ったり。続いてナッド・シルヴァンが歌う「The Return Of The Giant Hogweed」。ジェネシスの中でも屈指の奇怪さと毒気に満ちた楽曲ですが、演奏含めて怪しい雰囲気を見事再現しています。ゲストギタリストとしてロイネ・ストルトが参加していますが、後半では切れ味抜群の荒々しく主張するギターソロを披露。ハードロックテイストな仕上がりです。「The Musical Box」はオルゴールのような幻想的なイントロからファンタジックな歌メロを展開。そして4分辺りからハードロック的な楽曲へと変貌。ギターの切れ味は鋭く、バタバタと激しいドラムはダイナミズムに溢れていて、とてもスリリングです。そしてハケットのギターソロ「Horizons」でひと息。繊細な音色でヒートアップした心を落ち着けた後は、スリリングな『静寂の嵐』組曲が始まります。「Unquiet Slumbers For Sleepers…」でロジャー・キングのひんやりとした質感のシンセで寒々しさを感じた後は、続く「…In That Quiet Earth」。ハケットが浮遊感に満ちたギターで舞うような演奏をする傍ら、リー・ポメロイのベースが重低音を鳴らして主張します。後半は鍵盤の嵐、そしてヘヴィな演奏で圧倒。全体を通してスリリングでカッコ良いです。そして組曲のラストは「Afterglow」。ナッド・シルヴァンの溜め気味の歌唱が、メロディアスで円熟味のある歌をじっくり味合わせてくれます。心地良い倦怠感があります。「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」はコミカルでキャッチー。楽しげな雰囲気で、途中ロブ・タウンセンドが陽気なサックスソロを聴かせてくれます。この改変はありですね。

 Disc2はロジャー・キングの流麗なピアノイントロが美しい「Firth Of Fifth」で幕開け。そしてボーカルにはジョン・ウェットン、渋い声でかなり力強く歌っていますね。聴きどころの間奏パートでは手拍子も入ったりして、心地良い演奏に揺られます。そして本作最大の魅力であるハケットの素晴らしいギターソロパートも、老いを感じさせない完成度の高さ。まさに職人ですね。「Ripples」はアマンダ・レーマンが歌います。消え入りそうな歌声と繊細なギターの音色がしんみりとした雰囲気を作ります。サビメロではノスタルジックで感傷的な歌メロの良さが活きていますが、か細くて聞き取りづらいのが少し残念。間奏の演奏パートはカットし、こじんまりとしたアコースティックな仕上がりです。続いてナッド・シルヴァンの歌う「The Fountain Of Salmacis」。キーボードが奏でる幻想的な音色に魅せられます。中盤からはスリリングに疾走した後、最後はメロトロンの響く幻想的な光景で締め括ります。そしてライブのラストには、奇怪な大作「Supper’s Ready」。これをラストに演奏する気力が凄いですね。7パートから成る、場面転換の激しい変態的な組曲を、高い再現度で演奏します。「A flower?」の合唱から始まるエキセントリックなボーカルの再現もお見事。そして奇怪な演奏はスリルを増し、激しい演奏と歌唱で圧倒した後に大団円。ラストのハケットのギターソロは至福のひとときを提供してくれます。
 アンコールとして始まるのは「Watcher Of The Skies」。どちらかと言えばライブのオープニング向きな気がしますが…。メロトロンの奏でる壮大なイントロから、躍動感のあるバンドサウンドが始まる瞬間がスリリングでたまりません。そして正真正銘ラスト曲「Los Endos」。やはりハケットのライブはこの楽曲がラストに相応しいですね。オリジナルのイントロが付け加わるのも定番だし、自身のソロ曲「Steppes」を間に挟む粋な計らいも。疾走感に溢れたノリノリの演奏で楽しませ、終盤は哀愁漂う荘厳な雰囲気でライブを締め括ります。
 
 
 『ジェネシス・リヴィジテッド・ライヴ・アット・ハマースミス』同様、本作もプログレ期ジェネシスのベスト選曲ライブが聴けます。前者より僅かにコンパクトに纏まっていますが、それでも2時間半近い大ボリュームで大満足できることには変わりませんので、選曲を見て決めると良いでしょう。

Genesis Revisited: Live At The Royal Albert Hall
(Limited Edition) (2CD+2DVD+Blu-ray)
Steve Hackett
Genesis Revisited: Live At The Royal Albert Hall (2CD+DVD)
Steve Hackett
 
 

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 古巣のバンド。プログレ黄金時代の名盤に貢献しています。

 
 イエスのクリス・スクワイアと結成したユニット。
 
 ジェネシスのバンド仲間達。
 
 いくつかの作品にゲスト参加しているクリス・スクワイアのソロ活動。
 
 
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