🇯🇵 加古隆 (かこ たかし)

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編集盤

「パリは燃えているか」 NHKスペシャル「映像の世紀」オリジナル・サウンドトラック 完全版

2000年

 作曲家でピアニストの加古隆は、1947年1月31日に大阪府豊中市で生まれました。正しい表記は加古「隆」(旧字体)だそうです。オリジナルアルバムの数は50を超えるそうで、有名どころだと『映像の世紀』や『白い巨塔』等の音楽を手掛けています。
 加古が音楽を担当した『映像の世紀』は1995年にNHKで制作・放送されていた番組で、世界各国の映像をかき集めて20世紀という時代を総括したドキュメンタリーです。時代の華やかな側面も描いていますが、強く印象に残っているのはモノクロ映像で流れる世界大戦や東西冷戦等の重苦しい空気感で、そんな映像を「パリは燃えているか」の悲壮感漂う重厚な演奏がドラマチックに引き立てるんです。リアルタイムでは観ていませんが、高校時代に世界史の授業で観る機会があってそこで知り、映像とともにこのテーマ曲に当時強い衝撃を受けました。ふと思い出したように聴きたくなることがあり、最近このサントラを購入。
 『映像の世紀』関連のサントラはいくつか種類が出ていますが、聴き馴染みのある「パリは燃えているか」のバージョン違いが多く収められ、かつそれ以外の楽曲も入って全19曲52分。長すぎずライトに聴くにはちょうど良さそうという理由で本作を手に取りました。

 メインテーマとなる「パリは燃えているか (オープニング・テーマ)」で幕開け。序盤から陰鬱な雰囲気が漂います。そしてピアノとストリングスが奏でる悲壮感に満ちた演奏。徐々に楽器が増えて壮大に盛り上げていきますが、終始重厚な雰囲気です。「時の刻印II」はピアノとオーボエを中心とした、神秘的な楽曲です。後半マリンバが加わって神秘性を増しています。「大いなるもの東方よりII」は勇壮なイメージ。シンフォニーを奏でつつ、低音は進軍するかのように一定のリズムを奏でます。後半はシンフォニーはそのままに低音パートを取り払って、代わりにパーカッションがアクセントとして神秘的な音を演出。そして「パリは燃えているか (ピアノ・トリオ・ヴァージョン)」。ピアノとチェロ、ヴァイオリンでしょうか。聴き馴染みのあるメインテーマを、音数少なくも美しく聴かせてくれます。原曲より心穏やかに聴けます。続く「最後の海戦」はスリリングな1曲。ホーンが不穏で緊迫した空気を作り出し、時計のチクタク音のようなパーカッションも煽ります。後半に入ると、より緊張感のある局面に差し掛かったような印象。「森は失われた」ではアコギとピアノが優しい音を奏でます。そしてフルートの震えるような音も美しい。タイトルとは真逆の優美な印象を受けるのですが、そんな森が失われたんだというメッセージでしょうか。「パリは燃えているか (オルガン・ヴァージョン)」はチャーチオルガンで奏でています。暗くメランコリックなメロディがオルガンで奏でられると、レクイエムのような、とてつもなく悲劇的な印象を受けます。聴いていて怖い。「ワン・ワールド」は1980年代ポップスのような、メロウでドリーミーな鍵盤が印象的な楽曲で、他とは少し毛色が違う感じがします。そんな夢心地から一転、「狂気の影」では管楽器が強烈に不穏な空気を作り出しています。そして呻き声のような低音パートに乗せて、不協和音が狂気を演出しています。続いて「パリは燃えているか (オーケストラ・ショート・ヴァージョン)」。前半はオーケストラが悲壮感の漂うメロディを奏で、後半は音数を一気に減らしてピアノが悲しげな音色を静かに奏でます。「シネマトグラフIII」はヴァイオリンが憂いのある暗いメロディを届けます。音数は少なく、美しくも重たい雰囲気です。「最後の海戦II」は「最後の海戦」のジャズアレンジ。ジャジーなドラムやサックスが洒落ていて、不穏さは少ないのでリラックスして聴けます。「パリは燃えているか (ブラス・ヴァージョン)」は遠くでラッパを吹いているような、ぼんやりとした柔らかい雰囲気。メリハリのついた華やかなトランペットを勝手に想像していましたが、むしろそよ風のような優しい感覚です。「未来世紀」はフルートやクラリネットが優しい、神秘的で牧歌的な1曲。続く「ザ・サード・ワールドII」はヴァイオリンとクラシックギターが、どこかエキゾチックな雰囲気を作り出します。まったり聴き浸っていると時折スリリングな演奏を披露したり。そして「パリは燃えているか (ジャズ・ヴァージョン)」。原曲を少し崩して、ジャジーでリラックスして聴けるアレンジに仕上がっています。「時の刻印III」はピアノとヴァイオリン(ヴィオラ?)が中心で、楽器が少し違いますね。M2と違ってマリンバもありません。「睡蓮のアトリエII」はフルートがとても美しい音色を奏でる1曲。ピアノと合わさって、優美で癒やしの空間を提供してくれます。アルバムを締めるのは「パリは燃えているか (ピアノ・ソロ・ヴァージョン)」。ため気味のゆったりとしたピアノソロが美しいです。

 聴き馴染みのある「パリは燃えているか」のバージョン違いがちょいちょい入ってくるため、通しで聴いてもだれないのが良いです。でも、手を加えていない「パリは燃えているか (オープニング・テーマ)」が一番魅力的ですね。

「パリは燃えているか」 NHKスペシャル「映像の世紀」オリジナル・サウンドトラック 完全版
加古 隆
 
 
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