🇬🇧 The Beatles (ザ・ビートルズ)
目次
編集盤
1973年
『赤盤』の通称で親しまれるビートルズの前期ベスト盤で、ロックンロールで始まりサイケ化する頃までの時期から選曲されています。発売当初はジョージ・ハリスンが選曲したと言われていましたが、実はマネージャーのアラン・クレインが選曲したそうです。『ラバー・ソウル』からの選曲が多めで『リボルバー』成分が少ないのがちょっとだけ物足りない(「Tomorrow Never Knows」が欲しかった)ですが、全体的に良い楽曲が揃っていて魅力的。トータル60分ちょっとですが、レコード時代の名残でCD化しても2枚組構成が保たれています。全楽曲がジョージ・マーティンのプロデュース。
Disc1は「Love Me Do」で幕開け。ハーモニカの音色が時代を感じさせますが、ポップなメロディは思わず口ずさみたくなるほどキャッチーですね。「Please Please Me」もキャッチーなハーモニカで幕を開けます。これが耳に残る良いフレーズ。ジョン・レノンのキャッチーな歌を心地良いコーラスで飾ります。名曲ですね。テンポは速めですがリラックスした雰囲気の「From Me To You」を挟んで、「She Loves You」は緊張感が漂うスリリングな演奏と、ちょっと憂いのあるメロディが特徴的。そして「I Want To Hold Your Hand」は邦題「抱きしめたい」で知られる名曲。リラックスした演奏に、メロディアスで甘い歌が聴けます。いいメロディです。「All My Loving」は跳ねるように心地良い演奏とキャッチーなメロディで、メロディメイカーのポール・マッカートニーの才能の片鱗が見えます。ポールの歌声もいいですね。「Can’t Buy Me Love」はジョンの弾く小気味良いアコギが特徴的。スウィングするような演奏も爽快です。「A Hard Day’s Night」はロックンローラーであるジョンの才能が発揮された初期の傑作曲の一つですね。ノリの良い演奏に耳に残る歌メロ。なおタイトルは文法的には誤っているのですが、リンゴ・スターの独特の言い回しにより採用されました。続く「And I Love Her」はメロウで落ち着いた雰囲気です。メロディアスな歌をゆったり聴かせます。「Eight Days A Week」もまた、リンゴの独特の言い回しがタイトルに。ハンドクラップに合わせ歌うジョンの歌は爽やかですね。「I Feel Fine」はジョンとジョージの弾く独特のギターリフが特徴的。そして名曲「Ticket To Ride」、邦題「涙の乗車券」。本作収録曲のほとんどが2分台の楽曲ですが、これだけは唯一3分ちょっとあります(それでも短い…)。ジョンの歌う哀愁あるメロディアスな歌が魅力的です。「Yesterday」は「世界で最も多くカバーされた曲」のギネス記録を持つ、ビートルズでも指折りの名曲です。ポールのアコギ弾き語りに弦楽四重奏を被せたシンプルな演奏で、ポールが夢の中で聞いたという神がかったメロディが素晴らしいんです。
続いてDisc2。「Help!」はジョンがメインで作ったノリの良いロックンロールで、よくテレビ等でも流れる名曲ですね。イントロもなく頭サビで始まる構成で、全編通して口ずさみたくなるようなキャッチーさに溢れています。小気味良いギターやドラムに加え、ベースラインも心地良い。続く「You’ve Got To Hide Your Love Away」はジョンが12弦ギターを弾き、牧歌的な雰囲気も漂います。しゃがれ気味のジョンの低音ボーカルが渋い。「We Can Work It Out」はポールの歌うフォーキーなナンバー。アコギやタンバリンが牧歌的な雰囲気を醸し出します。ハーモニウムがアクセント。続いて優れたギターリフが耳に残る「Day Tripper」。ノリの良いこの楽曲はLSDをテーマにしたドラッグソングで、メンバーがLSDを服用し幻覚症状を見たことがこの楽曲制作のキッカケだったのだとか。そして薬物服用により中期ビートルズの音楽はサイケデリック化を遂げることになります。「Drive My Car」はグルーヴ感のあるリズムが特徴的で、R&Bを取り入れたようです。ポールによるシャウト気味のパワフルな歌唱が耳に残りますね。「Norwegian Wood (This Bird Has Flown)」はアコースティックな名曲です。ジョージの弾く12弦アコギやシタールが、牧歌的な心地良さと異国的なちょっとした違和感をミックスさせ、楽曲を強く印象づけます。なおポピュラーミュージックでシタールを使用した初の試みだったそうで、その後ジョージはインド音楽に傾倒していきます。「Nowhere Man」はアカペラでハモる冒頭をはじめ、途中から楽器が加わっても主役は美しいコーラスワーク。ロックンロールを演奏していたバンドでしたが、この頃から「アーティスト」に変わった印象です。「Michelle」は哀愁のあるアンニュイでメロディアスな歌が特徴的。フレンチポップスのような雰囲気が漂いますが、歌詞にフランス語が使われているからかもしれない。笑 続く「In My Life」は穏やかな日差しのような温かいサウンドです。チェンバロ風の音色は、ゆっくり弾いたピアノ演奏を倍速で再生することでこのような音になったようです。「Girl」はメランコリックなメロディを、ジョンが終始気だるくアンニュイに歌います。憂いの満ちたアコギも切なくなります。「Paperback Writer」はアップテンポの爽快なナンバー。タイトな演奏ですが、ポールの爽やかなボーカルが前面に出てポップな印象に仕上げます。そして「Eleanor Rigby」はポールの歌うメロディアスな歌を、緊張感のあるストリングスがドラマチックに仕上げます。美しい名曲です。最後は「Yellow Submarine」で、ポップな曲に、潜水艦を意図した効果音が楽しく飾り立てます。リンゴの愛嬌あるボーカルに癒やされますね。
「Love Me Do」に始まり「Eleanor Rigby」や「Yellow Submarine」でアルバムを終えるまでに、ビートルズの劇的な進化が見られます。中期のアーティスティックに目覚めたビートルズは名曲揃いだし、初期のシンプルなロックンロールも良いメロディに溢れていて魅力的です。『青盤』とセットで押さえたいですね。
左:『赤盤』単品。
右:『赤盤』と『青盤』のセット盤。
1973年
『青盤』の通称で親しまれるビートルズの後期ベスト盤で、サイケ期を経てメンバーの個性が爆発する時期をうまく押さえた選曲となっています。ジョン・レノンとポール・マッカートニーの二人の天才だけでなく、ジョージ・ハリスンの3大名曲や、数少ないリンゴ・スター作の楽曲も収録。ほぼ大半がジョージ・マーティンのプロデュースですが、一部の楽曲はフィル・スペクターが手掛けています。
本作は『赤盤』と同時発売され、『赤盤』は全英3位・全米3位を獲得、こちらの『青盤』は全英2位・全米1位を獲得しています。ジャケットアートも赤青ともに同じ場所・構図で、メンバーの成長が写真にも表れていますね。
Disc1、まずはジョン作の名曲「Strawberry Fields Forever」。フルートのような音はメロトロンという楽器。ゆったりとした曲にジョンのアンニュイな歌がメロディアスな旋律を歌います。また、リンゴのドラムも中々良いんですよね。「Penny Lane」はポール作の楽曲で、「Strawberry Fields Forever」と両A面シングルとなりましたが、件の楽曲とは対照的にポップなメロディが魅力的。明るい気分になれる楽曲です。続いて「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」を皮切りに、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の肝となる3曲メドレーが繰り広げられます。まず1曲目ですが、少しハードなギターに比較的どっしりとしたドラムが力強さを見せます。ポールの歌もパワフルですね。そのまま「With A Little Help From My Friends」へ。リンゴの気の抜けたボーカルがポップなメロディを歌い、素朴で心地良い印象。そして「Lucy In The Sky With Diamonds」はジョン作のサイケデリックな名曲。タイトルの頭文字を取るとLSDになるというのも有名ですね。ポールの弾くオルガンに、ジョージのタンブーラ(インドの楽器)がトリップ感のある世界へ誘います。ヴァースとコーラスの不自然な繋ぎ方もインパクトがあり、それでいて耳に残る良質なメロディで大好きです。続いて元祖(?)プログレ「A Day In The Life」。1番と2番で全く異なるメロディですが、それ以上に衝撃的なのがビートルズの演奏を呑み込むオーケストラの不協和音。まるで夢と現を行き来するような感覚を与えます。なおアルバム収録版と違って、ラストの無限ループする笑い声はカットされています。「All You Need Is Love」、邦題「愛こそはすべて」はCM等にも起用される有名曲ですね。フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」で始まり、甘くてキャッチーなメロディが繰り広げられます。それでいて4拍子と3拍子を組み合わせたトリッキーなリズムを刻みます。「I Am The Walrus」はオアシスのカバーでも有名ですね。メロディは耳触りが良いですが、若干歪んだサイケな音色や不気味な笑い声などの演出は奇怪で、そしてトリップ感を生みます。「Hello, Goodbye」は口ずさみたくなるようなキャッチーなメロディに加え、歌詞もシンプルでわかりやすいので取っつきやすいですね。「The Fool On The Hill」はポール作のメランコリックな楽曲で、リコーダーの音色がノスタルジックで哀愁を誘います。リコーダーソロパートは込み上げてくるものがあります。そして名曲「Magical Mystery Tour」。トランペットが華やかなイントロから一気に引き込まれます。キャッチーなメロディとノリの良い演奏が爽快な楽曲で、コーラスワークも耳に残りますね。私は幼い頃にTVでこの曲を聞いていたこともあり、特別な思い入れがあります。「Lady Madonna」は跳ねるようなピアノと手拍子がノリの良い1曲ですね。そして続くのは、ビートルズ屈指の名曲「Hey Jude」。個人的にはポールの最高傑作にしてビートルズで一番好きな楽曲です。イントロなく歌とピアノ伴奏で始まり、反復しながら徐々に盛り上がっていく展開。ポールの憂いのある歌もどんどんと力が入り、シャウト気味に感情を表現します。ラストは「ナーナーナー ナナナーナー」をしつこいくらい反復しますが、やっぱりこれは欠かせないですね。壮大でドラマチックです。「Revolution」はジョン作のヘヴィなロックンロール。荒々しいギターが唸るガレージロック風のバンド演奏に乗せて、気だるく心地良いロックンロールが繰り広げられます。なお派生系としてスローな「Revolution 1」と実験的な「Revolution 9」が『ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム)』に収録されています。
Disc2はポール作の爽快なハードロック曲「Back In The U.S.S.R.」で開幕。チャック・ベリーの「Back In The U.S.A.」をパロって、ソ連に帰ってきた喜びを歌っています。このせいでビートルズにソ連スパイの疑惑がかかったのだとか。笑 ノリが良くて大好きな楽曲です。「While My Guitar Gently Weeps」はジョージ3大名曲の一つ。引き締まった演奏はシリアスな雰囲気ですが、ジョージのアンニュイな歌声がこの楽曲に美しさを与えています。なおジョージの友人エリック・クラプトンが参加し、この頃既に険悪になっていたビートルズのバンド仲を和ませる役割を果たしたそうです。「Ob-La-Di, Ob-La-Da」はポール作のキャッチーな楽曲で、ジャマイカ音楽のスカに影響を受けたのだとか。跳ねるような演奏と手拍子に、口ずさみたくなるようなポップな歌メロが心地良いですね。「Get Back」は険悪になったメンバー仲をやり直す意味で「もう一度やり直そうよ」という思いを込め、初期のようなシンプルなロックンロールに回帰。演奏レベルは初期と比べて格段に上がっていますね。なお歌詞に出てくる「Jojo」は、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のジョジョの名前の由来にもなっていますね。「Don’t Let Me Down」はメロウで落ち着いた曲調ですが、時折ジョンが強烈にシャウトします。「The Ballad Of John And Yoko」はジョンとポールの2人だけでレコーディングした楽曲で、ポールのリズムセクションが際立ってノリが良く、そしてジョンのスライドギターも心地良い。「Old Brown Shoe」はジョージ作の楽曲です。ベースが中々良いのですが、これはジョージが弾いているのだそう。そして個人的にジョージ最高傑作の「Here Comes The Sun」。これもジョージ3大名曲の一つですね。木漏れ日のような柔らかいアコギに、甘く優しい歌声を聴いていると温かい気持ちになります。全体的にアコースティックな雰囲気でありながら、ムーグシンセを用いたり新しい試みも見られます。『アビイ・ロード』を大傑作に押し上げたのも、この楽曲の貢献が大きいと思っています。続いて「Come Together」はジョン作のロック曲。全体的に淡々としていますが、力強いリズム隊をはじめクールでカッコ良いんですよね。「Something」はジョージ3大名曲の一つで、ビートルズの楽曲では「Yesterday」に次いでカバーされているという人気曲です。リラックスしたギターと、メロディアスに歌う優しい声に癒やされますね。中盤のダイナミックな演奏も魅力的です。「Octopus’s Garden」は数少ないリンゴ作曲の楽曲。リズミカルな演奏に乗せて、愛嬌ある歌声で歌うのでほっこりします。ジョージのギタープレイも魅力的ですね。そして名曲「Let It Be」。卒業式の定番曲の一つでしょうか。ピアノ伴奏に乗せてメロディアスに歌うポール、ゴスペルのようなコーラスワーク。流石稀代のメロディメイカーですね。本当に良い曲で心が洗われるかのようです。続いて「Across The Universe」ですが、個人的にはジョンの最高傑作です(ソロでの名曲「Imagine」より好きかも…)。アコギを弾きながら、くぐもった歌声で良質なメロディを届けます。アコースティックで親しみやすさを出しつつも、薄っすら聞こえるストリングスや合唱が神々しさを醸し出します。あとデヴィッド・ボウイのソウルフルなカバーバージョンも個人的に好きです。ラスト曲はポールの「The Long And Winding Road」。メロディアスな楽曲をオーケストラが優美に彩ります。プロデューサーのフィル・スペクターによるこの過剰なアレンジにポールは激怒したそうですが、ドラマチックな仕上がりにはなっています。
個人的にはビートルズの最高傑作にして、世に溢れる様々なベスト盤の中でも最高のベスト盤だと思っています。名曲揃いなだけでなくアイディアの宝庫で、ロックやポップスの可能性を極限まで広げたビートルズの試みは感服します。
左:『青盤』単品。
右:『赤盤』と『青盤』のセット盤。
1988年
ビートルズのオリジナルアルバムに収録されなかった楽曲を纏めた編集盤です。オリジナルアルバムに起用されたシングルについては別テイクが収録されていたりします。当初CDで『Past Masters Vol.1 (パスト・マスターズ Vol.1)』と『Past Masters Vol.2 (パスト・マスターズ Vol.2)』という2作品で発売され、追ってこれらを纏めたレコード『Past Masters Vol.1&2 (パスト・マスターズ)』がリリース。2009年のBox化に際して、Vol.1とVol.2を統合・改題して現在の形態になりました。
まずはDisc1、旧『パスト・マスターズ Vol.1』。「Love Me Do (Single Version)」は『プリーズ・プリーズ・ミー』収録のものとは別テイクが採用されているそうです。ハーモニカが渋い音を出し、シンプルなベースが心地良いですね。「From Me To You」はジョン・レノンとポール・マッカートニーのツインボーカルがポップで心地良いメロディを歌います。「Thank You Girl」はシングル『From Me To You』のB面曲。『赤盤』でも聴けないのでレア感があります。時折ジョンの歌にエコーをかけて色っぽい感じ。「She Loves You」は勢いがありますが、少し哀愁のあるメロディアスな歌が相まって焦がれるような印象。良曲ですね。「I’ll Get You」はシングル『She Loves You』のB面曲で、ゆったりとした牧歌的な雰囲気。そして名曲「I Want To Hold Your Hand」。キャッチーなメロディが耳に残るロックンロールですね。英国はもちろん1位ですが、ビートルズの初全米1位獲得シングルだったとか。「This Boy」はシングル『I Want To Hold Your Hand』のB面曲。ジョンの歌をコーラスで彩り、ゆったりとして優しい雰囲気が漂います。
そして「Komm, Gib Mir Deine Hand」ですが、これはドイツ語版の「I Want To Hold Your Hand」です。聴き慣れたメロディですが、語感が違い意外性があって楽しめます。「Sie Liebt Dich」はドイツ語版「She Loves You」。こちらはサビメロの語感がオリジナルに比較的近いのですが、それ以外のパートはドイツ感全開でやや堅めな印象。
ここからはEP『Long Tall Sally』より。「Long Tall Sally」はリトル・リチャードのカバー曲で、ポールがシャウト気味に歌うロックンロールです。ここまでの楽曲までと比べて音がクリアになり、キレもあって爽快です。「I Call Your Name」はジョンの歌う楽曲。間奏でリズムが変わるのですが、ジャマイカ音楽のスカを試験的に取り入れたのだそう。「Slow Down」はラリー・ウィリアムズのカバー曲で、ジョンが低いトーンでパワフルに歌うロックンロールです。ジョージ・マーティンの弾くピアノがアクセントになっていますね。「Matchbox」はカール・パーキンスのカバーで、リンゴ・スターがボーカルを取ります。軽快でノリの良いロックンロールを展開。
「I Feel Fine」はフィードバック奏法が用いられた最初期の楽曲だそうです(冒頭だけですが)。ジョンとジョージ・ハリスンの弾くギターリフが特徴的ですね。「She’s A Woman」は『I Feel Fine』のB面曲で、ポールがパワフルに歌います。キレのあるギターが爽快です。「Bad Boy」はラリー・ウィリアムズのカバーで、ジョンが歌うロックンロール。若干キンキンしたギターが心地良いアクセントになっています。「Yes It Is」は『Ticket To Ride』のB面曲。ゆったりとした曲調にスティールギターの音色が癒やしです。そして「I’m Down」は『Help!』のB面曲。ポールがパワフルに歌うロックンロールです。終盤は演奏もかなり激しくてドタバタしています。
ここからはDisc2、旧『パスト・マスターズ Vol.2』。「Day Tripper」はギターリフが耳に残る楽曲ですね。ノリの良い楽曲ですが、LSDに影響を受けたドラッグソングだそうです。「We Can Work It Out」はポールの歌うフォーキーな楽曲で、アコースティックな演奏に加わるハーモニウム(リードオルガン)がアクセント。初期楽曲群と比べ演奏技術も大きく向上しています。「Paperback Writer」はノリ良くキレのあるイントロから惹き込まれます。ドライブ感のある爽快な1曲で、キャッチーなメロディとともに耳に残りますね。「Rain」はシングル『Paperback Writer』のB面曲で、ジョンの歌がとても気だるげです。テープ速度を変えたり逆再生を仕込んだりした、実験的でサイケデリックな楽曲です。リンゴのドラムがカッコ良い。「Lady Madonna」は跳ねるようなピアノが爽快な、ポールの歌うロックンロールです。演奏は躍動感がありますが、ノリの良い演奏に比べると歌は抑え気味な印象。続く「The Inner Light」はジョージ作の楽曲で、『Lady Madonna』のB面曲。インド音楽全開で、本作の流れで聴いていても異色な1曲です。でもジョージの歌は甘く優しくて良いですね。そして名曲「Hey Jude」。ベタですが私はこれがポールの最高傑作だと思います。メロディアスなフレーズを反復しながら盛り上がっていき、ポールも優しい歌声で始まったのにラストはシャウトしっぱなし。笑 最後のしつこいくらいの大合唱も含めて、素晴らしい名曲です。「Revolution」はシングル『Hey Jude』のB面曲。初っ端からジョンのシャウトが強烈ですね。荒々しいギターを鳴らしながらも、心地良い気だるさがあるロックンロールです。「Get Back」はひび割れたメンバー仲を戻そうと「原点回帰」を目論んだセッションにて制作(結局セッションは失敗に終わり解散になってしまいましたが)。なおゲストのビリー・プレストンがピアノ参加しており、シングルは「The Beatles With Billy Preston」名義でのリリースとなります。またアルバム『レット・イット・ビー』と少しアレンジを変えているのだとか。「Don’t Let Me Down」はシングル『Get Back』のB面曲。メロウな演奏に乗せてジョンがソウルフルに歌い、サビでは悲痛のような叫びで染み入ります。渋くてアツい名曲です。「The Ballad Of John And Yoko」はジョンとポールの2人でレコーディングに臨んだ楽曲です。キャッチーなメロディで耳に残ります。演奏全般ノリが良いですが、特にグルーヴ感溢れるベースがカッコ良いですね。続く「Old Brown Shoe」は『The Ballad Of John And Yoko』のB面曲でジョージの作。ジョージの弾くベースが中々心地良いです。そしてジョンの名曲「Across The Universe (World Wildlife Fund Version)」。チャリティアルバムへ提供した楽曲で、『レット・イット・ビー』や『青盤』とは異なるアレンジです。鳥のさえずりで始まり、女性コーラスが加わっているのが特徴的ですが、少し煩わしい…。続いてポール作の「Let It Be」ですが、ビートルズを代表する素晴らしい名曲ですね。ピアノ伴奏をバックにポールのメロディアスな歌が乗り、ゴスペルのようなコーラスワークも加わって厳かな雰囲気。そして楽曲を徐々に盛り上げる演奏がまた魅力的なのです。ラスト曲「You Know My Name (Look Up The Number)」はシングル『Let It Be』のB面曲です。ソウルフルな歌を披露したかと思えば、プリミティブなパーカッションをバックにブツブツ。ふざけたやり取りを展開したり、おちょくったような楽曲です(そういうお遊びもビートルズらしいですが)。
『赤盤』や『青盤』と一部ダブる選曲もありますが、全体的にはやや地味な印象。名曲は『赤盤』や『青盤』で聴けば良いので、本作はレアトラック集に近いですね。ドイツ語バージョンとか面白い楽曲も聴けます。
ライブ盤
2016年
本作は1964年8月と1965年8月に米国のハリウッド・ボウルで行われたライブの模様を収めたライブ盤です。当初録音状態が悪くてお蔵入りするはずだったものですが、音質の悪いライブ音源が海賊盤として出回ったことから、ジョージ・マーティンのミックス作業を経て1977年に『The Beatles At The Hollywood Bowl (ザ・ビートルズ・スーパー・ライヴ!)』の名前でリリース。その後約40年の時を経て、2016年にドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK – The Touring Years』公開に伴い、本作も改題・ボーナストラックを追加してリマスター再発されました。ボーナストラック含めて全17曲、トータルは43分しかありません。
黄色い声援で白熱する中で始まる「Twist And Shout」。ビートルズの熱狂的なアイドル人気が窺えます。ゆったりペースですが1番だけで終わるため僅か1分半。声が枯れそうなくらいに激しいシャウトをかますジョン・レノンの歌が爽快ですね。続く「She’s A Woman」はポール・マッカートニーに交代。高らかに歌います。ギターソロがご機嫌ですね。「Dizzy Miss Lizzy」はリンゴ・スターのパワフルなドラムが爽快で、またジョージ・ハリスンの弾くギターも耳に残りますね。ジョンの歌うノリの良いロックンロールです。MCを挟みますが、歓声が凄い。笑 そして名曲「Ticket To Ride」。独特のドラムパターンに乗せてキャッチーなメロディラインに魅せられます。ライブだからか、ジョンの歌唱はスタジオ録音のものより激しい気がします。ポールの歌うノリノリのロックンロール「Can’t Buy Me Love」を挟んで、ここから1964年の別公演へ。でもMCを挟んで自然に繋いでいます。「Things We Said Today」は落ち着いて少し影のある雰囲気ですが、中盤の掛け声のパートでは大歓声が上がります。「Roll Over Beethoven」はジョージが歌います。激しいドラムをはじめ、パワフルで荒々しいロックンロールを展開。スタジオ盤ではあまり味わえない、激しいビートルズが中々面白いです。続く「Boys」はリンゴがボーカルを取ります。歌唱もドラムもパワフルで、またポールの暴れ回るベースも心地良い。ここから2曲は1965年の公演より。名曲「A Hard Day’s Night」は、前2曲の激しい楽曲に比べると若干テンポが落ちて激しさが足りないような感じもします。「Help!」はキャッチーな歌メロが魅力的なロックンロールですね。演奏では、パワフルなドラムや低音を響かせるベースが際立ちます。「All My Loving」もキャッチーでポップなメロディが魅力的ですね。ポールとジョンのハモる場面がとても良い。そんな歌すら埋もれそうなくらいに力強い演奏も、結構楽しいです。「She Loves You」はジョンの歌う焦燥感溢れる頭サビで幕開け。切れ味があってスリリングです。MCを挟んで、ポールの歌う「Long Tall Sally」。激しいロックンロールを披露し、演奏はどんどん勢いを増していきます。カッコ良い。
ここからは2016年の再発で追加されたボーナストラックで、「You Can’t Do That」で幕開け。アルバムの流れで聴くとテンションが少し落ちるので、前曲で白熱のラストを迎えた後にアンコールを聴くような感じでしょうか。続く「I Want To Hold Your Hand」は口ずさみたくなるようなキャッチーなメロディで魅せます。本作全編通してちょっと煩わしい歓声が、ここでは気分を高揚させるのに役立っているかも。そしてジョージが歌うロックンロール「Everybody’s Trying To Be My Baby」を披露した後は、ラスト曲「Baby’s In Black」。このライブ盤通してノリの良いロックンロールが多いのですが、こちらはゆったりとした楽曲で、メロディアスな歌を聴かせます。でもドラムは結構激しいですね。
ミックスのせいか、終始大音量の黄色い声援が煩わしいのが玉に瑕。笑 ただ、スタジオ盤には無いような激しさも見せ、後半に向かうにつれてどんどんテンション高くなっていきます。スリリングで楽しめるライブです。
Boxセット
外装:
内容:
価格:
総合:
収録作品
評 価 | タイトル | 商品情報 |
---|---|---|
55点 | Please Please Me (プリーズ・プリーズ・ミー) | 1963年 1stアルバム 2009年リマスター |
55点 | With The Beatles (ウィズ・ザ・ビートルズ) | 1963年 2ndアルバム 2009年リマスター |
65点 | A Hard Day’s Night (ハード・デイズ・ナイト) | 1964年 3rdアルバム 2009年リマスター |
40点 | Beatles For Sale (ビートルズ・フォー・セール) | 1964年 4thアルバム 2009年リマスター |
75点 | Help! (ヘルプ!) | 1965年 5thアルバム 2009年リマスター |
85点 | Rubber Soul (ラバー・ソウル) | 1965年 6thアルバム 2009年リマスター |
95点 | Revolver (リボルバー) | 1966年 7thアルバム 2009年リマスター |
90点 | Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド) |
1967年 8thアルバム 2009年リマスター |
80点 | Magical Mystery Tour (マジカル・ミステリー・ツアー) | 1967年 9thアルバム 2009年リマスター |
85点 | The Beatles (ザ・ビートルズ) | 1968年 10thアルバム 2009年リマスター |
35点 | Yellow Submarine (イエロー・サブマリン) | 1969年 11thアルバム 2009年リマスター |
95点 | Abbey Road (アビイ・ロード) | 1969年 12thアルバム 2009年リマスター |
70点 | Let It Be (レット・イット・ビー) | 1970年 13thアルバム 2009年リマスター |
50点 | Past Masters (パスト・マスターズ) | 1988年 編集盤 2009年リマスター |
– 点 | The Mini Documentaries (ミニ・ドキュメンタリー) | BONUS DVD |
通称『The Beatles: Stereo Box』。ビートルズの全オリジナルアルバム(ステレオ音源)と編集盤『パスト・マスターズ』、ドキュメンタリーDVDを収録した14作品/16CD+1DVDの大ボリュームBoxセットになります。なおモノラル音源を収録したBoxセット『The Beatles In Mono (ザ・ビートルズ MONO BOX)』も同時発売されています。ちなみに米国独自編集盤である『マジカル・ミステリー・ツアー』は、本作で「オリジナルアルバム9作目」に格上げさられました。
外箱はしっかりとした作りになっていて、縦長のBoxはCD2枚分を中に収められるサイズ。各作品はデジパック仕様で、1作品ごとクオリティの高いパッケージです。但し私が購入した輸入盤には保護スリーブは付いていなかったので、気になる方は別買いしたほうが良いかもしれません。
ロックの歴史的には「どれもが一聴の価値あり」、そんな建前を抜きにしても個人的には半分以上の作品が大当たりでした。2009年リマスター盤を纏めて手に入れられる貴重なBoxセットですが、このあと『サージェント・ペパーズ〜』、『ザ・ビートルズ』、『アビイ・ロード』はそれぞれ50周年記念盤がリリースされており、本Boxセットの価値は相対的には若干下がったかもしれません。
ちなみにこの頃の市場ではCDの新規格としてSACDが注目されていました。ですが、ビートルズが本リマスター再発においてSACDを採用せず従来のCDでリリースしたことで、SACDという規格はオーディオマニア向けに留まってしまいます(ハイレゾ音源の登場で再び盛り上がりますが、そもそもフィジカルで購入する層が減少しています)。そんな次期規格競争にも本作は大きな影響を与えています。
さて本Boxセットの価格ですが、2021年2月現在で新品3.5万円程度(輸入盤マーケットプレイス)。発売当時の輸入盤は2万円前後だったと思いますので、高騰し始めている印象です。
私はBoxが出る前に5枚くらい持っていましたが、Boxで買い直したことで出会った名盤もあり、個人的には購入して正解でした。但し値段が高騰し始めていることや、あとから個別に出た50周年リマスター等の要素を考えると、現時点ではこれが最適解かと言われると若干怪しいですね。
左:輸入盤。レビューはこちらになります。
右:国内盤。2021年2月現在、かなり高騰している感があります。
関連アーティスト
ボーカル兼リズムギター担当のジョン・レノンのソロ活動。
ボーカル兼ベース担当のポール・マッカートニーのソロ活動。
リードギター兼ボーカル担当のジョージ・ハリスンのソロ活動。
ドラマー兼ボーカル担当のリンゴ・スターのソロ活動。
ビートルズをメタリカ風に演じるトリビュートバンド。
類似アーティストの開拓はこちらからどうぞ。