🇬🇧 The Cure (ザ・キュアー)

編集盤

Japanese Whispers (日本人の囁き)

1983年

 1982年から1983年にかけて発売されたシングルを収録した編集盤。時期的には『ポルノグラフィ』直後のサイモン・ギャラップ脱退後のシングルを収めており、ロバート・スミス(Vo/Gt/B/Key)と、ドラマーから転向したロル・トルハースト(Key)の2名が軸になります。一部の楽曲はフィル・ソーナリー(B)、アンディ・アンダーソン(Dr)、スティーヴ・ゴールディング(Dr)らがサポート。僅か30分にも満たない作品なのでサクッと聴ける手軽さがあります。

 怪しげなダンスポップ曲「Let’s Go To Bed」で始まります。跳ねたリズムにグルーヴ感のあるベースが心地良く、それでいながらメロディはどこか怪しい雰囲気。続く「The Dream」も変な楽曲なんです。華やかなサウンドなんですが、ヘタな演奏は統率が取れておらずチグハグ感があります。リズムはダンサブルなのに、奇妙な演奏は上手くノれないという…。「Just One Kiss」は不穏でダークな雰囲気が漂います。緊迫感があるものの、ダンサブルなリズムとシンセの多用によって不思議と心地良い感じ。若干のエスニック要素も、不思議な感覚を生み出すのに一役買っている気がします。疾走感のあるダンスチューン「The Upstairs Room」は、音色が少し東洋っぽい。ヘタクソだし変なメロディですが、ポップで楽しい楽曲です。
 レコードでいうB面は「The Walk」で幕開け。わざとらしいシンセが爽快で、ニュー・オーダーのようなダンスロックを展開。下手でチープ、それでいて惹かれるところもニュー・オーダーに似ていますね。笑 続く「Speak My Language」もリズミカル。リズム隊だけ見るとジャズっぽい楽曲を目指しているような感じもしますが、ガチャガチャと賑やかなサウンドと奇妙なメロディで、変なポップソングに仕上がっています。そしてドラムマシーンを用いた「Lament」はリズミカルなのに、メタリックで凶悪なベースとダークサイケなギターが焦燥感を煽ります。不穏で不気味な雰囲気は『ポルノグラフィ』で見せた邪悪な一面を想起させます。最後に「The Love Cats」。即興的なジャムセッションのようで、猫の鳴き声のような演奏を聴かせたり、妙に明るい雰囲気。変なメロディは意外にキャッチーでクセになります。

 オリジナルアルバムではダークで耽美なゴシックロックの世界観を築きつつ、シングルでは奇妙なダンスポップを展開するというキュアーの二面性。本作ではそんなダンスポップなキュアーを聴くことができます。全体的に演奏は拙いですが、ひねたポップセンスが意外にクセになります。

Japanese Whispers
The Cure
 
Greatest Hits (グレイテスト・ヒッツ)

2001年

 キュアーの結成25周年を記念してリリースされたシングルベスト盤です。いくつかの楽曲はオリジナルアルバムに収録されておらず、またアルバム収録曲についてもバージョン違い(Single Mix)だったり、また新曲2曲と、オリジナルアルバムだけでは聴けない楽曲も多くてお得です。アルバムはダークな雰囲気の作品が多いですが、本作に収められたシングル曲はダンスロックだったりキャッチーな楽曲が多く、キュアーを聴くのであれば押さえておいて損ではない作品です。手軽に聴くのに適した名盤だと思います。
 ちなみにデラックスエディションだと『Acoustic Hits』と名付けられたアコースティックアレンジのボーナスディスクが付属しています。

 オープニング曲は軽快なポストパンク曲「Boys Don’t Cry」。スリーピース時代の拙くスッカスカな演奏ながらも、ポップなメロディは光るものがありますね。オリジナルアルバムに収めなかったのが不思議でなりません。続く「A Forest」は既にキュアーのダークサイドが前面に出ています。ノリの良いダンスビートも虚しく、這うようなベースが焦燥感を煽り、エコーを強烈にかけたロバート・スミスの歌は不気味な緊迫感に満ちています。ラストのギターも怖いですね。「Let’s Go To Bed」は怪しげなダンスロック。ナルシー気味のメロディアスな歌と、異国の香りが漂うサウンド。そこにグルーヴ感のあるリズム隊が心地良さを生み出しています。フィル・ソーナリーの弾くベースが強烈な「The Lovecats」はジャムセッションのような即興的な印象を受けます。メロディは明るくてほのぼのとしています。「The Caterpillar」は不協和音を奏でるピアノで始まりますが、本編はとてもキャッチーです。ラテンフレーバーをまぶした牧歌的な雰囲気で、陽気な感じが楽しいです。この辺りからキュアーは商業的な成功を掴んでいきますが、「In Between Days」は大衆受けする明るくキャッチーな楽曲。ボリス・ウィリアムスの軽快なドラムを中心に、爽やかなポップソングを届けます。続いてハンドクラップが軽快な「Close To Me」。素朴な歌をダンスビートで牽引します。華やかなホーンも良いアクセントですね。「Why Can’t I Be You?」はロル・トルハーストによるシンセの彩りが豊かな、ゴージャスなポップソング。ノリも良くて元気をくれる名曲です。そしてキュアー屈指の名曲「Just Like Heaven」。爽やかなサウンドに乗せて、ロバートの歌うポップなメロディがとても魅力的です。そして明るい印象の楽曲とは裏腹に、心中しにきたカップルを描いた悲劇的な歌詞は切ないです。「Lullaby」は落ち着いた曲調ですが、囁くような歌はどこか不気味な雰囲気を感じます。続いて大ヒット曲「Lovesong」。切なくて影のある雰囲気ですが、キャッチーで聴きやすいですね。「Pictures Of You」はメロウでゆったりと落ち着いた楽曲です。ロバートのメロディアスな歌をフィーチャーしたのか、明瞭で聞き取りやすいです。「Never Enough」はマッドチェスター的な、グルーヴ感抜群のダンスナンバー。ファンキーで泥臭いポール・トンプソンのギターに、サイモン・ギャラップの爆音ベース、ボリスのビート感の強いドラムが爽快なグルーヴを生んでいます。「High」も明るいトーンでグルーヴ抜群の楽曲です。この頃から音がモダンになりました。そしてキュアーの世界的ヒット曲「Friday I’m In Love」。明るくキャッチーなメロディラインはとても耳触りが良いです。他の曜日にいちゃもんをつけて金曜は大好きだという、分かりやすい歌詞も馴染みやすいですね。素晴らしい名曲です。「Mint Car」も明るくポップですね。シンプルなサウンドにおいてサイモンのベースが中々印象的です。「Wrong Number」はダンス色の強い楽曲。ノイジーなサウンドで揺さぶってきます。
 ここからは初出の新曲が2つ。「Cut Here」はロバートの歌から始まります。ノリの良い爽快なダンスビートが響くものの、ロバートの落ち着いたトーンの歌によって、若干ゆったりとした印象も受けます。続いて「Just Say Yes」は少しだけエスニックの香りのするダンスナンバー。結構はっちゃけた印象のある、ノリの良い楽曲で締め括ります。

 いくつかのオリジナルアルバムではキュアーの「陰」を味わえますが、本作に収められたシングル群は「陽」と言えるポップで明るい楽曲が多いです。それでいて少しばかりの切なさが良いアクセントになっています。名曲揃いなのでオススメできます。

Greatest Hits
The Cure
 
 

関連アーティスト

 ロバート・スミスが一時期掛け持ちしていたバンド。

 
 1997年に「Wrong Number」を共作し、2012年にはメンバー加入するリーヴス・ガブレルス(Gt)の古巣。
 
 
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