🇬🇧 The Horrors (ザ・ホラーズ)
レビュー作品数: 5
スタジオ盤
2007年 1stアルバム
イングランドのエセックス出身のインディーロックバンド、ホラーズ。メンバーは芸名で、「ファリス・ロッター」ことファリス・バドワン(Vo)、「ジョシュア・ヴォン・グリム」ことジョシュア・サード(Gt)、「トメシー・ファース」ことトム・カウァン(B)、「スパイダー・ウェッブ」ことリース・ウェッブ(Key)、「コフィン・ジョー」ことジョセフ・スパージョン(Dr)の5人組。2005年に結成しました。デビュー作となる本作は全員がゴシック風の衣装に身を包み、ポストパンク/ゴシックロックの良いとこ取りをした演奏を繰り広げます。
オープニングを飾る名曲「Jack The Ripper」。重戦車のような破壊力に満ちた演奏はスリリングで、鈍重なベースが唸り、キンキンと金属的なノイズが響きます。そしてファリスの歌はジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーティスを想起させますが、より攻撃的にした感じですね。そして終盤はテンポアップして暴れ回ります。ポストパンク好きにはたまりません。「Count In Fives」はリースの不気味なオルガンがサイケデリックな幻覚を見せますが、それ以外の演奏はヒリヒリと緊迫しており、そのうえ暗く、焦燥感を掻き立てます。ヤケクソ気味にシャウトで歌うファリスの歌も強烈。「Draw Japan」はジョシュアのベースが爆音で唸り、荒れ狂うギターなどはガレージロック風の破壊力を持っていますね。それでいてオルガンが独特の不気味さを醸し出し、またゴシックロックのような不穏な暗さも漂っています。スリリングです。「Gloves」も切れ味抜群の演奏を繰り広げます。強い緊張感に満ちており、アドレナリンが吹き出しそうです。終盤、ドラムをバックにファリスが激しいトーンで歌…というより説教のように主張します。「Excellent Choice」はジョセフのドラムが速くて強いビートで焦燥感を煽ります。ナレーションのように淡々と早口で語る歌はサビでヤケクソ気味にシャウト。よくわからないスリルはバウハウスにも通じますね。「Little Victories」は不気味なオルガンで幕を開けると、強い緊張が張り詰めた疾走曲を展開。ゾクゾクするような演奏に激しい歌唱で、緊張感はMAXに。「She Is The New Thing」はイントロで深い闇に沈んでいくような不気味さがありますが、大仰なイントロを経ると一気にスッカスカに。ですが音数は少ないながらもピリピリと不穏な空気が漂い、音数が増える瞬間は緊張が高まります。「Sheena Is A Parasite」は荒々しくパンキッシュな楽曲で、攻撃的な演奏で疾走します。切れ味鋭いギターに狂ったようなオルガン、そしてうねるベースなどゾクゾクします。「Thunderclaps」は強靭なリズム隊とリズムギターが力強く踏みつけ、オルガンが不気味に鳴ります。怒りをぶつけるような歌唱もカッコ良い。続く「Gil Sleeping」はドラムがプリミティブな雰囲気で、不気味に蠢くベースも含めて、エスニックで実験的な感じのインストゥルメンタルです。音数少なく、不穏な空気が漂います。「A Train Roars」は不穏な静寂から徐々に轟音が迫るようなイントロからスリリングです。そして怒れるイアン・カーティスといった雰囲気のファリスの歌唱と、ザクザクと鋭利でダーティなギターがひどく緊迫した空気を生み出します。淡々としたビートも不気味で仕方ありません。そしてラスト曲は「Death At The Chapel」。荒っぽいガレージロックをオルガンで味付けしています。攻撃的でダークなのは変わらずですが、何をするかわからない不気味さは減退して、ノリの良いロックンロールを繰り広げます。
楽曲を通してルーツとなるバンドの影が見えますが、凄まじい緊張に満ちた楽曲の数々はときに先人を上回り、とても楽しませてくれます。スリリングな名盤です。
2009年 2ndアルバム
前作『ストレンジ・ハウス〜異形者たちの館』リリース後、コメディ番組で架空のバンド「The Black Tubes」を演じたほか、アークティック・モンキーズの前座を務めたりしました。その後ジェフ・バーロウとクリス・カニンガムをプロデューサーに迎えて制作された2ndアルバムが本作です。前作に続くゴシックロックを基調としながら、シューゲイザーも取り入れています。歪んだジャケット写真はキュアーあたりを想起させますが、ファリス・バドワンの声質的に「ジョイ・ディヴィジョンがシューゲイザーを取り入れつつ進化した」といった印象の仕上がりです。
メンバーは変わりませんが、トム・カウァンがベースからキーボードに、逆にリース・ウェッブがキーボードからベースにと、担当楽器を入れ替えています。
アルバムは「Mirror’s Image」で幕開け。イントロのひんやりとして音像のぼやけた幻覚的なサウンドは、前作からの変化を感じさせますね。そしてリースのベースを皮切りにバンドサウンドは輪郭をクッキリとさせ、前作のようなダークなゴシックロックが戻ってきます。ですがジョシュア・サードのギターは轟音でグワングワンと歪んでおり、シューゲイザー要素を強く感じます。続く「Three Decades」は疾走感のあるスリリングな楽曲です。緊迫した演奏はキーボードとギターの分厚く歪んだ音色で酔いそうなほど揺さぶられ、シューゲイザーというかダークサイケというか、強い浮遊感を持っています。「Who Can Say」は強靭なリズム隊と重低音を鳴らす鋭利なギターが強烈で、それとは対照的にラリったような鍵盤がフワフワした感覚を与えます。ファリスの歌はそこまで表現力は感じないのですが笑、ですがどこか哀愁が漂い切ない気がします。「Do You Remember」はレッド・ツェッペリンばりの骨太なギターが聴けますが、歌が始まるとそれを覆い尽くすほどの歪んだギターを重ね、幻覚的な印象を持たせます。そしてファリスの歌のヘタさとカリスマ性にジョイ・ディヴィジョンの影がチラつきます。笑 「New Ice Age」はジョシュアのギターが緊迫した空気を生み出し、ジョセフ・スパージョンの迫りくるようなドラムがどんどん緊張を高めます。狂ったように歌い、演奏もどうしようもなくダークでピリピリとしており、とてもスリリングです。続く「Scarlet Fields」のイントロで一瞬緊張が弱まり(決してリラックスはできませんが…)、そこからベースを軸にした淡々とした演奏をバックに憂いを帯びながら歌います。間奏では歌以上の轟音でギターがメロディアスに主張しますが、不安定な浮遊感に満ちていて不気味な印象です。「I Only Think Of You」はゆったりとしたテンポで、ファリスの歌を聴かせます。低音域で歌う姿はイアン・カーティスを想起させますね。そして歪んだ演奏は不気味に歌を引き立てます。「I Can’t Control Myself」は8分の6拍子の心地良いリズムと、重低音が響く不穏な演奏が同居。歌もダークな雰囲気で、聴いていると不安な気持ちになります。そして表題曲「Primary Colours」。本作では数少ない明るい楽曲で、ポップな歌メロと軽快な曲調が特徴的。一見明るいのですが、ぼやけてハッキリしないギターや鍵盤のせいか、死後の世界ではしゃいでいるような、明るさの中に不気味な闇を感じるんですよね。ラストは人気曲「Sea Within A Sea」。8分近い楽曲で、淡々としたハンマービートで幕を開け、歌が始まっても不気味な雰囲気です。幻想的に不協和音を響かせたり、ビートとタイミングをずらしたシーケンサー(?)を鳴らしたり。そして躍動感のあるドラムがこれらを巻き込んで、整合性の取れた演奏に纏め上げます。終盤はカラフルで比較的明るいトーンなので、ダークなアルバムのラストに一筋の希望を感じさせて終わります。
前作の持っていた疾走感や鋭利なサウンドはやや落ち着きましたが、暗く不安定な演奏で心地良さと不快感が同居したゴシック+シューゲイザーサウンドは魅力的です。評論家も大絶賛の名盤です。
2011年 3rdアルバム
前作『プライマリー・カラーズ』が批評家に大絶賛されたことを受け、本作はリリース前から注目が集まっていました。そしてセルフプロデュースとなる本作。前作ではシューゲイザーサウンドをもって幻覚的な世界を展開しましたが、今作ではシンセサイザーを多用したサイケデリックな世界を作り出します。前作はネガティブ、今作はポジティブな印象です。
「Changing The Rain」はプリミティブで神秘的なパーカッションで始まると、EDMにも影響を受けたのか分厚くカラフルな演奏が広がります。スケール感があり、ファリス・バドワン(Vo)のヘタクソな歌が多重コーラスで広がりを見せます。「You Said」はトム・カウァン(Key)の鳴らすチープなシンセと、神々しい雰囲気を持つファリスの歌が対照的。そこから明るく優しい曲調で楽曲が展開します。「I Can See Through You」は明るく浮遊感に満ちた曲調です。強くかかったエコーによってシンセがポワンポワンと鳴り響きます。でもリース・ウェッブ(B)、ジョセフ・スパージョン(Dr)のリズム隊は結構強靭な印象。「Endless Blue」は幻想的で浮遊感のあるイントロで漂いますが、突如重低音が響くガレージロック風のバンド演奏に変貌すると歌も始まります。ジョシュア・サード(Gt)のギターが鋭利で切れ味抜群。これまでのホラーズらしさを感じますね。「Dive In」はファリスの歌が耽美でメランコリックです。ドラムが単調にビートを刻むからこそ、歌に身を預けてゆらゆらと心地良く揺られます。終盤はドラマチック。そして「Still Life」はテープの逆再生のようなサウンドを鳴らしながら、力強いリズムビートが楽曲を支えます。ニューウェイヴ時代のようなシンセサイザーが華やかに楽曲を彩り、でも楽曲には憂いも感じられます。「Wild Eyed」はノリの良いビートがダンサブルで、そしてリースのベースはグルーヴ感抜群。神秘的で心地良い浮遊感・トリップ感があります。続いて、8分半に渡る「Moving Further Away」は本作のハイライト。ファリスのやる気のない歌声やダンサブルな演奏にストーン・ローゼズを強く想起させます。時折ノイズのようなギターを刺すのがオリジナリティでしょうか。後半は長い演奏パートで大自然のような穏やかさを見せますが、徐々に緊張が張り詰めます。スリルも合わせ持つ名曲ですね。一転して「Monica Gems」はこれまでのようなガレージロック風のスリリングなイントロを聴かせます。でも歌はイントロとはミスマッチな、恍惚に浸るような歌唱で奇怪なメロディを聴かせます。途中から鍵盤やコーラスが重なって強烈なサイケ色を出してきます。そして最後は8分近い「Oceans Burning」。優しく穏やかな楽曲で、ファリスの歌はストーン・ローゼズのイアン・ブラウンっぽい。幻想的な広がりを見せ、後半は浮遊感のある心地良い演奏を展開。そして終盤はリズム隊が楽曲を引き締めつつ、天を舞うようなフワフワした演奏で楽しませてくれます。
アルバム序盤のデジタルサウンドや明るすぎる楽曲等の変化に正直戸惑い落胆したのですが、楽曲を聴き進めるとこれまでのホラーズが見え、また中盤や後半には魅力的な楽曲も散りばめられています。シンセ主体の演奏でサイケデリックに仕上げたアルバムで、前作までより希望が見えます。
2014年 4thアルバム
クレイグ・シルベイを共同制作者に起用した4作目。1stや2ndで見せたアクの強いゴシックロックの風合いは完全に消え、前作を踏襲しつつスケール感を増した、美しくもダンサブルな楽曲を展開します。結成9年目にして既にベテランバンド感が出ておりますが、個人的には1st/2nd路線が好みだったので、この変化は残念ではあります。
1曲目から7分近い「Chasing Shadows」。静かでひんやりとした演奏が3分近く続いてスケール感のある世界を見せると、ストーン・ローゼズのようにグルーヴ感溢れるバンド演奏へと変わります。ファリス・バドワンの歌は優しく浮遊感に溢れていて、ノリの良いビートを刻みつつも包み込むような幻想的な歌とサウンドです。「First Day Of Spring」はジョセフ・スパージョンの躍動感あるドラムがハッキリとした輪郭を示しますが、ギターや鍵盤、歌がぼんやりと靄がかかったかのよう。朝靄に覆われた森林のように柔らかくて神秘的で、そして明るい曲調で優しいです。終盤はジョシュア・サードの弾くメロウなギターで魅せます。ゆったりとした「So Now You Know」は、トム・カウァンのシンセが楽曲をカラフルに彩ります。ファリスも歌心があって、優しくメロディアスな歌で癒やしてくれます。「In And Out Of Sight」はリズムビートがとてもダンサブルで、リース・ウェッブのベースもグルーヴ抜群。ノリの良いリズム隊とは対照的に、シンセサイザーとぼやけた歌声が幻覚的に広がります。「Jealous Sun」では分厚くて重厚なエレクトロサウンドを響かせます。スケール感のある演奏はどこかエキゾチックな雰囲気も漂います。続く「Falling Star」ではギターリフがロック的な切れ味を持っていて、正直こういう路線の楽曲がもっと欲しいところ。キレのある部分を持ちつつ、鍵盤はまったり・フワフワしています。そして本作のハイライトとなる「I See You」は7分半の大作。キラキラとして時代を感じさせるテクノポップ的なシンセサイザーや、残響音が心地良いギターに浸れます。大きな起伏はありませんが、浮遊感に満ちた音色が心地良い。デューク期ジェネシスの影を感じられるのも個人的にプラスです。「Change Your Mind」はメロウで落ち着いた楽曲で、ゆったりと優しい歌を聴かせます。全体的に静かですが、サビメロを盛り上げる分厚い演奏で緩急つけています。次曲もそうですが、デヴィッド・ギルモアっぽい歌声でピンク・フロイドを彷彿とさせます。続く「Mine And Yours」もメロウで大人びた雰囲気。ギターが際立ち、程良いダークさが心地良い1曲です。ラスト曲「Sleepwalk」はジョセフのドラムが力強く大地を踏みしめるようで、ぼんやりとして幻覚的な演奏を引き締めます。メロディアスな歌と合わせて、ゆったりと漂うような浮遊感を味合わせてくれます。
全体的に円熟味を増してスケールアップしましたが、毒気や強いインパクトも無くなり、特に前半はひたすら印象が薄いです。後半持ち直すものの、全体的に見るとイマイチな印象でした。
2017年 5thアルバム
メンバーはデビュー以来変わらず、ファリス・バドワン(Vo)、ジョシュア・サード(Gt)、トム・カウァン(Key)、リース・ウェッブ(B)、ジョセフ・スパージョン(Dr)。今作ではポール・エプワースを共同制作者に招いています。
アルバムごとに大きく音楽性を変えてきたホラーズですが、今回もまた前作とは趣向を変え、ダンス路線にシフトしています。ジャケットが不気味ですが楽曲はジャケットほどグロい感じはありません。
アルバムは「Hologram」で幕開け。力強いビートに加えてデジタルサウンド全開です。輪郭のはっきりしたダンサブルな演奏で、ホラーズの特徴だったぼやけたサウンドは薄まってしまいました。でもファリスの歌声は遠くから聞こえるような靄のかかった感じです。「Press Enter To Exit」はダンサブルなビートに乗せて、浮遊感のある演奏を繰り広げます。演奏のノリは良いですが、歌は憂いを帯びています。終盤は若干カオス。続く「Machine」は先行シングル。イントロは無機質な反復を繰り返しますが、憂いに満ちた歌が始まると途端に人間味を感じさせます。演奏はとてもダンサブルです。「Ghost」は打ち込みを用いています。ほの暗い雰囲気で、静かな演奏なのでファリスの歌が際立ちます。この歌声がデヴィッド・ギルモアに似ていてピンク・フロイドが思い浮かぶのですが、演奏も似ていた前作とは違っています。また、後半に一瞬訪れるシーケンサーのようなキラキラサウンドと、分厚く歪んだ重低音が対照的で印象に残ります。「Point Of No Reply」は、ダンサブルなリズムトラックとアンビエントのような鍵盤が対照的です。ゆったりとしていてどこか神秘的でもあります。続いて「Weighed Down」は残響処理のされた力強いドラムや、蠢くようなベースの持つ怪しさに、かつてホラーズが陶酔していたジョイ・ディヴィジョンの影響が垣間見えます。でも初期のホラーズとは違って、歌心は増して円熟味たっぷり。ゆったり心地良く聴いていると、終盤は演奏のパワーが増してきて迫力があります。全体的にダンサブルなアルバムですが、「Gathering」ではアコギの音色が聴けます。アコースティックな楽曲ではなく、あくまでアクセントとしてのアコギ起用ですけどね。優しくて憂いのある歌を、浮遊感のあるギターやシンセが包み込みますが、物悲しい空気が漂っています。「World Below」は重低音を鳴らすグルーヴィなダンスチューン。ノリの良い演奏ですが、歌はメロディアスで影があります。続いて「It’s A Good Life」は落ち着いたトーンで、ファリスの歌をしっとり聴かせます。ダークで哀愁が漂います。そしてラストの「Something To Remember Me By」もダンサブルな楽曲です。ノリノリの跳ねるような演奏で、歌は諦念を纏いつつも少し明るいトーンになり、希望が見えますね。
ゴシックロック・シューゲイザーに期待を抱いてホラーズに興味を持ちましたが、初期からはだいぶ様変わりしてしまいました。初期の路線が好みな私には合いませんでしたが、完成度は高く、ポップになったことも好意的な評価で受け入れられているようです。
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