🇬🇧 The Pop Group (ザ・ポップ・グループ)

レビュー作品数: 4
  

スタジオ盤

ポストパンク時代

Y (最後の警告)

1979年 1stアルバム

 ポストパンク黎明期の重要バンドの一つ、イングランドのブリストル出身のバンド、ポップ・グループ。メンバーはマーク・スチュワート(Vo)、ジョン・ワディントン(Gt)、ギャレス・セイガー(Gt/Sax/Pf)、サイモン・アンダーウッド(B)、ブルース・スミス(Dr)の5人組で、1977年に結成しました。
 原始的な格好をした泥人間のようなジャケットが不気味な本作は、このジャケットの世界観を表したかのようなプリミティブなサウンドと奇声で、ポップ・グループという名前とは程遠い人を寄せ付けない音楽を展開します。初めて聴いたときに「あ、これはダメだ」と強い拒絶感を覚えたのが第一印象です。しかし良くも悪くも強烈なインパクトを植えつけた本作がどうしても気になって、また聴いてみてしまいました。2度目に聴いたとき、本作は「奇怪だけどなんか面白い」という印象に変わり、やみつきになったのでした。笑 10代の若者だった彼らが、パンクやファンク、フリージャズ、レゲエに政治的歌詞を加えた音楽を展開し、それをレゲエ畑のベテランであるデニス・ボーヴェルがプロデューサーとして纏め上げました。なお2021年に、デニス・ボーヴェル自身の手でよりダブ色の強いリミックスが施された『Y In Dub』がリリースされています。

 聴こうとする人を試す「She Is Beyond Good And Evil」が冒頭から強烈なインパクトを放ちます。実はオリジナルアルバムには収録されず、CD再発時に追加されたシングル曲だそうです。ダブ処理が施されて時折歪んだり奥行きのあるサウンド。そして引き裂くような切れ味の非常に鋭いギターと、グルーヴ感抜群のベース、パーカッションをバックに、奇声を上げるようなボーカルスタイルで圧倒します。カッコ良いです。「Thief Of Fire」はファンクのようなグルーヴとレゲエのようなリズミカルさを持つ演奏をバックに、怒りに満ちた強烈な歌を披露します。終盤はサックスが暴れ回ってアヴァンギャルドな感じ。続く「Snowgirl」は即興演奏的な楽曲で、先の読めない展開にリズムチェンジを交えます。軽快なピアノがリードする序盤は比較的聴きやすいですが、カミソリのようなギターにエフェクトをかけたボーカルが不気味さを加え、更に楽曲が進むにつれて狂気を増します。「Blood Money」はダブ処理をかけたドラムに支えられて自由気ままにサックスを吹き鳴らします。そして「We Are Time」は本作の中では比較的キャッチーな楽曲で、サーフロック的なレトロ感を醸しつつ怪しげな演奏で楽しませます。楽曲を支える骨太なベースがカッコ良いですね。そこに強烈なダブ処理をかけた叫び散らすボーカルを乗せて、強いインパクトを与えます。「Savage Sea」はしっとりとしたピアノが美しい音色を奏で、ですが呟くようなボーカルや幽霊のようなエフェクトを凝らしたコーラスが不気味な雰囲気へと変えます。キリキリと唸るヴァイオリンも怖い。続いて「Words Disobey Me」は小気味良いドラムをはじめ、跳ねるような気持ち良いリズム隊が爽快。ですが途中リズムチェンジ等を交えて、先の読めない展開に。そして「Don’t Call Me Pain」はジャジーなサックスで幕を開けますが、マークの怒号のようなボーカルによって落ち着いた空気はぶち破られます。そこから骨太なベースやリズミカルなドラムが加わり、スリリングな楽曲へと仕上げていきます。中々カッコ良い。「The Boys From Brazil」は疾走感のあるアヴァンギャルドな楽曲です。ダイナミックなドラムに煽られ、グルーヴィなベースに跳ねるような感覚を貰いながら、サックスやギターが不協和音を加えます。スリリングな1曲です。6分半を超える本作最長の「Don’t Sell Your Dreams」。比較的静かな即興演奏が続きますが、唐突にマークが叫ぶためビックリ。静かな空間に太いベースが響きますが、後半に進むにつれて演奏は音量を増していきます。実験色が強いですね。ラスト曲「3’38」は文字通り3分38秒の楽曲で、リズミカルなバンド演奏に強烈なダブ処理をかけて、グワングワンと揺さぶるような強いトリップ感を生み出します。

 サックスやピアノが即興演奏を奏でたりするアヴァンギャルドな一面があり、ときにはファンク要素全開でグルーヴィな一面も。一見すると滅茶苦茶なようですが、実は相当凄いことをやっているようにも思えます。プログレッシヴロックよりもよっぽど前衛的で、とてもスリリングな作品です。理解しがたいですが、強烈なインパクトで魅せてきます。

Y
Definitive Edition (3CD)
The Pop Group
Y
The Pop Group
 
For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder? (ハウ・マッチ・ロンガー)

1980年 2ndアルバム

 『Y (最後の警告)』リリース後、独立系レーベルのラフ・トレードと契約したポップ・グループ。この時期にサイモン・アンダーウッド(B)が脱退してダン・カトシス(B)に変わっています。ハンガリーの写真家アンドレ・ケルテスによる、キスするジプシーの子の写真が印象的な本作は、タイトルを訳すと『大量虐殺をあとどれくらい許容できるのか?』という内容です。長らく廃盤になっていましたが、2016年にCDが再発され、その際に3曲目「One Out Of Many」(ラッパーの元祖であるラスト・ポエッツが参加)が「We Are All Prostitutes」に差し替えられています。

 オープニング曲「Forces Of Oppression」で幕を開けます。リズミカルな演奏はダンスミュージックの影響を受けているのか、とてもノリノリで聴きやすくなりました。でもマーク・スチュワートの怒鳴るような歌唱スタイルにエフェクトをかけるという演出は変わりません。続く「Feed The Hungry」はブルース・スミスの叩く4つ打ちのビートに、ファンキーで跳ねるようなベースがノリ良く気持ちの良い演奏を繰り広げます。ダンサブルですが、ボーカルに怒りが感じられて楽曲を引き締めます。「We Are All Prostitutes」が続きますが、オリジナルには含まれていなかったそうです。4つ打ちのダンサブルでファンキーなリズム隊をバックに、奇声を発するマークのボーカルのギャップ。でも比較的キャッチーな印象を受けます。間奏ではギャレス・セイガーの狂ったようなサックスが吹き荒れます。「Blind Faith」もチキチキと小気味良いドラムが楽曲をノリ良く牽引します。でも怒り狂ったボーカルに加えてギターのノイズもかなり強烈で、とてもカオスな印象です。そしてタイトルに冠した「How Much Longer」は実験的な色合いが強く、楽曲もあまり起伏がない印象ですが、ダブを用いたサウンドによりトリップ感がありますね。終盤はノイジーに荒れ狂います。続く「Justice」はリズミカルでノリの良さが前面に出てきます。気持ちの良いドラムに加えて、ファンキーなギターやベースがグルーヴで楽しませてくれます。「There Are No Spectators」はゆったりとしたテンポで、レゲエのようなファンクのようなリズミカルな楽曲を展開。そこに強めのダブをに加えて、不思議な浮遊感に満ちています。「Communicate」は冒頭からサックスが叫び声のような不協和音を奏でるので驚かされます。そこからはノリの良いジャズフュージョンのような、即興演奏を繰り広げます。最後に「Rob A Bank」。野太いコーラスに支えられ、ノリノリのリズミカルな演奏も相まってかなりキャッチーで耳に残ります。賑やかでいてパンキッシュでもあり、グワングワンと歪んだ重低音が楽しませます。最後は唐突なぶつ切りで終了。

 アヴァンギャルドな感覚を残しつつも、全体的にダンサブルになりました。ノリが良いのですが、ぶっ飛んだ前作に比べるとやや大人しい印象も受けます。
 そして内部分裂したポップ・グループは1981年に解散することになります。

For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?
2016 Remastered
The Pop Group
 

再結成

Citizen Zombie (シチズン・ゾンビ)

2015年 3rdアルバム

 1981年に解散したポップ・グループでしたが、2010年に再結成を果たします。メンバーはマーク・スチュワート(Vo)、ギャレス・セイガー(Gt/Sax/Key)、ブルース・スミス(Dr)、ダン・カトシス(B)の4人。再結成後は廃盤となった作品の再発やレア音源のリリースに努めつつ、前作から実に35年ぶりとなるオリジナルアルバム『シチズン・ゾンビ』をリリースします。
 解散から再結成までの間に、メンバーはヒップホップやダンスミュージックに影響を受けてきたといいます。本作ではかつての狂気性はやや息を潜め、ミニマルなダンスミュージックという感じに仕上げています。ポール・エプワースのプロデュース。

 表題曲「Citizen Zombie」でアルバムの幕開け。ゆったりと気だるいリズムトラックにデジタルのノイズを散りばめて、ダンスミュージックのような華やかさとグルーヴ、そして時折アンビエントのような落ち着きを同居させています。そしてひたすら反復する歌は、女性コーラスも用いてキャッチーな印象です。狂気性は消えて普通にクールな良曲です。続く「Mad Truth」は靄のようなぼんやりとした音像がひんやりとした感覚を与えつつも、リズム隊はノリ良くグルーヴ抜群でとてもダンサブルです。演奏がとても気持ち良い。「Nowhere Girl」はスローテンポの楽曲で、ダブを用いたドラムに加えて、エフェクトをかけた分厚すぎるサウンドに包まれて、幻覚的な感覚を生み出します。陶酔するようなボーカルが声質のせいもあってちょっと気色悪い。笑 そして「Shadow Child」はファンク色の強い1曲。跳ねるようなリズムは気持ち良いですが、無機質な感触のギターが不穏な空気を煽り、緊張が張り詰めます。「The Immaculate Deception」は比較的晴れやかなイントロにリズミカルなドラムで始まります。キャッチー路線の楽曲かと思えばプリミティブなドラムや実験的な作風で突き放してきますが、それでいて不思議な中毒性も持ち合わせています。続いて「S.O.P.H.I.A.」は中盤のハイライト的な楽曲です。キャッチーなメロディに加えて躍動感あるダンサブルなリズムで取っつきやすく、歌もじっくり聴かせるパートとパーティ的な盛り上がりを見せるパートを使い分けてメリハリをつけます。「Box 9」はひねくれポップ的な楽曲です。ギターとボーカルでハモりつつ、ベースを軸に強い躍動感を与えてくれますが、なんかヘンテコな印象を受けるのはベースの刻むフレーズのせいでしょうか。「Nations」は打ち込みを全面に押し出して、無機質な感覚を与えながら焦燥感を煽ります。歌というよりナレーションのようなボーカルのバックで鳴らす、レトロゲームのようなチープな音色が気になります。「St. Outrageous」はワウワウ鳴る古臭い感じのギターとマークの絶叫で冒頭から強いインパクトを与えた後、力強いドラムにチープなシンセなど一貫性のない展開でまたインパクトを与えます。そして「Age Of Miracles」は淀みのない美しいピアノとリズミカルなドラムでお口直し…かと思えば泥臭くなってファンキーな感覚を強め、金切り声のようなボーカル等で焦燥感を煽ります。ラスト曲は「Echelon」。ピアノも活用しながら、寒々しくて寂寥感のある楽曲を展開します。前半は毒気がほとんどありませんが、後半におどろおどろしさや悲壮感が加わります。

 元々得意としていたファンキーなリズムを活かしつつ、デジタル機器を駆使してダンスミュージック的なアプローチを行います。オープニングを飾る表題曲はキャッチーですね。

Citizen Zombie
The Pop Group
 
Honeymoon On Mars (ハネムーン・オン・マーズ)

2016年 4thアルバム

 デビューアルバム『Y (最後の警告)』を手掛けたデニス・ボーヴェルをプロデューサーに迎え、またヒップホップ界で活躍するハンク・ショックリー(パブリック・エナミーを手掛けたプロダクションチーム、ボム・スクワッドのリーダー)も一部楽曲のプロデュースを行っています。

 オープニング曲「Instant Halo」は電子音が重低音を響かせ、途中からギャレス・セイガーがつんざくような鋭利なギターを鳴らします。鈍重な楽曲は重苦しい空気を醸し出します。続く「City Of Eyes」は、本作の中では比較的キャッチーな印象です。ブルース・スミスの叩くリズミカルなドラムが爽快。電子音を織り交ぜながらもグルーヴィかつ骨太なロックを奏で、ノリの良い演奏で楽しませてくれます。「Michael 13」ではダブを効かせて残響の強いスローテンポの楽曲を展開。電子音やどこか不気味なコーラスで、ヘヴィながらも不思議なトリップ感を与えます。続いて「War Inc.」もダブを用いていて、マーク・スチュワートのヴォコーダーを通した怒気のあるボーカルが淡々とした演奏に乗ります。後半に進むにつれて淡々としたまま音量を増し、警告音のようなギター等で焦燥感を煽ります。「Pure Ones」は笛のようなシンセの音色にエキゾチックな感覚があります。ダン・カトシスの弾くグルーヴ感の強いベースが気持ち良い。そして「Little Town」は特にグルーヴが強く、重たい空気が張り詰めているのにノリが良いという不思議。また、時折聴けるギターが哀愁たっぷりの渋いフレーズを奏でています。「Days Like These」はキリキリと鋭いギターを分厚いシンセサイザーで包み込みます。スローテンポな楽曲はマークの独特な歌を強調しますが、歌い方がブラックミュージックっぽい。「Zipperface」は比較的アッパーなダンスミュージックで、緊張感がありつつもノリの良さを持ち合わせています。中盤、メランコリックなフレーズでしんみりさせる場面も。「Heaven?」は電子音主体のアヴァンギャルドなナンバーで、強いエフェクトをかけて混沌とした世界を作り上げます。最後は「Burn Your Flag」で、重低音を響かせるシンプルな演奏が中心で、時折ノイジーな電子音が楽曲にメリハリをつけます。リズムを刻む楽器のような吐息がセクシーですね。終盤ドラムが加わると爽快感が生まれます。

 ポップ・グループにキャッチーさを求めるのは違うと思いつつもキャッチーな楽曲に欠けるため、前作よりも取っつきにくい気がします。何曲か佳曲がありますが、個人的にはあまり良さがわかりませんでした。

Honeymoon On Mars
The Pop Group
 
 
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