🇬🇧 Tin Machine (ティン・マシーン)

レビュー作品数: 2
  

スタジオ盤

Tin Machine (ティン・マシーン)

1989年 1stアルバム

 デヴィッド・ボウイを中心としたロックバンド、ティン・マシーン。1988年に結成して、オリジナルアルバム2枚とライブ盤をリリース。1992年に短命ながら解散しています。
 『レッツ・ダンス』以降商業主義に走ったボウイは「ビジョンを見失った」として、新しい音楽を模索します。ツアースタッフの伝手で知り合ったリーヴス・ガブレルス(Gt)と意気投合し、彼と組んで活動をスタート。また、コメディアンのスーピー・セイルスの息子であるハント・セイルス(Dr)と、トニー・セイルス(B)の兄弟を迎えますが、個性の強いメンバー対等のバンド形式に可能性を見出し、ボウイはソロではなくティン・マシーンというバンドを結成します。セイルス兄弟の持ち込んだハードロック要素と、当時ボウイがハマっていたピクシーズのようなノイズロック要素を加えた、硬派なバンドサウンドを展開します。また、4人のサポートとしてケヴィン・アームストロング(Gt/Key)もレコーディング参加。
 ちなみにボウイはティン・マシーン結成に際し「もう過去の作品は歌わない」と決別しており、ソロ復帰後もこの公約はしばらく守られていて、少なくとも1990年代のツアーでは過去のヒット曲はほぼ歌わなかったようです。

 オープニングを飾る「Heaven’s In Here」はヘヴィながらも泥臭くてルースな、旧き良き伝統的なロックンロールです。パワフルなリズム隊によるグルーヴ溢れる演奏はノリノリで、ギターはとてもブルージーで渋いです。ベテランでビッグネームのボウイの歌に負けることなくバンドメンバーも個性の強い演奏を繰り広げ、バンド形態を取ったのも頷けます。続いてバンド名を冠した「Tin Machine」。ヘヴィかつテンポの速い疾走ロックンロールで、時折キンキンとしたメタリックな音を立てますが、ノリノリな1曲です。ボウイの低音域の歌が渋カッコ良いですね。「Prisoner Of Love」はアコギを用いたイントロは爽やかですが、歌が始まるとギターが強い哀愁とダークな雰囲気を醸し出します。演奏は渋く哀愁たっぷりですが、メロディラインに1970年代ボウイが垣間見えるような、どこか懐かしい感じもします。歌は力強いですね。「Crack City」はハント・セイルスの力強いドラムが牽引する、ミドルテンポのノリの良い演奏が爽快。ボウイの歌はサビではとてもパワフルでご機嫌です。「I Can’t Read」では、ガブレルスの弾くノイジーなギターにオルタナ勢の影響が見えます。ダウナーで沸々とした演奏が緊張を掻き立てますが、歌は安心のボウイなんですよね。ノイジーなギターのバックでトニー・セイルスのベースが心地良い。「Under The God」は疾走感のあるロックンロール。ドラムのキレが良く、シャープでパワフルな演奏に負けじとボウイの歌唱も力強いです。躍動感溢れる爽快な1曲です。「Amazing」はアコギやバッキングのリラックスしたイントロから始まりますが、残響によりスケールを感じさせる側面も見せます。続いて「Working Class Hero」ジョン・レノンの名曲のカバー。素朴な演奏の原曲とは異なり、ダーティでハードボイルドな演奏が鮮烈。ボウイの歌は渋く哀愁を醸し出し、ソウルフルなシャウトをかまします。「Bus Stop」はイントロからタカタカと疾走感のある演奏で幕開け。2分足らずのシンプルな楽曲で、音作りこそメジャーですが、楽曲の雰囲気はオルタナ勢の影響も強そうです。続く「Pretty Thing」も優しい歌と焦燥感を煽る速いテンポのドラムが掛け合いを繰り広げ、輪郭のぼやけたギターがモヤーンと広がります。これがローファイな音質だったらハッとするようなインディー楽曲に仕上がっていたかも。ヒリヒリとしてスリリングです。「Video Crime」はどっしりと力強いドラムやノイジーなギターが楽曲に強い緊張を与えヒリヒリとしているのに、一定のトーンをキープして抑揚の少ない歌はどこか不気味に映ります。「Run」はネオアコのようなサウンドに乗せ、曇天のような諦めにも似た哀愁が漂います。繊細な側面がありますが、非常に力強いドラムが繊細さをぶち壊し。笑 そして「Sacrifice Yourself」はパワフルなドラムが爽快なビートを刻み、ドライブ感のあるベースが爽快な楽曲です。2分強の短い楽曲ですが、跳ねるように勢いに溢れておりとてもカッコ良いです。ラスト曲「Baby Can Dance」はイントロや間奏で強い緊張を醸しますが、歌が始まるとノリの良い明るいロックンロールな雰囲気へと変わります。

 前半は1970年前後のロックンロールを1980年代のハードな音で演奏した、時代錯誤で渋カッコ良い楽曲を披露。後半はオルタナ/インディー勢に影響を受けた楽曲が並びます。ハードな演奏で渋カッコ良い作品です。

Tin Machine
Tin Machine
 
Tin Machine II (ティン・マシーンII)

1991年 2ndアルバム

 契約の縛りか迷走か、1990年にはデヴィッド・ボウイが一時的にソロツアーを行い、ティン・マシーンは活動停滞。ソロツアーを終えたボウイはEMIとの契約を解消し、ビクターと契約してバンド活動を再開。そんな本作はティン・マシーンのラストアルバムです。元々『ティン・マシーンIII』の構想はあったようですが、本作やその後のライブ盤が商業的に不振だったことや、ハント・セイルス(Dr)の薬物依存などが解散原因だったようです。ちなみにリーヴス・ガブレルス(Gt)はナイン・インチ・ネイルズに強い影響を受け、彼のギターはインダストリアルなアプローチが取られています。
 なお所属レーベルの倒産により、2020年に再発されるまで本作は長らく入手困難だったようです。その影響か、レビュー(2021年7月)時点ではサブスク化されていません。

 オープニング曲「Baby Universal」は疾走感に溢れる楽曲で、ごちゃついたイントロにおいてはハント・セイルスのスコンスコンと爽快なドラムが楽曲を牽引。歌も明るくキャッチーなメロディで爽やかです。続く「One Shot」はガブレルスのワウワウ鳴るギターが歪んでメタリックな音を立てますが、歌が始まると歌を引き立てるように演奏は控えめに。ゆったりとしてメロディアスですね。トニー・セイルスのベースがメロディを奏でるように心地良く響きます。「You Belong In Rock N’ Roll」は這うようなベースに金属が擦れるような音を立てるギター、力強く踏みしめるドラムが緊張感に満ちた演奏を繰り広げます。ボウイの歌はダンディな低音で囁くようで、キャッチーな前2曲とは異なりますが、結構カッコ良い1曲です。「If There Is Something」ロキシー・ミュージックのカバー曲。キレッキレのドラム、ぶっといベースとノイジーなギターがロックンロールを展開します。躍動感に溢れる佳曲です。「Amlapura」はアコギを中心に、陰があり憂いを感じさせる楽曲を披露。哀愁たっぷりの歌がしんみりとしていますね。「Betty Wrong」はキレのあるドラムが無理矢理に楽曲を引っ張っていきますが、歌は前曲の哀愁を少し引きずったような憂いを帯びています。「You Can’t Talk」ストーン・ローゼズにも通じる、グルーヴ感溢れるリズム隊がトリップ感を生み出します。楽曲の装飾に徹するギターもクールでカッコ良い。「Stateside」はハント・セイルスがボーカルを取る、ブルージーなナンバーです。演奏も歌い方もブルース・ハードロックといった感じで、オルガンによる味付けも渋い。全体的に気だるげですが、間奏は一転して凄まじい殺気を放ちます。前作に合いそうな渋カッコ良い楽曲ですが、比較的オルタナに寄せた本作だと若干浮いているかも。「Shopping For Girls」はテンポ良いドラムが牽引しますが、全体的に暗鬱な空気が立ち込めます。奥行きのある演奏はアコギやグワングワンとしたエレキなど、エフェクト含めて情報量多めです。「A Big Hurt」はハードボイルドなロックンロール。キレのあるハードな演奏に、ボウイの歌もご機嫌ですね。ブイブイ唸るベースに、時折ギュインギュイン唸るギターが爽快です。「Sorry」は強い憂いを感じさせる楽曲で、アコギやサックスが切なさを引き立てます。哀愁たっぷりですが、ボーカルを取るのがボウイではなくハント・セイルスなのが惜しい。ボウイの声だったら名曲になり得たのかなとも思います。「Goodbye Mr. Ed」は躍動感があって爽やかですが、同時に諦めのような切なさの漂う楽曲です。演奏もメロディアスな歌も中々魅力的です。1分程の短いインストゥルメンタル「Hammerhead」で疾走感のある演奏で楽しませて終わります。

 時折爽快なロックンロールを奏でますが、前作よりもオルタナの影響が濃く出ている気がします。何曲かあるカッコ良い楽曲がリードします。

 本作とライブ盤の商業不振を受けてティン・マシーンは事実上解散(正式な解散宣言はされていないようですが)。デヴィッド・ボウイはソロキャリアに戻りますが、ここでの経験がインスピレーションを刺激したのか、1990年代ソロでは調子を取り戻します。

Tin Machine II
Tin Machine
 
 

関連アーティスト

 デヴィッド・ボウイの本家ソロ活動。

 
 リーヴス・ガブレルス(Gt)が1997年に「Wrong Number」を共作したほか、2012年にはメンバー加入。
 
 
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