🇬🇧 Ultravox (ウルトラヴォックス)
レビュー作品数: 6
スタジオ盤
ジョン・フォックス在籍期
1977年 1stアルバム ※Ultravox!名義
ウルトラヴォックスはイングランド出身のポストパンクバンドで、パンクにエレクトロニクスを持ち込んだパイオニア的な存在として知られています。1974年に、ジョン・フォックス(Vo)、スティーヴィー・シアーズ(Gt)、クリス・クロス(B)、ウォーレン・カン(Dr)のメンバーで結成しました。当時のバンド名はタイガー・リリーでしたが、ビリー・カーリー(Key/Vn)が加入したことを契機に1975年にウルトラヴォックス!に改名しました(感嘆符はノイ!へのリスペクトだそう)。
本作は、ロキシー・ミュージックに影響を受けたというグラムロック的なアプローチを繰り広げます。バンドとスティーヴ・リリーホワイトが共同プロデュースし、ブライアン・イーノもサポートしています。後に敏腕プロデューサーとして大活躍する2名が関わっているという凄い作品ですね。
オープニングを飾る「Saturday Night In The City Of The Dead」はパワフルなドラムで幕を開けます。リズミカルで躍動感のあるシンプルなグラムロックといった印象で、ジョンの吹くハーモニカがアクセント。「Life At Rainbow’s End (For All The Tax Exiles On Main Street)」はクリスの強靭なベースがカッコ良いですね。メロディよりはパフォーマンス重視な歌唱を聴けますが、終盤は若干カオス。続き「Slip Away」は少しひねた感じのポップ曲です。楽曲の展開が少しトリッキーですが、躍動感あるリズム隊に、独特の歌メロが中々魅力的です。終盤は、不穏な空気と明るい雰囲気が入り乱れて感情が乱高下するかのよう。そして7分を超える大作「I Want To Be A Machine」。序盤はジョンがアコギを弾きながら憂いたっぷりに歌いますが、歌い方も楽曲の雰囲気もデヴィッド・ボウイにそっくりで、個人的には好感を持てます。中盤以降は爆音ベースやヴァイオリンが楽曲に重さや悲壮感を加えて、ドラマチックに。終盤は神経質なヴァイオリンが焦燥感を煽り立てるのでとてもスリリングなんです。変化に富んだ魅力的な大作です。
レコードでいうB面は「Wide Boys」で幕開け。パワフルでダイナミックなドラムが楽曲にメリハリをつけます。印象的なギターリフや歌唱はデヴィッド・ボウイ風(?)、一瞬ビートルズの面影も見えたりして、個人的には嬉しい1曲です。続く「Dangerous Rhythm」はシンセサイザーを用いて、少しレトロで妖しい雰囲気が漂います。グルーヴ感の強いクリスのベースも気持ち良いですね。「The Lonely Hunter」は重低音を効かせたファンクのようで、それでいてハードロック的なギターや、ポストパンク的なひねくれた感覚を持ち合わせています。「The Wild, The Beautiful And The Damned」はヴァイオリンに加えて骨太なリズム隊が、シリアスな雰囲気を醸し出します。ヴァイオリンが前面に出ていることから、プログレやアート的な感じもします。最後に「My Sex」。シンセサイザーを大きくフィーチャーしてシンフォニーを奏でています。歌は抑揚がないため、シンセの音色が余計に引き立っていますね。
骨太な演奏で、この時点では電子楽器もそれほど用いられていません。グラムロックファンにオススメの良作です。
1977年 2ndアルバム ※Ultravox!名義
前作時点で既にロンドンパンクブームが起きていましたが、本作によってウルトラヴォックスは、パンクにエレクトロニクスを持ち込んだパイオニアとして認知されるようになります。前作に引き続きバンドとスティーヴ・リリーホワイトの共同プロデュース作となります。
なお1978年初頭にスティーヴィー・シアーズ(Gt)が脱退してしまうため、彼が参加した最後のアルバムとなりました。
オープニング曲は「ROckWrok」。パンク色の強いスリリングな疾走曲で、クリス・クロスの爆音ベースをはじめ、力強いリズム隊が牽引します。軽快なピアノがアクセント。抑揚の少ないジョン・フォックスの歌は、パンク的な楽曲にもよく合いますね。「The Frozen Ones」はリズミカルな指パッチンが耳に残り、思わず真似したくなります。かと思えば、途中から疾走感溢れるパンクが飛び出してきます。勢いがあってノリノリのロックンロールで楽しいですね。続く「Fear In The Western World」はビリー・カーリーのヴァイオリンが不協和音を奏で、ひりついた焦燥感のある演奏を繰り広げます。でもサビでの歌詞の反復は中毒性もありますね。最後は耳障りなフィードバックノイズを響かせ、かと思えば次曲「Distant Smile」は、ピアノでしっとりと暗鬱なムードに。中盤までダークな雰囲気ですが、そこからパンキッシュで焦燥感溢れるスリリングな楽曲へと変貌。セックス・ピストルズのジョン・ライドンのような、まくし立てるような歌唱も強烈。
アルバムは後半に突入。「The Man Who Dies Every Day」は退廃的な雰囲気が漂う中、機械的で無機質なリズムビートが気持ち良いです。シンセポップのような、それよりはダークで張り詰めた空気感です。「Artificial Life」はオルガンが悲壮感を伴う厳かな雰囲気を作り出しますが、そこにヘヴィなギターをはじめバンド演奏が覆います。不安を掻き立てるスリル満点の演奏はとてもカッコ良いですね。暴力的なサウンドが不協和音を奏でています。終盤はハイテンションかつ高速で暴れ回っています。「While I’m Still Alive」は機械的なビートを刻んだかと思えば力強いドラムを叩き、そこに爆音ベースとキンキンとしたギターが、暴力的なサウンドを聴かせます。ラストの「Hiroshima Mon Amour」はシンセポップ曲です。ドラムマシンを導入して、チープで無機質なサウンドを展開。シンセが神秘的な雰囲気を加え、また色気たっぷりのサックスが楽曲を彩ります。
パンク、あるいはポストパンクに実験的な要素を加えたスリリングな楽曲が詰まっています。次作と並んでジョン・フォックス時代では人気の高い作品のようです。
1978年 3rdアルバム
この年からウルトラヴォックス!から「!」が取れてウルトラヴォックスを名乗るようになります。メンバーはジョン・フォックス(Vo)、クリス・クロス(B)、ビリー・カーリー(Key/Vn)、ウォーレン・カン(Dr)、そして新加入のロビン・サイモン(Gt)。そして、ドイツプログレを多く手掛けたコニー・プランクと、デイヴ・ハッチンズをプロデューサーに迎えた本作ではパンク色は薄れてシンセサイザーを大きく導入、バンドサウンドを残しつつもテクノポップの先駆けとなりました。
オープニング曲「Slow Motion」は晴れやかで力強いイントロから変化を感じさせます。シンセサイザーを大きく導入、ギターもシンセのように楽曲の装飾に徹しており、爆音ベースが楽曲にアクセントを与えます。「I Can’t Stay Long」は単調な爆音ベースが心地良い重低音を刻み、テンションは抑えめながらもギターとシンセが程良い疾走感。そしてここぞという時に楽曲を盛り上げるウォーレンのドラムが良いですね。都会的で近未来感があります。「Someone Else’s Clothes」はパンク色を残した楽曲で、粗削りなギターが唸ります。ですがシンセに彩られてカラフルなので、パンクとの違いを見せます。「Blue Light」はリズミカルなダンスビートが気持ち良く、ささくれだったサウンドはスリリングです。そしてジョンの歌はキャッチーで、ときに色気や妖しさを醸し出します。反復するアウトロも妙に耳に残るんです。そして「Some Of Them」はイントロから勢い良く飛び出してきて、高揚感を掻き立てます。疾走感に溢れ、カラフルなオルガンに彩られています。耳に残る歌もキャッチーですね。カッコ良い楽曲です。
アルバム後半は「Quiet Men」で幕開け。チープなドラムマシンがテクノポップ感満載(リズミカルでこれが良い感じ)ですが、ロビンの粗削りなリズムギターが主軸です。続く「Dislocation」は実験的な電子音を鳴らしながら、ジョンの歌を引き立てます。演劇的にも聞こえる歌はデヴィッド・ボウイにも通じるかも。「Maximum Acceleration」は鍵盤がひんやりとした質感で、全体的にややダークな雰囲気が漂います。「When You Walk Through Me」は、ダイナミックなドラムにハードなギターが高揚感を掻き立てます。ギラギラしていてカッコ良いですね。そして最終曲「Just For A Moment」。静かなビートをバックに歌うジョンの歌唱は演劇的で、グラムロックの風合いを残しています。オルガンが荘厳な雰囲気を作り、中盤には唐突に鍵盤だけになる場面で緩急をつけます。
リズムマシンを元いた一部の楽曲はテクノポップ風ですが、バンド演奏はパワフルでメリハリがあります。
本作でも商業的な成功は得られず、ウルトラヴォックスはレーベルを解雇されることに。そしてジョン・フォックスとロビン・サイモンは脱退してしまいます。ロビンはマガジン、ついでヴィサージに加入することになりました。
ミッジ・ユーロ加入
1980年 4thアルバム
脱退したメンバーに代わって、ヴィサージとも兼任するミッジ・ユーロ(Vo/Gt/Synth)が加入。クリス・クロス(B/Synth)、ビリー・カーリー(Synth/Vn)、ウォーレン・カン(Dr/Vo)と合わせて4人体制でウルトラヴォックスはスタートすることとなりました。前作に引き続きコニー・プランクのプロデュース体制も変わりませんが、ボーカルの交代に加えてシンセの活用が進み、全英3位と初の商業的成功を掴みました。
アルバムは7分に及ぶインストゥルメンタル「Astradyne」で幕開け。冒頭は無機質ですが、そこからリズム隊が力強いビートを刻み、分厚いシンセサイザーがカラフルな音色を奏でると、世界が明るく広がるような感覚になります。スケール感があってオープニングに相応しい名曲ですね。楽曲を彩るヴァイオリンも良い感じ。続く「New Europeans」は当時サントリーのCM曲に使われたそうで、日本で人気の楽曲です。エッジの鋭いリズムギターがザクザクとしていますが、ピコピコとしたシンセやダンサブルなリズムビートは楽しいです。ですが後半はメランコリックな色合いが増し、哀愁を感じさせます。「Private Lives」は冒頭に悲哀に満ちたピアノを奏でますが、そこからギターやシンセがカラフルに彩り始めます。アウトロは、プログレハードやスタジアムロック的な演奏で晴れやかな雰囲気。「Passing Strangers」は少し陰りのある楽曲で、ハードな演奏がシリアスな空気を醸します。シンセの音色が時代を感じさせますね。そして「Sleepwalk」は勢いのあるリズムビートが高揚感を掻き立てます。ノリノリで疾走感があり、ピコピコしたシンセも爽快。歌もシンプルながら耳に残るキャッチーさがあります。
アルバム後半は「Mr. X」で開幕。チープな打ち込みサウンドに、ミニマルで中毒性のある演奏、そして電子的に加工されたウォーレンのボーカル(というかボイス)などクラフトワークを想起させます。「Western Promise」はループするピコピコサウンドが中毒性を生み出します。そしてヴァイオリンを用いたエキゾチックなフレーズに、プログレ的な感覚も見出せます。歌もありますが、演奏が中心の良曲です。そしてタイトル曲「Vienna」。後にシングルカットされて全英2位を獲得。チープな打ち込みでゆったりテンポの楽曲で、ミッジの伸びやかで美しい歌がフィーチャーされています。後半テンポアップして、ヴァイオリンも交えた演奏で緩急をつけます。魅力的な名曲ですね。ラスト曲「All Stood Still」は電子音楽的な側面と、ハードポップ的な側面を併せ持ちます。躍動感があるリズムに、ギラついたギターが唸ります。
ウルトラヴォックスの名盤と名高い作品で、シンセを大きく導入しつつソリッドなギターも活躍。テクノポップ曲だけでなくスタジアムロック的な楽曲も兼ね備えています。
1981年 5thアルバム
前作に引き続き、コニー・プランクとの共同制作で臨んだ本作はシンセポップのピコピコ感を残しつつもシリアスさが増しました。全英4位を獲得。ジャケットアートはジョイ・ディヴィジョン等を手掛けたピーター・サヴィルの作です。
オープニング曲は6分に及ぶ「The Voice」。ビリー・カーリーの分厚いシンセに負けず劣らず、クリス・クロスの強靭なベースが主張します。哀愁漂うメロディラインは時代を感じさせますが、これがまた魅力的なんです。「We Stand Alone」は単調なビートがダンサブルですが、全体的にシリアスな空気が立ち込めます。華やかなシンセが楽曲をリードしつつ、ソリッドなギターでメリハリをつけます。そして表題曲「Rage In Eden」。勢いのある前2曲と違って、ミドルテンポで重厚さが引き立ちます。単調なリズムパターンが独特で、そこにダウナーなコーラスワークが加わって不気味な雰囲気です。ちなみにコーラスは次曲のものを逆再生したのだそう。続いて「I Remember (Death In The Afternoon)」。エレクトロニックなサウンドに加えてウォーレン・カンの力強いビートは高揚感を引き立てますが、それと同時に暗鬱さも併せ持ち、心がざわつくような感覚です。
レコードB面は「The Thin Wall」で幕開け。ミニマルなパターンの反復が中毒性を生み、音数を減らしてミッジ・ユーロの歌が引き立てます。そして隙間すき間でシンセが暗い音色を奏でています。続く「Stranger Within」は7分に渡る楽曲です。チープで無機質なリズムパターンに、ファンキーなギターやベースが乗っかって抜群のグルーヴを放っています。シンセはときにシンフォニック、ときにスペイシーな感覚で楽曲に彩りを与えます。ここからは「Accent On Youth」を皮切りに組曲のように繋がっています。まず本楽曲は、本作では数少ない明るくアップテンポな感触です。ウォーレンの叩く力強いドラムに、ピコピコした感覚が気持ち良いですね。後半は緊張感を高めていき、そのままインスト曲「The Ascent」へ。緊張感がありますが、そこにストリングスが加わって美しく魅せます。そして最後は不穏なピアノで雰囲気を一変させると「Your Name (Has Slipped My Mind Again)」へ。残響が強い強烈なビートは怖いくらいですが、それとは対照的な、悲哀のピアノとミッジの耽美な歌に美しさを見出せます。
冷たいけどダンサブルというギャップのある作風ですが、全体的な完成度は高め。特にラスト3曲は圧巻です。
1982年 6thアルバム
これまでコニー・プランクがプロデュースに携わってきましたが、安定感ではなく刺激を求めたウルトラヴォックスはコニー・プランクの手を離れます。ビートルズを手掛けたジョージ・マーティンを新たなプロデューサーに迎えました。全英6位を獲得しています。
オープニング曲は「Reap The Wild Wind」。時代を感じさせる色鮮やかなシンセサイザーと、力強いリズム隊が対照的でウルトラヴォックスらしいですね。シーケンサーも用いて、キラキラとしています。続く「Serenade」は速いテンポで高揚感を煽ります。良い意味でチープなエレクトロニックサウンド、そしてウォーレン・カンの力強いビートも合わせてリズミカルで気持ち良いんです。やや変則的な構成も印象的。「Mine For Life」はシリアスな雰囲気を持っていますがキャッチーさも併せ持っていて、悲観よりもノリの良さが上回ります。クールでカッコ良い。そして名曲「Hymn」。時代を感じる作風ですが、メロディが良いんです。ミッジ・ユーロのメロディアスな歌をフィーチャーしつつも、色鮮やかなシンセや、クリス・クロスの太いベースなど聴きごたえ満点。
アルバム後半のオープニング曲は「Visions In Blue」。ダンディな歌と電子ピアノで厳かな雰囲気を作り出します。そして中盤からはドラマチックに曲調が変化。ゴシック的な重厚さを持ちつつ、シンセポップ特有のダンサブルな心地良さも同居します。終盤はまた厳かな雰囲気へ。続く「When The Scream Subsides」は冒頭から跳ねるようなビートを奏でます。シリアスな雰囲気もありますが、リズム隊の生み出す強烈なビートのおかげで躍動感が上回ります。「We Came To Dance」はチープながらもリズミカルな演奏が気持ち良い。ピコピコしていますが、時折ダークな側面が顔を出します。そして「Cut And Run」は冒頭から時代を感じるシンセの音色。そこにソリッドなギターやリズム隊が焦燥感を掻き立てます。中盤以降は場面転換を繰り返してシリアスな雰囲気になります。ラスト曲は「The Song (We Go)」。力強いビートにチープなシーケンサーが妙に耳に残るんです。後半はアフロビートに影響を受けたドラムソロもあり、中々スリリングです。
シリアスさは受け継ぎつつも、前作以上にキャッチーさが出ていて聴きやすいです。名曲「Hymn」をはじめ良曲が揃っています。
関連アーティスト
3rd『システム・オブ・ロマンス』に参加したロビン・サイモン(Gt)の移籍先。
ミッジ・ユーロ(Vo/Gt/Synth)とビリー・カーリー(Vn/Synth)が掛け持ち。
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