🇬🇧 XTC (エックス・ティー・シー)

レビュー作品数: 5
  

スタジオ盤

White Music (ホワイト・ミュージック)

1978年 1stアルバム

 XTCは英国のロックバンドです。バンド名は「Ecstasy(エクスタシー)」をもじったものと言われています。パンクを昇華して独特のひねたポップ感覚を見せ、ニューウェイヴの代表的なバンドとして知られます。また、後のブリットポップムーブメントにも大きな影響を与えました。途中挫折したものの、ブラーのプロデュースにも関わっていますね。アンディ・パートリッジ(Vo/Gt)、コリン・モールディング(Vo/B)、テリー・チェンバーズ(Dr)、バリー・アンドリューズ(Key)で結成。1977年にデビューを果たします。
 元々のタイトルはブラックジョークにちなんで『Black Music』となる予定でしたが、黒人音楽と間違われることを危ぶんだレーベルとマネージャーから改題を提案され、白人が演奏している音楽という意味も込めた『White Music』にしたのだそうです。後にポストパンク系アーティストの多くを手掛けることになる、ジョン・レッキーがプロデュースしました。

 オープニング曲「Radios In Motion」は疾走感のあるドラムに骨太なベースが強烈です。そしてギターがノイジーにかき鳴らし、まくし立てるように緊張感のあるスリリングな演奏を繰り広げますが、歌は結構ポップな感じ。続く「Cross Wires」はドタバタと騒がしくも、アヴァンギャルドな演奏を繰り広げます。取っ付きにくさを放ちつつも、焦燥感を煽る演奏はとてもスリリングで、魅力的です。そしてチープな電子音がひねくれ感を加えます。「This Is Pop」はタイトルとは裏腹に、陰りのある演奏かつポップさの薄い演奏を展開、ダイナミズムを強調したドラムがスリリングです。でも力強く歌うサビメロだけはポップさが溢れているという。僅か1分強の「Do What You Do」は愉快で陽気な雰囲気。ですがテンポがかなり速いため、まくし立てられているかのようなスリルがあります。そして「Statue Of Liberty」はシングル曲です。跳ねるようなベースを軸に、グルーヴ抜群の演奏で楽しませます。メロディも比較的ポップで聴きやすく、弾けるようなノリの良さ。「All Along The Watchtower」はボブ・ディランのカバー曲。リードベースとも呼べるコリンのベースに、シャッフルするようなドラムがダンサブルな感覚を生み出しています。時折ハーモニカを熱く吹き鳴らす以外はシンプルな演奏ですが、リズム隊がとても気持ち良いです。
 レコード時代のB面、アルバム後半は「Into The Atom Age」で幕開け。パンキッシュなロックですが、チープな電子音による味付けによって独自性を発揮しています。「I’ll Set Myself On Fire」はマッチを擦るような音で幕開け。奇声というかおどけたようなふざけた歌唱が独特で、演奏もひねくれていますが、不思議とポップさも感じられます。そしてエフェクトをかけたギターによる間奏は、独特の浮遊感を醸し出していますね。「I’m Bugged」はレトロゲームのようなチープな電子音が、エキゾチックなフレーズを奏でます。そして、ヘンテコな演奏にひねくれポップな歌が、妙な感覚。とても変な楽曲です。続く「New Town Animal In A Furnished Cage」は、ひねくれた前曲との対比でとてもスタンダードな感じに聴こえます。笑 ノリの良いアップテンポな楽曲です。そして「Spinning Top」はファンク色の強い1曲。横ノリのグルーヴが強く踊りたくなりますが、途中から勢いのあるストレートなロックンロールに変貌します。最後は「Neon Shuffle」。ドタバタと忙しない楽曲で、展開も結構目まぐるしく変わります。

 全体的に焦燥感を煽るようなスリリングな演奏が多く、それでいながら時折おどけるような歌メロがポップです。

White Music
XTC
 
Go 2 (ゴー 2)

1978年 2ndアルバム

 アート集団ヒプノシスによってデザインされた、真っ黒な背景に文字がびっちり書かれたジャケットアート。要約すると「ジャケットアートは興味を惹かせようとデザインされていて、現にあなたも今この文章を読んでるでしょ?ジャケットアートの良し悪しで購買するのは馬鹿げているしそれを警告するけど、この文章がただのデザインに過ぎないことを知っているあなたには当てはまらない」という趣旨を書き連ねています。ユーモアがあって中々面白いので、全文を訳しているサイトなどをぜひ探してみてください。笑
 本作も前作に引き続きジョン・レッキーのプロデュース。バリー・アンドリューズの参加した最後の作品になりました。

 「Meccanik Dancing (Oh We Go!)」はアンディ・パートリッジのギターのカッティングが荒い音を立て、バリーの鍵盤が不協和音じみた音を奏でます。これらが強烈なだけでなくベースも主張が強くて、取っ散らかっていて強いインパクトを与えます。「Battery Brides (Andy Paints Brian)」はコリン・モールディングの力強いベースが軸となり、瞬くような電子音が不思議な浮遊感を醸し出します。テンションの低い歌をレトロゲームのファンファーレのような電子音で彩って、シュールで面白いです。続く「Buzzcity Talking」はリズムチェンジを駆使した変則的な楽曲で、まったり進行したかと思えばテンポアップし、ゲーム音のような電子音がピロピロ鳴っています。そして「Crowded Room」は冒頭だけスカっぽい。低い音を唸らせるベースリフがとてもカッコ良いです。リズミカルかつパワフルで気持ちの良いリズム隊を、キーボードがかき乱します。ひねくれポップな歌メロも中々良い。「The Rhythm」はテリー・チェンバーズのタムを叩く場面がカッコ良い。少し怪しげなフレーズを軸に、歌メロは明るかったり、ピアノは哀愁を持っていたりとチグハグな感じがします。「Red」はスカのリズムを取り入れた、ドタバタ感のある陽気な疾走曲です。「Red」を連呼する歌メロが耳に残りますね。
 アルバム後半は「Beatown」で開幕。ピコピコ鍵盤と単調なリズム隊がイントロを奏でると、躍動感のある歌を展開します。勢いはあるのですが、先の読めない変な楽曲構成です。後半は延々と同じフレーズを繰り返す演奏を繰り広げ、スペイシーなトリップ感が不思議と気持ち良い。続く「Life Is Good In The Greenhouse」は「ハハハ ハーハハ ハー」の奇妙なコーラスがインパクト大です。ゆったりとしたテンポの楽曲で、残響の強いドラムが響かせながら、電子音を交信するかのように鳴らすのも特徴的。「Jumping In Gomorrah」は時折聴かせるダイナミックなドラムに、ブンブン唸るベースがカッコ良く、跳ねるようなスカのようなリズムでご機嫌です。歌メロもキャッチーで聴きやすいですね。骨太なリズム隊とコーラスによる比較的シンプルな構成の「My Weapon」を挟んで続く「Super-Tuff」。ファンクのようなリズムを奏でつつ、チープなシンセの音色はゴシックロックのような怪しくダークなムードを醸します。そして最後は「I Am the Audience」。荒削りなギターやチープな電子音が時折かき乱すものの、リズミカルな演奏が軸となって進行します。

 奇をてらった感じというか、一癖もふた癖もある楽曲が並んでいます。ポップさよりもひねくれ要素の強さが際立ちます。

Go 2
XTC
 
Drums And Wires (ドラムス・アンド・ワイアーズ)

1979年 3rdアルバム

 1979年にバリー・アンドリューズ(Key)が脱退し、デイヴ・グレゴリー(Gt/Key)を加えたラインナップで、本作『ドラムス・アンド・ワイアーズ』が制作されました。XTCを顔文字に見立てたジャケットが印象的です。
 全楽曲がアンディ・パートリッジ(Vo/Gt)、またはコリン・モールディング(Vo/B)の作曲です。ポストパンク/ニューウェイヴ期を代表する名プロデューサーとなる、スティーヴ・リリーホワイトを迎えています。

 オープニングを飾るのは代表曲「Making Plans For Nigel」。残響のあるサウンドでパタパタと刻む、テリー・チェンバーズのドラムが独特のリズム感を生み出します。歌メロも独特で、ひねくれていますが耳に残るキャッチーさがあり、不思議なポップ感覚。ギターもなんかすっきりしないのですが、面白いんです。続く「Helicopter」はシーケンサーを用いて賑やかな演奏を繰り広げ、コリンのベースが時折爆音でブンブン唸ります。躍動感に溢れた気持ち良い楽曲で、歌は変な感じで癖がありますが、キャッチーさも兼ね備えていて中毒性が高いです。楽しい楽曲ですね。「Day In Day Out」はファンクのリズムを取り入れてグルーヴに溢れています。独特のベースラインが際立ちますね。歌は調子外れですがメロディは結構キャッチーで、ひねたポップ感が楽しい。また「When You’re Near Me I Have Difficulty」は躍動感のあるリズム隊のおかげでドタバタコメディのような、ノリの良いコミカルな雰囲気を醸し出しています。おどけた歌い方ですが、終盤は何気に転調してメロディアスな感じに。「Ten Feet Tall」は少しだけ哀愁を醸しています。アコギをアクセントとして加えつつ、リードギターが中々良いフレーズを奏でます。そして「Roads Girdle The Globe」はひねくれ全開の変な楽曲。タムタムを活用したダイナミズムに溢れるドラムや、切れ味のあるギターが緊張を高め、ベースも主張が激しいです。そしてメロディが変テコで、ポップさとはほど遠い感じ。
 アルバムは後半に突入、「Real By Reel」で始まります。叩きつけるかのようなドラムが強いビートを生み出し、ベースが主旋律を刻むのでグルーヴも強烈。思わず踊りだしたくなるような演奏に加え、メロディはひねていますが楽しそうな歌唱のおかげでノリが良いです。「Millions」はベースがどんよりとした音を響かせ、加えてパーカッションやタムタムを駆使したドラムも相まって、どことなく原始的でエキゾチックな空気感。歌メロも変な感じです。続く「That Is The Way」は冒頭から意味不明なリズムの刻み方で戸惑わせますが、リズムチェンジすると明るくポップな楽曲を展開します。終盤は華やかな金管楽器(フリューゲルホルンというそう)がメロディを奏でます。「Outside World」は明るくて気持ちの良い疾走曲です。パンキッシュでノリも良いですが、ストレートではなくひねくれた演奏は独特ですね。そのひねくれ具合を更に推進した「Scissor Man」はアップテンポ曲ながらかなり奇怪な印象。突飛な楽曲構成なので先が読めませんが、明るい雰囲気で押し通します。ラスト曲「Complicated Game」も売れ線とは一線を画す前衛的な感じ。アルバム終盤に向かうにつれてアンディ作の楽曲の比率が増えていきますが、それと比例するように楽曲もどんどんひねくれていく気がします。

 一癖も二癖もある変な楽曲が並びますが、妙な中毒性があります。歌メロだけでなく、各楽器、特にベースラインが独特な気がします。ひねたポップセンスが光る面白い作品です。

Drums And Wires
XTC
 
Black Sea (ブラック・シー)

1980年 4thアルバム

 過酷なツアーを経たXTC。その経験から、当初タイトルは『Work Under Pressure』だったそうですが、マネージャーに反対され、アンディ・パートリッジの作曲時の心境を表して『Black Sea』というタイトルを採用することに。タイトルに合わせて、潜水服を着たジャケットアートが採用されています。
 前作に引き続き、スティーヴ・リリーホワイトのプロデュース。同年発表の『ピーター・ガブリエル III』で用いられた、革新的な手法「ゲートリバーブ」。ドラム音にエコー処理を施し、残響音をバッサリ切るという手法ですが、この手法を本作でもいち早く採用しています。プロデューサーのスティーヴ・リリーホワイトとエンジニアのヒュー・パジャムという、『ピーター・ガブリエル III』と同じタッグですしね。

 オープニング曲「Respectable Street」で開幕。冒頭だけノイズのプチプチ音でローファイな音処理がなされ、レトロな感触を出しつつ、途端に切れ味の鋭いカッティングに力強いドラムといったバンド演奏でメリハリをつけます。相変わらずひねくれたメロディですが、ポップさも兼ね備えていて耳に残りますね。続く「Generals And Majors」はXTCの代表曲の1つです。テリー・チェンバーズの躍動感あるドラムが高揚感を掻き立てます。メロディは独特ですが、口笛やハミングを駆使してご機嫌な感じ。そして本作のハイライト「Living Through Another Cuba」。サンバ風のリズムに乗せてひたすら連呼する「リビスゥアナーザーキューゥ…ッバ!」はどうしたって耳に残りますね。笑 楽曲の主軸を作るベースや、スコンと抜けるドラムが生み出す心地良いリズム感覚。ノリが良くて中毒性も高い、楽しい1曲です。「Love At First Sight」は同じフレーズの反復が用いられていて、歌も耳に残ります。ドラムのビートがとても気持ち良くダンサブルで、エッジの効いたギターも魅力的。続く「Rocket From A Bottle」はダイナミズムに溢れたドラムが、パタパタとしていて爽快。歌メロにキャッチーさが少ないこともあり、意識がドラムの方に向かってしまいます。そして「No Language In Our Lungs」はスローテンポでゆったりとしています。グルーヴ感が強くて、心地良く揺さぶられる楽曲です。
 アルバム後半は「Towers Of London」で幕開け。アクの強いボーカルではあるものの、メロディアスな歌を聴かせてくれるし、後半は転調して盛り上げます。このひねたポップ感覚はブラーに受け継がれていると思います。「Paper And Iron (Notes And Coins)」はプリミティブかつ力強いドラムによって、躍動感があってとてもスリリングな楽曲に仕上がっています。リズムに合わせて動きたくなるような、気持ちの良いドラムが魅力的です。続く「Burning With Optimism’s Flames」はギターとドラムが部分的にレゲエのリズムを取り入れています。そんな中で存在感を示すコリン・モールディングの弾くベースがカッコ良いです。「Sgt. Rock (Is Going To Help Me)」はリズミカルで陽気なポップ曲です。もう少しストレートならば万人受けしそうですが、XTCらしさというか、どこかひねた感じが個性的な1曲に仕上げています。リズム隊が強靭で気持ち良い。ラスト曲「Travels In Nihilon」は7分に渡る大作。ゲートリバーブを導入したプリミティブなドラムが、強い緊張を強いてきます。加えて怪しげなボーカルやひりついたギター、蠢くようなベースも相まって、陰鬱かつ人を寄せ付けないような緊迫感があります。

 ビートの強いドラムの際立つ演奏で楽しませます。個人的には「Living Through Another Cuba」が突出して大好きな1曲です。

Black Sea
XTC
 
English Settlement (イングリッシュ・セツルメント)

1982年 5thアルバム

 XTC唯一のトップ10入り(全英5位)を果たした、彼らの代表作です。XTC初のレコード2枚組アルバムで、全15曲72分に及ぶボリューミーな作品です。なお楽曲数を絞った1枚もののレコードや、CDもフル収録のもの・楽曲数を絞ったものと、いくつかバージョンがあるようです。イングランドの丘陵地帯に描かれた地上絵「アフィントンの白馬」がジャケットに描かれています。前作でエンジニアだったヒュー・パジャムと、XTCの共同プロデュース作。

 レコード時代のA面は「Runaways」で幕を開けます。残響感のあるボーカル、陰鬱なアコギ、ドスンと力強く響くドラムらが、ひんやりとして神秘的で、そしてエキゾチックな雰囲気を醸し出します。続く「Ball And Chain」はキレのあるリズミカルなギターや、跳ねるようにキャッチーな歌やコーラスが、ビートルズを彷彿とさせます。躍動感のあるリズム隊も気持ち良いですね。「Senses Working Overtime」は民族音楽のような実験的な冒頭から、徐々にキャッチーなメロディへと変わっていきます。明るくポップな感じ。6分に及ぶ「Jason And The Argonauts」は迫力あるベースと力強いドラムが緊迫した空気を演出します。ギターポップ的なアコギがピリついた空気を少し和らげますが、歌も相変わらず変なメロディで取っつきやすさは少なめです。
 ここからレコードB面。「No Thugs in Our House」は力強いロックにアコギを加えたような印象で、前のめりのパワフルなビートに混じる軽快な音色が爽快。コリン・モールディングのベースが爆音で唸っています。「Yacht Dance」は、プリミティブなパーカッションとトラッド風のアコギによって、牧歌的な空気が流れています。落ち着いた雰囲気の割にベースの音量がでかすぎる気もしますが。笑 続く「All Of A Sudden (It’s Too Late)」はテリー・チェンバーズのプリミティブなドラムが印象的で、負けじとベースが大音量で唸ります。ギターは爽やかですが、どこか寂寥感があります。
 レコードC面は「Melt The Guns」で幕開け。本作最長の6分半に及ぶ楽曲です。ラテンやファンクっぽさを取り入れつつ、アコースティックな趣もある不思議な感覚。バスドラムがとても重たくドシンと響きます。「Leisure」はひねくれた楽曲構成やサウンドでニューウェイヴ全開といった印象。でもメロディは所々にビートルズのような、英国らしさが表れている感じがします。そして「It’s Nearly Africa」はタイトル通り、アフリカ音楽に接近。プリミティブかつ力強いパーカッションが強烈な存在感を放ちます。歌い方もどこか野性味がありますね。「Knuckle Down」は残響効果の強いイントロが不気味ですが、歌が始まると雰囲気は一転。古きよきブリティッシュロックを、ニューウェイヴ的なひねた感じで味付けしたような感じです。
 最後にレコードD面。「Fly On The Wall」はダンサブルなリズムビートが爽快です。ヴォコーダーで歪めたボーカルとチープな電子音も、ダンスビートと相まって気持ち良いですね。続く「Down In The Cockpit」はスカのように陽気だけど変なメロディで、初期XTCらしさの残る躍動感あるポップ曲です。「English Roundabout」は少ない音数で軽快な音色を出し、ノリの良いリズムを強調することで、とても爽やかで気持ちの良い楽曲に仕上げています。最後は「Snowman」。透明感のある優しいギターと、ダイナミックで原始的なドラムが対照的ですね。

 英国らしいひねくれポップなメロディということで高く評価されている作品です。アコギの活用が大きく進んだ印象。通して聴くとちょっと長いですが、A面とD面が中々良い感じです。

English Settlement
XTC
 
 
 類似アーティストの開拓はこちらからどうぞ。