🇯🇵 イエロー・マジック・オーケストラ

レビュー作品数: 8
  

スタジオ盤①

テクノポップブームの牽引

イエロー・マジック・オーケストラ (Yellow Magic Orchestra)

1978年 1stアルバム

 イエロー・マジック・オーケストラ、通称YMO。リーダー兼プロデューサーの細野晴臣(B/Key)、ファッションデザインも手掛ける高橋幸宏(Dr/Vo)、YMO解散後に映画音楽を手掛け世界的にも有名になる坂本龍一(Key/Dr)の3人組のテクノポップグループです。ドイツのクラフトワークに強い影響を受けており、また日本国内にテクノポップブームを巻き起こしました。当時流行した「テクノカット」と呼ばれるヘアカットもYMOがブームの火付け役になったそうです。1978年に結成、1983年の解散まで僅か6年(うち1年は活動休止)の活動期間でしたが、多大な影響を与えました。
 1978年に『イエロー・マジック・オーケストラ』でデビュー。翌年にリミックスを加えた『イエロー・マジック・オーケストラ (US版)』がリリースされますが、「アクロバット」が除外され「東風」が「イエロー・マジック (東風)」と改題されており、ミックスも違っているそうです。電脳芸者のジャケットもオリジナルより魅力的ですね。本項ではUS版をレビューします。

 「コンピューター・ゲーム “サーカスのテーマ”」で幕開け。「サーカス」というブロック崩しのアーケードゲームのBGMをシンセサイザーで表現した楽曲で、チープなサウンドはファミコン世代には懐かしく感じられるのではないでしょうか。後半からタイトなドラムが加わり、少しずつスリリングになっていきます。ゲームの終焉はノイジーで緊張感に満ちています。そのまま続く「ファイアー・クラッカー」はアジアンテイストのキャッチーな楽曲。ピアニストのマーティン・デニーのカバーで、華やかなシンセでキャッチーに仕上げているほか、ピコピコとした音が賑やかです。そしてノリの良いリズムが気分を高揚させます。「シムーン」はゆったりとしていて、無機質な質感が少し不気味な印象。ですが歌が始まると演奏はリラックスしたメロウな雰囲気も帯びてきます。加工されたボーカルはゲストの橋本俊一が担当したそうです。「コズミック・サーフィン」はジャジーでリラックスして聴けそうな演奏が主軸ですが、そこにピコピコしたシーケンサーで茶化している感じ。不思議なサウンドで癒しとは真逆の印象に仕上げます。「コンピューター・ゲーム “インベーダーのテーマ”」はアーケードゲーム「スペースインベーダー」を表現。チープな小曲ですが、中々魅力的なんです。
 レコード時代のB面、アルバム後半は「イエロー・マジック (東風)」で幕開け。どこかエキゾチックで懐かしさを感じられるメインメロディが魅力的で、ゲーム音楽に大きな影響を与えていると思います(個人的には東方Projectが頭に浮かびました)。タイトでリズミカルなドラムも、メロディの良さを引き立てているのではないでしょうか。ボーカルには吉田美奈子を起用、アクセントとして少しだけ歌が入りますがほぼ演奏中心です。続いてキャッチーなメロディで幕を開ける「中国女」。メロディは少し憂いを帯びていますが、前曲以上にリズミカルな演奏なので、聴いていると自然と身体がリズムを刻み始めます。所々入る高橋のボーカルは加工されて無機質で近未来的な印象。無機質な小曲「ブリッジ・オーバー・トラブルド・ミュージック」を挟んで、ラストは「マッドピエロ」。キャッチーなメロディ、そしてとてもダンサブルなリズムで賑やかな印象です。ピコピコサウンドのバックでアクセントとして鳴るピアノが綺麗なんですよね。

 昔懐かしのゲーム音楽を想起させる、チープだけど魅力的な電子音。センスある名盤だと思います。

イエロー・マジック・オーケストラ
(2018年リマスタリング Hybrid SACD)
イエロー・マジック・オーケストラ
イエロー・マジック・オーケストラ (US版)
(2018年リマスタリング Hybrid SACD)
イエロー・マジック・オーケストラ
 
ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー (Solid State Survivor)

1979年 2ndアルバム

 1979年に入り、前作を米国でリミックス。その後は本作の制作に入りますが、リリース前に実施したロサンゼルス公演で、ザ・チューブスというバンドの前座公演だったにもかかわらず大絶賛で、知名度を上げます。更に本作は国内でオリコン1位、当時珍しかった100万枚を売り上げて国内においてもその名を知らしめました。代表曲「RYDEEN (雷電)」、「TECHNOPOLIS」を収録し、イエロー・マジック・オーケストラの入門かつ最高傑作に挙げられることも多い傑作です。坂本龍一と高橋幸宏が英国を意識しており、ニューウェイヴ色を強めています。

 オープニング曲「TECHNOPOLIS」は坂本作曲の素晴らしい名曲です。緊張感に満ちたスリリングな幕開けですが、そこからシンセサイザーがキャッチーなメロディを奏でると一気に引き込まれます。ヴォコーダーを用いた、加工された無機質なボーカルは近未来的な雰囲気で、でも「TOKIO TOKIO」と分かりやすいフレーズで口ずさみたくなりますね。細野晴臣のベインベインと鳴るベースもカッコ良いです。「ABSOLUTE EGO DANCE」クラフトワークっぽい雰囲気のメインメロディを奏でていますが、所々沖縄民謡をぶち込むという奇抜な発想。インド音楽とディスコ要素もミックスされているそうで、エキゾチックで独特の空気感を持っています。ヒュイヒュイ鳴るシーケンサーも耳に残ります。そしてYMOと言えばこの1曲、名インストゥルメンタル「RYDEEN (雷電)」。このアルバムに辿り着くずっと前から耳馴染みがあったので、どこかで耳にするくらい有名なのでしょう。ずば抜けてキャッチーなメロディが魅力のこの楽曲は高橋の作。シンセが魅力的ですが、タイトなドラムも中々良いです。江戸の伝説的力士の名を借りて「雷電」と表記されましたが、米国で『勇者ライディーン』が流行っていたことに乗っかり「ライディーン (RYDEEN)」と読むことになりました。続く「CASTALIA」では、オープニング3曲のようなキャッチーさは大きく後退。ダークで神秘的な雰囲気が漂います。
 アルバム後半の幕開けは「BEHIND THE MASK」。国外で高く評価されている楽曲だそうです。ゆったりとして、機械的なボーカルは無機質なはずなのに、メランコリックなメロディが人の温もりを持っていて切なくさせます。続いてビートルズのカバー「DAY TRIPPER」。リズミカルだけど変なビートにサイケで幻覚的な演奏、高橋のヘタウマなボーカルもあって原曲からは大きくかけ離れている印象です。同じビートルズだとむしろ「Tomorrow Never Knows」っぽいか。ただ楽曲自体は面白くて良いです。「INSOMNIA」はどこか和風っぽいメロディが特徴的。メロディアスですが陰鬱な雰囲気が漂っています。最後は表題曲「SOLID STATE SURVIVOR」。跳ねるような明るいリズムに、キャッチーなメロディに引き込まれます。咳払いや笑い声をヴォコーダーを通して変な演出。ヘタウマな歌も結構魅力的です。

 大半の歌がヴォコーダーを通して楽器のように機械的。それが功を奏してか、歌に古臭さを感じず一周回って真新しさすら感じます。キャッチーなメロディも魅力的ですね。

ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー
(2018年リマスタリング Hybrid SACD)
イエロー・マジック・オーケストラ
 
増殖 (×∞Multiplies)

1980年 3rdアルバム

 ラジオで活躍していたコントユニット、スネークマンショー(桑原茂一、小林克也、伊武雅刀)とのコラボアルバムで、曲間にスネークマンショーのコントを挟むというシュールな構成です。当初10万枚の限定盤としてリリース予定だったものの、20万以上の予約が入ったため通常盤としてリリースすることになりました。
 少し不気味なジャケット写真は、メンバーの人形を300体並べたのだそうです。

 僅か20秒の、ラジオのジングルを真似た「ジングル“Y.M.O.”」に続いて、「ナイス・エイジ」。グルーヴ感の強いダンサブルな演奏に乗せてヘタウマな歌(ヘタウマというより、ダンディズムを表現しているのかな?)。これが意外とキャッチーでクセになりますね。途中のニュース速報を読み上げるのは元サディスティック・ミカ・バンドの福井ミカ。「スネークマン・ショー」は英語でコントを展開。そこからベースが響いて「タイトゥン・アップ」が始まります。アーチー・ベル&ザ・ドレルズのカバーだそうで、細野晴臣のグルーヴィなベースを中心に、ノリの良い演奏を展開。ライブのメンバー紹介のようでもあり、それでいてラジオのようなノリも感じさせます。「スネークマン・ショー」は英語の話せない「ミスター大平」を英語で馬鹿にするというコントを展開。「ヒア・ウィー・ゴー・アゲイン」は「タイトゥン・アップ」のリプライズ。ノリの良い雰囲気です。
 「スネークマン・ショー」は日本語のコント。扉を前に警察と麻薬中毒者が不毛なやり取りを繰り返すシュールな内容です。「シチズンズ・オブ・サイエンス」はキャッチーでノリノリの演奏を展開。疾走感に溢れる軽快な楽曲で、ゲスト参加の大村憲司のギターはキレがあり、また細野のグルーヴ感溢れるベースも強烈です。「スネークマン・ショー」では、中国で落語をやって、通訳を解して数テンポ遅れで爆笑が巻き起こるというシュールな内容です。「マルティプライズ」はスカを取り入れた楽曲です。少し古臭いギターを鳴らし、メロディは映画『荒野の七人』から引用されています。「スネークマン・ショー」は評論家がトークを展開するというコントで、「YMOが良いと思う」とコメントする評論家は相手にされていないという…。最後の「ジ・エンド・オブ・エイジア」は坂本龍一のソロアルバム収録曲のセルフカバー。和風の心地良いメロディが流れます。曲中のセリフは伊武雅刀によるもの。

 30分にも満たない短い内容で、ラジオのようなノリで勢いよく流れていきます。音楽よりもスネークマンショーによるコントがメインで、メロディが良いとかキャッチーな楽曲等はあまり無いですが、斬新な試みだと思います。

増殖 (2019年リマスタリング Hybrid SACD)
イエロー・マジック・オーケストラ
 

テクノロジーの追求~シリアス路線

BGM

1981年 4thアルバム

 最新機材だったデジタルのマルチトラックレコーダーを導入し、実験的で、ヨーロッパ的な重く暗いサウンドが特徴です。細野晴臣と高橋幸宏が、加藤和彦のソロ作制作のためベルリン滞在中に着想を得たそうです。社会現象にまでなったYMOが何をやっても売れてしまうという人気を背景に、高橋曰く「ファンの切り捨てをした」とのこと。従来からのファンから酷評されつつも、評論家からは高い評価を得ている、踏み絵的な作品です。なお坂本龍一の意見はあまり反映されず、レコーディングにも非協力的だったようです。
 これまでの作詞はクリス・モスデルが行ってきましたが、本作からはメンバーが作詞を行いピーター・バラカンが英訳するというスタイルで対応。

 アルバムは「バレエ」で幕開け。打ち込みサウンド全開ですが、『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』のようなキャッチーさは後退し、どこか気だるく陰鬱な空気が漂います。どこまでも曇り空が続くような陰りと、甘美な印象も持ち合わせたメロディが印象的です。「音楽の計画」は実験的で難解な印象ですが、打ち込みの変なリズムが妙にクセになります。歌は坂本が歌っています。「ラップ現象」は細野がラップを披露しますが、ぼそぼそとしている上に加工されたボーカルによってエイリアンが話しているかのよう。演奏は無機質かつ暗鬱な雰囲気ですが、リズミカルなので意外にノれる楽曲です。「ハッピー・エンド」は坂本のソロ曲のダブミックス。メロディを排して、金属音のような、無機質かつ浮遊感のある不思議なサウンドを響かせます。冷たい質感のインストゥルメンタルです。「千のナイフ」も坂本のソロ曲をアレンジ。ギターソロを表現した坂本のシンセが印象的ですが、実験的な色合いが強く難解ですが、聴いているとクセになりそうなトリップ感があります。
 アルバム後半は「キュー」で開幕。細野と高橋の二人で完成させたことに坂本が反発、ウルトラヴォックスのパクりと批判して手を加えなかったそうです。雄大で少しオリエンタルな雰囲気の演奏に、高橋の気だるげな歌が心地良いです。続く「ユーティー」ですが、当初タイトルを「E.T. (地球外生命体)」と「U.T. (超地球的存在)」どちらにするかを悩んだ末、後者が採用されたそうです。ちなみにスティーヴン・スピルバーグの『E.T.』はこの翌年に公開。さてこの楽曲ですが、高橋のリズムビートを強調したドラムが強烈なインパクトで、焦燥感を煽ります。時折ヘヴィなピアノとキャッチーなシンセがバックで鳴り響いていますね。そしてメンバー3人の会話にエフェクトを掛けて、宇宙人が会話しているかのような怪しげな雰囲気。強い中毒性があります。「カムフラージュ」はオリエンタルな印象を抱く、少し神秘的で怪しげな1曲。後半、高橋の歌はグニャグニャ歪められていて気持ち悪いです…。「マス」は主旋律がメロディアスですが、無機質なリズムも合わさって陰鬱な印象が強いです。不気味な軍歌のような感じ。ラストの「来たるべきもの」はポツンポツンと水滴が垂れるSEに、上昇していくような音が鳴り響きます。何が起こるのか不穏な感覚を煽りますが、後半はアンビエントというか、宇宙空間を静かに漂うような幻覚的なサウンドを奏でて終わります。

 「バレエ」は聞きやすいものの、以降どんどん暗鬱な雰囲気に。実験的ですがインパクトの強い楽曲も多く、初聴きは変な印象でしたが中毒に変わりそうな予感もします。

BGM (2019年リマスタリング Hybrid SACD)
イエロー・マジック・オーケストラ
 
テクノデリック (Technodelic)

1981年 5thアルバム

 前作では心身不調だったこともあり坂本龍一が積極的に参与していませんでしたが、本作では坂本色を強く発揮しています。これまでの全てのアルバムは細野晴臣のプロデュースでしたが、本作は細野晴臣+YMO名義でのリリース。
 「テクノ+サイケデリック」が由来の本作は、前作とは違った形での実験的なアプローチをしています。ミニマルミュージックの追求に加えて、最先端のサンプラーを用いたサンプリングの使用が革新的で、多くのミュージシャンに影響を与えました。

 「ジャム」はコーラスで始まるのでビックリ。淡々としたリズムビートにフワフワとしたシンセ、怪しげな効果音がトリップ感を生み出しています。時折入る歌は気だるげですがメロディアスでビートルズにも通じる心地良さがあります。「ジャムでしょ」はシュールな印象。「新舞踊」はインドネシアのケチャを取り入れた楽曲。ひたすら反復するフレーズに合わせて「チャチャッチャ」という人の声が不気味で、でも中毒性も強いです。「階段」は重々しいピアノやシンセがダークな印象。高橋幸宏のドラムも力強くて、ダークな雰囲気にズシンと重量感を与えます。ですが同時に、歪んだサウンドがサイケな感覚を生み出し、メランコリックな歌メロも含めて物憂げで魅力たっぷりです。続く「京城音楽」は声でパーカッションを表現しているのが特徴的。英語で「Seoul Music」と題した本楽曲は「Soul Music」とも掛けているのか、ファンキーでグルーヴ感に溢れるリズムにアジアンテイストを織り交ぜています。細野のベースがカッコ良い。「灯」は暗鬱ですが神秘的な印象も抱きます。力強いリズムビートはひたすら反復。
 後半に入り、シングルカットされた「体操」。坂本が歌っていますが、「前倣え 右向け右」など体操の合図が続く中でよく聞くと「痙攣の運動」…とは?シュールな指図が妙に耳に残りますね。歌メロもひねくれポップな印象を抱きます。「灰色の段階」は細野が歌っていますが、爬虫類っぽいというか変な歌い方です。ひたすら反復するリズムビートはノイジーです。続く「手掛かり」はキャッチーで疾走感があります。ノリの良いダンサブルなビートに、茶化すような効果音が入り乱れて賑やかですが、しかしメロディは意外と憂いを帯びていてメランコリックな印象です。「前奏」はアンビエント風のインスト曲。鍵盤が神秘的な雰囲気を作りますが、バックでカッチャンカッチャン鳴る機械音が無機質で不気味な印象。そのまま続く「後奏」は機械音が強調され、無機質で不穏な雰囲気が強まります。救いのない印象のままアルバムは終わります。

 前作に引き続きキャッチーさを排して実験的な作風です。但しミニマルを追求したサウンドは中毒性が強く、うまくハマるとやみつきになりそうです。

テクノデリック (2019年リマスタリング Hybrid SACD)
イエロー・マジック・オーケストラ