🇯🇵 イエロー・マジック・オーケストラ

スタジオ盤②

テクノ歌謡へのシフトと「散開」(解散)

浮気なぼくら (Naughty Boys)

1983年 6thアルバム

 前作『テクノデリック』以降、細野晴臣と坂本龍一の関係が悪化。高橋幸宏が二人の仲を取り持つも、1981年末の時点でYMOは解散を決意していたそうです。レコード会社の意向で解散は先延ばしとなりましたが、メンバーはソロ活動へとシフト、歌謡界へ進出して楽曲提供を行うなどしていました。レコード会社の意向に添ってアルバムを制作することになりますが、ソロ活動を反映して歌謡曲へと大きくシフトした作風となりました。プロデュースはYMO名義。なお同年中に、ボーカルパートをシンセに置き換えた『浮気なぼくら (インストゥルメンタル)』をリリース。近年のCDはこの2作がセットになって販売されています。

 ヒット曲「君に、胸キュン。 (浮気なヴァカンス)」で幕開け。当時この楽曲を流したCMによって「胸キュン」という単語が世間に広がったそうです。キラキラとしたサウンドにアイドル的なヘタな歌が時代を強く感じさせます。正直古臭さは否めませんが、妙に耳に残るんですよね。「希望の路」はダンサブルな演奏にこれまでのYMOを見出せます。しかし歌メロが古臭いこと。「FOCUS」はエスニックな雰囲気が漂います。リズムビートが強烈。歌より演奏を主軸に置いたスタイルは前作に通じますね。「音楽」坂本が当時3歳だった娘のために書いた楽曲だそうです。跳ねるような心地良いリズムで、歌も歌謡曲の色合いは若干薄めなこともあり、あまり抵抗感なく聴けます。「OPENED MY EYES」はイントロから華やかで、ずば抜けてキャッチー。1980年代という時代を反映したサウンドですね。全編英語詞の明るい雰囲気の楽曲ですが、少し古びた印象は残ります。
 アルバム後半は短いインスト曲「以心電信 (予告編)」で幕開け。CM用の楽曲でぴったり30秒。明るいシンセは古臭くて懐かしい香りがします。「LOTUS LOVE」は力強いリズムビートに乗せて、細野が気だるげに歌います。少しエキゾチックな雰囲気も漂います。「邂逅」はダンサブルな楽曲。キャッチーだけど神秘的でもあるサウンド、メランコリックな歌メロとそれを引き立てる鐘の音など中々魅力的です。続く「希望の河」は少し中華風味を加えたテクノポップです。イントロが長いのでインストかと思いきや、少し古臭い歌が始まります。でもノリの良いサウンドと歌が合わさると程良い浮遊感を生み出し、若干中毒性がありますね。ラストの「WILD AMBITIONS」はダンサブルで抜群のグルーヴ感。ノリの良い演奏とは対照的に、歌は低血圧気味の気だるげな印象です。そして終盤はメロディアスな鍵盤が少し切ない気分にさせます。

 これまで英語詞だったものが日本語詞(かつボーカル加工も無し)になった途端に感じる古臭さ。後追い世代の立場で聴くと、前二作以上に人を選ぶ作品だと感じました。個人的に受け入れられる曲と受け付けない曲がはっきり分かれます。

浮気なぼくら+浮気なぼくらインストゥルメンタル
(2019年リマスタリング Hybrid SACD)
イエロー・マジック・オーケストラ
 
サーヴィス (Service)

1983年 7thアルバム

 YMOの「散開」(=解散)前最後のアルバムです。本来『浮気なぼくら』で散開する予定でしたが、高橋幸宏の提案で三宅裕司を中心とした劇団S.E.T.(スーパー・エキセントリック・シアター)とコラボした『増殖』のようなアルバムを制作することに決めました。メンバーの共作は少なく、ソロの寄せ集めをS.E.T.のコントで繋ぎ合わせたような感じです。

 「LIMBO」は軽快なリズムビートとファンキーなベースが特徴的な、ノリの良い楽曲です。歌は英語詞が復活、時折DJのようなトークが入ります。「S.E.T.」はドラマ撮影の場でのコントが展開されます…が、長すぎて冗長な印象。「THE MADMEN」はカッコ良いダンス曲。細野晴臣がほぼ一人で作り上げたそうで、ベースがとてもカッコ良く、またリズミカルな演奏や無気力な歌がクールで魅力的です。「S.E.T.」はマルコシマンタ探偵事務所という架空の事務所の宣伝CM。イントロはフュージョンバンド・カシオペアの楽曲だそうです。「CHINESE WHISPERS」は跳ねるようなリズムで軽快な楽曲です。細野のファンキーなベースがカッコ良い。メランコリックなメロディ含めてニュー・オーダーっぽい雰囲気もあります。「S.E.T.」では初舞台の場でセリフを忘れ、更に役まで忘れて出るタイミングに困っている役者のコント。これは結構面白くて好みです。「以心電信 (YOU’VE GOT TO HELP YOURSELF)」はキャッチーで華やかな1曲。まったりとした優しい歌は前作の歌謡曲路線を引き継いでいます。
 後半はS.E.T.とYMOによるコント「S.E.T.+YMO」。落盤事故で困惑するメンバーをよそに、細野が冷静に現場をかき乱すシュールなギャグです。「SHADOWS ON THE GROUND」はAORを意識した、メロウで比較的落ち着いた雰囲気の楽曲。時折入るピアノが美しいです。「S.E.T.」は塾の講義のようなコント。変な慣用句を連発してます。「SEE-THROUGH」は少しシリアスでメロディアスな1曲。陰がありますが、サウンド自体は華やかでキャッチーな印象があります。「S.E.T.」は爆弾犯が銀行員を電話越しに恐喝するコント。犯人の要求内容がシュールです。「PERSPECTIVE」は坂本龍一の麗しいピアノを聴ける1曲。幻想的で癒しのサウンドにリズミカルなビートで、ダンサブルなジブリ音楽っぽい印象を受けました。歌は少し浮いていますが…。最後の「S.E.T.」は神秘的なアンビエント風のサウンドにちょっとしたトークを交わして終了。

 演奏はかなり魅力的なのですが、『増殖』と違って演奏パートとコントパートがうまく噛み合っていない印象が強いです。コントパートも、個人的には当たり外れが大きかったです。

サーヴィス (2019年リマスタリング Hybrid SACD)
イエロー・マジック・オーケストラ
 

YMO「再生」(再結成)

テクノドン (Technodon)

1993年 8thアルバム
 

 1983年に「散開」、メンバー3人が集まることはありませんでしたが、1992年にはYMOは「再生」(=再結成)を果たしました。しかし権利上の都合で「YMO」が使えず「YMO」(読みはNot YMO)名義となっています。Spotifyにも本作だけ無いのはレコード会社の違いが影響しているのでしょうか。
 ドイツ発の電子音楽「テクノポップ (海外ではシンセポップ、エレクトロポップ)」ではなく、本作は米国デトロイト発のクラブミュージック「テクノ」に傾倒した音楽性になっています。

 アルバムは「BE A SUPERMAN」で幕開け。スペイシーでチープな電子音は初期を想起させます。重低音も心地良い。そして何と言ってもゲストの神谷るり子による「Be A Superman」というボイス、これがヘッドフォンの左右を行き来して強烈な中毒性があります。流暢な発音の中に日本語英語が混じるシュールさ。やみつきになる名曲です。「NANGA DEF?」はデジタルサウンドが強いトリップ感を生み出しています(アシッドハウスと呼ぶそうですね)。唸るような歌はあくまでおまけで、脳を侵蝕するかのような電子音が強烈です。サビだけは演奏と拍の取り方が違うので気持ち悪く、違和感も含めてインパクトがあります。「FLOATING AWAY」は細野晴臣のベースラインが印象的。テンション抑えめな演奏をバックに、SF作家のウィリアム・ギブスンが淡々と朗読しています。時折民族的な歌がバックに聞こえます。「DOLPHINICITY」はイルカの鳴き声をサンプリングしたテクノです。このイルカの声がリズミカルで軽快なビートと合わさって、スペイシーかつダンサブル、そして妙な気持ち悪さを感じます。「HI-TECH HIPPIES」はピコピコしたサウンドに比較的キャッチーなメロディで、明るめな印象です。3人による歌も優しくてポップな感じ。「I TRE MERLI」は3人による作曲で、高橋幸宏によると「RYDEEN」の続編をイメージしたのだそう。メロディラインは確かに似通っているのですが、件の楽曲のように弾けるようなタイプではなく、重厚で厳かな雰囲気が漂うシリアスな楽曲です。坂本龍一作の「NOSTALGIA」はオーケストラをサンプリングしたのだそう。落ち着いたアンビエント風の楽曲ですが、ノイズまじりでどこか不穏な雰囲気があり、聴いているとゾワゾワします。「SILENCE OF TIME」は再び神谷るり子がボーカルを取ります。リズムビートはノリが良いですが、他はテンション抑えめです。「WATERFORD」はノリの良いご機嫌なダンスビートに牧歌的なメロディが合わさり、キャッチーですが心地良い雰囲気も持ち合わせています。カモメの鳴き声や波の音のサンプリングも落ち着きます。「O.K.」は細野のボーカル曲。落ち着く歌声に浮遊感溢れる電子音が、少し怪しげだけど心地良いです。そして「CHANCE」は坂本による、過去のYMO楽曲をサンプリングしたリミックス。ノリノリのリズムビートに乗せて、いくつかの楽曲からサンプリングされていますが、その中でも無限音階が印象的。最後に「RYDEEN」を流し、そのまま次曲「POCKETFUL OF RAINBOWS」へ繋がります。エルヴィス・プレスリーのカバーで、高橋の歌は渋くて良い感じ。演奏は落ち着いているものの、初期のようなピコピコ・キラキラした感覚も少し残っています。

 初期のようなキャッチーさは少ないですが、いくつかの楽曲は強い中毒性を持っています。

 この「再生」はメンバーの本意では無かったそうで、本作の後は再び活動休止に。その後2002年に高橋と細野によるユニット「スケッチ・ショウ」結成、そこに坂本が加わり「ヒューマン・オーディオ・スポンジ (HAS)」を結成して3人の活動が再開されます。当初HASはYMOと別物というスタンスを取っていましたが、2007年にYMO名義の復活後はその境界も曖昧になりました。2020年現在も活動を続けています。

Technodon
(2020年リマスタリング Hybrid SACD)
イエロー・マジック・オーケストラ
 
 

関連アーティスト

 細野晴臣(B)が所属していたバンド。

 
 高橋幸宏(Dr)が所属していたバンド。
 
 
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