🇬🇧 Yes (イエス)

ライブ盤②

The Word Is Live (ライヴ・イヤーズ)

2005年

 イエスの3枚組ライブアンソロジーです。サイケデリックな最初期からプログレ黄金期を挟んで、産業ロック化した90125時代まで様々なライブを聴くことができます。個人的に本作の評価を大きく押し上げているのはDisc2のプログレ期ライブ音源で、年代的に『イエスショウズ』を補完するような内容でとても充実しています。Disc2はオープニング演出もラスト曲も単品もののライブ盤として完結してて、これだけは『イエスソングス』や『イエスショウズ』よりも聴きます。というか『リレイヤー』や『トーマト』期のオフィシャルライブ盤出してください…(海賊盤が出回るくらいだし)。
 
 
 Disc1は「Then」で開幕。BBCライブ音源ですが、音質がイマイチです…。トニー・ケイのヘヴィなオルガンとビル・ブラッフォードの煽り立てるようなドラムがスリリングです。荒いながら、彼らの魅力の一つでもある演奏バトルがしっかり繰り広げられていますね。「For Everyone」は名曲「Starship Trooper」の中間パートの元ネタ。前半は違いますが、後半の歌メロパーティーはまさしくそれ。後半はクリス・スクワイアがメインパートを歌い、ジョン・アンダーソンがコーラスに徹しています。続く「Astral Traveller」はイントロから強い緊張感が漂いますね。シリアスな雰囲気で歌はメロディアス。クリスの爆音ベースが魅力的です。続いてバッファロー・スプリングフィールドのカバー「Everydays」。静と動の極端な楽曲で、ジャジーで静かなパートの後に訪れる、ハードロック的なアグレッシブな演奏がカッコ良い。中盤以降は即興的でスリリングなバトルが繰り広げられます。ここまでの楽曲はどれも音質が悪いのが少し残念。
 続いてスティーヴ・ハウが加わってからのライブ音源です。名曲「Yours Is No Disgrace」は手探りなのか、イントロのスカスカ感には悪い意味でビックリするのですが、後半にいくにつれキレッキレになるスティーヴのギターや、全体的にドライブ感のある演奏はやはり魅力的。また楽曲の構成力も前曲と比べて大きく向上しています。「I’ve Seen All Good People」も後年のこなれた演奏に比べるとノリは若干抑えめな印象ですが、楽曲自体が良いのでそこまで気にせず楽しめます。「America」はサイモン&ガーファンクルのカバーですが、原曲の約4倍の尺で面影もないくらい大胆なアレンジを加えた名曲ですね。個人的にはこなれた『キーズ・トゥ・アセンション』版の方が好みですが、粗くもスリリングな演奏は中々面白く、間に「Roundabout」のフレーズを挟んだり何が出てくるか分からない楽しさがあります。続いてラスカルズのカバー「It’s Love」。序盤はシンプルなロックンロールをトリッキーに演奏している印象。後半は即興的な演奏をバックに、クリスがひたすら「マーマーマー」とご機嫌に歌い続けます。

 『イエスソングス』時代のライブを一気にスキップし、Disc2はパトリック・モラーツ在籍時代のライブで開幕。「Apocalypse」は「And You And I」の抜粋で、オープニングSE的に流しています。なので実質のオープニング曲は続く「Siberian Khatru」でしょうか。クリスのゴリッゴリのベース、ジョンの陽気な歌メロやコーラスワーク、スティーヴのご機嫌なギターは絶好調。途中加入組のアラン・ホワイトやパトリックもすっかり馴染んでいて、『イエスソングス』版より好みです。テンションを保ったまま続く「Sound Chaser」、これも凄い。アヴァンギャルドでキレッキレな演奏バトルを、ライブでも見事再現しています。特にパトリックのキーボードはスタジオ盤を大きく上回っている感じ。全編を通してとてもスリリングです。そしてキャッチーな「Sweet Dreams」。演奏するのが比較的珍しい初期の佳曲ですね。ジョンの牧歌的な歌に癒されます。
 リック・ウェイクマンが復帰し、ここからは10周年記念の『トーマト』ツアー。音質も良くて魅力的な楽曲群が並びます。「Future Times/Rejoice」はスペイシーなミニムーグにゴリゴリベースが印象的。楽曲はかなりポップになりました。続く「Circus Of Heaven」はゆったりとしてドリーミー。心地良い眠気を誘います。笑 そしてツアーの目玉である、25分強の「The Big Medley」。メロディアスな名曲「Time And A Word」で開幕しますが、『イエスショウズ』の音源はこのメドレーから取ったんですね。件の作品では次曲へ強引に繋ぎましたが、本来続くのは「Long Distance Runaround」だったことが本作でわかります。クリスのベースがくっきりとした輪郭を描き、そのまま続くのはクリスのソロ曲「The Fish」。ベース三昧の合間にジョンが即興で「Survival」を歌い、引き続きベースがリード。トリッキーな演奏で楽しませる「Perpetual Change」の後は、歌メロとスティールギターが美しい「Soon」で締め括ります。素晴らしいメドレーでした。「Hello Chicago」はシカゴの観客に向けた即興的な楽曲で、間髪入れずに「Roundabout」へ繋ぎます。アランの叩くリズミカルで若干ダンサブルなビートは、ディスコブームも若干影響しているのでしょうか。ノリが良くて楽しげなアレンジに仕上がっています。

 ここからDisc3ですが、前Discに収まりきらなかったか引き続き『トーマト』ツアーより。静と動の緩急ついた「Heart Of The Sunrise」でスリリングな演奏を見せた後は、大曲「Awaken」。リズム隊や重低音を重視したミックスになっていて、リックの装飾も煌びやかなピアノよりもオルガンがメインでややヘヴィな印象です。全体的な透明感や完成度の高さでは後年のライブに軍配が上がりますが、終盤の神々しさはやはり魅力的で、聴き終えた後の余韻は格別です。
 そしてバグルスを吸収合併してトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズが加わった『ドラマ』ツアーへ突入。せっかくレアな楽曲が並ぶのに、どれもブート並に音質が悪いのが残念でなりません…。「Go Through This」はご機嫌な疾走曲。スティーヴのギターも好調だし、メロディも中々キャッチーです。続く「We Can Fly From Here」は、少し形を変えて2011年の『フライ・フロム・ヒア』で日の目を見ることになる楽曲です。少しシリアスな雰囲気の、憂いを帯びたメロディアスな良曲で、音質の悪さにさえ目を瞑ればかなり魅力的なのです。『フライ・フロム・ヒア』が近年の作品ではかなりの良作で、それは当時のポップセンスの賜物だったのでしょう。そしてドラマ期屈指の名曲「Tempus Fugit」が続きます。ジョンとリック不在の危機を乗り越えられるだけの強烈なパワーを持った、キャッチーかつスリリングな疾走曲です。音は悪いですが彼らの気合をひしひしと感じられます。
 最後にトレヴァー・ラビンを迎えた新生イエスによる、1988年の『ビッグ・ジェネレーター』ツアーのライブ音源。「Rhythm Of Love」は、ダンサブルなビートと派手なホーンが際立つポップソングです。アランの短いドラムソロを挟んで「Hold On」へ。コーラスワークを活かしたキャッチーな歌メロが魅力的で、口ずさみたくなります。時代を感じさせる若干退屈なポップ曲「Shoot High, Aim Low」を挟んで、ラストは「Make It Easy/Owner Of A Lonely Heart」。軽快な演奏を繰り広げた後、アランのドラムを皮切りにとてもキャッチーな名曲が始まります。トレヴァーのソリッドなギターがカッコ良いですね。口ずさみたくなるような歌メロも素晴らしい。
 
 
 『イエスソングス』と『イエスショウズ』の穴を埋めつつ、イエスのメンバーの変遷を追えるライブアンソロジーです。脂の乗った時期であるDisc2が突出して魅力的ですが、他はまちまちな印象。
 残念ながらプレミアがついて価格は高騰気味ですが、SpotifyやiTunesでも聴けるので、気になる方はデジタル音源でどうぞ。

The Word Is Live
Yes
 
Live At Montreux 2003 (ライヴ・アット・モントルー2003)

2007年

 『マグニフィケイション』の後、リック・ウェイクマンが復帰します。ジョン・アンダーソン、スティーヴ・ハウクリス・スクワイア、アラン・ホワイトにリックという黄金期のメンバーが何度目かの再結集。2003年のモントルー・ジャズ・フェスティバルのライブが収録されています。翌2004年に35周年ツアーを行いますが、黄金期メンバーが揃っての活動はそこで最後になってしまいました。
 
 
 オープニング曲は定番の「Siberian Khatru」。スティーヴのギターに合わせて遅いイントロ、その後スピードは持ち直しますが歌は少し苦しそうだったりと、残念ながら若干衰えを感じます。リックは原曲と異なる音を選んで演奏し、それが楽曲のイメージに合わなかったりするときがあるのですが、今回はそれが若干悪い方に向いてるかも。定番曲だから好演と比較すると仕方ないことで、ボロクソには書きましたが楽曲自体の持つ魅力に支えられてそれなりに楽しめます。「Magnification」はリック不在時にオーケストラと共演した楽曲ですが、このライブではオーケストラではなくリックがシンセを鳴らしています。うまく馴染んでいるものの、サビだけは少しチープな感じも。続いて「Don’t Kill The Whale」。キャッチーなポップ曲ですね。力強いリズムビートにご機嫌なギターが楽しませてくれ、そして本楽曲の特徴であるミニムーグのSFチックな音色が強く印象に残ります。「In The Presence Of」はまったりとして、序盤は特に牧歌的。オーケストラの代わりに、キーボードが多彩な音色で装飾しています。続いて、アコギをかき鳴らしてジョンのソロ「We Have Heaven」。賛美歌のような神々しさを感じられ、僅か1分の短さながら原曲よりも魅力的です。そして「South Side Of The Sky」という珍しい選曲。少しゆっくりな感じですが、序盤と終盤は原曲より力強いリズムで、パワフルかつ着実・丁寧に演奏。中盤パートはコーラスワークに加えてキーボードの装飾が美しく、魅力的に仕上げています。原曲よりも好印象です。続いて定番曲「And You And I」。アコギと優しい歌メロによって牧歌的な雰囲気ですね。ただでさえまったりしているのが、パートによっては遅い演奏によって更にまったり。笑 また音の分離が良いからかクリスのコーラスがくっきり滑舌良く聞こえすぎて、ちょっと違和感があります。優しく魅力的なシンフォニーはリックの復帰が功を奏していますね。かなりレアな選曲「To Be Over」はアコースティックアレンジされたスティーヴのアコギソロ。元々が癒やし曲ですが、優しく牧歌的なアコギの音色とメロディが良く合っています。そのまま軽快な「Clap」へ。手拍子がよく似合う、小気味良いアコギが爽快ですね。

 ここからDisc2へ。「Show Me」は本ライブの新曲ですが、『こわれもの』の頃にジョンが作っていた楽曲だそうです。アコギに乗せてジョンが歌うシンプルな構成で、憂いを帯びた歌メロを途中から鍵盤が装飾し始めると、哀愁が強まっていきます。続いて「Rick Wakeman Solo Medley」。ソロアルバムからのメドレーで、優雅に聴かせたかと思えば速弾きで圧倒し始めます。多彩な鍵盤の音色と緩急のあるスリリングな演奏は飽きさせません。「Heart Of The Sunrise」は静と動の緩急ついた演奏がスリリング。ただし円熟味のある丸くなった演奏です。「Long Distance Runaround」も演奏のキレは弱く、ジョンの歌うキャッチーなメロディが際立ちます。続けざまに「The Fish (Schindleria Praematurus)」。アランがドラムで支えながら、クリスがベースソロを悠々と聴かせます。前半はのんびりペースですが、後半一気にテンポアップしてスリリングになります。そして大曲「Awaken」では、キラキラとした鍵盤とタンバリンの音色が星空を想起させます。クリスのコーラスは高音が出ず野太いのですが、ジョンの歌声は天使のよう。相変わらず楽曲の神々しさは健在です。「I’ve Seen All Good People」は牧歌的でポップな1曲。歌に老いは感じますが全体的に優しく、また観客の手拍子も彼らを支えている感じがします。最後は定番の「Roundabout」。間奏が一部省略された短縮バージョンになっています。若干遅いですがとてもノリが良く、特にジョンはかなり楽しんでいる感じ。ラストに相応しい名曲ですね。
 
 
 初聴きではだいぶ衰えを感じてガッカリした印象が強く残っており、個人的には好きではありませんでした。レビューにあたり久々に聴いてみると失望するほど酷くはなく、またちょっと珍しい選曲もあり少しプラスの印象に変わりました。とは言えかなり老いた演奏は、コアなファン向けという印象は否めません。他の良質なライブ盤を先に聴きましょう。

Live At Montreux 2003
Yes
 
Symphonic Live (シンフォニック・ライヴ)

2009年

 『マグニフィケイション』に伴うツアー、オランダのアムステルダムでの公演を収めた作品で、オーケストラと共演したライブを聴くことができます。緻密な構成でアンサンブルを聴かせるイエスの楽曲群と、オーケストラの演奏は相性も良いですね。メンバーはジョン・アンダーソン、スティーヴ・ハウクリス・スクワイア、アラン・ホワイト。そこにサポートとしてトム・ブリスリン(Key)と、ヴィルヘルム・カイテル指揮のヨーロピアン・フェスティバル・オーケストラが参加しています。
 2002年にDVDが発売されましたが、CDはだいぶ遅れて2009年のリリース。なお1CD盤と2CD盤があり、私は大作「The Gates Of Delirium」と「Ritual」が聴ける2CD盤を購入したので後者をレビューします。『マグニフィケイション』のボーナスディスクで聴ける公演と比べ僅かに劣る感じもしていたり…。
 
 
 オーケストラによる優雅な演奏を聴ける「Overture」で幕を開け、そしていきなり「Close To The Edge」と攻めてます。『キーズ・トゥ・アセンション2』で既に兆候はありましたが年々遅くなるこの楽曲、遅すぎてスリルはかなり減退しています…。中盤の神秘的なパートはオーケストラが良い味を出しており、また終盤は音が分厚く、スピード不足の物足りなさをオーケストラの迫力の演奏によって補っている感じがします。続いて「Long Distance Runaround」。オーケストラによる優雅なイントロが追加されています。そこからノリノリの本編が開始。オーケストラが加わったことでジョンのキャッチーな歌は華やかな印象になり、クリスのヘヴィなベースともうまく対比されててメリハリをつけています。これは結構好アレンジですね。「Don’t Go」は開放感に溢れるポップなメロディと、分厚いコーラスワークがキャッチーで魅力的です。オーケストラ色は強くなく、普通にバンド演奏でもいけそうな佳曲です。「In The Presence Of」はまったりとした楽曲。割と冗長な感じですが、終盤の盛り上がりは気分を高めてくれます。そして本作の目玉の一つ「The Gates Of Delirium」。1CD盤には含まれないみたいですが…。スリルでいえば切れ味抜群の『イエスショウズ』版には到底敵いませんが、こちらは音の良さに加えてオーケストラによる装飾が色鮮やかかつ迫力があり、違った魅力を見せてくれます。中盤の演奏バトルパートは音数の多さで迫力を出し、終盤の「Soon」はスティールギターに加えてハープが美しさを演出。全体的に美しさに重点を置いたアレンジになりました。続いてスティーヴによるアコギソロ「Steve Howe Guitar Solo」。落ち着いて優しいアコギの響きがとても心地良いです。後半は「Mood For A Day」ですが、前半は何だろう…。

 Disc2は定番の「Starship Trooper」。オーケストラの存在感はなく、普段どおりにドライブ感のあるバンド演奏で進行していきます。続く「Magnification」では逆にオーケストラが大活躍。強引なリズムチェンジを多用したダイナミックな楽曲構成に、オーケストラの迫力の演奏がスリルを加えてくれます。カッコ良い。「And You And I」は牧歌的な楽曲ですが、その雰囲気は崩さずにオーケストラが耽美な印象を強めてくれます。スティーヴの天へと昇るような美しいギターも聴きどころです。そして後半のハイライト、28分に渡る大作「Ritual」。スティーヴの悠々としたギター、ジョンの美しい歌メロ、とてもヘヴィに唸るクリスのベースソロと、緩急つけて時に野性味のあるアランの力強いドラム…これらを引き立てるオーケストラ。ソロパートを重視して隙間の多い楽曲なので、解釈次第でいくらでもオーケストラを入れる余地はありますが、原曲を大切にしたアレンジは自然に聴けます。それでいてオーケストラのおかげでダイナミズムは大きく増し、過去の演奏と比較してもトップクラスの好演となりました。トム・ブリスリンのキーボードも良い感じです。そして定番曲「I’ve Seen All Good People」。牧歌的な前半はいつもどおりですが、後半のキャッチーなロックンロールパートではオーケストラが華やかに彩り、更に明るい雰囲気に仕上がっています。続いて「Owner Of A Lonely Heart」でポップさは更にアップ。演奏のキレは鈍いですが、キャッチーなメロディと美しいコーラスワークで牽引しています。ラスト曲はやはり定番の「Roundabout」。間奏を一部省略した短縮バージョンです。トム・ブリスリンによる原曲にかなり忠実な音色のオルガンが耳心地が良く、全体的な演奏は若干老いつつもノリが良くて楽しませてくれます。
 
 
 選曲についてはマンネリ気味だし、老いによる衰えが見え始めていますが、そんなマイナス面をダイナミックなオーケストラで払拭した面白い試みのライブ盤です。2CD盤に限り「Close To The Edge」、「The Gates Of Delirium」、「Ritual」の20分クラスの大曲3つが一堂に会するのが圧巻で、特に後ろ2つは聴きごたえがあります

Symphonic Live (2CD)
Yes
Symphonic Live (1CD)
Yes
 
 

関連アーティスト

 イエスを名乗れなかった分家バンド。お家騒動の末イエスに合流。

 
 『ドラマ』制作時に、ユニットごと吸収合併。
 
 スティーヴ・ハウ(Gt)とジェフ・ダウンズ(Key)がオリジナルメンバーとして参加。
 
 脱退したビル・ブラッフォード(Dr)が加入。なお『リザード』ではジョン・アンダーソンもゲスト参加。
 
 メンバーのソロ活動。
 
 クリス・スクワイアと、元ジェネシスのスティーヴ・ハケットによるユニット。
 
 
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