🇮🇸 Björk (ビョーク)

レビュー作品数: 4
  

スタジオ盤

Debut (デビュー)

1993年 1stアルバム

 アイスランドはレイキャヴィーク出身のミュージシャン兼女優、ビョーク・グズムンズドッティル。1965年11月21日生まれ。キャリアは早く、1977年(当時ビョークは12歳)に母の薦めで、本名ビョーク・グズムンズドッティル名義でアルバム『ビョーク』をリリースしています。有名ポップ曲等をアイスランド語翻訳して歌った楽曲で、ビョークは天才少女の名声を得るものの、自分のオリジナル楽曲が歌えなかった不満から2作目のオファーを断り、パンクやニューウェイヴ系のバンドを転々としています。1986年に結婚して息子を出産、同年に夫のソー・エルドンらとともにザ・シュガーキューブスというバンドを結成しています。ザ・シュガーキューブスの解散翌年となる1993年、ビョーク名義で改めて『デビュー』を果たしました。なのでビョーク名義では1stですが、ビョーク個人のソロ作としては2作目となります。
 ソウル・II・ソウルやマッシヴ・アタックを手掛けたネリー・フーパーをプロデューサーにつけて制作した本作は、クラブミュージックを取り入れたポップな作品です。全英3位のヒットを飛ばしました。

 アルバムは「Human Behaviour」で開幕。リズミカルなドラムに乗せてビョークのハスキーな歌声が響きます。そしてどんどんヒートアップしてくると、パーカッションが怪しげな民族音楽的な印象に変わり、ビョークも取り憑かれたかのように迫真の歌で圧倒します。「Crying」はダンスビートの効いた楽曲で、多彩な鍵盤がひんやりとクールな空気感を演出。エコーがかった歌は時折憑依したかのような叫びを発しています。続く「Venus As A Boy」はポップな楽曲。可愛らしく歌うメロディを、リズミカルなビートとゆったりとしたストリングスが飾りつけ、心地良く聴けますね。「There’s More To Life Than This」はグルーヴィなダンスビートに指パッチンでノリノリの演奏を繰り広げます。中盤バックの音が無くなり一瞬だけアカペラ展開になります。続いて麗しいハープで幕を開ける「Like Someone In Love」。ダンサブルな楽曲が続きましたが、ここではほぼハープだけの静かな音をバックにビョークの歌をフィーチャーし、ゆったりと穏やかな雰囲気で癒してくれます。ジャズミュージシャンのコーキー・ヘイルが奏でるハープがとても綺麗。「Big Time Sensuality」で再びダンサブルな楽曲へと戻します。ピコピコとしたリズミカルな演奏に乗る、ビョークのメランコリックな歌声がとても魅力的。とはいえメランコリック一辺倒ではなく時折唸るように歌ったり、表現力が豊かですね。「One Day」はアンビエント風というか音響系というか、静かで不思議な浮遊感に溢れる音を、打ち込みのリズムビートに乗せています。ビョークの歌は囁くように始まりますが、憂いのある歌声はヒートアップしてくるとファルセットと地声を行き来する独特の歌唱で存在感を見せてきます。静寂をブラスが切り開いて「Aeroplane」の幕開け。メロウな楽曲で、パーカッションによって秘境のような民族音楽のような、独特の神秘性が広がります。続く「Come To Me」はエコーにより霞がかったようなボーカルと、幻想的でひんやりとした鍵盤やストリングスが特徴的で、美しくも寒々しい空気が支配します。一定のリズムを刻むジャジーなドラムだけが、幻想的な世界に俗っぽさを与えて現世に踏みとどまらせてくれます。「Violently Happy」も前曲同様にサウンドは神秘的ですが、リズムビートはダンサブルで躍動感に溢れています。ノリノリの演奏に対し、歌がヒートアップするまで少しラグがあり、中盤までは割とチグハグな感じも抱きます。歌がノってくると憑依したかのよう。そしてラスト曲は「The Anchor Song」。これまで存在感を放ったリズムビートは不在で、サックスとビョークの歌が掛け合いながら進行していく独特の楽曲です。

 可愛らしさとエキセントリックな雰囲気が同居した、表現力豊かな独特のボーカルスタイルが印象に残ります。ジャケット写真も魅力的ですね。

Debut
Björk
 
Post (ポスト)

1995年 2ndアルバム

 ビョークの2ndアルバム『ポスト』。ビビッドなジャケット写真が印象的ですね。東洋風の風貌ですが純粋なアイスランド人のビョーク、そんな彼女は親日家なのだとか。タイトルのポストには2つの意味を掛けており、アイスランドから英国ロンドンに引っ越した後に本作収録曲が書かれたため、アイスランド時代「後」の意味でのポスト。そして本国に残った友人や家族とコミュニケーションを取りたいという願いから「メール」を意味するポスト。後者はエアメールをあしらったような衣装にも表れていますね。
 共同制作者として前作に引き続きネリー・フーパー、そしてグラハム・マッセイ、トリッキー、ハウイー・Bといったトリップホップ勢を起用し、ダンスとポップ、アンビエントやジャズを融合した作品に仕上げました。

 アルバムは「Army Of Me」で幕開け。イントロからヘヴィで、そしてうねるようなグルーヴ。緊張が張り詰めたスリリングな演奏と力強い歌を繰り広げます。これがなかなかカッコ良い楽曲で、オープニングに相応しい求心力を持っています。そしてビョークの代表曲「Hyperballad」。バラードと銘打っているのに、疾走感溢れるダンスビートが強烈ですね。メランコリックな声で届ける歌はどんどんと盛り上がっていき、感情を爆発させるサビメロはとてもエモーショナルです。そしてビートもどんどん高揚感を煽ってきます。「The Modern Things」はビョークのファルセットが印象的なメロディアスな楽曲です。ノイズがそこかしこに仕込まれた、幻覚的でトリップしそうなサウンドは酔いそうな感覚もあります。「It’s Oh So Quiet」はホーンが華やかな、ビッグバンド風のジャジーで洒落た楽曲。ミュージカルっぽい楽しげな雰囲気で、「シーッ」と演奏を静かにさせたかと思えば、演奏が盛り上がる場面では奇声を上げて緩急つけます。演奏は華やかですが、それでもあくまでビョークが中心で強い存在感を見せます。「Enjoy」は暴力的なクラブサウンドを展開。暗い雰囲気で、ひたすら反復するノイジーなリズムビートがやけに際立っています。2分半の小曲「You’ve Been Flirting Again」は子守歌のような雰囲気。リズム隊はなく、ストリングスをバックに囁くような歌で癒してくれます。続く「Isobel」はトランペットをはじめクラシカルな雰囲気が漂います。なんとなく、ディズニー映画の劇中で聞けそうなイメージ。優美なストリングスと歌、そこにダンサブルなビートが躍動感と若干の野性味を加えます。「Possibly Maybe」はゆったりと落ち着いた楽曲で、ダブを用いたリズムが若干ダウナーな雰囲気を作ります。「I Miss You」はパーカッシブなリズムビートにキャッチーな歌メロが乗ってノリノリですね。中盤ではホーンが華やかな演奏を繰り広げます。続く「Cover Me」は僅か2分の短い楽曲ですが、どこかエキゾチックで美しい旋律が終始魅力を放ちます。ハープシコードとハンマーダルシマーという楽器を鳴らしているそうです。歌もそこまで主張しないので美しい音色に浸れますね。ラスト曲「Headphones」は静かな楽曲で、打楽器が静かにビートを刻み、ビョークも遠くで歌っているかのよう。あまり大きな盛り上がりもなく終わります。

 本作からは6曲がシングルカットされ、うち3曲が全英10位以内のヒットを飛ばしています。ヒット曲が揃った本作、特に前半~中盤にかけて強烈な楽曲が並ぶ印象です。

Post
Björk
 
Homogenic (ホモジェニック)

1997年 3rdアルバム

 日本人形をモチーフにしたのか、CGを用いたジャケットアートがとにかく不気味で強烈なインパクトを残す本作。本国アイスランドでは1位、全英4位を獲得、批評家からも絶賛された作品です。ビョークの傑作に挙げられることが多い作品ですが、内容的にはかなり聴く人を選ぶと思います。ビョークと共同制作者として名を連ねるのはマーク・ベル、ガイ・シグスワース、ハウイー・B。

 スリリングな「Hunter」で開幕。打ち込みの高速リズムビートが焦燥感を煽り、ストリングスが不気味な空気を醸し出します。ビョークの歌もおどろおどろしい雰囲気で始まりますが、盛り上がってくるにつれてコーラスが重なり合い、壮大で気が引き締まる感じがします。「Jóga」はストリングスが重厚で美しいハーモニーを奏で、ビョークが力強くも優美に歌いこなします。クラシカルでスケール感のある壮大な楽曲ですが、デジタルビートがじわりじわり絡んでグルーヴィな楽曲へと変わっていきます。「Unravel」はゆったりとした楽曲で、ストリングスが緩やかに癒やし、スローなデジタルサウンドが少しダウナーな空気に変えます。歌はメランコリックな感じ。続く「Bachelorette」はシリアスでスリリングな楽曲です。ストリングスと機械的なビートの組合せは他の楽曲も同様なのですが、この楽曲はとにかく恐ろしいほどの緊張に満ちていて、そこにビョークの強い哀愁に満ちた歌が入ります。歌やストリングスが悲劇的な雰囲気で、ドラマチックで切ないです。続く「All Neon Like」はドラマチックな前曲と比べると、無機質で起伏の少ない印象。淡々としてビートやキーボードが冷たく機械的な雰囲気なのですが、ビョークのボーカルだけは血が通って感情に満ちた歌を届けます。「5 Years」は、チープでゲーム音楽のような鍵盤とノイズまみれのビートが特徴的。感情たっぷりに歌うボーカルと機械的なバックの演奏が完全にミスマッチな印象ですが、後半はそこにストリングスが加わって更にカオスな雰囲気です。続く「Immature」はリズミカルなビートが心地良く、ここにきてようやく救われた気分になります。民族音楽のようなパーカッシブなリズムと、ミステリアスで時に超パワフルな起伏に富んだ歌で、エキゾチックな空気が漂います。「Alarm Call」はダンサブルなビートを刻むノリの良い楽曲です。ビョークの表現力豊かな歌が前面に出ているからか血が通って心地良い印象を抱きます。「Pluto」はノイジーなデジタルビートが疾走感に溢れています。中盤はビョークが叫び散らしますが、エフェクトを掛けて不快さを感じさせず、更にリズムビートの音量を上げて焦燥感を煽るスリリングな展開に。ラストは「All Is Full Of Love」で、優美で厳かな雰囲気漂う楽曲です。メランコリックな歌にエコーを掛けて何重にも重ねることで、幻想的で神々しさを見せます。ビートが無いので音の余韻に浸れますね。美しい1曲です。

 スケール感に溢れた楽曲や無機質な楽曲など、斬新な取り組みは圧巻。ですが前作まであったキャッチーさは消え去り、全体的に冷たく感じます。聴いていると何とも言えない不安に陥るので、凄さは伝わるものの、個人的には好みではありません。

Homogenic
Björk
 
Vespertine (ヴェスパタイン)

2001年 4thアルバム

 前作『ホモジェニック』の後、映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で主演女優をつとめたビョークはサントラ『セルマソングス』をリリース。その翌年リリースされた本作は、オリジナルアルバムとしては実に4年ぶりとなります。日本でもオリコン6位を記録したほか、デンマーク、ノルウェー、フランスで1位を獲得するなど欧州を中心にヒットしました。トーマス・ナック、マーティン・グレッチマン、マリウス・デ・フリースとビョークの共同プロデュース。
 私が初めて聴いたビョークの作品がこれで、15~16年ほど前に本作とシガー・ロスの『( )』を同時にレンタルしてきたものの、いずれも合わず「自分には洋楽は向いてない」と諦めた苦い思い出があります。それ以来ビョークには強い苦手意識を抱いていましたが、ロックを色々と巡って多少は肥えた(?)耳で、とても久しぶりに聴いてみました。そして改めて聴く印象は……評点を見てお察しのとおり。笑

 オープニング曲は「Hidden Place」。不気味に蠢くビートが不穏なせいで、ビョークの気だるげな歌もどこか恨みがましいような印象に聞こえてしまいます。ですが、何重にも重ねたコーラスワークは浮遊感に満ちていて幻想的ですね。「Cocoon」は静かな楽曲です。終始プチプチノイズのような音を鳴らすリズムトラックと、ファルセットを用いて囁くように歌うビョークの繊細な歌で構成されています。続く「It’s Not Up To You」は機械的で無機質なリズムと感情のこもったビョークの歌という対比、それをストリングスがうまく繋いでいます。サビメロは特にメロディアスで、終盤はコーラスを加えて神々しさすら感じさせます。歌ものとして魅力的な1曲です。「Undo」は最初、歌とリズムビートが独立して息が合っていないかのような、ちょっとした違和感でフックをかけてきます。これも後半に進むにつれて、前曲同様の神々しいコーラスやストリングスで別世界へ連れていってくれます。美しいのですが、どこか怖い。そして「Pagan Poetry」はハープの美しい音色とオルゴール、そしてメランコリックな歌が幻想的な世界を作り出します。美しい演奏をバックに、歌はどんどん感情を表に出して訴えかけてきます。ですが無機質なリズムトラックのせいか、こんなに感情たっぷりな歌なのに、血が通っていない冷たさがどこかに感じられて不安を覚えるんです。私がビョークに対して持つ苦手意識の根本的な理由がここにあるのだと思います。「Frosti」はとても美しいインストゥルメンタル。オルゴールのような鉄琴のような音色が、一面雪や氷に覆われた世界を表現しているかのようです。そのまま続く「Aurora」ではビョークの歌が加わります。美しい演奏をバックに、感情のこもった歌とひんやりとして神々しいコーラスを展開します。「An Echo, A Stain」はリズムトラックが比較的前面に出て無機質な感じ。時折歌を盛り上げるストリングスが加わりますが、このストリングスがどこか不穏で恐ろしい雰囲気で、心が安まりません。そして対照的に「Sun In My Mouth」は癒される楽曲です。オルゴールやハープの美しい音色をバックにビョークが優しく歌い、ストリングスも綺麗。機械的なリズムトラックが無いだけで美しさが際立つんですね。続いて「Heirloom」はメロディアスな歌とノリの良いビートが特徴的。心地良いグルーヴを感じさせてくれます。「Harm Of Will」は感情的な人間味のある歌と優美なストリングス、そしてコーラスワークを駆使して美しい世界へと導きます。俗っぽさがなく、踏み入れたら帰って来れないような遠い世界のような印象で、ただただ美しいだけなのにどこか怖いんです。そして「Unison」がラスト曲。ただ美しいだけではなく、少しだけ牧歌的な雰囲気を感じられ、前曲よりは少し安らぎを覚えます。

 内省的な雰囲気で、氷のように冷たく美しい楽曲の数々。私は無機質なリズムトラックがどうにも苦手で好きにはなれませんが、エレクトロニカやアンビエントが好きな人にはこの美しさがストレートに響くことでしょう。

Vespertine
Björk
 
 
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