🇯🇵 GARNET CROW (ガーネット・クロウ)

レビュー作品数: 23
  

スタジオ盤①

インディーズ時代 (1999年)

first kaleidscope ~君の家に着くまでずっと走ってゆく~

1999年 1stミニアルバム

 GARNET CROWは日本の音楽ユニットで、全作曲を務める中村由利(Vo)、全作詞を担うAZUKI七(Key)、ほぼ全ての編曲を行う古井弘人(Key)、岡本仁志(Gt)(当時は岡本仁名義)の4人組です。通称ガネクロ、ガーネット、ガネなど。中村が作曲したデモテープをもとに、AZUKIが作詞しつつ古井が編曲を並行して作り上げるという完全分業制。
 キーボード2人体制という珍しい編成ですが、AZUKIがピアノ、古井がオルガンやシンセという役割分担になっています。ライブの少し危なっかしいAZUKIの演奏から、レコーディング音源は全て古井が弾いているという噂もありますが、AZUKIは独特の死生観を持った詩的な歌詞(とビジュアル面)で大きく貢献しています。なおドラムは同レーベル内のサポートミュージシャンを招いたり、打ち込みだったり。
 デビューの経緯は『4人が意気投合して結成、インディーズで制作した本作が大反響となったためメジャーデビュー』というのが公式設定ですが、4人の出会いは「お見合いのようだった」とAZUKIが後に語っているように、レーベル側の戦略で集められ、インディーズでCDを出すことで箔をつけてからデビューさせるというシナリオが透けて見えます。本作のプロデュースに、メジャーデビュー後も長らく関わるKANONJI(=ビーインググループ創設者の長門大幸)の名がありますし…。そんな結成の経緯はさておき、解散まで4人不動のメンバーで、クオリティの高い作品を世に出してくれた事実には変わりありません。

 本作は唯一インディーズでのリリースとなります。ネオ・ネオアコを標榜したGARNET CROW、ネオアコに通じるアコースティック基調の作りになっています。粗削りな仕上がりですが、手作り感に溢れ温もりを感じさせます。なおジャケットの写真はAZUKIによるもの。
 
 
 オープニング曲は「君の家に着くまでずっと走ってゆく」。メジャーデビューシングルも同曲ですがアレンジが異なり、本作のバージョンは素朴な仕上がりになっています。恋人へ会いに行くウキウキした気持ちが歌詞に描かれていて、恋愛で何もかもが幸せな時期を歌っているようです。歌い上げる中村の歌声は初々しく、素朴なサウンドも相まって、とても温かい気持ちになります。
 続く「二人のロケット」はライブでも定番の人気曲。控えめなストリングスがアコースティック基調のサウンドを盛り上げます。サビまでは淡々としていますが、サビメロで一気に弾け、ノリ良く展開します。そして中村自身による多重コーラスも心地良い浮遊感を演出。ロケットにたとえられた二人の生活が、順調に軌道に乗っていくかのような雰囲気で、幸せを周囲にばら撒いてくれます。
 「Sky」はスケール感のある歌詞や、哀愁を帯びたメロディに雄大さを感じるのですが、それ以上に古井のアレンジによるダークなサウンドによって曇天のイメージが付き纏います。アンマッチ感はあるものの、楽曲自体は好みです。ファルセットを用いた中村の歌唱が可愛らしいですね。
 「dreaming of love」は淡々としています。本作の中では地味な楽曲という印象は否めませんが、歌詞の反復は印象に残ります。
 そして本作のハイライト「永遠に葬れ」。「とわにねむれ」と読みます。愛する人と死別してしまい、悲しみを吹っ切ろうとする歌詞で、メロディも哀愁たっぷりです。日常を描くのと同じようにごく自然と死をテーマに選ぶAZUKIの歌詞は、一部で葬式バンドとも揶揄されるGARNET CROWの特徴の一つです。切ない感情がこもった歌が涙を誘い、また間奏での岡本による泣きのギターも染みるんです。しかし過剰なアレンジにせずシンプルであっさりと纏めることで、メロディの良さを引き立てつつも、喪失感を煽ります。
 最後に控える「A crown」はスコンと抜けるスネアの音が軽快な、アップテンポの爽快なナンバー。新婚生活を始めた夫婦か、あるいは同棲生活を始めたカップルか、何気ない日常生活から幸せが滲み出ている歌詞です。軽快なサウンドと相まって幸せな気持ちにさせてくれます。
 
 
 何気ない日常の幸せを描いた歌を、アコースティックな優しいサウンドに乗せて歌います。粗削りですが初々しく、温もりが溢れていてとても魅力的な作品です。30分にも満たないミニアルバムですが、サクッと聴けます。

first kaleidscope ~君の家に着くまでずっと走ってゆく~
GARNET CROW
 

初期 (2000年~2004年)

first soundscope ~水のない晴れた海へ~

2001年 1stアルバム

 2000年3月29日に2枚のデビューシングルを同時リリースしてGARNET CROWはメジャーデビューします。そして6枚のシングルをリリースした後に本作をリリース。なおシングルにおいてはアニメ『名探偵コナン』でタイアップしていますが、今後も長らくGARNET CROWと密接に関わってきます。
 洒落たジャケットアートはネオアコの代表グループエヴリシング・バット・ザ・ガール(EBTG)の『ランゲージ・オブ・ライフ』のオマージュで、ネオ・ネオアコを称したGARNET CROWなりのリスペクトでしょうか。オマージュだと知ったのは、本作に触れて相当経ってからでしたが…。でもEBTGにGARNET CROWは見いだせず、同時代のバンドだと、中村由利似の声質とダークな世界観の初期コクトー・ツインズにGARNET CROWっぽさを感じました。
 中村の滑舌の悪いこもったような歌い方は、AZUKI七の紡ぐ独特な歌詞と相まって、歌というよりも楽器のようです。中村自身の多重コーラスも合わせて楽器のようにサウンドに馴染むボーカルに浸っても良いし、世界観を楽しむために歌詞カードとにらめっこするのもGARNET CROWの楽しみ方の一つだと思います。
 
 
 本作のサブタイトルに冠した「水のない晴れた海へ」で開幕。ミゲル・サ・ペソアの編曲で、キーボードも彼による演奏です。アコギとともに幻想的なピアノに導かれて始まり、神秘的ですがグルーヴィでトリップ感のあるサウンドと、浮遊感を生み出すコーラスワークにより幻想的な世界が展開されます。歌詞はアンデルセンの『人魚姫』をモチーフにしたもので、モチーフがわかると抽象的な歌詞の意図も見えてくるでしょう。とても美しい1曲です。なおライブではAZUKIが、女神のようなビジュアルで少し危なっかしいタッチのピアノ演奏を魅せてくれます。
 2曲目「君の家に着くまでずっと走ってゆく」はメジャーデビューシングル。粗削りながら手作り感や温もりのあるインディーズバージョンとは異なり、ミゲル・サ・ペソアによってアレンジされた本バージョンはとても洗練され、まるで朝露のように透明感に溢れた瑞々しいサウンド。中村の多重コーラスも楽曲の美しさを際立たせますね。メロディや歌詞の持つ温もりに加えて、クリアで美しいサウンドの虜になります。インディーズバージョンも捨てがたいですが、こちらの方がより魅力的です。
 続いて僅か3日で制作されたという「夏の幻」は、初期ファンの多くが導入のキッカケになったという名曲。私もタイアップ先を通じてリアルタイムで聴いていたものの、でもGARNET CROWにハマるのはもう少し先でした…。転調による切ないメロディラインが美しく、歌い上げる中村の憂いを帯びた歌声が染み入ります。
 「二人のロケット」は前作でも収録されていましたが、ドラムが若干違っていて、打ち込みドラムから生音に変わっています。アルバムの並びでは前後を哀愁漂う楽曲に挟まれていますが、アップテンポで明るい本楽曲は、アルバムに緩急つける存在となっています。
 「巡り来る春に」は陰鬱な楽曲。音像のぼやけたキーボードに滑舌の悪いボーカルで幻想的な雰囲気ですが、それ故にアコギの生々しい音が際立って魅力を放っています。また、サビの焦がれるような歌唱も切ないですね。
 続く「HAPPY DAYS?」はアコギを中心にした軽快なサウンドに、明るいコーラスワークに彩られたメロディ。でもメランコリックな声質が少しばかりの影を落とします。爽やかさの中に垣間見える冷たさや陰鬱さは、1980年代の本家英国のネオアコの空気を再現しているような気がします。歌詞は「君」との関係性に不安を抱きつつも「幸せな日々を過ごしているよね?」と自分に言い聞かせるかのよう。でも歌詞の最後を読むと希望が見えそうな感じもします。
 続いてメジャーデビューシングル「Mysterious Eyes」。GARNET CROWの代表曲です。中性的な声で、歌声は柔らかくも地に足の着かない感じで初々しいです。軽快なサウンドに乗せて爽やかで瑞々しい1曲です。
 そして「Rhythm」はロック色の強い楽曲です。うねるベースがカッコ良い。ディストーションの効いたエレキと、影のあるメロディを奏でるアコギが交互に主導権を握る。そして強い哀愁を帯びたメロディは繊細ながらも力を振り絞るかのようで切迫感があります。緊迫した雰囲気でスリリングな、鳥肌ものの1曲です。
 「Holding you, and swinging」では前曲の持つ憂いのある雰囲気は変えず、しかしR&B風のサウンドで趣向を変えます。ダンサブルなサウンドにミスマッチな繊細なボーカルは、ファルセットを多用して不思議な浮遊感を生み出します。これがとても心地良い。
 続く「flying」はゲーム『テイルズ・オブ・エターニア』のテーマ曲。単音を刻み、そして一気に広がるイントロは高揚感を煽りますね。歌が始まるとサウンドは大人しくなりますが、ベースが中々良いんです。メロディは結構単調ですが、中村の可愛らしい声のせいか妙に耳に残ります。
 「千以上の言葉を並べても…」は歌詞が美しい楽曲です。1番の「たった一言から 始まるような事もあるのにね」と2番の「たった一言で 終わってしまう事もあるのにね」の対比が好みです。終始切ない雰囲気がたまりません。
 ラスト曲「wonder land」は陽気な雰囲気のサウンドで始まります。そして圧巻はサビのハイトーン。ファルセットを用いた高音で浮遊感に溢れています。ダークさを垣間見せる演奏もメリハリがあり、また終盤転調して哀愁を感じさせます。

 最後にボーナストラック「夏の幻 (secret arrange ver.)」。ライブやベスト盤ではオリジナルよりもこちらの「secret arranged ver.」が頻繁に起用されます(それはシークレットではないのでは…)。実はオリジナルバージョンのイントロがブリトニー・スピアーズの「I Will Be There」にそっくりだとパクり疑惑があったり、前述のとおり僅か3日での制作だったことから、十分にアレンジする時間が与えられず本来望まない形で世に出てしまったのでは無いでしょうか。そのため「secret arranged ver.」こそ本来やりたかった形なのではないかとも思います。
 
 
 工芸品のように作り込まれた繊細な楽曲の数々。デビュー作にして非常に高品質な作品に仕上がっています。よく初期はダークだとか言われますが、ダークというよりも、人肌恋しい寂寥感や刹那的な儚さが全体を覆っている感じがします。本作と、かろうじて次作にのみその特徴が見られます。
 またミゲル・サ・ペソア編曲の冒頭2曲の瑞々しさが、古井の編曲以上に良い仕事をしています。ペソアは後々の作品にもちょいちょい編曲にクレジットされていますが、特にGARNET CROWとの素晴らしい化学反応を見せたのは本作で聴ける2曲だと思います。

first soundscope ~水のない晴れた海へ~
GARNET CROW
 
SPARKLE ~筋書き通りのスカイブルー~

2002年 2ndアルバム

 前作が音を重ねに重ねて、まるで繊細なガラス細工のようでしたが、本作は足し算ではなく引き算の要領で、必要な音だけを残してシンプルにしていくというアプローチを行ったのだとか。そんな本作はGARNET CROW最大のヒット作となり、また名曲の宝庫ですので入門に向いた作品です。本作(というよりはシングル「夢みたあとで」)のヒットがなければ、同レーベルに所属する他アーティストのようにいつの間にかフェードアウト…という憂き目に遭っていたかもしれず、彼らにとってもその後の運命を決める1作となったのではないでしょうか。これまでは音楽番組などのメディア出演がなく、ミステリアスなバンドイメージを持たせる戦略だったようですが、「夢みたあとで」のヒット以降は、少ないながらもメディア出演が増えていくこととなります。
 私にとってはGARNET CROWとの出会いの1枚というだけでなく人生で最も多く聴いた作品で、それだけ本作と結びついた思い出も多く、好き嫌いを超越した特別な思い入れがある作品です。妻との出会いもGARNET CROWがきっかけで、私の人生の大事な節目の傍らにはいつも彼らがいました。そんな私の人生の根幹を作ることになった本作は、聴いているとまるで実家や故郷のような安心感を感じます。曲順が適切じゃないとか、ボーナストラックが蛇足だとか欠点を探せば出てくるものの、それらも正当に評価できないくらい特別な作品です。
 
 
 オープニングを飾るのは「夢みたあとで」。アニメ『名探偵コナン』のED曲に採用され、GARNET CROW最大のヒット曲となりました。本作のヒットもこの楽曲によるところが大きく、私もこの楽曲を契機に本作に出会いました。中村由利が学生時代から温めていたという、GARNET CROWの中でも最も古い楽曲のようです。哀愁ある切ないメロディが儚げでとても美しく、ピアノ主体のシンプルな演奏がメロディを引き立てます。岡本仁志による自己主張のそこまで強くないギターは、アクセント程度ながらとても良い仕事をしています。また「花の雨が降る」の歌詞を表現した、桜が舞うPVも印象的です。でもエンディング向けの楽曲なので、1曲目に持ってくる楽曲ではないかもしれませんね。
 続く「call my name」はオープニングに向いた名バラード曲。古井弘人のアレンジによるイントロがとにかく秀逸で、アコギからグルーヴィなベースが入り、歌が始まるという展開にはワクワクさせられます。ストリングスも楽曲を引き立てますね。キャッチーだけど儚げな雰囲気も残したサビメロもとても素敵です。そんな本楽曲の一番のお気に入り箇所は、2番の「君と歩いてゆく日々に~(中略)~ふと思い出したように call my name」までの、メロディと歌詞のシンクロ具合。これがとても好みです。歌詞ありきのメロディではなくて後から歌詞が作られたのに、不自然な継ぎ接ぎ感が無くメロディにぴったりハマっていて、AZUKI七の最高の仕事の一つだと思っています。更に古井アレンジによる楽曲の盛り上げ方もマッチしているからか、サビの歌詞のハマり具合が格別だと感じます。
 「Timeless Sleep」は失恋を歌った楽曲。初々しい中村の歌声がとても魅力的ですが、演奏では楽曲を引き締めるヘヴィなベースがなかなか良いです。喪服のような装いのPVもあってか、葬式バンドと揶揄される一因にもなっていたり…?なお本人達はレコーディングが気に入らなかったのか、ベスト盤では再レコーディングされたバージョンがしばしば採用されていますが、再レコーディングバージョンは中村の歌声の魅力が打ち消されていて好みではありません…。
 「pray」は3拍子で刻まれるしっとりとした楽曲です。静かで淡々としていて、でも深みのある楽曲。そこに和風な雰囲気を放つ歌詞がマッチして、どこか懐かしさを感じさせます。派手さは無いのですが、じっくり浸ることのできる味のある佳曲です。個人的には真夏の神社の境内を連想させます。
 一転して「Naked Story」は底抜けに明るいアップテンポ曲。オープニングからここまでバラードやしっとりとした楽曲が続きましたが、爽やかなこの楽曲で緩急付けます。後半はエコーの効いたコーラスで浮遊感に溢れています。晴れた日にちょっとした旅行に出掛けたくなるような、そんな気分にさせてくれる1曲です。
 続く「Last love song」が素晴らしい名曲なのです。爽やかさと切なさを内包したアコースティックサウンドがとても心地良い。グルーヴ感のあるベースや打ち込みドラムも合わせて、ネオアコ路線の完成系がここに見られます。そして中村の歌うメロディがとても儚くて、哀愁たっぷりで切ない。でも歌詞を読むと「これが最後の love song の始まりに… なるよう祈る」と、恋愛の成就を願い、そして一生を捧げるような気概すら見せるある意味ポジティブな歌詞。歌詞の最後の3行、私は老いて亡くなるまで添い遂げたのだとプラスに解釈しています。主役2人は亡くなった(時を止めた)けど、その2人の思い出のラブソングと古びたレコードプレイヤーは、2人の死後も淡々と楽曲を奏で続けている、みたいな。…この楽曲も、そんな風に数十年後も流し続けて後世に残したい名曲です。
 そして続くのは名曲「スカイ・ブルー」。本作のサブタイトルに冠した楽曲です。私がGARNET CROWを聴き続けるキッカケになったのは、このアルバム曲のクオリティがこんなにも高いことに感動したからに他なりません。AZUKIが学生時代を思い返して作詞したという本楽曲はどこか懐かしさに満ちています。歌詞に出てくる緑のバスとは京都の市バスを指しているのだとか。中村の透明感のある歌声を浮遊感のあるコーラスで彩り、幸福感で包んでくれます。中村の歌により爽やかでクリアな印象の強い楽曲ですが、サビ周辺のエレキは意外とザラザラとしてノイジーだし、ドラムも結構ダイナミックなんですよね。歌だけでなく、アクセントとして入る瑞々しいアコギが緩衝材になっているのかもしれません。
 「wish★」では一気に趣向を変えて、ダンスビートを利かしたディスコサウンドに変貌。ノリの良い楽曲ですが、ライブでは更に魅力を増す1曲です。サビでは振付があって、またオリジナル曲では控えめな古井のシンセはライブではとてもアツい。ライブで聴きたい曲ですね。
 「Please, forgive me」は、後のキャリアを含めても数少ないハードロック曲。影のあるメロディも魅力的ですが、唯一残念なのが打ち込みのリズム隊。元がカッコ良いのですから、リズム隊が生音だったら、よりヘヴィさを追求していたら…きっと大化けしたと思います。ちなみに、歌詞の符割りが難しいために簡易版も用意されていたそうですが、歌いにくい原案を貫いた中村曰く「超ウルトラ難易度C級」。
 ラスト曲は「Holy ground」。ファンの間で「聖地」という愛称で親しまれる名曲です。メランコリックな歌唱や「死んでしまえば生きなくていい」というネガティブなワードで暗い楽曲のように思わせますが、最後まで聴くと、生きる希望を失った絶望の淵にいる人に手を差し伸べるかのような応援ソングのようです。辛い経験をした人にとっては励みになる1曲で、浮遊感のあるコーラスや、ラストの鳥肌もののファルセットによって神々しさすら感じさせます。この素晴らしいアルバムのラストを飾るのに相応しい名曲です。

 ここからはボーナストラック。「Mysterious Eyes ~dry flavor of “G” mix~」はミゲル・サ・ペソアと古井のアレンジ。原曲に比べるとワクワクする感じは控えめで、少し落ち着いた印象を受けます。サウンドが控えめなので歌メロがリードしていますね。
 続く「Timeless Sleep ~Flow-ing surround mix~」はペソア単独のアレンジ。原曲よりリズムを強調している印象です。原曲との違いはあまり感じないものの、何か少し物足りなさを感じる気がします。前作で神がかり的な仕事をしたペソアの編曲は、本作では古井編曲を超えることが出来ていない印象です。ボーナストラックは正直言えば蛇足ですが、そんな蛇足すらも骨の髄まで染み込んでしまっていて、個人的にはボーナストラックも含めての『SPARKLE ~筋書き通りのスカイブルー~』なんですよね。
 
  私の中では、GARNET CROWのキャリア通して10本の指に入る超名曲のうち4つが本作に入っていて、「Last love song」、「call my name」、「夢みたあとで」はシングルトップ3、「スカイ・ブルー」は全アルバム曲中ナンバー1だと思っています。個人的な思い出も沢山詰まっているので、墓場まで持っていきたいアルバムです。
 思い入れが強すぎて正当な評価はできませんが、ライブの定番曲やファンの人気曲も多い、名曲尽くしの1枚。GARNET CROWの入門にも向いている、とても素晴らしい作品です。

SPARKLE ~筋書き通りのスカイブルー~
GARNET CROW
 
Crystallize ~君という光~

2003年 3rdアルバム

 『SPARKLE ~筋書き通りのスカイブルー~』を引っさげて初ライブを行ったGARNET CROW。また同時にファンクラブも発足。「ゆりっぺ」こと中村由利(Vo)、「七様」ことAZUKI七(Key)、「ゴッドハンド」こと古井弘人(Key)、「おかもっち」こと岡本仁志(Gt)。メンバーの愛称も、ライブやファンクラブ活動を通じて、フォンの間に徐々に定着していくことになります。
 さて本作ですが、前述のライブが創作意欲に影響したようで、自称ネオ・ネオアコを脱してバラエティ豊かな楽曲群が顔を出します。キャリアの中でも洋楽っぽいと言われることの多い作品です。ただ、前半はシングル串刺し、後半はメドレーのように自然に馴染むアルバム曲群と、前半と後半で完全に分断されている感じはあります。またシングルも本作の前後の作品に比べるとややパワー不足な感は否めず、後半の怒涛のアルバム曲メドレーで保っている印象です。
 
 
 開幕「今日の君と明日を待つ」は、スピーカーの右から鳴るピアノと左からのアコギが折り重なって美しい音色を奏でます。サウンドは後半に向かうにつれ煌びやかなシンセ等によって盛り上がっていきます。また、包み込むかのような中村の歌声と多重コーラスによって、まるで冬に温もりを求めるかのような感覚に陥ります。
 そしてここからはシングルが連続します。まずは表題曲「君という光」。シンセの音色が幻想的な雰囲気を作りますが、1stの頃にあった消え入りそうな儚さは薄れ、安定感とキャッチーさが増している印象です。メロディアスな歌はポップですが、表題曲としては今ひとつ物足りない感があったり…。何気に、アクセントとしてのアコギが染みます。
 続く「スパイラル」はライブの定番曲。序盤は穏やかですが、途中から一気にアクセルを踏んで疾走感に溢れるアップテンポ曲に変貌します。サビメロは抜群の開放感。中村の可愛らしい声で歌われる、キャッチーで爽やかなメロディは耳に残りますね。なお、ライブでは古井のアグレッシブなキーボードや、サビ直前から延々とリピートする「無限スパイラル」等の盛り上げる演出でその魅力を倍増させてくれるので、気に入った方は是非ライブDVDも手にしてみると良いでしょう。まるで別物のようなテンションの高さに驚かされます。
 「泣けない夜も 泣かない朝も」はイントロにラップを導入した楽曲。歌メロはそこまで特筆すべきものがないのですが、特に際立つのがグルーヴ感の強烈なシンセベース。実際、古井がアレンジする際にベースラインは拘って作ったのだそうで、ダンサブルなグルーヴがこの楽曲の聴きどころだと思います。
 続いて「クリスタル・ゲージ」は、アコギとキーボードが澄んだ透明感のあるサウンドを奏でます。木漏れ日の溢れる北欧の森をなんとなくイメージします(行ったことはないですが)。また語感を重視したAZUKIの歌詞によって、サウンドだけでなく歌にも浮遊感があります。そんなフワフワした楽曲を、グルーヴ感の強いリズムで繋ぎ止めています。
 ここまでシングル曲が並びましたが、ここからはアルバム曲が並びます。まずは「Marionette Fantasia」。6/8拍子で刻まれる暗鬱なサウンドに、美しくもメランコリックな歌声が、大人のグリム童話をモチーフにした毒のあるダークな世界観を紡ぎます。初期~中期ジェネシスのような雰囲気。AZUKIはフェイバリットにピーター・ガブリエルを挙げていますが、ピーター・ガブリエルの所属していたジェネシスも聴いていたりするのかなぁ?
 続いて「永遠を駆け抜ける一瞬の僕ら」。ミゲル・サ・ペソアと古井のタッグで編曲されたこの楽曲は、まったりとしていてトロピカルな雰囲気を感じます。次曲からの緊迫感溢れる楽曲群に入る前にひと息といった感じです。
 ここからはメドレーのような怒涛の展開で、本アルバムの聴きどころです。まず「Endless Desire」はとても緊迫した雰囲気。スリリングな演奏と、強烈な哀愁が漂うメロディを、ダンサブルなリズムによってうまく緩和しています。カッコ良い楽曲です。
 続く「逃れの町」は聖書をモチーフにしたゴシックメタルな楽曲で、エヴァネッセンスを意識したとかしないとか。ヘヴィなギターリフに、中村のアンニュイな歌声がとても合っていて鳥肌が立ちます。ダークでヘヴィ。この路線でもう何曲か作って欲しかったなぁ。
 「Only Stay」は短いイントロからいきなりヒステリック気味の頭サビで始まるのが強烈。AメロBメロは穏やかですが、サビでは感情を一気に爆発させるかのように、ピリピリとした緊張感を放ちます。
 そして間髪入れずに軽快なドラムに導かれ「恋することしか出来ないみたいに」へ。頭サビの「町中オレンジ色に染める 秋空 加速してゆくサイクリング」の歌詞が、爽やかだけど切ないメロディも相まって、脳裏に夕焼け空のイメージを強烈に焼き付けます。大人びた歌詞が多かったのですが、この楽曲では学生のような視線に立って、甘酸っぱい恋愛模様を爽やかに描いていますね。シンセやピアノ、オルガンと、鍵盤だけでも色鮮やかなのにアコギやエレキ等、カラフルな音色を演出。でも、くどくならない絶妙なバランスです。ここまでメドレーのように、勢いで一気に聴かせます。
 ラストに「夢みたあとで -lightin’ grooves True meaning of love mix-」。原曲の持つ、触れたら壊れてしまいそうな儚さなど微塵も感じない、ゴージャスなアレンジ。ですがクリスマスソングのようで、サウンドとしてはこれはこれでありかもしれません。でもボーナストラックという表記は無く、これがラスト曲でいいの?という疑念はあります。
 
 
 ネオアコを脱してバラエティ豊富になったものの突出した楽曲には欠け、他の作品と比べると今ひとつ地味な印象があります。しかし怒涛のアルバム曲は魅力的で、まるでメドレーのように自然に繋がっています。
 秋から冬を連想させる、暖色の似合う作品です。

Crystallize ~君という光~
GARNET CROW
 
I'm waiting 4 you

2004年 4thアルバム

 前作もそうでしたが、メンバー4人の写真を並べただけの手抜きジャケットはどうにかならなかったのか…。しかし作品の中身は初期作品の集大成で、高いクオリティに仕上がっています。前作で広げた音楽性をブラッシュアップして、キャッチーで魅力的な楽曲を生み出しました。四季折々を表現した楽曲群は、バラエティ豊かなのに散漫にはならず、上手く纏め上げられています。それは単に曲順の良さだけでなく、(冒頭で貶したものの)白を基調としたジャケットアートが暖色でも寒色でもないから、色とりどりの楽曲が乗っかってもジャケットカラーのイメージで上手く調和して、結果的に自然に聞こえるのかもしれません。例えばこれがどぎつい色のジャケットだったら、同じ曲順でも散漫な印象になっていたのかも。
 タイトルは”4″人のメンバーによる”4″枚目のアルバム、そして「I’m waiting “for” you」に引っ掛けているのだとか。なお本作よりサブタイトルが無くなりました。
 
 
 オープニング曲は「夕月夜」。AZUKI七の流麗なピアノに岡本仁志の小気味良いアコギ、そこに古井弘人の華やかなシンセサイザーと、役割分担が明確なイントロです(スタジオ録音はAZUKIのピアノパートも古井が弾いているという説もありますが…)。AZUKIの紡ぐ古風な言い回しが際立つ独特な歌詞、それをなぞる中村由利の歌声は一つ一つ確かめるような慎重な感じがします。本作のレコーディングでは、初めて歌う緊張感や新鮮さを重視して、どれも数テイクだけで通したのだとか。
 続く「冷たい影」は悲壮感のあるオルガンと、重低音をザクザクと刻むギターがまるでヘヴィメタル。しかし歌メロが始まると一気に静けさが支配し、深い深い闇へと引きずり込まれるような感覚に陥ります。恨みがましい歌声で紡がれる、ダークなメロディラインも印象的です。
 「忘れ咲き」はアニメファンからの人気が高い楽曲で、音楽の教科書に乗せても良さそうな王道ミディアムバラード。中村の歌唱はどこか憂いを帯びていて、懐かしさを覚えるメロディアスな歌によく合います。ピアノ伴奏を中心に据えたサウンドも王道って感じですね。そして地味に、間奏の岡本のギターがとても良い仕事をしています。
 続いて「君を飾る花を咲かそう」は前半のハイライト。中村が、知人の身内の葬儀に参加したことがきっかけで生まれたというメロディ。そこに、示し合わせてもいないのにAZUKIが葬送の歌詞を上げてきたので、中村もAZUKIも互いに驚いた…というエピソードがあるそうです。暗く悲しげな雰囲気のピアノに乗せて、メランコリックな歌、そして葬送の詞が合わさって涙を誘う。そしてドラムの入り方も絶妙で、よりシリアスな重厚感を生み出しています。聴いていると鳥肌が立つ楽曲です。
 「U」はハードでダークな楽曲。重たいサウンドに浮遊感のある歌で進行しますが、サビに入ると力強い歌唱にエコーを掛けて、哀愁のメロディを強調します。この力強い歌唱は次作以降に引き継がれていきます。
 続く「fill away」も前曲の重たい雰囲気を引きずっている…と見せかけて、歌が始まるとアップテンポになり、徐々に晴れやかになっていきます。序盤のサウンドに影を感じつつも、終盤は爽やかさすら感じさせます。
 そして「僕らだけの未来」はアップテンポのラテンナンバー。岡本のギターを中心にロック色が強い楽曲で、パンチが効いていてカッコ良いです。吐息も色っぽいですね。この「アップテンポなロック曲=ラテン」という謎の方程式がGARNET CROWに定着し、しばらくこの路線の楽曲が量産されることになります。
 「この冬の白さに」は哀愁のバラード。歌詞にも出てくるこのタイトルが秀逸で、一気に雪景色の情景を広げてくれます。肌寒さとほのかな温もりを感じます。
 「ブルーの森で」は2ndアルバムの頃ような、爽やかでネオアコ風味のサウンド。オルガンの味付けが良いアクセントになっています。中村の歌い方は2ndアルバムと比べると安定感がありますが、それでもチャームポイントの篭もったような歌い方は相変わらずですね。
 「雨上がりのBlue」は飛び抜けてポップで、清涼感に溢れる名曲です。シングルカットしても良かったのではないでしょうか。キャッチーな歌メロは勿論、ダンサブルなリズムに、古井によるカラフルな鍵盤、そして浮遊感のあるコーラスワークが爽やかな雰囲気で魅力的です。夏の青空が目に浮かぶ、高揚感を煽る楽曲です。
 一転して「picture of world」では美しいピアノを主体にした、セピア色のしっとりとした雰囲気で進みます。でもサビで変貌し、少しハードでダークな側面が顔を見せます。メロディも独特で、またメリハリのある楽曲展開が印象的。
 「Sky ~new arranged track~」はインディーズ曲の再録ですが、ミゲル・サ・ペソアによって大きくアレンジされています。原曲のおどろおどろしいイメージは払拭し、アコースティックで透明感のあるアレンジに仕上げています。歌詞で描かれる雄大なイメージと、温もりあるこじんまりしたアコースティックサウンドに若干の乖離はあるものの、じっくり聴かせる良アレンジだと思います。原曲より好きです。
 そしてラスト曲にして本作のハイライト「君 連れ去る時の訪れを」。ファンの間でGARNET CROWのオープニング曲とラスト曲には外れがないという神話(?)がありますが、歴代ラスト曲の中でも「Closer」に次ぐトップクラスの名ラスト曲だと思っています。憂いを帯びた中村の歌声がサビでハイトーンに変わるのに合わせて、鍵盤がカラフルに彩る。そして祝福するかのようなコーラスワーク。まるで曇り空から晴れ間が射して虹を想起させるよう。転調も効果的に使われていますね。そして聴き終えた後の余韻が素晴らしく、いつまでも至福な気分にさせてくれます。
 
 
 初期作品の集大成。バラエティ豊かですが散漫にならず、緩やかに纏まりを見せます。
 GARNET CROWはこの後に初のベスト盤をリリースして、路線変更を行うことになります。

I’m waiting 4 you
GARNET CROW