🇨🇦 Rush (ラッシュ)

レビュー作品数: 28
  

スタジオ盤①

ハードロック~プログレ移行期

Rush (閃光のラッシュ)

1974年 1stアルバム

 ラッシュはカナダの国民的なロックバンドで、日本ではあまり知名度はありませんが、海外のプログレフリークから絶大な人気を誇っています。2004年までに全世界でトータル4000万枚以上を売り上げているのだとか。魔女のように甲高いボーカルは好き嫌いが分かれそうで、私は慣れるまで少し時間がかかりました。それさえ克服できるとテクニカルな楽曲群に魅了されます。
 ラッシュは1968年に結成し、本作でデビューを果たします。メンバーはゲディ・リー(Vo/B)、アレックス・ライフソン(Gt)、ジョン・ラトジー(Dr)。しかし本作発表直後にジョン・ラトジーは脱退することになります。ゴリゴリと唸るヘヴィなベースを弾きながら甲高いボーカルで歌うマルチプレイヤーのゲディと、ハードなギターを掻き鳴らすアレックス。あまりに素晴らしいドラムを叩く後任ニール・パートと比べると大きく見劣りしてしまいますが、2人を支えるドラムを叩くジョン。ニール加入後は、複雑な構成の楽曲を難なくこなすテクニカルなプログレッシヴロックバンドに成長しますが、本作ではレッド・ツェッペリン直系のストレートなハードロックを聴かせてくれます。セルフプロデュース作。

 オープニング曲は「Finding My Way」。やけにゴリゴリとしたベースが特徴的なハードロック曲です。ゲディの甲高いシャウトが強烈で、レッド・ツェッペリンのロバート・プラントを意識した歌い方です。続く「Need Some Love」はバタバタと忙しないロックンロール。勢い任せの爽快な1曲です。多重ボーカルが印象的な「Take A Friend」を挟んで、「Here Again」はブルージーな1曲。アレックスの渋いギターとジョンのジャジーなドラムがメロウな演奏を披露し、特に泣きのギターソロが魅力的です。でもゲディのハイトーンボイスはこの渋い楽曲には合っていないかも。
 アルバムはレコードでいうB面、後半へ突入。「What You’re Doing」はギターリフがカッコ良い1曲で、ギターを補強するベースもバッキバキ。ブルース寄りの骨太のハードロックを展開します。「In The Mood」を挟んで披露される「Before And After」はアコギの音色が優しく、穏やかなサウンドで癒してくれます。しかし後半はゲディの激しい歌を皮切りにハードロック曲へ変貌。ゴリゴリとした演奏で圧倒します。ラスト曲は「Working Man」。ブルージーで骨太な楽曲です。そして聴きどころは中盤のスリリングな演奏バトルでしょう。勢いに満ちていて、アレックスのギターソロも魅力的。歌パートよりも間奏の方がメインの1曲です。

 本作ではレッド・ツェッペリンのフォロワーから抜け出せておらず、数あるハードロックバンドの一つといった印象です。ストレートなロックンロールで楽しませてくれるものの、そこまで強烈に印象に残る楽曲はなく、これからに期待といったところです。

Rush
Rush
 
Fly By Night (夜間飛行)

1975年 2ndアルバム

 前作で脱退したジョン・ラトジー(Dr)に代わって、ニール・パート(Dr)が新たに加入。ゲディ・リー(Vo/B)、アレックス・ライフソン(Gt)と3人で、それ以降ずっと続く不動のラインナップがここに完成します。ニールはドラマーとして優れていて、手数の多さもさることながら、ライブでは360度要塞のように沢山のシンバルやドラム等に囲まれ、それでいて使わない楽器はないという…。そしてニールの書く文学的な詞を、ゲディとアレックスも加わって表現し、プログレッシヴロック路線に舵を切るのでした。
 プロデューサーにはテリー・ブラウンを迎えていて、ラッシュと共同プロデュース。テリー・ブラウンは本作のあとも長らく、バンドとともに共同プロデュースを務めることになります。

 1曲目を飾る「Anthem」でいきなり、前作からの大幅な成長を感じられます。勢いに満ちたテクニカルなイントロから魅了されますね。手数の多いニールのドラムにただならぬものを感じます。そしてゲディはハイトーンで叫ぶ叫ぶ。強烈に印象に残る初期の良曲です。続く「Best I Can」は平坦な楽曲ながら、ニールの複雑なドラムが緩急をつけて、聴ける楽曲に変えていると思います。たぶんジョン・ラトジーだったらこうは叩けなかったでしょう。ギターリフが印象的な「Beneath, Between & Behind」も佳曲。リズミカルで軽快、そして少し捻りのあるロックンロールです。9分弱に渡る「By-Tor And The Snow Dog」では組曲を披露します。疾走感があってかつキャッチーな歌メロで、開幕から惹き込まれます。間奏はテクニカルな演奏で、カオスな演奏バトルだったり、ブルージーでメロウな演奏だったりと場面転換もいくつか行われますが、構成力の高さで飽きさせません。今後プログレ路線に大きく舵を切ることになるラッシュの未来を指し示しているかのようです。
 アルバム後半は表題曲「Fly By Night」で幕開け。晴れやかな曲調にキャッチーな歌が印象的です。テクニカルな演奏はこの楽曲ではやや控えめで、歌メロを重視したポップな1曲です。ゲディの声がポップかどうかはさておき。笑 「Making Memories」はアコギ主体の1曲。跳ねるようなリズム隊が、アコギの軽快な音色を引き立てます。中盤から加わるエレキも味があって中々良い。「Rivendell」はアコースティックで穏やかなサウンドをバックに、ゲディが囁くような声で歌います。アグレッシブな楽曲が多い本作における癒やしです。「In The End」も前曲の大人しい雰囲気を引き継いで始まりますが、1分半過ぎた辺りからアレックスのヘヴィなギターとゲディの甲高い歌声など荒々しくなってきます。ブルージーな締め方は、レッド・ツェッペリンの影響が色濃いですね。

 キャッチーさとテクニカルな演奏が加わって、今後のラッシュの方向性を位置づけた、彼らの原点とも言える作品です。

Fly By Night
Rush
 
Caress Of Steel (鋼の抱擁)

1975年 3rdアルバム

 プロデューサーはテリー・ブラウンが続投となりました。組曲形式の大作が2曲入っていて、前作よりもプログレッシヴロックに寄っています。しかしキャッチーさは後退し、テクニックが先行する感があります。次作で一旦、大作主義の完成形である『西暦2112年』という名盤を打ち出すことになりますが、本作はその過渡期に位置づけられる作品です。

 硬質なサウンドを奏でるハードロックナンバー「Bastille Day」で始まります。若干弱いですが、これが本作では最も聴きやすいでしょうか。アレックス・ライフソンのハードなギターに、ゲディ・リーのバッキバキのベースが絡みます。ブルース色の強いハードロック曲「I Think I’m Going Bald」、比較的穏やかな「Lakeside Park」が続きますが、正直印象が薄いです…。続いて12分半に及ぶ「The Necromancer」、こちらは3部構成の組曲。ムーディで、まったりと気だるく奏でられる序盤はどことなくピンク・フロイドっぽいですね。ニール・パートの力強いドラムを皮切りに中盤へ突入すると、ブラック・サバスのように引きずるように重たいリフが強烈です。そして突如疾走して激しい演奏バトルを展開し、これがとてもスリリングです。終盤は一転して穏やかな演奏と優しい歌メロで終えます。
 20分に渡る大作「The Fountain Of Lamneth」は全6部構成です。アコギと憂いのある歌で始まりますが、突如エレキギターが出てきてハードな展開に。何度か繰り返し登場するヘヴィなフレーズは本作の主題なのでしょうか。そしてニールのスリリングなドラムソロを挟んで、少しシリアスなパートに突入。その後はまたアコギが奏でるシンプルな歌メロパート。エレキに持ち変えて歌メロパートが続き、そして序盤に出てきた主題が再び奏でられます。…と、6部構成なので1曲の中での場面転換が激しいですが、ややキャッチーさに欠けるため次作以降の大作と比べるともう一歩といった感じです。

 テクニック先行でメロディが弱いため、個人的にはあまり好みでない作品です。ですが、ここで用いた手法をしっかり練り上げたことで、次作以降の名盤群に結実するんですね。

Caress of Steel
Rush
 

プログレ大作主義時代~全盛期

2112 (西暦2112年)

1976年 4thアルバム

 大作主義がここに完成し、ラッシュのプログレ黄金時代の幕開けを飾ります。本作以降のラッシュは名盤ばかりですので、本作または最高傑作『ムーヴィング・ピクチャーズ』から聴き始めると良いでしょう。
 20分超の大作と残り5曲の小品という構成。その音楽性から、レッド・ツェッペリン+イエスという評価も見かけましたが、いい得て妙だなと思いました。
 裏ジャケットに描かれた、五芒星の魔方陣のような紋様を支える(?)ような格好をした裸の男は、ラッシュのトレードマークになりました。

 20分超に渡る表題曲「2112」は全7部で構成される組曲です。長さを感じさせないスリリングな展開やドライブ感がとても楽しい名曲です。スペイシーなSEで始まるイントロから、アレックス・ライフソンのハードなギターリフを中心にテクニカルな展開を繰り広げます。緊張感もあるため、オープニングからワクワクさせてくれます。爆発音とともに歌メロパートが始まりますが、ゲディ・リーが叫ぶ激しい歌唱はハードロックというよりヘヴィメタル的で、激しく歌いながらベースもゴリゴリと唸らせます。ニール・パートのドラミングも一辺倒ではなく聴く人を楽しませてくれます。そして激しいパートから一転、しっとり歌い上げるアコースティックパートへ突入。しばらく穏やかなパートが続きますが、また激しさが顔を見せます。ドライブ感のあるスリリングなインストゥルメンタルを挟んで、神秘的な静けさ。その静けさも一瞬で、またもハードロックを展開。そしてエンディングに向け疾走感と緊迫感が増し、クライマックス。このラストの緊張感は尋常ではありません。目まぐるしく場面が変わりますが、緊張感が張り詰めているだけでなく、飽きさせないキャッチーさを伴っていて、とても楽しませてくれます。
 アルバム後半は5つの小曲が並びます。開幕「A Passage To Bangkok」は中華風の雰囲気を持ったハードロック曲。サウンドはヘヴィながらもキャッチーさを持ち合わせていて、後半の小曲群では頭ひとつ抜けた印象です。「The Twilight Zone」は哀愁が漂います。渋くてメロウな演奏です。続く「Lessons」は軽快なアコギで始まりますが、徐々にハードな演奏に切り替わっていきます。アレックスのギターはキンキンと金属的な音を立ててるし…。「Tears」は湿っぽい哀愁バラード。メロトロンの音色が哀愁を引き立てます。そしてラストの「Something For Nothing」は「2112」から切り出したような、ドライブ感のある好ハードロック曲。緊迫感と勢いに満ちて爽快です。

 ラッシュの入門盤に向いた初期ラッシュの傑作です。複雑ながらも優れた構成力で聴く人を飽きさせない、組曲「2112」がとにかくスリリングで圧巻です。それ以外の小曲群も悪くはないし所々光るものの、あくまで「2112」を引き立てる存在でしょうか。

2112-40TH ANNIVERSARY
Rush
2112
Rush
 
A Farewell To Kings (フェアウェル・トゥ・キングス)

1977年 5thアルバム

 10分強の2つの大作を収録した6曲構成の本作。プロデューサーは『夜間飛行』から引き続きテリー・ブラウン。本作から、部分的ですがシンセサイザーが導入されています。また、ゲディ・リーの歌もシャウト一辺倒から優しい歌い方を交えるようになって、表現力が向上しました。大作主義も板についてきて、これも名盤だと思います。

 表題曲「A Farewell To Kings」が1曲目を飾ります。優しいアコギの音色でオープニングを迎え、かと思えば突如ハードロック曲に変貌。リズムチェンジを交えながらドライブ感のあるスリリングな演奏を展開します。ゲディのマッチョなベースとハイトーンボイスが強烈で、1曲目から掴みはばっちりです。そして次曲は11分に渡る大作「Xanadu」。静寂にチューブラーベルが鳴り響き、アレックス・ライフソンが高らかにエレキギターを奏でます。そしてニール・パートのドラムとアレックスのギターリフの掛け合いがとてもカッコいい。静かになるとゲディのメタリックなベースが際立ちますね。ちなみにシンセもゲディによる演奏で、マルチプレイヤーとしての才能を発揮しています。歌メロパートでの唐突な加速、急激な場面転換…とにかく複雑な構成ながらも耳に残るフレーズが多く、非常にスリリングで楽しい楽曲です。
 アルバム後半に入り、名曲「Closer To The Heart」。美しい歌メロにスポットを当てた楽曲で、ゲディの優しい歌が心に染み渡ります。ラッシュの人気曲の1つで、ライブでは観客皆で合唱する場面が見られます。メロディを堪能できる1曲ですが、後半はテンポアップして爽やかに終えます。「Cinderella Man」はハードロックナンバー。4分半の短さの中でリズムチェンジを繰り返すテクニカルな楽曲です。硬質な演奏ですが、メロディはポップですね。牧歌的な小曲「Madrigal」を挟んで、ラストはもう一つの大作「Cygnus X1 Book I: The Voyage」で締めます。宇宙のようなSFチックなSEと空間の広がり。そして始まるヘヴィなリフは不思議なリズムを刻みます…これは何拍子でしょうか?リズムチェンジをしながら凄まじい緊迫感を放ちます。歌メロパートの途中から晴れたかのように明るくドライブ感が増しますが、またも重苦しいパートに逆戻り。でもこの緊迫感がとてもスリリングで、カッコいいんです。非常に高い技術力を持つ3人だからこそ実現できた業でしょう。なお「Book I」とあるように、続編の「Book II」も存在しますが、それは次作で聴くことができます。

 非常にスリリングな大作2曲が本作の目玉ですが、歌メロが美しい「Closer To The Heart」も捨てがたいです。

A Farewell To Kings – 40th Anniversary Deluxe Edition
Rush
A Farewell To Kings
Rush
 
Hemispheres (神々の戦い)

1978年 6thアルバム

 裸の男が丘の上で手を伸ばしますが、ジャケットを広げてみるとこの丘の正体は巨大な脳みそだとわかります。レコード時代はA面を丸々使った18分の大作と、小曲2つ、10分弱の大曲1つの全4曲構成。ラッシュ大作主義時代全盛期を飾る作品で、コアなプログレファンに人気の作品です。

 「Cygnus X-1 Book II: Hemispheres」は18分に渡る大作で、全6パートから成ります。イントロから緊迫感があり、ゲディ・リーのメタリックなベースや手数の多いニール・パートのドラムが強烈。2人が個性を爆発させるので、アレックス・ライフソンは主張控えめのギターで楽曲を纏め上げます。場面転換も駆使してスリリングな演奏が繰り広げられますので楽しめる楽曲であるものの、同じくらいの長さの大作「2112」と比べると若干ダレる部分があることは否めません。元々、前作のラスト曲「Cygnus X-1 Book I: Voyage」で「to be continued…」と予告して終えてしまったために続きを作る必要があり、悩みに悩んで難産の末出来上がった楽曲なので致し方ないのかもしれません。歌詞制作を担うニールは難産だったこの楽曲で大作志向に懲りて、よりコンパクトな歌詞にシフトしていくことになります。
 アルバム後半は小曲2曲と10分弱のインストゥルメンタルですが、むしろこちらの方が本作のメインかもしれません。「Circumstances」はヘヴィな演奏で始まります。ゲディの甘い歌声に浸っているとサビでは激しい歌唱に。そのサビの変拍子が中々複雑です。続いて「The Trees」。「A Farewell To Kings」のような美しいアコギで始まりますが、途端に始まる激しい演奏は緊迫感に満ちています。大作をコンパクトに纏めたかのように、5分弱の間に場面転換を繰り返すテクニカルな1曲です。そしてラストに控えるのは本作のハイライト「La Villa Strangiato」。このインストゥルメンタル曲は、ラッシュ最強のインストゥルメンタル曲「YYZ」に負けずとも劣りません。フラメンコのようなラテン寄りのアコギから、エレキとキーボードが静かに始まり、静かに緊迫感を煽るドラム。そこからフュージョンのような超絶テクニックに圧倒されます。3人の息もピッタリなこの強烈な1曲はなんと一発録りで、そのため一部ミスがあるそうです(正直どこだかわかりません…)。10分という長さを感じさせず、あまりに凄まじい緊張感を放ちながら勢いで一気に聴かせてしまう、ラッシュ5本の指に入る名曲です。

 やや取っつきにくさはあるものの、ラッシュトップクラスの超名曲「La Villa Strangiato」が収録されており、これを目当てに聴く価値がある作品です。

Hemispheres – 40th Anniversary Deluxe Edition
Rush
Hemispheres
Rush
 
Permanent Waves (パーマネント・ウェイヴス)

1980年 7thアルバム

 前作が難産だった反省と、レーベル側の意向もあって、楽曲はコンパクト志向へとシフトします。更にキャッチーさも加わり、これまでのラッシュに比べるとかなり取っつきやすい仕上がりとなっています。次作『ムーヴィング・ピクチャーズ』と並び、傑作として挙げられることの多い名盤です。ジャケットにはパンチラ(パンモロ?)少女。

 ラジオのオンエアを見据えて5分ほぼピッタリに抑えた名曲「The Spirit Of Radio」が光ります。皮肉なことに翌年MTVが始まってバグルスの「Video Killed The Radio Star」がヒットするのは対照的ですね。ラジオからミュージックビデオに移行する時代を象徴していますが、この楽曲自体は古びた感じはなくて、とてもカッコいい仕上がりです。コンパクトな中にラッシュお得意のリズムチェンジを駆使して、それでいてキャッチーなメロディはとても聴きやすい。また後半の一部で、この頃流行していたレゲエの要素も取り込んでいて、変幻自在のアレックス・ライフソンのギターが光ります。ラッシュと言えば真っ先に挙がる代表曲です。そして続く楽曲「Free Will」も変拍子を駆使して不思議なリズム感を刻みますが、テクニックにリスナーが置いてきぼりになることなく、メロディアスでキャッチーさを持っているので聴きやすいです。ラッシュ聴き始めの頃はゲディ・リーのハイトーンボイスが苦手だったのですが、この楽曲はそんな時期でもすっと入ってくるキャッチーさがありました。骨太なベースもカッコ良いですしね。続く「Jacob’s Ladder」は7分半の楽曲で、歌より演奏が大半。これまでのラッシュを感じさせます。ヘヴィで鈍重、そして同じフレーズを反復しながらどっしりと歩むかのようです。そんな重さをスペイシーなキーボードが和らげています。
 アルバム後半は「Entre Nous」で始まります。晴れやかなイントロに強烈なパンチ力を期待しますが、歌メロはアッパーな感じではなく、比較的穏やかでまったりとしている印象。間奏の、ぼやけたギターやシンセが、音の海にゆったりと浸っているかの感覚。少し憂いを感じるしっとりとした「Different Strings」を挟んで、ラストに9分超の大曲「Natural Science」。全3部から成る組曲で、海辺か川辺のような水の流れるSEと穏やかな歌メロで始まります。そして途中から突如ヘヴィで骨太な演奏が始まり、スピードアップ。ドライブ感があってとてもスリリングな展開です。またしばらくして5分過ぎた辺りからリズムが大きく変わり、行進するかのようなリズムで3部に突入したことがわかります。目まぐるしいこの楽曲も、オープニング2曲に並んで本作の聴き所です。

 取っつきやすさを増した本作。次作とセットで、入門盤としておすすめできます。特に「The Spirit Of Radio」と「Free Will」が素晴らしく、この2つの飛び抜けた名曲が本作を牽引してくれます。

Permanent Waves
Rush
 
Moving Pictures (ムーヴィング・ピクチャーズ)

1981年 8thアルバム

 文句なくラッシュの最高傑作です。前作『パーマネント・ウェイヴス』の成功を受け、楽曲をコンパクトにしつつも高度で複雑な演奏をするという手法を本作でも踏襲。また、以前からシンセサイザーの導入はありましたが、本作ではアクセントとしての導入ではなく全面的に押し出されています。

 スペイシーなシンセサイザーで一気に作品の世界へと誘う「Tom Sawyer」。歌メロはキャッチーですが、プログレ由来の変則的なリズムを刻み、シンセが不思議な浮遊感を生み出します。シンセが後退するとゴリゴリベースが全面に出てきますが、ボーカル・キーボード・ベース全てをゲディ・リーが担当。そして自己主張しすぎることなく楽曲の世界観を優先したギターを奏でるアレックス・ライフソンと、先の読めないスリリングなドラムを叩くニール・パートの3人が、スリリングなインストパートを披露します。続いて2曲目の「Red Barchetta」はラッシュの歌あり楽曲ではトップクラスに好みの1曲です。徐々にフェードインして盛り上がってくるイントロ、キャッチーで甘い歌メロに加えて、コード進行がとても心地よいのです。メリハリのあるハードな演奏は中盤でリズムチェンジしますが、ポップさの中にテクニカルな一面をうまく同居させています。終盤の転調も感傷的になります。とにかく素晴らしい名曲です。そんな名曲の後に続くのは、ラッシュ最強の楽曲にして非常にスリリングなインストゥルメンタル曲「YYZ」。歌詞など一言もないのにもかかわらず、ライブでは観客が合唱をするという人気曲で、ラッシュといえばこの1曲です。3人の息のあった演奏が非常にスリリングで、中盤のギターソロや全編に渡るヘヴィなベースも当然魅力的ですが、中でもニールの手数の多いドラムがあまりに凄まじいです。トリオ編成のロックバンドでは最高峰のテクニックを持つラッシュですが、そのテクニックを4分半に集約させた凄まじい緊迫感を放つ1曲です。続く「Limelight」では緊迫感は去り、キャッチーなメロディで歌う甘くてポップな1曲です。とは言えバックのテクニカルな演奏は健在で、ノリの良いリズムは数えてみると変拍子だし、しれっと複雑なドラム。テクニックを見せつけるのではなく、キャッチーなメロディに馴染ませています。
 アルバムは後半に入り、11分に渡る大作「The Camera Eye」で開幕。ゲディのシンセ全開で、近未来的なサウンドを奏でます。シンセが響き渡るSFチックな序盤はゆったりとしたテンポで重厚な雰囲気。そこから突如加速して緊迫感を増すものの、徐々にノリの良い演奏へと変貌します。この辺りはラッシュお得意の展開ですね。全編にほどよい緊張感を持ち、歌はポップというギャップ。11分の長さを感じさせない楽しい楽曲です。続く「Witch Hunt」はシンセサイザーの音色によって和らげているものの、本作で最もダークな楽曲です。若干地味な印象は否めませんが…。そしてラスト曲は「Vital Signs」。アレックスのギターにレゲエの影響を感じますが、テクニカルな演奏が全面に出ていて、レゲエ感はうっすら感じられる程度。これも佳曲です。

 前5曲は文句なく名曲・超名曲で、ラスト2曲も水準以上という素晴らしい出来の良さです。ラッシュ最高傑作にして入門作にも向いていることでしょう。

Moving Pictures
Rush