🇯🇵 宇宙ネコ子 (うちゅうネコこ)

レビュー作品数: 3
  

スタジオ盤

日々のあわ

2016年 1stアルバム

 神奈川県を拠点に活動するオルタナティヴロックユニット、宇宙ネコ子。作詞作曲を主に担当するねむこ(Gt/Key)とタナベコウヘイ(B)の2人組で2012年に結成しました。また、ジャケットイラストは映像作家・漫画家の大島智子が全編手掛けています。
 2014年にラブリーサマーちゃんをゲストに迎えて『宇宙ネコ子とラブリーサマーちゃん』を自主レーベルよりリリース。そして本作では複数名のボーカリストをゲストに招いてオムニバスアルバム的な作品に仕上がっています。また相対性理論のItoken(Dr)も参加しています。

 オープニング曲「Divine Hammer」は、イントロから爽快なドラムと、清涼感のあるギターで幕を開けるシューゲイザー的な1曲です。ラブリーサマーちゃんの歌唱は不安定ながらも心地良いウィスパーボイスで、そこにエフェクトをかけて浮遊感たっぷりです。続く「Online Love」はtsvaciが歌いますが、ウィスパーボイスという歌唱スタイルのおかげか声質が似ているのか、アルバム内でボーカリストが変わっていても全く違和感ないですね。楽曲は靄のように空間を優しく包むシンセがエレクトロニカ的でいて、ピコピコシンセやエセ東洋のようなメロディ、弾けるようなドラムにニューウェイヴ感覚も兼ね備えています。「ガラスの虹」は清涼感があるものの、音像のぼやけた演奏が心地良いですね。ボーカル担当のreddamの歌は、フワフワした前2名よりは少し低めのキーが魅力です。そして「Summer Sunny Blue」は雰囲気を変え、ジャズやファンクを組み合わせたフュージョン的な楽曲です。ホーンも華やかですね。本作では唯一男性ボーカルの入江陽が、ブラックミュージック的な歌唱を聴かせます。「isn’t Anything」はイノセントで中性的な歌唱を聴かせるluluがボーカル担当。アコギを用いた柔らかい音色で温もりに溢れていますね。後半はサイケ的な眩い感覚に襲われ、手数の多いドラムが目立ちます。「び、ね、つ」は再び入江陽がボーカル担当。フュージョンのようなシティポップのような楽曲を展開します。比較的落ち着いたトーンですがグルーヴ感が強く、また時折カラフルなシンセで彩ります。続いてtsvaciの歌う「ただいま。」。短いイントロを経て、ウィスパーボイスで優しい歌が始まります。ドリーミーですがリズミカルな演奏に、アンニュイな歌唱がフワフワと心地良くて魅力的です。そして表題曲「日々のあわ」。オルタナ的な演奏が優しく、そこにラブリーサマーちゃんのか細い歌が乗ります。小気味良いリズムギターが良い感じ。サビではエフェクトをかけた歌とギターによって楽曲に包まれるような、多幸感のある雰囲気です。ラストは短いインストゥルメンタル「日々のあわ (Reprise)」で、プチプチノイズに包まれて鉄琴でメロディを奏でて締め括ります。

 シューゲイザーやシティポップ的な楽曲など様々ですが、全体的にはぼんやりとして浮遊感があるというか、柔らかい空気に包まれています。

日々のあわ
宇宙ネコ子
 
君のように生きれたら

2019年 2ndアルバム

 2017年に固定ボーカリストとしてkano(Vo/Key)を迎えたものの、同年タナベコウヘイが脱退。ねむことkanoによる2人組ユニットになった宇宙ネコ子の2ndアルバムです。オルタナ/シューゲイザー的なアプローチの演奏に、か細く可愛らしいウィスパーボイスで歌を乗せる楽曲群がとても魅力的です。

 アルバムは「Virgin Suicide」で幕開け。シューゲイザー的なギターがイントロからノイジーに唸って高揚感を煽りますが、儚く消えてしまいそうなkanoのか細いウィスパーボイスが対照的ですね。でも歌声が演奏に埋もれることなく、ダウナーな演奏と相まって心地良い浮遊感を生み出しています。続いて表題曲「君のように生きれたら」。優しくも諦念のあるオルタナ的な演奏に、素朴でフワフワした歌声がとても心地良い。そしてサビでは憂いの混じった可愛らしい声で「君のように生きれたら 君のように過ごせたら…」と繰り返すので耳に残るんです。「Like a Raspberry」は靄が立ち込めたような静かな空間に、輪郭のはっきりとした、シンプルながら心地良いドラムが際立ちます。またkanoの歌もフィーチャーされていて、素朴ながら素敵な歌に聴き入っていると、歌を彩るコーラスワークが多幸感を生み出します。幸せなひと時。「FILM」はインストゥルメンタルで、鐘の音が響き渡り、アンビエントなピアノが落ち着きつつも影を落とします。少し心をざわつかせた後に続くのは「(I’m) Waiting For The Sun」。ローファイでどこか懐かしさを感じる演奏に、メランコリックなkanoの歌が乗ります。サビで演奏はノイズを増し、そして焦がれるように「I’m Waiting For The Sun」を繰り返す歌が感傷的な気分を誘う名曲です。そして「Timeless」は落ち着いた優しい演奏に、庇護欲を誘うようなか細い声で切なく歌います。メロディアスで良い感じ。最後は小曲「Flowers」で、ピアノ伴奏と柔らかいウィスパーボイスが、終始レコードのようなプチプチノイズに包まれてレトロ感を醸し出しています。

 全7曲23分という短さですが、良曲が詰まっていて繰り返し聴きたくなる魅力があります。

君のように生きれたら
宇宙ネコ子
 
日のあたる場所にきてよ

2021年 3rdアルバム

 ねむことkanoの2名体制による宇宙ネコ子の3rdアルバムが本作です。コロナによる自粛期間にじっくり1年半ほどかけて制作され、2021年にBandcampでデジタル配信、翌2022年にはCD化されました。

 オープニングを飾るのは表題曲「日の当たる場所にきてよ」。スケール感のあるイントロで、奥行きのある演奏に躍動感のあるドラムが高揚感を煽ります。そしてkanoのウィスパーボイスがそよ風のように優しく撫でていきます。続く「Skirt」はリズミカルなドラムに乗せて、ネオアコのようなまったりと優しいギターが心地良いですね。かすかに囁いて消え入りそうなボーカルを、コーラスワークで支えて多幸感があります。ドリーミーで心地良く反復しながら揺さぶってきます。そして「部屋」は、緩やかな本作の中では比較的テンポの速い楽曲です。ギターが幾重にも絡んで憂いのある雰囲気を醸し出し、骨太なベースと軽快なドラムが楽曲を支えています。kanoの歌うサビメロがリズミカルで耳心地が良いですね。「スロウ」はベースとドラムを軸に、アンビエントな鍵盤やギターを鳴らす静かな楽曲を展開。時々リズムを止めて余韻を楽しませます。アンニュイな歌は楽器のように溶け込んでいますね。そのまま続く「Rebirth」はアンビエントでエレクトロニカ的なインストゥルメンタル。宇宙空間を漂うかのように、静かな空間に鍵盤の電子的な音色がぼんやりと響き渡ります。そして「9」になるとローファイなドラムの音から淡く明るい楽曲が始まります。演奏はしっかりしていますが音をぼかすことで角を削ぎ、触れたら消えてしまいそうな淡く儚い歌が乗ることで、どこかノスタルジックな感覚を生みます。最後は「hikage」。ドラムが優しく素朴な印象を生み出し、か細い声ですが他の楽曲よりも歌詞をはっきり歌って歌をフィーチャーしている感じ。「日の当たる場所にきてよ」と主題を歌い、オープニング曲とエンディング曲で楽曲に統一感を持たせているようです。

 前作と比べると歌が楽器のように溶け込んでいるような印象を受けました。歌ものとしてのキャッチーさは前作に若干劣るものの、淡く儚い楽曲スタイルは変わらない良質な作品です。

日のあたる場所にきてよ
宇宙ネコ子
 
 

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 『日々のあわ』にゲスト参加したItoken(Dr)の所属するバンド。

 
 
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