🇯🇵 揺らぎ (ゆらぎ)

レビュー作品数: 4
  

スタジオ盤

nightlife EP

2016年 1st EP

 揺らぎは滋賀県出身のシューゲイザー/ドリームポップバンドです。日本だけでなく台湾やアメリカ、ロシアなど海外からも人気を集めています。
 2015年に、miracoことMirai Akita(Vo/Gt)、Kantaro Kometani(Gt)、そしてYusei Yoshida(Dr)の3人で結成しました。1stシングル『Bedside』のリリース後に、本作『nightlife EP』をリリースします。自主制作のため流通が限られているのか、CDは全然売っていなくて、私はプレミア価格になっていた中古品に運良くめぐり逢いました。

 オープニング曲「soon」は、miracoの透き通るような幻想的なコーラスワークと、轟音で駆け抜ける爽快な演奏で幕を開けます。冒頭数秒からクライマックスというか、訴求力がとても強くて、一気に本作の世界に引き込まれます。ノイジーなのにクリアな音楽に浸っていると、僅か3分足らずで次の楽曲へ。「night is young」は、miracoの儚さとキュートさの同居した囁くような歌がとても心地良く、メロウなギターが歌を引き立てます。そこにYuseiのダイナミックなドラムが加わって楽曲に躍動感を与えます。そしてサビメロでのアグレッシブな轟音はスリリング。名曲です。続いて「AO.」。極端な静と動の対比が強烈な、7分半に渡るポストロック曲です。アンビエント的な静寂の演奏に、微かに囁く歌声が心地良く、同じようなフレーズを反復する透明感ある楽曲に浸れますが、唐突に轟音パートが訪れて緊張感をもたらします。美しい1曲ですね。そして最後は「sleeptight」。冒頭からキーンとノイズを立てながら、シリアスで緊張感のある演奏が始まります。ですが爆音の中で一際輝くのはリードギターが奏でる美しいメロディ。もっと浸りたいのに、あっという間に終わってしまいます。

 轟音でありながら、透明感のあるボーカルのおかげで浮遊感たっぷり。そんな魅力のある名盤です。僅か4曲で20分に満たない作品ですが、これがあまりに素晴らしくて気付くとリピートしてしまいます。

nightlife EP
揺らぎ
 
Still Dreaming, Still Deafening

2018年 2nd EP

 前作までは自主制作でしたが、本作以降はレコードショップFLAKE RECORDSの運営するインディーレーベルからのリリースとなり、入手しやすくなりました。作風としては前作と比べキャッチーさは控えめで、より神秘的で、深みを追求するような作品へと仕上がっています。

 「B/C」は幻想的で美しいインストゥルメンタルです。冒頭、ベースの重低音に幻覚的なエフェクトをかけてダークな世界を築きますが、マーチのようなYuseiのドラムが加わると、ゆっくり希望に向けて歩き始めるかのような印象に。「Horizon」は極端な静寂から一気に爆音へと変化させる、静と動の対比が強烈なノイズ系ポストロック曲です。そして透明感のあるmiracoの歌声は、天から響くかのような浮遊感たっぷりの心地良さがあります。「Utopia」は囁くような歌唱スタイルは維持しつつも比較的、歌を堪能できる楽曲です。勢いに満ちている演奏も爽快ですね。そして「Bedside(album ver.)」は1stシングルを収録。Kantaroのギターが透明感たっぷりで美しく、そして歌メロもキャッチーです。他の楽曲と比べて抜群に取っつきやすく、良質なシューゲイザー曲ですね。「Unreachable」は比較的音数少ない楽曲ですが、スローテンポでダウナーな雰囲気が心地良い。歪んだギターと美しいウィスパーボイスが対照的です。終盤はノイジーなサウンド変化していきますが、歌も浮遊感を増していきます。ラストのリードギターも魅力的。そして最後に「Path of the Moonlit Night」。11分近い大作です。冒頭は神秘的な静寂に包まれていて、誰もない大自然にぽつりと佇むかのよう。2分過ぎてから轟音が押し寄せて楽曲を盛り上げます。以降の「静」のパートにはリズム隊がいて楽曲を盛り上げます。6分過ぎに訪れる静寂からの轟音で極端な緩急をつけ、スケールの大きさで圧倒してきます。聴きごたえのある楽曲です。

 シューゲイザー色もありますが、今作はモグワイのようなポストロック色が強い印象。神秘的で美しいです。

Still Dreaming, Still Deafening
揺らぎ
 
For you, Adroit it but soft

2021年 1stアルバム

 揺らぎ初のフルアルバムとなります…が、実は収録時間で言えば前作EP『Still Dreaming, Still Deafening』の方が長いという(前作は33分半、今作は31分)。シューゲイザー/ポストロックの枠を超えて、エレクトロニカ的な楽曲やアコースティック曲にも挑戦しています。なお本作からサポートとしてUji(B)が参加。サポートでありながら、メンバー以上にバンドに貢献しているのだそうです。

 オープニングを飾る「While The Sand’s Over」はインストゥルメンタル。重低音が轟いて巨大な何かが動くような気配がして、またエフェクトをかけたギターは、グワングワンと揺さぶってサイケ的な感覚をもたらします。miracoのコーラスも幻想的です。続く「Sunlight’s Everywhere」はポストロック的な静寂の中で、囁くような歌声をフィーチャー。少しずつ音量を増していきますが、音数は少なくて神秘的です。中盤からギターによって色彩が加わり、終盤の盛り上がりは幸せな気持ちにさせてくれます。「That Blue, I’ll be coming」はスローテンポの楽曲で、囁くような歌とまったりとしたYuseiのドラムが静かな世界に響きます。そして途中から、3連符を駆使して躍動感のある楽曲へと様変わり。ギターは洪水のように轟音をかき鳴らして、とてもスリリングです。2分足らずの「Dark Blue(feat. Big Animal Theory)」はクラブサウンドを導入した新機軸の楽曲です。歌声にもエフェクトをかけて機械のような無機質さがあります。「An Atrium」はアンビエントやエレクトロニカ的な楽曲で、打ち込みが際立つ、これまでと異なるタイプの1曲です。一転して「While My Waves Wonder」は躍動感のあるロック曲。本作中最もポップな印象です。ドラムが高揚感を掻き立て、Kantaroのオルタナ・シューゲイザー的なギターが、懐かしさを感じさせるロックに仕上げています。歌メロも比較的ポップですね。「The Memorable Track」はアコースティックなナンバー。楽曲は非常に淡々としていますが、アコギの音色には哀愁が漂います。そして「Underneath It All」は終盤に相応しく、イントロからスケール感があります。歌をフィーチャーしたかと思えばダイナミックな演奏が押し寄せ、そして轟音の中で透明感のある歌が加わると感動的なんです。僅か3分で終わってしまうのが物足りない、名曲です。最後は「I Want You By My Side」で、力強くプリミティブなドラムが高揚感を掻き立てます。これも轟音と透き通る歌声の対比が魅力的ですね。美しくてスリリングな楽曲です。

 序盤がやや弱めで終盤に良曲が並ぶ印象で、曲順は少し勿体無いなと思いました。また、バラエティ豊富ですが、個人的にはロック系に徹して欲しかったかも。

For you, Adroit it but soft
揺らぎ
 
Here I Stand

2023年 2ndアルバム

 揺らぎの2ndフルアルバム『Here I Stand』。miraco(Vo/Gt)、Kantaro(Gt)、Yusei(Dr)の3人とサポートのUji(B)というメンバーは変わりませんが、楽曲の路線は大きく変更。USオルタナに振り切り、また、これまで以上に歌を重視している感じです。

 オープニングを飾る「Here I Stand」は7分近い大作です。単調でダウナーなギターで始まったかと思えば、メタルにも通じる重低音を轟かせます。気だるく重たい楽曲に、miracoの澄んだ歌声が映えますね。後半はパタパタと忙しないドラムが、鈍重な楽曲に勢いをつけます。「Falling」は陰りのある雰囲気。ダウナーでやるせなさの漂うスローテンポの楽曲に、アンニュイな歌唱がたまりません。気だるいのに心地良い良曲です。「I Wonder」はイントロ無しで始まります。素朴だけど耳に残る歌メロの良さを、USオルタナ的な演奏で引き立てていて、派手さはないもののとても魅力的な楽曲に仕上がりました。続く「You’re Okay (Hold Me)」の、シンプルでダウナーなイントロはニルヴァーナを彷彿とさせます。ラストでドラムパターンを崩してきてフックをかけたところで、次曲「Worthy of..」へ。グランジーなギターを唸らせつつ、静と動の緩急をつけます。ダウナーで哀愁漂う歌メロはどこかノスタルジックな感触で、また、比較的はっきりした歌唱も特徴的です。「Lost Sight of You」は優しく囁く子守唄のような歌をフィーチャー。素朴ながら心安らぐ楽曲ですね。「The More I Feel」はYuseiのパワフルなドラムが炸裂。演奏はノイジーですが、キュートで透明感のある歌声のおかげで、ポップセンスのある歌メロの魅力も感じられます。「Because」はゴリゴリした爆音ベースがグランジっぽい印象で、演奏はざらついていて武骨なのに、歌はポップというギャップ。これも好みです。「Jason」は、僅か2分のアコースティックな小曲。アコギに加えてベースの低音が気持ち良いですね。そして最後に「I Liked You Through The Veil」。オルタナ的な落ち着いた演奏が心地良く、miracoも歌で優しく癒やしてくれます。

 孤高で神秘的な存在から、親しみやすい存在へと変化を遂げた印象。この変化はプラスに働いていて、魅力的な作品に仕上がっています。

Here I Stand
揺らぎ
 
 
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