🇺🇸 Asobi Seksu (アソビ・セクス)

レビュー作品数: 2
  

スタジオ盤

Asobi Seksu (アソビ・セクス)

2002年 1stアルバム

 アメリカ・ニューヨーク出身のシューゲイザー/ドリームポップバンド、アソビ・セクス。沖縄生まれ南カリフォルニア育ちの日本人 ユキ・チクダテ(Vo/Key)と、ジェームス・ハンナ(Gt/Vo)を中心に、グレン・ウォルドマン(B)、キース・ホプキン(Dr)を加えた4人で2001年に結成しました。当時はスポートファックと名乗ってEPも制作しますが、後にアソビ・セクスに改名しています。
 本作は2002年に自主制作で発表後、2004年にインディーズレーベルから再リリースされました。アメリカのバンドでありながら、英語の中に時折日本語を混ぜるスタイルが特徴的です。ユキとジェームズ、グレンの3人が楽曲を制作しています。

 オープニング曲は「I’m Happy But You Don’t Like Me」。インディーポップ的な肩の力の抜けた演奏で始まりますが、サビメロでは歪んだギターが押し寄せます。歌は全編日本語で、素朴でほのぼのとした歌唱に癒やされます。「Sooner」はローファイな音色のリズミカルなドラムに乗せて、優しくドリーミーな楽曲を展開しますが、時折轟音ギターで静と動の極端な緩急をつけています。「Umi De No Jisatsu」は粗削りで躍動感あるパンキッシュな演奏に乗せて、日本語の爽やかな歌を聴かせます。でもタイトルにもあるように、内容は結婚物騒ですね。笑 続く「Walk On The Moon」は落ち着いてメロウな楽曲ですが、進行していくとユキの歌には感情に溢れ、演奏もドラマチックに引き立てます。「Let Them Wait」はジェームスがボーカルを取りますが、彼も中々良い声です。アクセントとしてのアコギが心地良い。「Taiyo」は日本語曲。肩肘張らない歌唱がふわふわと優しい雰囲気を作り、大人しい演奏の中でベースの低音が際立ち、心地良く響きます。そして7分を超える大作「It’s Too Late」。前半はまったりしたスローテンポの楽曲を展開し、消え入りそうな歌がドリーミーな感覚を増長させます。中盤からは、粗削りな轟音ギターがカラフルな世界を描き出します。そして終盤に向けてどんどんテンポを上げ、ノイズ混じりのサウンドで緊張感を増していくので、スリリングで聴きごたえがあります。「End At The Beginning」はゆったりテンポのオルタナ的な楽曲です。ジェームスの歌は優しくも、時折感情たっぷりに歌います。続いて「Asobi Masho」は1分半ほどの日本語曲。歪ませたギターが非常に奇怪なサウンドを奏で、歌は可愛らしく歌っているものの狂気的で、ホラー映画のような不気味さがあります。強烈なインパクト。「Stay」はダウナーな楽曲で、ユキとジェームスが低いテンションでデュエットしています。後半、突如現れる轟音ギターに驚かされますが、美しくもあります。最後は「Before We Fall」。アコギをかき鳴らす、温もり溢れる優しい楽曲です。

 歌も演奏も粗削りな感じは否めませんが、楽曲は粒揃い。磨けば光る原石といった印象です。

Asobi Seksu
Asobi Seksu
 
Citrus (シトラス)

2006年 2ndアルバム

 2005年にリズム隊の2人が脱退し、以降全ての作詞作曲はユキ・チクダテ(Vo/Key)とジェームス・ハンナ(Gt/Vo)が担うことになります。今作のリズム隊はハジ(B)とブライアン・グリーン(Dr)が担いますが、彼らも本作以降に脱退してしまいます。
 崩し文字で「ドリームポップワールド シトラス」と書かれたジャケットが示すように、極上のドリームポップ/シューゲイザーを展開します。明るくポップにしたスロウダイヴ、といった趣です。

 20秒に満たないインスト曲「Everything Is On」を経て「Strawberries」で幕を開けます。明るいトーンのイントロから高揚感を掻き立て、ユキの浮遊感溢れるウィスパーボイスが極上の癒やしを与えてくれます。幻想的な雰囲気ですが、対照的にがさついたベースもカッコ良い。そして2分半過ぎから別楽曲のように場面転換し、緊張を高めながらラストに向かって駆け抜けます。「New Years」は勢い溢れるリズム隊が畳み掛けます。カラフルなギターと、日本語で歌うウィスパーボイスがドリーミーな空間へ連れていってくれますが、最後は洪水のような轟音に呑み込まれます。そして名曲「Thursday」。リズミカルなドラムが高揚感を煽り、メロディアスで優しい歌が美しい世界を見せてくれます。2番からは音数も増えてポップさが増す印象。終盤に向けて轟音へと変わり、そこに美しいコーラスワークを交えて、無限に広がる多幸感溢れる音が天国へ連れて行ってくれます。「Strings」はメロウな演奏に乗る、囁くような歌声が美しいです。そしてサビメロの日本語に親近感が湧きますね。後半は洪水のような轟音が全てを呑み込んでいきます。「Pink Cloud Tracing Paper」はジェームスがボーカルを取る楽曲。ゴリゴリしたベースに激しいドラム、グワングワンと歪むギターなど、野性味ある演奏が特徴的です。続く「Red Sea」は8分近い大作で、そして名曲です。イントロから鍵盤を始めとした美しいサウンド、そこに極上のウィスパーボイスと、幻想的な世界を体験できます。そして盛り上がる場面では隙間なく分厚い音に包まれ、ドラムは激しく暴れ回り、高揚感を掻き立てます。とてもカラフルで神秘的。後半3分くらいアウトロのような轟音が鳴り続け、冗長なようでいて、聴き続けていると飛べます。「Goodbye」は珍しく地声がメインでウィスパーボイス少なめです。躍動感ある演奏に加えて、ユキとジェームスのデュエットを展開するサビメロはとりわけポップな印象です。「Lions And Tigers」では歪んだギターをはじめ、ザラザラとしたノイズが目立ちます。音もローファイ気味ですが、歌は素朴でポップな、優しい感じがします。「Nefi + Girly」は、イントロから粗削りなギターが高揚感を掻き立てますが、終始天使のような歌声で浮遊感も感じさせます。そして「Exotic Animal Paradise」は、高めた緊張をほぐすかのようなゆったりとしたトーンで、海を漂うかのような優しい音色と歌に癒やされます。ですが後半は轟音ノイズにまみれ、そしてマシンガンのように速く重たいドラムの雨が降り注ぎます。最後は日本語曲「Mizu Asobi」。シューゲイザー的なアプローチながら、ノリがパンクっぽく、テンポも速く勢いのある楽曲です。

 歌も演奏技術も、前作から格段にレベルアップした印象です。ウィスパーボイスを多用し、カラフルな演奏と合わせて美しい世界観を築き上げます。

Citrus
Asobi Seksu
 

 
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