🇺🇸 Dinosaur Jr. (ダイナソーJr.)

レビュー作品数: 5
  

スタジオ盤

3ピースバンド時代

You're Living All Over Me (ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー)

1987年 2ndアルバム

 米国マサチューセッツ州出身のオルタナティヴロックバンド、ダイナソーJr.。フィードバックとディストーションを多用するノイジーな演奏は1990年代オルタナブームの形成に大きく影響を与えています。
 1984年にJ・マスシス(Vo/Gt)、ルー・バーロウ(B)、マーフ(Dr)の3人でダイナソーを結成し、翌年インディーレーベルより1stアルバムをリリース。ソニック・ユースが彼らを見出してSSTレコードと契約。ソニック・ユースと仕事をしていたエンジニアのウォートン・ティアによるプロデュースで本作をリリース。またダイナソーという同名バンドがいたことから、この頃ダイナソーJr.に改名しています。

 オープニング曲「Little Fury Things」はイントロから耳障りな強いノイズとワウワウしたギター、そして絶叫のようなシャウトが強いインパクト。マスシスの歌はヘロヘロで気だるげ、そんな歌に引っ張られて勢いのあった演奏はややペースダウン。心地良さがあります。「Kracked」は哀愁漂う疾走曲。歌よりも演奏が主体の1曲で、歪んだ轟音ギターが暴れ回ります。続く「Sludgefeast」はノイズまみれで緊張が張り詰めたスリリングな楽曲です。歌は非常に気だるげで、歌に合わせて演奏もテンポを落としています。間奏ではヘヴィさが戻って、ノイジーでカッコ良い演奏でぶっ飛ばします。「The Lung」はパンキッシュな楽曲で、ノイジーな高速ロックンロールを展開。歌は僅かにあるものの、ほぼインストゥルメンタルです。爽快ですがどこか哀愁が漂います。「Raisans」もパンクっぽい。ヘロヘロ声で歌う歌メロは哀愁に満ちています。疾走感のある演奏は相変わらずノイジーですね。「Tarpit」はマーフのドラムがドドンと響き、スリリングな演奏を期待しているとどんどん気だるげな方向へ。やる気のなさそうな歌にヘヴィな演奏が絡み、そして徐々にノイズは大音量になっていき、ラストは轟音ノイズに呑まれます。インパクトは強いですが耳障りなノイズは苦手意識があります…。「In A Jar」は跳ねるように爽快な楽曲で、バーロウのベースが際立ちます。演奏はノイズ控えめで比較的聴きやすいし、気だるげな歌はメロディアスです。「Lose」はがなるようなギターに爆音ベース、弾けるようなドラムが炸裂する爽快な1曲。ドライブ感のある爽快な演奏で、本作中最もとっつきやすい楽曲ですね。ちなみにマスシスではなくバーロウが歌っていますが、これも聴きやすい要因でしょうか。笑 「Poledo」は実験的な1曲。エキゾチックな風合いの静かな演奏にダウナーな歌で、不穏な雰囲気が支配します。そしてホワイトノイズを挟んで場面転換。その後も何度かノイズを挟み、ラストはスペイシーな不協和音が不気味な世界を見せてくれます。
 そしてボーナストラックとして、私が大好きなキュアー「Just Like Heaven」をカバーしています(バージョンによりボートラの曲が違うのもあるみたいです)。原曲譲りのノリの良さにパンク/ハードコアなアレンジが効いていますが、浸っているとラストはとても中途半端な箇所でブツ切り。なんで!?編集ミスとしか思えない演出はなんかモヤモヤが残ります。

 ダイナソーJr.の傑作として名高い作品です。ノイズまみれの轟音ギターに気だるげなヘロヘロ声というミスマッチな組み合わせで、良曲もあるもののノイズが効きすぎて苦手な楽曲もいくつかありました。

You’re Living All Over Me
Dinosaur Jr.
 
Bug (バグ)

1988年 3rdアルバム

 J・マスシス(Vo/Gt)、ルー・バーロウ(B)、マーフ(Dr)によるオリジナルラインナップ最後の作品で、マスシスとの対立が深まったバーロウが本作後に脱退してしまいます(1997年に解散後、2005年にはこのオリジナルメンバーで再結成していくつか作品をリリースしますが)。代表曲「Freak Scene」を収録し、批評家からは好意的に評価されています。マスシスによるセルフプロデュース作。

 「Freak Scene」は疾走感があり爽やかです。そして前作に比べるとノイズは程々、アコギも交えたりと比較的聴きやすくなったサウンドで、間奏ではノイジーなギターソロが爽快です。キャッチーなメロディのおかげで、マスシスのヘロヘロボーカルでも耳触りが良いです。「No Bones」はヘヴィに歪んでどっしりとしており、バーロウのベースは鈍器で殴るように暴力的です。歌は気だるい雰囲気。後半はテンポアップしたかと思えば、ノイズを強めて不快なサウンドを奏でます。続く「They Always Come」は爽やかな疾走曲。細かく刻むマーフのドラムがスリリングで爽快です。せっかくキャッチーな歌メロなのにヘロヘロ声で台無しな感じ、そんなところがダイナソーJr.の流儀なのでしょうか。「Yeah We Know」はマーフの叩くリズミカルなドラムを中心に、ノリの良い演奏で楽しませてくれます。歌はヘタだしやる気がない感じ。「Let It Ride」はメタリックな重低音で爆走します。爆音ベースにシンバル連打の激しい演奏や投げやりな歌はパンキッシュな印象ですが、メロディアスなフレーズもちょいちょい飛び交っています。「Pond Song」は序盤クリーンなギターと哀愁ある歌メロのおかげで爽やかなのに切ないです。中盤にマシンガンのような強烈な連打が襲いかかり、スリリング。そして「Budge」はパンキッシュな楽曲。シンプルかつ骨太な演奏やメンバーの合唱するサビメロあたりに、後に訪れるメロコアブームを先取りしているかのような感じがします。「The Post」はバーロウの超ヘヴィなベースが重低音を轟かせます。スローテンポでどっしりとした演奏はカッコ良く、気だるい歌は不思議と心地良いです。そしてラスト曲「Don’t」はバーロウがボーカルを取る楽曲。凄まじく歪んで金属的なノイズに邪悪なシャウトで非常に暴力的です。本作中最も取っつきにくく、(個人的には悪い意味で)強烈なインパクトを与えます。
 そして再結成記念の再発時にボーナストラック「Keep The Glove」が追加されています。アルバムの流れで聴くと「Don’t」で滅茶苦茶に掻き乱したあとに牧歌的なこの楽曲がくるので結構違和感があります。終盤は金属的なノイズでやっぱり掻き乱すので、そこは共通しているんですけどね。

 相変わらずノイズは強烈ですが美しい旋律も垣間見え、前作よりも聴きやすくなった印象です。でも「Don’t」だけは人を寄せつけない凄まじいノイズを放ちます。

Bug
Dinosaur Jr.
 

メジャーデビュー、J・マスシスのソロ化

Green Mind (グリーン・マインド)

1991年 4thアルバム

 ルー・バーロウが脱退して2名体制になったことに加え、ほとんどの楽器をJ・マスシス1人で担当してセルフプロデュースという、ほぼマスシスのソロアルバムに近い状態でした(マーフは3曲のみドラムを担当)。
 この年にニルヴァーナの『ネヴァーマインド』が大ヒットを果たしますが、このオルタナ旋風の追い風に乗り、ダイナソーJr.も本作よりメジャーレーベルへ移籍。この『グリーン・マインド』はメジャーデビュー作であるとともに、ダイナソーJr.の代表作として知られます。タバコを咥えた少女が有名なジャケットは、写真家ジョセフ・スザボによるもの。

 代表曲「The Wagon」で幕開け。イントロもなくいきなり始まる歌は、マスシスのヘロヘロボーカルでもキャッチーな印象で、そして疾走感のある演奏はとても爽快です。後半マーフのパワフルでダイナミックなドラムもカッコ良い。続く「Puke + Cry」はアコギの繊細な音色と、それをかき消すくらいのパワフルなドラムというミスマッチな組み合わせが、心地良いノリを作り出します。「Come on down」の連呼が耳に残りますね。「Blowing It」もダイナミックなドラムの隙間から聞こえるアコギの心地良い音色が良い感じ。無気力なボーカルも、爽やかな演奏のおかげかこれまでよりキャッチーな印象。前曲からメドレーのように途切れず続く「I Live For That Look」も、前曲の爽やかなイメージをそのまま引き継ぎます。終盤は悠々と弾き鳴らすギターソロが魅力的。「Flying Cloud」はゲストミュージシャンを何名か起用したアコースティックな1曲。アコギがトラッドっぽい雰囲気を作り出します。枯れ気味の高音キーが渋い哀愁を醸し出します(歌は下手ですが)。「How’d You Pin That One On Me」はダーティでパンキッシュな疾走曲。とにかく速い。笑 終盤にノイジーなギターソロもありますが、それでも聴けるレベルの雑音で、メジャー化の影響は大きいなと思います。「Water」はイントロ無しに歌で始まる1曲で、演奏は爽やかな印象ですが哀愁漂う歌は切ない雰囲気。ギターソロはエモーショナルです。リズミカルなドラムで始まる「Muck」はダンサブルでグルーヴ感があります。囁くような声は枯れてて力無い感じ。アンニュイでメロディアスな楽曲は心地良いです。「Thumb」はメロトロンのフワフワした音がノスタルジックな空気を作り出し、そこに歪んだギターが絡みます。スケール感があるというか奥行きを感じられるサウンドで、そこに乗る寂寥感のある歌は渋くて切ないです。そしてラストは表題曲「Green Mind」。躍動感のある演奏で、ダイナミックなドラムやノイジーなギターソロがカッコ良い。ダーティな雰囲気も醸しつつ、全体的に爽やかです。

 メジャー化の影響は大きく、前作までの耳をつんざくようなノイズは大人しくなり、アコギが増えたりキャッチーなメロディもあって、前作までとは比べ物にならないくらい聴きやすいです。入門盤にどうぞ。

Green Mind
Deluxe Edition (2CD)
Dinosaur Jr.
 
Where You Been (ホエア・ユー・ビーン)

1992年 5thアルバム

 J・マスシスとマーフの2人に加えて、マイク・ジョンソン(B/Gt/Key)をメンバーに迎えて3ピース体制が復活。ですが本作を最後にマーフが脱退することになります。マスシスのセルフプロデュースとなる本作は、ダイナソーJr.で最もヒットしたアルバムです。

 オープニング曲「Out There」はノイジーなギターで幕を開けますが、強いノイズが戻ってきました。メロディはダークな雰囲気で、緊張が張り詰めます。終盤ノイジーなギターに絡むチャイムがなんとも言えない切なさを持っています。続く「Start Choppin’」はダイナソーJr.最大のヒット曲です。耳に残るギターリフをはじめ、ヘヴィながらもキャッチーさを兼ね備えています。ファルセット気味のボーカルが変な感じ。後半はマスシスのリードギターが暴れ回ります。「What Else Is New」は明るく爽やかな楽曲で、マーフのリズミカルなドラムも心地良さを提供。中盤はかなり騒がしいのですが、それよりも爽やかな印象が勝ります。ひねた感じのポップセンスが光る歌メロも耳に残りますね。「On The Way」は轟音かつ高速で暴れ回るパワフルな1曲です。ゴリゴリしたベース、高速ドラム、そして途中好き勝手に速弾きするギターと、怒涛のような演奏に圧倒されます。カッコ良い。続く「Not The Same」はダークサイケ的などんよりと音像のぼやけた演奏に、くっきりとしたアコギが映えます。暗くて心地良い演奏に囁くような歌声でじっくり浸っていると、透明感のあるピアノが美しく響きます。「Get Me」はイントロ無しに歌から始まります。渋い哀愁を漂わせており、そしてサビで盛り上がる演奏はとてもドラマチックでアツいです。「Drawerings」も前曲のような雰囲気で、スローテンポで哀愁を醸し出します。中盤の盛り上がる場面で鳴るチャイムの音に気が引き締まります。そして「Hide」は緊張の張り詰めたイントロから一気に駆け抜けます。演奏のテンションの高さに対して、マスシスのボソボソとした歌声はテンション低めというギャップがあります。「Goin’ Home」は透明感のあるアコギと浮遊感に満ちたオルガンの組合せが心地良さを提供してくれます。毒気が少なく、優しい印象の1曲です。ラスト曲「I Ain’t Sayin’」は悠々としたリードギターに力強いドラムが響くイントロから魅せます。ノリの良いビートに合わせて、しゃがれた歌も明るい雰囲気。

 バラエティ豊富な楽曲群は全体的に哀愁が漂います。また、一部楽曲に耳障りなノイズが復活。個人的にこのノイズは苦手ですが、ダイナソーJr.らしさが表れていますね。

Where You Been
Deluxe Edition (2CD)
Dinosaur Jr.
Where You Been
Dinosaur Jr.
 
Without A Sound (ウィズアウト・ア・サウンド)

1994年 6thアルバム

 ドラマーを務めたマーフが脱退して2名体制になったダイナソーJr.。ベースはマイク・ジョンソンが務めますが、それ以外の楽器のほとんどをJ・マスシスが1人で手掛け、プロデュースも自身で手掛けてマスシスのソロプロジェクトの様相が強まっています。なお楽曲制作にあたってはマスシスの父親の死が大きく影響したそうです。

 アルバムは「Feel The Pain」で幕開け。ドライなサウンドで、全体的に哀愁が漂います。途中スピードが変わり、疾走パートを挟んで元のスピードに戻るを繰り返すスリリングな展開。マスシスのギターがカッコ良いです。「I Don’t Think So」は爽やかな曲調にどこか切なさが混じっています。演奏には跳ねるような高揚感もあるのですが、マスシスのしゃがれた声は渋みというか、哀愁を感じさせます。「Yeah Right」も日光が射し込むような明るいトーンの演奏に、渋い歌声が乗るとどこか切ない感じ。3分足らずであっさり終わってしまいます。続く「Outta Hand」はゆったりとした、アコースティックで温もりのある楽曲です。マスシスの歌は内省的な雰囲気で、とてもメロディアスです。「Grab It」はノイジーなギターをかき鳴らす疾走曲。でも歌が始まるとギターも大人しくなり、疾走曲でありながら円熟味を感じます。「Even You」は歌と強烈なディストーションで幕を開けます。ずっしりとして重厚で渋い楽曲ですが、終盤キンキンとしたギターにかつての荒々しさが垣間見えます。「Mind Glow」はゆったりと落ち着いた演奏に、かすれた歌声が哀愁を誘います。重厚で哀愁に満ちたギターが印象的な「Get Out Of This」を挟んで、「On The Brink」は乾いたギターが爽やかな1曲。でも歌には強い哀愁が漂っています。そして「Seemed Like The Thing To Do」は序盤アコギのみでボソボソと呟くように歌います。途中エレキギターが加わっても内省的な雰囲気はそのまま、終始静かな楽曲です。ラスト曲「Over Your Shoulder」は歪んだギターにかすれた歌でとても渋いです。重厚な演奏ですが間奏では泣きまくるリードギター、これが切なくて染み入りますね。

 ノイジーな演奏は減った分、渋みが大きく増して全体的に哀愁が漂います。「Feel The Pain」が光りますが、アルバム通しで聴くとパンチに欠け冗長な印象は否めません。

Without A Sound
Deluxe Edition (2CD)
Dinosaur Jr.
 
 
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