🇺🇸 Sonic Youth (ソニック・ユース)
レビュー作品数: 3
スタジオ盤
1988年 5thアルバム
ソニック・ユースは米国ニューヨーク出身のオルタナティヴロックバンドです。前身となるバンドは1970年代後半より活動。サーストン・ムーア(Gt/Vo)とキム・ゴードン(B/Gt/Vo)を中心に、リー・ラナルド(Gt/Vo)が加わって1981年にソニック・ユースを結成しました。ドラマーには恵まれず何度かの交代を経て1985年にスティーヴ・シェリー(Dr)が加入して安定します。なお1984年にサーストンとキムは結婚し、おしどり夫婦として知られていましたが、2011年に離婚。同時期にソニック・ユースも活動休止となりました。
結成以来インディーレーベルからいくつか作品をリリースし、インディーズ時代の集大成となる本作は傑作として知られます。CDは1枚ものですが、レコードでは2枚組となる70分超の大ボリューム。ジャケットアートはドイツの芸術家ゲルハルト・リヒターによるもの。サーストンとリーというギター2名体制に加えてそれぞれが特殊なチューニングを施しているそうで、これが歪んだ音色を特徴づけているのかもしれません。
アルバムはソニック・ユースの代表曲「Teen Age Riot」で幕開け。7分近くありますが、これがとてもカッコ良い名曲なのです。憂いを帯びたギターに、呟くようなキムの声が幻聴のように響きます。そして1分半手前くらいからギターをかき鳴らして加速し、ボーカルはサーストンに交代。歪んだギターをはじめ躍動感のある演奏がとても爽快ですが、どこか憂いを払拭できていないのもこれまた良い感じ。続く「Silver Rocket」はポストパンク的な楽曲で、暗くそしてピンと緊張の張り詰めたスリリングな楽曲です。シャウト気味に歌うサーストンのヘタでパンキッシュな歌もカッコ良い。後半はギターが凄まじいノイズを放ち、そこから迫りくるスティーヴの高速ドラムが焦燥感を煽ります。「The Sprawl」はキムがポエトリーリーディングスタイルで力強く歌い、強いエフェクトをかけて幻覚的で色っぽい演出がされています。歪んだギターも分厚くて幻覚的。それとは対照的にドラムはダイナミックでよく響きます。終盤はノイジーかつサイケじみた演奏が続き、キムのベースも存在感を見せつけます。
レコードだとここからB面に突入。「’Cross the Breeze」はイントロで憂いを帯びたギターを聴かせるも束の間、ハードコアばりに加速して焚きつけるように激しい演奏を繰り広げます。恐ろしく緊迫した演奏が僅かに落ち着きを見せる2分半頃から歌が始まります。ヘタだけどパワフルで説得力のあるキムの歌と、終始スリリングな演奏。歌を終えるとまたハードコア的に駆け抜け、そしてラスト2分は緊張は保ちつつ少しだけ落ち着きます。密度の濃い楽曲ですが7分もあって、お腹いっぱい大満足です。「Eric’s Trip」はリーの歌う楽曲で、ダーティな演奏にメロディ無視の歌が乗るパンキッシュな1曲です。「Total Trash」は歪んだギターが重低音を響かせます。前半はサーストンの気だるげな歌と相まってノイジーなのに心地良さを感じられますが、後半は演奏というよりノイズに近く、精神を蝕みそうな不気味さがあります。ラストに序盤のメロディが戻ってきてホッとひと息。
レコードでいうC面は「Hey Joni」で幕開け。リーの一本調子な歌とともにパンキッシュな楽曲が始まります。ノリが良くて楽しめる1曲です。「Providence」はピアノが憂いを帯びたメロディを弾き、そこにノイズを被せて過去の記憶がフラッシュバックするかのような演出。ナレーションとともにノイズが徐々に大きくなっていきます。不気味。「Candle」はギターがメランコリックなメロディを奏でたのち、突如緊迫した空気へ。そして始まるサーストンの歌は、メロディには哀愁が漂いつつも歌はあっけらかんとした感じ。そして「Rain King」はギターが唸るような重低音を響かせながら、ドタバタとドラムが暴れ回ります。そんな暴力的なサウンドに乗るのはメロディのないリーの歌で、パンキッシュな印象。
アルバムD面は僅か2曲ですが組曲を含みます。「Kissability」はスリリングかつメロディアスな演奏が繰り広げられます。途中エキゾチックな雰囲気を内包し、キムの歌が合っています。後半加速して更にスリリングに。そしてラストの「Trilogy」は3部から成る14分の組曲。「The Wonder」は序盤から張り詰めた空気で、シリアスに駆け抜けつつ、ふと憂いを見せます。叫び散らすサーストンはカッコ良い。続いて「Hyperstation」はノイジーながらサイケっぽい幻覚的な感覚も持ち合わせています。爆発力は比較的控えめですが、ずっと沸々としています。そして「Eliminator Jr.」はキムが時折色気を放ちつつ、激しく歌うパンキッシュな楽曲。緊張が張り詰めてスリリングです。
7分クラスの楽曲も多いのですがどれも冗長になる場面はなく、緊張感を保って一気に聴かせます。緊張に満ちた楽曲が揃ってアルバムトータル70分なので、逆に密度が濃すぎてお腹いっぱいかも。笑 カッコ良い楽曲が詰まった名盤です。
1990年 6thアルバム
ソニック・ユースのメジャー移籍第1弾。これまで音楽性には高い評価があったもののセールス面が伴わず「無冠の帝王」と揶揄されることもあり、心機一転を図ってのメジャー移籍だったようです。前作をプロデュースしたニック・サンサーノはエンジニアとして起用し、プロデューサーにはロン・サン-ジェルマンを招いています。
ジャケットは英国の猟奇殺人(ムーアズ殺人事件)における殺人犯の親族の写真を元に描いたもので、イラストは元ブラック・フラッグのレイモンド・ペティボーンによる作。てっきりメンバーを描いたイラストだと思っていました…。
オープニング曲はサーストン・ムーアの歌う「Dirty Boots」。ダイナミックに動くベースがカッコ良い。前半は比較的抑えめですが、後半スイッチが入って攻撃的になります。アウトロは哀愁に満ち溢れていて切ない。続く「Tunic (Song For Karen)」は摂食障害で亡くなったカーペンターズのカレン・カーペンターに捧げたもの。イントロから轟音ギターをかき鳴らしますが、メロディは憂いを帯びています。勢い溢れ焦燥感に満ちたスリリングな演奏とは対照的に、キム・ゴードンの歌はポエトリーリーディングのように呟くような感じ。そして終盤はノイジーなギターがキンキンと響き渡ります。不気味さもあり、聴いていると追い詰められるような印象を受けます。「Mary-Christ」はダーティで攻撃的な演奏で、音数が少なくシンプルでパンキッシュです。サーストンがヒステリック気味に歌い、キムが合いの手のシャウト。短い楽曲ですがカッコ良いです。「Kool Thing」はソニック・ユースの代表曲の一つ。歪んだギターとうねるゴリゴリベースがダーティな雰囲気を作ります。パブリック・エナミーのチャックDが参加しており、アンニュイなキムの歌に混ざって掛け合いを繰り広げたりしています。「Mote」はいきなり始まるノイズで驚かせますが、その後始まる演奏はダーティな疾走曲でカッコ良い。シリアスな歌はリー・ラナルドが歌っていますが、前作より上手くなりダンディな声を聴かせます。後半は暴力的な演奏で、歪んだギターはノイズを鳴らし、爆音ベースが響く中でドラムが時折盛り上げます。「My Friend Goo」は無骨なギターとベースがズシンと響く中、スティーヴ・シェリーのドラムが爽快な音を叩きます。ヘヴィなサウンドとヘタウマなキムの歌の組合せが、ヤミツキになりそうな中毒性を生みます。「Disappearer」は轟音ギターが奏でるメランコリックなメロディラインが切ない印象。サーストンの歌は若干演奏に埋もれ気味で、ギターが主役といった趣です。「Mildred Pierce」は緊張の張り詰めたスリリングな楽曲。インストゥルメンタルかと思いきや、ラストに音が割れんばかりのサーストンのシャウトが響きます。「Cinderella’s Big Score」はノイジーで怪しげなメロディを奏で、そしてドラムがドコドコと焦燥感を煽ります。キムの歌が始まると賑やかで楽しげなパンクといった雰囲気ですが、間奏ではノイズ全開の緊迫した空気が支配します。短いインスト曲「Scooter + Jinx」で唸り声のようなノイズをかき鳴らし、急に音が途絶えたかと思うとラスト曲「Titanium Exposé」が始まってました。変則チューニングのせいなのか妙に不揃いな不協和音が印象的で、歌メロもどこか変なメロディ。終盤は加速して緊張を高め、ラストはノイズを鳴らして終了。
前作にあったポストパンク/ハードコア感は減退、また楽曲は若干コンパクトになりました。ノイズを鳴らすだけの場面も増えて翌年のグランジ大ブレイクを予感させる音作りになっていますが、個人的には前作の方が好みです。
1992年 7thアルバム
後輩ニルヴァーナの大ヒット作『ネヴァーマインド』を手掛けたブッチ・ヴィグをプロデューサーに起用。グランジ/オルタナ大流行の追い風を受け、本作はソニック・ユース最大のヒット作になりました。ジャケットアートは現代美術家マイク・ケリーの作。
アルバムは代表曲「100%」で幕開け。初っ端こそノイズでリスナーを圧倒しますが、そこから始まる楽曲はキャッチーなロックンロールになっています。ヘヴィなベースと小気味良いドラムがノリの良い演奏を繰り広げ、サーストン・ムーアの歌も耳に良く馴染みます。続く「Swimsuit Issue」はスティーヴ・シェリーのダイナミックなドラムが野性味のある印象に仕立てます。腹の底から絞り出すようなキム・ゴードンの歌も強烈ですね。スリリングな楽曲ですが、終盤は一気にトーンダウンして非常にダルそうな雰囲気に変わります。「Theresa’s Sound-World」は憂いを帯びつつゆったりとした雰囲気から徐々に緊迫していき、張り詰めたスリリングな演奏を繰り広げます。ノイズが強烈です。「Drunken Butterfly」はガチャガチャ鳴るギターがスラッシュメタルのように鈍重な音を響かせます。でも妙にリズミカルでノリが良く楽しいんです。キムの歌は酒ヤケ声のようにしゃがれていて、まさに「Drunken Butterfly (酒酔いの蝶)」のタイトルにピッタリです。「Shoot」はノイズが心地良く響く中でダウナーな演奏を繰り広げます。前曲とは異なりキムの歌はアンニュイで鬱々とした雰囲気で進行、中盤からは絞り出すようなシャウトも披露します。「Wish Fulfillment」は静と動の対比が強烈なグランジ風の1曲です。憂いを帯びて静かな序盤はリー・ラナルドの甘いメロディに浸る事ができますが、サビメロに当たる部分は爆発力のあるノイジーな演奏とシャウト気味の激しい歌に変貌。そして代表曲「Sugar Kane」。シリアスな雰囲気で、ギターは哀愁漂うメロディを奏でてベースはゴリゴリ、ドラムはパワフルで爽快。ヘヴィでノイジーですが、キャッチーさも備えていて聴きやすい楽曲です。「Orange Rolls, Angel’s Spit」はダーティで爆発力のある疾走曲。スリリングな演奏も勿論カッコ良いのですが、それ以上に、ヒステリックにシャウトをかまし続けるキムが凄まじい存在感を見せます。パンク精神を強く感じる1曲です。「Youth Against Fascism」はパワフルでノリの良いリズム隊とひたすらノイズに徹するギターが対照的。躍動感に溢れる爽快な1曲ですね。僅か1分の「Nic Fit」はインディーズ時代のようなアングラ臭が漂うハードコア曲です。サーストンの歌もここでは投げやりで滅茶苦茶な印象。「On The Strip」は轟音にまみれていますが、テンポが比較的ゆったりめなのとキムのアンニュイな歌により、気だるげで無気力な感じがします。後半からはスティーヴの加速するドラムを皮切りに、ノイジーで混沌とした演奏が襲う実験的な楽曲に。ラストは、混沌パートが無かったかのように序盤の気だるい雰囲気が戻ってきます。「Chapel Hill」はノイジーながらも爽やかで、そして切ない。中盤は雰囲気が変わり、ダーティかつスリリングな演奏を繰り広げます。これがカッコ良いんです。「JC」は緊張が張り詰め、轟音が幻覚的な空気を作り出します。途中から加わる抑揚のないキムの歌がこの演奏と合わさると、シューゲイザーっぽくドリーミーな感覚を生みます。「Purr」はサーストンの歌うダーティな疾走曲。スリリングですがメロディラインは耳に残ります。ベースもカッコ良い。そして最後は「Crème Brûlée」。序盤にノイズと悲鳴で緊張感を放ちながらも、直後一気にトーンダウンして淡々とダウナーな雰囲気で進行。怪しげで妙に癖になりそうです。
キャッチーな楽曲も増えて聴きやすくなった一方、キレ味抜群のグランジ楽曲も加わるなど、時代に沿った変化を遂げています。グランジ好きにオススメできる1枚でしょう。
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